○著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)報告書
    平成3年12月 文化庁



    目 次
    はじめに -問題の所在-
    第1章これまでの経緯等
    第1節 現行第30条制定当時における議論
    第2節 第5小委員会における検討
    第3節 著作権問題に関する懇談会における検討
    第4節 本小委員会における検討とそれに関連する技術の発達の動向
    第2章私的録音・録画の実態
    第1節 最近の実態調査の結果
     1.私的録音の実態
     2.私的録画の実態
     3.著作権についての認識
     4.私的録音・録画の影響に関する考え方
     5.報酬請求権制度についての考え方
    第2節 私的録音・録画の実態についての評価
     1.録音・録画機器の保有状況
     2.私的録音・録画の頻度
     3.ソース別の録音・録画実態
     4.録音・録画の理由
     5.貸レコード、貸ビデオについて
     6.著作権思想の普及状況
     7.私的録音・録画の影響について
     8.報酬請求権制度についての考え方
    第3章国際的動向
    第1節 国際機関等における検討
     1.WIPO(世界知的所有権機関)等における検討
     2.ヨーロッパ共同体(EC)

    第2節 諸外国の立法例
     1.報酬請求権制度の導入を行った主要国の状況
     2.アメリカ合衆国における状況
     3.税法による解決方策を採用している国の状況
     4.イギリスの検討状況
    第4章報酬請求権制度の在り方
    1.私的録音・録画と報酬請求権制度との関係について
    2.報酬の支払い
    3.報酬取得の実現
    4.報酬を支払うこととなる対象の範囲について
    5.報酬額の決定方法について
    6.報酬を請求できる権利者の範囲について
    7.報酬の徴収手続について
    8.報酬の分配手続について
    9.共通目的への使用について
    10.内国民待遇の原則との関係
    11.その他
    第5章結論
    第1節 報酬請求権制度の導入について
    第2節 今後の進め方について
    (参考)

    著作権審議会第10小委員会委員名簿

    著作権審議会第10小委員会ワーキング・グループ委員名簿

    著作権審議会第10小委員会審議経過



    はじめに -問題の所在-
    1複製技術の発達に伴い家庭内においても音楽や映像などの作品を容易に、かつ、高い品質で複製することができるようになっている。カセットテープレコーダーなどの録音機器は既に家庭内に広範に普及しており、また、ビデオテープレコーダーなどの録画機器も近年高い普及率を示すようになってきた。さらに、最近は、デジタル・オーディオ・テープレコーダー(DAT)など、デジタル技術を用いた録音・録画機器の開発普及が進展しており、これによって、従来のアナログ方式と比べて高い品質の複製が可能となってきた。これらの録音・録画機器の購入者は、娯楽、趣味、学習などのためにこれらの機器を用いて、放送番組から、あるいは、レンタル・レコード店やレンタル・ビデオ店、友人等から借りたコンパクトディスク(CD)、ビデオなどから、音楽や映像などの作品を録音又は録画し、再生利用することによって、自己の文化的欲求を満たしている場合が多いと考えられる。
    2さて、現行著作権法(昭和45年法律第48号)では、その第30条において個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とする場合には、著作権が制限を受け、使用者は、著作物を著作権者の許諾を得なくても複製(録音・録画を含む広い概念)することができることとされており、同条は、第102条によって著作隣接権にも準用されている。したがって、この範囲内の録音・録画(私的録音・録画)は、現行法上、自由かつ無償で行いうることとなっている。
    (注)複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうとされており(第2条第1項第15号)、そのうち、録音とは、音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいい(同項第13号)、また、録画とは、影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう(同項第14号)とされている。
    3第30条の規定のような権利制限規定は、著作権法の目的である「文化の発展に寄与する」ため、「著作者等の権利の保護」と著作物等の「文化的所産の公正な利用」との調和(第1条参照)を図るための具体的措置であると考えることができ、ベルヌ条約などの関係規定(ベルヌ条約第9条第2項など)で示された権利の制限に関する国際的な基準との整合性を図りつつ、制定されたものである。したがって、現行法制定当時においては、第30条の規定も、家庭内等の閉鎖的な範囲内における零細な利用を対象としていることから、ベルヌ条約第9条第2項ただし書に規定するように、「そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しない」という条件に適合するものと考えられたものである。

    なお、ベルヌ条約第9条第2項ただし書における「通常の利用」とは、具体的な例としては、音楽や映画などの著作物を、著作者の許諾を得て、演奏したり、上映したり、あるいは市販目的でレコード化したり、ビデオ化したりすることなどを指し、「通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しない」とは、権利の制限に基づく著作物等の利用が、上記のような通常の利用に影響を与えるとともに不当に著作者の利益を害することがない状態を意味している。
    (注)ベルヌ条約(パリ改正条約)第9条第2項
    特別の場合について第1項の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。
    4ところが、私的録音・録画の実態が、著作者等の許諾の下に行われる複製等の通常の利用に影響を与えたり、又は、著作者等の利益を不当に害している状態となっていれば、立法時において予定していた実態と乖離するに至っており、ベルヌ条約などの関係規定に示された国際的基準に適合しなくなっているとして、現行の第30条による権利制限の状態を見直し、「著作者等の権利の保護」を図るための一定の制度措置を講ずることが必要となってくると考えられる。
    5現状についてみれば、近年における録音・録画機器のめざましい開発普及に伴って、録音・録画が家庭内において、容易に、かつ、頻繁に行われ得るようになり、その結果として、一方では、社会全体として大量の録音物や録画物が作成されることとなり、さらに、最近のデジタル機器の出現によって市販のCDと変わらない高い品質の録音物が作成されるという状況も生じている。

    このような状況にかんがみ、私的録音・録画の増加によって、市販のレコード(CD、音楽テープを含む)やビデオソフトの販売に影響が生じるなど、作詞家・作曲家、映画製作者などの著作権者をはじめ、実演家、レコード製作者などの著作隣接権者の経済的利益が脅かされているという指摘がなされるようになった。

    また、このような状況は、制定当時の第30条の予定していた範囲を超えており、ベルヌ条約など著作権関係条約の許容する権利制限の範囲を超えているという考え方もある。
    6私的録音・録画問題とは、上記のような状況を踏まえて、現行第30条が規定しているような、私的録音・録画は自由かつ無償という秩序を見直すべきか、また、見直すとすれば、どのような方策が考えられるのかという問題であり、換言すれば、録音・録画技術の発達普及と著作権・著作隣接権(以下「著作権等」という。)の保護との間でどのように利益調整を行うべきであるのかという問題である。
    7本小委員会では、この問題に関するこれまでの検討経緯を踏まえつつ、最近の私的録音・録画の実態や国際的な検討の動向に留意して、この問題に対処するための方途について検討を行い、このたび検討結果を取りまとめたので、ここに公表する。



    第1章 これまでの経緯等
    この私的録音・録画問題については、本小委員会における検討に先立ち、長年にわたる関係者の議論の積み重ねがあるので、参考のため、その概要を紹介することとする。
    第1節 現行第30条制定当時における議論
    1旧著作権法(明治32年法律第39号)においては、既に発行した著作物を「発行スルノ意思ナク且器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ」複製することは偽作(著作権侵害)とみなさないとし、その複製手段について「器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ」ということを要件としていたため、私的使用のための複製は、手写等に限定されていた。しかしながら、現行法の制定当時(昭和45年)においては複写機器・録音機器等がかなり発達・普及しつつあったために、録音機器等を利用して、私的な使用のために著作物を複製することに著作権者等の許諾を要するものとすることは、実情に即しないものとなっているとの認識の下に、上記のような複製手段を限定する要件は廃止された。
    2しかしながら、現行法制定のために設置された著作権制度審議会の報告書(昭和41年4月)においては、上記の複製手段限定の要件を廃止することと併せて、「私的使用について複製手段を問わず自由利用を認めることは、今後における複製手段の発達、普及のいかんによっては、著作権者の利益を著しく害するにいたることも考えられるところであり、この点について、将来において再検討の要があろう。」との指摘もなされていたところである。

    また、現行著作権法の成立をみるに至った第63回国会における衆議院文教委員会の附帯決議(昭和45年4月9日)では、「今日の著作物利用の手段の開発は、いよいよ急速なものがあり、すでに早急に検討すべきいくつかの新たな課題が予想されるところである。よって、今回改正される著作権制度についても、時宜を失することなく、著作権審議会における検討を経て、このような課題に対応しうる措置をさらに講じるよう配慮すべきである。」との決議がなされ、参議院文教委員会においても同旨の附帯決議がなされた(昭和45年4月28日)。

    第2節 第5小委員会における検討
    1現行法制定以降の録音・録画機器の発達普及を踏まえて、(社)日本音楽著作権協会、(社)日本芸能実演家団体協議会及び(社)日本レコード協会の3団体から、連名で、昭和52年3月、文化庁長官に私的録音・録画の問題の解決策として、西ドイツ(当時)において採用されているのと同様の録音・録画の機器及び機材に対して報酬を課する制度を導入する要望書が提出された。

    また、いわゆるレコード保護条約の締結に伴う著作権法の一部改正の際に、参議院文教委員会においても、「放送・レコード等から複製する録音・録画が盛んに行われている実態にかんがみ、現在行っている検討を急ぎ、適切な対策を速やかに樹立すること」との附帯決議がなされた(昭和53年4月18日)。
    2著作権審議会は、このような動きに対応して、第5小委員会(池原季雄主査、上智大学教授)を設置して、昭和52年10月から、この問題の解決方策について検討を開始した。同小委員会では、当時、既に録音・録画機器の販売に際して一定の報酬を価格に上乗せし、機器メーカー又は機器輸入業者を通じて、その報酬を著作者等に還元するという解決方策(いわゆる報酬請求権制度)を法制化(1965年)していた西ドイツの前例をはじめ、オーストリアやフランスなど各国の立法の動きや、WIPO(世界知的所有権機関)などの国際機関における検討の状況に留意しつつ、検討が行われた。
    3しかしながら、同小委員会が昭和56年6月に公表した報告書では、当時はまだ、1)この問題についての国民の理解も十分でないこと、2)この問題の対応策についての国際的なコンセンサスの方向をなお見極める必要があること、3)関係者の間でその対応策について合意の形成に至っていないこと等の事情により、「現在直ちに特定の対応策を採用することは困難であるとの結論に達した」と記述するとともに、「基本的な合意の形成に向けて今後関係者の間で話し合いが進められること」を求めていた。

    第3節 著作権問題に関する懇談会における検討
    1この第5小委員会の報告を受け、昭和57年2月、(社)著作権資料協会に権利者団体関係者、録音・録画機器・機材のメーカー団体関係者、学識経験者等からなる「著作権問題に関する懇談会」(阿部浩二座長 岡山大学名誉教授)が設置され、以来5年間にわたり話し合いが進められた。
    2しかし、昭和62年4月の同懇談会の検討結果のとりまとめにおいては、第5小委員会の指摘する問題点のうち著作権等の保護に対する国民の理解という点については、一定の前進が見られるものの、この問題を解決するための具体的な方策について、同懇談会において関係当事者間の合意を形成するに至ることは困難であるとして、再度、著作権審議会において制度的対応策について検討することが要請された。
    3ただし、このまとめでは、座長の見解として、報酬請求権制度について次のような考え方が明らかにされた。
     1)録音・録画機器の開発普及の実態を踏まえれば、私的使用のためにする録音・録画行為はベルヌ条約の許容する権利制限の範囲を超えている疑いがあると考えられる。
    2)ドイツ等で実施されているいわゆる報酬請求権制度とは、個々の著作権者等がその著作物等の録音・録画に対する複製の対価を請求しうる権利を基礎とする制度である。
    3)著作物等の録音・録画を行うのは、機器・機材の購入者たるエンドユーザーであるが、著作権者等が、ユーザーを把握し報酬の支払を請求することは、事実上不可能に近いこと、録音・録画機器・機材の開発普及に伴い、従前は営利的になされていた複製の領域が、私的複製の領域へ移行してしまい、著作権者等による権利行使は不可能となったことを踏まえれば、これらの機器・機材の提供者であるメーカーは、著作権者等の対価取得の実現に何らかの形で助力すべきことが、公平の観念上要請されていると考えることができる。
    4)ただし、録音・録画機器・機材の購入者のすべてが、他人の著作物等を録音・録画するわけではないことや、個々の購入者による著作物等の録音・録画の頻度や回数の差異があることなどを考慮すれば、報酬の一部を共通目的に使用することが妥当と考えられる。

    第4節 本小委員会における検討とそれに関連する技術の発達の動向
    1第5小委員会や著作権問題に関する懇談会における検討と並行して、この問題については、各権利者団体から、文化庁に対し、報酬請求権制度導入に係る要望がなされるとともに、衆議院及び参議院の文教委員会においても昭和59年以後の著作権法の一部改正に際して、再三にわたり「私的録音・録画問題については、国際的動向にかんがみ、録音・録画の機器・機材に係る報酬請求権制度の導入など抜本的解決のための制度的対応について検討を進めること」などを内容とする附帯決議がなされている。
    2このようなことから、著作権審議会(林修三会長:当時)は、昭和62年5月8日に開催した総会において、この問題について第10小委員会(齊藤博主査 筑波大学教授)を設置して検討することを決定し、昭和62年8月以来、検討を開始した。
    3本小委員会の審議の過程においては、著作権者、機器・機材メーカーの双方の立場から、つぎのような意見書が提出されている。
    (1)昭和63年6月に、機器・機材メーカー側を代表する委員として、大歳、三田両委員から提出された「私的録音・録画と報酬請求権制度問題に関する意見書」
    1)報酬請求権制度について、その実をあげることにメーカーが参加すべきであるというのであれば、その場合のメーカーの法的な立場、報酬の性格などの点について究明を要するとともに、この制度を「公平の観念」から根拠付けようとすれば著作権法第30条の許容範囲内の私的録音・録画が、ユーザーと著作権者等の権利者との間に利益の不均衡を生じさせ、かつ、その程度が公平の観念上、放置できないものとなっているかどうかの事実関係についての検証が行われ、その結果に基づいて慎重な議論が行われる必要があること。
    2)録音・録画機器・機材の普及を前提としても、著作権法第30条の許容範囲内の私的録音・録画は認められてよいのではないか。
    3)ユーザーと権利者の間の利益の不均衡の有無は、技術進歩、録音・録画機器・機材の普及による利益と不利益を総合的に検証し、判断する必要があり、また、問題解決の方策についても多面的な検討が必要なのではないか。
    4)根本的な問題解決のためには、国民の著作権尊重の意識の向上を図るための運動をより一層推進していく必要があり、メーカーとしても更に一層努力していくこと。
    (2)昭和63年8月に、著作権者の立場を代表する委員として芥川委員から提出された「私的録音録画問題と報酬請求権制度の導入について」と題する意見書
    1)現代の録音・録画機器によるホームテーピングはベルヌ条約第9条第2項ただし書き、著作権法第30条の許容範囲をはるかに超えるものであること。
    2)我が国において報酬請求権制度を導入して著作権制度に安定したルールを取り戻すことは、文化の面ではもとより、経済の円滑な発展を図るうえからも急務であること。
    3)音楽文化の良い循環の形成と法的な権利の調整を、考えられる最も滑らかな方法で実現しようとする報酬請求権制度の導入は、文化の問題としても大きな意味が含まれていること。
    4)報酬請求権制度は、技術の進歩による恩恵を生かして、ユーザーの自由を確保するとともに著作権者等に対する権利侵害のおそれをなくすための適切な工夫であること。
    5)著作物等使用料の最終的支払者であるユーザーにプライバシーを侵害することなく経済的負担を求めうる唯一の地位に立つメーカーに、事前に著作権処理を求めることは合理性があり、現代の企業にはこのような社会的責任が求められていること。
    6)権利者が新しい技術の進歩によってもたらされる利益にあずかることは、著作権等の内容として当然に含まれるべきものであり、比較衡量の名の下に、技術の進歩が権利者にもたらすメリットと限度を超える著作物の使用により受ける不利益を相殺して考えるということは筋が違うこと。
    7)報酬請求権制度の適用から録画をはずすのは適当でなく、また、制度の導入に際しては、機器とテープ双方を対象とすべきであること。
    8)報酬の一部の分配を留保して、広く一般に共通して利益になるような文化事業に使用することについても、それがある程度以下のものであって、私権としての報酬請求権の性格に影響を及ぼさない場合、しかもそれによって制度そのものの公平さや、合理性が強められる場合には、私権の本質に反するものではないと考えられること。
    (3)平成元年11月に、機器・機材メーカー側を代表する委員として、大歳、谷井両委員から提出された「私的録音・録画と報酬請求権制度問題に関する意見書(II)」
    1)私的録音・録画に伴う権利者の不利益について総合的な分析検討が、報酬請求権制度が妥当か否かの議論を行うには必要であり、そのための調査研究プロジェクトを実施することを提案すること。
    2)レコード・レンタル料やレコードの販売価格、放送使用料に権利者への報酬を含める考え方(いわゆる源泉払い)がヨーロッパ共同体(EC)委員会の著作権に関するグリーンペーパー(1988年6月)においても提案されており、このような考え方についての検討が必要であること。
    3)私的録画については、タイム・シフティング(放送される時間には見ることができないため放送番組を録画して、後で見ること)が録画の主たる理由であることなど私的録音とは異なる要素もあるので、その違いを踏まえた検討が必要であること。
    4)第10小委員会の議論を法律専門家の立場から整理分析し、立法論的な検討を行う委員会を第10小委員会内に設けることを提案すること。
    (4)平成2年4月に、著作権者の立場から、石田委員を通じて提出された(社)日本ビデオ協会・(社)日本映画製作者連盟の「私的録音・録画行為と報酬請求権制度に関する意見書」
    1)私的録音・録画の実態は、著作権者等の利益を害するおそれがあり、報酬請求権制度の導入が必要であること。
    2)私的録音・録画という新しい著作物の利用形態に対して、正当な対価の支払いが必要であると考えられること。
    3)録音・録画機器・機材の需要がソフトの需要と関係が深いことからすれば、これらの機器・機材メーカーにソフトの権利者等の損失を救済する社会的責任を担ってもらうことは、決して不当ではないこと。
    4)放送からの録画がタイムシフティングを目的とする場合が多いとしても、従来の放送という利用形態を超えるものであり、放送からの録画を制度の対象から除外する理由とはなりえないし、また、ライブラリー化される場合には市販のビデオソフトの購入と同様の効果があること。
    4また、本小委員会における検討に関して、平成3年5月には日本放送協会から1)源泉払いの考え方は適当でないこと2)報酬を請求できる権利者の範囲に関し、著作隣接権者としての放送事業者も私的録音・録画により不利益を被る可能性もあり、放送事業者の取扱いについて慎重な対応を要望することを内容とする意見書が第10小委員会主査あてに提出されており、さらに、平成3年7月及び10月には協同組合日本映画監督協会から、報酬を請求できる権利者の範囲について、映画監督を加えることを要請する文書が同じく主査あてに提出されているところである。
    5本小委員会における検討に並行して、この間における録音・録画技術の発達はめざましいものがある。特に、録音機器の分野では、平成2年6月には、デジタル・オーディオ・テープレコーダー(DAT)がSCMS(シリアル・コピー・マネージメント・システム)方式というデジタル複製を技術的に制限する仕様を付して商品化された。これに対して、著作権者等はCDと同じ音質の複製が可能となり、私的録音・録画問題を更に深刻にするものであり、早期に報酬請求権制度を導入することによって抜本的解決を図るべきであると主張している。

