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    ベトナム知的財産法典(抄)

    ベトナム社会主義共和国
    独立―自由―幸福
    国会 法典50/2005/QH11号(国会第11会期)


    ベトナム社会主義共和国国会
    第11会期 第8回会議(2005年10月18日から11月29日まで)


    知的財産法典
     2001年12月25日における第10会期第10回会議で発効された51/2001/QH10決議に従って改正・補充された1992年ベトナム社会主義共和国憲法に基づき、本法典は知的財産について定める。




     第1編 総則(一般諸規定)


    第1条 適用範囲

     本法典は、著作者の権利、著作者の権利に関連する権利、産業財産権、種苗に対する権利およびこれらの諸権利の保護について定める。


    第2条 適用対象

     本法典は、ベトナムの組織、個人、それに加えて、本法典およびベトナムが加盟国になった国際条約に定められた条件を満たす外国の組織、個人に対して適用される。


    第3条 知的財産権の対象

     著作者の権利の対象は、文学、芸術、学術の著作物を含み、また実演会、録音物、収録物、放送番組、コード化されたコンテンツの衛星信号をはじめとする、著作者の権利に関連する対象を含む。

     産業財産権の対象は、特許、意匠、半導体集積回路の回路配置、営業秘密、商標、商号と、地理的表示を含む。

     種苗に対する権利の対象は、種苗と種苗にするための材料を含む。


    第4条 用語説明

     本法典では、各用語は、以下のように理解される。

     知的財産権は、知的財産に対する組織または個人の権利をいう。すなわち、著作者の権利および著作者の権利に関連する権利、産業財産権、および種苗に対する権利を含む。

     著作者の権利は、自分が創作し、または保有している著作物に対する組織または個人の権利をいう。

     著作者の権利に関連する権利(以下、関連権という)は、実演会、録音物、収録物、放送番組、コード化されたコンテンツの衛星信号に対する組織または個人の権利をいう。

     産業財産権は、自分が創作し、または保有している特許、意匠、半導体集積回路の回路配置、商標、商号、地理的表示、営業秘密に対する組織または個人の権利、および不正競争を防止する権利をいう。

     種苗に対する権利は、自ら選択しまたは重要な形質を発現している種苗を育成して得られた新しい品種または当該種苗についての権利を承継した組織または個人の権利をいう*1

     知的財産権の主体は、知的財産権の保有者または保有者に知的財産権を移転された組織または個人をいう。

     著作物とは、手段と形式を問わず、文学、芸術、および学術の分野において創作された作品をいう。

     派生的著作物とは、特定言語から他の言語に翻訳された著作物、脚色され、改変され、変形され、編集され、注釈され、または選択された著作物をいう。

     公表された著作物、録音物、収録物は、合理的な数の複製物によって公衆に普及するため、著作者の権利の保有者、関連権の保有者の許諾を受けて発行された著作物、録音物、収録物をいう。

    10  複製とは、手段または形式を問わず、著作物、録音物または収録物の複製を一または複数つくること、電子形式の下で著作物を常時または一時的に保存することを含む。

    11  放送は、無線又は有線を用いて公衆に対して、著作物、実演会、録音物、収録物または放送番組の音、映像または音および映像の双方を送信する行為、公衆が自ら選択する場所および時において受信できるようにするために衛星で送信することを含む。

    12  特許は、自然法則を利用することにより、確定された課題を解決するための、物または方法に関する技術的解法をいう。

    13  意匠は、形状、ライン、色彩またはこれらの要素の結合で表現された物品の外観をいう。

    14  半導体集積回路は、製品または半製品の下での物品であり、そのなかに電子機能を実現するように、少なくとも一つの積極要素を有する分子と複数素子または全部が素子の連結点、半導体基盤の内部または表面に接合されているものである。集積回路は、IC、チップ、マイクロ電子回路と同義である。

    15  半導体集積回路の回路配置(以下、単に回路配置という)は、半導体集積回路における回路の素子およびその素子の連結点の空間構造*2である。

    16  商標は、異なる組織または個人の商品または役務を識別するための標識である。

    17  団体商標は、その商標の保有者である組織の構成員の商品または役務とその組織に属しない組織または個人を識別するための商標である。

    18  証明商標は、出所、原材料、商品の生産方法、役務の提供方法、商標を付する商品または役務の品質、正確度*3、安全度、またはその他の特性を証明するため、他の組織または個人自らの商品または役務について、商標保有者が使用させる商標である。

    19  連合商標は、同一、類似または互いに関連性がある商品または役務に使用される同一主体に登録された同一または類似の商標である。

    20  著名商標は、ベトナム国内の全国の消費者によく知られている商標である。

    21  商号は、その名を有する経営主体と同一の分野、同一の地域の他の経営主体と識別するため、営業活動において使用される組織または個人の名である。
     本項に定められている営業地域は、当該営業主体が、取引相手、顧客または名声を有している地理的地域である。

    22  地理的表示は、具体的な地域、地方、領土の一部または国が、当該商品の出所であることを示す標識である。

    23  営業秘密は、投資活動、知的活動から生じているが公開されていない情報であって、営業に用いる可能性がある情報である。

    24  種苗は、最下層の植物分類レベルで同一のレベルに属し、繁殖周期を通じて同一の形態で、安定性があり、遺伝子または遺伝子型の結合によって規定された特性の現れによって認識でき、遺伝可能性がある最小のひとつの現れによって認識できる植物個体群である。

    25  保護証書は、特許、意匠、集積回路の回路配置、商標、地理的表示に対する産業財産権または種苗に対する権利を成立させるため、管轄国家機関が組織、または個人に対して発行した証書である。


    *1 ベトナムでは新品種育成が盛んであり、国会審議でも種苗関連規定についての質問が相次いだと報道されている。
    *2 ベトナム人は「構築」ということが多いようである。構造と異なる用語であるが、翻訳語は日本語になじみのある構造を用いた。
    *3 正確度;例えば、バイクの部品について、日本製と中国製の品質が異なるが、中国製の場合、誤差「+-△△mm」という表記が付されている。このような表記を正確度という。秤や大きさの精度に関する表記に用いられる場合が多い。


    第5条 法律の適用

     本法典に定められていない知的財産に関する民事事件があるときは、民法典の規定を適用する*4

     この法典に定められている知的財産に関する規定と、他の法典の規定と相違がある場合、本法典の規定を適用する。

     ベトナム社会主義共和国が加盟している国際条約に、本法典と異なる規定がある場合は、その国際条約の規定を適用する。


    *4 ベトナムでは、特別法優位とか後法が前法を破るという原則が採用されていない。したがって、この種の特別法優位を明記する規定は、ベトナムでは比較的珍しい。


    第6条 知的財産権の発生と成立根拠

     著作者の権利は、内容、質、形式、手段、言語、公表済みか否か、登録済みか否かを問わず、その著作物が創作され、当該表現が一定の物に表現されたときから発生する。

     関連権は、著作者の権利を害することなく、実演会、録音物、収録物、放送番組、コード化されたコンテンツの衛星信号が、定型化*5され、または実現されたときから発生する。

