○著作権審議会第1小委員会のまとめ
    平成4年4月30日



    目 次
    1.著作権審議会に独立の小委員会を設置して
      検討することが適当な事項

     (1)問題の経緯
     (2)今後の取扱い
    2.著作権審議会において検討を継続しつつ、当面は、文化庁において
      関係者の協議を積極的に支援することが適当な事項


     (1)問題の経緯
     (2)今後の取扱い
    3.法律改正を行う方向で条件整備等を進めることが適当な事項

      ア.音楽の著作物の再生演奏に関する権利
      イ.写真の著作物の保護期間の延長
    著作権審議会第1小委員会委員名簿

    著作権審議会第1小委員会審議経過


      
    著作権審議会第1小委員会は、著作権審議会総会からの付託を受けて、平成3年9月から、著作権制度上の当面解決すべき課題のうち、1)電子出版の展望と著作者等の権利、2)メディアの複合化と著作者等の権利、3)映画の二次的利用に伴う実演家の権利、4)映画の二次的利用に伴う映画監督等の権利、5)音楽の著作物の再生演奏に関する権利、6)写真の著作物の保護期間の延長について関係者からヒアリングを行い、その対応方策を検討してきた結果、今後、それぞれの課題について次のように取扱うのが適当であると考える。


    1.著作権審議会に独立の小委員会を設置して検討することが
      適当な事項
    ア.電子出版の展望と著作者等の権利
    イ.メディアの複合化と著作者等の権利

    (1)問題の経緯
    近年、情報のデジタル処理技術の発達に伴い、「電子出版」と呼ばれるCD-ROM等の記録媒体による各種の伝達や、マルチメディアと呼ばれる映像、言語、音響、プログラム等の多様な情報を複合した伝達媒体あるいはその利用手段等が目覚ましい発展を遂げつつある。このようなメディアの発達によって、今後、著作物等の蓄積、加工、送信、展示、上映等多様な利用方法が開発・推進されることにかんがみ、著作者等の権利を保護しつつ、一方では著作物等の円滑な利用に配慮する観点から、これらのメディアと著作権法上の既存の権利や権利制限規定との関係の明確化を図る必要があるとともに、著作権等の適切な保護のため制度の改善が必要であるか否かなどについて、今後の実態の推移を踏まえながら、早急に調査検討を進めるべきであるとの指摘がある。

    (2)今後の取扱い
    これらのマルチメディア等と著作権制度の関係については

    ア.マルチメディア・ソフト等の保護の在り方
    イ.マルチメディア等への著作物等の利用と著作権・著作者人格権、
      著作隣接権との関係
    ウ.マルチメディア等への著作物等の利用と権利制限規定との関係
    エ.マルチメディア等の発達に対応する権利処理の在り方

    等、映像、言語等の広範囲に渡って、著作権制度又はその運用全般に関係する重要な事項を含んでおり、今後、多様な側面からの検討が必要であると考えられる。
    このような事情を踏まえて、著作権審議会においては、新たに小委員会を設置する等、適切な検討の場を早急に設けられることが望ましいと考える。


    2.著作権審議会において検討を継続しつつ、当面は、文化庁において
      関係者の協議を積極的に支援することが適当な事項
    ア.映画の二次的利用に伴う実演家の権利
    イ.映画の二次的利用に伴う映画監督等の権利

    (1)問題の経緯
    ビデオや衛星放送の発達に伴って、劇場用映画等の二次的な利用の機会が増加している。しかし、映画の著作物に関しては、実演家は映画にその実演を収録することを承諾した場合には、当該映画のその後の利用(録音・録画や放送等)については権利がないこととされており(著作権法第91条第2項、第92条第2項)、出演時には予想しなかった態様で利用される場合等について、実演家の経済的又は人格的な利益の保護の観点から著作権法上の対応が必要ではないかとの指摘もある。次に、映画監督等の映画の著作者については、それらの者が映画製作に参加することを約束しているときは、その著作権は映画製作者に帰属することとなっており(著作権法第29条)、これらの著作権は著作者人格権のみを有することとされている。