    また、平成3年には、DATとは別のデジタル録音機器として、デジタル・コンパクト・カセット(DCC)やミニ・ディスク(MD)の開発が発表され、これらの機器は平成4年中の商品化が予定されている。

    このような今後のデジタル録音機器の広範な展開を控え、この問題を早期に解決することによって機器の発達と著作権者等との間の円満な関係作りを行うことが、これらの機器の円滑な普及と国民の文化的欲求の充足のためにも不可欠との指摘もある。

    また、録画機器についても、既に技術的にはデジタル化が可能な段階であり、今後の放送等のデジタル化やハイビジョンの発達などの状況をにらみながら、コストの低減が進行するものと予想されており、早ければ、数年後には家庭向けの商品化が行われるのではないのかとの予測もある。このような状況を踏まえれば、今後、録音機器に続いて、急速にデジタル化が進むであろうことは確実であると考えられる。



    第2章 私的録音・録画の実態
    第1節 最近の実態調査の概要
    録音・録画機器の普及状況、家庭内での録音・録画の実態等については、これまでには、昭和53年11月の内閣総理大臣官房広報室が行った調査(以下「総理府調査」という。)、昭和59年3月の(社)日本音楽著作権協会、(社)日本芸能実演家団体協議会及び(社)日本レコード協会の3団体が行った調査、昭和60年10月の(社)日本電子機械工業会及び磁気テープ工業会(現(社)日本磁気メディア工業会)が行った調査、及び昭和60年11月の内閣総理大臣官房広報室が行った世論調査などがある。
    このたび、権利者団体((社)日本音楽著作権協会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会、(社)日本ビデオ協会)、メーカー団体((社)日本電子機械工業会、(社)日本磁気メディア工業会)の協力によって、平成3年3月から4月にかけて、「私的録音・録画に関する実態調査」が行われた(以下「平成3年調査」という。)。この調査は、最近の実態を反映していると考えられるので、以下その概要を紹介する。

    なお、本調査は、全国15歳~59歳の男女を対象として、調査員による面接聴取によって行われた。(標本数は3,000人、有効回収数は2,278人(有効回収率は77.6%)である。)

    1.私的録音の実態
    (1) 録音機器の保有状況
    1)録音機能を有する機器(録音機器)を保有している人は、全体の90.3%であり、持っている人の平均保有台数は2.81台であった。
    その内訳は、次のとおりである。(複数回答)
     
    CDプレーヤー付きラジオカセット(シングル)持っている人 25.0%
    CDプレーヤー付きラジオカセット(ダブル)持っている人 35.1%
    ラジオカセット(シングル)持っている人 49.9%
    ラジオカセット(ダブル)持っている人 40.6%
    カセットデッキ(シングル)持っている人 27.9%
    カセットデッキ(ダブル)持っている人 25.9%
    2)録音機器のうちダブルカセットの録音機器を保有している人は、全体の65.1%にのぼっている。

    (2) 録音頻度
    1)最近1年間に録音したことのある人は全体の45.8%、また、録音機器を保有している人の中では46.1%であった。

    これを年齢別にみると、若年層ほど録音している割合が高く、15~24歳の層では8割から9割近くの人が最近1年間に録音したことがあると回答している。
    2)録音したことのある人の中では、「1ヵ月に1回ぐらい録音する」という人が30.8%と最も多く、次いで「1週間に1回ぐらい録音する」という人が19.8%となっており、「ほとんど毎日録音する」、「1週間に2~3回録音する」という人まで含めて、1週間に1回以上録音する人を集計すれば34.8%、1ヵ月間に1回以上録音する人を集計すれば65.6%となる。

    また、録音の頻度についても、若年層ほど頻度が高いという傾向が見られ、15~19歳の層では、「1週間に1回ぐらい録音する」という人が30.9%と最も多く、次いで「1ヵ月に1回ぐらい録音する」という人が28.1%、「1週間に2~3回録音する」という人が24.2%となっており、1週間に1回以上録音する人を集計すれば55.9%、1ヵ月間に1回以上録音する人を集計すれば84.0%となる。20歳~24歳の層では、「1ヵ月間に1回ぐらい録音する」という人が32.4%、次いで「1週間に2~3回ぐらい録音する」という人が21.1%、「1週間に1回ぐらい録音する」という人が19.0%となっており、1週間に1回以上録音する人を集計すれば40.1%、1ヵ月間に1回以上録音する人を集計すれば72.5%となる。

    (3) 録音源別の録音実態
    最近1年間に何から録音したかを尋ねたところ、次のようなものが多く挙げられた。また、録音源別の録音頻度も次のとおりである。
     録音経験のある人の
    全体に占める割合
    1ヵ月の平均録音回数
    自分や家族が持っているレコード・CD・市販の録音済みテープからの録音26.1%2.68回
    貸レコード店から借りたレコード・CD・市販の録音済みテープからの録音24.9%3.35回
    友人・知人から借りたレコード・CD・市販の録音済みテープからの録音20.9%1.91回
    ラジオからの録音18.7%3.37回

    (4) 録音の対象ジャンル
    主に録音しているジャンルとしては、次のようなものが挙げられた。


    (5) 録音理由
    録音する人にその録音理由を尋ねたところ、次のようなものが多く挙げられた。
    レコード、CD、市販の録音済みテープを買うよりも安く済むから45.1%
    ヘッドホンタイプのカセットテーププレイヤーやカーステレオで聞くため41.5%
    好きな音楽を抜き出して編集したテープを自分で作って聞くため32.8%
    放送で聞いた後に、さらにくり返して聞くため32.3%
    聞きたいものを放送時間に聞くことができないため23.8%
    購入したレコード、CD、市販の録音済みテープに傷をつけないため12.8%
    家族やごく少数の親密な友人・知人に頼まれて12.8%

    (6) 貸レコード店の利用実態
    1)最近1年間に貸レコード店を利用した人は全体の27.4%であるが、年齢別にみれば、若年層ほど利用したことがある人の割合が高くなっており、15~19歳では66.3%、20~24歳では62.4%が利用したことがあると答えている。
    2)利用したことのある人の1年間の利用頻度は、次のとおりであった。
    1~5回未満35.8%
    5~10回未満25.8%
    10~20回未満20.2%
    20~30回未満9.3%
    30~50回未満3.5%
    50回以上2.6%

    3)また、貸レコード店で借りたCD等を録音する頻度としては、「ほとんど全て録音する」が52.0%、「8割程度録音する」が12.5%、「5割程度録音する」が10.2%、「2割程度録音する」が9.9%、「ほとんど録音しない」が12.8%であり、平均すると約7割が録音されるという結果となっている。

    特に、「8割程度」から「ほとんど全て」録音する人が15~19歳の層では73.0%、20~24歳の層では、74.1%に達している。

    (7) レコード等の保有状況
    レコード・CD・市販の録音済みテープの保有状況については、次のとおりであった。
     持っている人の割合平均保有枚・本数
    レコード40.6% 36.2枚
    CD、CDシングル 38.5% 18.5枚
    市販の録音済みテープ44.6%18.2本
    また、最近1年間にレコード等を購入した人の割合及びその平均購入枚数は次のとおりであった。
     購入した人の割合平均購入枚・本数
    レコード 14.9% 8.4枚
    CD、CDシングル 76.2% 7.5枚
    市販の録音済みテープ 46.0% 6.0本

    (8) 私的録音したカセットテープの保有状況
    放送やレコード・CD・市販の録音済みテープから自分で録音したカセットテープを持っている人は全体の48.5%、持っている人の平均保有本数は33.7本である。この場合も、15~19歳の層では83.5%の人が録音したカセットテープを持っており、その平均保有本数は35.3本、また、20~24歳の層では、80.3%の人が録音したカセットテープを持っており、その平均保有本数は50.1本である。

    なお、録音源別の内訳は、平均保有本数33.7本のうち、レコード・CD・市販の録音済みテープからが25.0本、放送からが8.7本という割合となっている。

    2.私的録画の実態
    (1) 録画機器の保有状況
    1)ビデオテープレコーダー又はVTR一体型カメラ(録画機器)を保有している人は、全体の84.9%で、持っている人の平均保有台数は1.58台であった。
    2)また、録画機器を持っている人のうち、1台の人が50.0%、2台の人が23.2%、3台以上の人が11.8%となっている。

    (2) 録画頻度
    1)最近1年間に録画したことのある人は、全体の57.4%、また、録画機器を保有している人の中では59.0%を占めている。

    これを年齢別にみると、若年層ほど録画している割合が高く、15~24歳の層では8割近くの人が最近1年間に録画したことがあると回答している。
    2)録画したことのある人の中では、「1週間に1回くらい録画する」という人が最も多く23.3%を占めており、次いで、「1週間に2~3回録画する」という人が20.4%、「1ヵ月間に1回ぐらい録画する」という人が19.9%となっており、「ほとんど毎日録画する」、「1週間に2~3回録画する」という人も含めて、1週間に1回以上録画する人を集計すれば51.8%、1ヵ月間に1回以上録画する人を集計すれば71.7%となる。

    録画の頻度についても、録音の場合と同様、若い層ほど頻繁に録画を行っており、15~19歳の層では、「1週間に2~3回録画する」という人が26.3%、「1週間に1回ぐらい録画する」という人が25.9%、「1ヵ月間に1回ぐらい録画する」という人が17.4%となっており、1週間に1回以上録画する人を集計すれば、62.5%、1ヵ月間に1回以上録画する人を集計すれば、79.9%となる。20~24歳の層では、「1週間に1回ぐらい録画する」という人が30.3%、「1週間に2~3回録画する」という人が25.8%、「1ヵ月間に1回ぐらい録画する」という人が20.5%となっており、1週間に1回以上録画する人を集計すれば、62.2%、1ヵ月間に1回以上録画する人を集計すれば、82.7%となる。
    (3) 録画源別の録画実態
    最近1年間の録画経験を録画源別に尋ねたところ、次のような結果となった。
     録画経験のある人の
    全体に占める割合
    一ヶ月の平均録画回数
    テレビからの録画53.3%6.82回
    ビデオカメラを使っての風景、子供の成長などを撮影、録画10.6%1.97回
    貸ビデオ店から借りた市販の録画済みビデオカセットテープからの録画7.5%2.65回
    テレビ(衛星放送)からの録画6.7%5.70回
    友人・知人から借りた市販の録画済みビデオカセットテープからの録画4.3%1.85回
    自分や家族が持っている市販の録画済みカセットテープからの録画4.0%2.32回

    (4) 録画の対象ジャンル
    主として録画しているジャンルとしては次のようなものが挙げられた。
    外国映画58.4%
    劇・ドラマ44.1%
    日本映画38.7%
    マンガ、アニメーション23.7%
    スポーツ22.9%
    音楽21.3%
    クイズ、バラエティー15.0%
    ニュース、ドキュメンタリィ13.3%
    幼児子供向け番組10.4%
    教育、教養、討論番組等9.3%
    趣味、スポーツのレッスン8.7%

    (5) 録画理由
    録画する人に録画の理由を尋ねたところ、次のような理由が多く挙げられた。
    見たいものを放送時間に見ることができないため83.5%
    放送で見た後に、さらにくり返して見るため49.1%
    市販の録画済みビデオカセット、ビデオディスクを買うより安くすむから16.0%
    家族やごく少数の親密な友人・知人に頼まれて13.7%
    貸ビデオ店から借りなくてよいから12.6%
    映画、コンサート、歌手の公演、劇の公演などに行くかわりに11.7%
    ビデオライブラリーを作るため8.0%

    (6) 貸ビデオ店の利用実態
    1)最近1年間に貸ビデオ店を利用した人は全体の38.0%であるが、若年層ほどその利用頻度は高くなっており、15~29歳の層では6割近く又は6割以上の人が最近1年間に貸ビデオ店を利用したことがあると回答している。
    〔1年間の利用頻度〕
    1~5回未満38.4%
    5~10回未満21.2%
    10~20回未満18.6%
    20~30回未満8.3%
    30~50回未満5.8%
    50回以上6.6%
    この結果、利用したことのある人の中での平均利用回数は13.8回となっている。
    2)また、貸ビデオ店から借りたビデオの録画する頻度は、「ほとんど録画しない」という人が80.2%を占め、「2割程度録画する」という人が6.7%、「5割程度録画する」という人が3.5%、「8割程度録画する」という人が1.8%、「ほとんど全て録画する」という人が5.9%となっており、このような傾向は各年齢層とも同様である。
    (7) 市販の録画済みビデオカセットテープ、ビデオ・ディスクの保有状況
    1)市販の録画済みビデオカセットテープ、ビデオ・ディスクの保有状況については、次のとおりであった。
     持っている人の割合平均保有本(枚)数
    市販の録画済みビデオカセットテープ 25.1% 8.2本
    市販の録画済みビデオ・ディスク 5.8% 9.8枚