     産業財産権は、以下のように成立する。

    a)  特許、意匠、回路配置、商標、地理的表示に対する産業財産権は、本法典に規定された手続に従って当該管轄国家機関がした保護証明書の交付決定に基づき、またはベトナム社会主義共和国が加盟している国際条約の規定による国際登録に基づいてなされる認定によって、成立する。また、著名商標に対する権利は、登録手続に基づくことなく、当該商標の使用に基づいて成立する。

    b)  商号に対する産業財産権は、その商号の合法的な使用に基づき成立する。

    c)  営業秘密に対する産業財産権は、営業秘密の合法的な取得と、当該秘密情報の秘密保持の実現により成立する。

    d)  不正競争防止権は、営業における競争活動に基づき成立する。

     種苗に対する権利は、本法典に規定された登録手続に従って、当該管轄国家機関の種苗保護証明書の発行決定に基づき成立する。


    *5 ガイドライン第4条5は、定型化を以下のように規定する。
    「定型化とは、文字その他の記字、線、形状、配列、色、音、若しくは映像により表現すること、または、認識、複写若しくは伝達できるように一定の物質の下で音と映像を再現することである。」


    第7条 知的財産権の限界

     知的財産権の主体は、本法典に規定された保護範囲内であって、かつ期間内に限り、自らの権利を実現できる。

     知的財産の実現は、国家の利益、公共の利益、その他の組織または個人の合法的な権利および利益を侵害してはならず、かつ、他の関連する法律の規定に違反してはならない。

     国防、治安、民生目的、および本法典に規定されるその他の国家、社会の利益を確保するために必要な場合、国家は、知的財産権の主体に対する自らの権利実現を禁止し、または制限することが出来、また、知的財産権の主体に対して、その他の組織または個人が自らの権利の一部または複数の権利の対象を、適切な条件の下に利用させるように強制することができる。


    第8条 知的財産についての国家の政策

     知的財産権の主体の利益と公共の利益との均衡を適切に確保する目的で、組織または個人の知的財産権を承認若しくは保護し、また、社会道徳および公共秩序に反し若しくは国防、治安を害する対象の保護は認められない。

     経済社会の開発に貢献し、人民の物質的および精神的な生活を向上させるため、知的財産の創作とその利用を奨励し、促進する。

     公共の利益に利用するため、知的財産権の移転を受け、および利用することに対して財政的に支援し、また国内および国外の組織または個人が、知的財産の創作および保護活動に対して援助することを奨励する。

     知的財産権の保護活動および知的財産権保護をめぐる研究、その技術の適用を担当している幹部、職員、公務員、その他の関連対象についての育成、研修に対する投資を優先して行う。


    第9条 知的財産権保護における組織、個人の権利および責任*6

     本法典およびその他の関連する法律の規定に基づいて、自分の知的財産権を保護するため、組織または個人は、法律が認めている手段を適用する権利を有し、他の組織または個人の知的財産権を尊重する責任を有する。


    *6 ベトナム社会主義共和国の法制は、建国以来、国民の行為規範として定められる場合が多く、裁判規範性はさほど意識されてこなかった。WTO(世界貿易機関)加盟を目指して、司法による判断を重視する方向に舵を切ったが、行為規範としての意識が抜けきっていないため、本条のような規定が残されている。


    第10条 知的財産権についての国家管理の内容

     知的財産権保護の戦略、政策を立案し、その実現を指導すること。

     知的財産に関する法規範文書を発行し、それを施行すること。

     知的財産に関する管理システムを構築すること、および、知的財産に関する担当者を育成し、その専門的能力を向上させること。

     著作者の権利の登録証明書、関連権の登録証明書、産業財産権の対象についての保護証書、種苗保護証書を発行し、その他の関連する手続を実施すること。

     知的財産に関する法律を遵守するように監察し、審査すること*7、知的財産についての苦情申し立て*8または告発が行われた事項を解決し、違反の処分を行うこと。

     知的財産に関する情報、統計活動を行うこと。

     知的財産に関する鑑定活動を行い、管理すること。

     知的財産に関する法律および知識を教育し、宣伝し、普及させること。

     知的財産に関する国際協力を行うこと。


    *7 内閣が他の政府機関をチェックすることがあり、その場合に「審査」をすることになる。専門機関に「審査」を依頼することが多い。
    *8 例えば、自分のことに関する管轄規定に対する不満を、当該機関の上司や第三者専門機関等に対して告知して再審査を請求する行政手続(例えば、道路交通法規違反で違反切符を切られたことに不満があった場合に、警察の当該担当者の上司に対して申し立てる)。1998年12月2日に発効した法律09/1998/QH10によって制定された。中国にも多少近似した考え方(「投訴」(tou sou))があるが、中国には民間専門機関が受理するものと、行政庁が受理するものがある点で異なる。ちなみに、ベトナムでは、消費者をめぐる苦情申し立ての制度は定められているが、解決する時間がかかりすぎ、また申し立ての内容が決して受け入れられない等々、全く機能していないとのことである。


    第11条 知的財産に関する国家管理責任

     国家政府は、知的財産に関して、一括して管理を行う*9

     科学技術省は、内閣に対して、知的財産についての国家管理の実現および産業財産権についての国家管理の実現を主宰し、情報通信省、農業農村開発省と協力することについて責任を有する。
     情報通信省は、自らの権限範囲内で、著作者の権利および関連権についての国家管理を行う。
     農業農村開発省*10は、自らの権限範囲内で、種苗に対する権利についての国家管理を行う。

     省、これと同等の機関*11および政府に属する機関は、知的財産についての国家管理において、自らの権限範囲内で、科学技術省、情報通信省、農業農村開発省、プロビンス*12及び中央市の人民委員会と協力する責任を有する。

     人民委員会の各レベルは、自分の地方において、権限に従って、知的財産についての国家管理を行う。

     政府は、科学技術省、情報通信省、農業農村開発省、人民委員会の各レベルの権限、知的財産についての国家管理責任を具体的に規定する。


    *9 地方政府、地方公共団体には任せないという趣旨。
    *10 農業農村開発省は、水産省等と合併が予定されているようで(2007年7月段階)、情報通信省の改組とともに近い将来の改正があるかもしれない。
    *11 例えば、少数民族委員会がある。
    *12 プロビンス=省;この文脈では、地方政府の最大行政単位を指す(全国に59省存在する。地方の行政単位は、省→県または地方市・町→郡(タウン)→村の階層構造である。ハノイ、ホーチミン、ハイフォン、ダナン、カントー特別市は、省と同格の中央市であり、市→区→町→グループ(to))。なお、行政機関の単位も省というが、ベトナム語では異なる用語が用いられている。プロビンス人民委員会の権限につき、ガイダンス7条は次のように定める。
    「プロビンス人民委員会の権限
     プロビンス人民委員会は以下の任務及び権限を有する。
    a) 地方において著作者の権利および関連権についての法律の規定の実施を指導すること。
    b) 地方の特徴、状況に応じて著作者の権利および関連権についての法律の規定、政策制度の実現を指導するため、権限の範囲に基づき文書を発行すること。
    c) 地方において、著作者の権利および関連権の保護活動を行うこと。すなわち、著作者の権利および関連権についての国家組織または個人の合法的な権利の保護手段を実現すること。
    d) 地方において、著作者の権利および関連権についての告発または法律の規定に違反する行為を権限を有する範囲内において調査、検査を取り扱うこと。
    dd) 権限を有する範囲および法律に従って、著作者の権利または関連権の登録申請を指導し、登録申請を受け付けること。
    e) 著作者の権利および関連権の保護活動において、情報通信省および関係のある省庁とプロビンス人民委員会が協力すること。
     情報通信省は、著作者の権利および関連権に関する国家管理機能について、プロビンス人民委員会を支援する。
     プロビンス人民委員会委員長は、著作者の権利および関連権の国家管理の実現に際して、情報通信省、県および郡(タウン)の機能、任務および権限の範囲を具体的に規定する。」


