○著作権審議会マルチメディア小委員会第一次報告書
    マルチメディア・ソフトの素材として利用される
    著作物に係る権利処理を中心として─
    平成5年11月 文化庁



    目 次
    はじめに
    第1章  問題の所在
    第1節マルチメディアとは何か
    第2節マルチメディア関連産業の現状と課題
    1.現状と将来の展望
    2.マルチメディア・ソフトの製作過程
    3.課題
    第3節マルチメディア・ソフトに関する著作権上の問題
    1.マルチメディア・ソフトに係る権利の在り方についての制度上の問題
    2.マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題
    第2章マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題
    第1節現状と関係者の意識
    1.マルチメディア・ソフト製作者の意識
    2.素材となる著作物の権利者の意識
    3.権利の集中管理の現状
    4.マルチメディア・ソフト製作時における権利処理の実態
    第2節マルチメディア・ソフトの製作者、利用者及び素材となる著作物の権利者のそれぞれに求められること
    第3節マルチメディア・ソフト製作時における既存の著作物に係る権利処理のルールの在り方
    1.契約による許諾の範囲の明確化
    2.私的複製等に関する権利制限規定との関係
    3.著作者人格権との関係
    4.製作者と権利者団体との協議
    第4節マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物の適切かつ円滑な権利処理ができる体制の整備
    1.大量かつ多様な著作物の利用の進展に伴う適切・円滑な権利処理体制の必要性
    2.権利の所在情報の提供体制の整備の具体的な在り方
    3.権利の集中管理体制の整備の具体的な在り方
    第5節マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物の権利の集中管理に関する制度上の課題
    おわりに

    著作権審議会マルチメディア小委員会委員名簿

    著作権審議会マルチメディア小委員会審議経過



    はじめに
    平成4年3月、著作権審議会第1小委員会(主査:阿部浩二、岡山商科大学教授)は、著作権制度上の当面する課題全般について、今後の検討の進め方などを整理する「まとめ」を作成し、公表した。この「まとめ」においては、近年の情報のデジタル処理技術の発達に伴う「電子出版」、「マルチメディア」と呼ばれる新しいメディアの発達への対応を重要な課題の一つとして掲げ、これらの新しいメディアと著作権制度との関係の明確化や適切な制度の在り方について、次のように述べて検討の必要性を指摘した。
    「著作権審議会第1小委員会のまとめ」(抄)
    1.著作権審議会に独立の小委員会を設置して検討することが適当な事項
     ア.電子出版の展望と著作者等の権利
     イ.メディアの複合化と著作者等の権利

    (1) 問題の経緯
    近年、情報のデジタル処理技術の発達に伴い、「電子出版」とよばれるCD-ROM等の記録媒体による各種の情報の伝達や、マルチメディアと呼ばれる映像、言語、音響、プログラム等の多様な情報を複合した伝達媒体あるいはその利用手段等が目覚ましい発展を遂げつつある。このようなメディアの発達によって、今後、著作物等の蓄積、加工、送信、展示、上映等多様な利用方法が開発・推進されることにかんがみ、著作者等の権利を保護しつつ、一方では著作物等の円滑な利用に配慮する観点から、これらのメディアと著作権法上の既存の権利や権利制限規定との関係の明確化を図る必要があるとともに、著作権等の適切な保護のため制度の改善が必要であるか否かなどについて、今後の実態の推移を踏まえながら、早急に調査検討を進めるべきであるとの指摘がある。

    (2) 今後の取扱い
    これらのマルチメディア等と著作権制度の関係については
    ア.マルチメディア・ソフト等の保護の在り方
    イ.マルチメディア等への著作物等の利用と著作権・著作者人格権、著作隣接権との関係
    ウ.マルチメディア等への著作物等の利用と権利制限規定との関係
    エ.マルチメディア等の発達に対応する権利処理の在り方
    等、映像、言語等の広範囲に渡って、著作権制度又はその運用全般に関係する重要な事項を含んでおり、今後、多様な側面からの検討が必要であると考えられる。
    このような事情を踏まえて、著作権審議会においては、新たに小委員会を設置する等、適切な検討の場を早急に設けられることが望ましいと考える。」

    この指摘を受けて、著作権審議会(会長:伊藤正己、日本育英会会長)は、平成4年3月30日に開催された総会において、本マルチメディア小委員会を発足させ検討を開始することを決定した。本小委員会は、平成4年6月以来検討を重ね、今回まず「マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として」検討結果をまとめたので、ここに公表する。



    第1章 問題の所在
    第1節 マルチメディアとは何か
    「マルチメディア」について、現在、確立された定義はないが、一般に挙げられているその特徴をまとめてみると、文字、音声、静止画、動画などの多様な表現形態の情報を統合した伝達媒体又はその利用手段で、単なる受動的利用ではなく使用者の自由意思で情報の選択、加工、編集等ができる双方向性を備えたもの(インタラクティブなもの)と考えられており、本小委員会においても、このような一般的理解に従うこととする。
    マルチメディアは、その流通形態の違いによりパッケージ型と通信ネットワーク型に分類されることが多い。

    このようなマルチメディアにおける利用に供されるためのソフトが「マルチメディア・ソフト」であるが、現在のところCD-ROM等を媒体とするパッケージ型のソフト(「マルチメディア・タイトル」ともいう)を指して用いられることが多い。したがって、以下においては主としてパッケージ型のソフトを中心に考察することとするが、その内容は概ね通信ネットワーク型のソフトにもあてはまるものと考えられ、通信ネットワーク型のソフトに特有の問題が仮にあるとすれば、その普及・発展の状況を踏まえ、今後必要に応じ取り上げ検討することとしたい。

    なお、「電子出版」という用語は、1970年代以降のコンピュータ組版システム(CTS)の導入に始まる電子メディアを用いた多様な情報伝達形態を出版の発展的なものと捉えた極めて広い概念である。

    このようにマルチメディアと電子出版とは並立する概念ではなく、類似の事象を切り口を変えて見たものといえるが、「電子出版」には従来のデータベースと変わらないものも広く含んでおり、「マルチメディア」の方が先に述べたようなデジタル技術の発達に伴う特徴を捉えやすいと考えられるので、以下においては、本小委員会の検討対象としては「マルチメディア」の用語を用いることとする。

    第2節 マルチメディア関連産業の現状と課題
    1.現状と将来の展望
    1988年頃迄のCD-ROMの利用形態は、コンピュータ等の読出し専用外部記憶装置の記録媒体としての利用が主流であったが、現在では、文字、図表、絵、音声等の多様な情報を取り込むとともに、ランダムアクセスによる利用が可能な「マルチメディア・ソフト」の媒体として利用されるようになっている。さらに完全な動画像を取り込むことができる実用的な媒体として、CD-Iが開発されている。

    CD-ROMソフトのタイトル数は、1988年は、55タイトルであったが、1992年には913タイトルになり、ビジネスとしても広がってきている。また、CD-Iソフトは約40タイトルである。

    なお、動画を主として扱うために、LD(レーザーディスク)と接続して、動画はLDを利用し、その他の情報はハードディスク等に蓄積して、プログラムによってLDと他の情報を制御することによりマルチメディアを実現している例もある。

    マルチメディアの利用分野については、教育、出版、エンタテイメント、ゲーム、プレゼンテーションなど幅広い可能性があると考えられており、関連市場(マルチメディアに関連してくるであろうハード系、ソフト系産業の総合計)の規模は、西暦2,000年には57兆円に達するとの予測もある((社)日本電子機械工業会「1990年代におけるマルチメディア・ソサイアティの展望」より)。

    しかし、現在のCD-ROM等を媒体とするパッケージ型のマルチメディア・ソフトを中心としたマルチメディア産業は、家庭用についてはゲームを除き産業の規模としては小さいものであり、家庭にマルチメディア・ソフトが普及するまでには時間がかかるのではないかと思われる。
    CD-ROMソフトの主な分類別タイトル数(「世界CD-ROM総覧」より)
    エンターテイメント423
    絵本・童話/会話/語学78
    辞典/百科/ディレクトリー48
    グラフィックス/DTP40
    CAI31
    その他293

