○第3小委員会(ビデオ関係)報告書
    昭和48年3月 文化庁



    目 次
    はじめに
    第1章総論

     1 ビデオと著作権法制
     2 ビデオ産業の現状と将来
     3 問題点の検討にあたつて
    第2章著作権に関する諸問題

     1 ビデオ機器による著作物等の複製
     2 ビデオ・ソフトの著作権
     3 ビデオ・ソフトへの著作物利用
    (参考)

    1 著作権審議会第3小委員会(ビデオ関係)委員名簿

    2 著作権審議会第3小委員会(ビデオ関係)審議経過



    はじめに
    現代は、いわゆる情報化の時代といわれ、新聞、雑誌、映画、ラジオ、テレビ等のマス・コミをはじめ、レコード、テープ、写真、スライド、CATV等多種類の情報伝達手段が発達。普及し、情報の量は加速度的に増大している。

    最近、これらの情報伝達手段のほかに、新しい映像情報伝達手段としてのビデオに対する関心が高まりつつあり、今後の情報化の進展に即して重要な役割を果たすことが期待され、関係者の注目を集めている。

    ビデオは、その利用者の好みの時間に、好みの場所において、好みの情報を、比較的手軽に、かつ、安価に提供することができるという機能を有し、従来の映画・テレビに代表される映像情報や他の文字情報、画像情報等と異なる特色を有する新しい情報の媒体としての意義をもつものといえよう。今後の社会における価値観の多元化、思考様式・行動様式の多様化、余暇時間の増大、教育システムの開発等に伴つて、高度の選択制を有する情報の媒体としてのビデオに対する需要は、近い将来大幅に増大することが予測されている。

    ビデオの利用は、必然的に著作物をはじめ、実演、レコードおよび放送の利用に波及することが考えられる。さきに衆議院文教委員会においては、このことを予測して、昭和45年4月、著作権法案の審議に際し、「今日の著作物利用手段の開発は、いよいよ急速なものがあり、すでに早急に検討すべきいくつかの新たな課題が予想されるところである。よつて、今回改正される著作権制度についても、時宜を失することなく、著作権審議会における検討を経て、このような課題に対処しうる措置をさらに講ずるよう配慮すべきである。」旨の附帯決議を行なつており、参議院文教委員会においても同趣旨の附帯決議を行なつているところである。

    著作権審議会(中川善之助会長)においては、このような状況のもとに、さしあたり、コンピユーターおよびビデオに関連する著作権問題について検討することを緊要と考え、それぞれの問題について検討する小委員会を設置して慎重に審議を進めてきた。ビデオに関連する著作権問題を検討するための当委員会は、著作権審議会第三小委員会(稲田清助主査)として、昭和47年3月以来1年間にわたり審議を行なつたが、このたび、わが国におけるビデオに関連する著作権の諸問題についての検討の結果をまとめたので、ここに報告するものである。

    なお、第1章総論の部分中「2 ビデオ産業の現状と将来」は、主として昭和47年4月に発表された電子機械工業会の「ビデオ調査委員会中間報告書」(昭和46年12月調査)に基づくものであり、同会に対し感謝と敬意の念を表明する次第である。



    第1章 総論
    1 ビデオと著作権法制
    ビデオは、現在世界的にも注目を集めている新しい情報媒体であり、それが媒介する情報を通じて、人間の知的想像活動と深いかかわりのある法制度である著作権法制と密接な関連を有するものである。

    ビデオ・カセット、ビデオ・デイスクなど種々の名称で呼ばれるビデオ・パツケージは、ハードウエアとしてのビデオ機器に対比してビデオのソフトウエアであるといわれている。これを略称したビデオ・ソフト(国際的にはビデオグラムという概念を用いることが多い。)は、テレビジヨン受信装置により再現するために作成された音および影像から成る視聴覚的なものであつて、映画的著作物の製作過程と類似の過程により新たな固定物として製作する(映画的ビデオグラムともいわれる。)ことも可能であり、また、テレビ放送や映画の上映を録音・録画し、あるいは他のビデオ・ソフトを複製することにより製作する(ビデオ・コピーともいわれる。)ことも可能である。製作後は、頒布され、私人・企業・教育施設等によりくり返し使用されることができるし、また、テレビ放送や有線放送によつて利用することもできる。

    このような製作・流通・利用の過程の中において、原著作者をはじめ、ビデオ・ソフト製作者、映画製作者、実演家、レコード製作者、放送事業者等の地位が当然考慮されなければならない。

    しかしながら、現行の著作権条約をはじめ、各国の著作権法制においては、特にビデオとして特定された分野における完備された法制を有しない。これは、ビデオが最近において開発され始めた機器であり、現行の諸法制はいずれもその存在を前提として立案されたものではなく、わが国の著作権法も、もとよりその例外ではない。また、ビデオは現在まだ開発・普及の途上にあり、その将来の製作・流通・利用の面における定着した態様について必ずしも明確な想定を行ないがたい面のあることも考慮されなければならないであろう。したがつて、ビデオは、現在、各国において、映画的著作物(映画に類似する方法で表現された著作物を含む。)として著作権により保護され、ないしは単なる画像・音の連続物として隣接権により保護されるとされている。

    今後におけるビデオの広範な普及に伴い、ビデオ・ソフトの著作権をはじめとして諸種の権利の保護が大きな課題となることは明らかであるが、われわれとしては、ビデオの未来像や各国の諸法制などについても可能な限り考慮を払いつつ、ビデオをめぐる現行法制の運用および将来のあるべき法制について考察を加えることとした。


    2 ビデオ産業の現状と将来
    (1)ビデオの沿革
    ビデオ機器は、昭和31年のアメリカ合衆国のRCAの公開に続いて同年アンペツクスが磁気を利用した放送用VTR(Video Tape Recorder)の開発に成功し、実用化したことからその歴史が始まるが、わが国にはその翌年すでに輸入され、昭和33年には国産第1号も試作されている。その後は主として放送用、工業用のものが開発されていたが、昭和39年にソニーが20万円を下まわる一般家庭用VTRを発売し、一部の家庭さらには視聴覚教育のための教材用として学校等に進出を始めた。

    昭和44年には日本ビクター、松下電器、ソニーの三社からカセツト式カラーVTRがあいついで発表され、他社の新機種もその後続々と開発されるようになつた。懸案であつた規格統一の問題も、電子機械工業会を中心に順次解決を見てきている。

    録画・再生用のVTRとは別に、電子を利用した再生専用のEVR(Electronic Video Recording)が昭和42年アメリカ合衆国のCBSで開発され、わが国でも、日立製作所、三菱電機が昭和46年、販売を開始しており、昭和47年には、日本EVRというビデオ・ソフト複製の専門会社が初めて日本で設立されたこともあり、VTRとともに今後さらに発展することが予想されている。