    2)また、市販の録画済みビデオカセットテープ、ビデオ・ディスクを保有している人の中で、最近1年間のビデオテープ等の購入状況は、市販の録画済みビデオカセットテープについては、購入したことのある人が51.2%で平均購入本数が4.0本、また、市販の録画済みビデオディスクについては、購入したことのある人が48.9%で平均購入枚数が4.5枚であった。

    (8) 私的録画したビデオカセットテープの保有状況
    放送や市販の録画済みビデオカセットテープ、ビデオ・ディスクから自分で録画したテープを保有している人は全体の46.1%であり、持っている人の平均保有本数は16.4本である。この場合も15~19歳の層では、62.5%の人が録画したビデオカセットテープを持っており、その平均保有本数は12.6本、また、20~24歳の層では、65.9%の人が録画したビデオカセットテープを持っており、その平均保有本数は16.6本となっている。なお、平均保有本数で最も多いのは40~49歳の層で20.2本となっている。

    なお、録画源別内訳は、平均保有本数16.4本のうち、放送からが14.2本、市販の録画済みテープ等からが2.2本という割合となっている。

    3.著作権についての認識
    (1)「著作権」という言葉を見聞きしたことがあるかという質問に「ある」と答えた人は全体の84.3%であり、「ない」と答えた人は11.6%であった。
    次に「著作権」という言葉を見聞きしたことのある人のうち、何から知ったかを尋ねたところ、「新聞、テレビ、ラジオから」(74.4%)、「レコードのジャケットやCDなどの注意書から」(41.1%)、「録音・録画機器、テープのカタログ・使用説明書や広告から」(22.7%)、「市販の録画済みビデオカセットテープなどの再生画面の中で見て」(15.4%)、「本の奥づけから」(14.7%)、「友人・知人から聞いて」(9.3%)、「学校の授業や講演、講座などを聞いて」(6.5%)、「著作権に関するパンフレットを見て」(5.3%)となっている。
    (2)また、著作権法において個人使用目的の録音・録画が許されていることについての認識を調査したところ、「個人的に又は、家庭内などで使ったりする場合などには、放送やレコードなどから録音又は録画することが認められている」ことを知っている人が全体の50.5%、他方知らない人は30.7%であった。

    4.私的録音・録画の影響に関する考え方
    最近の私的録音・録画による著作権者等の権利者への影響について、次のような意見A、意見Bの2案を示して意見を聞いた。
    〔意見A〕
    「録音・録画機器が普及し、家庭内で手軽に録音・録画ができるようになったことによって、音楽や映画の利用の幅が広がった。このことは利用者にとって利益ではあるが、作曲家や歌手、演奏家などにとっては、レコードへの吹き込みやコンサートなどの場合と違って、家庭内での録音・録画からほとんど何の還元もないため、権利者が受けるべき利益が確保されているとはいえない。」
    〔意見B〕
    「録音・録画機器が普及し、家庭内で手軽に録音・録画ができるようになったことによって、音楽や映画の利用の幅が広がった。それによって音楽や映画などを楽しむ人が増え、コンサートや劇場への入場者数、レコード、CD(コンパクトディスク)、ミュージックテープ、ビデオソフトの売り上げにもよい影響を及ぼし、それなりに作曲家や歌手、演奏家などへの利益は確保されているといえる。」
    意見Aに対して「そう思う」と答えた人が、38.2%、「そうは思わない」と答えた人は16.6%となっており、また、意見Bに対して「そう思う」と答えた人が41.9%、「そうは思わない」と答えた人は15.4%となっている。

    意見A、Bの支持の関係をクロス集計してみると次のようになり、A、Bともに判断回避(28.4%)に次いでA、Bとも肯定(17.4%)するものが多い。ただし、録音頻度の高い人は、意見Bのみを支持する人が多い。
    (単位:%)
    意見B\意見A 肯定 否定 判断回避
    肯定 17.4 10.8 13.7
    否定 9.5 3.2 2.6
    判断回避 11.3 2.5 28.4

    5.報酬請求権制度についての考え方
    (1)「あなたは家庭内録音・録画について、作曲家や歌手、演奏家などの利益のために、録音・録画用機器や生テープの購入者が、商品代、消費税に加えて一定の報酬を負担する制度を日本でも採った方がよいとお考えですか」という質問に対する解答は、「そう思う」(8.0%)、「どちらかといえばそう思う」(12.6%)で併せて20.6%、「そうは思わない」(31.3%)、「どちらかといえばそうは思わない」(14.4%)で併せて45.7%となっている。なお、「わからない」は29.4%である。
    (2)報酬請求権制度に積極的な意見は、年齢層別ではあまり変化がないが、この制度に消極的な意見は、年齢が上がるについて減少し、代わって、「分からない」と答える人が多い。また、積極的な意見は、学歴別では大学・大学院卒(27.5%)に多く、また職業別では、管理職・研究職(31.2%)や販売サービス業(29.5%)に多い。
    (3)報酬請求権制度の導入を支持する理由としては、
    「本当に作曲家等の利益が確保されていないのであれば、一定の報酬を支払うことが望ましい」(53.9%)

    「一定の報酬を支払うことによって、作曲家等の創作意欲が高まり、芸術・文化の発展につながる」(33.9%)

    「録音・録画によって、レコード等を購入しなくても済むのであるから、一定の報酬を支払うことが望ましい」(29.6%)
    などが挙げられた。
    (4)報酬請求権制度の導入を支持しない理由としては、
    「放送や自分で購入した音楽ソフトやビデオソフトから録音・録画したものを営利を目的としないで個人的に楽しむのであれば、一定の報酬を支払わなくてもよい」(64.6%)
    「録音・録画機器の普及に伴い音楽や映画を楽しむ人が増えたことによって作曲家や歌手、実演家などは利益を得ている面もあり、更に一定の報酬を支払わなくてもよい」(34.8%)

    「録音・録画機器や生テープの購入者の負担が増すような制度は望ましくない」(33.0%)
    などが挙げられた。

    第2節 私的録音・録画の実態についての評価
    以上のような調査結果を踏まえて、私的録音・録画の実態について、本小委員会では次のように考える。
    1.録音・録画機器の保有状況
    録音機器及び録画機器の双方について高い普及率を示しており、特に、録画機器については、昭和53年の総理府調査では2.3%であったが、昭和60年の総理府調査では38.9%となり、今回の平成3年調査では84.9%となっており、録音機器の場合(平成3年調査では、90.3%)とあまり変わらない普及状況となっている。

    2.私的録音・録画の頻度
    録音・録画機器保有者のうち全体の半数程度が過去1年間に録音・録画経験があり、特に若年層(15才~24才)では、8割以上の人が録音経験があり、また、8割近くの人が録画経験がある。若年層を中心に私的録音・録画が著作物等の利用形態として広範に定着しているとともに、その結果として、社会全体としては大量の録音物・録画物が作成されていると考えられる。

    3.ソース別の録音・録画実態
    私的録音の場合には、レコード・CD・市販の録音済みテープからの録音が多く、私的録画の場合にはテレビ放送からの録画が多くなっており、この点については違いが認められる。

    4.録音・録画の理由
    私的録音の理由としては、「レコード、CD等を買うよりも安くすむから」(45.1%)や「ヘッドホンタイプのカセットテーププレイヤーやカーステレオで聞くため」(41.5%)など、市販のCD等の購入又は追加購入に対する代替的な役割を果たしていることがうかがえる。
    また、私的録画の理由としては、「見たいものを放送時間に見ることができないため」が83.5%となっており、いわゆるタイムシフティングが最も多いが、「放送を見た後に、さらに繰り返して見るため」も49.1%となっており、また、放送などから録画したビデオテープを保有している人が全体の46.1%存在し、その持っている人の平均保有本数は16.4本に上るなど、私的録画によるビデオテープが保存され、さらに、ライブラリー化されていることがうかがえる。

    5.貸レコード、貸ビデオについて
    (1)貸レコードに関しては、貸レコード店の利用者は全体の27.4%であるが、15~24歳の世代では6割以上に達し、若年層においては相当程度定着しているものと考えられる。また、貸レコード店からレコードを借りた場合には、平均で約7割程度が録音されており、貸レコードがすべて録音されるわけではないものの、貸レコードと私的録音との密接な関係がうかがえる。
    (2)貸ビデオに関しては、貸ビデオ店の利用者は全体の38.0%、とりわけ15~29歳の世代では6割前後となる。ただし、貸ビデオ店からビデオを借りた場合でも、8割以上の人がこれをほとんど録画しないと回答しており、貸レコードの場合とは異なり、私的録画との結び付きは希薄であるということができる。

    6.著作権思想の普及状況
    著作権という言葉を見聞きしたことがある人の割合は、昭和53年総理府調査では68.5%、昭和60年総理府調査では76.8%、平成3年調査では84.3%と着実に上昇しており、国民の間に著作権についての認識が徐々に浸透してきているということができる。

    7.私的録音・録画の影響
    私的録音・録画の権利者の利益に対する影響については、「権利者の利益は確保されていない」とする人と「権利者の利益によい影響もある」とする人はほぼ同数となっており、特に、両方とも肯定する人が多くなっていることからすれば、私的録音・録画は一方では権利者の利益によい影響を与えている側面もあるが、同時に、権利者の利益が十分確保されていない側面もあると考えられており、私的録音・録画の多面的な性格がうかがえる。

    この点に関し、著作物等の新しい利用形態が一面では著作者等の利益によい影響がある場合(例えば著作物の放送利用)であっても、他方において、権利者の利益を確保するため、新たな権利(例えば放送権や二次使用料を受ける権利)を認めることはありうると考えられる。

    8.報酬請求権制度についての考え方
    報酬請求権制度の導入については、「導入すべき」が20.6%、「導入すべきでない」が45.7%、「わからない」は29.4%となっており、消極意見が多く、この制度についての、ユーザーの理解に留意する必要があることを示している。ただし、質問がユーザーの負担を増すことを端的に示しながら賛否を問う形となっているのを考慮すれば、積極意見が20%以上に達している点にも注目すべきであるとの意見があった。

    なお、参考までに昭和60年の総理府調査では、何らかの方法で補償をすべきかという質問に対しては、31.4%が賛成、35.3%が反対となっている。



    第3章 国際的動向
    第1節 国際機関等における検討
    1.WIPO(世界知的所有権機関)等における検討
    (1)私的録音・録画問題についての国際機関における検討は、1975年(昭和50年)12月にジュネーヴで開催された万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会が「ビデオカセット及びオーディオ・ビジュアル・ディスクの使用から生ずる法律問題に関する作業部会」の設置を勧告したことに始まる。

    同勧告に従って、1977年(昭和52年)2月にジュネーヴでユネスコ及びWIPOの事務局長によって専門家作業部会が招請された。

    同作業部会は、ビデオグラム等の私的使用及び教育目的の利用の問題について審議を行い、その報告書においては、「ビデオグラム……の私的使用によって惹起する法律問題に関して、私的使用はベルヌ条約(パリ改正条約)第9条第2項に基づき無条件で適法となるわけではなく、私的使用が許容されるためには、複製が著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を害しないことが必要である。ビデオグラムをビデオカセットとして複製することの容易さからみて、このような複製は前記条約に基づく排他的複製権に従わなければならないと思われる。……」との結論に達するとともに、その唯一の解決策は、著作者等のために包括補償金(a global compensation)の制度を設けることであるとしている。また、同報告は、著作隣接権に関して、実演家等保護条約第15条が私的使用の全面的な免除を規定しているので、著作者と同様の条約上の義務を援用することはできないが、衡平を考えれば著作隣接権者に対しても包括補償金の分配へ参加できる旨を国内法で規定することができる、としている。
    (2)その後、1978年(昭和53年)9月、万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会の合同小委員会は、ビデオカセット及びオーディオ・ビジュアル・ディスクの私的録画について、現実的な対策を早急に見出す必要性があることを特に強調するとともに、この結論が録音物(sound recordings)にも適用されるべきものである、との報告を行った。
    (3)さらに、1984年6月、ユネスコ・WIPO事務局は、「録音・録画物、放送及び印刷物の無許諾の私的複製に関する専門家グループ」をジュネーヴに招集し、同専門家グループでは、次のような原則が確認された。
    1)視聴覚著作物等の私的目的の広範な複製は、著作権者等の正当な利益を害し、このような損害を排除することがベルヌ条約又は万国著作権者条約の義務である。
    2)この損害に対する最適な対策は、録音・録画機器と生テープに対するチャージ(Charge)の導入である。
    3)徴収された金は、管理費を控除した後、私的目的の複製の推定頻度に応じて個々の権利者に分配すべきである。
    4)外国人の権利者に、内国民待遇を与えるべきである。
    1986年(昭和61年)6月、ユネスコ・WIPO合同の「視聴覚著作物及びレコードに関する政府専門家委員会」においては、大多数の参加者が、前記専門家グループにおいて確認された原則の趣旨に賛成した。
    (4)最近では、1989年(平成元年)2月から、1990年(平成2年)7月にかけて3回にわたって行われたWIPOの「著作権の分野における立法のためのモデル規定に関する政府専門家委員会」において、その1項目として私的録音・録画問題も検討された。
    このモデル規定は、あくまでも各国の立法のための指針を示すことを目的とするものであり、各国の国内法に対する拘束力を有するものではないが、国際的な傾向を見る上では重要なものである。
    WIPO事務局が用意したモデル規定草案においては、次のような規定が設けられている。

    【第4章 財産権の制限】
    (A) 自由使用
    第10条 私的目的のための自由複製
    (1)第8条の規定にかかわらず、かつ、この条(2)及び第22条の規定に従うことを条件として、適法に発行された著作物を著作者の許諾を得ることなく、かつ、報酬を支払うことなく、専ら使用者自身の私的使用(学術及び研究目的の使用を含む。)のために複製することは適法とされる。
    (2)(1)の規定は、次のものについては適用しない。
    (i)建築の著作物の建築物その他類似の建造物の形式での複製
    (ii)限定版の美術の著作物、音楽の著作物の楽譜及び練習帳その他の一度限り使用する発行物の複写複製
    (iii)データベース又はその実質的部分の複製
    〔(iv)第17条に定める場合を除いて、コンピュータ・プログラムの複製〕

    (B) 強制許諾
    第22条 私的目的のための複製の強制許諾
    (1)第8条の規定に関わらず、専ら使用者自身の私的使用(学術及び研究目的の使用を含む。)のために、著作者の許諾を得ることなく、ただし公正な報酬を支払うことにより、適法に発行された視聴覚的著作物又は著作物の録音物を〔及び第10条(2)に述べた著作物以外の著作物を複写手段を使って〕複製することは適法とされる。
    (2)(1)に定める場合における私的目的のための複製の公正な報酬は、その複製に使用される機器及び機材の製作者及び輸入者が支払うものとし、集中管理団体によって徴収され、及び分配される。
    代案A: 製作者及び輸入者と集中管理団体の代表者との間に合意がないときは、公正な報酬及びその支払条件は、〔権限ある機関〕によって決定される。
    代案B: 公正な報酬及びその支払の条件は、第57条に定める規則によって定められる。
    (3)(2)の機器及び機材は、そのような機器及び機材が次の場合に該当するときは、公正な報酬の支払を免除される。
    (i)輸出されたものである場合、又は、
    (ii)私的目的のための著作物の複製には通常使用できないものである場合(専門家用の機器及び機材又はディレクタフォン及びディレクタフォン用のカセット等)。
    この草案について、WIPO事務局の説明文書(CE/MPC/I/2-III、1988年10月20日)では、次のように説明されている。


