○著作権審議会第1小委員会審議のまとめ
    平成10年12月



    目 次
    1 著作物一般に対する頒布権について

      (1) WIPO新条約について
      (2) 現行著作権法における取扱い
      (3) 著作物一般に頒布権を認める意義
      (4) 頒布権の認められる範囲(「消尽」)について
    2「公衆への伝達権」について

      (1) WIPO著作権条約について
      (2) 現行著作権法における取扱い
      (3) 著作権法改正に当たっての考え方
      (4) 著作権法における位置づけについて
    3 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)について

      (1) 現行著作権法における取扱い
      (2) 附則第14条の取扱いについて

    著作権審議会第1小委員会委員名簿

    著作権審議会第1小委員会審議経過



    平成8年12月にWIPO(世界知的所有権機関)の外交会議において、デジタル化・ネットワーク化の進展等に対応した著作権等に関する新しい国際的枠組みとして「WIPO著作権条約」及び「WIPO実演・レコード条約」の二つの新条約が採択された。

    これらの新条約の規定中、インターネット等のネットワークを通じたインタラクティブ送信に対応するための「利用可能化権」については、平成9年6月に所要の法改正を行ったが、著作権審議会第1小委員会では、マルチメディア小委員会における検討と並行して、この二つの条約の批准を目指し、それに要するその他の著作権法改正事項について検討を進めてきた。

    具体的には、本年4月以来、これらのWIPO新条約に盛り込まれている規定のうち、[1] 著作物等一般に対する頒布権、[2] 「公衆への伝達権」について検討した。さらに、長年の懸案である[3] 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)の取扱いも併せ、関係8団体からのヒアリングを行うなど、検討を進めてきたところである。

    これらの点について、当小委員会としてまとめた審議結果は、次のとおりである。


    1 著作物等一般に対する頒布権について

    (1) WIPO新条約について
    「WIPO著作権条約」第6条並びに「WIPO実演・レコード条約」第8条及び第12条は、著作物並びに音に関する実演及びレコードに関し、

    「Authors of literary and artistic works (Performers, Producers of phonograms) shall enjoy the exclusive right of authorizing the making available to the public of the original and copies of their works (performances fixed in phonograms, phonograms) through sale or other transfer of ownership

    (文学的及び美術的著作物の著作者(実演家、レコード製作者)は、販売又はその他の所有権の移転により、その著作物(レコードに固定されたその実演、レコード)の原作品又は複製物を公衆に利用可能にすることを許諾する排他的権利を享有する)(仮訳)」として一般的頒布権の規定を置くとともに、

    「Nothing in this Treaty shall affect the freedom of Contracting Parties to determine the conditions, if any, under which the exhaustion of the right in paragraph (1) applies after the first sale or other transfer of ownership of the original or a copy of the work (fixed performance, phonogram) with the authorization of the author (performer, producer of the phonogram)

    (この条約のいかなる規定も、著作物(固定された実演、レコード)の原作品又はその複製物について、著作者(実演家、レコード製作者)の許諾を得て最初に販売又はその他の所有権の移転が行われた後に(1)の権利(頒布権)が消尽する条件を締約国が定める自由に、影響を与えるものではない)(仮訳)」と規定し、各締約国がこの権利の消尽に関する条件を定めることができることとしている。

    (2) 現行著作権法における取扱い
    現行著作権法(以下「法」という。)では、「頒布」は、「有償であるか無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」(法第2条第1項第19号)と定義されている。頒布権は、複製物の頒布について第三者に対抗できる物権的な効力を有し、この権利によって複製物の流通をコントロールすることも可能となるものである。

    法では、頒布権は映画の著作物、映画の著作物において複製されている著作物及び映画の著作物において翻案されている著作物についてのみ認められており、それ以外の著作物については、頒布行為のうち貸与に関する権利(貸与権)は認められているが、譲渡に関する権利(以下この「まとめ」においては、これを「頒布権」という。)は認められていない。