    そのほか、EBR(Electron Beam Recording)、SV(Selecta Vision)、VD(Video Disk)等が次々と開発されている。

    一方、ビデオ機器の開発、販売に伴つて、昭和45年ごろから、「10年後には5,000億産業」という予測もあつて、放送、映画、出版、レコード関係の会社をはじめ多くの会社がビデオ会社を設立し、新しい企画によるビデオ・ソフトの製作、旧作映画のビデオ・ソフト化等種々のビデオ・ソフトの製作を行なつた。

    (2)ビデオの現状
    「ビデオ調査委員会中間報告書」によつてビデオの現状をみると、
    (ア)まず、ビデオ企業として出荷実績をあげている企業は、ビデオ機器メーカー12社、ビデオ・ソフト・メーカー20社、ビデオ・ソフト・プロダクシヨン11社、その他18社で合計61社となつている。
    (イ)ビデオ・ソフト企業への出資者の比率をみると、最も多いのが放送関係で35%、次いで個人の14%、以下、映画、出版、電機関係の各8%、音楽・新聞関係各5%となつている。
    (ウ)ビデオの利用分野は、企業用が最も多く、次いで業務用、学校用、個人用の順となつている。
    (エ)ビデオ・ソフトの利用目的は趣味娯楽45.3%、教育24.2%、PR11.2%以下医学、一般教養の順となつている。(日本ビデオ協会の発行している「ビデオ・ソフト作品目録」によれば、企業経営・職場教育用、産業教育・一般教育用、学校教育・語学教育用、暮らしの知恵、医学・保健衛生・育児用、こども向け、報道用、趣味、教養文化、芸能文化、音楽、スポーツ、娯楽一般用と分類され、さまざまなビデオ・ソフトが製作されている。)
    (オ)ビデオ・ソフトの内容については、既存素材のビデオ・ソフト化62.4%、自主製作37.6%となつており、既存素材を利用したものが多い。
     さらに、昭和47年5月現在においては、学校および社会教育施設におけるビデオ機器の普及状況の調査(文部省調査)結果によると高等学校では約3分の2の学校がビデオ機器を所有し、昭和44年の調査と比べると約4倍の普及率を示している。中学校および県立図書館では、それぞれ4分の1がビデオ機器を所有している。そのほか、幼稚園、小学校、公民館も前回調査に比べ著しい伸びを示している。
    一方、ビデオ機器の生産状況(通商産業省調査)を見ても、昭和46年が約4万9,000台、生産価格総額約93億円であるのに対し、昭和47年においては約11万4,000台、生産価格総額約175億円となり、前年の2倍に近い実績になつている。

    (3)ビデオの将来の予測
    上記の「ビデオ調査委員会中間報告書」による昭和47年4月におけるその後の需要の予測によると、ビデオ機器は、昭和48年ごろまでは、カセツト化、カートリツジ化された録画・再生用VTRが中心となり、昭和49年ごろには再生専用のプレーヤーの市場が拡大し、昭和50年ごろには、安価なビデオの実用化、潜在ホーム・ユース・ニーズの顕在化、カラーテレビの第二次需要期に当たることなどの諸条件が重なつて、そのホーム・ユースのための需要が急カーブで増大し、飛躍的に発展するものと予測され、昭和51年末には全世帯の6~11%にビデオが普及することが予想されている。

    また、ビデオ機器の需要の伸びとともに、ビデオ・ソフトの需要も本格化するものと予測され、昭和48年ごろまでは、上記のとおり録画・再生用VTRが普及すると予測されるところから、既成のビデオ・ソフトよりもむしろ生テープの需要が多いと考えられ、昭和49年以降は、再生専用のプレーヤーが普及すると予測されるところから、ビデオ・ソフトのコストダウンとあいまつてその需要は増大するものと予想されている。

    ビデオ産業については、まだ不確定要素も多く、以上の予測どおりに発展するかどうかは必ずしも明らかでないが、最近においても、さまざまな機種の開発、大規模なプロセシング会社の設立などもあり、前述のようにビデオ機器の普及も着実に進んでいるところから、今後における発展をじゆうぶん予想することができる。


    3 問題点の検討にあたつて
    当委員会は、最近におけるビデオ機器の発達およびビデオ・ソフトの普及の実情にかんがみ、ビデオに関連する著作権問題を検討し、制定後間もない著作権法ではあるが、立案段階においてビデオ産業の将来をじゆうぶん予測することができなかつたことに由来する法制上の問題と実務上の取扱いの方途について、問題点の所在をさぐり、これを整理することを目的として、審議を行なつた。したがつて、各問題点ごとに必ずしも最終的結論を得ることは求めず、一応の見解を表明することにとどめ、特に今後の法改正等の措置について積極的提案を行なうには至らなかつた。

    問題点の検討にあたつては、ビデオに関連する著作権問題を3つに大別し、第1に、ハードウエアとしてのビデオ機器の普及に伴う著作権問題のうち、一般家庭等におけるビデオ・コピーの作成問題を中心とした「ビデオ機器による著作物等の複製」の問題をとりあげ、第2に、ソフトウエアとしてのビデオ・パツケージの普及に伴い、これらビデオ・ソフトの著作権法上の性格を明らかにする必要性の存することから、「ビデオ・ソフトの著作権」の問題を検討し、第3にビデオ・ソフト産業における実務上の問題として、ビデオ・ソフト作成のために生ずる著作権処理の適正・円滑化を図る観点から「ビデオ・ソフトへの著作物利用」の問題を審議の対象とした。

    以上の問題点のほかに、当委員会においては、旧作映画をビデオ・ソフト化した場合における原著作者等の権利処理の必要性の有無に関し、旧作映画製作当時における契約の解釈をめぐつての討議も行なわれたが、この問題は、もつぱら契約上の問題であつて、当委員会の見解を表明する限りではないとの見地に立ち、報告書には記載していない。



    第2章 著作権に関する諸問題
    1 ビデオ機器による著作物等の複製
    (1)家庭用ビデオ機器によるテレビ番組等の私的複製

    (ア)現行法
    著作権法(昭和45年法律第48号)第30条において、「著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる。」と規定しており、著作物の種類や複製の態様を限定することなく、個人的にまたは家庭内等で使用する目的であれば、使用する者本人が複製することができることとされている。また、同法第49条第1項においては、私的使用のために作成した複製物をその目的以外のために使用した場合には著作権者の複製権が動く旨を規定し、いわゆる目的外使用を禁止している。

    さらに、実演・レコード・放送の私的複製についても、同法第102条第1項において同法第30条の規定を準用するとともに、同法第102条第四項において同法第49条に相当する規定を設け、著作物の私的複製と同様な法制となつている。