    すなわち第10条及び第22条の条項は、ベルヌ条約第9条第2項の規定に基づいている。同項ただし書は、「複製が当該作品の通常の利用と相反すると考えられる場合には、そのような複製は全く許可されない。複製が当該作品の利用と相反しないと思われるときには、次の段階として、著作者の正当な利益に不当な害を及ぼさないか否かが検討される。そして、そのようなおそれがないときにのみ、一定の特別な場合に限って、強制許諾の導入又は無償使用を認めることが可能となる。」ことを意味しており、モデル規定草案第10条(2)の規定は、「通常の利用」と相反する場合に関するものであり、第22条は「正当な利益を不当に害する」場合に関するものである。
    第22条(1)は、私的目的の複製が作品の通常の利用を妨げないが、当該複製が、公正な報酬を伴わず、著作者の正当な利益を不当に害すると思われる場合に関して、特別の強制許諾制度を定めている。レコードに含まれる作品及び視聴覚作品の私的目的のための広範囲の複製の累積的効果は、著作者の正当な利益を不当に害するものである。このことは、一般に、レコードに含まれる作品に関する限り認知されているが、視聴覚作品については、問題にされる場合がある。ビデオレコーダーが、いわゆる「タイムシフティング」、すなわち、都合の良い時に見るためのテレビ放送の録画に使用されることが比較的多いことは否定できない。しかし、私的なビデオライブラリー及び友人間の持ち回り使用のためのテレビ番組及びビデオグラムの録画は、ますます広がりつつある。貴重で、興味深い番組は記録され、タイムシフティング後に持ち回り使用される。これらの記録は、それぞれ単独では無害に見えるが、総合的には、著作権者の権利及び利益を不当に害する。
    レコードに含まれる作品及び視聴覚作品の私的目的の複製を規制することは、プライバシーの尊重と相反すると思われるので実際的ではなく、むしろ不可能である。結局、そのような場合には、個別的にも、総合的にも、排他的複製権を行使することはできないだろう。したがって、第22条(1)は、特別の強制許諾制度を規定する。
    第22条(2)は、3つの重要な問題を規定している。第1に、公正な報酬は誰が支払うのか、第2に、それを誰が徴収、分配するのか、第3に、公正な報酬額はどのように定めるのか、ということである。
     i)私的目的の複製の場合、作品の実際の使用者は当該個人である。したがって、原則として当該個人がその額を負担する責任がある。しかし、そのような金額を個人から直接徴収することは不可能であり、又は、少なくとも、極めて非現実的である。唯一の可能な解決方法は、機器及び機材の製造者及び輸入者が負担することである。これらの者は、機器及び機材の価格に、その分を上乗せして、費用を回収することができる。
     ii)そのような公正な報酬請求権は、適切な集中管理機関によってのみ管理可能であることは明らかである。この規定は、そのような管理について2つの基本要素、すなわち、当該機関が報酬を徴収し分配すべきことについて言及している。また、報酬を外国人を含む個々の著作者に分配することが非常に重要である。私的目的の複製の報酬について現在機能している制度によれば、適当なサンプリング制度に基づき、不当な費用を要せずに、また、当該作品の私的目的の複製の頻度を反映するような方法で、そのような分配が実施可能であることを示している。
     iii)この規定は、公正な報酬額の決定について、2つの代案を定めている。代案Aでは、各種関係団体の代表間の交渉を認め、一定の点について、合意が得られない場合にのみ、関係当局が介入するものとし、代案Bによれば相当な報酬及び支払条件を、ともに別の法律事項により決定する、というものである。
    第22条(3)は、公正な報酬支払義務の例外を定めている。(i)及び(ii)は、共に、少なくとも当該国において、私的目的の複製のために、機器及び機材を使用しない場合に適用される。(i)の場合には、輸出用であるから、そのような目的に使用されず(輸入国において、公正な報酬支払義務が発生することは別の問題である。)、(ii)の場合も、機器及び機材は、通常、そのような複製目的に使用されない。
    政府専門家委員会における検討においては、多数の参加者は、第22条の規定するような解決策は、実際これまで多くの国において有効に作用しており、この制度以外には方法がないとして、第22条の規定を支持した。

    なお、同モデル規定草案中には、複製に関する技術的制限(特にDATのSCMS方式との関連で)についての規定も含まれていたが、この規定については、報酬請求権制度と共存するものとして必要であるとする国々とまだ検討が十分でなくモデル規定に盛り込むのは時期尚早であるとする国々とがあり、大勢は明確にならなかった。

    モデル規定は、現在、WIPO事務局でこれまでの議論を踏まえて成案を作成中であり、近々のうちに公表される予定である。
    また、今年秋からベルヌ条約議定書の作成に際しても、この問題は取り上げられている。

    2.ヨーロッパ共同体(EC)
    EC委員会は1988年「著作権に関するグリーンペーパー:技術の挑戦-速やかな対応を求める著作権問題」を発表した。

    このグリーンペーパーは、1992年の域内市場統合を目指して、各国の著作権制度の調和を図る必要から作成されたものである。グリーンペーパーでは、私的録音・録画問題に関して、録音・録画技術のデジタル化の進展という状況を踏まえて、1)報酬請求権制度の導入、2)デジタル機器による複製に対する技術的制限、3)源泉払い制度(ペイ・アット・ソース)の考え方など、解決方策として考えられる幾つかの方法を提案している。

    現在、EC委員会では、このグリーンペーパーに対する各国の反応を踏まえながら、ECディレクティブ(指令)案を作成中であり、近々公表されると予想されている。

    第2節 諸外国の立法例
    私的録音・録画問題は、我が国のみならず、世界各国でも検討が行われている課題である。既に一定の制度的対応をとった国も相当数にのぼっている。各国の対応方法としては、いわゆる報酬請求権制度の導入による場合が多い(ドイツ、オーストリア、フランス等13か国)が、税法による解決方策を採用している国もある(スウェーデン、ノルウェー)。

    【私的録音・録画問題に対する制度的措置を講じた国々の状況】
    ○報酬請求権制度の導入を行った国

    国名 制定年 徴収根拠 徴収対象
    ドイツ 1965年
    1985年
    1989年
     改訂
    著作権法 テープレコーダ
    VTR
    録音用テープ
    録画用テープ
    オーストリア 1980年

    1986年
     改訂
    著作権法 録音用テープ
     施行は1981年
    録画用テープ
     施行は1982年
    ハンガリー 1981年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    コンゴ 1982年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    フィンランド 1984年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    アイスランド 1984年 著作権法 テープレコーダ
    VTR
    録音用テープ
    録画用テープ
    ポルトガル 1985年 著作権法 テープレコーダ
    VTR
    録音用テープ
    録画用テープ
    フランス 1985年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    スペイン 1987年 無体財産権法 録音用テープ
    録画用テープ
    オーストラリア 1989年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    オランダ 1989年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    ブルガリア 1991年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    チェコスロバキア 1991年 著作権法 録音用テープ
    録画用テープ
    ○税法による解決方策を講じている国々
    ノルウェー 1981年 税法 テープレコーダ
    VTR
    録音用テープ
    録画用テープ
    スウェーデン 1982年
    1985年
     改訂
    税法 録音用テープ
    録画用テープ

    1.報酬請求権制度の導入を行った主要国の状況
    (1) ドイツ
    1)沿革
    ドイツは、1965年、世界で最初に私的録音・録画に関する報酬請求権制度を導入した国であり、1966年1月1日から施行されている。

    1965年の著作権法では、録音・録画用の機器のみを対象とし、報酬額は機器の販売価格の5%以内と定められていたが、1985年に著作権法の改正が行われ、報酬請求権の対象に録音・録画用のブランクテープを加え、また報酬額も従前の定率制から定額制に改められた(1985年7月1日施行)。
    2)私的録音・録画とベルヌ条約との関係
    報酬請求権制度導入の契機となった1955年の連邦通常裁判所の判決は、1965年法改正前の私的利用のための複製は自由かつ無償としていた規定について、「録音機器による私的利用のための複製は立法者の意図した目的を超えるもの」と判示しており、また、現在では、ドイツ基本法(憲法)の財産権保護の理念とベルヌ条約第9条第2項ただし書の趣旨が、制度の根拠と考えられている。
    3)私的録音・録画と報酬請求権制度の関係
    「私的使用のために、著作物の個々の複製物を作成することは許される」(第53条)。
    「……、著作物の著作者は、明らかにかような複製の用に供される次の各号のものの製造者に対して、機器並びに録画ないし録音物の販売によって生じたかような複製をなす可能性につき相当なる報酬の支払いを目的とした請求権を有する。……」(第54条第1項)

    報酬の性格は、著作物等の使用料及び著作権を制限したことに伴う補償という2つを併せたものであって、完全に私権であると考えられている。
    4)報酬の支払いをすべき者
    録音・録画用機器又は機材のメーカー及び輸入業者(以下、メーカー等という。)は機器や機材を製造又は販売することによって、私的録音・録画を可能にしており、これらの機器や機材がなければ、私的録音・録画の実態はないという理由から、機器や機材のメーカー等が報酬の支払を行うことが適切であると考えられている(現実には、報酬額は最終的には製品の価格に含まれ、ユーザーに転嫁されることになる。)。
    5)報酬を支払うこととなる対象の範囲
    私的録音と私的録画の双方を対象としている。私的録画に関するタイムシフティングの問題については、タイムシフティングが行われるとしても全体に占める割合は算定できないことやタイムシフティングも利用者の私益となっていることなどから、報酬請求権の対象から除外する理由とならないと考えられている。ただし、報酬額の決定に当たっては、タイムシフティングに配慮し減額している。

    また、機器か機材かという問題については、1965年法では、録音・録画用の機器のみであったが、1985年法によって、録音・録画用の機材(テープ)も加えられた。
    その理由としては、次のような事情が挙げられる。
    ・機材の販売量の増加。
    ・法律上機材の販売者に売上高の報告義務を課することによる販売量把握の問題解決。
    ・機材と録音・録画の頻度との相関関係。
    ・機器との対比による公平性。
    6)報酬額の決定方法
    1965年法では、定率制であった(販売価格の5%以内)が、1985年法によって定額制に改められた。
    報酬額は、管理団体とメーカーとの間の特段の合意がない限り、著作権法別表に定められる額が適用される。

    著作権法別表の報酬額を定めるに当たっては、各方面から意見を聴取するとともに、市販レコードへの録音使用料や放送使用料を参考としつつ、すべての機器・機材が著作物等の録音・録画に使用されていないことやタイムシフティングなどの要素にも配慮して決定された。
    ○報酬額(1985年法)
    録音用機器(1台)2.50ドイツマルク(約200.9円)
    録画用機器(1台)18.00ドイツマルク(約1,446.5円)
    録音用ブランクテープ(1h)0.12ドイツマルク(約9.6円)
    録画用ブランクテープ(1h)0.17ドイツマルク(約13.7円)
    ○報酬の徴収実績額 (単位:万マルク、( )は日本円 単位:万円)

     1988年1989年1990年
    録音用機器1,381(110,977)1,318(105,914)1,894(152,202)
    録画用機器4,140(332,690)3,788(304,404)4,734(380,424)
    録音用テープ1,868(150,112)1,935(155,497)2,178(175,024)
    録画用テープ4,550(365,638)4,016(322,726)4,831(388,219)
    11,936(959,177) 11,058(888,621) 13,636(1,095,789)
    (1マルク=約80.36円 平成3年11月15日現在)

    7)報酬を請求できる者
    報酬を請求できる者は、著作者及び映画製作者並びに実演家、実演の開催者及びレコード製作者の著作隣接権者である。
    8)報酬の徴収・分配方法
    報酬請求権は、管理団体を通してのみ行使することができ(第54条第6項)、その団体としてZPU(Zentralstelle fuer Private Uberspielungsrechte 私的複製権センター)が設立されている。
    ただし、ZPUの業務はすべてGEMA(音楽著作権協会)に委託されている。
    ○ZPUの構成団体は次のとおり。
    ・GEMA
    ・GVL(隣接権協会)
    ・VG-WORT(文芸著作権管理協会)
    ・VG・BILD-KUNST(造形美術著作権管理協会)
    ・VFF(映画及びビデオ製作者協会)
    ・VGF(映画著作権管理協会)
    ・GWFF(映画及びテレビ権保護協会)
    ・GUFA(映画上映権管理協会)
    ○各構成団体への分配額は次のとおり。
    〔録音関係〕

    GEMA
    42%
    GVL42%
    VG-WORT16%

    〔録画関係〕

    GEMA
    21%
    GVL21%
    VG-WORT8%
    VG・BILD-KUNST、VFF、VGF、GWFF49%
    GUFA1%

    ○各団体内部における分配方法
    GEMA私的録音・録画の報酬の全額を権利者に配分。
    〔録音〕
    25%はレコード分野での著作権使用料徴収実績に応じて、75%は音楽放送分野での使用実績に応じて分配。
    〔録画〕
    15%はビデオグラム分野での著作権使用料徴収実績に応じて、85%はテレビ放送分野での使用実績に応じて分配。
    GVL95%を権利者に分配し、5%を団体としての目的に使用。
    VG-WORT90%は権利者に分配、10%を団体としての目的に使用。

    9)報酬の支払を要しない場合
    報酬請求権は、機器又は機材がドイツ著作権法の施行地域内で複製のために利用されないことが明らかに予測できるときは、存しない(著作権法第54条第3項)。

    これに該当する例としては、当該機器・機材が輸出用である場合、口述書き取り専用機器や、レコード会社・放送局等が職業的に使用する場合などがある。

    なお、録音・録画用の機器・機材を著作物等の録音・録画に使用しない場合であっても報酬の返還は認められないこととされており、視覚障害者等についても、報酬の返還を請求できない。
    10)共通目的への使用
    ドイツにおいては、報酬の一部を社会的・文化的目的へ使用することを法律上規定していない。
    しかし、各団体においては、GVLやVG-WORTのように団体が独自に一部(5~10%)を団体としての目的に使用している例がある。
    11)条約の内国民待遇原則との関係
    国内で徴収された報酬については、ベルヌ条約又は万国著作権条約に基づき、保護義務のある外国の権利者にもその支払を原則として行うこととされている。

    (2) オーストリア
    1)沿革
    オーストリアは1980年に著作権法を改正し、西ドイツに続いて、世界で2番目に私的録音・録画に関する報酬請求権制度を導入した国であり、録音については、1981年1月1日から、録画については1982年7月1日から施行されている。

    オーストリアの制度の特色は、当時の西ドイツが録音・録画用の機器を対象としていたのとは異なり、録音・録画用の機材を対象としたことにある。

    また、この国の制度のもう一つの特色としては報酬額の50%を超える部分を社会的及び文化的目的(1986年改正法で、従前の社会的目的から範囲が拡大された。)に使用することを義務付けていることである。
    2)私的録音・録画とベルヌ条約との関係
    この点については、ドイツの考え方の影響を受けているものと考えられる。
    3)私的録音・録画と報酬請求権制度の関係
    自己使用のための複製は許される(著作権法第42条第1項)が、自己使用のために複製されることが予測できるときは、権利者は国内において営業のために有償で初めて録音・録画用の機材を取引に供する者に対して報酬を請求する権利を有する(第42条第5項)。

    報酬の性格は、法定許諾に従う著作物使用料であると考えられているが、経済的損失の補償という性格も併せもつものとしてとらえる見方もある。
    4)報酬の支払をすべき者
    録音・録画用機材のメーカー及び輸入業者(以下、メーカー等という。)が報酬の支払義務を負う。この点については、個々の利用者から報酬を徴収することは実際上不可能であり、メーカー等は機材の販売という商業的活動を行い、私的録音・録画に寄与しているからであると説明されている。
    5)報酬を支払うこととなる対象の範囲
    私的録音と私的録画の双方を対象とする。
    機器か機材かという問題については、録音・録画用の機材が対象とされている。その理由としては、機材の方が録音・録画の頻度に比例し、その実態をある程度反映した報酬の徴収が可能となると考えられたことによる。
    6)報酬額の決定方法
    法律には具体的な額の定めはなく、報酬額の算定に当たり、特に機材の収録時間の要素が考慮されねばならないと定められているのみである(第42条第5項)。

