○第5小委員会(録音・録画関係)報告書
    昭和56年6月 文化庁



    目 次
    はじめに
    I 録音・録画機器の普及状況と家庭内録音・録画の実態
    1.録音機器の普及と家庭内録音の実態

     (1)録音機器の保有状況
     (2)録音頻度等
     (3)録音源
     (4)録音対象
     (5)個人録音テープの保有状況
     (6)レコードなどの購入状況
     (7)レコード購入量、コンサートなどに行く回数の変化
     (8)個人録音テープの貸借等の状況
    2.録画機器の普及と家庭内録画の実態

     (1)録画機器の保有状況
     (2)録画頻度
     (3)録画源
     (4)録画対象等
     (5)テープの購入状況
     (6)レコード購入量、コンサートなどに行く回数の変化
     (7)個人録画テープの貸借等の状況
    II 著作権法制と国際的検討の動向
    1.現行法
    2.条約及び各国法制
    3.国際的検討の動向と各国の対応
    III 法第30条に関連する録音・録画に関する著作権問題について
    1.法第30条の許容範囲を超える録音・録画問題

     (1)法第30条の許容範囲を超える録音・録画の実態等
     (2)法第30条の許容範囲を超える録音・録画に対する対応策
    2.法第30条の許容範囲内の録音・録画問題

     (1)録音・録画機器の普及と経済的不利益の発生
     (2)補償の必要性に対する一般国民の意識等
     (3)家庭内録音・録画問題に関する解決方法と問題点
    3.各国の具体的な制度の採用経緯等とその問題点

     (1)西ドイツで採用されている機器に対する賦課金制度
     (2)オーストリアで採用されている生テープに対する賦課金制度
     (3)フランスで議会に提案された課税制度
    IV その他の録音・録画に関する著作権問題について
    V 複写複製に関する著作権問題との関連等について
    おわりに

    (参考)
    1.著作権審議会第5小委員会(録音・録画関係)委員名簿

    2.著作権審議会第5小委員会(録音・録画関係)審議経過



    はじめに
    最近における録音・録画機器の開発・普及にはめざましいものがある。ラジオ(テレビ)付カセットテープ・レコーダー、カセットテープ・レコーダー、テープ・デッキなどの録音機器は、後述のとおり広範に家庭内に普及しているところであり、また、現在では、録音機能を二つ有する、いわゆるダブルカセットテープ・レコーダーが販売される等、新たな局面を迎えている。他方、ビデオテープ・レコーダーについては、ここ数年間における開発・普及は顕著であり、特に機器の軽量化、機種の多様さ、内蔵機能の豊富さ、操作の簡便さなどの点で改良が加えられ、価格の低額化などが図られれば、いわゆるビデオソフト部門の充実やビデオカメラなどのビデオ関連機器の開発などと相まって、今後、急速に家庭内に普及することが予測されるところである。

    ところで、録音・録画機器の購入者は、娯楽、趣味や学習などのためにこれら機器を購入し、これら機器を用いて、ラジオやテレビ放送番組あるいは市販のレコード、音楽テープなどから録音・録画したり、あるいは自分や友人が録音・録画したテープを再生することによって、自己の精神的、文化的欲求を満たしているものと考えられる。

    さて、現行著作権法(昭和45年法律第48号)では、第30条において、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」における使用を目的とする場合には、使用者は著作物を複製(録音・録画を含む広い概念)することができることとされており、また、同法第102条では、著作隣接権の目的となっている実演、レコード又は放送の利用については、この第30条が準用されている。したがって、この範囲内における録音・録画は著作権法上、適法なものとされている。

    しかしながら、録音・録画機器のめざましい技術開発や急速な家庭への普及に伴い、録音・録画が家庭内において容易に、かつ、頻繁に行われるようになり、その結果、全体として大量の録音物・録画物が作成されるという状況が生まれた。換言すれば、録音・録画機器の普及により、レコードの販売量が減少するなど、作詞家、作曲家等の著作権者をはじめ、実演家、レコード製作者などの著作隣接権者の経済的利益がおびやかされるという事態が生じているのではないかという問題が生ずるに至った。また、他方、法第30条によって許容される範囲を超える録音・録画も多く行われているとの指摘もあるところである。

    そこで、このような問題を考えるに当たっては、現行法第30条の制定経緯等も重要と思われるので、以下に紹介する。

    旧著作権法(明治32年法律第39号)においては、既に発行した著作物を「発行スルノ意思ナク且器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ」複製することは偽作(著作権侵害)とみなさないとし、その複製の手段について「器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ」ということを要件としていたため、私的使用のための複製は、手写等に限定されていた。しかしながら、現行法の制定当時における複写機器、録音機器等の発達・普及の状況を考慮すれば、録音機器等を利用して、私的な使用のために著作物を複製するには著作権者等の許諾を要するものとすることは、実情に即しないものとなっているとの認識の下に、上記のような複製手段を限定する要件は現行法においては廃止された。もっとも、現行法制定のために設置された著作権制度審議会の報告書においては、「私的使用について複製手段を問わず自由利用を認めることは、今後における複製手段の発達、普及のいかんによっては、著作権者の利益を著しく害するにいたることも考えられるところであり、この点について、将来において再検討の要があろう。」との指摘もなされていたところである。

    また、現行著作権法の成立をみるに至った第63回国会における衆議院文教委員会の附帯決議(昭和45年4月9日)では、「今日の著作物利用手段の開発は、いよいよ急速なものがあり、すでに早急に検討すべきいくつかの新たな課題が予想されるところである。よって、今回改正される著作権制度についても、時宜を失することなく、著作権審議会における検討を経て、このような課題に対応しうる措置をさらに講ずるよう配慮すべきである。」との決議がなされ、参議院文教委員会においても同旨の附帯決議がなされた(昭和45年4月28日)。また、当委員会が録音・録画問題について検討を開始した後に、いわゆるレコード保護条約の締結に伴う著作権法の一部を改正する法律案の成立をみた第84回国会の参議院文教委員会においても、「放送・レコード等から複製する録音・録画が盛んに行われている実態にかんがみ、現在行っている検討を急ぎ、適切な対策をすみやかに樹立すること」との附帯決議がなされているところである(昭和53年4月18日)。

    なお、社団法人日本音楽著作権協会、社団法人日本芸能実演家団体協議会及び社団法人日本レコード協会の三団体から、連名で、昭和52年3月31日、文化庁長官に、家庭内録音・録画の問題の解決策として、録音・録画の機器及び機材に対し西ドイツにおいて採用されているのと同様の賦課金を課する制度を導入することを旨とする要望書が提出されている。

    以上の状況を踏まえて、当委員会としては、第1に家庭内における録音・録画機器の普及と録音・録画の実態について、現行著作権法の規定に照らしつつ問題点の整理を行った。

    また、著作権法制は国際的な背景を持っているものであるところから、審議を進めるに当たっては、著作権関係条約(ベルヌ条約、万国著作権条約)上の規定にも十分考慮を払い、国際的な検討の動向にも留意することとしたが、この問題については国際的にもまだ明確に結論が出されていない実情にある。更に、各国の法制や各国において近時講じられている対応策について注目しつつ、その有効性の分析に努め、問題点の整理を行った。

    この報告書においては、以上の観点から、家庭内における録音・録画に関する問題点の所在を探り、これを整理するとともに、この問題に対処するための方途について検討を加えることとした。



    I 録音・録画機器の普及状況と家庭内録音・録画の実態等
    録音・録画機器の普及、家庭内での録音・録画の実態等については、昭和51年10月、社団法人日本音楽著作権協会、社団法人日本芸能実演家団体協議会及び社団法人日本レコード協会のいわゆる三団体が個人録音・録画に関する実態調査(以下「三団体調査(注1)」という。)を、また、昭和53年7月から8月にかけて、社団法人日本電子機械工業会が一般個人の各種磁気録音再生機等(テープ・レコーダー、ビデオテープ・レコーダー)の所有及び使用等の実態調査(以下「工業会調査(注2)」という。)を、更に、昭和53年9月、内閣総理大臣官房広報室が著作権に関する意識、録音・録画等についての世論調査(以下「総理府調査(注3)」という。)を、それぞれ行っている。

    以下、総理府調査を中心に、三団体調査及び工業会調査等他の関連資料を参考としつつ、家庭内における録音・録画機器の普及、家庭内の録音・録画の実態等について説明を行う。
    (注1)三団体調査は、個人録音については東京23区に居住する普通世帯及び単身世帯を構成する家族員を対象とし(標本数2,000世帯6,000人、有効回収数1,572世帯5,121人)、個人録画については東京23区及び近郊都市に居住する録画機器所有世帯を対象として(標本数137世帯、有効回収数91世帯)、個人面接の方法によって行われた。
    (注2)工業会調査は、録音機器に関しては、全国の10~59才の男女個人を対象とし(標本数5,098人、有効回収数3,936人)、録画機器に関しては、東京都及びその周辺における録画機器所有世帯で最もよく利用している者(大学生以上59才まで)を対象として(標本数230人、有効回収数187人)、質問紙による個別面接の方法によって行われ、昭和54年3月に「各種磁気録音再生機等の使用実態調査報告書」として公表された。
    (注3)総理府調査は、全国15才以上の男女を対象として(標本数5,000人、有効回収数3,948人)、調査員による面接聴取によって行われ、昭和53年11月、「著作権に関する世論調査」として公表された。


    1.録音機器の普及と家庭内録音の実態

    (1)録音機器の保有状況
    総理府調査によれば、一般世帯における録音機器の保有状況については、全体の78.0%が何らかの録音機器を保有している。このうち、「ラジオ(テレビ)付きカセットテープ・レコーダー」が54.0%と最も多く、次いで「カセットテープ・レコーダー」(38.6%)、「カセットテープ・デッキ」(16.0%)の順に多い。以上のようにカセット式のものが圧倒的に多く、オープンリール式のものは、レコーダー及びデッキを含めて7.8%であり、非常に少ないといえる。

    なお、工業会調査によれば、全体の87.4%の世帯において何らかの機器を保有しており、また、三団体調査では、東京都における世帯での保有状況は66.0%である。

    (2)録音頻度等
    総理府調査によれば、録音機器保有者のうち、1年間に少なくとも1回以上の録音を行う者は47.6%であり、その頻度は、「1ヵ月間に1回ぐらい録音する」(13.8%)、「1週間に1回ぐらい録音する」(11.0%)、「1週間に2~3回録音する」(7.7%)の順に多い。一方、録音機器は保有しているものの「ほとんど又は全く録音しない」者は52.4%である。

    また、工業会調査によれば、録音機器の所有に関係なく、録音経験者(調査対象の63.9%)のうち、「この1ヵ月間に何回ぐらい録音したか」については、録音を行った者(録音経験者の49.7%)の中では「3回」(10.0%)、「1回」(9.5%)、「2回」(9.1%)の順に多く、1ヶ月間に録音した者の平均録音回数は5.0回であり、また、「この1ヶ月間には録音しなかった」者(50.3%)のうち、「この1年間では何回ぐらい録音したか」については、「3回」(13.5%)、「2回」(11.5%)、「10回以上」(10.4%)の順に多く、過去1年間の平均録音回数は4.5回である。

    なお、同調査によれば、録音経験者の1回当たりの録音時間については、「(15分を超え)30分以下」(26.0%)、「(45分を超え)1時間以下」(23.9%)、「15分以下」(16.6%)の順に多く、1時間以下の者が全体の74.8%を占め、また、平均録音時間は約52分である。

    次に、放送番組からの録音(エアチエック)やレコード、テープなどからの録音(ダビング)をする者で、音楽のみを録音する場合、1回の録音で何曲録音するかについては、工業会調査によると(調査対象者のうち15~59才の者の場合)、「7~10曲」(22.0%)が最も多く、次いで「15曲以上」(13.5%)、「3曲」(11.9%)、「5曲」(10.3%)の順に多く、かなりばらつきがみられる。なお、平均録音曲数は1回当たり7.0曲である。

    (3)録音源
    総理府調査によれば、録音をする者が主に何から録音しているかについては、「ラジオ」(61.8%)、「レコード」(37.2%)、「テレビ」(27.2%)が多く、他に「ミュージックテープ」(5.5%)、「その他のテープ」(4.5%)、「音楽会、劇場、野外などで直接」(3.0%)、「語学テープ」(2.4%)の順となっている。なお、「ラジオ」や「レコード」から録音している者は、特に若年層に多く(例えばラジオから録音している者は、15才~24才以下では70%以上)、また録音頻度の高い者は「ラジオ」からよく録音する傾向がある。

    なお、工業会調査及び三団体調査の結果からも同様の傾向にあることがいえる。

    (4)録音対象
    総理府調査では、録音機器を所有し、かつ、録音経験を有する者が、「主に何を録音するか」については、「歌謡曲」(56.1%)と「ポピュラー、ジャズ、フォーク、ロック」(48.2%)が圧倒的に多く、次いで「自分や家族の歌や声」(16.0%)、「クラシック」(10.6%)、「邦楽、民謡」(10.3%)、「語学もの(英会話など)」(7.7%)の順に多い。

    また、工業会調査及び三団体調査においても歌謡曲、ポピュラー等の軽音楽の録音が圧倒的に多い。

    (5)個人録音テープの保有状況
    工業会調査によれば、個人録音テープを所有している者の平均手持ち巻数は12.4巻である。また三団体調査では、個人録音テープを所有している者の平均手持ち巻数は14.1巻である。

    (6)レコードなどの購入状況
    工業会調査によれば、過去1年間にレコード、テープ(生テープを含む。)を購入した者(調査対象者の61.6%)の1人当たりの購入量では、1~4枚(巻)以内の者が過半数を超え、1~9枚(巻)以内の者では約8割に達する。購入者の1人当たりの平均購入量は、シングルレコード5.1枚、LPレコード5.4枚、ミュージックテープ4.0巻、生テープ7.4巻となっている。

    なお、三団体調査によれば、この1年間におけるレコード、テープなどの購入量は、購入者の平均で、レコード8.0枚、ミュージックテープ1.6巻、生テープ9.7巻である。

    (7)レコード購入量、コンサートなどに行く回数の変化
    総理府調査によれば、録音機器を所有し、かつ、録音経験のある者で、これまでにレコードを買ったことのある者(録音経験者の89.8%の者)に対して、まず、「レコードの購入量は、テープ・レコーダー(テープ・デッキ)を使うようになってから、減ったと思いますか。それとも増えたと思いますか。」という質問については、「かなり減った」(20.1%)と「少し減った」(22.9%)を含め「減った」とする者が43.0%であるのに対し、「かなり増えた」(1.5%)と「少し増えた」(7.4%)を含め「増えた」とする者8.9%であり、また「変わらない」とする者は45.2%である。

    次に、録音機器を所有し、かつ、録音経験のある者で、いままでに、コンサート、歌手の公演、寄席、芝居などに行ったことが「ある」ものは75.4%であり、「ある」と答えた者のうち、コンサートなどに行く回数が、テープ・レコーダー(テープ・デッキ)などの録音機器を使うようになってから、「減った」(「かなり減った」及び「少し減った」)とする者が20.8%であるのに対し、「増えた」(「かなり増えた」及び「少し増えた」)とする者は5.8%である。また、大多数の者(70.3%)は「変わらない」と答えている。

    また、工業会調査によれば、この1年間にレコードを購入した者(ただし、15~59才の者に限る。)のうち、この1年間におけるレコードの購入量が、「増えた」とする者は19.5%であるのに対し、「減った」とする者は39.3%で、減ったとする者が多い。また、この1年間にミュージックテープを購入した者(ただし、15~59才の者に限る。)のこの1年間におけるミュージックテープの購入量の変化については、「増えた」とする者と「減った」とする者がともに23.6%と同率であるが、録音頻度の高い者では、「増えた」とする者が多いという傾向がある。

    さらに、録音経験者(ただし、15~59才の者に限る。)について、自分で録音するようになってから、「演奏会に行く回数」、「演劇・演芸・映画を見に行く回数」、「シングル及びLPレコードの購入枚数」、「ミュージックテープの購入巻数」が以前と比べて変化があったかどうかに関する調査をみると、いずれも減ったとする者が増えたとする者よりも多いという傾向を示している。
    三団体調査によれば、個人録音の経験のある者のLPレコードの購入量の変化については、録音するようになってから、「LPレコードの購入量が増えた」かについては、これを肯定する者が27.1%、否定する者が35.2%となっており、また、「生の演奏会に行く回数が増えた」かについては、これを肯定する者が13.1%、否定する者が40.3%となっている。

    (8)個人録音テープの貸借等の状況
    総理府調査によれば、「レコードなどから録音したテープを知人・友人などの間で貸したり、借りたり、あげたり、もらったりしたこと」があるかについては、「ほとんど(全く)ない」と答えた者が調査対象者全体の73.5%を占め、「よくある」「時々ある」を含め「ある」と答えた者は21.7%である。「ある」と答えた者のうち、年令別では若年層ほど多く、特に15~24才では50%以上である。

    また、工業会調査によれば、レコード、テープなどを貸借、譲渡、交換などした経験のある者は調査対象者全体の32.4%であり、そのうち特に多いのは、「レコード」(18.1%)と「自分でレコード、ラジオ等から演奏を録音したテープ」(15.8%)である。貸借、譲渡などの相手方は、友人、知人との間が多く、例えば、レコード・ラジオ等から個人録音したテープで貸借、譲渡などしたもののうち、友人、知人間のものが83.8%を占めており、家族間のものは18.2%となっている。貸借、譲渡などの経験者の行う貸借、譲渡などの年間平均回数については、レコード・ラジオ等から個人録音したテープの場合、5.6回となっている。