    第12条 知的財産についての料金

     本法典および関連する法律の規定に基づき、知的財産権に関する手続を行う際、組織または個人は料金を支払わなければならない。




     第2編 著作者の権利と関連権

     第1章 著作者の権利と関連権の保護要件

    第1節 著作者の権利の保護要件

    第13条 著作者の権利を保護される著作物を保有している著作者と著作者の権利の保有者

     著作者*13の権利を保護される著作物を保有する組織または個人は、その著作物を直接に創作した者と、本法典第37条から第42条までに定められた著作者の権利の保有者*14を含む。

     本条1項に定められた著作者、著作者の権利を保有する者は、ベトナムの組織または個人をいう。はじめてベトナムに公開され、かつベトナム以外の国で公開されていない著作物、または、外国においてはじめて公開された日から30日以内にベトナム国内で公開される場合*15において、その著作物を保有する外国の組織または個人をいう。ベトナム社会主義共和国が加盟している著作権についての国際条約に従ってベトナムにおいて保護される著作物を保有する外国の組織または個人を含む。


    *13 ガイドライン8条は、著作者を以下のように定義している。
    「第8条 著作者
     著作者とは、文学、芸術の著作物を一部分または全部、直接に創作した者であり、以下の場合を含む。
    a) 著作者の権利が保護される著作物を保有するベトナムの個人
    b) ベトナムにおいて、一定の物質形式の下で創作し、表現された著作物を保有する外国の個人
    c) ベトナムにおいて初めて公開される著作物を保有する外国の個人
    d) ベトナムが加盟している著作権についての国際条約に従ってベトナムにおいて保護される著作物を保有する外国の個人
     他の者が著作物を創作するために支援、意見提供、または資料提供を行うにすぎない組織、または個人は、著作者と認められない。」
    *14 ガイドライン27条は、著作者の権利の保有者の概念を以下のように規定する。
    「第27条 知的財産法36条に規定された著作者の権利の保有者には、以下の場合を含む。1 ベトナムの組織、または個人、2 ベトナムにおいて一定の物質形式の下で創作、表現された著作物を保有する外国の組織または個人、3 ベトナムにおいて初めて公開された著作物を保有する外国の組織、または個人、4 ベトナムが加盟している著作権についての国際条約に従ってベトナムにおいて保護される著作物を保有する外国の組織または個人」
    *15 条文のこの位置には、simultaneously(dong thoi、同時)に相当する語が含まれているが、意味不明である。論理的可能性としては、<1>同時に、と当初案で定められていたものが、後に30日の時差を認める文言を挿入したが、「同時に」を削除し忘れたという立法の過誤という考え方、<2>ベトナム国内における翻訳物・翻案物の出版が30日以内という場合、という考え方、以上の2つがあるが、翻訳者は、<1>を採用してこの語を無視して訳した。


    第14条 作者の権利を保護される著作物の類型

     保護される文学および学術の著作物は、以下のものを含む。

    a)  文学および学術の著作物、教科書*16、教呈、文字またはその他の記字*17によって表現された著作物

    b)  講義、スピーチ、その他の講演の著作物*18

    c)  新聞雑誌の著作物

    d)  音楽の著作物

    dd)  舞台の著作物*19

    e)  映画およびこれに類似する方法で創作された著作物(以下、映像の著作物という)

    g)  美術、応用美術の著作物

    h)  写真の著作物

    i)  建築の著作物

    k)  地図、図面、マップ、描図された物の著作物*20

    l)  フォークロアの文学、芸術の著作物

    m)  コンピュータプログラム、データ収集物

     派生著作物の保護は、派生著作物に用いられた著作物に対する著作者の権利を侵害しないときに限り、本条1項に定められた規定に基づいて認められる。

     本条1項と2項に定められた規定に基づいて保護される著作物は、他人の著作物を複写することなく、著作者が自分の知的創作活動によって創作したものに限る。

     政府は、本条1項に規定された著作物の類型について、具体的にガイダンスを定める*21


    *16 教科書は小学生、中学生及び高校生向き。教呈は、大学等で教員自身が自らの授業で用いる資料を指す。
    *17 記字は、一定の情報伝達を担う記号を指す。日本ではこれを「文字」と考えているが、ベトナムは「文字」「記字」と区別している。文字と記字は、おそらく意味を理解できる人数の多寡によって分けているのであろうと思われる。
    *18 スピーチは一定の準備を伴ったもの、講演は準備を伴わないものを含む最広義の概念。
    *19 演劇、人形劇、舞踊を全て含む概念。なお、ベトナム語には、fの文字がなく、かわりにddが用いられる。
    *20 描図したもの、図面、地図は、図のなかでだんだん詳細度の度合いがつよくなっていく。設計図はおそらく学術的な図面であるが、本翻訳では描図された物と訳した。
    *21 通例、ガイダンスは、法律施行後の「解釈」を提示すること等を指しており、この規定も同様の内容を有する法規範文書の一つである。この第14条4項の規定を受けて規定されたのが、48カ条から成る「著作者の権利と関連権をめぐる民法典および知的財産法典の、若干の条文についての具体的な規定およびガイダンス(政府の2006年9月21日に発効した内閣の100/2006/ND-CP)」であり、同ガイダンスでは、著作物の内容について9条から21条に定めている。


