Q&A 市民便りなど広報誌

    この「著作権Q&A  著作権って何?(はじめての著作権講座)」のコーナーでは、右の項目について、それぞれまず要旨を説明し、次に「Q&A」の形で、実際の事例にそった解説をします。

    Q&A  ~市の広報誌に他の出版物などを転載して住民に配布する場合など

    広報誌に市販の図鑑から野鳥の写真と説明文などを抜き出し、図鑑名、出版社名なども表示掲載し、住民に配布していますが、問題がありますか。
    図鑑に載っている写真は写真の著作物、説明文は言語の著作物として著作権法によって保護されています。したがって、無断でこれらの写真や説明文を抜き出すことは複製権の侵害になります。また、写真の一部分をカットしたり、説明文の一部分のみを抜き出した場合には、著作者の同一性保持権を侵害したことにもなります。

    なお、図鑑全部をそっくりコピーしたわけではなく、野鳥の写真と説明文の一部のみを抜き出すことは、引用であって著作権法上許されると考えている人もいると思います。しかし、著作権法第32条1項によって許される引用とは、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければなりません。たとえば、報道や批評を行う際に、他人の写真や説明文を引用することはできますが、引用される側の著作物と自己の著作物とがはっきりと区別ができなければなりませんし、また、自己の著作物が主、引用される著作物が従たる関係になければなりません。

    したがって、市販の図鑑の写真と説明文を抜き出して掲載した態様が、報道や批評、あるいは研究等に必要なものであれば引用として認められる可能性がありますが、単に広報誌に図鑑の写真と説明文を抜き出して掲載するだけであれば、公正な慣行であるとはいえず、著作権法で認められる引用とはいえません。

    なお、市の広報誌であっても、行政目的のための内部資料ではありませんので、やはり無許諾で掲載することは許されません。

    したがって、本件の場合は、図鑑を出版している出版社に連絡を取り、掲載の許諾を求める必要があります。

    なお、図鑑の場合、必ずしも出版社がすべての著作権を有しているとは限りません。出版社の社員が仕事として出版社の名前で撮影した写真や執筆した説明文であれば、職務著作として出版社が著作権を有しているでしょうが、外部の写真家や執筆者に依頼した場合には、出版社が著作権の譲渡を受けていない場合もあります。そこで、図鑑の出版社に連絡して同社が写真や説明文の著作権を有しているかどうか確認する必要があるでしょう。出版社が著作権の譲渡を受けていない場合には、著作権者である写真家や執筆者に掲載の許諾を得る必要があります。

    照会先 根拠法令
    写真家に依頼して撮影した写真を市の広報誌に掲載したところ、温泉ホテルが宣伝パンフレットに無断で掲載しました。好ましくないので掲載を禁止したいのですが。
    まず、写真家に依頼して撮影した写真の著作権を、依頼した市が有しているのか、それとも写真家が有しているのかを明らかにする必要があります。

    写真の著作権は当初は写真家に帰属します。撮影の対象を指定したり料金を支払ったからといって、初めから当然に依頼者である市が著作権を取得するわけではありません。そこで、市が著作権を取得したい場合には、写真家との契約によって、写真家から著作権を譲り受けなければなりません。写真家との間に契約書があれば最もよいのですが、契約書がなくても、撮影を依頼した事情や市が写真家に支払った料金が通常の使用料に比べてはるかに高かった場合、写真家がネガを引き渡して市の自由に使わせている場合など諸般の事情により、写真家が市へ著作権の譲渡に同意していたと認められるようなケースでは、著作権譲渡が認められる場合もあります。

    このように、市に写真の著作権が譲渡されている場合には、市が著作権者として温泉ホテルに対し当該写真の掲載の禁止を請求することができます。既に写真を掲載したパンフレットがあれば、廃棄を請求することもできます。また、宣伝パンフレットを作成した広告会社や温泉ホテルに故意または過失があった場合には、損害賠償を請求することもできます。

    市に著作権が譲渡されておらず写真家に著作権がある場合には、市から温泉ホテルに対し掲載禁止を法的に直接に請求することはできません。市は、写真家から広報誌に写真を掲載することの許諾を得ているだけであって、他人に無断でその写真を使用するなと請求できる権利はないのです。