    合計

    913

    また、通信ネットワーク系マルチメディアの普及のためには、ISDN、B-ISDNなどの大規模な基盤整備が必要である。

    2.マルチメディア・ソフトの製作過程
    一般にパッケージ系のマルチメディア・ソフト(CD-ROM等)の作成は、次のような工程に沿って作られる。

    1)企画・構想・立案
    ソフトの企画及び立案等を行う。
    2)シナリオ作成
    ソフトの全体の設計を行う。
    ソフトの流れ、必要な音声、画像、文字等の定義と使用方法、ユーザーの使用方法とそれに対する相互作用を決め、設計書を作る。
    設計書には必要な項目をすべて記入し、以降の分業化した作業を進める際の各種指示書を揃える。そのため、しっかりした設計書を作ることが特に重要である。

    ・静止画(自然画、背景画、自然画とCGの合成等)の属性指定
    ・動画(自然画、アニメーション等)の属性指定
    ・各種パターン(文字、カーソル等)の属性指定
    ・音声(CD、PCM、FM音源等)の属性指定 その他
    3)素材の収集・作成・編集
    使用する音声、画像、文字などの素材を収集、作成、加工、編集する。

    ・システム上で画像や文字情報を直接作成
    ・アナログレベルでの素材の作成、収集
    ・デジタルレベルでの素材の作成、収集
    ・コンピュータデータとして取り込み(デジタル化)
    ・素材の変換、加工、編集
    4)プログラム作成
    シナリオに従ってソフトの動作をプログラミングする。
    3)の工程とは別に作成され、5)の工程でリンクさせる。
    5)データ編集
    各種素材を画面上に配置し、レイアウトを決め、シナリオに沿って素材を編集配置し、プログラムと結合して、動作の確認を行う。
    ここで問題を発見した場合、プログラムや素材の作り直し、また、シナリオ自体の変更が必要となる。
    (この作業を一般に「オーサリング」と呼び、そのためのソフト(オーサリングソフト)の良し悪しでタイトルの出来栄えと作成工数が異なってくる。)
    6)CDレイアウト編集
    編集配置した素材を実際にCD上のどこに配置するかを決める。
    7)ディスク作成
    CD等へのフォーマットへの変換処理を行い、テストディスクを作成し、性能、音声との同期等の最終的な確認を行い、製品化する。

    マルチメディア・ソフト製作過程図



    マルチメディア・ソフトの製作に関連する業種としては、出版社、印刷会社、コンピュータ・ハードメーカー、ソフトハウス等の市販目的のソフトを作成するものの他、販売を目的とせず、自社内で使用するために上記以外の業種等が作成することがある。

    また、すべての製作過程を自社で行う場合だけでなく、上記業種が様々にかかわり合い(共同製作、委託・受託制作等)ソフトを製作する場合もある。
    マルチメディア・ソフト作成に必要な人材としては、
    ・システムエンジニア、プログラマ(既存のコンピュータ技術者)
    ・プロデューサー、シナリオライター、ディレクター、デザイナー、各種素材作成者
    等の職種が挙げられ、これらの人材がマルチメディア・ソフトの製作過程において、独立又は共同して作成していく。また、人材に関してもすべて自社の社員である場合もあれば、外部の人材との共同、委託等によりソフトを製作することがある。

    また、マルチメディア・ソフト作成用のオーサリングソフトの開発、普及により、マルチメディア・ソフトの提供を受けるだけでなく、オーサリングソフト等を利用することによりマルチメディア・ソフトを独自に作成することができるようになってきている。現在では、企業において、プレゼンテーション用等に使用されているが、今後、教育現場等において、このような支援ソフトを使用したマルチメディア・ソフトの作成、使用が広がっていくことが考えられる。

    3.課題
    マルチメディア関連産業の今後の課題として、1)基盤となる技術の問題、2)マルチメディア・ソフトの供給とそのための人材育成の問題及び3)著作権上の問題が指摘されている。

    (1) 基盤となる技術の問題
    マルチメディアの技術面での特徴は、情報量が膨大なことであるが、その場合、圧縮技術が不可欠である。パッケージ系のソフトについては、動画を利用する際の動画圧縮技術における画質(再生能力)の問題、色彩の表現能力の問題、解像度(画素数)の問題、さらに、メーカーによって違う方式の動画圧縮技術を利用しているなどの問題がある。また、ハードウェア間の互換性がないため、メーカーに合わせたソフトを作成する必要があり、全メーカー共通のソフトは出ていない。そのため同じ内容のソフトでもハードに合わせて最初から作るようなことになってしまい、ユーザーに混乱が生ずるほか、製作コストがかさむという問題がある。

    マルチメディアを通信で利用する場合には、高精度のリアルタイム圧縮技術が必要となるが、これも現在の技術では実用化されていない。

    以上のように、基盤となる技術については、映像の圧縮や情報の伝送速度の向上などの問題の解決や、ソフト、ハードの互換性確保のための規格の標準化が望まれている。

    (2) マルチメディア・ソフトの供給とそのための人材育成問題
    質の高いソフトの供給のためには、既存のコンピュータ技術者(システムエンジニア、プログラマなど)のほか、マルチメディア・ソフトの創作のための固有の知識と技術を備えた人材(プロデューサー、シナリオライター、ディレクター、デザイナーなど)の確保、育成が必要である。

    (3) 著作権上の問題
    マルチメディア・ソフトに関する著作権上の問題については、本小委員会における検討の中心になるものであるため、次頁以降において詳細に述べることとする。



    第3節 マルチメディア・ソフトに関する著作権上の問題
    マルチメディア・ソフトに関する著作権上の問題は、次の二つに大別される。
    1.マルチメディア・ソフトに関する権利の在り方についての制度上の問題
    2.マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題
    これらのうち1.の問題は、著作権制度の基本にかかわる重要な問題を含むものであるが、具体的な対応の在り方については、マルチメディア・ソフトの開発状況やデジタル処理技術の発展の動向等を見定めつつ、ある程度時間をかけて検討する必要があると考えられるため、今後、本小委員会において更に検討を継続することとし、本報告書では以下に問題の所在を指摘するにとどめる。

    2.の問題については、マルチメディア・ソフトの製作の際に、製作者、権利者の両者が直面する課題であり、また、今後の情報処理技術の発達、普及に伴い、マルチメディア・ソフト製作に限らず、多種、多様、大量にデジタル・データ処理された著作物が利用されることが考えられ、対応が急がれるものである。さらに、この問題は、制度上の問題も考えられるものの、運用上の条件整備によって対応できる面も多いと考えられるため、本小委員会においては、まず権利処理の問題について検討を行った。その結論は、第2章において詳しく述べることとする。
    次に、1.及び2.の問題の概要を示す。

    1.マルチメディア・ソフトに関する権利の在り方についての制度上の問題
    (1) マルチメディア・ソフトの著作物性
    著作権法上「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されており、マルチメディア・ソフトもこの定義に該当する限り著作物となることは疑いない。また、同法には著作物の種類の例示があり、それによって権利内容等に若干の違いが生ずるが、マルチメディア・ソフトは、その種類、性質に応じ、同法で例示する次のような著作物として保護することが可能であり、また、利用の態様等に応じて、一つのソフトが複数の著作物性を有することも従来から認められているところである。
    データベースの著作物(データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの)
    編集著作物(編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの)
    映画の著作物(映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む)
    コンピュータ・プログラムの著作物(電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものであって創作性を有するもの)
    しかし、これらはマルチメディア・ソフトの特徴とされるメディアの統合とインタラクティブ性からとらえたものではないので、「マルチメディア・ソフトの著作物」というカテゴリーを新たに設けることが適当であるとの指摘があり、その必要性について今後検討が必要である。

