○著作権審議会権利の集中管理小委員会報告書の概要
    平成12年1月 文化庁


    1 はじめに
    最近におけるデジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、著作物、実演、レコード、放送、有線放送(以下「著作物等」という)の利用に大きな変化が生じており、このような利用環境の変化に対応して、円滑で信頼性の高い権利処理システムの構築に対する社会的要請が高まりつつある。

    著作権処理において重要な役割を果たすのが著作権等の管理団体であり、権利者の保護に寄与するとともに利用の円滑化を図る最適な方法の一つとして、音楽を中心に古くから発達してきた。

    我が国では、著作権に関する仲介業務に関する法律(以下「仲介業務法」という)により、また実演家及びレコード製作者にかかる商業用レコードの二次使用料を受ける権利などに関しては著作権法上の指定団体制度等において、著作権等の管理団体の法的基盤が定められてきた。

    このうち、仲介業務制度については、昭和14年の制定以来、基本的に改正されておらず、今後社会の各分野において多様化する著作物の利用実態に対応して、権利保護と公正な利用の両面に配慮しつつ、いかなる制度が適切であるかについて検討することが必要になっている。

    このようなことから、著作権審議会では、平成6年8月に権利の集中管理小委員会(主査 紋谷暢男成蹊大学教授)を設置し、著作権等の管理制度全体のあり方について検討を開始した。同小委員会は、平成7年4月に現状把握と問題点の整理を行わせるため学識経験者からなる専門部会(部会長 主査と同じ)を設置し、同部会は平成11年7月に「中間まとめ」を公表した。

    本小委員会は、「中間まとめ」に対する関係団体の意見を踏まえ検討した結果、今後文化庁が仲介業務法の改正を行うに当たっての制度上の指針を示すことを目的として本報告書をまとめた。

    2 著作権管理制度の基本的なあり方について

    (1) 著作権の行使と著作権管理団体
    著作権管理団体は、著作物の利用実態が広範かつ多様に、あるいは大量になるにつれて自己管理では有効に対応しきれないことなどの理由から発達してきた。本来、著作者の保護を目的としているが、その形成発展は利用者の利便に資する側面もある。

    (2) 著作権管理事業に対する法的基盤整備の必要性
    著作権管理団体による著作権管理事業の健全な発展は、著作者及び利用者双方に利益を与え、著作物を享受する国民の利益に資するものであり、著作権管理事業に関する適切な法的基盤整備を行うことが必要である。

    (3) 著作権管理事業に関する法的基盤整備の基本的考え方
    [1] 著作権管理事業のあり方に関する基本的視点
    ア 著作者の意思の尊重
    イ 著作物の利用実態の変化等への対応
    ウ 著作権管理事業に対する著作者及び利用者の信頼性の確保
    エ 著作権管理事業の透明性の確保
    オ 著作権に関する情報提供機能の充実

    [2] 委託する作品や支分権の選択制
    著作者は自らの意思に基づき著作権管理の方法や著作権管理団体を選択できる必要があり、委託する権利の種類等の選択権が尊重される必要がある。 具体的な選択権の内容については分野の実態に即して著作権管理団体において関係者とも協議しつつ合理的なルール作りを進めることが必要である。

    (4) 仲介業務法の問題点と改正の必要性
    現行仲介業務法は、基本的視点に照らして、法律の適用範囲、業務の許可制、使用料の認可制などの点で、全面的に見直すことが必要となってきており、早急に新しい著作権管理制度の法的基盤を整備する必要がある。

    3 著作権管理制度の法的基盤整備の適用対象について
    (1) 著作物の種類及び利用態様
    技術革新に伴い、仲介業務法は規制の対象にしている4つの分野(小説、脚本、楽曲を伴う場合における歌詞及び楽曲)に限らず、論文、美術、写真、映画などの様々な著作物が多様に利用されるようになっており、メディアの急速な発達を考えれば規制対象範囲を限定すると時宜を得た対応ができにくくなること、各種の著作物が統合的に利用される傾向にあり分野を限定する合理性がないことなどに加え、関係者からも著作権管理事業の円滑な推進のため現行仲介業務法の適用対象外の分野についても法的基盤整備の対象とすることについて要望があること等を考慮して、著作物の種類や利用態様による区別はしないことが適当である。