    三団体調査では、個人録音経験者のうちこの1年間において個人録音したテープを友人、知人間に貸したことがあるものは39.0%であり、また、譲ったことがあるものは14.9%である。


    2.録画機器の普及と家庭内録画の実態

    (1)録画機器の保有状況
    総理府調査によれば、一般世帯における録画機器の保有状況は2.3%であるが、現時点では、ほぼ10%に達しているとの予測も示されている(日本電子機械工業会予測)。

    (2)録画頻度
    総理府調査によれば、録画機器保有者の録画機器保有者の録画については、「ほとんど(全く)録画しない」者が42.9%であり、57.1%の者が録画を行っているが、その録画を行う者の録画頻度では、「1ヵ月に1回ぐらい」(22.4%)、「1週間に1回ぐらい」(14.8%)の頻度で録画する者が多く、録画を行う者の過半数を占めている。

    また、工業会調査では、録画機器保有者の全員が録画したことがあり、その録画頻度については、過去1ヵ月間に録画を行った者が96.8%であり、1ヵ月間で、「20回以上」(21.9%)、「1~3回」(18.7%)、「4~5回」(17.6%)の順に多く、平均10.1回である。なお、過去1ヵ月間に録画を行っていない者(3.2%)の過去1年間の録画頻度は、平均5.6回である。ちなみに、1回当たりの録画時間については、「(30分を超え)1時間以下」(41.7%)、「(1時間を超え)2時間以下」(40.1%)が圧倒的に多く、平均では、66.5分である。

    なお、社団法人日本電子機械工業会が昭和53年8月から昭和54年3月にかけて行ったビデオ産業の成長性に関する調査(以下、「ビデオ調査(注)」という。)によれば、週平均の録画回数は2.2回、1回当たりの録画時間は平均76.2分である。

    (注)ビデオ調査は、東京30Km圏のビデオテープ・レコーダーを所有する世帯の世帯主及び家族(標本数400世帯、有効回収数314世帯)を対象として、面接調査法によって行われ、昭和54年5月、「ビデオ産業の成長性に関する調査報告書」として公表された。

    (3)録画源
    工業会調査では、「テレビ」からの録画が98.9%で圧倒的に多く、他は、ビデオカメラを使った生録が1.1%である。

    (4)録画対象等
    総理府調査によれば、録画を行う者が主に何を録画するかについては、「映画番組」(33.9%)が最も多く、次いで「歌謡曲番組」(26.8%)、「スポーツ番組」(18.8%)、「劇・ドラマ番組」(17.9%)の順に多い。

    また、工業会調査では、「劇場用映画(洋画、邦画)」(39.5%)、「スポーツ番組」(23.2%)、「ドラマ」(19.5%)、「音楽番組」(15.7%)、「ドキュメンタリー」(14.1%)の順に多い。

    この他、三団体調査、ビデオ調査においても、調査項目(選択肢)の相違から順位、比率に若干の差異があるものの、ほぼ同様の傾向がみとめられる。
    次に、録画の目的については、工業会調査では、「外出などで見ることのできない番組を録画したい」(43.2%)、「自分の好きな番組を繰り返してみたい」(40.0%)、「同じ時間に重なる別の番組をみたい」(27.0%)の順に多いが、「ライブラリーとして保管しておくため」も19.5%と多い。

    また、同調査によれば、個人録画したテープのうち保存したいと考えている巻数では、調査対象者の62.9%の者は1~9巻と回答しており、50巻以上の者は1.1%である。なお、平均では4.4巻である。

    なお、ビデオ調査においても、録画目的、個人録画されたテープの保存等の結果は、ほぼ工業会調査と同様である。

    (5)テープの購入状況
    工業会調査によれば、過去1年間にテープ(生テープ、録画済みテープのいずれか)を購入した世帯は96.8%であり、生テープは96.3%、録画済みテープは4.3%である。なお、過去1年間のテープの平均購入巻数は、購入者の平均では生テープ9.7巻、録画済みテープ4.2巻である。

    (6)レコード購入量、コンサートなどに行く回数の変化
    工業会調査によれば、個人で録画をするようになってからの「レコードやミュージックテープの購入量」の変化については、「(大変・やや)多くなった」が8.6%であるのに対し、「(大変・やや)少なくなった」は9.6%であり、「変わらない」(66.8%)、「もともと買わない」(13.4%)とする者が多い。次に、「演奏会を聴きに行く回数」の変化については、「多くなった」が0.5%であるのに対し、「少なくなった」は3.7%であり、「変わらない」(28.3%)、「もともと行かない」(67.4%)が多数を占めている。

    また、「演劇・演芸・映画を見に行く回数」の変化については、「多くなった」が1.6%であるのに対し、「少なくなった」は4.2%であり、「変わらない」(26.2%)、「もともと見に行かない」(67.9%)とする者が多い。

    次に、三団体調査では、個人録画を行うようになってからの「LP盤を買う枚数が増えたか」については、「その通りだと思う」が22.0%であるのに対し、「そうは思わない」が49.5%である。そして、「どちらともいえない」が19.8%で、「もともと買ったりしない」が7.7%である。また、「生の演奏会を聴きに行く回数が増えたか」については、「その通りだと思う」が8.8%であるのに対し、「そうは思わない」が45.1%であり、「どちらともいえない」が19.8%、「もともと行かない」が25.3%である。また、「映画を見に行く回数が増えたか」については、「その通りだと思う」が4.4%であるのに対し、「そうは思わない」が50.6%である。そして、「どちらともいえない」は24.2%で、「もともと見に行かない」が19.8%である。

    (7)個人録画テープの貸借等の状況
    工業会調査によれば、友人・知人等の間においてビデオ機器、テープを貸借・譲渡した経験がある者は6.4%であり、「生テープに番組を録画したテープ」を貸借・譲渡した者は5.3%となっている。また、このテープの貸借等の相手方は、10人中8人は「友人・知人」であるが、残りの2人は家族を除く「その他」と答えている。なお、年間の貸借等の回数は、平均2.4回である。
     また、三団体調査では、録画機器所有者のうち、個人録画したテープを知人・友人に貸した経験のある者が20.9%であり、また、あげた経験のある者は6.6%である。なお、個人録画したテープを「仕事用に使った」(13.2%)、「多数の人が集まる行事に使った」(16.5%)とする者がいる(この点については、上記工業会調査では該当者なしである。)。



    II 著作権法制と国際的検討の動向
    1.現行法
    現行著作権法では、私的使用のための複製(録音・録画を含む広い概念)について次のように規定している。
    法第30条(私的使用のための複製)
    「著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる。」

    ところで、この法第30条を含めて、いわゆる著作権の制限規定の解釈については、著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書(昭和51年9月)において次のように述べられているところである。

    「著作権制度は、第一義的には著作者等の権利の保護を目的とするものであるが、併せて社会における著作物の利用が円滑に行われるよう配慮し、それにより文化の一層の普及と発展に寄与しようとするものである。この点に関し、現行著作権法は、その第1条にその目的を掲げ、「この法律は、著作物……に関し著作者の権利………を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」としている。この「公正な利用」の具体的な措置の一つとして、著作権の制限、すなわち著作権の内容が一定の場合に一定の条件の下において制限されることが定められているが、著作権の制限は、著作物の利用の面からは「公正利用」又は「自由利用」といわれている。どのような範囲や態様における利用をもって「公正利用」であると考えるべきかは、経済、社会、文化の発展段階に応じて変化していくものであろうが、いずれの場合においても、その根底には著作権者の利益を不当に害するような利用であってはならないという認識が存在するものである。従って、法第30条をはじめとする著作権の制限規定は、本来認められるべき著作権を制限するものであるという条文の性格上、厳格に解釈されなければならない。」(同報告書、11頁)

    そこで、以上の趣旨を踏まえ、改めて法第30条の解釈を説明することとする。まず第一に、複製できる者(複製主体)については、「使用する者が複製することができる」と規定し、複製主体を使用者本人に限定している。もっとも家庭内においては、例えば、親の言い付けに従ってその子が複製する場合のように、その複製行為が実質的には本人(親)の手足としてなされているときは、当該使用する者(親)による複製として評価することができる。しかしながら、いわゆる音のコピー業者のような複製を業とする者に依頼する複製は、この要件に該当しないものと解する。

    次に、複製の手段である複製機器は使用者がこれを保有していなければならないのかどうかという問題がある。このことについて、条文上その要否は必ずしも明らかとはいえないが、本条は、使用する者が自ら行う複製行為を許容したものであることから、本条の趣旨として自己の支配下にある複製機器によるべきことが要請されているものと解する。したがって、自己の所有している機器の場合はもとより、継続的使用を目的として借りている機器については、自己の支配下にある機器と考えることができるが、他人の設置したコイン式複写機器による複製のような場合において、これを自己の支配下にある機器によるものと認めることについては消極的に解せざるを得ないところである。

    第三に、使用目的は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」とする場合でなければならない。個人の娯楽や学習などのために録音したり、家族で楽しむために録画したりする場合などが典型例である。また「これに準ずる限られた範囲内」とは、人数的には家庭内に準ずることから通常は4~5人程度であり、かつ、その者間の関係は家庭内に準ずる親密かつ閉鎖的な関係を有することが必要とされる。したがって、例えば、親密な特定少数の友人間、小研究グループなどについては、この限られた範囲内と考えられるが、少人数のグループであってもその構成員の変更が自由であるときには、その範囲内とはいえないものと考える。

    第四に、複製の対象は、「著作権の目的となっている著作物」であるが、その著作物の種類及び性質は問わないし、また、著作物が公表されているかどうかについても問わないこととされている。

    その他、本条によって適法に作成された複製物の保存についての制約あるいは著作物(複製物)の市場や価格に与える影響という点から導き出される制約などが本条による複製行為について存するものであるかどうかについては、条文上明定されてはいないが、著作権者の正当な利益を不当に害しないことが、本条の複製についても当然の前提とされているものと考えられるところから、その範囲は明確でないとしても、複製については一定の制約があるものと解されている。このようなところから、例えば、家庭にビデオ・ライブラリーを作るためにテレビ番組などを録画して、これを保存することは、本条の趣旨を逸脱するものであるとの解釈もあるところである。
     また、本条の規定は、著作隣接権の目的となっている実演、レコード又は放送の利用について準用されている(法第102条第1項)ので、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とする場合には、使用する者はこれら実演、レコード又は放送を前記の条件のもとに複製することができることとなる。

    なお、本条の規定によって適法に作成された録音物・録画物を、営業用など私的使用の目的以外の目的のために、頒布したり、あるいはこれらの録音物・録画物によって著作物を公衆に提示することは著作権者等の許諾が必要となることに留意しなければならない(法第49条第1号、第102条第4項第1号)。


    2.条約及び各国法制

    (1)条約
    著作権及び著作隣接権の制限に関し、著作権関係条約は、次のように規定している。
    ○ベルヌ条約パリ改正条約(注1) 第9条第2項
    「特別の場合について(1)の著作物(注 文学的及び美術的著作物)の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。」
    ○万国著作権条約パリ改正条約(注2) 第4条の2第2項
    「もっとも、各締約国は、1に規定する権利(注 複製権等)について、この条約の精神及び規定に反しない例外を自国の法令により定めることができる。ただし、自国の法令にそのような例外を定める締約国は、例外を定める各権利について、合理的な水準の有効な保護を与える。」
    ○実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約
     (隣接権条約)(注3)
     第15条
    1 締結国は、国内法令により、次に掲げる場合には、この条約が定める保護の例外を定めることができる。
    (a)私的使用であるとき。
    (b)~(d)(略)
    2 前項の規定のほか、締約国は、国内法令により、実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関して、文学的及び美術的著作物の著作権の保護に関し国内法令で定める制限と同様の制限を定めることができる。(以下略)
    ○許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)(注4) 第6条
    「著作権その他特定の権利による保護又は刑罰による保護を与える締約国は、レコード製作者の保護に関し、文学的及び美術的著作物の著作者の保護に関して認められる制限と同一の種類の制限を国内法令により定めることができる。(以下略)」
    以上のように複製権の制限に関する各条約の規定は、一般的、抽象的な内容のものであり、制限の具体的な範囲や態様については、各国の法令にゆだねられているところであり、ベルヌ条約の上記規定が設けられた際のストックホルム改正会議(1967年)における当初の公式提案においては、私的使用のための複製が複製権の制限の例示の一つとして掲げられていたように、私的使用のための複製は、著作権の制限の典型的な例として国際的にも理解されているということができる。

    なお、WIPO(注5)のベルヌ条約逐条解説書によれば、私的使用に関して著作物の複製を認めている法律が多いが、複写機器、録音機器などの新しい複製技術の出現に伴い、事態は変化しているとし、

    「ディスクあるいはカセット(再録音・録画)または放送波(ラジオのほかテレビジョンも)のいずれかから、良質の音と影像の記録を作成することは、子供にできるほど容易である。私的使用に関する制限の考え方は、コピーを私的に大量に作成することが可能になると、実効性を欠くことになる。」
    との指摘がなされている。
    (注1)ベルヌ条約パリ改正条約 
    ベルヌ条約は、1886年に創設されて以来数度にわたり改正されているが、1971年にパリで改正された最新の改正条約がこの条約である。
    (注2)万国著作権条約パリ改正条約 
    国著作権条約は1952年に成立したものであるが、1971年にベルヌ条約と同時に改正された条約がこの改正条約である。
    (注3)隣接権条約 
    この条約は、1961年に実演家、レコード製作者及び放送事業者の国際的保護を図るために作成され、1964年に発効したものである。我が国は未加盟である。
    (注4)レコード保護条約 
    この条約は、レコードの海賊盤の防止を図るため、1971年に作成され、1973年に発効している。我が国は1978年にこれを締結した。
    (注5)WIPO
    World Intellectual Property Organization(世界知的所有権機関)の略称。1967年ストックホルムで作成された世界知的所有権機関を設立する条約に基づいた国際機構であり、主要な任務として、全世界にわたって知的所有権の保護を改善すること、ベルヌ同盟の管理業務を行うこと等が挙げられている。国際連合の専門機関でもある。


    (2)各国法制
    ほとんどの国においては、複製できる著作物等の種類及び範囲や複製の態様などに若干の相違があるものの、私的使用のための複製を著作権等の制限の1つとして容認している。その主なものを列挙すれば、次のとおりである。
    ○イギリス
    調査又は私的研究のために著作物を公正に利用することは、著作権侵害にならないが、映画の著作物については、このような特段の規定がないので、公正利用は認められないものと解される。
    ○フランス
    複製する者の私的使用に厳密に当てられ、かつ、集団的な利用に供されない場合には、公表された著作物を複製することができる。なお、実演家等の著作隣接権の保護についての国内法は存しない。
    ○スウェーデン
    私的使用のために、発行された著作物やレコード、放送などから少数の複製物を作成することができる。これらの複製物は、他の目的に利用してはならない。
    ○アメリカ合衆国
    批評、解説、ニュース報道、授業、研究、調査等を目的とする著作物(録音物を含む。)の公正使用は、著作権の侵害とならないとされ、また、個々の使用が公正使用となるかどうかを判断する場合の考慮すべき要素として、著作物の性質、使用の目的及び性格、使用された部分の量及び実質、著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響を明記している。なお、実演や放送についての権利を認める規定は存しない。
    ○西ドイツ
    著作物、実演等を私的使用のために複製することが許容されるが、放送や録音物・録画物から録音・録画機器により私的使用のために複製することが予想される場合には、著作権者、実演家等は、録音・録画機器の製造者等に対し、機器の販売価格の5%以内の範囲において報酬を請求することができるとしている。
    第53条 私的使用のための複製
    (1)著作物の個々の複製物を、私的使用のために、作成することは許される。
    (2)複製の権能を有する者は、複製物を他人に作成させることもできる。著作物を録画ないし録音物へ写調すること、及び美術の著作物を複製することについては、それが無償で行われる場合に限り、また同じ。
    (3)複製物は、これを頒布することも、公の再生のために利用することもできない。
    (4)著作物の公の口述、上演又は上映を録画ないし録音物に収録すること、美術の著作物の見取図及び設計図を実施すること、及び建築の著作物を模造することは、つねに権利者の同意を得た場合に限り許される。
    (5)著作物が、私的使用のために、放送を録画ないし録音物に収録することにより、若しくは録画ないし録音物を他の録画ないし録音物へ写調することによって、複製されることが、著作物の性質上、期待される場合には、その著作物の著作者は、そのような複製に適した機器の製造者に対して、その機器の販売によって生ずる複製の可能性について報酬の支払を目的とした請求権を有する。その機器を、この法律の適用地域において営業として輸入又は再輸入する者は、機器の製造者とともに、連帯債務者として責を負う。機器が、この法律の適用地域において、諸般の事情から、さきの複製を行うためには利用されないことが多分に期待できるときは、請求権は存しない。請求権は、管理団体を通してのみ行使することができる。製造者が機器の販売につき見込んだ収得金に対する相当なる配当が、各権利者に、報酬として帰属する。第84条、第85条第3項及び第94条第4項に基づく権利者をも含め、すべての権利者の報酬請求の額は、この売得金の100分の5を超えてはならない。」
    なお、本条第5項は、第84条(実演家の保護)、第85条第3項(録音物製造者の保護)及び第94条第4項(映画製作者の保護)で準用されている。
    ○オーストリア
    1980年、著作権法の一部改正により、私的使用のための複製の規定を改正し、複製しうる著作物の範囲の拡大を図ったこと、複製物の部数を少部数に限定したことなどの規定の整備を行ったほか、生テープの販売者に対する公正な報酬を請求する権利を著作者、実演家、レコード製作者等に認めるという制度を導入し、1981年1月1日から実施された。(録画については1982年7月1日から実施されることとなっている。)
    第42条 何人も、その私的使用のために著作物の複製物を少部数作成することができる。
    2著作物を公に提示する目的で複製物を作成することは、私的使用のための複製に該当しない。
    3少部数の複製物は、委託を受けて他人の私的使用のためにも作成することができる。ただし、美術の著作物又は映画の著作物の複製は、無償で行う場合に限る。委託者の私的使用のために対価を得て文芸の著作物又は音楽の著作物を手写又はタイプライター以外の方法で複製することは、著作物の小部分の場合又は未発行若しくは絶版の著作物に係る場合に限り、許容される。
    4図面又は設計図にしたがって建築の著作物を完成すること、又は、このような著作物を模倣して建設することは、いかなる場合においても、それについて権限を有する者の許諾を必要とする。
    5放送された著作物又は商業目的で録画用又は録音用の素材に固定された著作物が、その性質上、私的使用のために、録画用又は録音用の素材に複製されることが予想される場合において、このような複製が予定された未使用の録画用又は録音用素材が商業目的で、かつ、有償で国内において頒布されるときは、著作者は、公正な報酬を請求する権利を有する。ただし、そのような未使用の録画用又は録音用の素材が国内において使用されない場合又は私的使用のための複製に使用されない場合は、この限りでない。公正な報酬を請求する権利を立証するためには、一応の証拠をもって足りる。その報酬の決定に際しては、特に素材の使用可能時間が考慮されなければならない。報酬は、国内において、商業目的で、かつ、有償で録画用又は録音用の素材を最初に頒布した者によって支払われる。
    6前項に基づく請求は、管理団体によってのみ行われる。
    7録画用又は録音用の素材を公正な報酬を含んだ価格で購入する者で、私的使用以外の目的のための複製にそれらを使用する者は、管理団体に対して公正な報酬の返還を請求することができる。ただし、私的使用以外の目的のための使用が著作物の自由利用にあたる場合には、この限りでない。返還請求権を立証するためには、一応の証拠をもって足りる。」
    本条の規定は第69条第3項(実演家関係)、第76条第4項(レコード製作者関係)及び第74条第7項(写真に関する権利の所有者)において、準用されている。