    (2) マルチメディア・ソフトに係る権利の帰属
    マルチメディア・ソフトの製作には多数の物(システムエンジニア、プログラマ、プロデューサー、シナリオライター、ディレクター、デザイナーなど)が創作的に関与することになる。

    現行法上、多数の者が著作物の創作に関与している場合については、著作物の創作に寄与した部分が分離不可能である場合は共同著作物(第2条第1項第12号)として、著作物の創作に寄与した者が権利を共有することとされている。なお、マルチメディア・ソフトが著作物と評価される場合、その共同著作者となるのは、当該ソフトの全体的形成に創作的に寄与した者であると考えられる。

    また、マルチメディアは企業等において製作される場合が多いが、その場合に法人著作の要件を満たせば、マルチメディア・ソフトの著作者は企業等となる。
    しかし、マルチメディア・ソフト製作の特徴として、全体を統括して一つの作品として取りまとめる企画・製作の主体者が、利用される各素材の権利について集中的に権利処理にあたることになると考えられ、企画・製作の主体者の役割やその介在の部分が多くなっていると考えられる。そのため、映画の著作物の著作権の帰属のように、マルチメディア・ソフトの企画・製作の主体者に権利を集中的に帰属させるような特別規定を設けること、さらには、法人著作の成立要件等について何らかの特別規定を設けるなどの必要性が指摘されており、今後検討が必要である。

    (3) 情報のデジタル・データ化及び有線送信事業者の評価
    マルチメディア・ソフトの製作過程において、著作物をデジタル・データ化する者について、例えば、デジタル・データをそのまま複製することを禁止する権利などを著作隣接権的構成により創設すべきであるとの指摘がある。

    さらに、ネットワーク通信によりマルチメディア・ソフトが提供される場合、現行法上、有線送信事業者は著作隣接権者としての保護が与えられていないが、放送事業者、有線放送事業者の場合と同様、有線送信事業者についても、何らかの権利を与えるべきであるとの指摘もある。これらの点について、今後更に検討する必要がある。

    (4)マルチメディア・ソフトの利用に係る権利の内容
    マルチメディア・ソフトの利用に係る権利の内容として問題となるものに、頒布権及び展示権がある。これらの権利は、現行法上、映画の著作物又は美術若しくは未発行の写真の著作物について認められているものであるが、マルチメディア・ソフトの利用について一般的にこのような権利を付与する必要があるか、また、その内容はどのようにすべきかという問題がある。この場合、頒布権については、著作物の円滑な流通に配慮する必要があること、展示権については、現在、美術の著作物又は未発行の写真の著作物の原作品を展示する権利のみが認められているが、マルチメディア・ソフトの場合、原作品と複製物の区別ができないことを考慮しなければならない。これらの点について、今後検討が必要である。

    (5) マルチメディア・ソフトの利用に係る権利の制限
    マルチメディア・ソフトの利用においては、デジタル化された情報を当該ソフトの使用者が複製したり加工したりすることが容易である。そのため、マルチメディア・ソフトに複製されている著作物の利用も含め、私的複製等の権利制限の在り方を検討する必要がある。

    (6) その他
    マルチメディア・ソフトは、オーサリング・ソフトを用いて製作されることが多いが、その場合、オーサリング・ソフトの内容が出来上がったマルチメディア・ソフトの中に組み込まれることになる。現在は、オーサリング・ソフトの作成者は権利主張をしていないので、具体的な問題は生じていないが、今後どのように考えるか検討する必要がある。

    2.マルチメディア・ソフトの素材として利用される
      既存の著作物に係る権利処理の問題
    (1) マルチメディア・ソフト製作時における既存の著作物に係る
      権利処理のルールの在り方
    マルチメディア・ソフトを製作する立場からは、著作物をデジタル処理をして蓄積することについて、通常の複製と同様の許諾条件(使用料等)が示されると著作物の使用料が膨大となり採算がとれなくなってしまう可能性もあること、また、デジタル処理ではいろいろな映像を編集することが可能であり、画像や映像を貼り合わせたり組み合わせるなどの改変が自由にできるため、同一性保持権の問題などで許諾を得ることが難しくなることが指摘されている。一方、素材となる著作物の権利者の立場からは、マルチメディア・ソフトにおける著作物の利用の範囲が不明確であるとともに、改変などが容易にできることにより人格的利益が損なわれることに対する懸念が指摘されている。これらのことから、マルチメディア・ソフト製作時における既存の著作物に係る権利処理のルールが確立されることが課題となっている。

    (2) 適切かつ円滑な権利処理ができる体制の整備
    マルチメディア・ソフトにおいては、多様な著作物を大量に利用することが多く、個々の権利者と個別に権利処理をしようとすると、著作権処理に著しく手間と費用がかかること、また、個々の権利者にとってもこのような大量かつ多様な著作物の利用のすべてを把握し、個別に権利行使をすることが困難になってきていることから、権利所在情報の集中化や、権利の集中管理の推進など、適切かつ円滑な権利処理ができる体制の整備が課題となっている。



    第2章 マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題

    第1節 現状と関係者の意識
    1.マルチメディア・ソフト製作者の意識
    マルチメディア・ソフトの製作に関与している企業等からのヒアリング、(財)マルチメディアソフト振興協会が行ったヒアリング・アンケート調査によると、マルチメディア・ソフト製作者の意識は以下のとおりである。
    マルチメディア・ソフトの製作過程における素材利用の権利関係については、音楽、映画、写真を中心にほとんどの著作物で問題の発生が予想されている。
    著作権処理のための最も大きい問題として考えられるのは、著作権の利用料や使用料の算定基準が明確でないことである。
    ソフトの使用者による改変の可能性など、著作者人格権の問題を指摘する声も大きい。
    このため、製作者側では権利処理が可能なものについては、できるだけ対価を支払って個別に権利処理を行うが、それが困難な場合には、利用可能な素材で間に合わせたり、素材をオリジナル製作するなどによって対応している。
    マルチメディア・ソフトの製作に利用する素材の権利関係については、集中管理組織により管理される必要があり、その組織は第3セクターないし公的機関が望ましい。
    マルチメディア・ソフトに関する知的財産権問題について、現行著作権法による対応は困難との意見が多いが、制度上いかなる点において問題があるかについては必ずしも明らかでない。また、今後の方向については、ソフトの流通を阻害しない程度で権利を強化することが望ましいとの意見が多いが、その具体的な内容は明らかでない。

    「もし問題が発生するとした場合、どのような著作権が最も問題になると思うか」
    (参考)
    アンケート調査結果(回答数84件、質問はすべて複数回答)
    「マルチメディア時代における著作権処理の調査研究報告書
    ((財)マルチメディアソフト振興協会)」より

    ○マルチメディアソフト制作過程の素材利用の権利関係について
    音楽の著作物34件
    写真の著作物33件
    映画の著作物32件
    プログラムの著作物24件
    言語の著作物22件
    美術の著作物22件
    地図その他図形の著作物19件
    その他の著作物 9件

    「権利処理について」

    算定基準が不明で計画がたてられない

    48件
    手間が大変29件
    料金が高すぎる15件

    「対策としてどのようなことが考えられるか」

    対価を支払う

    52件
    利用可能な素材で間に合わせる30件
    作品の構成を考え直す14件
    その他10件

    「素材利用についてどこまで権利関係をクリアにするか」

    クリアできる素材だけ利用、利用できないものはオリジナルを作る

    49件
    作品に予定されているものは全部クリアする25件
    クリアできる素材だけ利用、後は作品を変更する7件
    基本的にはクリアするが、できないものについては、オリジナルが分からないようにデータ変換して、使用することもあるかも知れない6件
    曖昧なまま利用して、問題発生後処理する2件