    (2) 権利委託の態様等
    法的基盤整備の対象は、著作権管理団体が不特定又は特定多数の権利者のために行う一任型の著作権管理に限定するのが適当である。委託の方法としては、信託、取次及び代理が考えられる。媒介については、非一任型の著作権管理として規制の対象外とするのが適当である。

    (注)一任型の管理
    権利者が管理団体に権利行使を一任し、当該団体が著作物の利用について許諾するかどうか、使用料等の許諾条件をどうするかを決定する形態の権利管理をいう。

    (3) 音楽出版者の取扱い
    一般に著作者と音楽出版者の間では、著作者への使用料の分配などの条件付きで著作者は音楽出版者に著作権の全てを譲渡するという契約が締結されており、これを前提とすれば、音楽出版者が譲渡を受けた著作権を自己管理することは著作権者としての行為であり、規制の対象外と考えるのが適当である。

    ただし、著作者と音楽出版者の関係については、これまでの経緯から必ずしも明確でない点もあり、著作権管理制度の見直しを契機に、両者の契約内容について改めて協議し、音楽出版者の位置づけを明確にすることが求められる。

    (4) 著作権管理事業に該当しない事業
    写真エージェンシーや映像ライブラリー業者が、顧客に写真や映像が固定されたフイルムやビデオテープなどの素材を提供する場合や、パソコンの販売又は貸与に伴い多数のプログラムがパソコンに添付又は組み込まれて提供される場合などのように、提供事業者側で顧客の著作物の利用についてあらかじめ著作者から許諾を得た上で複製物等を提供する事業については、提供事業者は顧客のニーズに応じてあらかじめ著作者から得られた許諾の範囲内で一定範囲の利用を許容しているにすぎず、著作者のために行ういう委託・受託の関係がないので、著作権管理事業には該当しない。

    4 著作権管理団体の業務に関する法的基盤整備について
    (1) 業務の開始
    [1] 業務実施の規制方法
    ア 許可制の廃止と登録制の採用
    業務実施について新規参入を容易にするため、現行の許可制を廃止して、より緩やかな登録制を採用することが適当である。
    なお、登録の基準については、一般的な登録拒否要件に加え、原則として法人格を有することが必要であるとともに、組織的・経理的基礎を有しないことが明らかであるときは登録を拒否できることとすることが適当である。

    イ 株式会社等の取扱い
    権利者の選択を尊重する立場からは、株式会社等による著作権管理事業を法律によりあらかじめ排除することは適切でない。

    ウ 参入要件を厳しくする分野の取扱い
    「中間まとめ」では、音楽の演奏・放送等、論文等の複写などの分野によっては著作権管理団体を限定するため参入要件を厳しくする必要があるかが検討課題として残されていたが、小規模な著作権管理団体では対応できない分野については、特に法律により規制をしなくても、事実上単一又はごく少数の団体で管理が行われること、技術の進展により利用の円滑化を確保しながら多様な管理が可能になれば、近い将来において、一旦設定した分野において必ずしも単一又はごく少数の団体による著作権管理が効率的であるとはいえない事態が生じる可能性があることなどから、法律上参入要件を厳しくする分野を設ける必要はない。

    [2] 委託契約約款の作成義務等
    委託契約は、分配方法及び手数料に関する事項を含む権利の委託に関する契約約款の作成を法令上義務づけることが適当である。この場合、委託契約約款の公開、同約款に盛り込む事項の明確化が必要であり、また、同約款は届出制とすること、委託者に対する説明義務を法令上明らかにすることが適当である。

    (2) 業務の開始以降

    [1] 著作権管理団体の法令上の義務等
    応諾義務(正当な理由がなければ、著作物の利用を拒んではならないこと)、情報提供義務(利用者の求めに応じ管理著作物に関する情報を提供すること)、業務及び経理の公開義務(業務や経理の概要を公開すること)を法令上措置することが適当である。
    なお、「中間まとめ」では、著作権管理事業と競合する利用企業等の役員との兼職や事業との兼業を法令上制限することを検討課題としていたが、委託契約約款に関する各種の義務づけや応諾義務などを考慮すれば、これを法令上制限することは適当でない。

    [2] 主務官庁の監督権限等
    不正の業務があった際にはそれを是正するために、主務官庁の一定の権限(報告・立入検査権限、業務改善命令など)について法令上明確化するとともに、不正の手段により登録を受けた者などに対する罰則を設けることが必要である。