    第15条 著作者の権利保護範囲に属しない対象

     情報提供のみを目的とする時事の報道

     法律規範文書、行政文書、司法に属するその他の文書およびその当該文書の正式な翻訳物

     手順*22、システム、方法、概念、原理と数値データ


    *22 ベトナム語では、機程という語を充てる単語である(機械の操作手順、運行手順、生産方法など作業手順を含む広い意味の単語。順番、手続などをも含む)。



    第2節 関連権保護の要件

    第16条 関連権を保護される組織または個人

     俳優、歌手、演奏者、ダンサー、およびその他の文学芸術の著作物の実演を行う者(以下、実演家という)。

     本法典第44条1項に定められる実演会の保有者である組織または個人。

     実演会の音、映像およびその他の音、映像を初めて固定した組織または個人(以下、録音物または収録物の製作者という)。

     放送番組の企画制作し、実現する組織(以下、放送組織という)。


    第17条 保護される関連権の対象

     実演会は、以下の場合のいずれかにあたる場合について保護される。

    a)  ベトナムまたは外国において、ベトナム国民により行われる実演会

    b)  ベトナムにおいて、外国人により行われる実演会

    c)  本法典第30条の規定に基づいて、保護される録音物または収録物に固定された実演会

    d)  録音物または収録物に固定されておらず、本法典第31条に定められた規定に基づいて保護され放送された実演会

    dd)  ベトナム社会主義共和国が加盟している国際条約に基づいて保護される実演会

     録音物または収録物は、以下の場合のいずれかにあたる場合について保護される。

    a)  ベトナム国籍を有する録音物または収録物の製作者の録音物または収録物

    b)  ベトナム社会主義共和国が加盟している国際条約に基づいて保護される録音物または収録物の製作者による録音物または収録物

     コード化されたコンテンツの衛星信号は、以下のいずれかの場合に保護される。

    a)  ベトナム国籍を有する放送組織の放送番組、コード化されたコンテンツの衛星信号

    b)  ベトナム社会主義共和国が加盟している国際条約に基づき保護される放送組織の放送番組、またはコード化されたコンテンツの衛星信号

     実演会、録音物、収録物、放送番組またはコード化されたコンテンツの衛星信号は、著作者の権利を侵害しないことを条件として、本条の1、2、3項に定められている規定に基づいて保護される。



     第2章 著作者の権利、関連権の内容および制限と保護期間

    第1節 著作者の権利の内容、権限、保護期間

    第18条 著作者の権利

     本法典に規定されている著作物に対する著作者の権利は、人格権および財産権を含む。


    第19条 人格権

     人格権は以下の権利を含む。

     著作物に対して題号をつけること

     著作物に実名または筆名をつけること、著作物が公表および利用されるときに実名または筆名を表示すること

     自分で著作物を公表すること、または他人に著作物を公表させること

     著作物の同一性を保護し、著作物の形式を問わず、著作者の名誉、声望を侵害する態様で、当該著作物の変更、切除、歪曲を他人に行わせてはならない*23


    *23 民法典第738条2項cは、「名誉または声望を害する態様で」という文言を含んでいないが、知的財産法典第5条2項によって、知的財産法典の規定が優先されることとなる。


    第20条 財産権

     財産権は以下の権利を含む。

    a)  派生的著作物を創作すること*24

    b)  公衆の前で著作物を実演すること*25

    c)  著作物を複製すること

    d)  著作物のオリジナルとコピーを頒布、輸入すること

    dd)  有線・無線の手段または電子通信ネット、またはその他の技術手段により公衆に当該著作物を伝達すること*26

    e)  映像の著作物、コンピュータプログラムのオリジナルまたは複製物を貸与すること

     本条1項に定められた権利には、著作者および著作者の権利の保有者が、本法典の規定に基づき排他的に当該著作物を利用し、または他人に利用させることを含む。

     本条1項および本法典第19条3項に定められた権利の一部、複数の権利または全部を利用する際に、組織または個人は、著作者の権利の保有者に対して、許諾を得なければならず、またロヤルティ、報酬およびその他の物質的利益を、対価として*27支払わなければならない。


    *24 民法典第738条3項bと文言が異なる。
    *25 民法典第738条3項には規定されていない内容。
    *26 民法典第738条3項dでは、「公衆に著作物を伝達すること」だけしか規定していない。
    *27 バイクを報酬として引渡すような物質の提供でもよい。参照、民法典第740条。なお、この点は、中国でも同様である。


    第21条 映像、舞台の著作物に対する著作者の権利

     監督、脚本家、撮影者、映像編集者、劇中曲の作曲家、美術デザイナー、音響デザイナー、照明デザイナー、スタジオデザイナー、小道具担当、特殊効果デザイナーまたは映像著作物についてその他の創作を行う者は、本法典第19条1項・2項・4項に規定された権利その他の合意に基づく権利を有する。
     監督、脚本家、振り付け師、劇中曲の作曲家、美術デザイナー、音響デザイナー、照明デザイナー、舞台美術デザイナー、小道具担当者、特殊効果デザイナーまたは演劇著作物について他の創作を行う者は、本法典第19条1項・2項・4項に規定された権利およびその他の合意に基づく権利を有する。

     映像著作物または演劇著作物を製作するために、金銭的、物質的、または技術的施設に出資した組織または個人は、本法典第19条3項と第20条に規定された権利を保有する。

     本条2項に規定されている組織または個人は、本条1項に規定された者にロヤルティ、報酬その他の物質的な利益を対価として支払う義務を負う。


    第22条 コンピュータプログラム、データ収集物に対する著作者の権利

     コンピュータプログラムは、プログラムを読み込むことができる機器に結合する際に、コンピュータを機能させることができ、または一の具体的結果を得ることができるようなコマンド、コード、ダイアグラムまたはこれに類する手段によって表現された一連の指示命令の集合物である。
     コンピュータプログラムは、ソースコードまたはオブジェクトコードの下で表現されたものであれば、文学的著作物のように保護される*28

     データ収集物は、電子化されまたはその他の形式において、素材を選択し、または配列した創作的な集合物*29である。データ収集物に対する著作者の権利の保護は、当該素材を含まず、当該素材の著作者の権利を害さない。


    *28 日本法では、機能させるだけでは不十分(一の結果を生じさせることが必要)であるが、ベトナム法は、機能のみでもプログラムとして認められるようである。
    *29 編集物という用語は用いられていない。


    第23条 フォークロアの文学と芸術の著作物に対する著作者の権利

     フォークロアの文学と芸術の著作物は、特定コミュニティの文化的特徴および社会的特徴、伝承される水準・価値等であると当該コミュニティが期待している事柄を、模倣またはそれ他これに類する手段によって反映することを目的とする、特定グループまたは個人の集団的創作を意味する。フォークロアの文学と芸術の著作物の著作物は、以下を含む。

    a)  物語、詩、謎語*30、伝統的な歌とリズム*31

    b)  フォークロアの舞踊、演奏、儀礼、伝統的なゲーム*32

    c)  グラフィック、絵画、彫刻(木彫り、石造りのもの)、楽器、建築模型およびその他の物質的様式を問わず実現された芸術類型

     フォークロアの文学、芸術の著作物を利用する際、組織または個人は、当該著作物の由来を明示し、そのフォークロアの文学、芸術の著作物の本来の価値を守らなければならない。


    *30 中国における「謎語」と同様であり、一種のなぞなぞ。一定の言葉を示して内容をあてさせる類のクイズを指す。
    *31 代表例として、北部のクワン・ホー。
    *32 日本の百人一首に相当するゲームなど。