    ○マルチメディアソフトに関する法的問題について
    「素材の権利関係を集中管理する組織の必要性」

    必要

    47件
    不必要12件
    分からない14件

    「必要と思う場合、機関の性格は公、私どちらが望ましいと思うか」

    第三セクター

    29件
    公的機関16件
    民間企業6件

    「マルチメディアソフトの知的財産権問題を著作権の現行法で処理できると思うか」

    思わない

    53件
    思う4件
    分からない22件

    「現行法で処理できると思わないその理由は」

    ソフト、ハード、データが一体になった新しい知的創造物となるから

    32件
    現行法を適用するとマルチメディアの制作が実際上困難になるから21件
    その他6件

    「マルチメディアソフトの流通について」

    ソフトの流通を阻害しない程度の権利処理が望ましい

    42件
    流通円滑化の方向に権利を抑えることに賛成26件
    流通しないでも権利を強化する方向に賛成 4件


    2.素材となる著作物の権利者の意識
    マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物の権利者の意識は、権利者団体からのヒアリングによると、以下のとおりである。

    (1) 音楽
    音楽の著作物の権利は(社)日本音楽著作権協会が仲介業務団体として集中的に管理しているが、マルチメディア・ソフトへの利用については、利用の態様等が様々であり、定型的な利用方法が定まっていないため、現状としては、どんな使い方をするのか教えてもらい、話合いの上、使用許諾申請を出された範囲で個別に条件を定めて許諾をするという方式になると思われる。

    また、映画の中に曲をそのまま使うのであれば同協会で自動的に許諾するが、CM等の映像と一緒に曲の一部分を使う場合は、著作者の創作意図と違ったかたちでイメージが定着することを嫌がるという問題がある。これらについては、使用料で解決するのは難しく、その都度事前に著作者の許諾を得てもらわなければならない。なお、コンピュータ・ゲームソフトなどの場合、どこにも作曲者の名前が表示されていないものが多い。著作者人格権を主張する第一歩は、著作者の氏名表示であると考えている。

    同協会と契約を締結している外国の管理団体が管理している楽曲であっても、映像とともに使う場合は外国の管理団体の管理対象外であり、権利者自身が管理するという実態があり、その場合には個々の権利者に条件と使用料を確認しなければならないという問題がある。

    さらに、マルチメディアの場合、1曲全部ではなく一部分だけ必要であるという場合があるが、その価値をどう評価するかは困難な問題であり、一部分の使用なら料金は安くて良いのではないかという意見もあるが、一部分の使用であるからこそ単価が安くては困るとか、著作者の意に沿わない使用が行われることが心配であるという権利者の声もある。同協会では、ゲームソフトの中に利用される曲については使用料規程の中のビデオグラムの規定で運用しているが、ゲームソフトメーカーからは、ゲーム専用の規定を作って欲しいという申し出があり、現在、協議中である。

    (2) 脚本
    (協)日本脚本家連盟は、仲介業務団体として、脚本に関する複製、上演、放送、有線放送等の権利の委託を受けており、実際にこれらの利用に関して権利行使も経験済みである。マルチメディアへの利用に対しても、リーズナブルな使用料を支払ってもらえれば許諾をするつもりであり、現行法で十分対応できると考えている。

    しかし、同一性保持権等の著作者人格権については集中管理は無理なので、個別に著作者から許諾を得るしかない。また、改変等が伴う利用はして欲しくないと考えている。

    (3) 写真
    昭和46年に、写真の著作権の集中的管理を目指す団体として「日本写真著作権協会」が設立されているが、使用料の徴収等の活動はまだ行っていない。

    また、1960年代の初めごろからフォトエージェントというものが出てきて、現在、日本フォトエージェンシー協会に約100社加盟している。これは、著作者からフィルムやフィルムの上質な複製を預かって、それをユーザーに使用させる業務を行っている。その中には素材的な使われ方をしても差し支えないと考える写真を提供する性格の業者が多く、写真の内容について、きちんとした使われ方が最後まで貫徹されることを望む作品については委託されるケースは少ない。

    マルチメディア時代では、集中処理の拡大、取扱いを強化していくことは不可欠であるという一般的な認識はあるが、多くの写真家は具体的な範囲が不明確なままで集中処理に委ねることに不安を持っている。著作権の管理は、個別管理が基本であることを踏まえつつ、必要に応じてその範囲を明確にしながら集中処理の部分を増やしていくことが必要ではないかと思っている。

    このような観点から、写真だけでなく、同じような状況にある美術、グラフィックデザインの権利者団体と協力して、共通の集中処理機構を作ろうという検討も行っている。
    今後の著作権管理業務の広がりに対応して、仲介業務法の対象範囲の見直しも考える必要があるかも知れない。

    写真をマルチメディアで使用させる場合には、展示権の中に様々な装置による表示の権利を含めるか、または、展示権の概念を拡大して、写真を映写することについても含まれるようなディスプレイ権というものを確立しないと新しい著作物の流通には対応できないのではないかと思われるため、このような権利を認めてもらいたいという要望がある。

    (4) 美術
    (社)日本美術家連盟では、テレビ放送での利用というごく限られた範囲での権利の集中管理を行っているにとどまる。マルチメディアなどへの利用については、時代のすう勢であり、やむを得ないものであるという意識はあるが、写真の場合と同様、多くの美術家は具体的な範囲が不明確なままで集中管理に委ねることに不安があり、特に、改変等が伴う利用については、強い危惧を持っている。

    (5) 放送
    放送業界には多くの映像資料が保存されているが、それらを素材として提供する場合、ほとんどが自社取材の自然風景映像であり、その他のものは提供利用が少ない。放送局とマルチメディア・ソフト製作者が共同で製作する場合もあるが、この場合も自社取材の自然ものや権利のかかわりが少ないものに限られている。

    これは、放送番組製作時の権利処理は放送目的の利用のみに限られており、それ以外の利用の場合は、すべて権利処理をやり直さなければならないこと、このため権利処理の手間、時間、使用料が膨大となり、しかもまだ権利処理がルール化されていないことなどが問題点と考えられる。このため、放送局自身が保存番組の権利関係記録の完備を進める必要があるとともに、少なくとも権利者団体がある分野では、申請から使用料の支払まで一括して処理できるようなルールが定められ、権利処理が簡便にできるようになることが望ましいと考えている。

    一方、権利者としての放送局にとっては、提供した番組素材が使われたマルチメディア・ソフトが、あるいは番組素材を使って製作したマルチメディア・ソフトがどのように使われるのか、他の権利者と同様に強い不安と危惧を持っている。

    (6) 出版
    出版者は、各種百科事典、辞書等について編集著作権を有している。また、著作者との契約により、出版権の設定を受け、または、権利処理の委任を受けているものがある。これらをマルチメディア・ソフトの製作者に素材として提供することがあるが、その使用範囲、条件等の権利処理ルール化が行われていないのが現状である。

    なお、出版者の著作物の伝達者としての役割にかんがみ、マルチメディア・ソフトに出版物が素材として利用される場合、出版者固有の保護の方策を講ずるべきとの指摘があった。

    3.権利の集中管理
    現在、著作権等の集中管理を行っている団体としては、以下のようなものがある。(著作物等の分野ごとの権利の集中管理の現状については、「権利の集中管理の分類」の図参照)

    (1) 仲介業務団体
    著作権に関する仲介業務に関する法律の規定に基づき、著作権者のために著作物(音楽、小説、脚本に限る)の利用に関する契約につき、代理、媒介をする団体であり、文化庁長官の許可を受けたものである。

    1)(社)日本音楽著作権協会
    音楽の著作権を管理するために、作詞・作曲家によって昭和14年に設立された。国内の作詞・作曲家のほとんどが権利を直接又は音楽出版社を通じて信託している(平成5年10月1日現在の会員数9,731人)。また、外国の音楽著作物の利用についても、演奏権については58か国69団体、録音権については44か国55団体と管理契約を結び、関係する著作権の管理を行っている。

    協会は、原則として信託を受けた著作権の著作物のすべての利用方法について管理しており、利用方法ごとに使用料の算定方式を定めているが、それには次の4つの方式がある。
    i特定の利用方法につき1曲ごとに許諾を与え、1曲ごとに使用料を計算
    ii特定の利用方法につき包括的に許諾を与え、1曲ごとに使用料を計算
    iii特定の利用方法につき包括的に許諾を与え、包括的に使用料を徴収
    iv利用の目的、態様等に応じ使用者と協議の上、個別に利用を許諾し、使用料を定める