    報酬の額は、メーカー及び輸入業者を代表する連邦商工会議所と管理団体との協議によって決定される。当初の額は、年間の総額1,000万シリング(約1億円)を超えない額が適当であるとされた。決定額は、「Wiener Zeitung」紙に掲載して公表される。なお、契約者が連邦商工会議所のメンバーである場合には33%の割引がある。
    ○報酬額(1987年の額)
    録音用テープ(1h)1.60シリング(約18.4円)
    録画用テープ(1h)3.00シリング(約34.4円)
    (*契約の額である。)

    ○報酬の徴収実績額
    (単位:万シリング、( )内は日本円 単位:万円)
     1988年1989年1990年
    録音用テープ2,352(26,977)2,648(30,373)2,933(33,642)
    録画用テープ8,311(95,327)8,459(97,025)10,287(117,992)
    10,664(122,316)11,107(127,397)13,220(151,633)
    (1シリング=11.47円 平成3年11月15日現在)

    7)報酬を請求できる者
    報酬を請求できる者は、著作者並びに実演家、写真を撮影する者(製作者)及びレコード製作者の著作隣接権者である。
    8)報酬の徴収・分配方法
    法律により、報酬の請求は管理団体を通じてのみ行うことができ(第42条第6項)、その団体としてAustro-Mechana(音楽録音権管理団体)が指定されいてる。
    ○Austro-Mechanaから分配を受ける団体
    ・Austro-Mechana
    ・Litrar-Mechana(文芸録音権管理団体)
    ・LSG(商業用レコードに関する実演家及びレコード製作者の権利の管理団体)
    ・OSTIG(実演家の権利の管理団体)
    ・VAM(映画などオーディオビジュアル・メディアの権利の管理団体)
    ・VBK(写真及び造形美術作品の権利の管理団体)
    ・VG Rundfunk(放送事業者の権利の管理団体)
    ○Austro-Mechanaから各団体への分配額
    Austro-Mechanaは報酬の徴収額から7%の手数料を控除し、残額を関係の各管理団体に分配する。
     録音録画
    Austro-Mechana49%28.7%
    Litrar-Mechana7%14.8%
    LSG34%4.0%
    OSTIG3%2.3%
    VAM 22.8%
    VBK 1.6%
    VG Rundfunk7%25.8%

    ○各団体内部における分配方法
    法律上、各管理団体は社会的・文化的目的のための制度を義務付けられており、これらの目的のために管理団体は報酬の51%を使用し、残りの49%を個々の権利者に分配している。
    各団体の分配方法は次のとおり。
    (i)Austro-Mechana
    通常のレコードと放送に関する使用料に10%を割増して追加する方法で分配している。(その場合、レコードに70~80%の比重を置き、20~30%を放送に比重を置いている。)
    (ii)Litrar-Mechana
    レコードの使用料に15%の割増、放送の使用料に30%の割増しを追加する方法で分配している。
    (iii)LSG
    オーストリア放送協会でのレコード放送時間を基礎として、割増額を分配している。
    (iv)OSTIG
    オーストリア放送協会での実演の放送時間を基礎として、割増額を分配している。
    (v)VAM
    オーストリア放送協会で放送された映画等を基礎として、割増額を分配している。
    (vi)VBK
    オーストリア放送協会がテレビ放送使用料として支払った額を基礎として、割増額を分配している。
    (vii)VG Rundfunk
    この団体は、1980年法及び1986年法の条項により、社会的目的のための制度を設ける必要はなく、その報酬の100%を権利者に分配している。

    9)報酬の支払を要しない場合
    国内において使用されない機材又は私的録音・録画に使用されない機材、レコード製作者や放送事業者などが事業用に使用する機材については、報酬請求権は働かない(第42条第5項)。
    機材を私的録音・録画に使用しない者は、徴収団体に対して、報酬の返還を請求することができる。
    10)共通目的への使用
    「徴収団体は、権利者及びその家族のために、(a)社会的目的及び(b)文化的目的のための制度を設けることができる。……報酬を分配する団体は、報酬による収入の大部分を、……、(a)(b)の目的のために使用しなければならない。」(1986年改正法第2条)

    このうち、(a)社会的目的としては、老齢の権利者への援助、疾病や事故の際の扶助、健康保険や法律相談に対する補助などがあり、また、(b)文化的目的としては、青年層タレントに対する助成、文化的価値のある書籍、楽譜、レコード及びビデオの発行に対する援助等がある。

    なお、このように徴収額の51%を社会的・文化的目的へ使用することを義務付けた理由としては、消費者や報酬請求権制度の反対者への説得の方策、あるいは、外国著作物の利用が多いことに基づく外国への報酬の流出に対する対策であるとする政策的判断があげられている。
    11)条約の内国民待遇原則との関係
    外国権利者も、原則的には、関係条約に基づく内国民待遇の適用があるものと考えられている。
    ○Austro-MechanaとGEMAとの間の紛争
    社会的・文化的目的への使用を巡って、1983年にオーストリアのAustro-MechanaとドイツのGEMAとの間に訴訟が生じた。

    ドイツでは社会的・文化的目的への使用義務がないが、一方、オーストリアでは、報酬額の51%を社会的目的に使用することとしていたため、Austro-MechanaはGEMAに報酬額の51%を控除して送金を行っていたことに対して、GEMAもAustro-Mechanaへの送金の際に、報酬額の51%を控除したことが原因である。

    Austro-Mechanaは、GEMAに対して、ドイツ法には社会的文化的目的に関する規定はないことから、報酬の全額を送金すべきであると主張して訴訟に発展した。

    この事件に関してオーストリア最高裁判所は1987年7月14日に判決を下し、51%の国内留保について、51%の分配を留保する義務は当該団体所属の著作権者に帰属する額のみに関するものであり、外国の団体に支払われるべき額には及ばない。総徴収額の半分以上の額を社会的文化的目的に充てる制度は、外国国民に対する恣意的な差別となり、条約の定める内国民待遇の原則に反することになるとの見解を示した。

    なお、この訴訟を契機として、社会的文化的目的の使用に関する1986年の法改正が行われた。

    (3) フランス
    1)沿革
    フランスは、1985年に「著作権並びに実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利に関する法律」を制定し、私的録音・録画に関する報酬請求権を導入し、1986年1月1日から施行されている。

    フランスでは、1976年に財政法の分野で、録音機器に販売価格の4%の税を課し、この収入から芸術家の育成援助などに支出することを目的とする立法案が作成されたが、権利者への分配を巡って財政法の分野では限界があることから、この方策は断念され、著作権制度の枠内で解決に向かうこととなった。
    2)私的録音・録画とベルヌ条約との関係
    ベルヌ条約第9条第2項に照らして、著作者及び実演家・レコード製作者には、補償が与えられなければならないと考えられる。
    3)私的録音・録画と報酬請求権制度の関係
    「著作物が公表されたときは、次に掲げる行為を禁止することはできない。
     ……
    二 複写する者の私的利用に厳密に当てられ、かつ、集団的使用を目的としない複写又は複製。ただし、原著作物が創作された目的と同一の目的の利用に当てられる美術の著作物の複製を除く。
    ……」(1957年著作権法第41条)
    「この章において創設された権利(注-著作隣接権)の受益者は、次のことを禁止することができない。
     ……
    二 複写を行う者の私的利用に厳密に当てられ、かつ、集団的使用を目的としない複製。
    ……」(前記1985年法第29条)
    「レコード又は、ビデオグラムに固定された著作物の著作者及び実演家並びにこれらのレコード又はビデオグラムの製作者は、前記1957年著作権法第41条第2号及びこの法律第29条第1項第2号に定める状況において行われる前記著作物の複製について報酬請求権を有する。」(前記1985年法第31条)
    報酬の性格は、著作物の使用料という側面もあり、損失の補償の性格を持つものでもあり、また、法的許諾の制度に基づく報酬であるとも説明されている。
    4)報酬の支払をすべき者
    録音・録画用機材のメーカー又は輸入業者(以下「メーカー等」という。)が報酬の支払義務を負う(1985年法第33条第1項)。この点については、個々の機材の使用者から報酬を徴収することは実際上不可能であり、商業的取引を行うものから報酬を徴収し、それを使用者に転嫁する方法が唯一の方法であることからと説明されている。
    5)報酬を支払うこととなる対象の範囲
    私的録音と録画の双方を対象としている。
    また、機器か機材かという問題については、録音・録画用の機材が対象とされている。
    6)報酬額の決定方法
    法律には具体的な額の定めはなく、報酬の額は、機材の種類及びその録音・録画時間に対応して定額方式により定められると定めているのみである(1985年法第33条第2項)。
    報酬の額は、国の代表を議長として、権利者団体(1/2)、メーカー等の団体(1/4)、消費者団体(1/4)から構成される委員会によって決定される。
    ○報酬額
    録音用テープ(1h)1.50フラン(約35.6円)
    録画用テープ(1h)2.25フラン(約53.3円)
    ○報酬の徴収実績額
    (単位:万フラン、( )は日本円 単位:万円)
     1988年1989年1990年
    録音用テープ10,300(244,213)11,400(270,294)13,000(308,230)
    録画用テープ29,700(704,187)32,400(768,204)45,000(1,066,950)
    40,000(948,400)43,800(1,038,498)58,000(1,375,180)
    (1フラン=約23.71円 平成3年11月15日現在)

    7)報酬を請求できる者
    報酬を請求できる者は、著作者並びに実演家、レコード製作者及びビデオグラム製作者の著作隣接権者である。
    8)報酬の徴収・分配方法
    法律により、報酬の徴収は徴収分配団体によって行われることが定められており、個々の権利者は行使できない。

    徴収分配団体としては、録音については、SORECOP(私的録音報酬徴収協会)が、録画については、COPIE FRANCE(コピーフランス)が設立されている。ただし、双方とも、SDRM(音楽録音権管理団体)へ事務を委託し、SDRMは、SACEM(音楽演奏権管理団体)に事務を再委任している。
    ○SORECOPから分配を受ける団体
    ・SDRM
     SDRMの傘下には、さらに、次の3団体がある。
     SACEM
     SACD(演劇作品著作権管理団体)
     SCAM-SGDL(文芸作品著作権管理団体)
    ・SCPP(レコード製作者団体)
    ・ADAMI/SPEDIDAM(実演家団体)
    ○COPIE FRANCEから分配を受ける団体
    ・SDRM
    ・ADAMI/SPEDIDAM
    ・PROCIREP/SCPP(ビデオグラム製作者団体)
    ○SORECOP、COPIE FRANCEから各団体への分配額
    SORECOP、COPIE FRANCEは、報酬の徴収額から一定の手数料を控除し、残額を各団体に分配する。
     録音録画
    SDRM 50% 1/3
    SCPP 25% ──
    ADAMI/SPEDIDAM 25% 1/3
    PROCIREP/SCPP ── 1/3
    ○各団体内部における分配方法
    法律上各団体は、文化目的のために報酬の25%を使用することを義務付けられており、残りの75%を個々の権利者に分配している。
    SDRMの例
    SDRMは、SACEM、SACD、SCAM-SGDLに対し、それぞれのレパートリーの使用に応じた分配を行うこととしている。
    SOFRESという調査機関に録音の量や録音される作品の種類、録音の音源について調査を依頼しており、この調査結果とSACEMのレコード録音と放送使用料に関する分配資料をもとに分配している。

    なお、COPIE FRANCEでは、SOFRESに放送の録画に関する調査を依頼しており、これを分配の資料として利用する。
    9)報酬の支払を要しない場合
    輸出される機材(1985年法第33条第1項)には、報酬は課されない。また、放送事業者、レコード製作者及びビデオグラム製作者がその業務のために使用する機材、視聴覚障害者の援助を目的とする自然人又は、団体で文化担当大臣が指定するものが使用する機材については、報酬は返済されるものとされている(同法第37条)。
    10)共通目的への使用
    管理団体は報酬の25%を創作援助活動、生の興業の普及及び芸術家養成活動に使用しなければならないと定められている(1985年法第38条第5項)。

    SDRM、SCPP、ADAMI/SPEDIDAMは、FCDMS(音楽創作普及基金)に資金提供を行い、FCDMSは、音楽の全ての分野における創作活動(レコード製作を含む。)に対する、ライブの演奏及び芸術家の育成に対する援助その他、映像製作や音楽のプロモーションに対する援助や音楽の国外への普及に対する援助などを行っている。
    なお、ビデオグラム関係にも同様な基金がある。
    11)条約の内国民待遇原則との関係
    国際条約を留保して、私的録音・録画に関する報酬請求権に基づく使用料は、フランスにおいて最初に固定されたレコード及びビデオグラムについては著作者、実演家、レコード製作者又はビデオグラム製作者の間で分配されるという規定があり(1985年法第28条)、現実には外国の権利者への分配は行われていない。この規定の解釈については、様々な見解があり、政府関係者は条約においてこの取扱いを明確にすべきことを指摘している。

    2.アメリカ合衆国における状況
    (1) 沿革
    アメリカ合衆国著作権法においては、私的録音・録画を適法と明記した規定はないが、次のような一般的な権利制限の規定がある。
    (排他的権利の制限-公正使用)
    第107条 第106条の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、授業(教室における使用のための多数の複製を含む。)、研究、調査等を目的とする著作権のある著作物の公正使用(複製物又はレコードへの複製その他第106条に明記する手段による公正使用を含む。)は、著作権侵害とならない。特定の場合に著作物の使用が公正使用となるかどうかを判定する場合には、次の要素を考慮すべきものとする。
    (1)使用の目的及び性格(使用が商業性を有するかどうか又は非営利性の教育を目的とするかどうかの別を含む。)
    (2)著作権のある著作物の性質
    (3)著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質性
    (4)著作権のある著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響
    アメリカ合衆国においても、1980年代前年において私的録音・録画に関して機器又は機材に一定の報酬を賦課することや私的録音・録画を適法とすることを目的とする法案が何度か議会に提出されたが、いずれも、メーカー、流通業者、消費者等の反対によって成立には至らなかった。また、1984年のいわゆる「ベータマックス判決」(注)以降提出された法案は録音関係のみを対象とするようになり、録画については対象から除外されるようになった。
    (注)「ベータマックス判決」
    1976年11月に、映画の著作権者が、録画機器メーカー等を被告として提起した裁判で、原告の主張は録画機器によるテレビジョン番組の録画は著作権侵害であり、録画機器メーカー等は、ビデオテープレコーダーの販売によって、この著作権侵害に対して、寄与侵害者として責任を有するとして、機器の製造・販売の差止め、損害賠償等を求めたものである。

    第1審では、原告の敗訴、第2審では、原告の勝訴となり、連邦最高裁判所に上告されたものであるが、連邦最高裁判所は、1984年1月17日に判決を下し、録画機器によるテレビジョン番組の録画は、一般的に放送されているときに視聴できない番組を録画し、後で一度見るといういわゆる「タイムシフティング」のために行われており、実質的に著作権者の利益を侵害していないとして著作権法第107条の「公正使用」に当たるとし、録画機器メーカー等による販売は著作権侵害についての寄与責任を構成しないとの判断を示した。

    しかし、最近のデジタル録音機器の出現によって、再び音楽の著作権者等からデジタル録音機器による私的録音は著作権侵害であり、デジタル録音機器のメーカー等は、著作権侵害について寄与責任を有するとして、デジタル録音機器の製造・販売の差止めを求める訴訟が1990年7月ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提起されるに至った。この訴訟は、その後取り下げられた(1991年7月)が、DAT、そして今後のDCC、MDなどのデジタル録音機器の出現に備えて、この問題を解決するために、1991年8月「1991年家庭内録音法」(Audio Home Recording Act of 1991)が議会に提案された。この法案については、録音機器メーカー、家電小売業者を含め広く関係者の支持を集めており、成立の可能性は高いと予想されている。