    なお、改正法を検討した司法委員会の報告は、最初の年においては全権利者に対する報酬は1,000万シリング(約1億8,500万円)を超えるべきでないという見解を示している。


    3.国際的検討の動向と各国の対応

    (1)国際的検討の動向
    万国著作権条約政府間委員会(注1)及びベルヌ同盟執行委員会(注2)は、1975年(昭和50年)12月にスイスのジュネーブで開催された会期において、「ビデオカセット及びオーディオビジュアルディスクの使用から生ずる法律問題に関する作業部会」の設置を勧告し、この勧告に従ってユネスコ及びWIPO両事務局長によって招請された専門家で構成された同作業部会の会議が、1977年(昭和52年)2月にジュネーブで開催された。

    作業部会では、ビデオグラム等の私的使用及び教育目的の利用の問題について審議が行われ、その結果は次のとおりである。

    「ビデオグラム(「影像と音の連続の物的支持物及びその支持物に収録された影像と音の連続の固定物自体の両者」を意味する。)の私的使用によって惹起される法律問題に関して、私的使用はベルヌ条約(パリ改正条約)第9条第2項に基づき無条件で適法となるわけではなく、私的使用が許容されるためには、複製が著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことが必要である。ビデオグラムをビデオカセットとして複製することの容易さからみて、このような複製方法は前記の規定に定める限定条件を充たさず、したがって、その複製は前記条約に基づく排他的複製権に従わなければならないと思われる。また、万国著作権条約パリ改正条約が許容する複製権の例外も、その範囲に関する限りではベルヌ条約第9条第2項に規定する例外と本質的に異なるものではないと考える。

    前記2条約に規定する複製権に対する制限の限定的な見方を大多数の国内法は考慮していないけれども、作業部会は、これらの制限の趣旨を尊重するならば、技術の発達普及によってビデオグラムの私的複製が行われる場合に著作者が自らの排他的複製権を有効に行使することができないときの唯一の解決策としては、著作者又はその権利承継人のために包括補償金(a global compensation)の制度を設けることにあると考える。また、その補償金の支払いは、税金その他の公課ではなくて、排他的権利を行使する機会を奪われることに対する代償の性質を有するものである。なお、その補償金は複数機器自体を対象とすべきか、又は音と影像の連続が固定される物的支持物(the material support)を対象とすべきかの問題については、専門家は後者の解決策の方を選ぶべきものとする。

    次に、著作隣接権に関しては、隣接権条約第15条では私的使用の全面的な免除を規定しているので、著作隣接権者は著作者のように、私的使用のための複製に関して同条約に規定する排他的権利を主張することができない。もっとも、ビデオグラムの普及及び複製の容易さは、実演家、レコード製作者及び放送事業者を害することとなるので、専門家は、条約上の義務を援用することは不可能であるけれども、衡平を考えれば、著作隣接権者に対しても包括補償金の分配へ参加できる旨を国内法で規定することができると考える。」

    その後、万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会の合同会議は、1977年(昭和52年)11月、パリにおいて開催され、本問題の今後の取扱いについて検討した結果、問題の緊急性にかんがみ、翌年上半期に両委員会の合同小委員会を招集して、この問題を更に研究することとなった。そして、そのための会議が、1978年(昭和53年)9月、パリで開催され、作業部会報告書、この報告書に対する各国及び各国際非政府機関の意見並びにこの問題に関する各国の法制、現在の対応及び将来の方針を主たる討議資料として審議を行った。その結論は次のとおりである。

    「合同小委員会は、ビデオカセット又はオーディオビジュアルディスクに含まれている著作物、実演の権利者が既に被っている損害にかんがみ、現実的な対策を早急に見出す必要性があることを特に強調するとともに、この結論が録音物(sound recordings)にも適用されるべきものと考える。

    ビデオグラムの私的使用に関しては、家庭内で適法に行われる録音・録画と違法な録音物・録画物の作成との間を区別することにより私的使用の概念の範囲を明確にする必要があると考える。しかしながら、複製を確実に監視しうる技術が存せず、それ故に、現実に排他的権利を行使しえない状況においては、私的使用のためのビデオグラムの使用により権利者が被る損害を緩和することを期待して、何らかの補償制度を採用することを勧告する。この補償制度は、著作物の複製及び上映(projection)に使用される機器若しくは影像と音の連続が固定される物的支持物のいずれか一方又は双方の販売価格に対する賦課金から成るものとすべきであり、後者の方が最も望ましい補償といえる。」

    また、隣接権条約政府間委員会小委員会においても、ビデオグラムの私的使用に関し、前記ベルヌ・万国合同小委員会の結論に賛成する、とした。
    1979年(昭和54年)2月、ジュネーブで開催された万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会合同会議では、先の合同小委員会が採択した報告書の審議を1979年10月まで延期し、その間にベルヌ条約及び万国著作権条約の締約国に同報告書に対するコメントを提出する機会を与えることとなった。そして、1979年(昭和54年)10月、パリで開催された万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会は、合同小委員会が採択したビデオグラムの私的使用より生ずる著作権問題の解決のための勧告を大筋においては是認したものの、なお、若干の問題(特に賦課金制度)については、更に深く研究する必要があるとして、両委員会は、1980年(昭和55年)に招集される専門家グループ(有線テレビジョンの著作権分野における影響の問題を検討するためのグループ)が、オーディオビジュアル・カセット及びディスクの使用による経済的影響、特に賦課金の導入から生ずる影響の問題をも併せて検討するよう希望を表明した。

    1980年3月、ジュネーブで開催された専門家グループの会議においては、私的使用のために複製された複製物は、後に権利者の許諾なしに商業目的に利用される要因となる場合があることが指摘されたものの、この私的複製の問題は1981年(昭和56年)3月にWIPOが開催するレコード、映画等の海賊版(盤)に関する公開討論会において扱うべきでなく、賦課金制度の問題は別の機会に検討すべきこととされた。(なお、私的録音・録画の問題についての研究は、私的複写複製の問題とともに、次のWIPOの事業計画(1982年~83年)に含まれる見込みである。)
    (注1)万国著作権条約政府間委員会
    1971年パリで改正された万国著作権条約第11条に基づき設置された委員会。その任務は、1.万国著作権条約の適用及び運用に関する問題を研究すること 2.万国著作権条約の定期的改正を準備すること 3.ユネスコ、ベルヌ同盟、アメリカ州諸国機構等の諸種の関係国際機関と協力して著作権の国際的保護に関するその他の問題を研究すること 4.万国著作権条約締約国に対し自己の活動を通報することである。
    (注2)ベルヌ同盟執行委員会
    1971年パリで改正されたベルヌ条約第23条に基づき設置された委員会。その任務は、ベルヌ同盟が継続的に、かつ、十分に機能することを確保することの他、ユネスコなど他の国際機関と協力して著作権の国際的保護に関する諸問題について研究することなどである。

    (2)各国の対応
    ○イギリス
    録音・録画問題を含む著作権の全分野について、その問題点及びその解決方策について検討することを目的として、1973年(昭和43年)に設置された委員会(委員長ウイットフォード判事)が、報告書をまとめ、その報告書(通称「ウイットフォード・レポート」)は、1977年に国会に報告された。その報告書のうち、録音・録画に関する部分を要約すると、次のとおりである。

    「家庭内における録音・録画機器の使用から生ずる著作権問題に関しては、侵害行為の取締りが実行不可能であり、かつ、侵害が広範に行われているという事実認識の下における、唯一の満足すべき解決方法は、録音・録画機器の販売価格に対する賦課金の導入である。すなわち、私的な録音・録画に適するすべての録音・録画機器について、それが私的な目的に使用されるか否かを問わず、また国内で製造されたものか輸入されたものかに拘らず、その販売に対して賦課金を課する制度を適用することを勧告する。その賦課金に対して責任を負うべき者は、機器の製造者又は輸入業者とすべきであろうし、また、賦課金を徴収するための団体を指定することについては、審判所よりも商務大臣に委ねた方がよいと思われるが、賦課金の料率、その適用及び収益の分配に関しては、法定の審判所に管轄権が与えられるべきことを勧告する。」

    以上のように、ウイットフォード・レポートでは、西ドイツで実施されているものに類似した賦課金制度の導入を勧告しているが、政府部内ではその取扱いについて目下検討中であり、具体的な法改正の動きには至っていない。
    ○フランス
    録音機器による録音が作詞家及び作曲家に与えている損害にかんがみ、録音機器に4%の課税を行い、これを音楽及び舞踊関係の社会保障制度、助成基金に充てるための、財政法改正案(1976年)が国民議会(下院)に提出されたが、採択されなかった。

    なお、未使用のテープに対して課税を行うことを内容とする法案を現在検討中である。
    なお、複写の分野については、財政法の一部を改正し、文芸作家等を助成するため、複写機器の製造・販売等を行う者に対し、機器販売価格の3%を課税・徴収することができることとなっている(1976年1月1日発効)。
    ○スウェーデン
    私的な録音・録画の問題に関し、録音・録画用の機器又は素材のいずれか一方又は双方に賦課金を課すということについては、目下、政府部内の著作権法改正検討委員会において検討中である。
    ○アメリカ合衆国
    これまで主として教育目的のための録音・録画問題に関心があったが、1979年(昭和54年)には、家庭内における録音問題に関して二つの報告書(注1)が出され、また、家庭内における放送番組からの録画に関する(注2)判決が出された。今後、これらを1つの契機として更に調査研究が進められるものと考えられる。
    (注1)1つは、「テープ再生機器を保有している家庭の調査報告書」(1979年9月)であり、これは、著作権使用料審判所の外部委託調査であり、14歳以上の者1,500名を調査対象とし、保有する録音機器の形成、録音実態(録音の有無、録音の頻度、録音源など)、レコード・生テープの購買状況、テープ録音がレコード購入に与える影響などについて調査が行われた。

    他の報告書は、「家庭内テープ録音に関する委員会の報告書」(1979年11月)であり、家庭内のテープ録音問題を研究、調査するに至った経緯、調査手続、方法、上記報告書の概要などを内容としている。
    (注2)放送された映画の家庭内録画が、フェアユース(公正使用)として許容されるかどうかという問題について争われ、1979年10月2日、カリフォルニア連邦地方裁判所判決において、フェアユースと認められたもので(現在上訴中)、この判決を、通常、ベータマックス判決と呼んでいる。

    訴訟の概要は、テレビ映画製作者(ユニバーサル・シティ・スタジオ及びウォルト・ディズニー・プロダクション)が、ベータマックスの製造者、販売者、小売店、広告代理店、所有者を相手どって、放送された映画を録画機器により家庭内使用のために録画することは映画製作者の著作権を侵害することなどを理由に、差止め及び損害賠償の請求をしたものであるが、これについて裁判所は、その利用はフェアユースに該当し、著作権侵害とはならないと判示した。なお、家庭内における録音・録画の問題の実質的な解決は立法政策に課された問題である旨が判決理由の中に述べられていることも注目される。
    ○西ドイツ
    私的使用のための音楽著作物の録音をめぐる訴訟等を背景に、1965年の著作権法の全面改正により、著作者及び著作隣接権者が、録音・録画機器の製造者等に対し、その機器の販売価格の5%の範囲内において、補償金(報酬)の支払を請求しうることを認める制度(いわゆる西ドイツ方式)を導入した(法第53条第5項)。

    しかし、録音・録画機器製造者に対して報酬支払請求をしうるとする法第53条第5項に対しては、機器製造者側の強い反発を招き、同項を憲法(いわゆるボン基本法)違反であるとして、連邦憲法裁判所への異議申立てが行われた。これに対して連邦憲法裁判所は法第53条第5項の規定は機器製造者の基本権を侵害していない旨の決定をした(1971年7月7日決定)(注)

    その後、機器の普及率の伸び悩みやより安価な機器の登場などにより権利者団体に支払われる賦課金収入が予想外に伸びないことから、権利者団体からこの制度を更に拡充し、生テープ製造者からも賦課金を徴収できるようにすべきであるなどの運動が起こっている。さらに、1980年には、現行規定では報酬請求額は機器の販売価格の5%の範囲内とされているのを「相当な報酬」を請求することができるとすること等を内容とする法務省参事官草案が出されている。
    (注)
    1.異議申立人である録音機器製造者の主張の要点
    1)立法者は現行規定を設けるに当たって、不当な事実前提より出発した。すなわち、著作者の収入は録音機器出現後大巾に増加した。
    2)立法者は現行規定を設ける録音機器の製造は何ら著作権侵害を意味せず、著作権法上全く価値中立的なものであるにもかかわらず、録音機器製造者に賦課金の支払義務を課することは基本法第3条(法の下の平等)に反する。賦課金を課するとするならば、テープの量が生じうる著作権侵害の範囲を決めるのに正当な尺度であるから、テープ製造者に課するのが実際的である。
    3)機器製造者に報酬の支払いを義務づけることによって、機器製造者に特別の義務を課し、財産的損失を被らせることは、基本法第14条(財産権の保障)の規定に違反する。
    4)機器製造者が合理的な理由なしに販売者や消費者に比べて不利益を受けることは、本質的には、営業を営むことを制限し、基本法第12条第1項(職業選択の自由)に反する。
    5)報酬支払義務を、保護著作物の複製をする「可能性」に関連づけることは、法治国家の原理に反する。
    2.連邦憲法裁判所の判断
    1)著作者は、第三者により著作者の個々の複製物が作成されることを、それが個人的使用のために行われる場合にはこれを受忍しなければならない。この複製権を制限することに対する填補として報酬請求権が与えられている。この請求権は、「機器の買主が個人的使用のために複製物を作成しうること」への対価である。この報酬請求権の法的性格は必ずしも一義的ではないが、憲法上の吟味にあたってこのことは重要ではない。
    2)著作権法第53条には、著作権法上保護される著作物を個人的使用のために複製することができるという市民の利益を、著作者の利益と調和させる使命がある。この利益衝突は、私的な複製を許す複製機器が製造されることによってのみ生ずる。機器の製造者は、このような機器を市場に出すことによって経済的収益を得る。立法者がこのような状況の下で、正当なものと認められた著作者の報酬請求権の行使を実際的なかたちで確保するため、この多面的な利益衝突の調整の中に機器製造者を関与させるのであれば理にかなっている。
    3)機器製造者に賦課金を課することは、基本法第3条第1項の一般的な平等命題を侵害しない。法律が最終的に機器製造者に支払義務を負わせたとしても、2)記述のように理にかなっており、恣意的なものではない。なお、テープについては必ずしもその用途が明らかでないところから、テープ製造者に賦課することは妥当ではないと立法者は判断した。
    4)著作権法第53条第5項の規定は、基本法第12条第1項に違反しない。当該規定は憲法裁判所の判例の意味における職業遂行規定ではなく、私法の利益調整規範である。
    5)異議申立人は、規定すべき領域の複雑さという事実の中で不当にも、立法者は実際に行われた著作物複製に対してのみ著作者に対する報酬を与えることができるはずであるという前提に立っている。しかしながら、第53条第5項第1文後段が明記しているような「機器の販売によって生ずる複製の可能性」と報酬義務とを立法者が関連づけることについて、これを妨げる上位の規定は何ら存在しないのであり、異議申立人の主張は正当ではない。
    ○オーストリア
    1980年の著作権法の一部改正により、録音用又は録画用の生テープの頒布者に対して公正な報酬を請求しうる権利を著作者、実演家、レコード製作者などに認めるという制度(いわゆるオーストリア方式)が導入され、翌年(1981年1月1日)から実施された(録画については1982年7月1日から実施される)(注)。
    (注)司法委員会の報告では、最初の年においては全権利者に対する報酬は1,000万シリング(約1億8,500万円)を超えるべきではない、とされている。