    2)(社)日本文芸著作権保護同盟
    文芸の著作権管理をするために文芸作家によって昭和14年に設立された。
    平成5年10月1日現在815名の文芸作家等から信託を受け、文芸の著作物の放送、上演、ビデオ化等の二次的な利用について権利を管理している。

    なお、出版については、作家が個別に権利処理をしているのがほとんどである。
    また、放送等についても、そのための著作物の翻案については、個々の作家の許諾を得ることが必要である。

    3)(協)日本脚本家連盟
    昭和49年4月から、脚本の仲介業務団体として文化庁長官の許可を受け業務を行っている。平成5年10月1日現在信託者は1,169名であり、主に放送用の脚本について、リピート放送、ビデオ化等の二次的な利用について権利を管理している。

    また、外国の権利者団体(4か国4団体)と管理契約を結び、国内作品の外国における利用又は外国作品の国内における利用に関する著作権の管理を行っている。
    なお、脚本の最初の放送については、それぞれの脚本家が権利処理を行っている。

    4)(協)日本シナリオ作家協会
    平成3年7月、脚本の仲介業務団体として文化庁長官の許可を受けた。平成5年10月1日現在信託者は306名であり、主に劇場用映画の脚本について、(協)日本脚本家連盟と同様、脚本の二次的な利用について権利を管理している。

    (2) 指定管理団体等
    著作権法第30条第2項、第95条第1項、第95条の2第3項、第97条第1項、第97条の2第3項の補償金、二次使用料等を受ける権利について、法律に定める条件を満たす団体として、文化庁長官が指定するものがあるときは、その団体によってのみ行使できるもの。

    1)(社)私的録音補償金管理協会
    平成5年3月、(社)日本音楽著作権協会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会、により設立され、私的録音録画補償金のうち私的録音に係るものを受ける団体として、文化庁長官の指定を受けた。

    改正著作権法の施行後、メーカー等の協力を得て、機器等の代金に上乗せされた補償金を消費者から徴収し、各種調査に基づく資料により著作権者、実演家及びレコード製作者に分配する。
    なお、補償金請求権は、指定管理団体を通じてのみ行使できることが法律上規定されている。

    (注)私的録画に係る補償金の管理団体は、改正著作権法の対象となる録画機器が未だ市販されていないため設立されていない。
    なお、平成4年12月、私的録画に関する補償金制度を実施していくために必要な事項を検討するために、関係15団体((社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、日本放送協会、(社)日本民間放送連盟、(社)日本映画製作者連盟、(社)日本ビデオ協会、(社)全日本テレビ番組製作社連盟、日本動画製作者連盟、日本独立映画製作者協議会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本音楽事業者協会、(社)日本レコード協会、(社)音楽出版社協会)により私的録画委員会が設けられており、将来的には、同委員会が基盤となって私的録画に係る指定管理団体を設立することが考えられている。

    2)(社)日本芸能実演家団体協議会
    昭和42年に設立され、平成5年10月現在、59団体約57,000名で構成されており、著作隣接権に関し、利用者に対する実演の利用の許諾、方法及び条件に関する一般的基準の設定並びに事前の個別的処理が事実上困難と認められる事務(放送された実演の録音録画、リピート放送等に関する報酬請求等)を行っている。

    また、昭和46年3月に商業用レコードに係る二次使用料を受ける団体、昭和60年2月に商業用レコードの貸与に係る報酬を受ける団体として文化庁長官の指定を受け、これらに関する業務を行っている。

    なお、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下「実演家等保護条約」という。)締約国の実演家団体(16か国13団体)とレコードの放送二次使用料や貸レコード使用料等を受ける権利について管理契約を結んでいる。

    現在、同協議会においては、近年のメディアの発達と実演の利用の拡大に対応し、従来以上に実演家の権利の統一的な行使を推進するため、平成5年10月、協議会内部に実演家著作隣接権センターを設立した。

    3)(社)日本レコード協会
    昭和46年3月に商業用レコードに係る二次使用料を受ける団体、昭和60年2月に商業用レコードの貸与に係る報酬を受ける団体として文化庁長官の指定を受け、これに関する業務を行っている。

    また、実演家等保護条約締約国である外国のレコード製作者に対しては、各レコード会社が原盤供給契約に基づき、二次使用料等を送金している。
    なお、レコード製作者の権利については、上記の二次使用料及び貸与報酬を受ける権利を除き、原則として個々の製作者が権利行使を行っている。

    (3) その他著作権者により構成され、著作物の円滑な利用に係る事業を行っているもの

    1)日本写真著作権協会
    写真の著作権に関する仲介業務等の事業を行うため、昭和46年5月に設立された。
    同協会は、約3,000名から学校教育番組の放送等の利用に関して信託を受けているが、実際に仲介業務を行うには至っていない。

    現在、メディアの発達に伴う著作権の集中管理の在り方について、(社)日本美術家連盟、(社)日本グラフィックデザイナー協会とともに検討を行っている。

    2)(社)日本美術家連盟
    美術の発展、普及及び美術家の職能擁護を目的として昭和24年に設立され、現在、約1,000名からテレビ放送に関する権利委任を受け、NHK、放送大学、放送教育開発センターと協定を結び、これに関する業務を行っている。
    また、美術著作権に関する各種の契約のひな型を作成している。

    3)日本複写権センター
    複写に関する権利についての集中管理を目的として、平成3年9月に設立された団体であり、出版者著作権協議会、学協会著作権協議会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、全日本写真著作者同盟、美術著作権連合、(社)日本グラフィックデザイナー協会等の13団体を会員としている。
    現在、企業を中心として複写許諾業務を行っており、今後、その対象を拡大していく予定である。

    4)(社)日本ビデオ協会
    ビデオソフト産業の振興に寄与する目的で、昭和53年3月に設立(会員数55社)された。海賊版・無許諾レンタルの防止等の活動を行っている。
    同協会では、ビデオソフトの個人向けレンタルについてビデオメーカー(14社)と頒布権行使委託契約を締結し、協会が窓口となって他の権利者(4団体)と連名で、レンタル事業者と契約を行っている。

    また、ビデオソフトのホテル、バス等における業務用使用についての問い合わせや視聴覚教育施設等におけるレンタルについての相談の窓口となっている。

    (4) 特別な契約例
    多種の著作物を利用する場合に、契約が一本で済むように権利者団体が取り極めたもの。

    1)個人向けビデオレンタル(図(1))
    (社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本ビデオ協会の連名でビデオレンタル店と家庭内視聴を目的とする個人顧客に対する貸与に関する契約を結んでいる。

    使用料等は各団体がビデオソフトメーカーに提示し、ビデオソフトメーカーからの販売時にビデオレンタル店から徴収され、ビデオソフトメーカーを通じて権利者に支払われる。
    なお、この契約は、(社)日本ビデオ協会会員社のうち14社のビデオソフトを使用する場合のものであり、その他のものは個別契約となる。

    2)有線テレビジョン放送(同時再送信)(図(2))
    (社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本芸能実演家団体協議会の5団体の連名で、CATV会社と契約を結んでいる。

    使用料は、CATV局の年間利用料収入総額の一定割合を一括して代表団体((協)日本脚本家連盟)に支払い、代表団体が他の団体に分配する。

    3)放送番組のビデオテープ化(図(3))
    (社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会の6団体の連名で、日本のテレビ番組を視聴不可能な遠洋航海の乗務員や在外公館職員の慰安、娯楽という特殊目的のためにNHKや民間放送の放送番組をビデオテープにすることについて、(社)日本船主協会や外務省と契約を結んでいる。