    (イ)条約
    ベルヌ条約ローマ規定・ブラツセル規定においては、複製権についての直接的定めがないこととも関連して私的複製についての規定を設けておらず、各国の国内法の定めるところによるものと解されているが、ストツクホルム規定・パリ規定においては、複製権について明文の規定を設けるとともに、複製が著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件として、特別の場合において国内法により複製権を制限しうるものとしており(同規定第9条第2項)、私的複製はこれに該当する典型的な例である。

    一方、万国著作権条約においては、1952年の条約では複製権の内容・制度は各国の国内法の定めるところによるものとされているが、1971年の改正条約では条約上の基本的権利として複製権を明定するとともに、各国国内法で条約の精神および規定に反しない例外を定めうるものとしており(同改正条約第4条の2第2項)、私的複製はこれに該当する典型的な例である。

    (ウ)各国法制
    ほとんどの国で私的複製を認めているが、例外的に、映画の著作物の私的複製を禁じ、または禁じていると考えられる国に、オーストリア、トルコ、イギリスがあり、テープ複製行為を禁じていると考えられる国にイタリア、メキシコがある。

    特殊なものとして、西ドイツでは、著作物・実演・レコード・放送を私的使用のため複製することは許されるが、著作物が放送または既存の録音、録画物からテープレコーダーのような機器により私的使用のために複製することが予想される場合には、著作者・実演家・レコード製作者・映画製作者はそのような機器の製作者に対し機器の販売収入の100分の5の範囲内で補償金を請求することができるとされている(西ドイツ著作権法第53条第5項)。

    (エ)わが国の現状とビデオ機器による著作物の私的複製
    以上のような諸法制のうえに立つてわが国の現状をみると、旧法時代に発行を目的としない著作物の複製については、「器械的又は化学的方法」によらない場合にのみ認めていた私的複製の規定を、今日における複写装置や録音機器の発達にかんがみ、現状に即するよう改めて、複製の手段を問わないで自由利用を認めることとしたのが現行法第30条であるが、この規定を根拠として家庭で安易に大量に私的複製が行なわれたり、同法第49条の規定で目的外使用を禁止しているにもかかわらず、私的使用以外に使用されたりして著作者等が不利益をこうむつている例も耳にする。また、現実にレコード関係者からは音楽テープやレコードの売り上げの伸び悩みはテープレコーダーの普及とそれによる私的複製が可能になつたことが一因ではないかとの声も聞かれる。

    ビデオ機器が業務用からさらに発展し将来ホーム・ユースとして家庭で日常使用されるようになると、当然私的複製の問題が生じてくる。現に機器メーカーなども、将来の主流はテレビ録画用の機器でなく、再生専用のプレーヤー機器であることを予想しながらも、当面は「テレビの画面を録画することのできる機器」としてVTRの私的録画機能に訴えて販売の促進を図つているのが実情であり、ビデオの場合も純粋な個人的使用にとどまらず、目的外使用のケースを惹起するおそれが多分にある。

    このような現状認識に立つて、第30条の規定を改めて私的使用の範囲をより限定すべきであるとの意見もあるが、これについては慎重な検討が必要であり、現段階において早急にこの規定を再改正すべしという議論は時期尚早であると考えられ、この規定の趣旨の正しい理解を普及させるなど現行法の運用上の問題として解決していくことが適当であると考える。そのためには、第30条の規定は、1)本来認められるべき著作権を制限するという条文の性格上なるべく厳格に解されるべき性格のものであること、2)ベルヌ条約においても規定しているように著作者の正当な利益を不当に害しない範囲においてのみ私的複製が許容されるものであること等を勘案して、限定的に解釈されなければならないし、機会あるごとにその旨を広く国民に知らせることも必要であり、なおいつそうの著作権思想の普及徹底が望まれるところである。

    特に、ビデオ機器の販売PRに際しては、販売担当者に第30条の趣旨を正しく理解させ、宣伝カタログ等にもその旨を書き入れるなど、ビデオ業界サイドでの著作権思想の周知徹底も必要となり、この規定が拡大解釈されることがないよう常に注意を喚起していかなければならない。

    しかし、権利者の立場からは、そのような措置によつても著作権者の利益の保護に十全を期しがたいものがあるという声も強く、将来の問題としては、ビデオ機器のメーカーに著作権使用料の支払義務を課する西ドイツ法制(注)の導入についてわが国でも検討を試みる必要があろう。

    (注)「著作権法の処女地にクワを入れた画期的な制度」とドイツ著作権界の権威ウルマー博士が評している西ドイツ法制は、国際著作権界においても広く評価され、諸外国においても検討されているところであるが、西ドイツでは次のような理由から違憲であるという批判も一部にあり、わが国のビデオ機器メーカーの立場からも強い反対のあるところである。
    1)直接には著作権を侵害していない機器メーカーから一律に補償金を徴収することになるが、これをたとえば公用徴収とみなしたとしても使用料は著作権者に支払われるのであつて公共の福祉のために使われるのではないから不合理であり、また、消費税の賦課と考えたとしても、財政当局において取り扱われるべきものが著作権管理団体であるGEMAにより取り扱われていること。
    2)著作権管理団体と契約していない著作権者には補償金が支払われないため、法の下の平等に反すること。
    3)機器の購入者が必ずしも常に著作権のあるものを複製するとは限らないこと。

    (2)生テレビ番組を第3者が録画したものの取扱い

    (ア)現行法
    著作権法第2条第3項においては、「この法律にいう『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定しており、その意味で、あらかじめビデオどりしておいて放送される通常のテレビ番組も映画の著作物となりうる。
     一方、第98条では「放送事業者は、その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音または影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する。」と規定して、録画テレビ番組のみならず生テレビ番組も著作隣接権で保護している。

    (イ)条約
    ベルヌ条約においては、創設規定以来、映画の著作物について「固定」が必要であるかどうかについては条約上触れていなかつたが、1967年のストツクホルム改正会議の際、固定を要件とすべきかどうかについて議論があり、結局、「それらの著作物がなんらかの支持物に固定されていない限り保護されないことを規定する権能は、同盟国の法令に留保される」(ストツクホルム規定第2条第2項)こととして、各国国内法にゆだねることとなつている。

    (ウ)各国法制
    映画的著作物として保護されるためには固定されていることを要件としている国もいくつかあるが、多くの国では単に「映画著作物」を保護する旨を定め、固定を要件とするのかどうかは明文上明らかではない。
    生テレビ番組については、映画的著作物として保護している国もあり、放送として隣接権により保護している国もある。

    (エ)生テレビ番組の第3者固定
    ビデオ機器の普及に伴つて生テレビ番組が第3者により容易に録画され、そこに映画類似の固定物が存在することとなることが予想されるが、映画の著作物として保護されるためには、固定を要件としている著作権法上の固定行為は著作者によつてなされることを当然の前提としており、したがつて、生テレビ番組を第3者が録画して固定したからといつて、その固定物がただちに映画の著作物として保護されることになるわけではない。