    III 法第30条に関する録音・録画に関する著作権問題について

    1.法第30条の許容範囲を超える録音・録画問題
    実際に家庭内で行われている録音・録画については、それが法第30条の許容範囲内のものかそれともその範囲を超えるものなのかは、外形上明らかとはいえない。例えば、ある音楽番組の放送を家庭内で録音する場合を考えてみると、それが個人で使用するため、あるいは家庭内で使用するための録音なのか(これらであれば、法第30条の許容範囲内)、それとも第三者の依頼による録音なのか(法第30条の許容範囲外)については、一般的に録音者本人以外の者には明らかではない。

    また、このように家庭内録音・録画によって作成された録音物・録画物が貸借、譲渡、交換等に供されているのかどうか等については、貸借等の事実は一部にはあるものの、それが法第30条の許容範囲内のものかどうかについては明らかとはいえない実情にある。

    このように、家庭内録音・録画の実態を把握することは相当難しいことではあるが、家庭内録音・録画の問題に対処するためには、法第30条の許容範囲内の録音・録画とその範囲を超える録音・録画とを区別することが必要である。すなわち、これらは問題の性格が異なり、その問題解決の方法も異なってくるものと考えられるからである。

    法第30条の許容範囲を超える録音・録画問題を考えるにあたっては、次のように三つの類型に分けることが重要であると思われる。
    1)そもそも法第30条の許容範囲を超える録音・録画の場合(例えば、使用目的としては営利目的、業務上使用するため、多数の者の間で使用するためなど、複製手段としては、他人の機器を使用するときなど、複製主体については第三者に複製を委託するように主体が使用者でないときなど)
    2)法第30条の許容範囲内での録音・録画によって作成された物を事後に私的使用の目的以外の目的に使用する場合( 3)の場合を除く。)(例えば、個人使用のために録音したテープを事後に事業のために使用したり、第三者へ貸与したりするなど)
    3)2)と同様の場合であるが、その録音・録画が他の著作権の制限規定に該当すると評価できる場合(例えば、教員が自己の私的使用のために作成した録音物・録画物を、自己が担任するクラスの授業において使用するときなど)

    以上のうち、1)及び2)の場合には著作権者等の権利が及ぶこととなり、著作権者等の許諾を得ずに行われるときには著作権等の侵害(違法)となるが、3)の場合には、制限規定によって著作権等が制限されるので、著作権等侵害の問題は生じないところから、両者を区別して論ずることが適切である。

    なお、3)の場合の詳細については、「IV.その他の録音・録画に関する著作権問題」で取り扱うこととする。

    (1)法第30条の許容範囲を超える録音・録画の実態等
    録音・録画の目的は、工業会調査によれば、あとで見たり聴いたりするため、何度もくりかえして見たり聴いたりするため、いわゆる裏番組を見たいため(録画)とする者が圧倒的に多く、これらの目的での録音・録画については現行法上特段の問題はないと考えてよいものと思われる。

    しかしながら、「他人に頼まれた」録音(1.5%、工業会調査による。以下同じ。)については、法第30条が許容する私的使用のための録音には該当しないし、また、「ライブラリー(保存版)として保管しておくため」の録音(8.1%)・録画(19.5%)については、法第30条の解釈は分かれているものの、最も厳格な解釈をする立場からは、法第30条の趣旨を逸脱する行為であり、著作権等を侵害するものと考えられている。さらに「友人、知人に聞かせるため」の録音(4.4%)については、その友人、知人と録音を行う者との間に家庭内に準ずる親密な関係があり、かつ、人数的にも4~5人に限定された範囲内であれば、現行法上問題は生じないが、この範囲を超える場合には著作権等の侵害が生ずるものと考えられる。

    次に、友人・知人などの間で貸借、譲渡、交換などをしたことのある者は、録音テープでは調査対象者全体の21.7%(総理府調査による。)であり、録画テープでは録画機器所有者の5.3%(工業会調査による。)である。

    もっとも、これらの調査は、録音物・録画物の貸借、譲渡などの有無の観点からのものであり、「友人・知人」の範囲が明確にされていないのでそもそも法第30条の許容範囲と考えられる貸借なども含まれている可能性があるが、法第30条の許容範囲を超える録音物・録画物の貸借、譲渡は著作権等を侵害することとなる。

    なお、工業会調査では、録音テープについては、売買、業務用に使用、大勢の場で使用という例も若干あること(約5%)が指摘されており、これらは明らかに著作権等の侵害となる。また、最近、店内や顧客の持ち込みのミュージックテープ等により、店内に設置された高速録音機によって短時間に録音するといういわゆる「音のコピー業」が始められている。実際の録音に当たっては、使用目的、録音対象、録音態様など様々な場合が考えられるが、著作物等を録音する場合であって、仮に顧客の依頼により店が行うときには、録音主体は店であり、その録音は自ら使用するためではないので、法第30条の私的使用のための録音に該当せず、また仮に顧客が自ら店の機器で録音するときには、顧客自身の支配下にある録音手段によるものではないので、これも法第30条の私的使用のための録音に該当しないものと解される。

    そこで、1)及び2)のような違法な録音・録画が行われる背景について実際に録音・録画機器を用いる者がどの程度、著作権に関する知識等を有しているかという観点から整理すると、次のとおりである。
    (ア)総理府調査では、「著作権」という言葉を見たり聞いたりした者は全体の68.5%であり、そのうち著作権の取得に登録は必要でない、と正しく答えた者は14.7%(全体の10.1%)であることから、著作権について正確な知識を有している者は少ないことがいえる。
    (イ)同調査では、レコードのジャケットに「レコードから無断でテープその他に録音することは、法律で禁じられています。」との注意書を見たことのある者は60.7%であるのに対し、テープ・レコーダーの使用説明書や広告などに「あなたがテープ・レコーダーで録音したものは、個人として楽しむなどのほかは、著作権法上権利者に無断で使用できません。」との注意書を見たことがある者は39.3%であるし、また、工業会調査でも同様の結果である。このことから、レコードのジャケット、テープ・レコーダーの使用説明書や広告などによる注意書を見る機会が十分とはいえず、特にテープ・レコーダーの使用説明書や広告などの比率が低いといえる。
    (ウ)総理府調査では、実際の日常生活や仕事などで著作権を意識するようなことは、ほとんどの者(94.7%)がないと答えており、著作権がまだ国民の間では身近な問題となっていないことがうかがえる。
    (エ)総理府調査では、「法律では、個人的に使ったり、家庭の中や少数の友達の間で使ったりする場合には、レコードなどから自由に録音(録画)することが許されている。」ことを知っている者は54.9%である。また工業会調査では、業務用、売買のように直接又は間接に営利目的であったり、多人数で使用する場合には法律にふれると考える者が多いが、友人間で利用する場合の友人間の親密度等については特段これを考慮せずに録音(録画)している。このことから、なお法第30条の周知の程度は十分とはいえないといえる。
    (オ)工業会調査では、法律に触れるような録音をする場合に許可を受けなければならない場所(相手方)を知っている者は7.2%であることからすれば、著作権処理を要する場合の申込先、所在地などの手続に関する知識も乏しいことがうかがえる。

    (2)法第30条の許容範囲を超える録音・録画に対する対応策
    この録音・録画問題の解決を図るためには、著作権思想の普及徹底及び集中的権利処理などが考えられる。
    1)著作権思想の普及徹底
    著作権制度が十分機能していくためには、権利者及び利用者の双方に著作権に関する必要な知識及びこの権利保護の重要性に関する認識が生まれることが必要となる。また最近における著作物の利用手段の多様化と利用機会の増大に伴い、国民一般の著作権についての関心は以前に比べ著しく高まってきたということができよう。

    しかしながら、録音・録画の面に即して考察した場合、著作権が制限され著作物の無許諾の複製が許容される場合の条件・範囲及び反面における許諾を要する録音・録画の範囲についての正確な知識は、前述のとおり必ずしも十分に国民一般の間に浸透しているものとは言い難い。これは、録音・録画というもののほとんどが、個々の件についてみれば零細な利用にとどまり、かつ、公衆に頒布して直接利益を得るという性格のものではなく、従来、権利者の側からも録音・録画に関し特別の権利主張を行うことがあまりなかったということともあいまって、このような利用については著作権の処理を要するまでもないという認識が、いわば自然発生的に生じたことによるものであろう。しかしながら、私的使用としての許容範囲を超える零細な利用であっても、適正な著作権処理が必要であることはもとよりであり、その前提として、著作権思想の一層の普及徹底が望まれる。その方策については、文化庁、権利者、機器製造者、テープ製造者などそれぞれの立場より著作権思想の普及の努力がなされることにより、全体として各方面に十分に徹底されることが期待されるところである。

    文化庁においては、従来から、著作権思想の普及を図るため、一般社会人を対象とする著作権講習会、図書館等職員を対象とする図書館等職員著作権実務講習会及び都道府県等の職員を対象とする都道府県著作権事務担当者講習会を実施してきているほか、文部省初等中等教育局が主催する小・中・高校の校長、教頭、教員等を対象とする研修(「教職員等中央研修講座」)に著作権の講座を設けるとともに、普及資料の作成、頒布等により著作権思想の普及徹底に努めてきているが、法第30条の趣旨について広く国民の間に認識を深めるよう普及措置を一層充実させる必要があろう。

    しかし、他方において、同時に必要となるのは、著作権者及び著作隣接権者を中心とする権利者自身の努力である。すなわち、著作権及び著作隣接権は所有権と同様に私権に属し、また、その侵害罪も親告罪とされているように、権利者自らの主張に基づいて有効に機能するものであって、権利者がその権利を主張しない以上、第三者としてはいかんともしがたいという要素を有している。この問題が新しいものであるということもあるが、従来録音・録画による著作物の利用に関し、権利者側からの権利主張はほとんどなく、このことが利用者側がこの問題についての認識を深めないままに推移してきた原因の一つとなってきていることは否定することができない。西ドイツにおける著作権法第53条第5項(いわゆる西ドイツ方式)の採用の経緯は、もともと権利者側の訴訟提起を伴うねばり強い行動の結果生まれたものであり、好ましい結果を得るためには何よりも権利者自身の自覚と努力が必要であることを物語っている。この場合、訴訟の提起による権利主張は別としても、例えば、許諾を要する場合に無許諾で録音・録画を行えば著作権侵害になる旨の表示はレコードのジャケット、テープ・レコーダー、VTRの使用説明書、カタログ等に記載されるようになっているが、その表示場所及び表示の方法等について改善する余地は十分あり、また、著作権思想の普及パンフレットを作成頒布するとか、放送、新聞等のメディアを利用して宣伝を行うとか、あるいは、販売店に著作権思想の普及のためのパンフレットを常置するようにするなど、あらゆる機会をとらえ、またあらゆる方法により、著作権思想の普及に努力することが必要である。

    また、機器の開発・普及によって、誰でもいつでも手軽に機器を操作できるようになり、その結果著作権等の権利に著しい影響を及ぼす状況になっている。実際、機器製造者又はテープ製造者においては、特に録画機器に関して言えば、その販売の主流が業務用から家庭用に移ってきており、その販売の促進を図るためにテレビ画面の録画をセールスポイントとしているのが実情である。また、他方、購入者による録音・録画機器の使用も、上記の実態調査が示すとおり、純粋な私的使用の範囲内にとどまっているとはいえないものもあり、また目的外使用のケースも指摘されているところである。したがって、このような状況を改善するためには、権利者等の不断の努力が必要であることはもとよりであるが、著作物等の複製を可能にしている録音・録画機器の製造者及びテープ製造者においても、著作権思想の普及を図る必要がある。例えば、録画機器等の販売PRに際しては、販売担当者に法第30条の趣旨を正しく理解させるために社内外における研修会等を行ったり、販売店頭に購買者の注意を喚起するようなポスターを掲示したり、宣伝カタログなどに注意書きを表示するなどその周知徹底が必要である。なお、周知徹底を図るに当たっては、法第30条の規定が拡大解釈されることがないよう常に留意しなければならないことはいうまでもない。

    なお、総理府調査によれば、無断録音を禁止する旨の注意書きを見たことのある者はレコードのジャケットでは60.7%であるのに対し、テープ・レコーダーの使用説明書や広告などでは39.3%と相当低く、また工業会調査においても、レコードのジャケットが最も多い(52.4%)のに対し、録音機のカタログの注意書(13.4%)、生テープのカタログ等の注意書(12.6%)はかなり低いとの調査結果からみても、機器製造者及びテープ製造者は、著作権思想の普及に一層努力する必要があるといえる。
    2)著作権等の集中的権利処理
    法第30条の許容範囲を超える録音・録画及びその許容範囲内で作成された録音物、録画物を私的使用の目的以外の目的のために頒布するなどについては、事前に権利処理をしなければならないにもかかわらず、利用者において権利処理すべきものと意識されなかったり、また権利処理すべきものとは考えていても、その手続が煩雑なためにそれが行われないことが多い。したがって、その対応策について検討する必要がある。なお、営業目的のためにレコードを複製する場合のように、本来個々の権利者からの許諾を得て行うことが本筋であるものについては、ここでは除外して考えるべきである。

    そこで、例えば、放送番組を録音・録画する場合の権利処理の対応策として考えられるのが、個々の利用者が原作者、脚本家、作詞家、作曲家、歌手・演奏家・俳優などの実演家、レコード製作者、放送事業者などの権利者と個別に交渉して著作物等の利用の許諾を得る方法であるが、すべてのケースにそれぞれの権利者に事前に許諾を求めることを期待することは、その手続の煩雑さから実行上不可能に近いものと考えられる。したがって、著作権の円滑な処理を可能にするためには、個々の権利者を当事者とするのではなく、その権利を集中的に管理して行使する窓口が存在し、その窓口を当事者とするいわゆる集中的権利処理機構の存在が実際的な対応策として考えられる。しかしながら、家庭の内外での零細な利用のみに関する権利処理を行うための機構を設置し、運営することは経済的な面からの困難さが予想されるところから、他の目的のための権利処理とあわせて機構を設置し、運営することが必要となろう。

    なお、現在、わが国においては、音楽の著作権を管理している社団法人日本音楽著作権協会、文芸の著作権を管理している社団法人日本文芸著作権保護同盟及び放送脚本の著作権を管理している協同組合日本放送作家組合があって、現にそれぞれの団体において集中的な管理を行っているほか、美術、写真等についてもこのような機能を果たしうる関係団体が幾つか存在しているが、家庭の内外での零細な利用について、これら権利者団体から個々に許諾を得ることも実際的でない。この点について、現在、一定の限定された目的のための著作物等の利用について、いくつかの関係権利者団体の協議により、協議体として組織を結成し、実際には特定の団体を幹事団体として、これを窓口として権利を行使する方法(注1)が行われているが、このような権利処理の方法も参考となろう。
    (注)現在、社団法人日本音楽著作権協会、社団法人日本芸能実演家団体協議会、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟、協同組合日本放送作家組合および社団法人日本レコード協会の6団体が著作権者団体連絡協議会という事実上の組織を結成し、例えば、テレビ視聴の不可能な遠洋航海の乗組員や海外駐在の日本人の慰安、娯楽に供するという特殊目的のためにNHKや民間放送の放送番組を録画してビデオ・ソフトにすることについて、一定期間経過後における録画消去を条件として、遠洋航海乗組員については社団法人日本船主協会、在留邦人については商社等や外務省と契約を締結して利用を認めている。この場合、契約名義は、各権利者団体の連記であるが、実際上は一の幹事団体が事務を処理している。
    なお、上記の集中的権利処理の対象は、いうまでもなく法第30条の許容範囲を超える録音・録画等であり、後述するように仮に賦課金制度が導入された場合のその徴収機構が対象とする法第30条の許容範囲内の録音・録画とは事柄の性格が異なることに留意しなければならない。

    実際に行われる家庭内録音・録画が法第30条の許容範囲内のものであるのか、それともその範囲外のものであるのかについては必ずしも判然としないことから、実務上の処理に当たっては、処理上の便宜も考慮して、両者を一括して賦課金徴収により処理することも考えてよいのではないかとする意見がある。これに対し、このような取扱いをすると、権利処理によってかえって違法行為を助長することにもなりかねず、法の本来の趣旨に逆行することとなるので容認できないとする反対意見がある。