    使用料は、ビデオテープ一本(60分番組を基準)につき単価を定め、一括して代表団体((社)日本芸能実演家団体協議会)に支払い、代表団体が他の団体に分配する。

    4)文献複写(図(4))
    日本複写権センターは、その管理する著作物について各企業と複写許諾契約を結んでいる。
    同センターの複写利用規定では、許諾の範囲を頒布を目的としない出版物の小部分かつ小部数の複写とし、使用料は1ページ2円を基本としつつ、複写機台数、従業員数を基にした年間使用料の包括許諾契約の方式も定めている。

    (5) その他
    放送番組著作権保護協議会
    平成4年6月、海外における日本の放送番組の海賊版ビデオ対策について検討するため番組製作者と関係権利者15団体((社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、日本放送協会、(社)日本民間放送連盟、(株)東京放送、日本テレビ放送網(株)、全国朝日放送(株)、(株)フジテレビジョン、(株)テレビ東京、(株)日本映画製作者連盟、(社)全日本テレビ番組製作社連盟、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会)で設立された。

    海賊版対策には真正品ビデオの供給が不可欠であるため、現在、そのための権利処理ルールについて検討が行われている。

    このほか、本協議会と(社)日本ビデオ協会が協力して、映像著作権連絡会議を設け、放送番組に限定されない映像に係る著作権問題全般について検討を行っている。

    図(1)個人向けビデオレンタル
    [許諾契約関係図]


    [レンタルシステム用商品の流通と使用料の流れ]


    図(2)有線テレビジョン放送(同時再送信)

    ※契約に関しては実演家団体協議会がまとめ役をし、事務手続きも行う。

    図(3)放送番組のビデオテープ化

    ※契約に関しては実演家団体協議会がまとめ役をし、事務手続きも行う。
    ※脚本家連盟から保護同盟とシナリオ作家協会に分配される。

    図(4)文献複写

    権利の集中管理の分類
    著作物等の分野ごとの権利の集中管理の現状
    著作物等の分野
    権利の集中管理団体

    集中管理する権利の内容
    備考



    音楽の著作物(社)日本音楽著作権協会すべての権利 
    言語の
    著作物

    文芸
    (社)日本文芸著作権
      保護同盟
    放送等の二次的利用についての権利 
    脚本(協)日本脚本家連盟
    (協)日本シナリオ
      作家協会
     
    一般日本複写権センター文献等複写についての権利 
    美術の
    著作物
    (社)日本美術家連盟テレビ放送についての権利 
    写真の
    著作物
    日本写真著作権協会教育放送等についての権利現実の活動には至っていない
    映画の
    著作物
    (社)日本ビデオ協会が個人向けレンタル等については窓口となって一定のルールを作っている
    プログラムの著作物(社)コンピュータ・ソフトウェア著作権協会が、許諾契約の在り方等について調査研究を行っている
    実演家の権利(社)日本芸能実演家
      団体協議会
    放送の二次使用料、貸与報酬の請求権、放送された実演の録音録画等についての権利 
    レコード製作者の権利(社)日本レコード協会放送の二次使用料、貸与報酬の請求権 


    4.マルチメディア・ソフト製作時における権利処理の実態
    マルチメディア・ソフト製作時における権利処理の実態は、個々のケースにより様々であるが、これまでのヒアリング等で紹介されたものの中から特徴的なものをいくつか挙げると次のとおりである。
    マルチメディア・ソフト製作時において、権利処理が必要な既存の著作物を利用する場合には、当該ソフトにおける利用についてのみ許諾契約を交わすことが多い。当該ソフトの使用者に対しては、無断複製や貸与の禁止について確認的に注意している。
    デジタル・データ化に伴うその後のすべての利用について、デジタイズ化権の許諾というような形で包括的に許諾を得ようとする場合もあるが、範囲が極めて広汎かつ不明確になるため、実際にはそのような包括契約が交わされることは少ない。
    電子ブックについては、素材の権利者である出版社等の指定に従い1)表示制限(電子ブックプレーヤー以外の機種への表示を制限)、2)印刷制限(他のパソコン等を使った紙への印刷を制限)、3)引用制限(電子記録媒体への複製の制限)ができるよう技術的に対応し、その旨を使用者向けにパッケージに明示している。
    マルチメディア・ソフトのオーサリング・ツールによる製作に供することを目的としてデータ・ライブラリが提供されているが、この場合には、ライブラリ作成者と個々のデータの権利者との間の契約により、使用者が自由に使用できる範囲(個人的な使用、無償頒布されるものへの使用など)、使用者が許諾を必要とする範囲(有償頒布を目的とするものへの使用など)、許諾を必要とする場合の申し込み先を定め、ライブラリーの使用者に対するマニュアルに明示している例がある。

    第2節 マルチメディア・ソフトの製作者、使用者及び素材となる
        著作物の権利者のそれぞれに求められること
    マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物にかかわる権利処理の問題についての現状と関係者の意識は本章第1節に述べたとおりであるが、それらを更に吟味してみると次のような問題があると考えられる。

    まず、マルチメディア・ソフトの製作者の側においては、これまで著作権についてはかかわりのなかった多様な企業が参入するようになってきている一方、著作権法及びそれに基づく一般的な権利処理手続きの実際についての理解、著作物の想定される利用の内容を明確にするための努力が必ずしも十分になされていないきらいがあると考えられる。一方、権利者の側においても、既存の権利処理手続きについての一般国民に対する広報や著作物の利用方法の多様化に対応した新しい権利処理ルールの検討のための努力が必ずしも十分でないこと、また、マルチメディア・ソフトにおける具体的な著作物の利用方法が明確でないことから不安が先に立つ傾向があることが指摘される。さらに、マルチメディア・ソフトの使用者については、著作権法についての理解を一層高めることが必要であるが、そのためにはソフトの提供に際し著作権法の規定及びそれに従って許容される利用の範囲について注意喚起がなされることが重要である。

    以上を踏まえると、これからの望ましい権利処理の在り方を考えるための前提として、まず、マルチメディア・ソフトの製作者、使用者及び素材となる著作物の権利者のそれぞれについて、次のことが基本的に求められると考えられる。
    ○製作者…素材となる著作物の利用の内容を明確にし、権利者との間で必要な許諾契約を結び、ソフトの使用者に対してもその内容を明示すること。
    ○使用者…著作権法の規定に伴い、権利者により許諾された利用の範囲においてソフトを使用すること。
    ○権利者…文化的所産の公正な利用の観点から、適切かつ円滑な著作物の利用のためのルールと体制の整備を図ること。


    第3節 マルチメディア・ソフト製作時における既存の著作物に係る
        権利処理のルールの在り方
    1.契約による許諾の範囲の明確化
    製作者側において、マルチメディア・ソフトを市場等に出す際に想定しているあらゆる利用形態をできるだけ具体的に示して、製作時に権利者から許諾を得ることが望まれる。単にマルチメディア・ユースというような抽象的な文言を用いることは好ましくない。

    また、マルチメディア・ソフトの特性に鑑み、当該ソフトの使用者による複製、改変、送信等の利用行為で、当該ソフトの使用に伴って通常予想され、著作権法上権利者の許諾を要するものについても、製作者は、あらかじめ権利者の許諾を得るとともに、当該使用者に対しても明示する責任があると考えられる。
    マルチメディア・ソフトの使用者による利用行為で著作権法上権利者の許諾を要するものについて、権利者との契約に従い、あらかじめ技術的制約を設けるという方法もある。この場合も、その制約の内容を当該使用者に対して明確に示す必要がある。

    なお、契約上具体的に明示されていない利用形態については、その可否や追加報酬等について、その都度権利者と協議するとの条項を入れておくことが考えられるが、マルチメディア・ソフトから、他のメディアへの展開(紙ベースの出版、マルチメディア・ソフトに使われているキャラクターの商品化等)の可能性があるからとはいえ、それらの権利に関してすべて特定の製作者があらかじめ契約により独占してしまうことは、逆にその後の著作物等の流通、利用を阻害しかねないものであり望ましいとは考えられない。

    さらに外国の著作物を利用する場合の契約の際には、権利の内容や商慣習などの違いにより、トラブルが生じる可能性もあると考えられるため、著作物の国際的な利用関係についても十分考慮する必要がある。