    (2) 1991年家庭内録音法案の概要
    この法案の作成された理由としては、録音機器メーカーと権利者との長年にわたる論争についての妥協の結果であり、権利者の保護と機器メーカーの販売についての利益、更には消費者のデジタル機器及びデジタル・ソフトの利用との間の利害調整を図ろうとするものであるなど、専ら社会、経済的要因から説明されることが多く、著作権制度上の位置付けやベルヌ条約等との関係などについては、現時点では詳細な説明はまだ行われていない状況にあるが、現在、提出されている法案からうかがえる制度の概要は次のとおりである。
    1)私的録音と著作権侵害との関係
    この法律は、消費者による私的で非商業的使用のためのレコードの複製は訴訟対象とならない(not actionable)ことを特に規定している。すなわち、デジタル又はアナログの録音機器又は機材の製造、輸入又は頒布、又はそれらの録音機器又は機材を複製物作成のため使用することに基づき、著作権侵害訴訟を提起することを禁止している。ただし、その禁止は、直接又は間接の商業的利益のために1又は2以上の複製物を作成することを理由とする訴訟提起に関しては適用されない。
    2)報酬の支払をすべき者
    この法律は、報酬(ロイヤルティ)の支払義務を、デジタル録音機器及びデジタル録音機材を合衆国において最初に頒布する輸入者及びメーカーに課している。
    3)報酬を支払うこととなる対象の範囲
    私的録音を対象としている。
    また、機器か機材かという問題については、その双方を対象としているが、デジタル録音用の機器及び機材としている点が特徴である。デジタル技術を用いているものであれば、DAT、DCC、MDなどその種類を問わず、また、今後開発されるものも含むとしている。
    4)報酬額の決定方法
    法律で報酬の額についての定めを置いており、その額は、卸売価格(transfer price)又は製造者の価格(manufacturer's price)の、デジタル録音機器については2%、デジタル録音機材については3%とする。録音機器の報酬のレートは、1単位(unit)につき、上限が8ドル、下限が1ドルである。デジタル録音機器を2以上有する機器については、上限は12ドルとする。上限(これは基本的な報酬レートではない)は、5年後に(もし、20%以上の報酬支払額が上限に達していれば)著作権使用料裁判所への申請によって引上げの調整がなされうるが、下限は固定される。
    5)報酬を請求できる者
    報酬の請求を主張できる関係者は、
    (1)公衆に頒布されたレコードに収録されている音楽の著作物の録音物(sound recording)の複製権の所有者(例えば、レコード会社)、(2)公衆に頒布されたレコードに収録されている音楽の著作物を複製する権利の適法な所有者又は受益者、又は当該権利をコントロールする者(例えば、音楽出版者又は作曲・作詞家)である。
    6)報酬の徴収・分配方法
    報酬の支払は、著作権局(the Register of Copyrights)に納入され、著作権使用料審判所によって、報酬を請求しうる著作権関係者に分配される。

    徴収に関して、輸入者又は製造者は、国内における最初の頒布から45日以内に、著作権局長に通知しなければならない。その後、四半期ごとに、当該四半期に頒布された全てのデジタル録音機器及びデジタル録音機材の数量、卸売価格を(製品のカテゴリィ、利用されている技術、モデルにより)を明記して、適切な報酬の支払額及び会計報告書を著作権局長に提出しなければならず、また、独立した公認会計士により証明された年次会計報告書が、著作権局長に届け出られなければならないと定められている。

    著作権関係者は、輸入者又は製造者により提出された会計報告書について検証を行いうることとされている。

    報酬は、著作権法に基づくその他の強制的又は法定の使用料と同様、分配されるものとする。分配を受ける資格のある著作権関係者は分配の適切な割合についての要求を著作権使用料審判所に登録するものとする。

    毎年、報酬は、最初に「録音物基金」(Sound Recordings Fund)と「音楽著作物基金」(Musical Works Fund)に分割され、その後、更に配分される。録音物基金は報酬の2/3を受領し、音楽著作物基金は報酬の1/3(これは均等に音楽出版者と作曲・作詞家の間で分割される)を受領する。
    全体として、報酬の配分はおよそ以下の比率となる。
    レコード会社(Record Companies)38.40%
    実演家(Featured Artists)25.60%
    音楽出版社(Music Publishers)16.67%
    作曲・作詞家(Songwriters)16.67%
    アメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)1.75%
    アメリカ・テレビ・
    ラジオ芸能家連盟
    (American Federation of Television
      and Radio Artists)
    0.92%

    関係者は報酬の分野について自発的に合意することが望ましいが、合意に達しない場合には、著作権使用料審判所により、レコードの売上げ及び(場合によっては)放送(airplay)の実績に基づいて、著作権関係者に分配されるものとする。
    協議による代替方策(Negotiated Alternatives)
    この法案では、上記の徴収分配手続に代えて、3種類の各請求者グループ(claimant groups)(レコード会社、音楽出版者、作曲・作詞家)の請求者の少なくとも2/3がその合意に賛成するのであれば、報酬の支払の徴収、分配又は証明に関して著作権関係者とメーカーとの協議による手続の実施(negotiated arrangements)を妨げるものではない。法定の徴収及び証明の手続は、いつでも、この協議に参加しない輸入者及び製造者において利用することができ、著作権使用料審判所は、協議による手続に参加しない著作権関係者が、代替の分配手続を利用できることを保障する。著作権使用料審判所は、いつでも、紛争を解決するため管轄権(jurisdiction)を維持する。
    7)報酬の支払いを要しない場合
    報酬支払義務は、アナログ録音機器及び機材、職業的使用のための機器、電話回答機器、書き取り用機器には適用されない。
    8)共通目的への使用
    法案上特段の規定はないが、アメリカ音楽家連盟及びアメリカ・テレビ・ラジオ芸能家連盟への無名の歌手、演奏家のための分配がそれに当たるものと考えられる。
    9)条約の内国民待遇原則との関係
    外国権利者も、関係条約に基づく、内国民待遇の適用があると考えられる。
    10)シリアル・コピー・マネジメント・システム(SCMS)方式との関係
    この法案は、合衆国に輸入され、製造され、あるいは頒布されるデジタル録音機器がシリアル・コピー・マネジメント・システム(SCMS)を装着することを義務付けている。SCMSとは、デジタル録音機器に、デジタル音源の素材にコーディングされているその録音機器がその素材を制限なくデジタル・コピーされることを許容するか否かを知らせるある情報を読み取らせ、その素材が1回だけコピーされることを許容し、あるいはその他のコピーを禁止するよう、回路をプログラムしているシステムを指している。

    この法案は、同時に、SCMSを回避することを主たる目的とする装置の輸入、製造又は頒布、及び何らかのサービスの実施をも禁止している。
    11)義務違反に対する民事的救済
    この法案では、著作権関係者及びメーカーは、報酬支払義務又はSCMS方式の装着義務違反に対する訴訟を、連邦地方裁判所に提起しうるものとし、裁判所は、一時的な又は恒久的な禁止命令を発し、損害額を判定し、費用と弁護士料の回復を命じ、及びSCMSの要求を侵害しているデジタル録音機器の没収等のその他の衡平な救済を与えることを認めている。

    著作権関係者に与えられる損害額は、著作権局に納入され、著作権使用料審判所により、報酬請求権者に分配される。

    代替の紛争解決手続として著作権局による仲裁手続を利用しうることも定められている。
    12)施行期日
    この法律の成立の日又は1992年1月1日のどちらか遅れる日から施行されることとされている。

    3.税法による解決方策を採用している国の状況
    私的録音・録画問題の解決方策として、税法に基づく対応策を採用している国は、スウェーデンとノルウェーの2か国である。
    デンマークも一時期税法による解決方策を採用していたが、現在は廃止された。
    スウェーデンにおいては、1982年9月から、録音・録画用の機材(生テープ)及び録画済みのビデオテープに課税する制度が実施されている。立法段階では、基本的な制度の性格として課税制度か著作権に基づく報酬請求権制度かという点について議論があったが、良質のレコードを作るための助成を行う必要があったこと、ビデオ技術の進歩が映画上映や映画協会の財政に脅威を与えるものであると判断されたことから、まず社会的目的を優先させる形で、暫定的に課税制度を採用したものであり、1992年までに廃止される予定である。なお、将来的には、著作権に基づく報酬請求権制度に移行すべきであると考えられており、現在、そのための検討が行われている。

    現行の制度では、徴収された税のうち一部は権利者団体に分配されるが、大部分が政府予算の財源となり、映画・音楽産業の振興等の目的で使用される。なお、権利者団体へ分配された金はさらに個別の権利者に分配されるが、外国人は分配の対象から除外されている。

    また、1982年1月から実施されているノルウェーの課税制度も、課税の対象に録音・録画用の機器が加わる点を除いてはスウェーデンの場合と同様の仕組みを取っている。

    4.イギリスの検討状況
    イギリスにおいては、現行著作権法(1988年改正)でも一般に私的録音・録画を適法とする規定はないが、実態としては私的録音・録画が広く行われている。このような実態にかんがみ、1977年のウィットフォード委員会の報告書(Copyright and Designs Law,Cmnd.6732)、1985年のグリーンペーパー(The Recording and Rental of Audio and Video Copyright Material,Cmnd.9445)において、録音・録画用の機器又は機材に一定の賦課金を課する制度を導入する方向が示唆され、その後1986年には、通産省の「知的所有権と技術革新」(Intellectual Property and Innovation,Cmnd.9712)と題する報告書(いわゆるホワイトペーパー)において録音用の機材に一定の賦課金を課することが現実的な解決策であるとの見解が示された。

    このホワイトペーパーでは、1)私的録音の実態に照らして現状を放置することは、ベルヌ条約第9条の精神に反するものであって、私的録音について権利者は一定の報酬を受けるべきであること、2)この報酬については録音用の機材に賦課金を課するのが現実的な解決策であること、3)この賦課金制度によって、公衆は適法に私的録音ができるようになる、という結論が示されていた。ここにいう賦課金の性格は、著作物等の使用料であると考えられていた。なお、私的録画については、その実態がほとんどタイムシフティングであるという考え方に立って賦課金を課すことから除外しているが、今後の実態の推移によって、保存され、繰り返し視聴されるような態様が一般的に見られるときは、録画用機材についても対象とすることが考えられていた。

    しかしながら、1988年の著作権法改正では、このような対策は採用されず、政府としてはむしろ消費者の利益を重視する考え方に立って、当分の間、制度の導入をする意思はないことを明らかにしている。なお、1988年の法改正ではタイムシフティングのための私的録画は適法であることが明記された。



    第4章 報酬請求権制度の在り方
    私的録音・録画問題とは、権利の保護と著作物等の利用との間の調整をいかに行うか、言い換えれば、現行第30条の規定している私的録音・録画は自由かつ無償という秩序を見直すかどうかという問題である。

    一つの考え方としては、旧法が規定していたような機器を用いての私的録音・録画は権利者の許諾を要するとし、結果としては禁止するいう考え方もあるが、現行法制定後20年以上が経過し、機器を用いての私的録音・録画が広く普及している現状に照らし、この考え方が国民の理解を得るのは困難であると考えられる。

    そこで、本小委員会は、これまでの経緯を踏まえつつ、審議の進め方として、まず、機器を用いての録音・録画は自由という秩序は維持しつつも、権利者に対する一定の報酬支払措置、すなわち報酬請求権制度を導入した場合との前提を置いて、この制度導入の際の具体的な問題について検討を行った。さらに、平成元年12月からは、法律の専門家によるワーキング・グループを設けて、専門的見地から法律的問題点の究明に努め、同ワーキング・グループは、本年5月、本小委員会に対し、検討結果を報告した。
    我が国における報酬請求権制度の在り方について、これまでの議論をまとめると、次のとおりである。

    1.私的録音・録画と報酬請求権制度との関係について
    報酬請求権制度を我が国の著作権制度の上でどのように位置付けるかという問題については、私的録音・録画は、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、自由(すなわち現行第30条の規定は維持)としつつも、一定の補償(報酬)を権利者に得さしめることによって、ユーザーと権利者の利益の調整を図ろうとするものであり、私的録音・録画を自由とする代償として、つまり、権利者の有する複製権を制限する代わりに一種の補償措置を講ずるものであると位置付けることが適当である。
    この考え方は、
    1)制度の見直しによる新しい秩序への移行について国民の理解が得られやすい考え方である、
    2)制度導入の理由として、私的録音・録画によって生ずる権利者の得べかりし利益の「損失の補償」という理由付けをとるとしても、現行法立法当時には「予測できなかった不利益から著作者等を社会全体で保護する」という理由付けをとるとしてもいずれにしても、なじみやすい考え方である、
    3)あくまでも補償措置の一種であるから、個別処理の方法ではなく、後述の録音・録画機器又は機材の購入と関連付けて、包括的な報酬支払方法をとるという議論ともなじみやすい考え方である、
    ということができる。
    この考え方に対し、私的録音・録画行為は、権利制限の範囲から除外し、複製権、すなわち、許諾権が及びうる状態に戻すこととし(すなわち現行第30条の規定の適用範囲から私的録音・録画を除外)、個別の権利処理が必要な状態とするものの、従来どおり私的録音・録画は自由であるという状態を確保するため、一種の法定許諾制度(権利者の個別の許諾を得なくとも、法律上著作物等の利用ができることとし、一定の対価の支払を義務付ける制度)として報酬請求権制度を位置付けるという考え方も示されたが、この考え方に対しては、
    1)個別処理の考え方がなじまないというこの制度の特徴からは成り立ちにくい考え方である、
    2)個々の複製権を前提とすれば、実際に著作物等の利用が行われた場合にのみ権利を及ぼすべきではないかとの考え方もあり、後述の録音・録画機器又は機材の購入と関係付けた報酬支払方法とも結びつきにくい考え方である、
    との批判があり、大勢を占めるに至らなかった。

    2.報酬の支払
    著作物等の利用の責任は、その受益者たる利用者が負うのが原則的な考え方であり、その考え方からは、私的録音・録画を行う者(ユーザー)が報酬を支払うべき者ということとなる。

    しかし、私的録音・録画行為は家庭内等で行われるものであり、ユーザーの個々の録音・録画行為をとらえることは、実際上も困難であり、さらに、また、権利者が個別にユーザーから報酬を請求することは、徴収のための組織や仕組みについて社会的コストやその実効性などの点からも困難である。プライバシーの保護という観点からも問題が大きいと考えられる。したがって、この問題においては、個々の利用に応じて一定の使用料を支払うという、従来の個別処理の考え方はなじまないということができる。そこで、このような問題の特質を考慮すれば、個々の私的録音・録画行為に対応して報酬を支払うとすることは非現実的であり、包括的な1回限りの報酬の支払によって処理を行うのが適当である。この場合、その包括的な報酬の支払は、録音・録画機器又は機材の購入と関係付けるのが適当である。すなわち、ユーザーによる録音・録画機器又は機材の購入は、ほとんどの場合、それらを用いた著作物等の私的録音・録画が予定されているものであって、この機会をとらえるのが私的録音・録画が行われるかどうかをとらえる上では最も適切であるからである。したがって、このような包括的な報酬の支払方式をとるとすれば、個々の著作物等の私的録音・録画行為には影響されない。

    このような録音・録画機器又は機材の購入と関係付けて包括的な報酬の支払を考えることについては、上記1のように権利の制限に対する一種の補償ととらえれば、理解されやすいのではないかとする意見があった。

    3.報酬取得の実現
    上記のように、この問題の特質から、ユーザーによる録音・録画機器又は機材の購入に際して包括的な1回限りの報酬支払方法をとる場合、ユーザーが理念上報酬を支払うべきであると考えるとしても、ユーザーと権利者との間には直接の接点はないため、ユーザーから個別に徴収することは、徴収のための組織や仕組みについての社会的コストやその実効性などの点から困難である。この観点から、ユーザーと権利者の間に立って、両者の利益調整を図り、権利者の報酬取得の実現に協力する者の存在が制度の実現には不可欠となる。