    (3) 著作権管理の多様化と新しい著作権管理方法
    著作権処理の窓口の集中化という面から、複数の著作権管理団体による共同権利処理方式や特定の管理団体への再委託方式も今後考慮すべきである。なお、著作権処理の集中化の手法の一つとして、権利者から使用料を含む許諾条件に関する登録を受け付け権利処理の業務を代行する権利処理代行センター(仮称)構想も考えられるが、この取扱いについては今後の推移を見た上で改めて検討するのが適当である。

    5 使用料の設定と紛争処理システム
    (1) 使用料の設定
    [1] 使用料規程に関する認可制の廃止と届出制の採用
    複数の団体による著作権管理を容認する制度を前提とすれば、使用料についてもそれぞれの管理団体による多様な設定が容認されることとなるので、認可制を廃止すべきである。ただし、利用者保護のため使用料規程の作成及び届出義務を法令上措置すべきである。
    [2] 著作権管理団体と利用者団体との協議による使用料の設定
    現行仲介業務法の下においても、著作権管理団体と利用者団体との協議を通じた使用料に関するルールづくりが実質的な使用料設定の手法として行われてきたところであり、使用料の認可制の廃止に伴い、適正な使用料設定のため、独占禁止法との関係に留意しながら、団体間協議により使用料の設定を可能にする制度を法律上可能にすることが必要である。

    (2) 紛争処理システム
    使用料に関する紛争の態様としては、使用料設定に際しての団体間協議に関する紛争と著作権管理団体と個々の利用者との紛争に大別されるが、団体間協議に関する紛争については、団体間協議制を機能させるために協議不調の場合の紛争処理制度の整備が不可欠であり、紛争の長期化防止などから、一定の強制力のある裁定に準じた制度の枠組を考える必要がある。

    また、著作権管理団体と個々の利用者の紛争についても特別の紛争処理制度を採用すべきであるとの意見があるが、既存の紛争処理制度との関係整理等の課題があり、少なくとも当面は既存の制度の活用により対処することが適当である。

    6 指定団体制度と著作隣接権管理制度について
    (1) 指定団体制度のあり方
    著作権法上、私的録音録画補償金を受ける権利並びに商業用レコードの二次使用料を受ける権利及び商業用レコードの貸与報酬を受ける権利については、指定団体によってのみ権利が行使できることになっているが、本制度は、個々の権利者の権利を有効に生かし、権利者及び利用者の事務的負担を軽減するために設けられたものであり、現在でもその合理性を認めることができるので、現行の指定団体制度を維持することが適当である。

    (2) 著作隣接権管理制度のあり方
    実演、レコード、放送及び有線放送の利用については、今後映像作品やレコードの二次的利用の機会が増加すると考えられ、我が国においても著作隣接権管理団体の健全な発展が望まれるところである。今後、録音物や映像作品の二次的な利用が増加してくると、同一の利用について、著作物、実演、レコード等の権利を同時に処理することが必要になるが、著作隣接権の部分について管理事業に関する法的基盤整備がなされていないことによる弊害が生じる事態も考えられることなどから、著作隣接権管理制度の法的基盤整備について早期の対応が必要である。

    7 著作権等の管理に関するその他の問題について
    特定の窓口において権利の所在情報が確認できる著作権権利情報システム(J-CIS:Japan Copyright Information Service System)構想の推進
    著作物等に関する取引の活発化や電子化に対応した登録制度の充実改善等

    8 おわりに
    本小委員会の示した著作権等の管理に関する基本的方向に沿って現行仲介業務法の全面的な見直しが早急に進められるべきであることを提言する。
    ただし、次のような事項については、引き続き留意することが必要である。
    著作権管理事業の実施にあたっては、利用頻度の多寡にかかわりなく、できるだけ多くの著作者が著作権管理団体を利用しうるように留意することが重要であるので、著作権管理団体においてもこの点に配慮した運営が行われることを要望する。
    権利管理情報提供システムの整備については、文化庁の支援も含めて、関係者によって積極的に取り組まれる必要がある。
    著作権を巡る各種の個別の紛争に対する簡易迅速な紛争解決手段の充実については、文化庁において引き続き検討することが必要である。
    円滑な使用料秩序を形成する上で著作権管理団体と利用者団体の使用料に関する協議は有効かつ不可欠のものである点を考慮して、団体間協議と独占禁止法の関係を明確に整理しておく必要がある。


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