    第24条 文学、芸術および学術の著作物に対する著作者の権利

     本法典第14条1項に定められた文学、芸術および学術の著作物に対する著作者の権利の保護は、政府によって具体的に規定される。


    第25条 許諾を得る必要がなく、ロヤルティおよび報酬の支払も必要ない、公表された著作物を利用する場合

     許諾を得る必要がなく、ロヤルティおよび報酬の支払も必要なくして、公表された著作物を利用できる場合は、以下の場合を含む。

    a)  個人の学術研究、講義を目的として、自ら1部*33のみを複製・複写すること

    b)  自分の著作物において、評論または説明するため、著作者の意図を外れることなく、著作物を合理的に*34引用すること

    c)  新聞記事、定期刊行物、ラジオテレビ放送番組、ドキュメンタリーに使用するため、著作者の意図を外れることなく、著作物を引用すること

    d)  著作者の意図を外れることなく、営業目的でなく、学校で講演すること

    dd)  研究を目的として、図書館に保管するため著作物を複製すること*35

    e)  形式を問わず、無料の文化活動、宣伝活動において、舞台の著作物、その他これに類する芸術・演出類型を実演すること

    g)  時事情報の提供または講演のため、実演会を直接に録音または録画すること

    h)  公共の場所に展示されている造形・建築・写真・応用美術を、その物の映像を紹介する目的で撮影し、その撮影物をテレビ放送すること

    i)  視覚障害者のために、点字または他の言語に変換すること*36

    k)  個人的に使用するため、他人の著作物の複製物を輸入すること

     本条1項に定められた著作物を利用する組織または個人は、著作物の通常利用に影響なく、著作者の権利の保有者の権利を害することなく、著作者の名称、著作物の出所、由来について情報を提供しなければならない*37

     本条1項に定められた著作物の使用は、建築・造形著作物*38、コンピュータプログラムには適用しない。


    *33 一部分ではなく、one single copyの意味。
    *34 合理的という意味は、分量的な問題が中心であろう。おそらく経済的利益の有無は問わない。なお、本来の意味を誤ることなくそのまま伝えさせることが目的の規定であり、どちらかというとアイディア寄りの規定である。
    *35 将来、図書館に訪れる人のために複製することは許されている。ちなみに、公立図書館におけるコピーは通常代金の2倍程度が相場。コピー担当者がいて、その人に依頼することとされている。
    *36 範囲が難しい。見えない人のために写真をでこぼこに表現する場合があるが、これは含まないようである。著作物を読み上げてテープに録音する等の場合を含むか、は規定の文言上は不明。
    *37 本条が、出所(source)と由来(origin)をなぜ区別するかは定かでない。引用の引用であることを明示せよという規定と読めなくもないが、文言上は確定できない。
    *38 造形と応用美術は区別されているようである(造形の概念には、彫刻を含む)。


    第26条 許諾を得る必要はないが、ロヤルティまたは報酬支払いの必要がある、公表された著作物を利用する場合

     スポンサー、広告または形式を問わず金銭を得る目的を有する放送番組を提供するために、公表された著作物を利用する放送は、著作者の権利の保有者に許諾を得る必要がないが、著作者の権利の保有者に対して、政府の規定に基づき、ロヤルティまたは報酬の支払いをしなければならない。

     本条1項に定められた著作物を利用する組織または個人は、著作物の通常利用を害することなく、かつ、著作者の権利の保有者の権利に影響を与えることなく、著作者の名称、著作物の出所、由来について情報を提供しなければならない*39

     本条1項に定められた著作物の利用は、映像の著作物に適用しない。


    *39 第25条2項と完全に同一の文言になっているので、結局、この点について公表の有無は関係ないということになる。やや稚拙な規定ぶりである。


    第27条 著作者の権利の保護期間

     本法典第19条1項、2項および4項に定められた人格権は、無期限に保護される。

     本法典第19条3項に定められた人格権と、第20条に定められた財産権は、以下の期間、保護される。

    a)  映像、写真、舞台、応用美術の著作物、欠名の著作物は、著作物が最初に公表されたときから、50年間の保護期間が認められる。50年間以内に、映像著作物、舞台著作物が固定されたときから、もし著作物が公表されなければ、著作物が固定されたときから認める。欠名の著作物は、著作者についての情報が出現すれば、保護期間は本項bに定められた規定に従って計算される。

    b)  本項aに定められた類型に属しない著作物の保護期間は、著作者の存命中と著作者の死亡した年から50年間とする。合著作者がいる著作物の場合に、保護期間は、最後の合著作者の死亡した年から50年を経過したときに終了する。

    c)  本項aとbに定められた保護期間は、著作者の権利の保護期間の終了する年の12月31日24時に終了する。


    第28条 著作者の権利を侵害する行為*40

     文学、芸術、学術の著作物に対する著作者の権利を剽窃する行為*41

     著作者の名を詐称すること

     著作者の許諾なく、著作物を公表し、または頒布すること

     当該合著作者の許諾なく、合著作者が有する著作物を公表または頒布すること

     形式を問わず、著作者の名誉、声望を害する態様で、著作物を変更、切除または歪曲すること

     本法典第25条1項aとddに定められた場合を除き、著作者または著作者の権利の保有者の許諾を得ることなく著作物を複製すること

     本法典第25条1項iに定められた場合を除き、派生的著作物の創作に用いる著作物の著作者または著作者の権利の保有者の許諾を受けることなく、派生的著作物を創作すること*42

     本法典第25条1項に規定された場合を除き、著作者又は著作者の権利を保有する者の許諾を得ることなく、法律の規定に従って、ロヤルティ、報酬その他の物質的利益を対価として支払うことなく、当該著作物を利用すること

     著作者または著作者の権利の保有者にロヤルティ、報酬その他の物質的利益を対価として支払うことなく、当該著作物を貸与すること

    10  著作者の権利の保有者の許諾を得ることなく、当該著作物の複製、複製物の生産*43、頒布、展示、またはメディアネットおよびデジタル技術手段を通じて、公衆に著作物を伝達*44すること

    11  著作者の権利の保有者の許諾を得ることなく、著作物を出版すること

    12  自分の著作物に対する著作者の権利を保護するため、著作者の権利の保有者が実施した技術的手段を故意に解除し、または無効化すること

    13  著作物における電子形式*45の権利管理情報を故意に削除し、変更すること

    14  自分の著作物に対する著作者の権利を保護するため、著作者の権利の保有者が実施した技術的手段を、無効化できる設備を現に知っているか、何らかの事情で知ることができるはずである場合、その設備を生産し、組み立て、変更し、頒布し、輸入し、輸出し、販売しまたは貸与すること

