はじめに
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著作権審議会第1小委員会においては、平成5年7月から、時代の進展等を踏まえつつ著作権制度の在り方について総合的な検討を進め、平成6年4月25日に当面の検討課題を取りまとめた。この検討課題の一つとして、権利保護の実効性の確保及び他の知的所有権法制との整合性等の観点から、執行や罰則に関する規定等に関し次のような課題について具体的な検討を行う必要がある旨の提言が行われている。 |
1) | 損害立証書類提出命令規定の創設について |
2) | 罰金額の引上げについて |
3) | コピー・プロテクション解除装置の製造・販売等について規制を設けるべきかどうか |
この提言を踏まえ、平成6年7月に第1小委員会の下に本専門部会が設置された。本専門部会においては、民事上の救済規定及び刑事上の制裁規定の整備について鋭意検討を進めてきたところであり、この度上記1)及び2)に係る課題並びに法人重課等について意見の取りまとめを行った。上記3)に係る課題については、今後引き続いて本専門部会において検討を行うこととしている。 |
I 民事上の救済規定の整備
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1.損害立証書類提出命令規定について |
(1)現状における問題点 |
著作権法においては、著作権等の侵害があった場合に、損害額の立証が必ずしも容易ではないことにかんがみ、権利者保護の見地から、侵害する者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者等が受けた損害の額と推定する旨の規定が設けられている(第114条第1項)。特許法等他の知的所有権法にも同様の規定が設けられているところである。
しかし、実際に本規定を用いて損害額を請求する場合においても、侵害者が侵害行為によりどれだけの利益を受けているかを立証する必要があり、そのためには侵害物件に関する複製・頒布の数量や複製物の原価等損害額の計算に必要とされる諸事項を知る必要がある。
他の知的所有権法制を見ると、特許法第105条、実用新案法第30条、意匠法第41条、商標法第39条において、昭和34年における法改正により、「裁判所は、…当事者の申立により、当事者に対し、当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる」旨の規定が整備されており、当事者の立証の負担の軽減が図られているところである。
また、昭和60年に制定された半導体集積回路の回路配置に関する法律第26条においても同様の規定が整備されており、さらに不正競争防止法においても平成5年の全面改正に際し同様の規定が設けられている。 |
(2)民事訴訟法における文書提出命令規定との関係 |
一般に、民事訴訟法における書類の提出命令については、同法第312条において、 |
1) | 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき、 |
2) | 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき、 |
3) | 文書が挙証者の利益のために作成され又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成されたときには、これらの文書の所持者はその提出を否定できないことになっている。そして、これらの各要件に該当しない場合においても損害額の計算に要する書類の提出を求めることができるよう、同条の特則として前述の特許法第105条等の書類提出命令規定が整備されている。 |
特許法第105条等の規定に基づく書類提出命令に関しては、文書不提出の効果に関する民事訴訟法第316条の規定(「当事者カ文書提出ノ命ニ従ハサルトキハ裁判所ハ文書ニ関スル相手方ノ主張ヲ真実ト認ムルコトヲ得」)や、文書使用妨害の効果に関する同法第317条の規定(「当事者カ相手方ノ使用ヲ妨クル目的ヲ以テ提出ノ義務アル文書ヲ毀滅シ其ノ他之ヲ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタルトキハ裁判所ハ其ノ文書ニ関スル相手方ノ主張ヲ真実ト認ムルコトヲ得」)の適用がある。 |
(3)著作権法への導入について |
今日、情報化の進展とともに、著作物の利用が著しく多様化し量的にも飛躍的に規模が拡大している状況にある。また、コンピュータ・プログラムやデータベース等新しいタイプの著作物が急速に開発され、社会の様々な分野に普及している状況にあり、今後さらにマルチメディアに係る著作物など技術の進展に対応して新たな種類の著作物が開発され流通していくことになるものと予想される。
このような状況にかんがみ、今後、著作権に関する法的紛争も多様かつ複雑になることが想定され、紛争の円滑な解決のためにも、又紛争の未然の抑止のためにも、紛争解決に係る諸規定の整備が求められるところである。したがって、上記にみたように工業所有権法制において既に導入されている損害立証書類提出命令に係る規定、すなわち、当事者の申立てにより裁判所が当事者に対し、当該違反行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができ、相手方は正当な理由がある場合を除きこれを拒めないものとする規定を、著作権法においても導入することが適切である。 |
2.その他 |