    複製物の頒布行為は、著作者等の経済的利益に結びつくものであり、また、無断複製物の頒布は権利侵害を顕在化するものであって、著作権等の保護に大きな影響を有する行為である。しかし他方で、複製物は一旦市場に出た後は当該複製物の流通ルートにおいて譲渡されることが予測されるものであり、複製物の流通の各段階に対して権利が行使されることは、円滑な流通を妨げる可能性がある。また、通常の場合、頒布を目的として複製が行われ、複製者と頒布者とが同一であることが多いことから、複製許諾の際の条件として頒布も契約によりコントロールすることができること、違法複製物の頒布についてはみなし侵害規定(法第113条第1項)を設けたことにより権利者の保護が図られていることから、これまで我が国においては著作物一般に対して頒布権は認められていなかった。

    これに対し、映画の著作物については、
    (1)映画の製作には多額の資本が投下されており、複製物1本あたりの経済的価値が高いため、その流通・利用を効果的にコントロールして効率的な資本回収を図る必要があること、
    (2)配給制度により複製物の流通がコントロールされている実態があること、
    (3)上映権だけでは、意図しない上映を事前に押さえることが困難であることから、その前段階である頒布行為を押さえて上映権の実効性を確保する必要があること、
    (4)ベルヌ条約では映画の著作物に関してのみ頒布権が認められていること、
    などを理由として、頒布権が認められているものと考えられている。

    (3) 著作物等一般に頒布権を認める意義
    WIPO新条約においては、各締約国が消尽の条件を定めることができることとされているものの、著作物、実演、レコードの原作品又は複製物(以下「著作物等」という。)の頒布について著作者、実演家、レコード製作者(以下「著作者等」という。)の権利を認めることが求められている。

    また、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ等先進諸国においても、著作者等の権利として頒布権が認められているところであり、このような国際的な動向に鑑みれば、著作権・著作隣接権制度の国際的ハーモナイゼーションの観点から、著作者等の基本的権利としてわが国でも著作物等一般に頒布権を認める必要がある。

    さらに、著作物等の頒布が著作物等の利用による経済的利益を獲得する主要な手段の一つであることを考えれば、頒布について著作者等の意思を反映させることは権利者の保護という観点から見ても重要な点である。

    著作物等一般に対して頒布権を認めることにより、違法複製物が頒布される場合や頒布権者の許諾を得ずに複製物が頒布される場合には、頒布権侵害として差止請求(法第112条)の対象となりうることになるなど、著作者等の保護に資するものと考えられる。

    (4) 頒布権の認められる範囲(「消尽」)について
    (消尽について)
    著作者等に対し、頒布について一定の権利を認めることが、著作権・著作隣接権制度の国際的ハーモナイゼーションや著作者等の権利の保護のために必要であるとしても、著作物等が一旦頒布された後は当該複製物の流通ルートにおいて譲渡されることが予想されるものであることを考えれば、その後の頒布全てに著作者等の許諾を要することとすれば、流通に混乱を招き、取引の安全を害するおそれがある。

    従って、新たに著作物等一般を対象として設定する頒布権に関しては、消尽の考え方(頒布権者又はその許諾を得た者が著作物等を譲渡した場合等について、当該著作物等については頒布権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや頒布権の効力は、以後の譲渡には及ばないとする考え方)を導入し、頒布権の及ぶ範囲を限定する必要がある。このことは、法第1条に規定する「文化的な所産の公正な利用に留意しつつ」との法の趣旨にも沿うものであり、また(1)で述べたとおり、WIPO新条約もこれを認めているところである。

    (消尽の段階について)
    頒布のどの段階で頒布権を消尽させるかについては、取引の安全に配慮する必要性が高いこと、頒布権を認めている諸外国ではいわゆるファースト・セール・ドクトリンを採用していること等を踏まえ、頒布権者又はその許諾を得た者が著作物等を譲渡した場合に頒布権は消尽し、当該著作物等の以後の公衆への譲渡については権利は及ばないこととすることが適当である。この場合、有体物の所有という外形を信頼して取引が行われている実態に鑑み、一次頒布(公衆に対する譲渡)ではなく、一次譲渡(公衆以外の者に譲渡した場合を含む)が頒布権者の許諾を得る等して行われたときに頒布権が消尽するものとすることが適当である。

