○著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ
    (技術的保護・管理関係)
    平成10年1月 文化庁



    目 次
    はじめに
    第1章 技術の急速な進展と著作物等の保護・活用の変化
    第1節 技術の急速な進展

    第2節 技術の進展が著作物等の利用に与える影響

    第3節 著作権等の実効性の確保の必要性

    第4節 著作権等の保護のための新技術

    第5節 技術の進展と著作権法における対応

    第6節 これまでの検討の経緯
    第2章 技術的保護手段の回避への対応
    第1節 技術的保護手段の回避への対応の趣旨
    第2節 検討の経緯
    第3節 技術的保護手段の実態
    第4節 回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段
    第5節 規制の対象とすべき行為
    第6節 規制の手段
    第3章 権利管理情報の改変等への対応
    第1節 権利管理情報の改変等への対応の趣旨

    第2節 検討の経緯

    第3節 権利管理情報の実態

    第4節 改変等を規制の対象とすべき権利管理情報

    第5節 規制の対象とすべき行為

    第6節 規制の手段

    著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ委員名簿

    著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ審議経過



    はじめに
    近年の急速な技術の進展は、我々の社会生活に大きな影響を与え、著作物等の利用と流通も目まぐるしい変化と発展の時期を迎えるに至った。このような状況に対応するため、著作権審議会は平成4年にマルチメディア小委員会を設置し、以後同小委は、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴う諸課題について検討を重ね、いわゆるマルチメディア社会にふさわしい権利処理と権利内容の在り方について提言を行ってきた。

    本ワーキング・グループは、これらの諸課題のうち、コピープロテクション等の技術的保護手段と権利管理情報という、技術を活用した著作権等の保護及び管理に係る法的保護の在り方について検討を行うため、平成9年5月にマルチメディア小委員会に設置された。以後、まず最初に、コピープロテクション等の技術的保護手段に係る法的保護の在り方について審議を行い、平成10年2月に「中間まとめ」を発表し、広く関係者から意見を仰いだ。「中間まとめ」公表後、本ワーキング・グループは、権利管理情報に係る法的保護の在り方について審議を行うと共に、技術的保護手段について「中間まとめ」に対する意見を踏まえた審議を行い、このたび、技術的保護手段及び権利管理情報に係る法的保護の在り方についてその審議結果をまとめたので、ここに公表することとした。

    なお本報告書における用語の意味は、特に注釈のない限り以下のとおりとする。
    「著作権等」とは、著作者人格権、著作権、著作隣接権を指す。
    「著作権者等」とは、著作者、著作権者、著作隣接権者を指す。
    「著作物等」とは、著作権等の対象となる著作物、実演、レコード、放送又は有線放送に係る音又は映像を指す。
    「利用」とは、複製、公衆送信等の著作権等の支分権に基づく行為を指す。
    「使用」とは、見る、聞く等の、利用以外の単なる著作物等の享受を指す。
    「WIPO新条約」とは、平成8年12月にWIPO(世界知的所有権機関)において採択されたWIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty[WCT])、WIPO実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty[WPPT])を指す。

    引用した条約や外国法に係る訳文はいずれも参考訳である。



    第1章 技術の急速な進展と著作物等の保護・活用の変化
    第1節 技術の急速な進展
    近年の急速な技術の進展は、社会全体に大きな影響を与えている。技術の進展は、高品質かつ低価格の機器の提供を可能にし、様々な面で社会生活を豊かにさせている。さらに近年では、特に「デジタル化」と「ネットワーク化」の進展により、様々な情報がデジタル化され、かつコンピュータ・ネットワークを通じてこれらの情報が行き交うような、高度情報社会が実現しつつある。

    1.デジタル化の進展
    デジタル化された情報の特徴としては、従来と比べて、データ処理を正確かつ高速に行えること、大量のデータを処理できること、データの加工等多様な処理が容易であること等があげられる。この結果、デジタル化された情報の高品質な複製や再生、コンピュータ・ネットワークを介した多様な活用等が可能となった。

    近時、デジタル化された情報は広範な分野において用いられるようになってきている。音楽の分野では、既にCDがレコードに置き換わり、MDやDAT、さらにはCD-R等デジタル技術を用いた録音機器が広く普及しつつある。映像・画像の分野でも、デジタルハンディビデオカメラやデジタルカメラが人気を集め、デジタルビデオカセットレコーダー(DVCR)等のデジタル形式の録画機器も登場しており、今後さらにDVDの発展も予想されている。放送の分野においても、既にデジタル放送が開始されており、将来的にはアナログ放送からデジタル放送に置き換わると言われている。また出版の分野でも、電子ブック、オンライン出版等デジタル技術を活用した新たな伝達形態が登場している。以上のようにデジタル技術は著作物等の利用に関する標準的な技術の一つとなるに至っている。

