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    外国著作権法 カンボジア編

    カンボジア王国とその著作権制度について

    Ⅰ カンボジア王国「著作権及び関連する権利に関する法」(Law on Copyrights and Related Rights) は、2003 年1 月21 日に国民議会(National Assembly)で採択され、2003 年2 月13 日に上院(Senate)で承認されている。全8 章69 条から成る。2013年7 月末で、カンボジアはベルヌ条約に加盟はしていないが、万国著作権条約には加盟しており、日本とは万国著作権条約で保護し合うことになる。カンボジアは、WTO 設立協定を受諾しており、TRIPs 協定の拘束を受けている。これ以外、カンボジアは、実演家等保護条約(ローマ条約)、レコード保護条約、著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)、実演及びレコードに関する世界
    知的所有権機関条約(WPPT)にも加盟していない。

    Ⅱ カンボジアは、インドシナ半島にベトナム、タイに接する王国で、首都はプノンペン、人口およそ1,500 万人余の立憲王国で、国民の殆んどが佛教を奉じているといわれている。使用言語はクメール語(カンボジア語)。カンボジアの歴史は古く、世界遺産としてアンコールワットが著名。
    9 世紀から15 世紀に及ぶ中世はクメール王朝が支配したが、19世紀前半までは13 世紀に始まる元の侵攻があり、次いでシャム(タイ)のアユタヤ王朝の侵攻が始まるなどの、いわゆるカンボジアの暗黒時代を経て、19 世紀中頃からフランスによるインドシナ半島の植民地化が始まり、カンボジア王国もフランスの保護領となっている。カンボジアがタイやベトナムに圧力が加えられたこともフランスの保護領となった一因ともいわれており、1887 年には、カンボジアはフランス領インドシナに編入されている。
    1940 年には日本軍が仏領インドシナに進駐するという事態が発生し、そのとき、カンボジアのシアヌーク殿下が王位に就き、カンボジアの独立を宣言している。1946 年に日本軍が撤退すると、カンボジアは再びフランスの保護領となりその独立性を失っているが、シアヌーク殿下は独立運動を続け、1953 年にフランス、アメリカの同意の下に完全な独立国となっている。しかし、アメリカのベトナム戦争の影響からカンボジア内に国内紛争が発生し、1970年にはロン・ノルの企図したクーデターによってクメール共和国が樹立されてシアヌーク殿下は国家元首の地位を追われて北京に亡命し、政治的不安定がカンボジアには続いた。不安定は、ロン・ノル政権後のポル・ポト政権が極端な共産主義を採ったことによってその極に達し、多数の国民の死亡を招く結果をも将来した。これを問題視した国際連合の介入の下に各国の協力を得て民主選挙が行われて憲法制定を目的とする議会が成立し、そこで制定されたカンボジア憲法は立憲君主制を採択しており、シアヌーク殿下が国王に再即位している。制定議会は2 院制から成る国民議会に移行しており、そこには永世中立も明記されている。シアヌーク国王は2012年10月に死亡したが、王制は継承されている。

    Ⅲ 著作権およびそれに関連する法(以下、著作権法等という。)は、前述のように全8 章69 条から成り、それを所管するのは文化芸術省(Ministry of Culture and Fine Arts)である。ちなみに、特許や、意匠、実用新案は工鉱業エネルギー省(Ministry ofIndustry, Mines and Energy)が所管する。
    著作権法により保護される客体は、ベルヌ条約パリ改正規定やローマ条約により保護される客体とほぼ同じといってよく、その範囲は広い。範囲は広いが、それらの保護の制限も同じくベルヌ条約やローマ条約に定める制限とほぼ同様といってよい。複製も私的使用のための複製が認められる原則も同じだが、コンピュータ・プログラムについてはバックアップコピーを作成することを除き認められない。カンボジアは多民族国家であるために、クメール語から少数民族の言語に翻訳することも、またその反対の行為も許されるという特徴もみせており(25 条)、また、カンボジアは著作者人格権の保護も認めている(20 条)。
    カンボジアにおいては、著作権意識は一般に極めて低く、適法に作成された著作物よりもはるかに廉価な違法複製著作物を入手して使用するのが普通といわれ、これら違法著作物の多くは中国からの輸入品だという。
    カンボジアにおける著作権に関する紛争は訴訟手続きによって解決するよりも、裁判外の紛争解決手続(ADR)によって解決することを好む傾向にあるといわれている。
    カンボジアでは、知的財産の法的保護が有効に機能しているとは言えない状態にある。政府は、とりわけ我国からの投資や技術の移転のためには知的財産の有効な保護が必要と考え、そのためにも一般公衆への知財教育が重要と考えている。カンボジアは、WTO 設立条約に加盟しTRIPs 協定を順守しその利益を受ける立場にあるが、農業を基礎とする経済状態から脱却できない極めて脆弱な経済力しか保持していないのが現状である。
    カンボジア政府は、2008 年9 月18 日に、知的財産の保護に関連するすべての部局を含む「知的財産権に関する国家委員会」(National Committee for Intellectual Property Rights - NCIPR)を設置する政令(Sub-decree)を制定し、主要関係14 大臣の参加を求め、IP 問題の理解とその適用のより大きな成果を意図し、39項目に及ぶ2010 年から2012 年にわたる行動計画を樹てその成果を期待した。そのなかには、カンボジアが未加盟の知財に関わる国際条約への加盟、知的財産保護に関わる規制やその執行のための人材の養成、知財保護のための教育体制の充実、一般公衆の知財尊重意識の育成等があげられている。

    (阿部浩二)

    著作権及び関連する権利に関する法*

    目次

    一般規定
    第2章 著作権
     第1節 著作物
     第2節 著作者
     第3節 著作者の権利
     第4節 著作者の権利の制限
     第5節 財産的権利の保護期間
     第6節 財産的権利の移転
     第7節 財産的権利の利用
     第8節 著作物の寄託及び登録
    第3章 関連する権利
     第1節 実演家の権利
     第2節 レコード製作者の権利
     第3節 ビデオ製作者の権利
     第4節 放送機関の権利
     第5節 報酬
     第6節 権利の制限
     第7節 保護の期間
     第8節 権利の移転
     第9節 寄託
    第4章 権利の集中管理
    第5章 争訟と罰則
    第6章 国際条約の適用
    第7章 経過規定
    第8章 終局規定

    著作権及び関連する権利に関する法*
    (2003 年1 月21 日に国民議会で採択、2003 年2 月13 日に上院で承認)

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