1.で述べたような損害立証書類提出命令規定の導入のほか、権利の実効性をより一層確保するため、昭和41年に公表された「著作権及び隣接権に関する法律草案」で示されていた『権利者は侵害者に対して通常受けるべき金銭の額の倍額に相当する額を損害額として請求できる』との規定を設けるべきではないかとの意見があり、この点に関して、このような規定を設けることは、著作権侵害に対する抑止力の確保、著作権を尊重するという社会規範の確立等の観点から、有益かつ効果的であるとの指摘があった。
しかし、このような制度の導入は、損害賠償制度全体に関わる大きな問題であり、また、他の知的所有権法制との均衡等の問題もあることから、諸般の情勢の変化を踏まえつつ今後さらに慎重な検討を要する課題である。 |
II 刑事上の制裁規定の整備
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1.罰則規定の強化について |
(1)罰則規定の現状 |
現行著作権法においては、著作権等の侵害の場合における罰則は、「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と規定されている(第119条)。旧著作権法においては、「2年以下の懲役又は5万円以下の罰金」とされていたが、昭和41年の著作権制度審議会答申における「著作権の侵害および人格権の侵害を罪とすることその他罰則については、おおむね現行法のたて前を維持するものとするが、両罰規定を設けるとともに、工業所有権の侵害の罪との均衡を考慮して刑を重くすべきものとする。」との提言を踏まえ、現行法制定時に「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」と定められた。その後、昭和59年に、物価の上昇や被害額の大きい事犯の増加等の状況を踏まえ、罰金額を「30万円以下」から「100万円以下」に引き上げ現在に至っている。
前回改定からおよそ10年を経過しているが、この間、情報化の進展を背景として著作物の利用態様が量的にも質的にも変化し、権利者の権利利益の確保の面のみならず、情報化社会の法的基盤を整備する面からも、著作権法の下における法秩序の形成が従来にも増して重要な課題になっている。 |
(2)他の知的所有権法制における罰則規定の状況 |
他の知的所有権法制における罰則規定をみると、特許法及び商標法では、特許権や商標権の侵害について、従来「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」であったものが、平成5年の改正により「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」となっている。
同様に、実用新案法及び意匠法では、実用新案権や意匠権等の侵害について、従来「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」であったものが、平成5年の改正により「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」となっている。
また、不正競争防止法においては、従来「3年以下の懲役又は20万円以下の罰金」であったものが、平成2年に罰金額の上限が20万円から50万円に、さらに平成5年には50万円から300万円に引き上げられている。
なお、現在の著作権法における罰金額の改定が行われた翌年の昭和60年に制定された半導体集積回路の回路配置に関する法律においては、著作権法と同様に「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」とされている。
以上のように、近年において罰金額の見直しが行われた他の知的所有権法制における罰金額は、現在の著作権法の3培ないし5培の額で定められている。 |
(3)罰金額の引上げ等について |
ア 罰金刑について |
まず第一に、罰金刑に関しては、1)現行の「100万円以下」という額に改定してから約10年を経過しており、また、2)特許権侵害の場合の「500万円以下」との均衡は言うに及ばず、実用新案権や意匠権の侵害の場合の「300万円以下」と比しても均衡を欠いている、といて状況にある。したがって、侵害に対する抑止力を確保するとともに、知的所有権法制全体の中におけるバランスを適切に図るという観点から、著作権法における罰金刑の多額(罰金刑の金額の上限)をしかるべき額に引き上げることが適切であると考える。 |
イ 懲役刑について |
第二に、懲役刑については、大きく分けて次のような二つの意見があった。 |
a | 懲役刑の引上げの当否に関しては、懲役刑の上限を3年に引き上げた昭和45年の現行著作権法制定以降における違反の実態、著作権保護の必要性についての一般的意義、違反に対する科刑の実情(特に、本来重い刑を科すべきであるが、刑の上限が定まっているためにその上限までしか科すことができないというケースがあるかどうか)等に照らし、可罰性の程度に相当の変動があったかどうかを慎重に検討すべきである。 |
b | 現行著作権法を制定した際に「2年以下の懲役」から「3年以下の懲役」に引き上げて以来、既に20年以上が経過している。その間において、小説や絵画、楽曲などの伝統的な著作物の他に、コンピュータ・プログラムやデータベースなど新たな著作物が急速に開発され社会の様々な分野に普及するに及び、これらの著作物は我が国の産業活動等を支える重要な役割を果たすようになっており、また、利用形態の面でもCATVやビデオテックス等のニューメディアの発達やビデオソフトやCD-ROMなどのパッケージ系利用技術が著しく発達してきている。今後さらにマルチメディアの発達に伴い、著作物の作成及び利用の面で新たな展開が想定されている。