    いずれにしても、ここでいう集中的権利処理は、賦課金制度上の処理とは異なり、本来権利者の許諾を得べき範囲に属する録音・録画を対象とするものである。したがって、両制度の目的及び機能が異なることから、仮に法第30条の許容範囲内の録音・録画機器等に対する賦課金制度が導入されることとなる場合にも、一定の賦課金の支払いという事実をもって、事後の録音・録画がすべて適法な録音・録画となるものでないことはもとよりである。このことは、賦課金制度が導入されている西ドイツやオーストリアにおいても、賦課金を支払ったことにより、以後すべての行為が適法ということになる訳ではなく、法の許容範囲を超える複製は依然として違法な複製であると考えられている。

    なお、複写複製問題についての対応策として、同様に集中的権利処理機構の設置があげられている(著作権審議会第4小委員会報告書43頁)が、その機構の設置目的や性格の視点からは両者はいずれも本来権利者の許諾を得べき複製であるにもかかわらず、手続の煩雑さなどから許諾を得ずに行われるという違法な事態を生ぜしめないために設けられる点からは同一であるといえるが、機構を構成する権利者の視点からすれば、両者は、著作物等の種類や利用態様が異なるところがある。したがって、両者が今後統一的な機構としてとらえられるべきものなのか、それとも、別個の機構としてそれぞれ機能していくべきかについては、今後の課題といえよう。


    2.法第30条の許容範囲内の録音・録画問題
    現行法第30条の規定を含む著作権等の制限規定は、著作者、実演家等の権利者の利益と著作物の利用者等の利益の調整を図るための法的措置であるということができる。

    現在の著作権法では、私的使用のための複製については、前述のとおり、複製手段を問わず無許諾、無報酬でこれを行うことができることとしている。この点について、家庭内における録音・録画機器の普及状況が現行法の制定当時とは著しく異なるところから、権利者の利益と利用者等の利益の調整という観点から、これを見直すべきであるかどうか、見直す必要があるとすればこれをどのような措置により再調整することが適切であろうか。

    もとより、この問題を検討するにあたって、家庭内における録音機器の普及が78%を超える現状の下において、家庭内における機器の使用を禁止する方向での検討は適切でないことはいうまでもないところである。

    以下、法第30条の許容範囲内の録音・録画の問題についての論点及びこれに関する意見等を整理すると次のとおりである

    (1)録音・録画機器の普及と経済的不利益の発生
    1)実態についての評価
    まず、録音・録画機器の普及に伴い、家庭内録音・録画が頻繁かつ大量に行われることにより、著作権者及び著作隣接権者の経済的不利益の発生があると認めるべきかどうか、また、仮に認めるとするとどのような事実に基づくのかという問題がある。もっとも、この問題については、録音問題と録画問題を区別して取り扱うのが適切ではないかとする意見がある。すなわち、録音問題は、機器の広範な普及状況等からすれば今直ちに対処すべき問題であり、権利関係も比較的簡明であるのに対し、録画問題は、機器の普及状況等からすればどちらかといえばこれからの問題であるとともに、権利関係も主に映画の著作権が問題となることから比較的複雑であるので、両者の問題点が異なるとするものである。もっとも録画問題については、機器の普及状況等からみればそれ程深刻な事態を生ぜしめてはいないけれども、それも時間の問題であって、録音問題と同一の軌跡をたどることが多分に予想されるところから、同列に取り扱うのがより適切ではないかとする意見もある。

    なお、録画機器の普及に伴う著作権問題については、まだ機器が十分に普及しているとはいえないこともあって、調査対象者が少数であることから、実態の評価については、もっぱら録音に関する実態の評価に限ることとする。

    そこで、実態の評価については、次のような見解がある。
    ア.経済的不利益の発生を肯定する見解
    まず、肯定する見解の根拠として次のことが主張された。
    [1]三つの調査(総理府調査、工業会調査及び三団体調査をいう。以下同じ。)によれば、録音機器の保有率は最低66%以上となっており、録音機器は、本来音楽の著作物等を録音・再生するための機器であるということを考えあわせると、この事実だけからでも著作権者等の利益が侵害されているものと判断してよいのではないか。
    [2]総理府調査及び工業会調査によれば、録音機器を使うようになってから、レコード購入量が「減った」とする者が40~43%を占めるのに対し、「増えた」とする者は9~19%に過ぎないという結果から判断すれば、録音機器の普及が著作権者等の経済的利益に影響を及ぼしていると判断してよい。
    [3]総理府調査によれば、録音機器を使用するようになってから、コンサートなどへ行く回数が「減った」とする者が21%を占めるのに対し、「増えた」とする者は6%に過ぎないという結果からすれば、上記2)と同じことがいえる。
    [4][4]総理府調査及び工業会調査によれば、「録音済みテープの貸借などをしたことがある」とする者が16~22%を占めており、権利者の利益を害する状況になっている。
    [5]音に敏感な者の中には、レコードは保存用として持っておき、日常楽しむ際にはあらかじめテープに録音したものを使うという傾向も認められる。1枚のレコードを友人間でたらい回しに録音し、全員録音し終えたときに中古品としてそれを取扱うレコード店に売却するという例もある。また、最近においては、いわゆる貸レコード店が増加してきており、これが家庭内録音を助長している。これらはレコードの販売に直接影響を与えている。
    イ.経済的不利益の発生を否定する見解
    否定する見解の根拠としては、次のことが主張された。
    [1]三つの調査によれば、「ほとんど(全く)録音しない」とする者がいずれも50%以上を占めており、また、総理府調査及び工業会調査によれば、録音人口の7~10%に当たる者(若年層)が年間総録音回数の66~69%を占めており、この事実からみると、権利者の利益の侵害が一般的な状況になっているものとはいいがたい。
    [2]総理府調査及び工業会調査によれば、レコード購入量が「変わらない」とする者が40~45%を占めており、被害の状況を判断するためには、この「変わらない」とする者の存在を含めて考えるべきである。そうすると、「減った」とする者は40~43%に対し、「変わらない又は増えた」とする者は54~59%を占めており、権利者の利益の侵害が一般的な状況にあるとはいえないと思う。
    [3]また、総理府調査によれば、コンサートなどに行く回数が「減った」とする者が21%に対し、「変わらない又は増えた」とする者が76%を占めることとなり、権利者の利益の侵害が一般的な状況でないことは明らかである。
    [4]総理府調査によれば、録音済みテープの「貸借などをしたことがほとんど(全く)ない」とする者が73.5%を占めており、全体的にみた場合、特に問題とすべき状況にあるとは考えられない。
    [5]録音することによって音楽などに親しみ、そのうちにレコード等の購買意欲もわくことも考えられるので、レコード等の購入量が一時的に減少しても、長期的にみれば増加していくということもありうるのではないかと思う。
    ウ.なお、上記ア、イのいずれにも属さない見解として、調査結果については、見方によっていろいろ解釈することが可能であり、例えば、レコード購入量についても、「変わらない」というのは、本来増えるべきものが機器の普及によって変わらなくなったとも考えられるし、また、「減った」というのは、一般的傾向として減っているのか又は機器の普及が原因で減っているのか明らかでないということもあるので、調査結果だけから直ちに一定の結論を導き出すことは困難であるとする見解もある。
    2)経済的不利益の立証の問題
    経済的不利益の立証の問題については、[1]その立証の責任を誰が負うべきかという問題と、[2]どの程度の立証を行うことが必要かという問題がある。

    [1]の問題については、著作物や実演などの複製が行われる場合には、複製の方法や量を問うことなく権利が及ぶとするのが著作権の原則であるので、法第30条も本来権利者の利益が損われないことを前提に規定されたものであるところからすれば、利用者の方で自分の行う録音・録画が権利者の利益を阻害していないことを立証すべきであるとする考え方があり、これに対する反論として、経済的不利益についての立証責任は、経済的不利益の発生を主張する者すなわち権利者にあるとする考え方がある。

    [2]の経済的不利益があるというためには、どの程度の立証を行うことが必要であるかという問題については、まず、録音・録画機器の普及により社会全体として大量の著作物や実演等が利用され、権利者がこれによって経済的不利益を被るであろう可能性ないし蓋然性があれば十分であること、すなわち、経済的不利益をもたらす可能性のある機器が家庭内に普及している事実、例えば、全世帯における機器の普及率が50%以上になっている程度の立証で十分であり、この状況により権利者の利益が不当に侵害されているものと判断して差し支えないとする見解がある。これに対して、経済的不利益を被る可能性ないし蓋然性だけを根拠とすることには問題があるとし、機器の普及により、かえってレコードの魅力が増したり、放送視聴率が上昇したりして、権利者の利益の増大に寄与している面を見逃すべきでないし、機器の利用は、視聴行為を単に時間的に遅らせているにすぎない面もあるので、機器の普及や利用によって直ちに経済的不利益が生じるとの考え方は適当ではなく、経済的不利益があるというためには、経済的不利益発生の実態についての明確な裏付けが必要であるとする見解がある。
    3)録音・録画機器の普及と経済的不利益の発生との因果関係の問題
    録音・録画機器の普及が原因となって権利者に経済的不利益を生じさせているといえるか否かという因果関係の有無の問題については、おおむね、次の二つの考え方がある。
    a.録音・録画機器の普及により、家庭内において録音ないし録画される可能性ないし蓋然性があれば足り、厳格な意味での因果関係の立証は必要ではないとする考え方がある。西ドイツにおいても、録音・録画の予測ないし可能性を基礎とした規定(法第53条第5項)が設けられており、権利者に対する給付も、損害賠償ではなく損失に対する補償として位置付けられている。また、いわゆる西ドイツ方式については、西ドイツの憲法裁判所においても、合理的な理由があるとされており、その際因果関係についての厳密な立証は必要とされていない。
    b.録音・録画の可能性をもって、直ちに因果関係があるとみることには問題があるとの立場から、少なくとも機器の普及が権利者の経済的利益の喪失に重大な原因を与えているといえなければ、因果関係を認めることはできないとする考え方がある。この考え方からは、因果関係を否定する傾向が強い。すなわち、最近におけるレコードの売り上げの伸び悩みについては、レコード製作の企画やレコードの価格の問題、経済的不況などが考えられ、機器の普及が大きな原因であるとは考えられないとする。なお、最近のオーディオ・ファンの動きとして、使い捨て的な利用は私的録音テープで、長期使用的な利用には市販レコードで、という一種の使い分けの傾向が認められるとともに、私的録音によりかえってレコードの魅力が増すこともあるので、私的録音テープと市販レコードとの関係は、相反する関係にあるというよりはむしろ共存共栄の関係にあるとも考えられるとする。また、録音・録画機器の普及がコンサートなどの入場者を減少させる原因となるかどうかという問題についても、生演奏には録音したものとは異なる魅力があるから必ずしもコンサートなどの入場者が減るとは思われないこと、機器の普及によりかえって生の実演の魅力が高められるというプラス面が考えられること、また、仮に私的使用のための録音・録画を法律によって禁止あるいは制限しても、そのことにより直ちに生の実演を鑑賞する回数の増加につながるものとは考えられないことなどの諸要素も考慮して判断すべきであろうとする。

    なお、このように様々な要素を勘案した上で因果関係の有無を決定すべきであるとする考え方に対しては、録音・録画機器の普及とレコード購入量やコンサートなどへ行く回数の減少との因果関係等のさまざまな要素を勘案して因果関係を考えてみる必要があるけれども、全ての要素を考慮しなければ因果関係の有無の結論を導き出せないということであれば、その考え方にも無理があるのではないかとの意見がある。
    以上、2)、3)で述べた経済的不利益の立証や因果関係の問題に関しては、上記の意見のほか、補償のための制度を設けるに当たっては、損害についての因果関係やその立証という観点からだけではなく、将来における機器の普及や利用の可能性に対し何らかの対策を講じておくという観点からも考えておくべきであるとする意見や、積極的な損失の立証とは別に、逸失利益、すなわち得べかりし利益の喪失の推定という観点からも考察していく必要があるとの意見などがある。

    (2)補償の必要性に対する一般国民の意識等
    1)著作権者等が被る経済的不利益に対する意識
    これは、放送やレコードなどから録音することにより、レコードの売り上げや、実演家の出演の機会が減少したり、作詞家・作曲家の収入が減少したりするなどの経済的不利益が仮に発生しているとするならば、誰に対してその不利益を与えているのかという意識の問題である。この問題は、誰に補償することが適当であるかとする問題へ連なるものである。

    このことについて、工業会調査では、家庭内録音などにより作詞家・作曲家及び実演家に対して損害を与えるとする者は、それぞれ23.7%及び21.1%であり、与えていないとする者はそれぞれ29.8%及び32.8%で、与えていないとする者の方が多い。これに対して、レコード会社に対しては、損害を与えているとする者が38.3%であり、与えていないとする者は22.8%で、与えているとする者の方が多い。
    2)著作権者等に対する補償の必要性の意識
    これは、家庭内録音により著作権者や著作隣接権者に経済的不利益が仮に発生しているとするならば、その不利益を補償すべきかどうかという問題である。このことについて、総理府調査及び工業会調査では、補償の必要性があると思う者は7.1%~10.6%で、補償する必要はないと思う者は40.2%~42.5%であり、また、どちらともいえない又はわからないとする者は46.8%~52.7%である。

    なお、これらの調査結果については、次のように評価が分かれている。すなわち、「補償を考慮する必要がある」とする者が7.1%~10.6%を占めていることは、著作権意識の低い我が国社会においては高く評価すべきであり、また、46.8%~52.7%にものぼる「どちらともいえない(わからない)」とする者の著作権意識が将来高まった場合には、補償に賛成する者の比率が更に増大することが予想されるとする見解がある。これに対して、「補償を考慮する必要はない」とする者が40.2%~42.5%に達し、「必要がある」とする者の比率7.1%~10.6%を大幅に上廻っているという指摘や、「どちらともいえない(わからない)」とする者については、将来その中の多数の者が補償に賛成する側につくかどうかは未知の事柄であるとする見解がある。

    (3)家庭内録音・録画問題に関する解決方法と問題点
    1)家庭内録音・録画問題に関する解決方法
    法第30条の許容範囲内の複製が、録音・録画機器の普及に伴い、容易かつ大量に行われることによって、著作権者等に経済的不利益が発生しているとするならば、これに対してどのような解決策が考えられるかについて、検討が行われた解決策及び意見を整理すれば、次のとおりである。

     ア.著作物等の放送使用料等に補償費を加算することによる解決方法
     イ.著作権法改正による解決方法
     ウ.他の立法による解決方法
     エ.当事者間の話し合いによる解決方法
    ア.著作物等の放送使用料等に補償費を加算することによる解決方法
    これは、著作権者及び著作隣接権者に生じている経済的不利益を著作物等の放送使用料等に補償費を予め加算することによって、解決しようとするものである。

    この考え方を家庭内録音・録画の主なソース別に考察すると、まず音楽放送番組をソースとして録音する場合には、音楽著作物の著作権者である作詞家・作曲家等については、放送使用料に補償費を加算することが、歌手・演奏家・指揮者等については、生の演奏歌唱による放送にあっては放送出演料に加算すること、レコード演奏の放送では二次使用料に加算することが、レコード製作者についてはレコード演奏による放送の場合に限り二次使用料に加算することが考えられる。

    次に、市販のレコード、テープをソースとして録音する場合には、作詞家・作曲家等については著作物の録音使用料に補償費を加算することが、歌手・演奏家・指揮者等については録音料に加算することが考えられる。

    なお、録画を行う場合についても、その考え方は録音の場合と同様である。この解決策に対しては次のような批判がある。

    すなわち、[1]録音・録画機器の普及に伴い問題が生じてきたことを考えると、著作権者等の経済的不利益を著作物の放送使用料等に補償費を加算することによってカバーするという考え方は、筋違いであること。[2]この問題に関しては、レコード製作者や放送事業者はむしろ経済的不利益を被っている立場であること。[3]著作物の放送使用料やレコードの二次使用料は、著作物やレコードを放送により利用することに対する対価であるから、私的な録音・録画に対する補償をその中に含めることは、不合理であることなどである。
    イ.著作権法改正による解決方法
    この解決方法の一つとして著作権法を改正して、著作権者及び著作隣接権者に、私的録音・録画に供され又は供される可能性のある機器及び(又は)生テープの製造者に対する報酬請求権を認めることが考えられる。その報酬の支払を実効あらしめるための手段として、機器及び(又は)生テープに賦課金を賦課する方法がある。

    この考え方は、西ドイツ、オーストリアにおいて制度化されていることなどから、この制度に対する評価は国際的にみても高いところであるが、後述するように、いくつかの法律上の難点も指摘されているところである。なおこの解決方法による具体的な問題点の詳細については後述する。(61頁~71頁参照)

    ところで、法改正の方法としては、この報酬請求権を認める方法のほか、旧著作権法と同様の「器械的又は化学的方法による複製は違法とする」旨の法改正を行うこととし、録音・録画機器を用いてする私的録音・録画の全部を違法とする解決方法も考えられるが、一旦現行法のように録音・録画機器を用いてする私的録音・録画が適法となったのを改めて違法とすることについては、国民感情等に鑑み、賛同を得難いのではないかと思われる等の問題点があるところである。