    この協力する者については、ユーザーによる録音・録画機器又は機材の購入と関係付けて報酬を徴収するという考え方に立って、録音・録画機器又は機材の提供者であるメーカー等が、録音・録画機器又は機材の販売に際して、その価格に報酬相当額を上乗せして徴収し、権利者へ還元するという方法で協力することが可能であり、社会的コストや実効性などの点からも適切であり、かつ、国際的な流れにも適合するものであると考えられる。

    また、メーカー等に協力を求める背景として、録音・録画機器又は機材の発達普及に伴って、ユーザーが著作物等を享受する機会が増大し、社会全体として著作物等の利用が促進されてきたということがある反面、録音・録画機器又は機材の発達普及が私的録音・録画を増大せしめる結果をもたらしており、その結果、権利の保護と著作物の利用との間の調整の必要が生じてくることから、これらの録音・録画機器又は機材の提供を行っているメーカー等は、公平の観念上、この問題解決のため、権利者の報酬取得の実現について協力することが要請されていると考えられる。

    これに対して、著作物等の放送、商業用レコードの貸与又は販売などによって、ユーザーの私的録音・録画の目的となる素材を提供する者(放送局やレコードレンタル業者、レコード会社等)も、放送使用料、レンタル使用料、録音使用料等への報酬の上乗せという方法で協力すべきであるとする「源泉払い」(ペイ・アット・ソース)とも言われる考え方もある。

    この考え方は、ユーザーが私的録音・録画を行うためには、機器又は機材の入手だけでは足らず、録音・録画の目的となる素材の入手も必要であり、権利者の報酬取得の実現について協力すべき者を判断する場合には、それら素材の提供者も考慮すべきであるというものである。この「源泉払い」の考え方は、1988年にヨーロッパ共同体(EC)委員会が作成した著作権に関するグリーン・ペーパーにおいても紹介されている。

    しかし、これについては、次のような問題点が指摘されており、この考え方は採用すべきでないとする意見が大勢であった。
    1)著作権法の基本的な考え方は、著作物等の利用態様に応じて、複製権や放送権などの支分権を行使し、権利者の利益確保を図るということであり、その考え方からは、ユーザーの私的録音・録画に利用される可能性はあるとしても、ユーザーの私的録音・録画とは区別される別途の利用者であり、その利用について別途権利処理を行っている放送局等が協力を行うという源泉払いの考え方は、関係者の理解を得にくいものである。
    2)また、これら放送局等の協力による徴収方法は、ひいては、料金転嫁等により録音・録画機器又は機材を有せず、私的録音・録画の可能性のない公衆に対しても広く報酬支払義務が課されることになり、公平性、妥当性の面からも問題が大きい。特に、視聴者から視聴料を徴収していない民間放送局の場合は、全く対応しがたい。したがって、これらの者にも協力を行わせるのは難しいと考えられる。
    3)放送局やレコード会社は、素材の提供を行いつつ、一面では、権利者の性格も併せ持っており、このような両面性を持っている者に協力を行わせるのは難しいと考えられる。
    なお、この点に関連して、貸レコード業者については、放送局やレコード会社に比べて、その提供するレコードが私的録音に利用される可能性が高く、現に、貸与権成立の経緯から、これらの業者の支払っている使用料等は、実質的には貸レコードの利用者による私的録音を勘案しながら定められているのではないかとの考え方もあり、貸与と私的録音とは別の利用態様であるとしても、今後の実態を良く踏まえながら、報酬請求権制度との関わりあいを整理すべきであるとする意見があった。

    さらに、この他、デビットカードシステム、すなわち、一種のプリペイドカードによって私的録音・録画の報酬を徴収するという考え方もあるが、現段階では、現実的でないと考えられる。また、北欧諸国のように税法による解決方策を講じている例もあるが、本委員会としては、この私的録音・録画問題を、あくまでも私権の問題としてとらえて、解決方策を検討することとした。

    4.報酬を支払うこととなる対象の範囲について
    (1) 録音又は録画
    著作物等の利用という観点からは、家庭内で複製物が総体としては大量に作成される点において、私的録画も私的録音と同様であり、その観点からは、報酬請求権制度の対象として、私的録音と私的録画を区別する理由はないと考えられる。

    この点に関して、私的録音・録画の理由として、タイムシフティング(例えば、留守番録音・録画のように見たい番組、聞きたい番組をその放送時間には見たり、聞いたりできないため、録音又は録画して、見たり、聞いたりすること)や、プレースシフティング(例えば、通勤途中で聞いたり、自動車内で聞いたりするために、携帯用又は自動車用の再生機器で使用できるように録音すること)を目的とする場合があり、特に、私的録画についてはタイムシフティングとの関係から、権利者の実質的な不利益の点において私的録音と同一視できないという意見がある。しかし、私的録音・録画のすべてが、タイムシフティングやプレースシフティングを目的とするものではなく、かつ、録音・録画後すべてが消去されるとは限らないところから、この点についての評価が直ちに本制度の対象から録音又は録画を除外するかどうかの判断に結び付けるのは適当でないとする意見があった。

    ただし、タイムシフティングについては、その実態を勘案し、私的録音・録画による著作物等の享受という点におけるユーザーの実質的な利益の程度や権利者の実質的な不利益の程度を考慮すれば、報酬額の決定においてこの点について配慮する必要があるという指摘がある。

    (2) 機器又は機材
    ユーザーからの報酬の徴収について録音・録画機器又は機材の提供者が協力するという考え方に立って、まず、「録音・録画の手段」である録音・録画機器及び機材の価格の双方に報酬を上乗せするという考え方がある。また、録音・録画の頻度の反映度などを考慮し機材のみに限定する考え方も成り立ちうる。

    この点については、機器と機材の両方があってはじめて録音・録画が可能となることを踏まえて、報酬を支払うユーザーの立場などを考慮すれば、機器と機材の双方に広く薄く報酬をかけることとするのが適当であると考える。

    5.報酬額の決定方法について
    (1) 報酬額の定め方
    報酬額を定めるに当たっては、2.で述べたようなこの問題の特質から、包括的な報酬支払方法をとらざるを得ず、その際、著作物等の種類などに応じて区別することは困難であるので、一括した額とすることが適当である。

    その場合、著作物等の利用の量に着目して、それぞれの機器又は機材の価格に関わりなく、機材の場合にはその録音・録画時間に応じた報酬額(例、60分当たり何円)、著作物等の利用の量という考え方が成立しない機器の場合には1台当たり何円という報酬額を定める定額方式とするのが適当ではないかと考えられるところである。

    ただし、機器又は機材の価格に応じた報酬額を定める定率方式も検討の視野に入れつつ、関係者の協議によって適切な解決が図られることが必要である。
    また、著作物等の利用の対価は、それぞれの利用態様や我が国における実態等に応じて、関係者間の理解の得られる適切な額とされるべきであり、これらを踏まえた関係者間の検討が期待される。この場合、私的録音・録画の報酬は、商業目的の録音・録画使用料よりは低廉であるべきであるとの意見があった。

    (2) 報酬額決定の手続
    報酬額の決定は、広範なユーザーの負担にも関わる問題であり、ユーザーに対する配慮をどのような手続で保障するかという観点から、次のような考え方がある。
    広範なユーザーに負担させるものであるところから、国会の審議を経て、法律で報酬額を決定するか、又は法律で上限を定めて具体的な額については政省令に委任する方法
    制度の円滑な運用という観点から、レコードの放送利用等についての二次使用料の前例にならって、法律では「相当な額の報酬」としつつ、メーカー等が実際に支払うとしても、ユーザーが最終的に負担すべきものであるところから、具体的にはユーザーの代表を含めた関係者の協議により決定する方法
    制度の円滑な運用という観点とユーザーの利害の双方に配慮しつつ、ユーザーの利害については、ユーザーの意見をどのような形で代表させるか難しい点もあるところから、公的機関を関与させることとして、具体的には権利者の団体とメーカー等の団体との協議を経た後、著作権審議会の議を経て、文化庁長官が認可すること等によって決定する方法(団体間の協議又は著作権審議会の審議にユーザーの意見を反映させることが考えられる。)
    これらの考え方の中では、制度の円滑な運用という観点とユーザーに対する配慮を踏まえた公平性の担保という観点の双方を満たすものとして、ウ.の考え方が適切であると考えられるが、その具体的な方法については関係者の意見を踏まえて決定すべきであると考える。

    6.報酬を請求できる権利者の範囲について
    報酬を請求できる権利者としては、現段階では、著作権者のほか、実演家及びレコード製作者とすることが適当であると考えられる。

    なお、放送事業者については、映画の著作物の著作権者などの立場で権利者となりうるものであるが、著作隣接権者としての放送事業者の場合は、放送番組が私的録音・録画によって複製されても、その放送の受信という目的は達せられており、また、以後の放送に対する影響という点からも、私的録音・録画によって、放送事業者固有の利益が脅されることは少ないと考えられ、諸外国の例などからも、放送事業者を権利者に含めることについては、慎重な意見が多かった。

    ただし、この点については、今後の私的録音・録画の実態の推移、新しいメディアの発達などに応じて、適宜、検討を加えていく必要があると考える。

    7.報酬の徴収手続について
    (1)私的録音・録画に係る報酬請求権制度は、一種の補償措置として、個々の私的録音・録画の実態に関わらない、包括的な報酬支払方法をとり、かつ、事後的にも著作物等の利用の頻度や量その他の実態の把握、個々の権利者の特定、個々の権利行使、報酬の個別の権利者への分配などを厳密に行うことは限界があるという特徴を有している。したがって、権利者が一義的に特定されるというのが伝統的な権利の考え方であるのに対し、この場合の報酬については、従来の権利に比して抽象的性格が強いものと考えられる。このような特質や実際上の便宜からも報酬の徴収は、個別の権利者では困難であり、権利者により構成される団体を通じて行うことが適当であると考える。この場合、その団体は報酬の徴収に協力するメーカー等の便宜を考慮すれば、単一の団体とすることが適切である。
    (2)また、徴収事務を円滑に進めるためには、録音・録画機器又は機材を製造・販売しているメーカーや輸入業者の特定、出荷された録音・録画機器又は機材の数量、種類、価格などに関する情報、報酬支払の時期や具体的な決済方法等について、徴収を行なう単一の団体とメーカー等との間の協力内容を定める必要があり、この点について関係者の協議によって適切な解決が図られる必要がある。
    (3)報酬支払を要しないこととするべきものとしては、機器の性能の点において、又はその使用される場所から特定の専門的使用や職業的使用であると考えられる場合(例、ディクテート用の機器及び機材、放送局やレコード会社での業務用の機器及び機材)など、その使用類型からして、機器・機材が著作物等の私的録音・録画に使用されない場合が考えられる。また、別途、視聴覚障害者への配慮という観点から視聴覚障害者用の機器・機材についても支払いを要しないとすることが考えられる。

    その具体的な方法としては、職業用の機器・機材の場合は、徴収団体との契約において報酬の返還又は免除を取り決めておく方法、視聴覚障害者用の機器・機材の場合は、何らかの証明に基づく免除又は障害者の団体を通じての免除などが考えられるが、この点についても関係者の協議によって適切な解決が図られる必要がある。

    8.報酬の分配手続について
    (1)徴収された報酬は、徴収を行なった単一の団体から分配されることとし、権利者の種類に応じた適切な団体に対し分配し、分配を受けた団体から更に個々の権利者に分配するというシステムを設けることが適切である。
    (2)権利者の特定や著作物等の利用の実態の把握等に限界があるというこの問題の特徴から、徴収された報酬と個々の権利者との関係が直接的には確定しにくいという事情がある。

    このことから、個々の権利者の徴収された報酬に対する具体的な分配請求権を確保するためには、(i)個々の権利者が分配を受ける基準を法律上一定程度規定する方法や、(ii)法律では特段の基準を定めないが、徴収分配団体において基準を策定する方法などが考えられるが、いずれにしても明確な基準作りが必要である。

    また、分配に必要な資料作りについては、権利者側において、できるだけ客観的公平な資料となるよう研究を行なう必要がある。
    (3)また、徴収分配団体の傘下にない権利者(いわゆるアウトサイダー)からの分配請求があった場合に備えるため、一定の金額を留保しておくというクレーム基金の設置にも配慮すべきである。

    9.共通目的への使用について
    (1)この制度における報酬は、基本的には、すべて権利者に帰属すべき性格のものであるが、次のような事情から報酬の一部を共通目的に使用することが適当であると考えられる。
    1)包括的な報酬の支払い方法や、著作物等の利用の頻度や量その他の実態の把握、個々の権利者の特定、個々の権利行使、報酬の個別の権利者への分配などに関するこの制度の特徴に照らして、この報酬の場合は、従来の権利に比して抽象的性格が強いものと考えられ、そのような特質に応じた取扱いを行うのが適当であると言うことができる。

    このようなこの制度の特徴を考慮すれば、報酬のすべてを一定の分配資料により個別の権利者に分配するのではなく、一部は権利者の共通の利益のため、つまり共通目的に使用することが適当であり、また、このことが我が国の文化の発展に資することとなると考える。
    2)諸外国の例においても共通目的に使用することを認めている例が多い。
    3)本制度の導入と定着への国民の理解を促進するためにも、共通目的に使用することが適当である。
    ただし、報酬が私権に基づくものであることを考慮すれば、共通目的に使用することについては、権利者の意思を反映したものであるとすることが必要であり、i)権利者の意思を推定して法律上規定してしまう考え方をとるか、ii)権利者の意思を権利者団体における意思決定に委ねるという考え方をとるか、2通りの考え方があるが、国民の理解を促進するために法律上共通目的への使用を規定するという考え方が適切であると考える。
    (2) 共通目的の内容
    権利者の共通の利益となる事項であり、例えば、著作権思想の普及事業や著作権保護に関する法制及び技術面の調査研究、芸能文化の振興等のための事業などが考えられる。この点については、今後、制度の趣旨や特質等を踏まえて、関係者の協議によって適切な使途や実施の方法等が決定されることが適切である。

    10.内国民待遇の原則との関係について
    私的録音・録画に関する報酬請求権制度についてもベルヌ条約等の内国民待遇の原則の適用があるかどうかについては、既に類似の制度を導入している国々においても、国によって外国の権利者に対する取扱いが異なっており、現時点では各国の条約上の見解は一致していないが、条約上の内国民待遇の原則に照らして積極的に考えるべきである。

    なお、この点に関し、特に、徴収された報酬の一部を共通目的に使用することについては、国際的な動向に留意しつつ、検討しておく必要がある。

    11.その他
    (1) 救済措置について
    メーカー等の義務が履行されない場合は、民事上の請求権の実現の例にならって、メーカー等の協力の実現を裁判によって求めることができる。ただし、メーカー等の協力義務の不履行は、著作権等の侵害でないと考えられる。これは、教科書等掲載補償金(第33条)などの場合と同様である。
    (2) 技術的制限について
    SCMS方式のような複製についての技術的制限は著作権等との関連はあるものの報酬請求権制度とは別に議論すべき問題であると考えられる。ただし、技術の進歩と権利者の保護の調和という観点からは、一定の技術的制限と報酬請求権制度の導入の両方が必要だとの意見がある一方、技術の進歩は抑えることなく報酬請求権制度の導入によって解決を図る方がよいのではないかとの意見があった。



    第5章 結論
    第1節 報酬請求権制度の導入について
    第2章において私的録音・録画の実態を、また、第3章において国際的動向を考察したところであるが、本小委員会では、これらを踏まえた我が国における私的録音・録画問題の解決方策としては、次のような制度的措置を講ずることが適当であるとの意見が大勢であった。
    1.私的録音・録画問題について何らかの対応策を取ることについて
    1)現行法第30条が私的録音・録画は自由かつ無償であることを規定した背景としては、立法当時において、私的録音・録画は著作物等の利用に関して零細なものであると予想されており、その実態に照らして著作物等の通常の利用を妨げず、かつ、著作者等の利益を不当に害しないものであると考えられたからである。しかし、その後の実態の推移によって、現在では、私的録音・録画は著作物等の有力な利用形態として、広範に、かつ、大量に行われており、さらに、今後のデジタル技術の発達普及によって質的にも市販のCDやビデオと同等の高品質の複製物が作成されうる状況となりつつある。これらの実態を踏まえれば、私的録音・録画は、総体として、その量的な側面からも、質的な側面からも、立法当時予定していたような実態を超えて著作者等の利益を害している状態に至っているということができ、さらに今後のデジタル化の進展によっては、著作物等の「通常の利用」にも影響を与えうるような状況も予想されうるところである。このようなことから、現行法立法当時には予測できなかった不利益から著作者等の利益を保護する必要が生じていると考える。
    2)また、国際的動向に照らしてみても、ドイツにおける制度的対応以降、最近のアメリカにおける立法化の動きまで含めて、先進諸国の大勢としては、私的録音・録画について何らかの補償措置を講ずることが大きな流れとなってきており、ベルヌ条約などの関係規定に示された国際的基準との関係においても何らかの対応策が必要であることを示している。