このように、現行法制定時に比して、著作権法が規律する対象が大きく変動しており、懲役刑により抑止又は制裁される対象として想定される侵害行為も変化していると考えられる。情報化社会においては、著作物の創作を促進するため著作者の権利を十分に保護するとともに、著作権保護に係る秩序を形成することがますます重要となる。
また、特許法の「5年以下の懲役」と比較しても、著作権法の保護法益がそれより下回るとする合理的理由も特にないのではないかと考えられる。
以上のところから、懲役刑の上限についてもしかるべき年限に引き上げる必要がある。 なお、経済的な利益の面に着目している著作権侵害と人格的な利益の面に着目している著作者人格権侵害では自ずから保護法益を異にしており、個々の保護法益ごとに検討を行う必要がある。 |
上記のように、懲役刑の引上げについては、慎重論及び積極論の両者の意見が出され、本専門部会において一つの結論を得るには至らなかった。今後、これら両論を踏まえながら、保護法益の現状、侵害行為に対する抑止力、他の知的所有権法制とのバランスなどを総合的に勘案して、適切な対応を行うよう努める必要がある。 |
2.法人重課規定について |
(1)両罰規定について |
著作権法第124条第1項においては「法人の代表者(略)又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第119条から第122条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。」と規定されている。このような両罰規定は、特許法等他の知的所有権法制にもみられるところである(特許法第201条、実用新案法第61条、意匠法第74条、商標法第82条)。
これらの現行の両罰規定においては、一般に法人等業務主に対する罰金刑の多額を、自然人である従業者等行為者の違反行為に対する罰金刑の多額と連動して定める形態となっており、業務主に対しては、行為者に係る罰金刑の多額を超える罰金刑を科すことができない。このため、法人等業務主に対し、十分な抑止力となり得る罰金刑を科すことができない場合があるという問題が指摘されている。 |
(2)法制審議会における検討結果について |
罰金額の多額の連動について、法制審議会(法務大臣の諮問機関)刑事法部会の下に設けられた財産刑検討小委員会において検討が行われ、「両罰規定の在り方について」との小委員会報告が平成3年12月2日に同部会において了承された。同報告においては、 |
1) | 両罰規定の沿革、 |
2) | 業務主に対する処罰と従業者等に対する処罰は、根拠が異なること、 |
3) | 法人等業務主に対する罰金刑の多額を従業者等に対する罰金刑の多額とのみ比較するのではなく、自由刑を含めた法定刑全体との比較において、法人等業務主に対する罰金刑の多額を決めるのが相当であること、 などの観点から法人等に対する罰金額の多額を行為者に対する罰金額の多額に連動させなければならない必然性はない旨を提言している。
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さらに、法人重課を導入する場合の法人等業務主に対する適正な罰金額の水準については、当該業務主に対する抑止力として期待できる金額はいくらかという点を基本とすべきであり、具体的金額の決定に当たっては、法人等業務主と自然人である従業者等の資力の格差を基礎としつつ、当該法令の趣旨・目的、違反行為の性質、対象としている業務主の規模、諸外国における同種行為に対する刑事罰・制裁金の内容等を総合的に考慮し、適正・妥当な金額が決められるべき旨を提言している。 |
(3)既に法人重課の規定を導入している法制例 |
1) | 平成4年6月に証券取引法において相場操縦的な行為や損失補てん等に係る法人の罰金の上限を300万円から3億円に、100万円から1億円に引き上げた。 |
2) | 平成4年12月に独占禁止法において私的独占又は不当な取引制限等に係る法人又は使用者等に対する罰金の上限を500万円から1億円に引き上げた。 |
3) | 平成5年5月に不正競争防止法において、法人の業務活動に関連して行われる不正競争に対する抑止効果を確保するという観点から法人に対する罰金額を1億円に引き上げた。 |
(4)著作権法への導入について |
著作権法において、法人重課の規定を導入することの適否については、次のような意見が出された。 |
a | 侵害行為の抑止という観点からは、自然人に比して一般に資力の高い法人に対してはそれ相当の罰金刑を科さなければ実効を期し得ないので、法人には別途重い罰金刑を科すべきである。 |
b | 現在のところ法人重課規定が導入されているのは、取引の公正性に直接に重大な影響を与える違反行為や市場における競争の実質的制限をもたらす重大な違反行為など経済社会全体の秩序を破壊するような行為の重大性に着目しているものと考えられ、私的財産権の侵害については、その導入の可否に関し刑事法制上の観点からさらに検討が必要である。また、例えば特許法等についても未だ導入されていない段階であり、知的所有権制度全体の均衡を考慮すべきである。 |
c | 現在の罰金刑では法人の違反行為を抑止できないという実態があるのか否かという面に配慮すべきである。 |
上記のように、法人重課規定の導入については、多様な意見が出され、本専門部会において一つの結論を得るには至らなかった。この問題は刑事法制全体に関わる問題であり、また、他の知的所有権法制にも影響を及ぼすものであるので、上記意見の趣旨を十分に踏まえながら、今後さらに検討を重ね対応することが望まれる。 |
おわりに