    なお、この方法と同様の結果を期待して、法改正によらず、現行法第30条を厳格に解釈し、私的使用のための複製として許容される範囲を例えばシングル・コピーに限定することも考えられるが、このように厳格に解釈しても、なお大部分は適法な録音・録画と解せざるを得ないところであり、権利者の救済として不十分である。
    ウ.他の立法による解決方法
    これは、一種の目的税として録音・録画機器及び(又は)生テープに課税し、それを一つの基金として、各種の芸術・文化活動に対する助成等を行おうとする方法である。この方法は、著作権法の枠外で解決を図り、個々の権利者に分配しない点に特色がある。すなわち、仮にb.で述べたような賦課金制度を導入し、その賦課金を個人に分配する方式をとることとした場合に賦課金の全権利者を正確に把握することは極めて困難であり、その結果、その分配が不公平となる危険を有している点で、この方式の方が優れているとの評価がある反面、この方式は直接著作権者等の利益に寄与するものでなく、また、私権としての著作権の問題を未解決のまま放置することとなるなどの批判がある。

    その他、作詞家・作曲家や実演家などの創作意欲を高めたり、実演家の失業や就業機会の確保をするということであれば、文化法ないし社会法的な観点からこの問題の解決を図ることを考えてもよいのではないかとする意見もあった。

    これらの考え方は、権利者の被る損失や因果関係等が必ずしも明らかでないこと、複製自体の規制はそもそも実行上不可能であること、などの理由から主張されてきたものである。これに対して本問題は著作物の利用手段の開発・普及という技術の向上により一般国民が享受する利益と私権の保護との調整との問題であることを正確に認識すべきであること、西ドイツやオーストリアなどにおいてはそのための方策として著作権法の枠内の問題として解決を図ったことなどを理由として、安易に著作権法の枠外の問題として把え、解決しようとする方策は早計であるといわざるを得ないとの批判がある。
    エ.当事者間の話し合いによる解決方法
    これは、関係当事者間の話し合いにより、例えば、録音・録画機器製造者の団体等と権利者団体との間での協定を締結し、それに基づき、一定の金員を権利者団体に支払うことなどによって実際上の解決を図ろうとするものである。

    この解決方法は、わが国の現状に合ったフレキシブルな解決が可能であること、一定の金員の支払いの性格やその使用目的などについても柔軟に考えることができることなどの利点があるが、根本的な解決とはならないのではないかとの批判もあるところである。

    2)仮に補償を行う場合の補償義務者の問題
    著作権法は、権利者と利用者との関係を規律する法律であるところから、権利者は、原則として個々の利用者のみを権利行使の対象として考えれば足り、また、そうすべきであると考えるのが法律の建前となっている。ところがこの問題に関し個々の利用者から個別的に著作物使用の対価を徴収するという方法をとることについては、機器を保有しているかどうか、あるいはどのような録音・録画を行っているかといった点について家庭内に立入って調査を行うことや各販売店が顧客のリストを公開することを期待することも実際上無理であろうと思われるので、その実効性は期し難いものと考えられる。

    このように個々の使用者から著作物使用の対価を徴収することが実際上できないとすれば、次に家庭内における録音・録画について原因を与えている者から徴収するという考え方がある。

    まず、何から録音・録画するかという観点から、放送事業者やレコード製作者を支払義務者とすることが適当であるとの考え方があるが、これについては、放送事業者やレコード製作者は放送やレコードから収益をあげている反面、家庭内での録音・録画によって被害を受けている面もあり、この問題に関してはむしろ被害者と考えるのが妥当であろうとする反論がある。

    そこで、何を用いて録音・録画しているかという観点から、録音・録画機器及び機材の製造者に支払義務を果すことができないかという考え方が出てくるわけである。すなわち、録音・録画機器及びテープ等の機材の存在が私的使用のための録音・録画を可能にしていることを前提に、機器及び機材の製造者は録音・録画の機会を提供することによって権利者に経済的不利益を与えている一方で、機器や機材の販売によって利益を上げているのであるから、これらの機器及び機材の製造者はその経済的不利益の補償について責任を負うべきであるとする意見である。

    なお、機器やテープの製造者に支払義務を課すとした場合に、それを製造者自身の責任に基づく支払義務として捉えるのか、それとも製造者は個々の使用者に代わって支払いを行うものとして捉えるのかという問題点も指摘されているところである。

    いずれにしても、補償の確保、実効性の面から確実性を有し、かつ、法律的にもより合理性を有するにはだれを補償義務者とすればよいかを総合的に勘案することが重要であるとの意見があった。

    3)仮に補償を行うとした場合の補償を受けるべき問題
    まず、録音に関しては、作詞家・作曲家等の著作権者及び実演家、特に、歌手・演奏家・指揮者等については、私的録音により録音収入の減少、実演の機会の減少を招くなどの不利益があり、レコード製作者についてはレコードの売り上げの減少による減収などの不利益があることから、これらの者は補償を受けるべき者に含めるべきものと考えらえる。一方、放送事業者については、放送番組からの録音による経済的不利益の有無は必ずしも明らかでないところから、これを補償を受けるべき者に含めるか否かについては見解が分かれるところである。なお、西ドイツやオーストリアでは、録画を含め、放送事業を対象から除外している。

    録画については機器の普及の状況にかんがみて、経済的不利益の有無については必ずしも明確ではないが、基本的には録音と同様と考えてよいであろう。


    3.各国の具体的な制度の採用経緯等とその問題点
    家庭内録音・録画問題の解決の方法については、前述のとおりいくつかの方法が考えうるところであるが、それらの方法のうち、既に実施されている西ドイツ及びオーストリアの制度のほか、フランスで議会に提案された制度について、その採用の経緯、制度の運用状況及びその問題点について検討することとする。

    (1)西ドイツで採用されている機器に対する賦課金制度
    1)採用の経緯
    現在、西ドイツにおいて採用されている録音・録画機器の製造者等に一定の報酬支払義務を課す制度(いわゆる西ドイツ方式)は、1965年の著作権法の全面改正によって導入されたものであるが、その制度の採用の経緯については、音楽演奏権・機械的複製権協会(GEMA(Gesellschaft fuer muesikalische Auffuehrungs-und mechanische Vervielfaeltigungsrecht))が家庭内録音に関し著作権等の侵害を理由に通常裁判所に訴えた一連の事件がその背景となっている。
    (ア)西ドイツで従前施行されていた1901年の「文学的及び美術的著作物の著作権に関する法律」(「旧法」という。)
    第15条第2項では、「私的使用のための複製(Vervielfaeltigung zum persoenlichen Gebrauch)は、それが財産的利益の取得を目的としないかぎり許される。」と規定されており、この法律制定当時においては、立法者は録音機器による音楽著作物の録音、特にレコード又は放送からの録音機器による録音という事態の出現を予測していなかった。ところが、その後録音機器が開発され著作物等が大量に録音される状況が生じた。

    そこで、1950年3月、音楽著作物の演奏権及び機械的複製権(録音権)の管理団体であるGEMAは、録音機器製造者、販売業者等に対し、「ラジオ放送又はレコード演奏をテープ・レコーダーによって録音することは、著作者、レコード製作者及び放送事業者の権利を侵害するものである。」とする旨の警告を発した。これについて、録音機器製造者とGEMAとの間で、私的使用のための音楽著作物の録音が旧法第15条第2項にいう「複製」として許されるかどうかなどについて論争が行われたが、結局、この争いは、(i)録音機器製造者は、販売した録音機器について一定の報酬をGEMAに支払うこと。(ii)GEMAは、録音機器を所持する者による非営利的複製及び再生について報酬を請求しないこと、を旨とする和解が成立した。しかし、上記の和解に応じない機器製造者とGEMAとの間では次のような訴訟が行われることとなった。

    (イ)連邦通常裁判所(Bundesgerichtshof、西ドイツの裁判所体系における第三審であり、我が国の最高裁判所に当たる。以下「最高裁判所」という。)の1955年5月18日の判決
    GEMA(原告)は、多目的使用の録音機器について、ポスター等ですべての音を録音し、保存できる旨を宣伝し、かつ、一定の報酬の支払いについて同意しない録音機器製造者に対し、原告の管理に属する音楽著作物の録音・再生の際には原告の同意を必要とする旨を買主に告げることなしに録音機器を販売してはならないとの不作為請求等を求めて、訴えを提起したのが第1の事件である。第1審、第2審ともにGEMAの勝訴となったが、製造者が上告し、GEMAが附帯上告したのに対して、最高裁判所は「著作者は、その著作物を支配する権利を当然に有するものであるから、著作物の私的使用の場合には、常に著作者に対する報酬の支払いを必要としないものであると考えることはできない。また、著作権に対する制限は、その本来の意味及び目的を超えて拡張されてはならないものであり、立法当時想定されなかった録音機器による録音により著作者が経済上の損失を受けることは容認されるべきでない。よって、録音機器の製造者は、音楽的著作物を録音するために録音機器を利用する場合には、GEMAの許諾を必要とする旨の文言を挿入することなしに録音機器の宣伝をしてはならない」旨の判決を下した。

    (ウ)最高裁判所の1960年1月22日の判決
    上記(イ)事件の被告(録音機器製造者)が宣伝文の中から自社の録音機器からは音楽を録音することができるという趣旨の文言を削除するのと同時にGEMAの許諾を要する旨の文言をも省略したことから、第二の争いが生じた。

    この争いに対して、最高裁判所は、「録音機器の製造者は、録音機器を宣伝する際には、音楽著作物を録音することについてはGEMAの許諾が必要である旨を明記しなければならない」と判示した。

    (エ)最高裁判所の1964年5月29日の判決
    音楽著作物の家庭内録音についてGEMAの許諾が必要であることが明確にされたものの、事実上の問題として録音機器の購入者の確認がGEMAにとって極めて困難であったため、家庭内録音に対する報酬請求がほとんど実行不可能に近いことから、実際には家庭内録音は野放しの状態におかれた。そこで、GEMAは録音機器の購入者を確認するため、録音機器の製造者に対し、製造者が販売業者に録音機器を引渡す際に購入者の氏名をGEMAに通知することを販売業者に義務づけるべきことを求める訴えを提起したのが、第三の事件である。

    この第三の事件では、録音機器の購入者確認の方法に関するGEMAの請求は否決されたが、以下のような注目すべき判断が裁判所より示された。

    すなわち、音楽著作物の録音に際しては、たとえそれが私的使用のためのものであったとしても、著作権者や著作隣接権者の許諾が必要であること。録音機器の製造者は、著作権を侵害するような録音機器の使用を排除し、又はその可能性を妨げるために考えうるあらゆる保障手段を講ずる義務があること、録音機器を引渡すことは、その購入者の行う著作権侵害についての共同原因を形成するものであり、したがって共同責任が生じることが認められる。しかしながら、録音機器の売買の際に販売業者に購入者の身許を明らかにするような義務を課すことは、個人の私的領域に対する侵害を構成するおそれがあるので、これを採用することはできないが、その代わり、著作権者の報酬の請求を実効あるものとするための一つの方法として、著作権者に対する報酬支払義務を録音機器の製造者に課するという方法をとることができる。その根拠としては、録音機器の製造者は、録音機器の購入者による著作権侵害の関与者として共同責任を有すること、また、製造者は、音楽著作物のテープ録音を可能にする機器を製造し販売することによって収益をあげており、たとえ製造者が報酬を著作権者に支払うとしても、機器の販売価格に含めることによって購入者に負担を転嫁することができることをあげることができるとする。

    (オ)以上の判決を受けて、現行著作権法第53条第5項(賦課金制度に関する規定)が成立するまでの立法過程については、次のとおりである。
    政府草案(1962年)は、参事官草案(1954年)、法務省草案(1959年)を経て作成されたものであり、その内容は「著作物の上演又は放送を録音物又は録画物に録取する場合、及び著作物をひとつの録音物又は録画物から他の録音物又は録画物へ転写する場合には著作者に相当の報酬を支払わなければならない。」(第53条第3項)と報酬請求権を著作者に付与しようとするものであったが、連邦参議院において、報酬請求権の行使は実行不可能であり、債務者(録音・録画を行う者)の代わりに機器製造者が支払うという保障もないから同条項は削除すべきであるとして否決された。この連邦参議院の態度決定に連邦政府も結局は同意せざるを得なかった。しかし、連邦議会法務委員会は、同法案第53条第3項の削除には同意するが、著作物の新たな利用として問題となってきた家庭内録音に対して著作者に報酬を与える方法を講ずべきであり、その方法としては、最高裁判所の1964年5月29日の判決の示した方法(著作者に対する報酬の支払いを私的な複製に適した録音機器の製造者に請求する方法)が妥当である旨の報告書をまとめた。そして、同法務委員会報告書で示された方向で現行法第53条第5項の成立をみるに至った(1965年9月9日制定)。

    2)運用の状況
    西ドイツ著作権法第53条第5項では、報酬請求権の行使は、管理団体を通じてのみ行使することができるとされている。その管理団体としてZPU(Zentralstelle fuer Private Uberspielungsrechte=私的複製権センター)が設けられ、報酬を徴収しているが、このZPUは三つの管理団体、すなわち、GEMA、GVL(Gesellschaft zur Verwertung von Leistungsrechten mbH=隣接権管理協会)及びVG Wort(Verwertungsgesellschaft Wort=管理協会ヴォルト)から構成され、事業活動を行っている。なお、ZPUに現在加入しているのは、上記3団体のみであるが、他の管理団体が新たにZPUに加入する途も開かれている。

    また、著作権者、実演家等すべての権利者が請求しうる額は、機器の製造販売価格の5%以内と法定されており、具体的な料率の決定は、ZPUと機器製造者との交渉によって決まり、行政機関はこれには関与していない。

    なお、料金の算定に当たっては、録音機器については製造販売価格に対する一定率の方式が採用されているのに対し、録画機器については定額方式が採用されている。例えばカラー録画機器1台につき65DM(1976年邦価換算約6,500円)である。

    ちなみに、ZPUの年間徴収額は、1976年でみれば、1,765万DMで、仮に1DM=100円で換算すると、約17.7億円の徴収額となる。なお、徴収額の伸び率は近年低下してきていることが注目される。

    3)徴収した報酬の分配
    徴収した報酬については、ZPUの内部において、各構成団体の分配率が決定される。1977年1月1日からの分配率(4年間有効)は、GEMA42%、GVL42%、VG Wort16%である。

    次に、各管理団体の内部における個々の権利者に対する分配については、GEMAを例にとれば、報酬の75%は放送部門に分配され、更にこの部門内部における分配は放送プログラムに従って行われる。また、その25%は録音権部門に分配され、レコードやカセットの売り上げに応じて分配が行われる。GVL及びVG Wortについてもそれぞれ独自の分配基準を案出して、個々の権利者に分配している。

    4)西ドイツ方式の法律上の問題点及び意見等
    (ア)録音・録画機器の製造者は録音・録画を行う者ではないにもかかわらず、これに報酬支払義務を課すことに法的合理性があるかという問題
    これについては意見が分かれている。これを肯定する見解としては録音・録画機器の存在が私的複製を可能にしているのであるから、このような機器の製造者は複製の機会を提供することにより著作権者等の利益を侵害する行為の幇助者の地位に立つものであり、かつ、家庭内録音・録画をすることができることを前提として機器の販売をし、それによって収益を上げていることを併せ考えるならば、機器製造者に損失を補償させる責めを負わせることも、不合理とはいえない。また、機器製造者は著作権者等に報酬を支払うとしても、機器の販売価格にその補償分を含めることによって、本来の私的録音・録画を行う者に負担を転嫁できるという手段があるところからも合理的といえるとするものである。この考え方は西ドイツ最高裁判所の採用した立場であり、そもそも、西ドイツにおいては1950年代以来の一連の裁判によって機器の使用者が権利者に報酬を支払うべきであるとの認識が広く行き渡っていたことから、機器製造者の報酬の支払いが最終的には機器の使用者に転嫁されることについては、消費者(使用者)保護の観点からの論議が起こらなかったものと考えられる。

    なお、録音・録画機能を重要なセールスポイントとして機器を販売し、収益を上げているという事実をもって、機器製造者に責任を負わせるべき十分な法的根拠があるといえるとする意見も述べられた。

    これを否定する見解としては、法第30条などの著作権制限規定は著作権の公共的限界に基づくものであるので、法第30条の規定に基づく権利者の経済的利益の喪失(この規定の許容範囲を超える録音・録画により発生した損害を指すものではない。)を著作物等を録音・録画するかどうかわからない機器の購入者という特定の個人に負担させること自体、理論的説明が困難である。さらに、録音・録画行為すらしない機器製造者に報酬支払義務を負わせるということの法的合理性はないものと考えられる。また、著作権制度からみた場合にも、権利者と使用者との関係を規律する著作権制度の性格に照らして著作物の利用者ではない機器製造者に法律上の義務を負わせることについては、その体系的位置付けの合理的な説明が難しく、その法的合理性は認められないとの意見があった。

    なお、録音・録画機器の製造者と併せて生テープの製造者にも報酬の支払いを義務づけることについては、西ドイツにおいては、生テープに対する報酬請求権は補充的なものにすぎず、著作権者等の権利を保護するのに必須とはいえないとし、また、生テープは、口述目的のためなのか、保護すべき著作物の録音(録画)のためなのか区別し難いことなどから採用されなかったが、著作物の録音を可能とする点からすれば、録音機器とテープとを区別すべきではないとの意見があった。

    また、録画機器の取扱いに関する西ドイツの考え方としては、立法当時においては、機器が高いなどの理由から、家庭にはほとんど普及していず、テレビ放送等からの私的録画の問題は実際に生じていなかったが、立法者は、テレビ映画等を録画できる安い機器の製造は時間の問題であると考え、録音機器と同様に取り扱うこととしたことが明らかにされている。