    この場合、生テレビ番組を第3者が録画する行為は、放送事業者、実演家の著作隣接権の侵害となることはいうまでもないが、その生テレビ番組に音楽の著作物等が含まれている場合には、それらの著作物の著作者の権利をも侵害することになる。
    なお、将来は映画の著作物として保護されるためには必ずしも固定を要件としない方向で検討すべきであるとの意見もある。しかし、そのような考え方によつてみても生テレビ番組がすべて映画の著作物たりうるわけではない。このことは一般的に、何が映画の著作物たりうるかという問題と関連する。たとえば、ベルヌ条約改正会議などにおいても、街頭または劇場にカメラを固定し、単に被写体を機械的に撮影しただけのものは、映画の著作物たりえないとの結論を出しているが、結局は、創作性の有無、編集の有無などが著作物であるかどうかを決めることとなるということである。


    2 ビデオ・ソフトの著作権
    (1)ビデオ・ソフト自体の著作物性

    (ア)現行法
    ビデオ・ソフトそのものについて言及したものではないが、著作権法第2条第3項では、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」を映画の著作物に含ましめており、著作物性を有するビデオ・ソフトはこれに該当するものと解されている。

    (イ)条約
    ベルヌ条約ローマ規定では「活動写真的製作物ハ著作者ガ著作物ニ独創的性質ヲ与ヘタルトキハ保護セラル」、「前諸規定ハ活動写真術ト類似ノ他ノ一切ノ方法ヲ以テ作リタル複製物又ハ製作物ニ之ヲ適用ス」と規定しており(同規定第14条第2項および第4項)が、ブラツセル規定では「映画の著作物及び映画に類似する方法で作られた著作物」を保護すべき著作物としている(同規定第2条第1項)。

    ストツクホルム規定では、保護を受ける著作物として「……映画的著作物(映画に類似する方法で表現された著作物を含む。)……」と定められ(同規定第2条第1項)、1971年のパリ規定もこれを踏襲している。

    一方、万国著作権条約は、「映画的著作物を保護する」とのみ定めている(同条約第1条)。

    (ウ)各国法制
    オーストリアでは「当該著作物の主題を形成する事件および筋の運びが映像だけにより、又は同時に映像及び音により提示される動画著作物」を映画著作物と規定している(オーストリア著作権法第四条)。

    イギリスでは、「いずれかの種類の材料(透明であると否とを問わず)を使用することにより(a)映画(moving picture)として見せること、又は(b)そのように見せることができるような他の材料(透明であると否とを問わず)に記録することができるようにいずれかの種類の材料に記録された視覚的影像の連続」を保護し(イギリス著作権法第十三節(10))、フランス、西ドイツでは「映画に類似する方法で得た著作物」を映画的著作物に含むものとしている。

    ほとんどの国でビデオ・ソフトは、映画的著作物として保護されるものと考えられる。

    (エ)ビデオ・ソフトの性格
    以上のように、現行法、条約、各国法制ともに、ビデオ・ソフトについては、映画的著作物または映画に類似する方法で表現された著作物としての保護を与えることが考えられているが、具体的には、ビデオ・ソフトの性格をどのようなものと見るかによつて、以下のように、その取扱いに相違が生じてくる。
    1)ビデオ・ソフトは伝統的な意味における映画の著作物とまつたく同じであるとする立場
    新しいビデオ・ソフトの製作には、通常の劇場用映画と同じく多額の費用を要し、また、原作者、脚本家、製作スタツフ、音楽家、実演家等の権利も同様に働く。伝統的な意味における映画の著作物、たとえば劇場用映画との相違はただ単に支持物が映画フイルムであるかテープその他の媒体であるかが異なる点だけにあるとする見解である。
    2)ビデオ・ソフトには映画の著作物と単なる録音録画物があるとする立場
    製作方法等が映画の手法と同様であり、多数の製作スタツフの介在によつて製作されるビデオ・ソフトは、一般に劇場用映画と同様に考えてよいが、たとえば単なる講師の姿入り講義ものソフトのように、簡単に製作され、かつ、製作者の知的創作性の存在する余地の少ないようなビデオ・ソフトは、映画の著作物ではない単なる録音録画物として取り扱うべきであるとする見解である。

    なお、西ドイツでは、映画の著作物としては保護されない、画像連続物および画像と音の連続物といわれるものを隣接権で保護する法制があるが(西ドイツ著作権法第95条)、これなどは、映画の著作物ではないがそれに近いものを保護する例として参考にすべきものと思われる。
    3)ビデオ・ソフトは特殊なものであるとする立場
    ビデオ・ソフトが内容的には映画と同じ性質を持つと同時に、流通態様としてはレコードに近い性格をあわせ持つ点に着目し、ビデオ・ソフトを従来の映画の著作物あるいはレコードとは異なる別個の保護対象として考えていこうとする見解である。
    当委員会の審議過程においては、以上1)、2)、3)の見解が表明され、ソフト製作者の立場から1)の意見を強く主張する考え方もあつたが、大勢としては、2)の見解を支持するものが多く、当委員会としては、多数意見としての2)の見解に立つものである。しかし、現行法制は伝統的な意味における映画(劇場用映画)・放送用映画を前提として立案されたものであり、ビデオ時代にはそれにふさわしい新しい概念構成をすべきであるとするビデオ・ソフトに関する権利者の立場からの3)の見解が示されている。いずれにしても、将来の課題として慎重に検討する必要の存するところである。

    (2)ビデオ・ソフトの頒布権

    (ア)現行法
    映画の著作物については、劇場用映画フイルムの場合には、映画製作者から配給会社を通じて映画館に配給される方式がとられており、現行法では個々の映画フイルムに頒布権が認められている。著作権法第26条は「著作者は、その映画の著作物を公に上映し、又はその複製物により頒布する権利を専有する。著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を公に上映し、又は当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。」と規定し、さらに、原著作者(小説家、脚本家等)も「この映画の著作物について著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」(法第28条)ので、映画製作者、映画に収録されている音楽等の著作者および原著作者がそれぞれ頒布権を持つている。

    現行法上ビデオ・ソフトを映画の著作物と解するならば、ビデオ・ソフト製作者、ビデオ・ソフトに収録されている音楽等の著作者および原著作者は、頒布権を専有することとなる。

    (イ)条約
    映画製作者等は頒布権に基づいて、映画の著作物を利用する時、場所等に制約を加えることができるところから、頒布権については国際的にも大きな問題となつた。ブラツセル会議では、映画についてだけ頒布権を認めることとなり、レコードにも頒布権を認めようとする試みは不成功に終わつている。以後ベルヌ条約では、ブラツセル、ストツクホルム、パリの各規定とも映画的著作物について頒布権を認めている(同条約第14条、第14条の2)。