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本専門部会に検討を委ねられた事項である損害立証書類提出命令規定の整備、罰金額の引上げについては一致した結論を見たところである。一方、懲役刑の引上げ及び法人重課等については、民事及び刑事法制全体の見地から、あるいは他の知的所有権法制との均衡の観点等から、今後の社会情勢の変化等を踏まえつつさらなる検討が必要である課題とされた。本報告を踏まえ、文化庁において適切な対応を図ることが望まれる。 |
【資料】 |
1.著作権審議会第1小委員会「今後の検討の進め方について」(抄) (平成6年4月25日)
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1.趣旨 |
著作権審議会第1小委員会は、近年の技術の発達に伴う著作物利用形態の多様化や、著作権をめぐる国際的な動向等を踏まえ、著作権制度の在り方について総合的に検討を行うため、昨年7月より検討を開始した。当小委員会では、これまで、関係者からのヒアリングを行うなど、具体の審議に先立ち広く著作権制度上の諸問題の把握に努めてきたが、このたび、今後の検討の進め方について審議した結果、当面の検討課題について、以下のようにとりまとめた。 |
2.検討課題 |
検討課題の選択に当たっては、著作物利用の実態や国際的動向等を踏まえ、課題の成熟度、問題解決の緊急性等を勘案して整理を行った。その結果、今後、著作権制度の在り方に関し、当小委員会等において当面審議すべき具体的な検討課題としては、概ね、以下の(1)~(6)の事項を取り上げることが適当であると考える。 |
(2)権利の執行・罰則等関係 |
権利保護の実効性の確保、他の知的所有権法制との整合性等の観点から、権利の執行や罰則に関する規定等に関し、次のような事項について具体的な検討を行う必要がある。 |
1) | 損害立証証拠提出命令規定の創設について |
2) | 罰金額の引上げについて |
3) | コピー・プロテクション解除装置の製造・販売等について規制を設けるべきかどうか。 |
3.検討の進め方 |
(2)第1小委員会において検討を行う課題 |
上記2に掲げる検討課題のうち、権利の集中管理以外の事項については、第1小委員会において、適宜専門部会等を設けて検討を行うこととする。
検討の順序は、まず権利の執行・罰則関係を取り上げることとし、早急に専門部会を設置して検討を開始する。
その他の事項については、WIPOにおける検討の状況や関係者の取組状況等を踏まえて、適宜検討を行うこととする。 |
2.損害立証書類提出命令規定について
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(1)参照条文 |
ア.著作権法(損害の額の推定等) |
第114条 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。 |
2 | 著作権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。 |
3 | 前項の規定は、同項に規定する金額をこえる侵害の賠償を妨げない。この場合において、著作権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。 |
イ.民事訴訟法 |
[書証の申出] |
第311条 書証ノ申出ハ文書ヲ提出シ又ハ之ヲ所持スル者ニ其ノ提出ヲ命セムコトヲ申立テ之ヲ為スコトヲ要ス |
[文書提出義務] |
第312条 左ノ場合ニ於テハ文書ノ所持者ハ其ノ提出ヲ拒ムコトヲ得ス |
一 | 当事者カ訴訟ニ於テ引用シタル文書ヲ自ラ所持スルトキ |
二 | 挙証者カ文書ノ所持者ニ対シ其ノ引渡又ハ閲覧ヲ求ムルコトヲ得ルトキ |
三 | 文書カ挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラレ又ハ挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタルトキ |
[文書提出命令] |
第314条 |
1) | 裁判所カ文書提出ノ申立ヲ理由アリト認メタルトキハ決定ヲ以テ文書ノ所持者ニ対シ其ノ提出ヲ命ス |
2) | 第三者ニ対シ文書ノ提出ヲ命スル場合ニ於テハ其ノ第三者ヲ審訊スルコトヲ要ス |
[当事者の文書不提出の効果] |
第316条 当事者カ文書提出ノ命ニ従ハサルトキハ裁判所ハ文書ニ関スル相手方ノ主張ヲ真実ト認ムルコトヲ得 |
[当事者の文書使用妨害の効果] |
第317条 当事者カ相手方ノ使用ヲ妨クル目的ヲ以テ提出ノ義務アル文書ヲ毀滅シ其ノ他之ヲ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタルトキハ裁判所ハ其ノ文書ニ関スル相手方ノ主張ヲ真実ト認ムルコトヲ得 |
ウ.特許法(書類の提出) |
第105条 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立により、当事者に対し、当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。 |
エ.実用新案法(特許法の準用) |
第30条 特許法第103条(過失の推定)、第105条(書類の提出)及び第106条(信用回復の措置)の規定は、実用新案権又は専用実施権の侵害に準用する。 |
オ.意匠法(特許法の準用) |
第41条 特許法第105条(書類の提出)及び第106条(信用回復の措置)の規定は、意匠権又は専用実施権の侵害に準用する。 |
カ.商標法(特許法の準用) |
第39条 特許法第103条(過失の推定)、第105条(書類の提出)及び第106条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用実施権の侵害に準用する。 |