    2.ネットワーク化の進展
    コンピュータ・ネットワークは、通信技術の進展を受けて成長してきた。現在も、更なる通信技術の進展や、通信回線の増強・性能向上等によって、通信の大容量化と高速化が進んでおり、大量のデータ通信が可能になるとともに、もはや通信者間の距離が障害とならなくなっている。

    このようなコンピュータ・ネットワークの急速な普及は様々な効果をもたらすこととなった。ひとつは社会への情報発信手段としての機能である。すなわち、コンピュータ・ネットワークは、多くの人々にとって、公衆に向けて容易に情報を発信できる極めて有効な手段となっている。例えば電子メールを用いれば、瞬時に数百人に向けて同内容の情報を送信することができる。またホームページを開設すれば、世界中の人々がその情報を受信できるようになる。このため、既に多くの人々がコンピュータ・ネットワークを通じた情報発信を行っているところである。

    もう一つの重要な機能は、取引・流通手段としての機能である。コンピュータ・ネットワークの利用者の拡大は、商品やサービスの供給者がコンピュータ・ネットワークを用いてネットワーク利用者と商取引を行うこと(電子商取引)を可能とし、セキュリティの問題等、解決すべき課題が少なくないにも係わらず、既に電子商取引は活況を呈しつつある。現在行われている電子商取引には、契約や金銭の授受のみをコンピュータ・ネットワークを通じて行い、商品の授受やサービスの実施は既存の流通経路を通じて行うものが多いが、今後はデジタル化された商品の授受等を含む全ての取引過程をコンピュータ・ネットワークを通じて行う電子商取引の増加が予想されている。

    第2節 技術の進展が著作物等の利用に与える影響
    上記のような技術の急速な進展は、社会における著作物等の利用を巡る状況に大きな影響を与えている。

    まず、技術の進展は高性能かつ低価格の録音録画機器等の複製機器の登場をもたらした。すなわち、従来のアナログ形式の複製機器であっても、かなり品質の高い複製が可能となった。また、デジタル化の進展に伴い、より正確かつ高速にデータ処理を行えるデジタル複製機器が普及したことにより、オリジナル商品と同品質で劣化しない複製が簡単に行えるようになるとともに、パソコン等を用いて著作物等の加工等が一般の利用者も容易に行えるようになった。

    さらに、ネットワーク化の進展は、デジタル化の進展と相俟って更に著作物等の利用に大きな影響を与えている。まず、デジタル化された著作物等をコンピュータ・ネットワークを通じて誰もが簡単に公衆に向けて発信することが可能となった。また、ネットワーク化の進展は、著作物等の利用に際して用いられる取引・流通経路の拡大をもたらした。すなわち、世界中のあらゆる場所のサーバーに記録されたデータをコンピュータ・ネットワークを通じて検索しダウンロードすることも可能となり、同時にコンピュータ・ネットワークを通じて著作物等の利用に係る権利処理を自動的に行うことも急速に現実的なものになりつつある。

    以上のように、技術の進展は、著作物等の高品質の複製や送信等を可能にし、また権利処理等も容易にすることにより、著作物等の利用の機会を著しく増大させていると言える。

    第3節 著作権等の実効性の確保の必要性
    このような著作物等の利用の機会の増大は、一方では、著作物等を供給する側の人々の創作意欲を刺激し、著作物等の流通を活発化させ、ひいては文化の発展をもたらすという、好ましい影響を社会に与えることが予想される。

    しかし他方では、このような利用機会の増大により、無許諾の複製等が大量に行われ、さらにそれがコンピュータ・ネットワークを通じて広く出回ったり、不正な権利処理をコンピュータ・ネットワークを通じて行うことにより著作物等を入手する者が現れる等、著作権者等の利益を害する行為が行われる可能性ももたらされることとなった。このため、著作権者等がこのような事態をおそれ、著作物等をコンピュータ・ネットワークを通じて利用できるような形で市場に置くことを躊躇する等の状況を招来し、高性能な機器があっても魅力あるソフトが不足するという結果をもたらす可能性も出てきている。このような状況を放置すれば、著作物等の新たな利用方法の発展を阻害し、ひいては国民の文化享受の機会を損なうことも考えられる。このような問題が生ずるのは、著作物等の利用に対するこれまでの権利行使の方法が、技術の進展に必ずしも十分対応できてはいないことにその一因があると考えられる。