    (ウ)各国法制
    著作物一般について頒布権を認めている立法例が多いが、1)無制限に頒布権を認める国(スイス、ソ連、スウエーデン等)、2)いつたん著作物のコピーが譲渡の方法で市場に出されるとそのコピーについては頒布権がなくなるものとする国(オーストリア・西ドイツ)、3)商品として売り出す場合にのみ頒布権を認める国(イタリア、東ドイツ)等に分けられる。

    (エ)ビデオ・ソフトの頒布権
    劇場用、映画フイルムについては、すべてレンタル方式がとられ、映画製作者は、常にフイルムの存在場所をおさえているシステムがとられている。ビデオ・ソフトが、まつたく映画の著作物と同じように主として劇場において利用されるものであると考えるのならばともかく、将来はレコードと同様な態度により流通し利用されていくこともじゆうぶん考えられ、現行の法体系におけるような「頒布権」を認めるとかえつて円滑な流通を阻害することにならないかどうか、じゆうぶんな検討を必要とするところである。

    各国法制の中にみられたいつたん市場に出されれば頒布権がなくなるという方式は、対価を払つて買つた者はこれを自由に利用することができるといういわゆるfirst sale doctorineの考え方に立つものであるが、購買者に対しその使用を制限することが現実問題として不可能に近いというのがそのおもな理由のようである。アメリカ合衆国ではレコード海賊版防止法によりレコードについてこのドクトリンを認めている。わが国でも、将来はビデオ・ソフトのみならず一般の著作物商品についてこのような方式を考える余地はあるものと思料される。

    しかし、ビデオ・ソフトが市販商品としてはまだそれほど普及していないわが国の実態にかんがみるとき、現時点でビデオ・ソフトの頒布権について結論を下すのは時期尚早であり当面は、現状維持、すなわち、映画の著作物に該当するビデオ・ソフトには頒布権を認めることとしても特に問題が生ずることはないであろう。

    なお、ビデオ・ソフトと頒布権についての審議過程においては、次のような問題点が提起されたことを付言しておく。
    1)ビデオ・ソフト製作者に強力な権限である頒布権を与えることは妥当かどうか。
    2)ビデオ・ソフト製作者が自主製作のビデオ・ソフトについて頒布権を持つのはうなずけるが、既存の映像をビデオ・ソフトにしただけのものにまで頒布権を与えるのがよいかどうか。
    3)頒布権をあまり広範囲に認めると、レコードとのバランスがとれなくなるが、逆に頒布権を認めないこととすると、8ミリ映画であれば頒布権が認められ、ビデオ映画であれば認められないというのもアンバランスではないか。
    4)著作権者が将来のある時点になつて頒布権を主張するということになると、ビデオの利用者の地位は不安定になるが、それでよいか。
    5)頒布権を認めないこととすると、ソフト・メーカーを通じての実演家の権利保護がふじゆうぶんになるおそれがないか。

    (オ)レンタル方式について
    現在、ビデオ・ソフトがユーザーの手に渡るのには、売り切りの場合とレンタルの場合との2つの方法がある。この場合、ソフト製作者は頒布権を留保して販売あるいは貸し出していることになる。

    聴覚に訴えるレコードと異なり、視聴覚に訴えるビデオ・ソフトの場合、同じレコードを何度も聞くように、ビデオ・ソフトを購入し、それを何度も見ることはないという意見もあり、そうなると将来はレンタル方式が主になる可能性もある。現に最近各地にできはじめたいわゆるビデオ・ライブラリー等も、ビデオ・ソフトのレンタルがその主要目的のようである。

    レンタル方式が盛んになつてくると、著作者保護の立場からは、現在イギリス等で検討が進んでいる公貸権(public lending right)の制度──図書館等が著作権のある書物などを購入する場合には、個人が購入する場合と異なり、定価に著作物使用料(書物を貸すことによつて個人の購入が減少するのでその分を補償する。)を追加して支払うという制度──などを盛り込むことなどを将来うち立てなければならないかもしれない。

    (3)ビデオ・ソフトのビデオ機器による再生行為

    (ア)現行法
    著作権法第2条第1項第19号は、「上映」を定義して「著作物を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴つて映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。」としている。

    (イ)条約
    ベルヌ条約では映画的著作物に上映権(ローマ規定・ブラツセル規定はright of public presentation、ストツクホルム規定・パリ規定はright of public performance)があることを規定しているが(同条約第14条)、定義づけはしていない。万国著作権条約は、著作者の権利は、「公の上演、演奏」(public performance)の権利を含むとのみ定めている(同改正条約第4条の2)。

    (ウ)各国法制
    上映あるいは公の伝達等については簡単に規定している例が多く、フランスでは、公の上映・展示により公衆に著作物を伝達する権利を含む興行権の規定を設け、スウエーデン、ケニア等では公衆提供権、公衆伝達権ともいうべき包括的な権利を定め、ケニアではあらゆる様式の視聴覚的な発表を公衆への伝達としており、スイスでは上演権のみを規定している。

    これに対し、より詳細な規定をおく国としてまず、オーストリアは、映画の著作物を公に上演し、および造形美術の著作物を光学的装置によつて公に上映する権利──上演が直接になされるか録画物・録音物によつてなされるかを問わない──を定め、西ドイツは、著作物を無形的に公に複現する権利を規定し、その中に上演権、上映権、録画物または録音物による複現の権利を含めている。また、「上映権は、造形美術著作物、写真著作物、映画著作物又は学術若しくは技術の種類の表現を技術的装置によつて公に感得せしめる権利」と規定している(西ドイツ著作権法第19条)。

    アメリカ合衆国の著作権法案では、映画その他の視覚的著作物の場合に、その影像を連続的に見せまたはそれに伴う音を聞かせる「公に実演(perform)する」権利と、これらの個々の影像を非連続的に見せる「公に展示(display)する」権利を定めている(第106節)。

    (エ)ビデオ機器による再生行為
    ビデオ・ソフトのビデオ機器による再生行為は、物理的現象としては、テレビジヨン受信装置の画面に映し出されるものであり、テレビ放送された著作物の伝達と原理的に異なるところはないが、ビデオ・ソフト自体は放送されていない。

    著作権法案の立案審査の段階(昭和41~42年)では、上記「上映」の定義中「その他の物」としては、壁、立体映画の場合に映し出された空間などが考えられていたが、建て前として劇場用映画をスクリーンに映写する行為を念頭に置いたものであつた。しかし、ビデオ機器が誕生した現在においては、「上映」の概念を物理的現象にこうでいして厳格に解する必要はなく、著作物利用の社会的・経済的実態にかんがみ、ビデオ機器によるビデオ・ソフトの再生行為の場合も、映画の著作物たるビデオ・ソフトについては「その他の物」に映写すること、すなわち「上映」に該当し映画の著作物に該当しないビデオ・ソフトについては、ビデオ・ソフトの素材となつた著作物の「上演」や「演奏」に該当すると解釈してよいと考える。