キ.半導体集積回路の回路配置に関する法律(書類の提出) |
第26条 裁判所は、回路配置利用権又は専用利用権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。 |
ク.不正競争防止法(書類の提出) |
第6条 裁判所は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる、ただし、その書類の所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。 |
ケ.商法 |
[商業帳簿の提出] |
第35条 裁判所ハ申立ニ依リ又ハ職権ヲ以テ訴訟ノ当事者ニ商業帳簿又ハ其ノ一部分ノ提出ヲ命ズルコトヲ得 |
(2)経緯 |
ア.特許法、実用新案法、意匠法、商標法 |
特許法第105条は、昭和34年の特許法改正により、特許権者の侵害訴訟における計算についての主張立証を容易ならしめるための規定として新設されたものである。
実用新案法30条、意匠法第41条、商標法39条についても、同様の趣旨により、昭和34年の改正により新設されたものである。 |
イ.半導体集積回路の回路配置に関する法律 |
同法第26条は、昭和60年の同法制定時から設けられている規定であり、趣旨は、特許法等の場合と同様である。 |
ウ.不正競争防止法 |
同法第6条は、平成5年の同法の全面改正の際に、上記特許法等の場合と同様の趣旨により新設されたものである。 |
〈経緯〉 平成2年に、罰金額の上限を20万円から50万円に、平成5年に50万円から300万円に改正した。 |
(2)法人重課規定関係 |
ア.両罰規定 |
(ア)著作権法 第124条 法人の代表者(法人格を有しない社団又は財団の管理人を含む。)又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関し、第119条から第122条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。 |
(イ)特許法(両罰規定) |
第201条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第196条第1項若しくは第2項、第197条又は第198条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。 |
(ウ)実用新案法(両罰規定) |
第61条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第56条第1項、第57条又は第58条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。 |
(エ)意匠法(両罰規定) |
第74条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第69条第1項、第70条又は第71条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。 |
(オ)商標法(両罰規定) |
第82条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第78条から第80条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。 |
イ.法人重課規定 |
(ア)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 |
第95条 |
1) | 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。 |
| 一 | 第89条 1億円以下の罰金刑 | 二 | 第90条、第91条(第5号を除く。)、第91条の2又は第94条 各本条の罰金刑 |
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2) | 法人でない団体の代表者、管理人、代理人、使用人その他の従業者がその団体の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その団体に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。 |
| 一 | 第89条 1億円以下の罰金刑 | 二 | 第90条、第91条第1号、第6号若しくは第7号(第1号又は第6号に係る部分に限る。) 又は第91条の2第1号、第2号、第5号若しくは第9号 各本条の罰金刑 |
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(イ)証券取引法 |
第207条 |
1) | 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。 |
| 一 | 第197条第1号から第3号まで又は第8号 3億円以下の罰金刑 | 二 | 第198条(第8号を除く。)又は第199条第1号の6 1億円以下の罰金刑 | 三 | 第197条第4号から第7号まで、第198条第8号、第199条(第1号の6を除く。)、 第200条、第205条又は前条 各本条の罰金刑 |
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(ウ)不正競争防止法 |
第14条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して1億円以下の罰金刑を、その人に対して同条の罰金刑を科する。 |