    なお、頒布権者の許諾を得ずに著作物等が譲渡された場合には頒布権は消尽せず、二次的な頒布に対して頒布権を主張できることとなるが、取引の安全の確保の見地から、善意取得者による二次的な頒布については頒布権侵害とはしない特例措置が必要である。

    (映画の著作物の頒布権について)
    法は、頒布権(ここでは譲渡及び貸与に関する権利をいう。)を映画の著作物についてのみ認めており、その頒布権は消尽しないものと解されている。
    しかし、近年では、映画の著作物に消尽しない頒布権が認められているのは劇場用映画の配給という実態を踏まえたものであること等から、ビデオソフトや音楽と映像が融合したいわゆるマルチメディアソフトについては、その円滑な流通を図るため、頒布権は消尽するとすべきであるとの意見がある。

    他方、映画の著作物がビデオ化された場合についても、消尽しない頒布権を前提とした流通秩序が存在することから、ビデオソフトについても消尽しない頒布権を引き続き認める必要性は高いという意見もある。

    また、いわゆるゲームソフトについては、近年映画以上の多額の資本を投下して製作されている実態もあり、もっぱら販売を通じて利益を確保している現状からは新品ソフト販売直後からの中古ソフト販売によって著作権者等の経済的利益に多大の影響が生じており、著作権者の正当な利益を確保するためには消尽しない頒布権を与えるべきであるとの意見もある。

    さらに最近のデジタル化の進展によりゲームソフト以外にも多くのデジタル化された著作物等が存在し、これらは使用による劣化がなく、中古品でも新品同様の価値を有するものもあることから、デジタル形式の著作物等全般に消尽しない頒布権を認めるべきであるとの意見もある。

    頒布権の消尽の有無は取引秩序に重大な影響を与えるものであり、現時点では映画の著作物の頒布権について従来の取扱いを変更すべき決定的な理由も見いだしがたいところから、消尽の規定を置かず、現行の規定を維持することとするのが適当である。なお、ゲームソフトの映像については、映画の効果に類似した視覚的又は視聴覚的効果を有するものが増加する傾向にあり、これを映画の著作物に該当するとの判断を示した裁判例も存在することから、その解釈に委ねることとし、現時点では、ゲームソフトについて特段の対応をする必要がないものと考える。

    なお、この問題は、いわゆるマルチメディアを含む視聴覚著作物やデジタル化された著作物等の問題とも関連することから、今後のデジタル化・ネットワーク化の進展の状況等も踏まえながら、適切に検討を行っていく必要がある。

    (国外で譲渡された場合の消尽について)
    経済のグローバル化にあわせて、著作物等の流通は国境を越えて広範かつ大量に行われており、円滑な流通及び取引の安全の確保の必要性は、国際取引においても国内取引同様に妥当する。したがって、国外において適法に譲渡された著作物等がその後わが国で譲渡される場合についても頒布権は及ばないこと(消尽)とするのが適当である。

    なお、権利者が安心してその著作物等を国外で流通に置くことができるよう、国外で既に譲渡された著作物等のわが国への輸入又は輸入後の譲渡について頒布権の行使を認めるべきとする意見もあり、これについては、他の知的所有権制度とのバランスや諸外国の動向等を踏まえ、さらに検討していくべき課題であると考える。


    2「公衆への伝達権」について

    (1) WIPO著作権条約について
    「WIPO著作権条約」第8条においては、

    「authors of literary and artistic works shall enjoy the exclusive right of authorizing any communication to the public of their works, by wire or wireless means, including the making available to the public of their works in such a way that members of the public may access these works from a place and at a time individually chosen by them.