    ただ、将来の法改正に際しては「上映」の定義規定はもつと弾力性のあるものに修正することが望ましい。

    (4)ビデオ・ソフトの放送・有線放送の場合における
       実演家の二次使用料請求権

    (ア)現行法
    著作権法第95条は「放送事業者及び音楽の提供を主たる目的とする有線放送を業として行なう者は、実演家の許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送または有線放送を行なつた場合には、当該実演に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。」と規定し、商業用レコードに入れた実演が放送あるいは音楽有線放送で使用された場合には実演家に二次使用料請求権を認めている。

    (イ)条約
    レコードについては1961年の「実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約」(隣接権条約──日本未加入──)第十二条で「商業目的のために発行されたレコード又はこのようなレコードの複製物が放送又はなんであれある種の公衆への伝達に直接に使用されるときは、正当な単一の報酬が、使用者により、実演家若しくはレコード製作者又はこの両者に支払われなければならない。当事者間に協定がない場合におけるこの報酬の配分の条件は、国内法令で定めることができる。」と規定しているが、第16条では第12条の規定を適用しない旨の宣言をすることが認められている。

    なお、この隣接権条約の創設会議において、映画の著作物に関しても実演家に二次使用料請求権を認めるべしという主張がなされたが、映画製作関係者の大反対にあつて立ち消えとなつている。

    (ウ)各国法制
    西ドイツでは、適法な録音物または録画物(映画の著作物を除く。)による実演の放送と公の複現については、実演芸術家に相当の報酬を支払わなければならないものとしている。

    スウエーデンでは、録音物を放送に使用する場合には、実演家に補償を支払うべきことを規定している。

    イギリスでは、レコード製作者がレコードの放送・演奏について許諾権を有しており、それを通じて実演家は、強力にレコード使用を規制している。

    イタリアでは、すでに録音について報酬が支払われているレコードの二次使用については報酬請求を認めていない。

    (エ)ビデオ・ソフトと実演家の二次使用料請求権
    この問題を考えるにあたつては、商業用レコードについて実演家に二次使用料請求権を認めた趣旨について考察する必要がある。その趣旨は、1)商業用レコードが放送・有線放送に利用されることは、通常レコードが使用されることを予定している範囲(家庭用)をこえる利用であり、しかも放送事業者、有線放送事業者についてみれば大量のレコードを用いることにより経済的利益をあげているから、実演家、レコード製作者にもある程度の利益を分配する必要があること。2)商業用レコードが大量に放送・有線放送に使用されることにより、本来、レコードという機械がなければ生の実演が行なわれたはずであり、言い換えると広範な多数の実演家がレコードの存在により生実演の機会を失うことになるのでその補償を行なう必要があること(機械的失業に対する補償)の2つの考え方から成り立つている。この商業用レコードの二次使用に対する考え方が、ビデオ・ソフトの二次使用の場合にそのままあてはまるかどうかという問題については、結局ビデオ・ソフトをどのような性格のものとみるかによつて、あるいはビデオ・ソフトの使用形態がどのようなものになるかによつて結論も異なつてくる。

    (オ)ビデオ・ソフトの性格と実演家の権利確保の方法
    ビデオ・ソフトの性格をどのようなものとみるかによって実演家の利益を確保する方法もいくつか考えられる。
    1)ビデオ・ソフトは伝統的な意味における映画の著作物とまつたく同じであるとする立場からする意見
    (a)ビデオ・ソフトが劇場用映画などと法律的取扱いがまつたく同じであると考えると、現在実際に映画製作者と実演家との間で行なわれている出演契約をビデオ・ソフト製作者と実演家との間で結ぶことにより、ビデオ・ソフトが放送等に二次使用される場合における実演家の利益を確保することは可能である。つまり、ビデオ・ソフト製作者は当該放送等に際して許諾料をとることができるから、実演家は、ビデオ・ソフト製作者に対して利益分配を要求することは事実上可能である。ただし、その場合には一定の監視機関を設けて二次的利用を監視させる方途を講じなければ実効の期しがたい面がある。
    (b)ビデオ・ソフトを映画の著作物と同様に考えるとしても、その製作形態や使用形態にかんがみ、ビデオ・ソフトを放送・有線放送させるかどうかの許諾権を実演家に専有させることが望ましい。
    2)ビデオ・ソフトには映画の著作物と単なる録音録画物とがあるとする立場からする意見
    (a)放送・有線放送についての許諾権を実演家に与えることが望ましい。
    (b)映画の著作物に該当するものは、現在映画の著作物の場合において行なわれているように、出演契約で実演家の利益を確保することになるが、録音録画物に該当するものは、録音録画物メーカーとの関係もあるが、法律上の措置として利益を確保すべきである。
    (c)映画の著作物に該当するものは出演契約で利益を確保し、録音録画物に該当するものは、商業用レコードと同様に二次使用料請求権により利益を確保すべきである。
    (d)映画の著作物に該当するものは出演契約で利益を確保し、録音録画物に該当するものは、レンタル方式のものと販売方式のものに分け、レンタル方式の場合は映画の場合と同様に出演契約によつて利益を確保し、販売方式の場合は、二次使用料請求権で利益を確保すべきである。
    (e)いずれも出演契約で利益を確保すべきである。
    3)ビデオ・ソフトは特殊な性格のものであるとする立場からする意見
    (a)商業用レコードと同様に、二次使用料請求権により利益を確保すべきである。
    (b)放送・有線放送についての許諾権を実演家に与えることが望ましい。
    当委員会の審議過程においては、以上のような種々の考え方が提示されたが、ビデオ・ソフトを放送・有線放送で二次的に使用する場合は、少なくとも二次使用料請求権程度のものは確保すべきであるとする意見が多い。しかしながら、どのような種類のビデオ・ソフトに対してどのような権利を与えるべきか、通常の映画の著作物やレコードとの均衡をどうするか等早急に解決することの困難な問題が多く、またビデオ・ソフト利用形態を見きわめた上でなければ、早急に結論を出すことは困難である。したがつて、当面は、権利者、使用者間の相互の話合いの積み重ねの中から実態に適した契約慣行を育成することがより現実的な方向であり、その意味における関係者のいつそうの努力が望まれるところである。


    3 ビデオ・ソフトへの著作物利用

    (1)ビデオ・ソフトと映画録音権
    わが国においては、内国楽曲を映画に録音する場合は、通常内国権利者が音楽作品の管理団体である社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に自分の作品の全権利を信託しているので、商業用レコードに録音する場合と同様にJASRACの著作物使用料規程に定める使用料を支払うことにより利用することができることとなつている。ところが、外国楽曲の映画録音については、レコード録音とは異なり、管理団体が権利の信託を受けておらず、映画製作者が外国の権利者の個別的な許諾を得ることが必要とされている。