    2.私的複製等に関する権利制限規定との関係
    マルチメディア・ソフトの使用者による複製等の利用行為が、著作権法上の私的複製等に関する権利制限規定に該当する場合は、当該使用者は、権利者の許諾を得ることなくそのような利用行為を行うことができる。

    しかし、例えば企業内における使用については、いかに内部的利用であっても私的複製の規定の適用はなく、また、個人による使用であっても、私的使用のための利用の範囲を逸脱し、目的外に使用されるケースもあると考えられる。

    このように、制限規定の範囲は広く解釈されがちな面があるため、ソフトの使用者に対して制限規定の内容と限界に関する注意書きを明示することが望ましい。

    もっともこれは、著作権法上の権利制限規定に基づく確認的な注意事項とすべきであり、それを超えた制限を注意書きによって課することは、その有効性自体に疑問があり、問題である。

    3.著作者人格権との関係
    著作者人格権は、譲渡できない一身専属権であり、経済的権利に基づく許諾によっても原則としては影響されない。
    そのため、マルチメディア・ソフト製作者は、通常予想される改変等の利用行為についてできるだけ具体的に示して、製作時に著作者の了解を得ておくことが必要である。

    著作者がマルチメディア・ソフトの製作時における契約において、当該ソフトの目的及び機能を十分に承知した上で経済的権利に基づく著作物の利用許諾を与えている場合には、ソフトの使用者による個人的使用における改変、その他の使用に伴って通常想定される改変については、著作者は信義則上一般に同一性保持権侵害を主張することはできなくなると解することもできる。しかし、この場合においても、通常想定されない改変について同一性保持権が働くこと、また、同一性保持権以外にも氏名表示権に関して人格権侵害が問題となりうることは当然である。いずれにせよ、ベルヌ条約第6条の2第1項(注)が規定するように、いかなる場合であっても著作者の名誉又は声望を害するような改変は認められない。

    (注)ベルヌ条約第6条の2〔著作者人格権〕
    (1)著作者は、その財産的権利とは別個に、この権利が移転された後においても、著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利を保有する。

    したがって、製作者はソフト製作時に想定されていない利用行為や著作者の名誉・声望を害するような行為が認められないことをソフトの使用者にあらかじめ明示しておくことが望まれる。

    なお、著作権が譲渡等により著作者以外の者へ移転されている場合には、製作者は著作権者に著作物の利用の許諾を得るとともに、人格権にかかわるものについては著作者の了解を得ることが必要であるが、そのような場合には、著作権者においてもその旨を製作者に教示し、著作者との間の橋渡しをするなどの協力を行うことが望まれる。

    4.製作者と権利者団体との協議
    現在までのところ、マルチメディア・ソフトの素材として著作物を利用する際には、当該ソフト製作者が個々の権利者又は権利者団体との契約によって対応しているが、既存の権利処理ルールをマルチメディア・ソフト製作における利用について、そのまま適用することには問題があり、一方、マルチメディア・ソフト製作における利用に関する使用料や許諾条件についての権利処理ルールは確立されておらず、まとまった検討もされていないという現状である。

    マルチメディア・ソフト製作における既存の著作物の利用については、著作権の保護と文化的所産である著作物の効率的な再利用の両面を考慮した適切かつ円滑な権利処理ルールが必要であり、今後、製作者と権利者のそれぞれの関係団体の間で、マルチメディアに係る権利処理の在り方について協議する場を設けることが望ましい。また、その前提として、製作者と権利者のいずれにおいても、協議の窓口となる団体を形成することが期待される。

    なお、マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物は国内のものだけでなく、外国の著作物を利用する場合も多いと考えられる。そのため、上述のような権利処理ルールの検討に当たっては、諸外国における状況を調査し参考にするとともに、我が国と外国の関係権利者団体間の権利の相互管理についても考慮する必要がある。

    第4節マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物の適切かつ円滑な権利処理ができる体制の整備
    1.大量かつ多様な著作物の利用の進展に伴う
    適切・円滑な権利処理体制の必要性
    マルチメディア・ソフトにおける著作物の利用をはじめとして、今日、情報の複製・伝達技術の発展により、大量かつ多様な著作物の利用が著しく進展している。

    このような状況に対応して、既存の著作物の適切かつ円滑な権利処理体制が整備されることは、著作物の利用範囲の拡大とともにその有効活用につながるものであり、マルチメディア・ソフト製作者などの著作物の利用者と既存の著作物の権利者の双方にとって有益であるのみならず、広く国民による文化的所産の享受に資するものである。

    このような観点からの体制整備の具体的内容としては、権利の所在情報の提供体制の整備と権利の集中管理体制の整備が考えられる。

    しかし、このような体制の整備は、著作物の分野によって事情が異なることに留意しなければならず、まず、可能な分野から早期にそのための具体的な取組が行われることが期待される。

    (1) 権利の所在情報の提供体制の整備
    著作物の利用の許諾を得ようとするときに、その権利者が誰であるかを確認し連絡をとることは、実際上多大の労力を必要とすることがある。今日のように、著作物の利用が大量かつ多様になってくると、このような困難はますます顕著になってきている。

    少なくとも権利の所在情報を提供する体制が整備されていれば、利用者が権利者を探す手間が省かれ、許諾手続きの簡素化につながることになる。また、このことは次に述べる権利の集中管理の前提ともなるものである。

    (2) 権利の集中管理体制の整備
    既存の著作物の円滑な利用という観点のみからすれば、権利の集中管理は、あらゆる著作物について統一的に行われることが望ましいということになる。
    しかし、著作権は個々の権利者の私権であり、かつ、人格的側面もあることから、次の点に留意する必要がある。
    1)権利行使は基本的には個別処理が原則であること。
    2)集中管理については、個別処理が事実上極めて困難又は不可能な場合に行われるべきものであること。
    3)集中管理は権利者の自発的意志によって行われるべきであること。
    4)人格権については集中管理になじまないこと。
    これらを踏まえると、まず、マルチメディア・ソフトの製作者などの著作物の利用者においては、具体的にどのような著作物のどのような利用について権利の個別許諾が困難であり、集中管理が必要であるかを明確に示す必要がある。

    また、権利者においては、大量かつ多様な著作物の利用の進展により、現実に個別許諾が困難になっているケースが増えているという事実を直視し、個々の権利者の利益を確保しつつ適切かつ円滑な権利処理が行えるよう、様々な方策を柔軟に検討する必要がある。

    2.権利の所在情報の提供体制の整備の具体的な在り方
     -「著作権権利情報集中機構(仮称)」の設立-
    権利の所在情報の提供体制の整備のために、本小委員会としては、「著作権権利情報集中機構(仮称)」を設立することを提唱する。これは、多様な分野の著作物に係る各権利者団体の管理している権利所在情報を統合し、それらの情報を利用者に一つの窓口で提供するシステムを構築するものであり、「著作権権利情報集中機構(仮称)」は、このようなシステムの管理、運営に当たる組織である。

    そのためには、まず、各権利者団体において管理する権利所在情報の内容を充実し、データベース化を図る必要がある。現在、音楽の著作物についてはデータベース化がかなり進んでいるが、それ以外の分野においては極めて不十分な状況にあり、各分野においても可能な限り情報の整備に取り組むことが期待される。なお、映像関係の分野では、一つ一つの映像作品にかかわる権利情報が、他の分野の著作物に比べて極めて多く、かつ、こうした情報を集めることのできる団体が現在は存在しないなどの困難な状況があるため、まず、関係者が集まって基礎的な体制づくりのための検討が進められる必要がある。

    また、これらの情報を一つのシステムに統合して利用できるようにするためには、利用者のニーズを考慮して入力すべき情報の項目等についての共通基準を定め、データベースとしての一定の体系を設定する必要がある。さらに、利用者に対する情報提供の具体的な内容、方法に応じたシステムを構成する必要がある。このようなデータベース及びシステム構成の在り方について、基礎的な調査研究が行われなければならない。その際には、権利者のプライバシーの保護、提供者のノウハウに対する考慮等も必要である。