    さらに、西ドイツ法では、西ドイツ国内で販売されるすべての機器が対象となり、外国から輸入されるものも含まれる。したがって、この場合には、外国の機器製造者が原則として報酬支払義務を負うこととなるが、請求権の行使を容易にするために、輸入者も連帯債務者とされている。

    (イ)保護義務を負う著作物等の録音・録画を行わない機器を、どのように取り扱うべきなのか、仮にこのような機器に対して報酬支払義務を課すとした場合に、その法的合理性はあるのかという問題
    録音・録画機器には、録音・録画機能を有するものもあれば、専ら録音・録画されたものの再生しかできないものもある。そこで、西ドイツ法では、放送や録音・録画物からの録音・録画に適した機器に対してのみ報酬を請求しうるものとすることによって、純然たる再生機能しか有しない機器をすべて除外し、また、諸般の事情から、録音・録画しうる機器が西ドイツ国内においては利用されないことが予想できる場合、例えば、輸出用の機器には、報酬請求権は存しないこととなっている。しかしながら、録音・録画機器は、保護される著作物の録音・録画のためだけではなく、家族・友人間の会話や汽車、川の流れ、鳥、虫の声等の録音のためにも使用されるのであって、このような著作物の録音・録画の用に供されない機器に対しても報酬支払義務を課することに法的合理性があるのかという問題がある。

    この点について、西ドイツにおいては、著作者の報酬請求権の行使を実際的なかたちで確保するため、録音の可能性をもって報酬支払義務を課することは法的な合理性があるものとして是認されている。さらに、著作物を録音・録画するつもりのない機器の保有者に対して機器製造者等が支払った報酬が転嫁される結果となることについては、家庭内において録音・録画を行う個々の者に対する報酬請求権の行使が不可能な以上やむをえないものとして容認されている。

    なお、上記(ア)、(イ)の点に関しては、補償の確保について完全な解決策を求めることは困難であり、むしろ実効性という点に主眼を置き、ある程度の合理性をもつものであれば良いとすべきではないか、その方が完全に正当な解決が不可能のゆえに権利者を無権利の状態に放置しておくよりも適切であるとの意見もあったところである。

    (ウ)報酬請求権の行使(補償金の徴収)の方法はどのようにすべきかという問題
    著作権法は、権利者と利用者との関係を規律するものであるから、仮に報酬請求権を認めるとしても、その帰属主体はあくまでも個々の権利者であることが前提になる。しかしながらその権利行使については、個人自らが行うか、あるいは団体を通じて行うか、また団体を通じてする場合もそれを任意に委ねるか、義務付けるかという問題があるが、西ドイツ法では、報酬請求権は、個々の権利者はこれを行使することはできず、管理団体を通じてのみ行使することができるとしている。また、権利行使の相手方は、個々の機器製造者(外国の製造者を含む。又は機器輸入者)であって、これらの上部団体ではない。したがって、管理団体が個々の機器製造者との間で交渉をし、合意の内容に従って権利処理がなされることとなる。この場合の管理団体をどのように形成するかについては、既存の著作権管理団体、隣接権管理団体等のうちのいずれか一の団体を幹事団体として一括処理する方法や既存の著作権団体等とは独立した別個の団体を創設して、その団体が処理を行う方法などが考えられるが、西ドイツでは、関係権利者団体であるGEMA、VG Wort及びGVLが自らの権利を共同で行使するためにZPUを結成しており、後者の方法を採用しているといえる。

    なお、特定の団体に加入していない、いわゆるアウトサイダーの取扱いについてはどのように考えたらよいのかという問題があり、このことについては、後述する分配についても同様に考えられる。西ドイツのように、権利行使を管理団体を通じてのみ認める場合、自らの権利を実効性あるものとするためには、当該管理団体に加入(個人資格ではなく団体資格で登録することとなろう。)するか、それとも、個々に自らの報酬分の取立てを委任することとなろう。西ドイツにおけるZPUは他の団体の加入の途も開いている。

    次に、報酬額の決定は、西ドイツでは、管理団体と個々の機器製造者との間の交渉により決められることとなるが、管理団体の請求が過大にならないよう、法律上の配慮が行われており、著作権者、実演家、レコード製作者等のすべての権利者の報酬請求額の最高額は、機器の販売価格の5%を超えてはならないとされている。これは、個々具体の事件において裁判所により相当と認められた年間12DMの使用料よりははるかに少ないが、すべての機器が対象とされることにより、結果として著作物の家庭内録音・録画から生ずる著作者等の収入全体は実質的には増えるであろうと予測されていた。

    なお、後述するように、実際の当事者間の交渉は時間がかかりすぎるとともに、補償金額が低めに決められがちである点が問題であるとの指摘があり、また、当事者間の交渉で決定されることから、機器製造者間で料率が異なる結果が生ずることは問題ではなかろうかと指摘する者もあるところである。

    (エ) 徴収した補償金の分配についての問題
    この問題は、補償金をそもそも分配するのかどうか、仮に分配しないとするならば、いかなる目的に使用するのか、また、分配を行わないことは、報酬請求権との関係で問題はないか、さらに、仮に分配するとするならば、どのような方法で行うか(管理団体を構成する個々の団体へ分配するのか、それとも、直接個々の権利者に分配するのか。)また、その基準はどのように考えるべきか、等の問題である。
    西ドイツにおいては、分配することを当然の前提としており、分配の方法についても、まず、ZPUからGEMAなどの団体へ分配され、その後、個々に分配を受けた団体において、独自の基準に従って個々の権利者へ分配されるという2段階システムをとっている。

    まず、第1段階では、ZPUを構成するGEMA、GVL及びVG Wortの協議により分配基準が決定されることとなっているところから、問題は生じない。

    次に、第2段階の個々の権利者団体から個人への分配の問題については、各団体独自の基準がある。例えば、GEMAでは放送部門への分配と録音権(機械的複製権)部門への分配とに分け、放送部門については放送プログラムを、また、録音権部門ではレコードや音楽テープの売上げを基準に個々の権利者に分配されているが、このGEMAの基準については、家庭内録音と放送の頻度やレコード、音楽テープの売上げとは必ずしも比例しているわけではなく、合理的な基準といえるかどうか疑わしいとの批判もあろう。このような批判を免れるための方法としては、個々の利用者の録音状況の実態調査(抽出又は悉皆)を行い、その結果に基づき分配するという方法がある。この方法によれば、確かに家庭内録音による著作物等の利用実態をGEMAの方法以上に正確に把握でき、分配についてもその利用に応じた分配ができ、合理的であるといえようが、その反面、調査のための費用、時間等も計り知れない程必要となるという欠点がある。GEMAの採用した方法も、正確さを確保しえないなどの問題点(もっとも、この点についても、団体内部の意思決定の問題であるが)はあるものの、分配基準の設定に要する費用は僅少ですむなどの利点があり、この点を重視して、この方法により分配することは、それなりの合理性はあるものと考えられる。

    また、徴収した補償金を分配しないで、これを原資として特定の基金を設け、一定の文化的な目的のためにこれを使用することはどうかという問題はそもそも私的自治に属する問題であって、西ドイツのように私的な報酬請求権として性格づけるならば、これを分配することが原則であろうが、関係権利者の合意により一定の文化的な目的のために使用することも不可能ではない。なお、西ドイツにおいては、原則として分配されるが、若干の費用については、補償金の中から、管理費用、権利者の救済などのために支出されている。

    (オ) この西ドイツにおいて採用されている制度が現在かかえている問題等について考えてみると、それは、上記の制度面の問題というよりはその運用の過程で問題が生じてきているといえる。すなわち、まず第一に、管理団体が当初考えていたほどの報酬額の伸びがなかった。その原因としては、機器の価格の低下が一般的傾向であること、特に輸入機器の中には極めて安価な機器が増加したこと、また、最近、ラジカセのような複合機器の普及が、これに対する報酬額の算定基礎を引き下げることになったことなどが指摘されている。このため、西ドイツでの最近の動きとしては、前述のとおり、録音・録画機器に併せて、生テープに対して賦課金を課すべきであるとの主張等があるところである。

    次に、この制度においては、補償金の額は著作権法でその上限(5%)だけが定められ、具体的には当事者(ZPUと個々の機器製造者)間の交渉により決定されることになっているため、交渉が円滑にいかなかったり、あるいは個々の企業間でその額に若干の差が出たり、又は補償金額も低めに決められがちである点についても問題であるとの指摘もある。

    なお、以上のことと併せて、我が国に西ドイツで採用されたような制度を導入することに対しては、産業政策ないし輸出政策を推進する立場からは、特にビデオ機器及びビデオ・ソフト双方については、当面はその普及(輸出を含む)を図ることが先決であるから、機器への賦課金の分、機器の価格へ影響し、普及が阻害されるおそれが生ずるので、妥当ではないとする見解がある。これに対しては、機器製造者の負担は僅かなものであり、そのことによって国内及び国際社会における競争力が弱められるとは考えられないし、むしろ、我が国はこの分野における先進国であることからすれば世界に先がけてその範を示すことの方がかえって国際社会における我が国の評価を高め、国際的経済摩擦を柔らげることもできるとする反対意見もある。

    また、消費者保護の立場から、商品の価格に補償分がどのように上乗せされているかが明確に表示され、消費者もそれを納得の上で商品を買い、また上乗せ分の使途も明確になっているということがないならば、その補償制度の実施は疑問であるとする意見とか、補償金の方式は税金の場合とは異なり議会の審議を通じて国民や地域住民のチェックを受ける道が開かれていないので、補償の手段、方法等が明確になっていない限り、消費者は納得しないであろうとする意見とか、この方式は、一種の大衆課税に化する危険があり、国の文化政策の肩代わりを大衆に押しつけることになるから妥当でないとする意見等があった。これに対しては、そもそも著作物を利用するのは機器を購入する者であるから消費者が最終的にこれを負担することは当然であるとする意見や、補償金の性格は税金とは異なるのであるから、その方法等について著作物の使用者である消費者にいちいちコントロールを受けなければできないとすることは、著作権制度のあり方を十分理解しないものであるとする反論があったところである。

    (2)オーストリアで採用されている生テープに対する賦課金制度
    オーストリア著作権法の条文及びこの制度の概要については、既に述べた。この制度がオーストリアにおいて発足したのは、1981年1月1日(録画については1982年7月1日)であるので、どのようにこれが運用されるかについては今後を待つ外はないが、法文上で考えられるいくつかの問題点について整理を行った。
    1)まず、オーストリアにおいて、隣国の西ドイツで行われている録音・録画機器に賦課金を課する方法が採用されず、新たに生テープに賦課金を課する方法が採用された理由はどのようなものかについては、現時点においては資料等も少ないので必ずしも明らかとはいえないが、考えられる理由としては、生テープは、録音・録画を行うために作られるものであり、購入する者もこのために購入するところからみれば、機器に賦課金を課するよりは生テープに賦課した方が録音・録画行為との関連はより直接的ないし密接的と考えられること、生テープに賦課金を課するに当たりそのテープの収録可能時間に応じたものとすればより一層説得力をもちうること、西ドイツ方式のような機器への賦課という方法では、機器が一通り普及した後は再購入がない限り報酬は入ってこないのに対し、生テープに賦課する方法では、1人当たり何本も継続的に購入することが予想されるので、権利者側からみれば、賦課金の収入を継続的かつ安定的に得ることが期待できることなどが考慮されたものと思われる。

    なお、生テープの頒布者に対してのみ報酬支払義務を課すこととした立法経緯については、現在のところ明確ではない。

    また、西ドイツの連邦議院法務委員会報告書では、テープ製造者の報酬支払義務については、テープが口述(ディクテート)のために使用されるか、それとも保護著作物の収録のために使用されるのかという区別はし難い点などが指摘されているが、この点についてもどのように考えたのかは明らかでない。
    2)次に、自国で保護義務を負っている著作物等の録音・録画を行わない者に対する取扱いについてであるが、オーストリア法第42条では、まず、未使用の生テープが国内において使用されない場合、又は私的使用のための複製に使用されない場合には、著作者は報酬請求権を有しないし(第5項)、また、生テープに公正な報酬を含んだ価格で購入する者であっても、私的使用以外の目的のための複製にそれを使用するときには、報酬請求権を行使する管理団体に対して、その報酬分の返還を求めることができるとされている。もっとも、私的使用以外の目的のための使用が著作権の他の制限規定に該当して、著作物の自由利用が認められる場合には返還請求権は認められないとされている(第7項)。

    なお、報酬請求権及び返還請求権については、著作権者又はテープ購入者は、一応の証拠をもって立証すれば足りることとなっている点(第5項、第7項)に特色がある。
    3)第三に、報酬の徴収等を行う機関については、オーストリア著作権法第42条第6項では、個々の著作権者等ではなく管理団体によってのみ権利行使すべきこととされている。この管理団体は、著作者、実演家、レコード製作者及び写真に関する権利の所有者のために運営され、ただ一つの団体が全ての請求を扱うことが予想される。管理団体の規制は、別途、管理団体法及び同規則によって行われる。なお、管理団体の組織及び運営について詳細は不明である。また、特定の団体に加入していないアウトサイダーの取扱いについては西ドイツと同様、門戸は開放されているものと考えられる。
    4)第四に、報酬は、最初の年においては全権利者分として1,000万シリング(約1億8,500万円)を超えるべきではないとされており(司法委員会の報告)、報酬の一部は、個々の報酬請求権者に分配されることとなっているようであるが、どのような方法、基準等によって分配されるのかについては、その詳細は明らかでない。また、報酬の一部(50%程度といわれている。)については、個々の権利者への分配は行わず、社会的及び福祉的な目的に使用されなければならないことになっているようであるが、具体的にいかなる活動なり、事業なりに使用されるかについては明らかではない。
    5)第五に、公正な報酬を徴収する管理団体による請求に係る紛争を解決するために、仲裁裁判所が設置されることが定められている。

    (3)フランスで議会に提案された課税制度
    フランスにおいては、すでに複写機器に対する課税制度が導入されているところであるが、録音機器に対する課税制度については、1976年10月26日の国民議会の第三会期において、この制度を導入することを目的とした1977年度財政法案が提出され、審議されたが、採択されるに至らなかった。ここでは、その法案の概要を紹介することとする。なお、現在では、録音機器ではなくて未使用のテープに対する課税制度の導入を目的とする法案が検討されている模様である。
    1)フランス政府当局は、録音機器による録音が作曲家及び作詞家に与えている損害を意識し、そのために、録音機器に対する課税を目的とする1977年度財政法案第16条が起草された。この法案の内容は次のとおりである。

    すなわち、録音機器に対する租税収入は、この法律案第33条の規定に従って「国立音楽舞踊基金」と呼ばれる国庫(特別会計)に一旦納入され、その後、国立音楽舞踊センターに充当される。国立音楽舞踊センターでは、[1]音楽及び舞踊の著作物の作曲家の社会的保護制度の実施、[2]若手の音楽家及び舞踊家に対する援助、及び[3]フランスの音楽遺産の保存のためにこの基金を使用する。

    次に、課税の対象となるのは、[1]フランスにおいて録音機器を製造し、又は製造させた企業が行う録音機器の販売及び引渡し(輸出を除く。)及び[2]録音機器の輸入である。どのような録音機器がその対象となるかは、経済財政大臣及び産業研究大臣の共同省令により、これら機器の一覧表が定められる。課税料率は4%である。
    2)このフランスで議会に提案されたような公法的な解決方法に対する評価は分かれている。すなわち、私的使用のように本来自由に利用させることが適当と考えられる範囲については、著作権者等が被る経済的損失を課税方式により公法的に救済することとするのも一つの解決策として有意義であるとする意見や、西ドイツのような補償(報償請求)方式を採用することとした場合、報酬を受けるべき全権利者を正確に把握することは極めて困難であるとともに、その分配も不公平とならざるを得ないことを考えれば、課税方式により徴収した租税を用いて音楽家等の助成を行うことの方がすぐれているものと考えられるとする意見などのように、この方式を積極的に評価する意見がある。

    これに対して、この方式は著作権者の利益に直接影響を与えるものではなく、私権としての著作権の問題は依然として未解決のまま残されることとなるとする批判や、この方式は、国の文化政策の肩代りを大衆に押しつけようとするものであり、安易な方式であるとかという批判がある。



    IV その他の録音・録画に関する著作権問題について
    録音・録画の問題は、法第30条に係る問題のみならず、他の著作権の制限規定により、著作権者等の許諾なしに著作物、実演等を自由に利用できる場合にも影響を及ぼす問題でもあり、その意味から、他の規定との均衡をも考えていく必要がある。
    1)まず第一に、図書館等における録音・録画(法第31条)の問題がある。図書館等においては、図書館等の図書、記録その他の資料の閲覧・貸出、文献複写などが行われているが、録音物・録画物を利用者の求めに応じて提供する場合には、公表された著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供できることとなっている。この場合における「一部分」とは、半分以下と解されており、したがって、例えばディスクレコードやテープに収められている10数曲についてみれば、その一曲ごとが一つの著作物であるので、結局、利用者へは一曲の半分以下しか提供できないこととなる。また、他日、残りの部分を録音・録画することは本条の脱法行為として、著作権を侵害するものと解される。したがって、本条による図書館等における録音・録画については、利用者の満足のいくものとはいえないものであり、また、音楽関係等の資料を特別に収集している図書館等を除いては、現在、録音物を利用者の求めに応じて十分に提供することのできる図書館等はないものと思われる。したがって、現段階において、法第31条における録音・録画の問題を法第30条と同等に考えるべき必要性は少ないものと考える。もっとも、今後図書館等において、レコード・テープ等の資料の充実が図られることとなったときは、その時点で改めて考える必要も出て来るものと思われる。