    (文学的及び美術的著作物の著作者は、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達を許諾する排他的な権利を享有する。ここでいう公衆への伝達には、公衆の構成員が個別に選択した場所及び時において著作物にアクセスできるように、当該著作物を公衆に利用可能な状態にすることを含むものとする。)(仮訳)」として「公衆への伝達権」(Right of Communication to the Public)を規定している。

    なお、同条の「公衆への伝達」には、ベルヌ条約の第11条(上演権・演奏権)、第11条の2(放送権等)、第11条の3(朗読権等)、第14条(上映権等)等に既に規定されている方法によるものは含まれず、主として自動公衆送信に対応することが、この権利を創設する目的であった。また、ここでいう「公衆への伝達」の意義については、隣室にいる公衆に伝達されればこれに該当する(同室の場合は該当しない)と解されている。

    わが国においては、この規定の対象となる行為のうち、無線・有線の方法で自動公衆送信を行うことについては既に法整備(昭和61年に有線送信権創設、平成9年に公衆送信権への統合及び送信可能化権の創設)を行っている。しかし、これに加え、公衆送信以外の有線又は無線の方法による公衆への伝達、例えば特定の場所にポイント・ツー・ポイント送信し受信場所で公衆に提示すること、同一構内で公衆への送信を行い受信場所で提示することなど、有線又は無線の方法による公衆への伝達で自動公衆送信を伴わないものについて著作者の権利を認めることが必要となる。

    (2) 現行著作権法における取扱い
    現行法上、著作物を公衆を対象として伝達することに関連する著作者の権利としては、以下のものが認められている。
    (1)「映画の著作物を公に上映(著作物を映写幕その他の物に映写すること)する」権利及び「映画の著作物において複製されている著作物を公に上映する」権利(上映権)(第26条)
    (2)「著作物を公に上演し、又は演奏する権利」(上演権、演奏権)(第22条)
    (3)「著作物を公衆送信する(送信可能化を含む)権利」(公衆送信権)(第23条第1項)及び「公衆送信される著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」(公の伝達権)(第23条第2項)
    (4)「言語の著作物を公に口述する権利」(口述権)(第24条)
    (5)「美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物を原作品により公に展示する権利」(展示権)(第25条)
    上記(2)及び(4)については、法第2条第7項の規定により、直接公衆の前で生の上演、演奏又は口述を行うことの他に、「録音され、又は録画されたものを再生すること」及び「電気通信設備を用いて伝達するもの」が含まれることから、上演、演奏又は口述を録音又は録画したものを再生することなどにも権利が認められている。ただし、公衆送信される著作物をさらに公衆に伝達することについては、上演権等でなく、上記<3>の公の伝達権が認められることになる。

    したがって、公衆送信される場合の公衆への伝達については、全ての著作物に「公の伝達権」が認められ、それ以外の場合には、音楽や言語の著作物など音で伝達される著作物については「演奏権」又は「口述権」が、映画や演劇・舞踊の著作物など動画系の著作物については「上映権」又は「上演権」が認められている。一方、美術や写真の著作物など静止画系の著作物や、文字・図表等で示された著作物については、美術・写真の著作物の原作品による「展示権」のみが認められ、公衆への伝達一般についての権利が認められていない。

    このような権利の態様となっているのは、これまで、ディスプレイ装置等を用いて公衆に提示される著作物としては音や映像が主であったこと、また、著作物の公衆への提示は、ほとんどがいったん編集行為等により新たな複製をした後に、その複製物を再生することにより行われていることから、このような場合、複製権の行使により権利確保を行うことが可能であることなどによるものであると考えられる。

    (3) 著作権法改正に当たっての考え方
    WIPO著作権条約に盛り込まれている「有線又は無線の方法による公衆への伝達」に関する権利に対応するためには、美術や写真の著作物など静止画系の著作物や、文字・図表等で示された著作物について、新たに有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆送信を伴わないもの)を権利の対象とすることが必要となる。従って、WIPO著作権条約の批准のため法改正を要する部分は、「著作物を同室内以外の場所にいる公衆に対して、有線又は無線の方法によりスクリーンやディスプレイ画面等に映し出すことにより視覚的又は視聴覚的に提示する行為」となる。