    なお、このようなシステムの構築には、多大の労力と資金を要するものと考えられるが、マルチメディア・ソフトの製作者を含む著作物の利用者すべてにとって多大の利益のあるものであり、また、製作者等が管理している権利所在情報も多数あることから、製作者等もこのような情報提供システムの構築について積極的に協力し、早期にその実現が図れることが望まれる。

    文化庁においても、このようなシステムの構築が、今後のマルチメディア社会における新しい文化の創造・発展の基盤となり、広く国民による文化的所産の享受に資するものであるとの観点から、国として、関係者における取り組みの状況を踏まえつつ、これを推進するための施策を検討することが期待される。

    3.権利の集中管理体制の整備の具体的な在り方
    (1) 各分野における権利の集中管理体制の整備
    すべての分野の著作物について、マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に関する権利の集中管理を行う単一の団体を設立するとの考え方もあるが、分野によって著作物の性質や利用のされ方の違いから権利者の意識や集中管理の態様が異なっており、単一の団体を設立することは困難と思われる。

    したがって、まず、著作物の分野ごとの権利の集中管理団体の整備充実が図られるべきである。この場合、それぞれの分野において、その特性に応じ、まずできるところから体制の整備を進めていく必要がある。写真、美術及びグラフィックデザインの分野において、関係団体間で共同して集中管理体制の在り方の検討が始められていることは注目すべきことであり、これらのいわゆる視覚的著作物の共通した側面に着目した適切な体制が整備されることを期待する。映画については、現状では権利の集中管理は実際上困難な面があるが、まず、映画製作者の団体において、前述の「著作権権利情報集中機構(仮称)」に参画する前提として、映画にかかわる権利者情報を整備し、それを集中的に管理し、提供する体制を整えた上で、可能な集中管理の在り方について検討することが期待される。

    (2) 権利の集中管理団体における著作物の利用許諾方法の改善
    権利の集中管理団体における著作物の利用許諾の範囲、使用料については、マルチメディアその他の新しい利用形態に柔軟に対応ができるように改善を図ることが必要である。
    例えば、効率的な権利処理を進めるとの観点から、現在、支分権ごとに行っている権利処理を改めて、一連の利用形態の範囲においては、包括的な許諾を与えその対価として包括的な使用料を定めることについても検討することが期待される。

    また、人格権は集中管理になじまないことは前述のとおりであるが、一定のルールを設けて利用者の相談に応じ、著作者個人の承諾を得る必要がある場合についてあらかじめその旨と承諾を得るべき相手方を教示する体制を整えることは可能でありかつ望ましいと考えられる。
    (3) 権利の集中管理団体間の連携・協力
    以上のような著作物の分野ごとの権利の集中管理団体の整備を前提として、関係権利者団体間で合意ができればその範囲において、例えば、現在、個人向けビデオレンタル等の許諾において、関係する文芸、脚本、音楽などの権利者団体が連名で権利行使しているように、マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物の利用行為について、一定のルールに基づき連名で権利行使をする方法を採用することは可能であり、各分野の権利の集中管理団体間でこのような連携・協力を推進していくことが望ましいと考える。

    第5節 マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の
        著作物の権利の集中管理に関する制度上の課題
    マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題については、第3節及び第4節に述べたように、当面は団体間の協議や当事者間の契約を通じて、望ましい権利処理ルールを確立していくとともに、権利者団体が製作者の協力を得つつ任意の集中管理を進めていくことが望まれるが、特に権利の集中管理については、任意の集中管理ではアウトサイダーの問題が常に残るという問題がある。著作権法上、一定の報酬請求権については指定団体等を通じてのみ権利行使を認める制度があるが、将来的には、例えば、個別管理の困難な著作物の特定の利用方法については、一般的に上記制度を導入することができるようにすることや、現在の裁定制度の見直しを図ることも考えられる。なお、権利の集中管理団体の活動に関しては、仲介業務法が存在するが、その対象範囲、内容が現在の著作物の利用の実態等に適合しているかどうか疑問があり、仲介業務法の見直しを検討すべきであるとの指摘もある。これら権利の集中管理の制度全体の在り方については、マルチメディア・ソフト製作のみの問題ではなく、著作物の利用全般に関連する大きな問題であるため、別途適切な場を設けて検討することが適切であろう。



    おわりに
    以上のとおり、本小委員会は、マルチメディアに関する著作権問題について問題の所在を洗い出すとともに、まず、マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題について検討を行った。その結果、第2章第3節及び第4節に示すように、運用上の条件設備によって当面対応ができると考えられるものについて、その望ましい方向についての考え方を明らかにするとともに、同章第5節に示すように、権利の集中管理に係る制度上の問題全般について、別途検討の場を設ける必要があることを指摘したところである。
    また、マルチメディア・ソフトに係る権利に関する制度上の問題については、情報処理技術の発展、普及の状況を見定めつつ、第1章第3節1.に掲げた事項を中心に、本小委員会において引き続き検討を進め、結論を得た段階で公表することとする。



    (参考)
    著作権審議会マルチメディア小委員会委員名簿

    主査半 田 正 夫 青山学院大学教授
    大 野 澄 一 パイオニアLDC(株)映像開発部部長代理
    加 戸 守 行 日本芸術文化振興会理事長
    川 井   健 創価大学教授
    北 川 善太郎 京都大学教授
    齊 藤   博 筑波大学教授
    佐 藤 政 次(社)日本書籍出版協会理事
    反 町 洋 一(株)三菱総合研究所考監
    丹 野   章 日本写真家協会理事
    辻 田 耕 三(株)NHKエンタープライズ総務部長
    中 村 凱 夫(社)日本音楽著作権協会理事
    中 山 信 弘 東京大学教授
    名 和 小太郎 新潟大学教授
    西 川 秀 男 日本電子出版協会副会長
    浜 野 保 樹 放送教育開発センター助教授
    福 島 哲 彌 大日本印刷(株)知的財産権本部副本部長
    松 田 政 行 日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
    三 次   衛 富士通(株)顧問
    吉 岡 康 雄 ソニー(株)
     法務・知的財産本部法務部著作権室室長


    著作権審議会マルチメディア小委員会審議経過
    (平成4年3月30日著作権審議会第66回総会でマルチメディア小委員会の設置を決定)

    第1回会議 平成4年6月4日
    審議の進め方について
    第2回会議 7月3日
    マルチメディア等の現状及び今後の可能性と課題について
    (ヒアリング及び討議)
    第3回会議 8月19日
    電子出版の現状と課題について(ヒアリング及び討議)
    第4回会議 9月18日
    1)マルチメディア産業の現状と課題について(1)(ヒアリング及び討議)
    2)「マルチメディア著作権(松田委員提出)」について
    第5回会議 10月22日
    1)マルチメディア産業の現状と課題について(2)(ヒアリング及び討議)
    2)データベースとマルチメディアについて(ヒアリング及び討議)
    第6回会議 12月18日
    マルチメディア・ソフト等への素材提供に伴う権利処理について
    (ヒアリング及び討議)
    第7回会議 平成5年2月10日
    今までの検討内容及び今後の進め方について
    第8回会議 3月19日
    権利の集中処理の現状把握について
    第9回会議 4月22日
    1)マルチメディア・ソフト製作者側から見た問題点について
     (ヒアリング及び討議)
    2)マルチメディア・ソフト製作時における権利処理の実態について
     (ヒアリング及び討議)
    第10回会議 6月11日
    マルチメディアに利用される著作物の権利者から見た問題点について
    (ヒアリング及び討議)
    第11回会議 7月23日
    マルチメディア小委員会第一次報告書
    ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(骨子案)について
    第12回会議 8月31日
    マルチメディア小委員会第一次報告書
    ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(案)について
    第13回会議 9月22日
    マルチメディア小委員会第一次報告書
    ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(案)について
    第14回会議 10月22日
    マルチメディア小委員会第一次報告書
    ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(案)について


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