    ビデオ・ソフトの場合についてみると、わが国では「映画」とは別立てになつており、内国楽曲についてはJASRACの著作物使用料規程の「ビデオテープ」に関する使用料を支払うことにより音楽著作物を利用することができることとなつている。外国楽曲の場合は、ビデオ・ソフトへの録音も映画録音と同じく映像録音権(synchronization right)として個別交渉による例が多く、使用料もかなり高額になることが予想される。

    劇場用映画フイルムのように大きな市場価値を持つものはともかくとして、ビデオ・ソフトが将来商業用レコードのように廉価で市場に流通するようになるものとすると、個別交渉で処理することは煩雑であり、時間的にも、金銭的にも大きな障害となるおそれがある。現に外国楽曲を含んだビデオ・ソフトを製作しようとしても、一般的には個別に話し合わなければならず、この種の新しいビデオ・ソフトを製作し、普及していくことが困難になつている。

    この点に関し、欧米の著作権管理団体においてもビデオ・ソフトをどのように取り扱うべきかについては検討中であり、たとえばイギリスの音楽著作権管理団体は、ビデオ・ソフトはレコードであると考えており、少なくとも歌番組を入れたビデオ・ソフトはレコード扱いにしたい意向であつて、各国の情勢を見守つている状況にある。わが国は、ビデオに関しては先進国の部類に属すると考えられるので、この点について一定のコンセンサスづくりを行なうことは、国際的にも意義のあることと思われる。

    結局、この問題もビデオ・ソフトをどのような性格のものとみるかによつて、その取扱いが異なることになるが、直接的には著作権法自体の問題ではなく、権利者、使用者間における契約上の問題であり円滑妥当な音楽作品の利用慣行を醸成すべく、関係者の努力を期待したい。しかし、ことは外国権利者と内国使用者との間における問題であることにかんがみ、外国権利者とくに、外国音楽出版社に対しビデオ・ソフト商品を映画・レコードと対比した場合における現状認識の徹底を図ることが重要となろう。

    (2)音楽著作物のビデオ・ソフトへの録音に関する強制許諾制

    (ア)現行法
    著作権法第69条では、音楽の著作物がいつたん商業用レコードに録音された場合には、そのレコードが最初に国内において販売され、かつその最初の販売の日から3年を経過した後に、著作権者の許諾が得られないときは、文化庁長官が定める額の補償金の支払いを条件として、文化庁長官の裁定による音楽の著作物の録音を認めているが、この規定は、音をビデオ・ソフトに影像とともに固定する場合については適用されない。

    (イ)条約
    ベルヌ条約ローマ規定は音楽の著作物の著作者は、その著作物の録音を許諾する排他的権利を享有するものと規定し(同規定第13条第1項)、この権利の適用に関する留保および条件は各国法令で定めうるとしている(同規定第13条第2項)、また、ブラツセル規定では、協議の成立しない場合、権限のある当局が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害することはできない旨追加して規定した(同規定第13条第2項)。ストツクホルム規定では、すべての著作物について複製権を規定し(録音・録画権は複製権とみなされる。同規定第9条)、録音権に関する強制許諾制を採用しうるのは、楽曲および歌詞に限定している(同規定第13条)。

    なお、ブラツセル会議の際ローマ規定第13条第2項に基づく強制許諾制が映画の著作物にも適用されるかどうかが問題となつたが、ブラツセル規定第14条第4項に「映画的翻案については第13条第2項の留保および条件は適用されない」と明記して問題を解決した。

    万国著作権条約は、複製権等の排他的権利に対し、合理的な程度の有効な保護を与えることを条件に各国国内法による例外を認めている(同改正条約第4条の2)。

    (ウ)各国法制
    レコード製作に関して、強制許諾制あるいは法定許諾制を採用している国のうちおもなものをあげると、オーストリアおよび西ドイツでは、著作権者の許諾を得て適法に録音されたレコードが発行された場合には、他のレコード製作者は、著作権者に対し、レコード録音についての許諾を請求しうるものとし、著作権者は許諾を与える義務を負い、著作権者が許諾を拒むときは、最終的には許諾を求める訴えを提起することができるものとしている。

    また、アメリカ合衆国およびイギリスでは著作権者の許諾を得て適法に録音されたレコードが発行された場合には、他のレコード製作者は、著作権者の許諾を得ることなく、使用料の支払いを条件として自由にレコードに録音することができるものとしている。

    このアメリカ合衆国およびイギリスの制度について、イギリスの演奏権協会法律顧問デニス・ド・フレイタス氏は、「イギリスの場合、ビデオ機器に使用するためのカセツトに入れられるフイルムやテープへの音楽の著作物の録音は『レコード』であると思われる。その結果、小売販売を目的とする(もつぱら貸出しを目的としない)カセツトの場合には、強制許諾制が適用され、著作権者はレコードすなわちカセツトの通常小売価格の6.25%の法定レートで計算された法定使用料を受けとる権利がある。」とし、アメリカ合衆国の場合には「一見したところこの規定はビデオ用のテープやフイルムへの音楽著作物の録音・録画に適用されるようにみえるが、この形態での複製は、『映画録音』の一種であるという主張もあり、問題は未解決である。」としてアメリカ合衆国の場合にはレコードの強制許諾制の規定がビデオ録音の場合に該当するかどうかは不明としている。

    アメリカ合衆国では、音楽著作物を機械的に複製の用に供する機器について1曲1枚につき2セントという法定料金で強制許諾制を認めているわけであるが、1曲1枚2セントという使用料はビデオ・ソフトの録音に適用するにはあまりにも低額にすぎよう。ちなみに、現在連邦議会に提案されているアメリカ合衆国著作権法改正案においても、強制許諾制は蓄音機用レコードへの録音に限定する旨を明確にしようとしている。

    (エ)ビデオ・ソフトへの録音に関する強制許諾制
    レコード録音について強制許諾制が採用される理由としては日本の場合はいわゆる専属制の打破ということがあり、外国の場合には、音楽の著作物のレコードに関する利用が安価になしうることや大会社の独占を防止すること等が考えられるが、各国においては、音楽著作権管理団体の発達により実際にはこの強制許諾制の規定はあまり動いていないようである。

    一方、ビデオ・ソフトへの録音に関する強制許諾制について考える場合、ビデオ・ソフトが将来どのような態様で製作され、流通するかについては不確定要素が多く、また、レコード録音における強制許諾制採用の理由となつたものと同様の事情が果たしてビデオ・ソフトの場合にも存するかどうかということも考えると、現段階においては、音楽著作物のビデオ・ソフトへの録音に関する強制許諾制を導入することについては消極的に考えざるをえない。