    15  著作者の署名が偽造された著作物を創作し、販売すること

    16  著作者の権利の保有者の許諾を得ることなく、著作物の複製物を輸出し、輸入し、頒布すること


    *40 本来は、著作権侵害行為には以下の行為を含む、等の柱書があって然るべきであるが、その種の文言はない(関連権侵害行為を定める35条も同様)。このようなところにも、立法の稚拙さが現れている。
    *41 規定上は、口述や演奏、上演は、具体的侵害行為類型として列挙されていない。
    *42 オリジナルの著作物の派生について許諾を得られていない場合は、著作権の成立が認められない。この点が日本法と大きく異なる。
    *43 規定上は、オリジナルの複製行為と、複製物を用いてさらに複製物を作成する行為を区別して、両者とも著作権侵害という規定ぶりになっている。
    *44 伝情という語がベトナム語ではあてられている。ただし、有線送信(fax送信)だけでなく、送信可能化を含む用語として捉えている模様。「メディアネット」は、テレビ(例えば、国営無料テレビ放送であるVTV1など)・ラジオを代表的なものとし、無線方式の携帯電話網(固定電話は含まない)を含むようである。なお、中国では伝達=伝播(=送信可能化)であるが、情報ネットに電話網を含んでいない。ちなみに、中国では、ケーブルを含め放送は全部無料(海外情報の視聴が制限されているから)。
    *45 デジタルと異なる用語が用いられている。



    第2節 関連権の内容と制限、保護期間

    第29条 実演家の権利

     実演家であって、同時に当該実演家の実演会の出資者である場合は、実演会に対する人格権および財産権を有する。実演家であって出資者でない場合は、実演家は人格権を有し、出資者が財産権を有する。

     人格権は以下の権利を含む。

    a)  実演のとき、録音物または収録物を発行するとき、または実演会が放送されるとき*46に、自己の氏名を紹介されること

    b)  実演イメージ(形像)の完全性を保護すること、または、実演家の名誉ないし声望を害する態様で、形式を問わず、実演の改変、切除、または歪曲を他人にさせないこと

     財産権は、以下の内容を排他的に実現し、または他人に実現させる権利を含む。すなわち、

    a)  自分の直接実演会*47を録音物または収録物に固定すること。

    b)  録音物または収録物に固定された自分の実演会を直接にまたは間接に複製すること。

    c)  公衆が接近できるように、固定されていない自分の実演会を公衆に放送または他の方法で伝達すること。ただし、放送のための実演会をのぞく。

    d)  販売、貸与、または公衆が接近できるようにするために技術的方法による頒布という形式を通じて、公衆に自分の実演会のオリジナルまたは複製物を頒布すること。

     本条3項に定められた権利を利用する組織または個人は、法律の規定により、または法律に定められていない場合にはお互いの合意により、実演家に報酬を支払わなければならない。


    *46 民法典第745条の規定には、実演会の放送という条件が含まれていない。
    *47 ライブという解釈と、直接固定するという解釈が両方あり得る文言である。


    第30条 録音物または収録物の製作者の権利

     録音物または収録物の製作者は、以下の権利を排他的に実現し、他人に実現させる権利を有する。

    a)  自分の録音物または収録物を直接に、または間接に複製することができる。

    b)  販売、貸与、またはあらゆる技術的方法によって公衆が接近できるようにするため、公衆に、自分の録音物または収録物のオリジナルまたは複製物を頒布する。

     自分の録音物または収録物が公衆に頒布された際、録音物または収録物の製作者は、対価を請求する権利を得る。


    第31条 放送組織の権利

     放送組織は、以下の権利を排他的に実現し、または他人に実現させる権利を有する。

    a)  自分の放送番組を放送し、再放送すること。

    b)  公衆に自分の放送番組を頒布すること。

    c)  自分の放送番組を固定すること。

    d)  自分の放送番組の固定されたものを複製すること。

     放送組織は、自分の番組が公衆に録音、収録、頒布された際、対価を請求する権利を有する。


    第32条 許諾の必要がなく、ロヤルティ・報酬の支払いをしない利用が認められる場合

     許諾の必要がなく、ロヤルティ・報酬の支払いをしない利用が認められる場合には、以下の場合を含む。

    a)  個人の学術研究を目的として、自ら複製を1部のみ*48作成すること

    b)  講義を目的として、自ら複製を1部のみ作成すること。ただし、講義するため公表された実演会の録音物・収録物・放送番組をのぞく。

    c)  情報を提供するため、合理的に引用すること。

    d)  放送の許諾を得ている場合、放送するために放送組織が自ら一時的に固定すること。

     本条1項に規定された権利を利用する組織または個人は、実演会、録音物、収録物または放送番組の通常の利用に影響を与えない。また、実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織の権利を害しない。


    *48 一部分ではなく、a copy の意味である。


    第33条 許諾の必要がないが、ロヤルティ・報酬の支払いをしなければならない関連権の利用

     以下の場合に、関連権を利用する個人または組織は、許諾を得る必要がないが、合意により、著作者の権利の保有者、実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織に対して、ロヤルティ・報酬の支払いをしなければならない。

    a)  スポンサー、有料広告、または形式を問わず金銭を受領して放送される番組を実現するため、営利目的で公表された録音物または収録物を直接に、または間接に利用すること。

    b)  営利活動に録音物または収録物を利用すること。

     本条1項に規定された権利を利用する組織または個人は、実演会、録音物、収録物または放送番組の通常の利用に影響を与えない。また、実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織の権利を害しない。


    第34条 保護期間

     実演家の権利は、実演会が固定された年の翌年から50年間保護される。

     録音物、収録物の製作者の権利は、公表した年の翌年から50年間、または録音物、収録物が公表されない場合には録音物、収録物が固定された年の翌年から50年間保護される。

     放送組織の権利は、放送番組が実現された年の翌年から50年間保護される。

     本条の1項2項に定めている保護期間は、関連権の保護期間が満了する年の12月31日24時に終了する。


    第35条 関連権の侵害行為

     実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織の権利を剽窃すること

     実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織の氏名または名称を詐称すること

     実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織の許諾なく固定された実演会、録音物または収録物、放送番組を公表し、製作し、頒布すること

     実演家の名誉および声望を害する態様で、実演会に対して形式を問わず、改変、切除、または歪曲すること

     実演家、録音物または収録物の製作者、放送組織の許諾なく固定された実演会、録音物または収録物、放送番組を、複製し、複数の固定された録音物または収録物から部分を引き抜いて合成すること*49

     関連権の保有者の許諾なく、電子形式の関連権の権利管理情報を削除すること、または変更すること

     関連権を保護するため、関連権の保有者が実施した技術的手段を故意に解除し、または無効化すること

     関連権の保有者の許諾なく、電子形式の権利管理情報が削除または変更されたと知っているか、何らかの事情で知ることができるはずである場合に、公衆に頒布する目的で固定された実演会、実演会の複製物、録音物または収録物を放送し、頒布し、輸入すること

     コード化したコンテンツの衛星信号を違法に復号化(デコード)できる設備を現に知っているか、何らかの事情で知ることができるはずである場合、その設備を生産し、組み立て、変更し、頒布し、輸入し、輸出し、販売しまたは貸与すること

