Q&A テレビ放送から録画したビデオ録画物

    この「著作権Q&A  著作権って何?(はじめての著作権講座)」のコーナーでは、右の項目について、それぞれまず要旨を説明し、次に「Q&A」の形で、実際の事例にそった解説をします。

    高齢者の福祉問題の放送番組をビデオ録画し、福祉課でライブラリーを作ったり、ビデオ録画した番組を役所のロビーで放映していますが、問題がありますか。
    テレビ放送をビデオに撮るということは、番組を複製するということです。家庭で見たい番組を録画してあとで見ることは、よくあることでしょうが、これは、私的使用のための複製が法律で認められているからできるのです。しかし、役所の一部署でライブラリーを作るために無断で撮るなどということは、私的使用のためとはいえず、違法です。複製権の侵害になるからです。役所であるからといって、複製権が制限されることはありません。

    そこで、何の複製権侵害になるのかを、少し説明することとします。

    テレビ放送番組に関係している人々は、きわめて多種多様にわたっています。福祉番組というのですから、ドラマのように原作や脚本はないかもしれませんが、それでも話の筋立てをプロの作家あるいは高齢者福祉の専門家が構成しているかもしれません。当然、お話やインタビューの出演者がいるでしょう。番組の初めや終わりに音楽があるのは普通のことです。また、背景音楽が付けられていることもあります。番組に顔を出すわけではありませんが、音楽があれば当然演奏家がいます。場合によっては、レコードを使って背景音楽を付けているかもしれません。放送ですから、もちろん放送局も関係してきます。

    これを著作権の上で整理していいますと、言語の著作物、音楽の著作物の著作者、演技、演奏などをする実演家レコード製作者および放送事業者などが、この場合考えられる関係者です。著作者の権利は、いうまでもなく著作権ですが、実演家、レコード製作者および放送事業者の権利は一括して著作隣接権といいます。

    無断でビデオ撮りすると、これらの著作権、著作隣接権のうちの複製権・録音録画権を侵害することになります。いわば、海賊版を作ることになるのです。福祉の仕事に役立てようということであっても、役所が海賊版を作ることなどは、厳に慎むべきです。

    では、了解をとろうということになりますが、今のところ、テレビ番組全体の権利について許諾をとれる仕組みはありません。また、個々の許諾をとることは、関係者が多いだけにきわめて困難ですし、経費も相当かかることが考えられます。しかし、ともかく手始めに、放送局に照会してみるしかありません。需要の多い番組ですと、放送局の関係団体から、ビデオ化されて市販されている場合もあります。

    照会先 根拠法令 参考条項
    本校では教育映画の放送番組をビデオ録画してライブラリーを作り、視聴覚教室でPTAや教職員が視聴していますが、問題はありませんか。
    「教育映画の放送番組」というのですから、映画プロダクションの製作したものを放送局がテレビ放送しているという状況を想定して説明します。

    放送からビデオを撮ることが、放送されている内容の複製にあたるということは、前記の答で述べたとおりです。もちろん、視聴覚教室という名の施設でPTAや教職員が視聴するためといっても、権利者に無断で複製するのは違法です。「授業の過程において使用に供することを目的とする場合」にも該当しないので、「学校その他の教育機関における複製等」で認められる場合にもなりません。

    そこで、関係する権利者にはどんな者がいるかという問題ですが、この場合には、先に述べたもののほかに、映画の著作物の著作権者が加わります。というより、ここでは映画の著作物が中心的存在なのです。実は先の場合でも、番組を放送局があらかじめ録画して製作していれば(そして、現在大部分の番組はそうなっているようです)、著作権法の上では、これも一種の映画の著作物になりますが、放送番組の場合は実演家の権利関係等複雑になるので、先の問では省略してあります。

    さて、著作権法では、映画の著作物の著作権は、監督等映画の著作者が映画製作者(プロデューサー、プロダクション)に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、映画製作者に帰属することとされています。しかし、何もかも映画製作者が著作権を持っているわけではなく、持っているのは映画自体の著作権であり、原作、脚本、音楽などは、映画の著作物に使われていても、映画の著作物とは別個の著作物で、それぞれ著作権を持っている者がいます。たとえば、音楽は、日本音楽著作権協会が管理している、というようにです。また、放送局が作った映画でなくても、放送を録画するのであれば、放送局も依然として権利者の立場にあります。とにかく、映画の場合でも、関係権利者は多く、ビデオを撮ってライブラリーにするなどということは、許諾をとるのはきわめて困難であると思われます。映画製作者から正規に入手できれば、それを利用するのがいちばん近道でしょう。

