図書館で所蔵している資料を電子化して、ネットワークを通じて利用者に提供したいと考えていますが、著作権法上、どのような問題がありますか?
最近、図書館界ではデジタル技術を活用して、所蔵資料の電子化、データベース化を進め、利用者に対してネットワークを通じた資料の提供も可能とするような「電子図書館」と呼ばれる構想が進められようとしています。今回は、電子図書館に関する著作権問題について考えてみることにしましょう。


1.現行法における図書館の地位

現行著作権法では、図書館の公共的使命に配慮して、一定の著作権の制限を定めています。まず、この点を最初に確認しておきましょう。

31条では図書、記録その他の資料で公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(政令1条の3で国立国会図書館、公立図書館など図書館法に基づく図書館、大学・高専に設置された図書館その他を規定している。以下「図書館等」という。)においては、営利を目的としない事業として、図書館等が所蔵する図書、記録その他の資料(図書館資料)を用いて、次に掲げる場合には著作物を複製することができると定められています。

[1]図書館等の利用者の求めに応じてその調査研究の用に供するため、公表された著作物の一部分の複製物を1人につき1部提供する場合(1号)
いわゆる「複写サービス」に関する規定です。複製できる分量は著作物の一部分が原則ですが、発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物についてはその全部の複製物を1人につき1部提供することもできるとされています。

[2]図書館資料の保存のために必要がある場合(2号)
図書館の収蔵スペースの関係、稀覯本の保存のため、あるいは図書館資料の汚損等によって保存の必要がある場合には、原資料の廃棄等を条件として複製を行うことが認められています。

[3]他の図書館の求めに応じて、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合(3号)
絶版等によって古本屋も含めて一般の市場では入手困難となった図書館資料を所蔵している図書館等が他の図書館等の求めに応じて複製物を提供する場合です。


2.電子図書館と著作権

次に電子図書館を実現するために想定される著作物の利用行為と著作権との関係を整理してみましょう。


[1]書誌的事項に関するデータベースの作成
まず、図書館資料の題号(タイトル)、著作者名、発行者名、発行年等の書誌的事項を内容とするデータベースを作成することについては、一般に書誌的事項は著作物ではありませんから、そのデータベースを作成することは著作権とは関係ありません。

また、書誌的事項のデータベースから利用者に紙媒体や電子媒体によって書誌的事項の情報提供を行うことも自由にできますし、ネットワークで送信しても問題は生じません。

[2]著作物のデータベース化
これに対して、図書館資料で著作権のあるもの(つまり、著作物でないものや著作物であっても保護期間が満了しているもの、著作権の目的とならない著作物を除く。)を電子化してデータベース化することについては、現行法では一般的にこれに対応する規定はありませんから、データベースへの蓄積に関して複製権の処理が必要となります。なお、31条2号の資料の保存のための複製の規定がケースによっては適用可能ですが、全ての図書館資料の電子化にこの規定を適用することは無理があります。また、インターネット上で入手可能な著作物については31条は適用されません。なぜならば、図書館等が複製できるのはその所蔵する図書館資料に限られており、インターネット上で入手可能な資料の場合には、その所蔵するものとは言えないからです。

ただし、インターネット上で著作権を主張せず、自由に利用できることが明記されているような場合は別です。

[3]館内における利用者へのサービス
データベース化に際して複製権を処理して適法に蓄積した図書館資料を用いて、図書館利用者の求めに応じて複製物を作成して提供する場合には、31条1号の適用が考えられます。この場合には、従来のように非営利目的で、原則として著作物の一部分を1人につき1部提供するという限定を超えない限りは、その著作物の著作権者の許諾を得る必要はないことになります。この場合、一部分という分量制限を図書館等の側で利用者に遵守させることができるかどうかが問題となってきましょう。

なお、データベース化された音楽や映像等を利用者に対して、営利を目的とせず、料金を徴収せずに、演奏や上映等の形で提示する場合には38条1項の適用があれば、自由にできることになります。

[4]館外からの利用者のリクエストに応じたサービス
図書館資料の電子化と並んで、電子図書館の最も大きな著作権問題は、ネットワークを通じて利用者の求めに応じて著作物を送信サービスする場合でしょう。

図書館等がデータベースに蓄積された著作物をネットワークを通じて利用者に提供する場合には公衆送信権(23条)の問題が生じます。現行法では、複製権についての権利制限はありますが、公衆送信権についての権利制限はありません。したがって、たとえ、著作物の一部分だけを送信する場合であっても公衆送信権が働いてきますから、図書館等においてはこの権利処理が必要となってきます。電子図書館は自動公衆送信により著作物を送信サービスすることが大きな特徴になるのでしょうから、送信可能化の段階からこの点についての権利処理をどうするかが大きな課題となると思われます。

また、ネットワークを通じた著作物の送信に当たっては、利用者の二次的な利用(複製やさらなる公衆送信など)についても著作権者は重大な関心を有するでしょうから、利用者の利用可能な範囲についても著作権者との交渉においては重要なポイントとなり、また、そこで取り決められた利用方法を超えた利用を防止するために一定の技術的な保護手段を講じることを著作権者側が要求することも考えられます。さらに、電子出版、オンライン出版などへの影響を考慮して、著作権者が許諾を与えない場合や極めて限定的な利用方法しか許諾されない事例も生じるかもしれません。

電子図書館構想は、自宅などから直接図書館サービスが受けられるなどこれまでの図書館サービスでは不可能だったサービスが提供できる点で大きな目でみれば、公共性の高いサービスです。特に、高齢者の方や障害のある方など図書館に出向くことができない事情のある方にとっては大きな利便を提供することになるでしょう。しかし、一方ではネットワーク上での提供は著作権侵害のおそれも増大させる可能性もあります。電子図書館の実現のために著作権法の改正によって権利を制限すべきであるという意見も一部にはありますが、最近は冷静な議論が主流になってきているようです。諸外国の動きを見ても、基本的には契約ベースでこの問題を解決していこうとする動きが主流であると思われます。

電子図書館の理念を活かしながら、また、著作権を尊重した関係者の話し合いによって適切なルールづくりが早急に求められている時期にきているのではないでしょうか。