    (3)ビデオ・ソフトへの著作物利用のための集中的権利処理機構

    (ア)権利処理の方法
    たとえば、テレビ番組等をビデオ・ソフトに入れる場合を考えてみると、あらためて権利処理をする必要があるが、その方法としては、第1には、ビデオ・ソフト製作者が、原作者、作詞・作曲家、製作スタツフ、実演家、放送事業者等と個々に交渉し許諾をうるという方法、第2には、放送事業者が一括して、ビデオ・ソフト化に関しても権利処理をすませてしまう方法、第3には、集中的権利処理機構を設け、そこで一括して全部の権利処理を行なう方法の三つが考えられる。

    第1の方法は、多数の権利者等に個別に交渉することは煩雑であり、実際問題として不可能に近く、第2の方法も、放送事業者自ら製作した番組のビデオ・ソフト化については、その放送系列のソフト製作者が行ない、個々に権利処理をしている例もみられるが、一般的にはソフト製作者が放送事業者に一括処理を依頼することは現状ではきわめてむずかしい。

    そうなると、当面現実的に考えられるのは第3の集中的権利処理機構により処理する方法であろう。

    テレビ番組等のビデオ・ソフト化の問題については、ヨーロツパでも検討されているが、まだ結論は出されていない。ドイツのウルマー博士も、各種権利者団体を育成。統合してクリアリングハウスを作る方向に持つていくべきであるが、現段階では団体間の契約の積み重ねで実績を作ることが先決だとしている。

    (イ)集中的権利処理機構の処理分野
    どのような場合に集中的権利処理機構で権利処理をするかについては、テレビ番組等をビデオ・ソフト化する場合が主になるのであろう。ただ、既存の映画のビデオ・ソフト化に際しても比較的新しい作品については映画製作者との間で権利処理が可能である場合もあろうが、多数の権利者の中には不明な者も出て完璧を期しがたいので、この場合にもこの機構で処理することが考えられなくはない。

    (ウ)集中的権利処理機構の形態
    集中的権利処理機構の形態としては、現在、社団法人日本音楽著作権協会、社団法人日本芸能実演家団体協議会、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟、協同組合日本放送作家組合および社団法人日本レコード協会の6団体が著作権者団体連絡協議会という事実上の組織を結成し、たとえばテレビ視聴の不可能な遠洋航海の乗組員の慰安、娯楽に供するという特殊目的のもとに(NHK)や民間放送の放送番組を録画してビデオ・ソフトにすることについて、一定期間経過後における録画消去を条件として、社団法人日本船主協会等と契約を締結して利用を認めている実態にある。この場合、契約名義は、各権利者団体の連記であるが、実際上は一の幹事団体が事務を処理している。

    もう1つの方法は、これらの関係団体を包含した名実ともに窓口を一本化した別個の独立した団体を結成する方法である。

    この2つの方法のどちらがよいかについては議論の分かれるところであるが、映画、放送会社等も含め、全権利者が一体となつて独立の機関を作ることが望ましいということはいえよう。ただ、現在実態として行なわれている権利処理機構の業務は、個別的権利処理が煩雑ないわば零細な利用に関する権利処理であり、その範囲にとどまる限りにおいては独立した集中的権利処理機構としては、経済的に成り立たないおそれがあり、その機構が「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号。以下「仲介業務法」という。)上の許可を得た団体になるとしても、通常の仲介業務団体とは異質なものとなることが予想される。その意味において、当委員会の一部には集中的権利処理機構の必要性については、その実効性、経済性等からこれを疑問視する意見がある。

    (エ)集中的権利処理機構と仲介業務法との関係
    現在、前記六団体が社団法人日本船主協会等と協約を結んでいるが、この場合、仲介業務法に基づいて文化庁長官の許可を受けている社団法人日本音楽著作権協会および社団法人日本文芸著作権保護同盟ならびに仲介業務法の規制を受けない実演・レコードを管理する社団法人日本芸能実演家団体協議会および社団法人日本レコード協会は別として、「脚本」を管理する協同組合日本シナリオ作家協会および協同組合日本放送作家組合については仲介業務法上の問題なしとしない。現段階では、零細な二次的利用に関する暫定的なものとして、ことさらに仲介業務法上の規制を及ぼすまでもないと考えられるが、当分の間この六団体方式が継続するとするならば仲介業務法による許可を得る方向で対処することが適当と考える。

    また、将来このような6団体による共同方式でなく、これとは別の結合された独立の主体が行なう方式をとる場合も、仲介業務法上の許可を受けた正式の団体として権利処理を行なうことが望まれる。



    (参考)
    1 著作権審議会第3小委員会(ビデオ関係)委員名簿
    主 査稲 田 清 助 東京国立博物館長

    委 員秋 本   茂日本ビデオ協会長
    安 藤   穣日本レコード協会長
    国 塩 耕一郎新田ベルト(株)会長
    寺 島 アキ子日本放送作家組合常務理事
    野 田 康 正日本ビクター(株)事業部営業部長
    野 村 義 男日本放送協会嘱託
    浜 田 静 亮東映(株)取締役総務部長
    半 田 正 夫青山学院大学助教授
    久 松 保 夫日本芸能実演家団体協議会専務理事
    水野上 晃 章通商産業省重工業局電子政策課長
    森 田 正 典日本音楽著作権協会業務局長


    (備考)代理出席者
    秋本茂委員の代理  安藤甫(フジポニー(株)常務取締役)
    浜田静亮委員の代理 山下勇(東映ビデオ(株)営業部次長)


    2 著作権審議会第3小委員会(ビデオ関係)審議経過

    昭和47年
    第1回 3月6日(月)
    総括説明、自由討議
    第2回 4月17日(火)
    「ビデオ産業の現状および将来」の説明聴取、自由討議
    第3回 6月13日(火)
    「ビデオ調査委員会中間報告書」の説明聴取、自由討議
    第4回 7月11日(火)
    「家庭用ビデオ機器によるテレビ番組等の私的複製」について
    第5回 8月8日(火)
    「生テレビ番組を第三者が録画したものの取扱い」について
    第6回 9月19日(火)
    「ビデオ・ソフト自体の著作物性」について
    「ビデオ・ソフトの頒布権」について
    第7回 10月24日(火)
    「ビデオ・ソフトのビデオ機器による再生行為」について
    「ビデオ・ソフトの放送・有線放送の場合における実演家の二次使用料請求権」について
    第8回 11月7日(火)
    「ビデオ・ソフトの放送・有線放送の場合における実演家の二次使用料請求権」について「ビデオ・ソフトと映画録音権」について
    「音楽著作物のビデオ・ソフトへの録音に関する強制許諾制」について
    第9回 12月12日(火)
    「ビデオ・ソフトへの著作物利用のための集中的権利処理機構」について
    昭和48年
    第10回 1月30日(火)
    総括討議
    第11回 3月7日(水)
    「小委員会報告書」について


    ページの上部へ戻る