    放送から手軽にビデオが撮れるといっても、私的使用のためにでなければ、たとえ営利でなくても、また教育や研究の目的であっても、無許諾では著作権等の侵害になってしまいます。

    照会先 参考条項
    観光課で製作し放映された放送番組がDVDになって土産物屋で売られていますが、町の費用で製作したものであり、使用料を請求したいのですが。
    この放送番組は、放送局外の者により録画物として製作されたのですから、著作権法の上では、その録画物は一般的な映画の著作物と変わりがないことになります。著作権を持っている者(著作権者)は、もちろん、対価を請求することができるばかりでなく、無断でDVD化されたとすれば、単に使用料を請求するというのではなく、DVDを作った者を著作権侵害で訴えることもできます。

    そこで、著作権を持っているのはだれかということになります。映画の著作物の場合、著作者が映画製作者に対し映画の製作に参加することを約束しているときは、著作権は、法律で映画製作者に帰属すると著作権法で定められていることは、先に述べたとおりです。著作権法はさらに、映画製作者とは、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう、と定義しています。

    この質問の場合、観光課あるいは町が映画製作者なのでしょうか。観光課の職員が職務として、具体的な作品の内容を考え、脚本を手配し、出演者を選定し、カメラを回し、編集し映画として完成させたのなら、映画製作者は観光課になるでしょう。しかし、アマチュアビデオ並みのものならともかく、こうしたプロの仕事を、行政上の業務として遂行するなどということは、通常はあり得ないことではないでしょうか。プロたちを手足として使って映画を作ることは考えられ、この場合は観光課なり町が映画製作者になり得ますが、一般的には、観光課で企画をたて、町が金を出して、専門のプロダクションに実際の製作を委託するのが通例ではないでしょうか。単に町の観光地の映画を作ろうというような企画をたて、資金を提供するだけで、一般には「発意と責任を有する」とはいえません。法律が考えている「発意と責任を有する者」は、この場合、委託を受けて自己のリスクの下に製作するプロダクションであると考えられます。

    したがって、町のほうは、必要なら、委託契約の際に著作権を町に帰属させるような条項を契約に入れておかなければなりません。もっとも、製作者のほうは著作権を全部譲渡することはしないということもあるようですので、少なくとも製作の目的である利用、たとえば観光PRのための複製、頒布、上映、放送などを認めるような契約にしておくことが考えられます。

    根拠法令 参考条項
    国会での審議の模様を録画したビデオを市の施設に設置したテレビで放映していますが、問題はありませんか。
    国会での審議の模様というのですから、一般的なビデオ取材は許されていないと思いますので、「国会中継」というような中央の放送局のテレビ放送をビデオに撮ったのでしょう。放送局が作ったビデオとか、放送局の許諾をとって作られたものなら、テレビ受像機を使って非営利かつ無料で上映することは、まず問題はないでしょう。ただし「放映」というのですから、設置されたのが有線施設であり、これを使って有線テレビ放送することを意味しているのなら、たとえ非営利無料でも、許諾をとらなくてはできません。

    しかし、何よりもまず、このビデオカセットが無断で作られたものであるならば、ほかの質問のところでもたびたび話が出てきたように、複製権の問題があります。国会での質疑、討論といえども、それらは口述の著作物として著作権保護を受けると考えられます。著作権法では、このような国の機関において行われた演説や陳述は、報道目的で新聞や雑誌に掲載したり、放送、有線放送することができることとされていますが、ビデオに複製することまでは認められていません。また、上記のようにテレビ放送から撮ったものであるならば、放送事業者の複製権が関係してきます。つまり、口述(著作)者や放送局の許諾をとらないでビデオを撮ると、これらの者の複製権の侵害になるのです。

    この質問の場合、誰かが撮ったビデオを、市が入手して、単に上映しているだけですと、複製権侵害の責任は市にはありません。自分が無断複製物を作らなくとも、そういう侵害物を、侵害物であると知って頒布したり頒布の目的をもって所持すると、侵害行為とみなされますが、質問のような利用は、市が頒布行為をしているとは考えにくいので、結局、複製権の侵害について市は責任を問われることはないかもしれません。しかし、状況からみて明らかに許諾をとって作られたものでないことがわかるような場合、市のような公共団体がこれを使用するのはいかがなものでしょうか。

    根拠法令 参考条項

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