    したがって、実演家又は映画監督等は、契約等に別段の定めがない限り、映画の二次的利用に際して追加報酬等は受けられないこととなっている。このような現状に対して、(社)日本芸能実演家団体協議会及び(協)日本映画監督協会は、実演家及び映画監督等の権利に関する問題の研究・検討を文化庁に要望しているところである。

    (2)今後の取扱い
    1)実演家の権利について
    映画の著作物に収録された実演の利用に関しては、現行法立法当時に比べ、その二次的な利用が発達してきており、このような事情の変化を考慮して実演家の権利の在り方について見直しを行うべきであるとの意見もあるが、次のような点から、直ちに実演家の権利の見直しを行うことについては慎重な意見がある。
    (1)映画の利用がますます増加していく傾向のある中で、実演家の権利の見直しを行うことは社会的に広範な影響を及ぼすおそれもあり、今後の映画の利用実態に照らして、実演家の権利の見直しが社会に与える影響の度合いを見定める必要があること。
    (2)映画に出演する実演家は多数に上ることが通例であり、権利の見直しを行うとしても円滑な権利処理が可能となるシステムの形成が必要であること。
    (3)二次的な利用に際しての実演家の人格的な利益の保護についても、その具体的内容や、著作権法による対応の範囲等の点で更に検討が必要であること。
    (4)我が国の現行制度は、実演家等保護条約に準拠したものであり、他の先進諸国の例とほぼ同様であって、見直しを行うとすれば、国際的なハーモナイゼーションに留意する必要があること。
    また、電子出版・マルチメディア等に関連して、今後、映像に関する権利関係についての検討も必要になってくると予想されるところから、その検討との均衡にも留意する必要があるとの意見もある。

    一方で、現行法は契約による解決を期待している面があり、先進諸国の中には契約又は実演家の団体と映画製作者等との間の団体協約等によって映画の二次的利用に伴う実演家の利益の確保を行っているケースも見られるところである。我が国においては、これまでのこの問題について実演家の団体と映画製作者等との間の話合いが進んでいないことから、当面、契約等による解決の方向で検討を進めることも適切な方策であり、実演家の側においてもこの方向での努力を更に推進する必要があると考えられる。今後、実演家と映画製作者等との間において、映画の製作・流通の実態や展望等について共通理解を深めながら、実演家の保護の在り方について協議する場が設けられることが望ましく、文化庁としてもこのような取組みを推進するため、関係者の協議の場を設ける等、積極的に支援していくことが望ましいと考える。

    なお、著作権審議会においても、関係者の協議の状況を見守りながら、また、映像に関する権利関係の検討状況にも留意しつつ、実演家の権利の在り方について継続して検討を行うことが適当であると考える。

    2)映画監督等の権利について
    映画の著作者である映画監督等と著作権の帰属の問題も、実演家の権利の問題と同様に今後の映画の利用に対して広範な影響を与えるものであるところから、慎重な対応が必要である。

    なお、映画監督の場合、(社)日本映画製作者連盟と(協)日本映画監督協会との間で、映画のテレビ放送についても追加報酬等に関する覚書(昭和50年)があり、また、市販用ビデオ複製物の作成領布についても、両者の間に追加報酬等に関する覚書(昭和59年)がある。この2つの覚書に定められたルールは、テレビ映画の製作をしているプロダクションとの間でも、準用されるケースもある。このように、映画監督の場合には、実演家の場合と比べると改善されている部分はあるものの、これらは、(社)日本映画製作者連盟加盟の各社との間の取決めであって、それ以外の映画製作者との間においてもは取決めのない状況となっている。映画監督等の場合においても、契約等による解決について、今後、先進諸国の先例を参考としつつ、現在特段の取決めのない(社)日本映画製作者連盟に非加盟の映画製作者の取扱いや、取決めの内容等について関係者間で検討や協議が行われることが望ましく、文化庁としても関係者の協議の場を設ける等積極的に支援していくことが望ましいと考える。

    なお、映画監督等の権利についても、実演家の権利の場合と同様、著作権審議会においても、関係者の検討協議の状況を見守りながら、映像に関する権利関係の検討状況にも留意しつつ、継続して検討を行うのが適当であると考える。