    10  適法な送信権者の許諾を得ることなく、衛星信号が復号化された場合、コード化したコンテンツの衛星信号を故意に受信し、または反復継続的に送信すること


    *49 異なる場所で行われた複数の実演をつなぎあわせることを指す。



     第3章 著作者の権利、関連権の保有者


    第36条 著作者の権利の保有者

     著作者の権利の保有者は、本法典の第20条に規定された財産権の一つ、複数、または全部を有する組織または個人である。


    第37条 著作者である著作者の権利の保有者

     著作物を創作するため、自らの時間、資金、物質的ないし技術的能力を用いた著作者は、本法典の第19条に規定された人格権および第20条に規定された財産権を有する。


    第38条 合著作者である著作者の権利の保有者

     一つの著作物を一緒に創作するために、自らの時間、資金、物質的ないし技術的能力を用いた合著作者は、その著作物に対して、本法典第19条と第20条に規定されている権利を共同して保有する。

     他の合著作者の創作した部分を害することなく分離し、独立に利用される部分がある場合に、合著作者は、その個別部分について本法典第19条と第20条に規定されている権利を保有する。


    第39条 著作者に任務の請求または著作者に契約締結した組織または個人である著作者の権利の保有者

     著作者に職務を命じた組織は、合意がある場合を除き、本法典第20条および第19条3項に定められている権利の保有者である。

     著作物を創作した著作者に対して契約締結した組織または個人は、その他の合意がある場合を除き、本法典第20条および第19条3項に定められた権利の保有者である。


    第40条 相続人である著作者の権利の保有者

     相続についての法律の規定に基づき著作者の権利を相続する組織または個人は、本法典第20条と第19条3項に定められた権利の保有者である。


    第41条 権利の譲渡を受けた著作者の権利の保有者

     契約における合意に基づき、本法典第20条と第19条3項に定められた権利の一つ、複数、または全部の譲渡を受けた組織または個人は、著作者の権利の保有者である。


    第42条 国家である著作者の権利の保有者

     国家は、以下の著作物に対する著作者の権利の保有者である。

    a)  無名の著作物*50

    b)  著作物の保護期間が満了していない場合であって、かつ著作者の権利の保有者が死亡したが相続人がない場合、または遺産相続を拒絶され若しくは遺産を承継する能力が認められない場合。

    c)  著作者の権利の保有者から国家に対して、保有する権利が譲渡された著作物。

     政府は、国家の保有に属する著作物の利用について、具体的に規定する。


    *50 規定上は、無名と欠名が区別されている。ガイドライン4条2は、「欠名の著作物とは、公表されるとき、著作者の名(実名または筆名)がない著作物である。」と定めている。無名は、著作者不明というニュアンスであろう。


    第43条 公衆に属する著作物

     本法典第27条の規定に基づき、保護期間が終了した著作物は公衆に帰属する*51

     あらゆる組織、個人は、本条1項に定めた著作物の利用権を有する。ただし、本法典第19条に定められた著作者の人格権を尊重しなければならない。

     政府は、公衆に帰属する著作物の利用を具体的に定める。


    *51 公衆に帰属するといっても、公衆の誰かが権利行使できるのではなく、パブリックドメインになるという趣旨に理解すべきであろう。


    第44条 関連権の保有者

     関係者と合意がある場合を除き、実演会に自らの時間、資金を支出し、物質的・技術的能力を用いる組織または個人は、当該実演会に関する権利の保有者となる。

     関係者と合意がある場合を除き、録音物・収録物の製作に自分の時間、資金を支出し、物質的技術的能力を用いる組織または個人は当該録音物・収録物の権利の保有者である。

     関係者と合意がある場合を除き、放送組織は、自分の放送番組に対する権利の保有者である。



     第4章 著作者の権利と関連権の譲渡

    第1節 著作者の権利と関連権の譲渡*52

    第45条 著作者の権利または関連権の譲渡についての総則

     著作者の権利または関連権の譲渡とは、著作者の権利の保有者または関連権の保有者が、他の組織または個人に対して、契約または関係のある他の法律の規定に基づき、本法典第19条3項、第20条、第29条3項、第30条、第31条に定められた権利について保有権を譲渡することである。

     著作物についての公表権を除き、著作者は本法典第19条に規定された人格権を譲渡することができない。実演家は、本法典第29条2項に規定された人格権を譲渡できない。

     合著作者がいる著作物、実演会、録音物、収録物または放送番組の場合に、著作者の権利の譲渡には、合著作者全員の合意が必要である。そのような合保有者がいるが、個別に分離し独立して利用できる著作物、実演会、録音物、収録物、放送番組の場合には、著作者の権利または関連権の保有者は、自分が保有している部分についての著作者の権利または関連権を、他の組織または個人に対して譲渡する権利を有する。


    *52 節のタイトルは、第1節が譲渡、第2節が移転と、異なる用語が使われている。


    第46条 著作者の権利と関連権の譲渡契約

     著作者の権利、関連権を譲渡する契約は、以下のような主な内容を含み、かつ書面によって成立させなければならない。

    a)  譲渡人と譲受け人の完全な氏名または名称、住所

    b)  譲渡の理由

    c)  決済の価格*53、方法

    d)  契約当事者の権利義務関係

    dd)  契約違反の責任

     著作者の権利、関連権の譲渡契約の履行、変更、解除、取り消しについては、民法典の規定を適用する。


    *53 ベトナム・ドンに限らない記載が認められている。



    第2節 著作者の権利と関連権の利用権の設定

    第47条 著作者の権利と関連権の利用権の設定についての総則

     著作者の権利と関連権の利用権の移転とは、著作者の権利と関連権の保有者が、他の組織、個人に対して、本法典第19条3項、第20条、第29条3項、第30条、第31条に定められた権利の一つ、複数または全部を、特定の期間、利用させることである。

     著作物の公表権を除き、著作者は本法典第19条に定められている利用権を設定することができない。また実演家は、本法典第29条2項に規定された人格権の使用権を設定することができない。

     合著作者がいる著作物、実演会、録音物、収録物または放送番組の場合は、著作者の権利または関連権の利用権の移転には、合著作物の保有者全員の合意が必要である。そのような合著作物の保有者がいるが、個別に分離し、独立して利用できる著作物、実演会、録音物、収録物、放送番組の場合には、著作者の権利または関連権の保有者は、自分が保有している部分についての著作者の権利または関連権の利用権を、他の組織または個人に対して設定することができる。

     著作者の権利または関連権の利用権の設定を受けた組織または個人は、著作者の権利の保有者または関連権の保有者の同意があれば、他の組織または個人に利用権を移転することができる。


    第48条 著作者の権利または関連権の利用権の設定契約および移転契約

     著作者の権利または関連権の利用権を設定しまたは移転する契約は、以下のような主な内容を含み、かつ書面によって成立させなければならない。

    a)  移転する者と移転を受ける者の完全な氏名または名称、住所

    b)  設定または移転の理由

    c)  設定または移転の範囲

    d)  決済の価格、方法

    dd)  契約当事者の権利義務

    e)  契約違反の責任

     著作者の権利、関連権の利用権の設定または移転契約の履行、変更、解除、取り消しについては、民法典の規定を適用する。



     第5章 著作者の権利または関連権の登録証明書


    第49条 著作者の権利または関連権の登録

     著作者の権利または関連権の登録とは、著作者の権利の保有者または関連権の保有者が、著作者、著作物、著作物の権利の保有者または関連権の保有者についての情報を確認するため、管轄国家機関に対して、必要な添付書類を付して申請書を提出すること(以下、申請という)をいう。

