○第1小委員会の審議会結果について(ビデオ海賊版関係)
    昭和62年10月


    目 次
    1 海賊版問題について
    2 海賊版対策についての基本的考え方
    3 具体的対策
    4 その他


    1 海賊版問題について
    (1)家庭用ビデオ機器の普及に伴い、近年、ビデオ・ソフトの販売、レンタルが急速に増加しているが、権利者に無断で複製されたビデオ・ソフトが大量に市場に出回り、著作者等の権利を侵害しているという問題が生じている。このような問題は程度の差はあるもののビデオ・ソフトに限らずレコード、コンピュータ・プログラム等についてもみられるところである。
    (2)現行著作権法(以下、「法」という。)において、いわゆる海賊版の作成行為は、複製権(法第21条等)を侵害する行為であり、また、頒布行為は、映画の著作物の場合は頒布権(法第26条第1項)の侵害であり、それ以外の著作物の場合は、貸与行為について貸与権(法第26条の2、附則第4条の2)の侵害である。

    また、海賊版を情を知つて頒布する行為は、著作権等を侵害する行為とみなされる(法第113条第1項第2号)。
    そして、以上のような権利侵害行為は、法第119条第1号により罰則の対象となつている。
    (3)しかし、海賊版の作成自体については、秘密裡に行われるため、海賊版作成行為が行われる場を直接に捕捉することには、事実上多くの困難を伴う。
    (4)他方、「頒布」については、原則的には公然と行われており、頒布行為が行われる場を捕捉することは、比較的容易に行うことができる。

    ところで、この「頒布」については、法第2条第1項第20号は「有償であるか無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。」と定義している。

    したがつて、現行法の規定の下では、頒布があつたというためには、「譲渡」又は「貸与」がなされたことが必要であり、海賊版が店頭に頒布のために陳列され、あるいは頒布のために所持されているだけでは、頒布があつたと解することはできない。
    (5)このため、権利者による告訴や捜査機関による捜査にあたつては、頒布行為が行われる場を捕捉し、海賊版が店頭に頒布のために陳列され、あるいは頒布のために所持されていることを確認するだけでは足りず、個々の海賊版に係る具体的な頒布行為すなわち「譲渡」又は「貸与」について、その時期、相手方等を特定することが必要となつているという問題がある。

    その結果、店頭に陳列されている海賊版の全てについて、反復継続して頒布が行われた場合にあつても、実際に犯罪行為と認定されるのは、「譲渡」又は「貸与」のため店頭に陳列等された海賊版に係る頒布行為のうち、「譲渡」又は「貸与」されたことが立証されたごく一部の海賊版に係る、ごく一部の頒布行為に限定されることになるという遺憾な状態となつている。

    このような実情に照らし、権利者側からは、海賊版が頒布のために陳列され、あるいは所持されているだけで刑罰を科すことができるように措置されたいとの要望が寄せられている。


    2 海賊版対策についての基本的考え方
    (1)以上のような状況は、近年における磁気テープ、磁気ディスクという複製媒体の出現とその固定・再生機器の普及に伴うものと考えられる。

    すなわち、これらの機器、媒体の普及により、磁気テープ、磁気デイスクに著作物を固定し、これを販売、レンタルすることが営業として一般的に行われるようになつてきた。ところが、これらの媒体による著作物は、質の高い複製物が、誰にでも容易に作成できるものである。そこで、これらの媒体を利用して海賊版が作成され、それらが、全国的に広く販売又はレンタルされるという事態が生じている。このようなことは、現行法制定当時は、ほとんど予測できなかつたことである。
    (2)このような事態に対処する上において、海賊版の作成(「複製」)及びその「頒布」すなわち「譲渡」又は「貸与」だけを罰則の対象としている現行法の規定は、多数の著作物につき広範に行われている頒布行為の大部分について対処することができず、海賊版への対応としては極めて不十分な状況になつている。

    このような状況は、個人的法益の侵害を放置することになるばかりでなく、海賊版の流通を許すという点で、著作権保護の法秩序の基本を乱すものであり、極めて重大な問題である。

    そこで、このような海賊版の状況及び現行法に対する指摘にかんがみ、ビデオ等の海賊版を頒布のため陳列する等の行為を、新たに罰則の対象とすることが必要であると考えられる。
    (3)この場合、罰則の対象となる行為は、ビデオ、レコード及びコンピュータ・プログラム等現在問題となつている著作物等の海賊版の陳列等の行為に限るか、全ての著作物の海賊版に対応できるように広げるかという問題がある。

    これについては、技術の発達により、今後あらゆる分野について複製手段の開発・普及が進むことが予測されることから、現在海賊版が出回つているビデオ等に限らず、全ての著作物について、その海賊版の陳列等を罰則の対象とすることが適切である。


    3 具体的対策
    (1)陳列等の行為を罰則の対象とするためには、その具体的方策としては、まず、頒布権(又は貸与権)の内容に、頒布(又は貸与)のために陳列する等の行為を許諾する権利を含ましめる方法が考えられる。

    しかし、頒布権(又は貸与権)の内容を拡大することの問題は、国際的にも頒布権についての研究がこれから進められようとする段階にあり、その動向を考慮する必要があることから、今後更に検討を要する課題であると考えられる。

    したがつて、現在においては、頒布権(又は貸与権)の内容については変更を加えず、海賊版を頒布のために陳列する等の行為を、著作権等を侵害する行為とみなす方法等の措置により、これを罰則の対象とすることが、適切であると考えられる。
    (2)陳列等の行為を罰則の対なお、他の無体財産権法にあつては、それぞれの権利の及ぶ行為として、譲渡又は貸渡のための展示等の行為を規定しているところであり、これらとの均衡を考えると、著作権法において、海賊版を頒布のために陳列する等の行為を新たに罰則の対象とすることは、妥当な措置であると考えられる。
    (3)また、具体的にいかなる行為を罰則の対象とするかについては、海賊版問題対策としての実効性を考慮し、適切なものとすべきである。


    4 その他
    (1)海賊版問題に対する方策として、著作権等の侵害の罪について、罰則の強化及び非親告罪とすることが指摘されているが、いずれも他の無体財産権法との均衡を考慮しなければならない問題であり、慎重な検討が必要である。

    なお、非親告罪とすることに関しては、頒布のために陳列する等の行為を新たに罰則の対象とすることにより、個々の頒布行為を特定する必要がなくなることから、親告罪のままでも、ビデオ海賊版の頒布の問題は抜本的に改善されると考えられる。
    (2)なお、海賊版の作成・頒布の問題は、3、に示した対策を講じることにより直ちに解決するものではなく、今後とも、著作権思想の普及・徹底や権利侵害に対する取締りの強化をはじめ、権利者による自らの権利の保護・監視活動の強化や、海賊版が取引に供せられないよう取引秩序の適正を図るなどの不断の努力が必要であることはいうまでもない。


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