    この場合には、市から写真家に対し温泉ホテルの無断掲載の事実を連絡し、写真家からその温泉ホテルに対し、著作権侵害を理由に掲載禁止を請求してもらうほかありません。

    仮に、写真家が温泉ホテルに対しその写真の掲載を許諾している場合には、市は温泉ホテルに対しては間接的にも何の請求もできません。市と写真家との間で、その写真を他人に使わせるには市の同意が必要というような契約を結んでいれば、その写真家に対して契約違反による損害賠償を請求することはできますが、そのような契約を結んでいなければどこに対しても請求はできないでしょう。

    照会先 根拠法令
    県の広報誌に新聞掲載の時事の論説をそっくり掲載し、住民に配布しましたが、問題がありますか。
    著作権法第39条により、新聞又は雑誌に掲載された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説は、転載を禁止する旨の表示がない限り、学術的な性質を有するものを除いては、他の新聞・雑誌に転載することができます。また、放送したり、有線放送することも認められます。

    ここにいう時事の論説とは時事問題に関する社説などです。なお、新聞業界の一般的な慣行として、執筆者の署名入りの論説は転載を禁止する表示であると解されておりますので、署名入りの論説は転載できません。また、時事の論説ではなく、一般の記事の場合には、原則として無許諾で転載することはできないことに注意してください。

    このように、新聞掲載の時事の論説は、報道に関する社会的な要請が高いという公共性があるため、その論説に転載を禁止する表示が無い限り、他の雑誌や新聞への転載や放送、有線放送が許されるとされたのです。

    問題なのは、県の広報誌が、著作権法で許している「他の新聞・雑誌」に該当するかどうかということです。なかなか難しい問題ですが、県の広報誌が、県民に多くの情報を提供するという公共的な目的であることを考えれば、著作権法で転載が認められるのではないかと思います。なお、転載が認められる場合にも、どの新聞のいつの論説記事であるかという出所を明示しなければなりません。

    ただし、転載する広報誌が、観光客対象のPR誌のようなものの場合には公共性が低いので、著作権法で転載が許される新聞・雑誌には該当しないと思います。

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    町の記念碑の除幕式に有名な詩人を招き、詩人が写った風景写真を広報誌に掲載したところ、詩人から掲載について注意を受けましたが、手落ちがあったのでしょうか。
    人には誰でもプライバシーの権利の1つとして、自己の肖像を管理するという権利(肖像権)が認められております。この権利については、法律条文としての定めはないのですが、自然人たる人の人格権の一種として裁判においても認められています。

    自己の肖像を管理するという権利は、いいかえれば、自己の容貌・容姿を無断で写真に撮られることを拒否し、あるいは容姿・容貌を撮影された写真を公表されることを拒否する権利です。ただし、この肖像権は絶対のものではなく、事件の報道等公共目的で社会的に必要な限度であれば、肖像権は制限され写真を掲載することも許されると解されております。

    設問の場合には、町の広報誌にどのような写真を掲載したのかわかりません。ただ、詩人は記念碑の除幕式という公の式典に出席することは当然に承諾しているわけであり、また、除幕式の様子を公式に写真撮影することは一般的に予測できることだと思います。そこで、当日の式においてカメラマンが除幕式の様子を撮影していたことが出席者にわかるような状態であって、かつ、詩人がカメラマンの撮影の際に明白に拒絶しなかったのであれば、自己の肖像の撮影及び公表を許していたものと考えていいでしょう。

    このような状態で、町の広報誌に記念碑の除幕式の様子を伝える記事と共に詩人が出席した除幕式の様子の写真が掲載されたのであれば、掲載目的からも掲載態様からも、公共目的で社会的に認められる限度であったものといえ、特に事前に詩人の許諾を得る必要はないと思います。

    しかし、詩人が撮影を認めたのはあくまで除幕式の関連にすぎませんので、除幕式の様子を伝えること以外の場合、たとえば、広報誌であってもふるさとPRのようなものにその写真を流用して掲載することは、事前に詩人の許諾を得ていない限り肖像権の侵害になるでしょう。

    なお、本件の場合は、詩人であるため肖像権の問題になりますが、歌手や俳優等の芸能人やプロスポーツ選手であれば、パブリシティの権利の問題となります。歌手や俳優等の芸能人の氏名や肖像は多くの人を引き付ける宣伝広告効果を有するため、それ自体に経済的な財産価値が生じており、芸能人はその財産価値をコントロールできる権利を有するのです。

    照会先 根拠法令(判例)

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