    これらのことを考慮すれば、私的録音・録画について、現行第30条による権利制限の状態を見直し、「著作者等の権利の保護」を図るため、制度的な措置を講ずることが必要となっている。ただし、第2章の実態調査結果に照らし、ユーザーの中には、報酬請求権制度に関して消極的な意見が多いことから、制度導入について慎重な対応を行うべきであるとの意見もあり、今後、この制度の導入に当たっては、ユーザーの理解に十分留意し、ユーザーが受け入れやすいものとする配慮が必要である。
    2.この場合、その具体的な方法としては、技術の発展の恩恵を受けつつ、著作物等を享受することについての消費者の利益に配慮しながら、録音・録画技術の発展と著作権等の保護との間の利益調整を図り、また、国際的な流れにも配慮するという観点から、一種の補償措置として、前章に示したような報酬請求権制度を導入するのが適当であると考える。
     なお、この報酬請求権制度の概要は次のとおりである。
    1)私的録音・録画と報酬請求権制度の関係について
    私的録音・録画は、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、自由(すなわち現行第30条の規定は維持)としつつも、私的録音・録画を自由とする代償、つまり一種の補償措置として報酬請求権制度を導入する。
    2)報酬の支払及び報酬取得の実現について
    著作物等の利用の責任は、その利用者が負うのが原則であり、その観点からは、私的録音・録画を行う者(ユーザー)が本来は報酬請求権制度による報酬を支払うべき者であるということとなるとしても、権利者がユーザーから個別に徴収することは、困難であるので、録音・録画機器又は機材の購入に際して包括的な報酬の徴収によって処理を行うのが適当であり、この場合、録音・録画機器又は機材を提供するメーカー等が、録音・録画機器又は機材の販売に際してその価格の報酬相当額の上乗せという方法で権利者の報酬取得の実現に協力することが要請されているという考え方が適当である。
    3)報酬を支払うこととなる対象の範囲について
    私的録音と私的録画については、ユーザーが私的録音・録画を行う理由の違いなどを考慮すべきであるとの考え方もあったが、著作物の利用という観点からは、両者を区別することはできず、報酬を支払うこととなる対象としては、私的録音と私的録画の双方とするのが適当であると考えられる。
    機器と機材の両方があってはじめて録音・録画が可能となることを踏まえて、報酬を支払うべきユーザーの立場などを考慮すれば、機器と機材の双方に広く薄く報酬をかけることとするのが適当であると考える。
    4)報酬額の決定方法について
    包括的な1回限りの報酬支払方法をとるという考え方に立って機材の場合にはその録音・録画時間に応じた定額方式、著作物等の利用の量という考え方が成立しない機器の場合には1台当たりの定額方式、とするのが適当であるが、機器又は機材の価格に応じた報酬額を定める定率方式も検討の視野に入れつつ、関係者の協議によって適切な解決が図られることが必要である。
    制度の円滑な運用という観点とユーザーの利害の双方に配慮しつつ、公的機関を関与させることとして、具体的には権利者の団体とメーカー等の団体との協議を経た後、著作権審議会の議を経て、文化庁長官が認可すること等によって決定する方法が適当であると考えられる。
    5)報酬を請求できる権利者の範囲について
    報酬を請求できる権利者としては、現段階では、著作権者のほか、実演家及びレコード製作者とすることが適当であると考えられる。
    6)報酬の徴収手続について
    報酬の徴収は、個別の権利者では困難であり、権利者により構成される団体を通じて行うことが適当であるが、報酬の徴収に協力するメーカー等の便宜を考慮すれば、単一の団体とすることが適切である。
    報酬支払を要しないこととするべきものとしては、特定の専門的使用や職業的使用であると考えられる場合や視聴覚障害者が使用する場合などが考えられる。
    7)報酬の分配手続について
    徴収された報酬は、徴収を行った単一の団体から分配されることとし、権利者の種類に応じた適切な団体に対し分配し、分配を受けた団体から更に個別の権利者に分配するというシステムを設けることが適切である。この場合、分配に必要な資料作りについては、権利者側において、できるだけ客観的公平な資料となるよう研究を行う必要がある。
    徴収分配団体の傘下にない権利者(いわゆるアウトサイダー)からの分配請求があった場合に備えるため、クレーム基金の設置にも配慮すべきである。
    8)共通目的への使用について
    著作権思想の普及事業や著作権保護に関する法制及び技術面の調査研究、芸能文化の振興等のための事業など権利者の共通の利益となる事項(共通目的)に、報酬の一部を使用することが適当であると考えられる。
    9)内国民待遇の原則との関係について
    私的録音・録画に関する報酬請求権制度の外国権利者への適用については、ベルヌ条約等の内国民待遇の原則に照らして積極的に考えるべきである。
    3.なお、この報酬請求権制度は、私的録音・録画を対象とするものであり、文献やコンピュータプログラムあるいはデータベースの私的複製についてはその実態や著作物の性格などを考慮して別途検討されるべき課題である。

    特に、文献コピーの問題については、複写機器が家庭内になお普及しておらず、公共の場に設置されているケースが多いという実態から、複写に関する集中的権利処理機構の整備の在り方とも深く関係してくるものである。

    また、コンピュータプログラムやデータベース、あるいは今後の媒体及び伝達手段両面にわたるメディアの複合化の進展との関係については、それらの私的複製の実態を踏まえながら、その著作物等の性格や流通の形態などに即した適切な解決方策が検討されることを期待する。


    第2節 今後の進め方について
    1.これまでの検討結果を踏まえて、本小委員会としては、報酬請求権制度を導入すべきであるとの考え方に立って、さらに、報酬請求権制度の具体化を図るに当たっては、私的録音及び私的録画の実態に留意しつつ、今後、次のような点について検討し、解決することが必要であると考える。
    (1) 報酬請求の対象となる録音・録画機器・機材
    報酬請求の対象となる録音・録画機器・機材の範囲及び支払免除対象の範囲など
    この点に関して、アナログ方式による録音・録画とデジタル方式による録音・録画とは著作物の利用という観点からは、理論上区別すべき理由はない。しかし、今後の録音・録画機器及び機材に関する技術革新や市場の動向を踏まえ、ユーザーやメーカー等の理解や協力を得て、制度を円滑に導入することを考慮した場合には、制度の具体的運用において実際上、報酬請求の具体的な対象として、デジタル方式による録音・録画機器及び機材を報酬請求の対象とすることが望ましいと考えられる。
    なお、具体的な対象機器・機材については、実態を勘案しつつ、特定する必要がある。
    (2) 報酬額の定め方
    1)報酬額の定め方に関して定額方式によるのか、定率方式によるのかという点
    2)録音・録画機器・機材に係る具体的報酬額
    なお、報酬額に関して、レコードレンタルと私的録音との密接な関係から、レコードレンタルの著作物使用料等は、私的録音を勘案しながら定められているのではないかとの意見や、私的録画の目的の中では、タイムシフティングが多く、タイムシフティングは権利者に実質的な不利益を生じさせていないではないかとの意見もあることから、関係者の協議において具体的な額を定めるに当たっては、これらの意見についても検討する必要がある。
    (3) 報酬額の決定手続
    1)制度実施後の権利者の団体とメーカー等の団体との具体的な協議方法
    2)著作権審議会や文化庁長官の具体的な関与方法
    3)消費者の意見の反映方法など
    (4) 報酬の徴収手続
    1)徴収を行う単一団体の在り方
    2)徴収の具体的手続
    3)徴収に際してのメーカーの協力(情報提供など)の内容
    4)報酬の支払いが免除される場合の具体的な方法など
    (5) 報酬の分配手続
    1)単一団体から権利者へ分配する際の具体的方法
    2)個別の権利者への分配基準の在り方
    3)アウトサイダー対策の具体的在り方 など
    (6)共通目的への使用
    報酬の一部を共通目的へ使用することについて、その具体的な割合や使途及び実施の方法
    (7)技術的制限
    著作権等の保護という観点から、デジタル録音機器についてのSCMS方式のような技術的制限が、今後私的録音・録画とどのように関わってくるのか、また、その実施をどのように確保していくかなどについての調査研究

    特に、私的録画との関係については、機器やソフトのデジタル化の情勢を踏まえ、報酬請求権制度との関連に留意しながら、関係者の協議が望まれる。

    今後、以上のような課題について、国際的な動向にも十分配慮しつつ、この制度を我が国の国情に合った内容とするため、メーカーや権利者など関係者間で必要な協議を行い、速やかに立法措置を講ずることが適切であると考える。また、文化庁は、この協議が円滑に進むよう、積極的に関係者への支援を行うことが望ましい。
    2もとより、著作権制度は国民の広範な支持の上に成り立つものであり、この制度の円滑な導入のためには、この制度も含めて著作権等の保護について、ユーザーの理解を深めることに配慮する必要がある。既に、関係者の協力の下でこれまでも著作権思想の普及啓蒙活動が長年に渡り続けられてきたが、今後これまで以上に著作権思想の普及啓蒙に努力することが求められている。また、文化庁においてもこの点について更に配慮が必要である。
    3併せて、この制度実現のため、報酬の徴収分配などを行う単一団体(機構)の創設が必要であり、権利者を中心として、ユーザーやメーカー等の関係者の参加又は協力の下で、その準備のための組織作りが進められることが必要である。



    (参考)
    著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)委員名簿
    主査齊 藤   博 筑波大学教授
    阿 部 浩 二 摂南大学教授・岡山大学名誉教授
    飯 田 経 夫 国際日本文化研究センター教授
    石 本 美由起(社)日本音楽著作権協会理事長
    (平成元年4月10日~)
    (芥川 也寸志 前(社)日本音楽著作権協会理事長
     昭和62年8月3日~平成元年1月31日(逝去))
    大 歳   寛(社)日本磁気メディア工業会会長
    小田切   進(社)日本文芸家協会理事(平成元年10月1日~)
    (巌谷 大四 前・日本文芸家協会副理事長
     昭和62年8月3日~平成元年9月30日)
    北 川 善太郎 京都大学教授
    木 元 教 子 評論家
    小 泉   博(社)日本芸能実演家団体協議会専務理事
    佐 野 文一郎 日本芸術文化振興会理事長
    高 山   登(社)日本レコード協会会長
    (平成2年6月11日~)
    (小澤 敏雄 元・(社)日本レコード協会会長
     昭和62年8月3日~昭和63年4月30日
     望月 和夫 前(社)日本レコード協会会長
     昭和63年5月1日~平成2年6月9日)
    志 岐 守 哉(社)日本電子機械工業会会長
    (平成3年6月18日~)
    (三田 勝茂 元・(社)日本電子機械工業会会長
     昭和62年8月3日~平成元年7月2日
     谷井 昭雄 前・(社)日本電子機械工業会会長
     平成元年7月3日~平成3年6月18日)
    寺 田 逸 郎 法務省民事局参事官(昭和63年5月1日~)
    (細川 清 前・法務省民事局参事官
     昭和62年8月3日~昭和63年4月30日)
    中 島 平太郎(株)ソニー技術顧問
    永 井 多恵子 NHK浦和放送局長(平成元年10月1日~)
    野 田 愛 子 中央更生保護審査会委員(平成元年10月1日~)
    松 岡   功(社)日本ビデオ協会会長(平成3年5月16日~)
    (石田 達郎 前・(社)日本ビデオ協会会長
     昭和62年8月3日~平成2年7月19日(逝去))
    松 下 直 子 全国地域婦人団体連絡協議会事務局長
    (三枝 佐枝子  評論家
     昭和62年8月3日~平成元年9月30日)
    (味村 治 前・内閣法制局長官
     平成元年10月1日~2年12月10日)


    著作権審議会第10小委員会ワーキング・グループ委員名簿

    座長齊 藤   博 筑波大学教授
    阿 部 浩 二 摂南大学教授・岡山大学名誉教授
    北 川 善太郎 京都大学教授
    佐 野 文一郎 日本芸術文化振興会理事長
    寺 田 逸 郎 法務省民事局参事官


    著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)審議経過
    (昭和62年5月8日著作権審議会第53回総会で第10小委員会の設置決定)

    第1回会議 昭和62年8月3日
    1)経過説明
    2)今後の審議の進め方について
    第2回会議 9月21日
    私的録音・録画問題に関する各国の制度の概要について(1)
    第3回会議 11月17日
    私的録音・録画問題に関する各国の制度の概要について(2)
    1)支払の必要がない場合
    2)「税」制度を取っている国
    第4回会議 昭和63年1月18日
    検討事項について(1)
    第5回会議 3月29日
    1)検討事項について(2)
    2)著作権使用料の徴収・分配について
    3)DAT問題の動向について(中島委員)
    第6回会議 6月20日
    1)検討事項について(3)
    2)私的録音・録画問題についての西ドイツの判決の概要
    3)「私的録音・録画と報酬請求権問題に関する意見書」
     (大歳委員・三田委員提出)について
    4)私的録音・録画に関する海外調査計画について
    第7回会議 昭和63年8月23日
    1)検討事項について(4)
    2)「私的録音・録画問題と報酬請求権制度の導入について」
     (芥川委員提出)について
    3)「個人的録画の実態に関する調査報告(概要)」
     (社団法人 日本ビデオ協会 社団法人 日本映画製作者連盟
      社団法人 外国映画輸入配給協会 アメリカ映画協会日本支社)
     (石田委員)について
    第8回会議 10月24日
    1)検討事項について(5)
    2)私的録音・録画に関する海外調査について(阿部委員)
    第9回会議 12月12日
    私的録音・録画に関する海外調査結果について(各国制度概要)
    第10回会議 平成元年5月25日
    1)検討事項について(6)
    2)主要国の報酬額について
    3)支払の必要のない場合
    第11回会議 8月29日
    1)検討事項について(7)
    2)DAT問題について
    第12回会議 11月1日
    1)私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について
    2)ワーキング・グループの設置(案)について
    3)「私的録音・録画と報酬請求権問題に関する意見書(II)」
     (大歳・谷井委員提出)について

    ワーキング・グループ
    第1回 平成元年12月4日
    1)私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(1)
    2)私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度についての諸外国等の考え方
    第2回 平成2年1月22日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(2)
    第3回 2月21日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(3)
    第4回 4月9日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(4)
    第5回 8月2日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(5)
    第6回 9月10日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(6)
    第7回 11月5日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(7)
    第8回 12月21日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(8)
    第9回 平成3年2月18日
    私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の骨格について(9)
    第13回会議 平成3年5月16日
    「私的録音・録画問題に関する報酬請求権制度の法的問題について」
    (ワーキング・グループ報告)の検討
    第14回会議 7月2日
    1)私的録音・録画に関する実態調査報告について
    2)最近の私的録音・録画問題に係る国際的動向について
    3)「私的録音録画行為と報酬請求制度に関する意見書」
     (社団法人 日本ビデオ協会 社団法人 日本映画製作者連盟)について
    4)デジタル録音機器の発達について
    第15回会議 7月25日
    1)米国1991年デジタル録音法案の概要について
    2)著作権審議会第10小委員会の審議結果(骨子)について
    第16回会議 9月3日
    著作権審議会第10小委員会報告書(案)について(1)
    第17回会議 11月29日
    著作権審議会第10小委員会報告書(案)について(2)


    ページの上部へ戻る