    1.著作物等の利用に対する従来の権利行使の方法
    著作物等の利用に対する従来の権利行使の方法は、著作権者等が、著作物等を利用する者からの利用許諾申請に対し許諾を与えるという形が一般的であり、無許諾で著作物等を違法に利用する者に対しては、著作権者等がそれを発見して、民事的又は刑事的な法的対抗措置をとるというものであった。著作物等は無体物であるため、違法な複製等の利用がなされてもそれを把握しにくいという特徴があり、違法利用を発見するということはかなりの困難を伴う。また違法利用を事前に防止する方法としては、著作権者等の連絡先を明記して利用者の便宜を図ったり、違法複製は罰せられる等の表示をするような方法しかなく、著作権者等の執りうる手段は限られていた。

    しかしこのような問題点があっても従来の権利行使の方法が有効であった背景には、著作権者等の許諾を得て大量に著作物等を利用する者が、例えば出版社や放送局のように利用許諾について十分な知識と経験を有している場合が多かったという事情や、違法複製物の頒布や、無許諾の放送等の行為を行うことは一般人にとっては容易ではなく、またそのような行為を行えば露見する場合が多かったという事情があったと考えられる。

    しかし、複製技術の発達に伴い生じた複写複製問題や私的録音録画問題は、必ずしも著作権等についての知識を十分には有しない一般人による著作物等の大量複製を可能にした点で従来の権利行使の方法の限界を示し、集中的権利処理機構や機器・記録媒体を介した補償金制度の導入等、新たな対応を迫ることとなった。

    2.デジタル化・ネットワーク化の影響
    さらにデジタル化・ネットワーク化の進展により、著作権等をめぐる環境は大きく変わりつつあり、それに伴い権利行使の方法についても解決すべき課題が生じてきている。

    利用許諾の場面においては、一般人であっても大量・高速の複製や公衆送信等の著作物等の利用を行うことが可能となったことにより、そのような著作物等の利用について著作権者等の許諾を得なければならない場合も増えているにもかかわらず、利用許諾の方法等について十分承知していなかったり、そもそも著作権制度自体についての理解が不十分なため、結果的に著作権者等の許諾なく著作物等を利用する事態が生じている。また、著作物等のコンピュータ・ネットワークを通じた送信が簡単にできるようになったことに乗じて、著作権等を侵害することを承知で違法な公衆送信等が行われることも多くなってきている。

    違法利用の発見・立証という場面においても、誰もが簡単に違法利用できるようになったことにより、違法利用の機会が急速に増加していること、コンピュータ・ネットワークへの違法なアップロード等は公衆の目に直ちに触れるわけではなく、かつ瞬時に消去することが可能であるため、違法利用を発見することが難しいこと、著作物等の加工が容易なため違法利用であることの立証が難しいこと等の事態が生じている。

    このようにデジタル化・ネットワーク化の進展は、一方では著作物等の利用機会の増大をもたらしながら、他方では、違法利用を増加させるとともに、その違法利用の発見・立証を困難にさせるという深刻な影響を著作権等に対して及ぼしつつあり、このため、このような事態に対応し、著作権等の実効性を確保するような方策が求められている。

    第4節 著作権等の保護のための新技術

    1.技術的保護手段と権利管理情報
    上記のように、技術の進展は、著作権等の実効性の確保という面で大きな影響を与えつつあるが、一方、新たな事態に十分対応できていない従来の権利行使の方法を補うような新技術をも発達させることとなった。その代表的な技術が、今回、本ワーキング・グループで検討を行ってきたコピープロテクション等の技術的保護手段と権利管理情報である。

    技術的保護手段は、著作物等の複製物等に複製等の利用をコントロールする特定の信号を組み込むことにより、利用者が無断で複製等の利用を行おうとしても技術的にそれを不可能にするというような手段である。また、権利管理情報は、著作物等に著作権等に係る情報を電子的な方法等で組み込むことにより、コンピュータ・ネットワークを通じた権利処理等を行うことを可能にしたり、複製されても除去されないという特性を生かして違法利用の発見・立証を容易にするというようなものである。