    なお、利用者の求めに応じて、公表された著作物の「一部分」を超える録音・録画については、法30条の許容範囲を超える録音の問題と同様に考えて差しつかえない。
    2)次に、学校その他の教育機関における録音・録画(法第35条)の問題がある。本条では、学校その他の教育機関(営利を目的とするものを除く。)において教育を担任する者がその授業の過程において使用することを目的としているときは、必要と認められる限度において、公表された著作物(法第102条による準用により、実演、放送等も含まれる。)を録音、録画することが認められている。今日における教育方法・手段の多様化・高度化に伴い著作物の複製利用の必要性が増大したこと並びにその利用の目的及び実態にかんがみ、設けられたものである。しかしながら、最近における学校教育、社会教育における録音・録画機器の普及に伴う放送の利用には著しいものがあり、例えば文部省が行っている「学校及び社会教育施設における視聴覚教育設備の状況調査」によれば、昭和54年では、カセットテープ・レコーダーの普及率は、小・中・高校のいずれも90%を超え、またビデオテープ・レコーダーの普及率は、小学校で50%を、中学校では70%を、高校(全日制)では90%をそれぞれ超えており、特に最近の普及にはめざましいものがある。また、社会教育においては、余暇時間の増加、生涯教育に対する関心の高まり等がある一方、公民館、博物館、青少年教育施設、視聴覚ライブラリー等の社会教育施設・設備の整備充実が図られている状況があり、このことから、社会教育における放送利用は今後ともますます盛んに行われることが予想されるところである。したがって、この分野における録音・録画の問題は、法第30条をはじめとして、他の著作権の制限規定とのバランスも考慮しつつ、将来にわたり、引き続き検討すべき課題であると思われるが、当面は法第35条の趣旨の普及・徹底を図るべきであろう。

    ところで、法第35条での許容された録音・録画ができる者は、学校その他の教育機関ではなく、それら機関において「教育を担任する者」、すなわち、現実に教育を行っている教諭、教授等である。したがって、学校等の機関がその決定に基づき計画的に録音・録画することは認められない。また、教育を担任する者でありさえすれば、いかなる目的に使用する場合であっても、またいかなる場所においても許容されるものではないことはもとよりである。

    次に、本条での録音・録画が認められるためには、「学校その他の教育機関」におけるものでなければならないことから、任意の団体やグループでの学習会・研究会や各種講習会、研修等はこれに該当しない。このような学習会等が教育機関を利用して行われる場合であっても同様である。

    また、使用目的は、「授業の過程における使用に供することを目的」とするものでなけれればならないことから、任意の部活動等の自主的な諸活動はこれに該当しないと解される。

    更に、録音・録画は、授業の用として「必要と認められる限度」内でなければならない。また、著作物の種類及び用途並びにその録音物・録画物の本数及び態様に照らして著作権者の経済的利益を不当に害することは許容されない。このようなところからすれば、録音物・録画物の本数は原則として1著作物につき1本と考えられるべきであり、また、使用後は直ちに消去することが必要であると解すべきである。したがって、複数の録音物・録画物を作成したり、授業・講義において使用した後においても保存したりすることは、本条の趣旨を逸脱するものと考えられる。

    また、教育映画などのように本来教育の過程における利用を目的として作成される著作物の全部を録画する場合などは、著作物の性質や用途等から一般に著作権者の利益を不当に害するものと解されている。なお、本条によって適法に作成された録音物・録画物を他の学校や学級等に貸したり、譲ったりすることは、目的外使用となり、著作権者の許諾を得なければできないこととなっている(法第49条)。

    以上のような法第35条で許容される範囲を超える使用については、著作権思想の普及の徹底を図る一方で、簡便な権利処理を行いうる集中的権利処理方式の確立が望ましいのではないかと考えられる。

    なお、教育機関等における録音・録画の実態に関して、教育目的のための利用という名目で、学校等の教育機関や図書館等において法の許容する範囲を超える録音・録画が半ば公然と行われており、そのための是正措置を講ずる必要があるとする意見があった。

    また、アメリカ合衆国においては、家庭内録音の問題(ホーム・テーピングの問題)よりも教育目的のための録音・録画の問題の方に一般的に関心が高いといわれている点も留意すべきではなかろうか。
    3)第三に、視覚障害者のための録音(法第37条第2項)の問題がある。視覚障害者福祉の見地から、点字図書館その他の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設で、政令で定められるものにおいては、もっぱら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために、公表された著作物を録音することができるとされている。したがって、録音できる施設は点字図書館等、著作権法施行令第2条に掲げられた施設に限られており、この限られた施設では必ずしも十分とはいえない等の見地から、その充実を図るため、視覚障害者のための録音物を作成しうる施設として、いわゆる公共図書館を含めるよう法第37条第2項を改正することが望まれるとする見解が出されたが、これに対しては、公共図書館においても録音サービスをしうることとすれば、録音物が晴眼者に流用されるおそれが一層高まることとなるので、著作権者等の立場も十分に考慮した上で、検討を行う必要があるとする慎重論もあるところである。

    なお、この視覚障害者の問題は、WIPOやユネスコの主催のもとに国際的な場においても取り上げられている重大な問題であるので、国際的動向にも留意しつつ、広い立場より論議することが有意義であるとする意見が述べられている。



    V 複写複製に関する著作権問題との関連等について
    1)録音・録画に関する著作権問題についての検討は複写複製に関する著作権問題等との均衡を考慮しながら進めるべきかどうかについての検討を行った。これについては、録音・録画問題は、複写複製に関する著作権問題との関連において処理すべきであるとする意見がある。その理由として、[1]複写機器も録音・録画機器と同様、技術の進歩、新しい機器の普及等に伴い発生した問題として、両者は同じ基盤の上での問題であり、当然にこの関連の上に立って考えていくべきであり、そうでないと両者の間のバランスを保つことが困難となること、[2]最近のように複写機器も小型化、低廉化されたものが開発され、今後各家庭に普及していく可能性を考慮すれば、複写問題と録音・録画問題とを区別して考える必要はないこと。[3]著作権の権利処理について、例えば包括許諾方式や集中的権利処理方式の導入を考えていく際に、複写複製のみならず、録音・録画をも含めて、単一の機関において処理させることが適当であるかどうかという問題にも影響が及ぶことから、両者を区別せずに検討すべきではないかと思われること、などがあげられる。

    これに対し、複写複製に関する著作権問題は録音・録画問題とは切り離して論議すべきであるとする意見がある。すなわち、[1]録音・録画機器と複写機器との間には、機器の普及や利用の態様に相違があり、前者は各家庭に普及し、しかも小型化が進んでおり、一般に低額であるのに対し、後者は依然として企業、図書館、学校等の施設に置かれる場合が多く、一般に大型かつ高価でもあることなどの普及実態等から、両者に関する著作権問題については、これを分けて処理するのが妥当であること。[2]また欧米諸国においても一般に区別して考えられてきていること。[3]我が国においては、複写複製の問題は主として、著作権の制限規定で許容される範囲を超える複製(違法な複製)の問題であるのに対し、録音・録画の問題は主として法第30条で許容される範囲内の複製(適法な複製)の問題であるので、その問題の性格は異なり、その結果、その解決策も異ならざるを得ないこと、などから、両者を区別して考える必要があるのではないかとする意見である。

    以上のような見解の相違は、複写機器の普及の現状に視点をおくか、将来の開発・普及という要素にも相当の重点をおくかという点と、これとの関係をふまえつつ、複写複製に対する対応策の問題を著作権の制限規定で許容される範囲内(適法な複製)の問題ととらえるか、それともその範囲外(違法な複製)の問題としてとらえるのか、という点の2点についての把握の相違からであると考えられる。
    2)家庭内における録音・録画の問題と関連性をもつ家庭内における複写複製の対応策については、いまだ機器の普及の状況が録音・録画と同様の状況にまで至っていないところから、各国において著作権法上立法された例として、機器に対する課税制度が、フランスにおいて実施されているので、以下その制度の詳細や評価などをまとめてみる。
    (ア)複写機器に対する課税制度(いわゆるフランス方式)は、1976年度財政法第22条の規定によって導入されたものであり、1976年1月1日から実施されているところであるが、その概要については、次のとおりである。

    すなわち、複写機器の販売に対し一種の目的税が課せられ、この収入は、この法律第28条の規定に従って国庫の「国立図書基金」という特別会計の収入になり、もっぱら国立文学センターに充当される。

    国立文学センターの主な活動は、フランス作家の文芸活動の維持奨励、文芸作品の出版の援助、生存作家及び死亡作家の遺族に対する年金等の支給、会合及び交流の場の提供、文芸作品の創作の援助及びその普及への協力、フランス文化の擁護等多方面にわたっている。

    課税の対象となる行為は、フランスにおいて複写機器を製造し又は製造させた企業が行うこれらの機器の販売及び引渡し(ただし、輸出を除く)並びにこれらの機器の輸入であり、機器の販売価格の3%が徴収される。また、この対象となる機器については、経済財政大臣及び産業研究大臣によって定められ、その機種は、オフセット印刷機、ゼラチン版複写機、謄写版複写機、資料複製用特殊写真機、プリンター付きマイクロリーダー、光学複写機、加熱複写機、接触複写機である。
    (イ)このフランスにおける課税方式については、録音・録画における場合と同様、その評価が分かれている。まず、積極的に評価する立場からは、[1]法第30条、第31条、第35条等に関し、その許容される範囲を超え、個別的な権利処理を要する場合には、包括許諾方式や集中的権利処理方式の採用が考えられるが、私的使用のように本来自由に利用させることが適当と考えられる範囲については、著作権者、出版者等が受ける経済的損失を課税方式の採用により公法的に救済することとするのも一つの解決策として有意義であるとするもの。[2]仮に、著作権法の枠内において補償方式をとるとした場合、個々の権利者へ分配することが前提となるが、そのためにはその補償金に対する全債権者を正確に認定しなければならないが、それは極めて困難であり、また、これを分配する場合にも適切なる基準もないところから、不公平とならざるを得ないと思われるので、課税方式により芸術や出版への助成を行うことの方がすぐれているとする意見がある。

    これに対して、消極的に評価する立場から、[1]課税方式の最大の問題は、著作権者等の利益に直接係わらない文芸活動や出版等に助成されることとなるが、この方式では直接の被害者である著作権者等の救済とはなりえず、依然として、私権としての著作権の問題が残ることとなる。このことは、フランス議会において、この制度により徴収される金銭は著作物使用料を構成するものではなく、複写の増大による著作権者が被った全般的な被害を軽減することのみを目的とするものであることが明確にされていることからも明らかである。[2]課税方式は、国の文化政策の肩代わりを大衆に押し付けようとするものであり、安易な方式である(このことは、他の補償方式についてもいえるが)とするもの、[3]課税方式は、一種の原因主義に基づくものであり、原因をつくり出した者が一種の税を支払えば、以後は機器を自由に使用できるようになるという考え方がオーディオ・ビジュアルの分野にも入って来ざるを得ないのではないかという疑義も生じてこよう、とする意見が述べられた。
    (ウ)その他、録音・録画問題に関連してこの課税方式に対して出された意見としては、課税方式の採用によって、著作権による保護の分野と新技術の発達による損失補償の分野が分離されることになるため、フランスにおけるように、実演家、レコード製作者等の著作隣接権が法律上認められていない法制をとっている国については、録音・録画機器の普及による損失の補償を実演家、レコード製作者等の隣接権を有しない者に対しても行うこととなり、権利はなくても補償は受けられるというおかしなことにならないかという意見や、フランスの複写機器に対する課税制度において、徴収される金銭を指す「ルドゥバンス(Redevance)」という言葉は、税と著作物使用料の中間の概念であり、その二つの性格を併せ持つものであることは興味深いが、この方式の採用の是非については、各国法制の相違、国民感情、権利者の意識等を十分に考慮する必要がある事柄であり、一概に判断することはできないとする意見などがあった。

    なお、フランスの議会における審議では、[1]この「ルドゥバンス」は著作物使用料を構成するものではないこと。[2]この制度によって、複製権の例外の分野を拡張するものではないこと。[3]この制度は複写の増大により著作権者が被った全般的な被害を軽減することのみを目的とするものであることが明らかにされている。



    おわりに
    以上のとおり、当委員会は、録音・録画機器の普及に伴う著作権問題について様々な観点から検討を行ってきたところであるが、家庭内における録音・録画の問題については、現在のところ関係者の間でその対応策について合意の形成にまでは至らず、かつ、この問題に対する国民の理解もいまだ十分ではないこと、また、この問題の対応策について国際的なコンセンサスの方向をなお見定める必要があること等から、現在直ちに特定の対応策を採用することは困難であるとの結論に達した。

    もっとも、今日における録音・録画機器の普及は著しいものがあり、これに伴う家庭内録音・録画が著作権者及び著作隣接権者に及ぼす影響をこのまま放置しておくことは妥当ではないと考えられるので、まずはこの問題に対する国民の理解を深めるため関係者及び文化庁は適切な措置を講ずるよう努めるべきである。

    また、今後における内外の諸情勢の推移によっては、この問題について将来制度面で対応することが課題となるものと考えられるが、その場合でも関係者において基本的な合意の存することが重要であると考えられるところから、そのような合意の形成に向けて今後関係者の間で話し合いが進められることを期待し、また、文化庁においても、この話し合いが円滑に進められるよう配慮するとともに、この課題について検討を進める必要があるということで意見の一致をみた。



    (参考)
    1.著作権審議会第5小委員会(録音・録画関係)委員名簿
    主 査
    池 原 季 雄 上智大学教授・東京大学名誉教授

    委員
    黒 川 徳太郎 前日本放送協会著作権部主査
    斎 藤   博 新潟大学教授
    田 中 達 雄 通商産業省機械産業情報産業局電子機器電機課長(54.7.16~)
    (小林久雄 同前電子機器電機課長 52.10.4~54.7.15)
    竹 内 年 雪(株)松下電器産業 東京支社 業務部長
    月 洞   譲 元東京都立西高等学校長
    行 方 正 一 前(社)日本レコード協会専務理事
    野 田 康 正(株)日本ビクター 特販・輸出部長
    野 村 義 男 著作権法学会理事
    林   修 三 元内閣法制局長官・前行政監理委員会委員
    半 田 正 夫 青山学院大学教授
    久 松 保 夫(社)日本芸能実演家団体協議会専務理事
    松 井 正 道 弁護士
    松 下 直 子 全国地域婦人団体連絡協議会事務局次長
    満 間   猛(株)ソニー 業務部長(54.7.16~)
    (森 義雄 同前広報室室長 52.10.4~54.7.15)
    森 田 正 典 前(社)日本音楽著作権協会常務理事
    谷 井 精之助(社)日本民間放送連盟著作権部長


    2.著作権審議会第5小委員会(録音・録画関係)審議経過

    昭和52年
    第1回 10月4日(火)
    検討すべき事項の説明、それに対する質疑応答
    第2回 11月15日(火)
    家庭内録音・録画に関する実態調査(三団体調査)について
    第3回 12月20日(火)
    録音・録画に関する著作権問題をめぐる各国の状況について
    昭和53年
    第4回 2月14日(火)
    法第30条による録音・録画の許容から生ずる問題について
    第5回 3月28日(火)
    法第30条と隣接権条約等との関連について
    著作物の放送使用料等に補償費を加算することによる解決方法について
    第6回 5月9日(火)
    家庭内録音・録画の主なソース別の論点及びこれまでに提出された主な意見について
    第7回 6月9日(金)
    法第30条の範囲を超える録音・録画から生ずる問題について
    第8回 7月14日(金)
    西ドイツ方式について
    第9回 9月7日(木)
    西ドイツ方式について
    第10回 10月24日(火)
    参考人(放送作家関係者及びビデオ関係者)の意見陳述、それに対する質疑
    第11回 11月28日(火)
    工業会及び総理府の実態調査について
    第12回 12月18日(月)
    録音・録画に関する3つの実態調査
    (「総理府調査」「工業会調査」及び「三団体調査)について
    昭和54年
    第13回 1月23日(火)
    今後の審議の進め方について
    第14回 2月23日(金)
    法第30条により許容される録音・録画の範囲や条件について
    第15回 3月23日(金)
    録音・録画に関する実態調査上の問題点について
    第16回 4月17日(火)
    録音・録画に関する理論上の問題点について
    第17回 5月22日(火)
    著作権者等に対する補償の必要性及びその理由について
    第18回 7月30日(月)
    「学校その他の教育機関における録音・録画」及び「視覚障害者向けの録音テープの作成」について
    (映画関係者及び図書館等関係者から意見聴取)
    第19回 9月25日(火)
    複写複製に関する著作権問題等との関連について
    第20回 11月21日(水)
    録音・録画問題に係る最近の国際的動向について
    昭和55年
    第21回 1月23日(水)
    録音・録画問題に係る最近の国際的動向について
    第22回 3月26日(水)
    録音・録画問題に関する対応策について
    法律問題等整理委員会の設置について
    第23回 12月18日(木)
    法律問題等整理委員会の審議結果について
    第5小委員会報告骨子(案)について
    昭和56年
    第24回 5月29日(金)
    第5小委員会報告書(案)について
    第25回 6月19日(金)
    第5小委員会報告書(案)について


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