    3.法律改正を行う方向で条件整備等を進めることが適当な事項

    ア.音楽の著作物の再生演奏に関する権利

    (1)問題の経緯
    現行著作権法第22条においては、「著作権は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定しているが、附則第14条において、現行法制定時の経過措置として、当分の間、適法に録音された音楽の著作物の再生演奏(市販のCD等の再生演奏)については、放送又は有線送信に該当するもの、及び音楽喫茶、ダンスホール、ディスコ等営利を目的として音楽の著作物を使用する事業を除き、出所の明示を条件として著作権者の許諾を得なくても自由に行いうるという、旧著作権法(明治32年)第30条第1項第8号の取扱いを存続することとしている。これは、旧法の制度を現行法において一挙に廃止することは、社会的影響が大きいことを考慮して、この経過措置を設けることとしたものであるが、音楽著作権関係者からは長年に渡り、この経過措置の廃止を求める要望が続けられてきている。

    (2)今後の取扱い
    附則第14条は、本来、あくまでも経過的措置であって将来廃止されるべきことが予定されていたものであり、また、著作権関係条約上の観点からも、廃止されることが適当であると考えられる。

    最近、有線音楽放送の発達・普及に伴って、遊技場や喫茶店等、従来附則第14条により演奏権の対象外として大きな割合を占めていた施設等が、有線音楽放送の利用へ転換してきており、直接レコードを用いて再生演奏しているケースが減少してきていることから、附則第14条の廃止による社会的影響は軽減してきていると考えられるところである。現行法施行後、既に20年以上が経過しており、近年の我が国の国際的地位の向上を考慮すれば、このような環境の変化を踏まえて、早急に附則第14条を廃止することが必要となっていると考えられる。

    このため、附則第14条の廃止による社会的影響は軽減してきたとはいえ、なお、広範囲に渡ることも予想されるところであるので、(社)日本音楽著作権協会を中心として、音楽の著作権関係者による、1)利用者の理解を深めるための広報活動の充実とともに、2)廃止後の演奏権処理に関する円滑な許諾及び使用料徴収システムの構築等の条件整備を進めることが必要である。

    また、有線音楽放送を受診して遊技場や喫茶店等の施設内へ音楽を流すこと(公の伝達)については、有線音楽放送用の専用受信機を用いており、第38条第3項第2文に基づいて、権利者の許諾が不要な「通常の家庭用受信装置」による公の伝達には当たらないと考えられるが、音楽の著作権者は附則第14条による措置とのバランスを考慮して、これまで権利行使を行うかどうかの姿勢を明らかにしてきていない。今後、附則第14条の廃止により、レコードによる再生演奏についても権利が及ぶこととした場合、有線音楽放送を受診して公に伝達する行為に対する権利行使についても、レコードによる再生演奏に対する権利行使とのバランスに留意して、音楽の著作権者において、この点の姿勢を明確にする必要があるとの指摘がある。

    今後速やかに附則第14条を廃止しうるよう、音楽の著作権者において以上のような条件整備に積極的に取り組むとともに、文化庁においても必要な指導助言を行うことを期待するものである。その進捗状況に応じ、著作権審議会の適切な場において、具体的な立法措置について判断を行うことが適当であると考える。

    なお、放送や有線放送を受信して「通常の家庭用受信装置」により公に伝達する場合に関する第38条第3項第2文の取扱いについては、従来から議論のあるところであり、実態を踏まえながら、継続して検討することが必要であると考えられている。

    イ.写真の著作物の保護期間の延長

    (1)問題の経緯
    写真の著作物の保護期間は、映画の著作物と同様、公表後50年(未公表のままであれば、創作後50年)と定められているが、昭和45年の現行法制定の際、写真の著作物の保護期間について制度的検討を行うべきである旨の附帯決議が、衆議院文教委員会及び参議院文教委員会においてなされている。また、写真家の団体からも、他の著作物、特に美術の著作物とのバランス等を理由として保護期間延長の要望が続いているところである。
    なお、保護期間内にある写真の著作物は当分の間その保護期間が満了するものがない状況にある。

