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博物館、美術館などが所蔵している古美術の写真を本に載せるときに、所蔵者の許諾とロイヤリティの支払いが必要な場合があるようです。著作権がないのになぜでしょうか。
仏像その他の彫刻、絵画、絵巻物、掛け軸、屏風などは、美術の著作物に該当しますが、明治時代よりも前に制作されたものだと、著作者の死後50年以上経過しているでしょうから、著作物としての保護期間を既に満了して、著作権は消滅しています。したがって、著作権法上は、これらの古美術の複製などは誰でも自由にできることとなっているのですが、展覧会などに出品してもらうとき、写真集を制作するために写真撮影をするとき、又はテレビ番組制作のために撮影するときなどに所蔵している博物館、美術館、寺院、神社などの所有者から許諾と一定の使用料を要求される場合があります。

これは、所蔵者の有する所有権が行使された結果と考えるべきでしょう。所有権に基づいて、所蔵者は所有している古美術の利用について許諾し、又は禁止する権限を有していますから、許諾の対価として一定の使用料を要求することもあり得ます。そして、利用形態に応じて所蔵者と利用者との間の契約によって使用料の額などは決定されますから、写真集などの場合には発行部数に応じて使用料を算定するという方式も考えられうるでしょう。

ただし、この契約はあくまでも直接古美術を利用している者と所蔵者の間の取り決めですから、写真集を買った者やテレビ放送を見ていた第三者がさらに二次的な利用をする場合(写真集のコピーや放送番組の録画など)には違った状況となります。これらの場合には、もはや所蔵者の所有物そのものを利用しているわけではありませんから、直接所有権の問題にはならないのです。

中国唐代の有名な書家顔真卿の「顔真卿自書建中告身帖」を撮影した写真乾版が何人かの手を経て出版社に帰属し、出版社はこの写真乾版を使用して出版物を発行した場合に、「顔真卿自書建中告身帖」の原物を所蔵している財団法人が所有権侵害を理由に出版物の発行の差止及び出版物の廃棄を求めた事件(「顔真卿自書建中告身帖事件」)で、最高裁は、次のような見解を述べています(最高裁昭和59年1月20日判決)。
[1] 美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではない。

[2] 著作権の消滅後は、著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく、著作物は公有(パブリック・ドメイン)に帰し、何人も、著作者の人格的利益を害しない限り、自由にこれを利用しうる。

[3] 第三者の複製物の出版が有体物としての原作品に対する排他的支配をおかすことなく行われたものであるときには、公有に帰した著作物の面を利用するにすぎないのであって、原作品の所有権者に経済上の不利益が生じたとしても、それは第三者が著作物を自由に利用することができることによる事実上の結果である。

[4] 博物館や美術館において、著作権が現存しない著作物の原作品の観覧や写真撮影について料金を徴収し、あるいは写真撮影に許可を要するとしているのは、原作品の所有権に縁由するもので、一見、所有権者が無体物である著作物の複製等を許諾する権利を専有するようにみえるが、それは、所有者が無体物である著作物を体現している有体物としての原作品を所有していることから生じる反射的効果にすぎない。

[5] 原作品の所有権者はその所有権に基づいて著作物の複製等を許諾する権利をも慣行として有するとするならば、著作権法が著作物の保護期間を定めた意義は全く没却されてしまうことになるのであって、仮にそのような慣行があるとしても法的規範として是認することはできない。

この判決は、所有権と著作権との関係を言い尽くしていると言ってもよいでしょう。なお、[2]で、著作物の複製権等が所有権者に復帰することはないということを言っているのは、原告側が美術の著作物は保護期間中は所有権の権能の一部が離脱して著作権の権能と化し、保護期間の満了によりその権能が所有権に復帰するという主張をしたためです。また、判決が触れているように、死後においても著作者が生存していれば著作者人格権の侵害となるような行為は著作権法60条によって禁止されていますから、注意が必要です。

このように所有権と著作権とは、異なる機能を持った権利ですから混同しないことが必要ですが、著作権法では美術の著作物の原作品所有者には公の展示について著作権者の許諾を得なくても利用することができる場合を認める(45条)など、2つの権利間の調整を図っています。

ところで、古美術それ自体は既に著作権が消滅した場合でも、それを撮影した写真には写真の著作権が美術の著作権とは別に成立している場合がありますから(例えば、彫刻を撮影した写真。ただし、絵画の複製写真については著作物性がないと言われている。)、その場合には写真の著作権に留意することが必要です。