    しかし、わが国の著作権法においては、以下の理由により、条約への対応を超えて、「著作物をスクリーンやディスプレイ画面等に映し出すことにより公衆に対して視覚的又は視聴覚的に提示する行為」(以下「ディスプレイ」という。)そのものに着目して、同室内で公衆に対してディスプレイする場合も含め、ディスプレイに対して権利を認めることが適当である。
    (1)映像表示技術の進展に伴い、イベントや博物館等における展示用などとして高精細のディスプレイ画面が利用されるなど、ディスプレイ装置の利用が近年急速に拡大している。また、ディスプレイ装置により提供される著作物も、映画にとどまらず、文字、静止画像などあらゆる情報がデジタル化され、コンピュータによる処理を経て公衆に提供されるようになっており、ディスプレイ装置を用いた公衆への提示が著作物の利用形態として経済的にも価値のあるものの一つとなっていること。
    (2)現在、映画の著作物や演劇・舞踊の著作物等の動画系の著作物については、上映権、上演権が認められているが、デジタル化、ネットワーク化の進展や映像表示技術の進歩等により、美術の著作物や写真の著作物などの静止画系の著作物についても上映的な利用が可能な状況となっていることから、映画の著作物等と他の著作物との保護水準の均衡を図っていく必要があること。
    (3)現在権利が認められていない静止画系の著作物について、いったん複製した上でディスプレイする場合に複製権を主張しようとすると、ディスプレイ前の編集段階における無断複製を立証することが必要であるが、これは事実上困難であり、ディスプレイ段階に権利を認めることで、権利保護の実効性が確保されることとなること。
    (4)条約への対応のみを考えて、送信を介して同室内以外の場所にいる公衆に提示される場合のみを権利の対象とすると、美術の著作物等一部の著作物については、著しくバランスを欠いた状況が生じてしまうと考えられること。

    (4) 著作権法における位置づけについて
    ディスプレイの対象となるものとしては、映画の著作物、美術の著作物、写真の著作物、言語の著作物、図形の著作物等様々なものがあるが、これらの著作物のディスプレイは、現行著作権法における「上映」の概念(著作物を映写幕その他の物に映写すること)に該当することから、具体的には、「上映権」を映画の著作物に限らず一般的に付与することにより対応することが適切である。

    また、権利制限の問題については、上映権等の制限について規定している法第38条第1項と同様に、非営利、無料などの要件に該当する場合に権利を制限することとするのが適当である。


    3 音楽の著作物の演奏権に係る経過措置(附則第14条)について

    (1) 現行著作権法における取扱い
    音楽の著作物を公衆に対して技術的装置を用いて聴覚的に提示することについては演奏権(第22条)が認められている。なお、「演奏」には直接公衆の前で生の演奏を行うことの他に、「録音されたものを再生すること」及び「電気通信設備を用いて伝達するもの」が含まれる(第2条第7項)。

    しかし、演奏権については、附則第14条により、当分の間、市販のレコード等適法に録音された音楽の著作物の再生演奏については、公衆送信に該当するもの及び著作権法施行令附則第3条の各号に定める音楽喫茶、ダンスホール、ディスコ等営利を目的として音楽の著作物を使用する事業を除き、演奏権が制限され、著作権者の許諾を得なくても自由に行うことができることとなっている。

    この附則第14条の規定は、旧法下においては、適法に録音された音楽の著作物の再生演奏が自由に行えることとなっており、このような長期間にわたり形成された社会的慣行やレコード使用の実態を踏まえると、昭和45年の著作権法全面改正時に、即時に演奏権を適用することは社会的影響が大きいと考えられたことから設けられたものである。