    (2)今後の取扱い
    写真の著作物の保護期間については、国際的な流れは、長期化の傾向があり、死後50年以上とするのが先進国の大勢(注)となっている。このような国際的動向を踏まえれば、将来的には、写真の著作物の保護期間についても、文芸、美術等の著作物と同様の取扱いとするのが適当であると考えられる。なお、我が国のこれまでの取扱いを考慮すれば、一部の先進諸国の例に見られるような、芸術性の高い写真とそれ以外の写真等を区別して取扱うのは適当でなく、写真については、著作物性は当然必要であるものの、その芸術性のいかんにかかわらず、同一に取扱うのが適当であると考えられる。

    ただし、写真の著作物に関しては、著作者名の表示方法の整備等が従来から課題として挙げられてきており、写真の著作物の権利者団体においてこの点についてのルールづくりの努力が必要であり、映画の著作物の保護期間との均衡等についても配慮することが必要である。

    したがって、今後、写真の著作物の保護期間の延長を図る方向で条件整備等を進めながら、その進捗状況に応じ、著作権審議会の適切な場において具体的な立法措置について判断を行うのが適当であると考える。

    国名 区分 保護期間
    アメリカ、イギリス、フランス (区分なし) 死後50年
    イタリア 1)写真の著作物
    2)単なる写真
    制作後50年
    制作後20年
    オーストリア 1)芸術写真
    2)単なる写真
    死後70年
    公表後30年
    カナダ (区分なし) 制作後50年
    スウェーデン 1)美術的・学術的写真
    2)単なる写真
    死後50年
    制作後25年
    ドイツ 1)写真の著作物
    2)単なる写真
    3)記録写真
    死後70年
    発行後25年
    発行後50年
    ベルヌ条約議定書(案) (区分なし) 死後又は制作後
    50年又は70年



    (参考)
    著作権審議会第1小委員会委員名簿
    (敬称略・50音順)
    主査阿 部 浩 二 摂南大学教授・岡山大学名誉教授
    池 原 季 雄 東京大学名誉教授
    市 川 惇 信 国立環境研究所副所長・東京工業大学名誉教授
    加 戸 守 行 公立学校共済組合理事長
    川 井   健 創価大学教授・前一橋大学長
    北 川 善太郎 京都大学教授
    木 元 教 子 評論家
    黒 川 徳太郎(財)NHKサービスセンター著作権業務室長
    齊 藤   博 筑波大学教授
    土 井 輝 生 早稲田大学教授
    永 井 多恵子 日本放送協会浦和放送局長
    中 山 信 弘 東京大学教授
    野 村 豊 弘 学習院大学教授
    半 田 正 夫 青山学院大学教授
    松 下 直 子 全国地域婦人団体連絡協議会事務局長
    松 田 政 行 弁護士
    三 次   衛(社)日本電子工業振興協会知的基盤整備委員会
     委員長
    紋 谷 暢 男 成蹊大学教授


    著作権審議会第1小委員会審議経過

    第1回会議 平成3年9月20日
    第1小委員会のヒアリング事項及びその背景説明
    (平成3年10月1日 第11期著作権審議会発足)
    第2回会議 10月28日
    1)今後検討すべき著作者制度上の課題について
    2)附則第14条の実態について
     (関係団体からのヒアリング)
    第3回会議 11月22日
    1)写真の保護期間の延長について
     (関係団体からのヒアリング)
    2)映画の二次的利用に伴う実演家等の権利について
     (関係団体からのヒアリング)
    第4回会議 12月20日
    1)電子出版の展望と著作者の権利について
     (関係団体からのデモンストレーション及びヒアリング)
    2)メディアの複合化と著作者の権利について
     (関係団体からのデモンストレーション及びヒアリング)
    3)映画の二次的利用に伴う実演家等の
     (関係団体からのヒアリング)
    第5回会議 平成4年1月31日
    第1小委員会ヒアリング結果について
    第6回会議 2月28日
    著作権審議会第1小委員会のまとめ(骨子案)について
    第7回会議 3月19日
    著作権審議会第1小委員会のまとめ(案)について


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