     著作者の権利の登録証明書、または関連権登録証明書を申請することは、本法典の規定に従って著作者の権利または関連権を保有するための義務的な手続ではない。

     紛争があるときは、反対の根拠がある場合を除き、著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書の発行を受けた組織又は個人は、当該著作者の権利または関連権が自分に帰属することについて証明義務を負わない。


    第50条 著作者の権利または関連権の登録申請

     著作者、著作者の権利の保有者、関連権の保有者は、直接にまたは他の組織または個人に委任して、著作者の権利又は関連権の登録申請を行うことができる。

     著作者の権利または関連権の登録申請は、以下を含む。

    a)  著作者の権利または関連権の申請書
    申請書は必ずベトナム語で作成しなければならず、かつ、著作者の権利の保有者、関連権の保有者、またはこれらの委任を受けた者が署名し*54、申請書提出者、著作者、著作者の権利の保有者または関連権の保有者に関する情報を完全に記入しなければならない。著作物、実演会、録音物、収録物または放送番組の内容の要約派生的著作物である登録著作物の場合には、著作者の氏名、名称または派生的著作物に用いられた著作物の題名、公表される時期、場所、形式、申請書に記入された情報についての責任についての誓約、以上を完全に記入しなければならない。情報通信省は、著作者の権利登録申請書または関連権登録申請書のフォームを定める。

    b)  著作者の権利を登録する著作物の複写2部、または関連権登録を行う対象の固定された複写2部。

    c)  提出者が委任を受けている場合、その委任状。

    d)  相続、譲渡、遺贈に基づき、申請提出者が本人から当該権利を取得した場合には、その申請提出権を証明する書類。

    dd)  合著作者がいる著作物の場合に、合著作者の合意文書。

    e)  著作者の権利、関連権が共同保有に属する場合、共同保有者間の合意文書。

     本条2項c、d、ddとeに定められた書類は、ベトナム語で作成しなければならない。外国語で作成された場合には、ベトナム語への翻訳を提出しなければならない*55


    *54 中国同様、フルネームの自署のみが効力を有し、記名捺印は無効である。
    *55 通例、行政庁に提出する翻訳物については、公証局(政府機関、専門機関、人民委員会等が設置し、事項ごとに公証能力のある機関が定められている)による公証が必要であるが、その点は法律上明らかにされていない。


    第51条 著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書を発行する権限

     著作者の権利または関連権についての国家管理機関は、著作者の権利登録証明書、関連権登録証明書を発行する権限を有する。

     著作者の権利登録証明書と、関連権登録証明書を発行する管轄国家機関は、それらの証明書を再発行し、変更しまたは取り消す権限を有する。

     政府は、著作者の権利の登録証明書または関連権登録証明書の再発行、変更または取り消しの条件、順序、手続を具体的に定める。

     情報通信省は、著作者の権利の登録証明書、関連権登録証明書のフォームを定める。


    第52条 著作者の権利登録証明書および関連権登録証明書の発行期限

     登録申請の条件を満たす申請を受け付けた日から15営業日以内に、著作者の権利または関連権に関する国家管理機関は、申請者に対して著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書を発行する責任を負う。著作者の権利登録証明書、関連権登録証明書の発行を拒絶する場合、著作者の権利および関連権に関する国家管理機関は、申請者に書面で告知しなければならない。


    第53条 著作者の権利登録証明書および関連権登録証明書の効力

     著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書は、ベトナムの全領土に効力を有する。

     本法典が効力を有する以前に著作者の権利、関連権に関する国家管理機関によって発行された著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書は、効力が継続する。


    第54条 著作者の権利および関連権の登録と登録簿の公開

     著作者の権利登録証明書および関連権登録証明書は、著作者の権利、関連権の登録に関する国家登録簿に記載される。

     著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書の発行、再発行、変更、または効力取消しの決定は、著作者の権利または関連権についての官報に公開される。


    第55条 著作者の権利登録証明書、関連権登録証明書の再発行、変更、効力取消し

     著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書を紛失し、毀損し、または著作者の権利保有者または関連権の保有者の変更があった場合、本法典第51条2項に定められた管轄機関は、著作者の権利登録証明書、関連権の登録証明書の再発行、または変更を行う。

     著作者の権利登録証明書、関連権の登録証明書を受けた者は、著作者の権利保有者、関連権保有者ではなく、または登録された著作物、録音物、収録物、放送番組が保護対象に属しない場合に、本法典51条2項に規定された管轄機関は、著作者の権利登録証明書、関連権登録証明書の効力を取り消す。

     著作者の権利登録証明書または関連権登録証明書の発行が、本法典の規定に反すると明らかにされた組織または個人は、著作者の権利または関連権に関する国家管理機関に、著作者の権利登録証明書、関連権登録証明書の効力の取り消しを請求できる。



     第6章 著作者の権利および関連権の代理・助言サービス業務組織


    第56条 著作者の権利または関連権の集中管理組織

     著作者の権利または関連権の集中管理組織は、著作者の権利および関連権を守るため、法律の規定に従って、著作者の権利保有者および関連権の保有者が合意して設立され、運営される非営利組織である。

     著作者の権利または関連権の集中管理組織は、著作者、著作者の権利の保有者、関連権保有者の委任に従って、以下の活動を行う。

    a)  著作者の権利と、関連権の管理を行う。例えば、委任を受けた権利を利用させることにより、利用許諾交渉、その活動に基づくロヤルティ・報酬または他の対価を受領し、分配すること*56

    b)  メンバーの合法的な権利を保護し、紛争があるとき和解交渉を行うこと

     著作者の権利、関連権の集中管理組織は、以下の権利義務を有する。

    a)  創作を支援する活動、または他の社会活動を行うこと

    b)  著作者の権利および関連権を保護する分野について、国際組織または他国の相応する組織と協力すること

    c)  集中管理組織の活動について、管轄機関に対して定期的にまたは不定期に報告すること

    d)  その他、法律に基づく権利義務


    *56 ベトナム法は、行為規範性が強く、契約が締結されるとそれが履行されることが当然であると受け取られるため、支払請求するという内容が規定されていないものと思われる。


    第57条 著作者の権利、関連権の代理・助言サービス業務の組織

     著作者の権利および関連権の代理・助言サービス業務組織は、法律の規定に基づき設立し、運営される。

     著作者の権利・関連権の代理・助言サービス業務組織は、著作者、著作者の権利の保有者、関連権の保有者の求めに応じて、以下の活動を行う。

    a)  著作者の権利、関連権についての法律の規定に関する問題について助言すること。

    b)  著作者、著作者の権利の保有者、関連権の保有者を代理して、その委任に従い、著作者の権利、関連権の登録申請手続を行うこと。

    c)  著作者の権利、関連権について、その他の法律関係に参加し、委任に従って、著作者、著作者の権利の保有者、関連権の保有者の合法的な権利を保護すること。




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