    (2) 附則第14条の取扱いについて
    附則第14条については、現行法制定後相当の期間が経過していることから、著作権審議会において、これまでも検討が行われてきており、平成4年3月の第1小委員会の審議のまとめにおいては、「音楽著作権の管理体制の整備及び利用者の理解の促進などの条件整備を進め、その進捗状況に応じ具体的な立法措置について判断を行うことが適当である。」とされ、また、平成8年9月の第1小委員会審議経過報告においては「利用者団体の理解を得るための広報活動への積極的取組み及び附則第14条を廃止した場合の円滑な権利処理ルールの整備に向けた具体的取組みが必要であることを踏まえつつ、できるだけ早期に法律改正を行う方向で、今後も、積極的に検討を進めていくべきものであると考えられる。」とされているところである。なお、附則第14条については、平成8年7月にWTO(世界貿易機関)の場で行われたTRIPS理事会における各国著作権法レビューにおいても、ECからベルヌ条約違反ではないかと公式に指摘されていたところである。

    附則第14条の取扱いについては、<1>近年の有線音楽放送の発達・普及に伴い、遊技場や喫茶店等、従来附則第14条により演奏権の対象外として大きな割合を占めていた施設等が、レコードの再生演奏から有線音楽放送の利用に転換してきており、附則第14条の廃止による直接的な社会的影響は減少してきていること、<2>本規定は当分の間の規定であるにも関わらず、既に現行法制定後約30年が経過しており、一定の条件整備を前提としながらも、附則第14条の廃止に関する利用者団体等の理解も得られつつあること、<3>2(「公衆への伝達権」について)で記述したとおり、他の著作物については公衆への伝達に関する権利が認められることとなるにも関わらず、音楽の著作物のみ、公衆への伝達のうち適法録音物の再生演奏について権利を認めないことは、権利保護の均衡を著しく失することとなること等から、早急に附則第14条を廃止することが必要である。

    その際、音楽の著作物が幅広く社会的に利用されている実態を踏まえ、権利者団体は、利用者団体等に対し、実際の権利処理のルール、スケジュールを早期に提示するとともに、利用者団体等との十分な協議を行うなど、演奏権管理の円滑な実施に向け、十分配慮する必要がある。



    (参考)
    著作権審議会第1小委員会委員名簿
    (敬称略、五十音順)

    阿 部 浩 二岡山商科大学教授・岡山大学名誉教授
    大 山 幸 房帝京科学大学教授
    川 井   健

    帝京大学教授・元一橋大学長

    主 査 斉 藤   博専修大学教授
    佐 野 文一郎(財)内外学生センター会長
    玉 井 克 哉東京大学先端科学技術研究センター教授
    土 井 輝 生札幌大学教授
    道垣内 正 人 東京大学教授
    土 肥 一 史福岡大学教授
    中 山 信 弘東京大学教授
    野 村 豊 弘学校法人学習院常務理事
    半 田 正 夫青山学院大学教授
    堀 田   力さわやか福祉財団理事長
    松 田 政 行日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
    紋 谷 暢 男成蹊大学教授


    著作権審議会第1小委員会審議経過

    平成10年1月9日
    「WIPO著作権条約」「WIPO実演・レコード条約」
    批准に向けたスケジュールについて
    平成10年2月24日
    頒布権について (1)
    平成10年4月13日
    頒布権について (2)
    平成10年5月19日
    頒布権に関するヒアリング (1)
    [1] 社団法人コンピュータソフトウエア著作権協会
    [2]社団法人日本音楽著作権協会
    社団法人日本レコード協会
    社団法人日本芸能実演家団体協議会
    平成10年6月5日
    頒布権に関するヒアリング (2)
    [1]社団法人日本書籍出版協会
    [2]社団法人経済団体連合会
    [3]社団法人日本映像ソフト協会
    社団法人日本映画製作者連盟)
    平成10年7月28日
    頒布権について (3)
    平成10年8月31日
    「ディスプレイ」に係る権利について (1)
    平成10年10月6日
    「ディスプレイ」に係る権利について (2)
    平成10年10月23日
    「ディスプレイ」に係る権利について (3)
    演奏権に係る経過措置(附則第14条)に関するヒアリング
    (社団法人日本音楽著作権協会)
    平成10年11月6日
    頒布権に関するヒアリング (3)
    (社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)
    平成10年11月30日
    審議のまとめ(案)について


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