    両技術はともに、著作権者等に著作物等の個々の利用に対するより積極的な関与を可能にする点で共通している。これらの技術を用いることで、著作権者等は、違法利用を効果的に防ぐことができるようになり、また権利処理をよりスムーズに進めたり、違法利用の発見・立証をより容易・確実に進めたりすることができるようになる。つまりこれらの技術は、著作権等の実効性を確保するために有効な技術であると言うことができる。

    2.技術的保護手段や権利管理情報を無効化する手段の出現
    著作権等の実効性を回復する技術の出現は、同時に、これらの技術を無効化し、著作権等の実効性の回復を妨げる手段の出現をも促すことになった。具体的に言えば、技術的保護手段については、これを回避し、違法利用を可能にする手段が現れ、そのための装置等が既に市場に出回っており、また、権利管理情報についても、その改変等を行う手段が既に現れている。もちろん、これらの回避・改変等の手段の出現に対処するため、技術的保護手段や権利管理情報に係る技術の更なる向上が図られているが、そのように改良された技術を更に破るような手段がまた生まれるという状況にある。

    第5節 技術の進展と著作権法における対応

    1.技術の進展に対応した法制度の必要性
    技術の進展、特にデジタル化・ネットワーク化の進展は、上記のような著作権等に対する影響だけでなく、様々な局面において影響を及ぼしている。例えば、現在デジタル化・ネットワーク化を活用した電子商取引が盛んに行われつつあり、また会社等の蓄積データを含めた様々な情報がデジタル情報としてデータベース化され、社内や公開されたコンピュータ・ネットワークを通じて活用されている。一方、このような活用に関連して、例えば電子商取引の場合には、他人になりすまして商品を発注したり、商品を発注したが届かないというような問題から、そもそも電子マネーというものの位置づけをどうするかという問題等様々な検討すべき課題があり、また会社のホストコンピュータに忍び込んでデータを盗み見るというような行為にどう対処するかという問題も生じてきている。このような問題については、技術的な対応や自主的ルール等による対応を検討するとともに、必要に応じてそれぞれの問題に応じた法的な対応を法秩序全体を視野に入れて検討する必要があると考えられ、これらが相俟って電子商取引の発展等デジタル化・ネットワーク化のもとにおける社会の発展を促進するといえる。

    2.技術的保護手段や権利管理情報の無効化に対する著作権法での対応の必要性
    既に述べたように、著作権等の実効性を確保するために技術的保護手段や権利管理情報の実用化が進められている一方で、これらを無効化するような手段が出現している。このような事態に対しては、技術的な対応や自主的ルール等による対応が図られるとともに、著作権等という法律上認められている権利を保護するためにも法的な対応が図られることが必要であると考えられる。

    法的な対応という場合、いかなる法で対応すべきかという問題があるが、技術的保護手段や権利管理情報の無効化の問題は、まさに著作権等の実効性を確保するための手段として設けられた措置に対する法的保護の問題であり、その目的は著作権者等の権利の保護を目的とするものであるところから、著作権法により対応することが適切であると考える。

    第6節 これまでの検討の経緯
    著作権等の実効性を確保する新たな技術について、法的な保護を行うことについては、国内・国外を問わずかねてから検討がなされてきた。諸外国のうちには、すでに立法を行った国もある。技術的保護手段と権利管理情報の各々についての検討の経緯は、それぞれ第2章・第3章で詳述することとし、ここでは全体的な検討の経緯を略述する。

    1.国内における検討の経緯
    技術的保護手段に関する検討は、既に平成5年7月に設けられた「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議」において、プログラムの著作物に係るコピープロテクション回避装置の製造、販売等に関する規制の検討がなされている。続いて平成6年3月には、著作権審議会マルチメディア小委員会にワーキング・グループが設置され、著作物等の複製と受信の技術的保護手段の回避装置等に対する規制や、著作権管理情報に関する措置の問題について、専門的見地から検討を加え、平成7年2月に公表した検討経過報告において、論点の所在を明らかにするとともに考えられる対応例を提示した。

    その後マルチメディア小委員会では、WIPO(世界知的所有権機関)における新条約策定の動きが急になったことから、国際的な趨勢を見極めるために審議を中断したが、平成8年10月に至り、国際的動向がほぼ定まったことを受けて審議を再開した。審議は同年12月に採択されたWIPO新条約の内容も踏まえつつ進められ、平成9年2月に公表された審議経過報告では、コピープロテクション回避装置への対処を、早急に検討すべき課題として位置づけ、これを受けマルチメディア小委員会では、平成9年5月に本ワーキング・グループを設置した。本ワーキング・グループは、検討課題であるコピープロテクション等技術的保護手段の回避と権利管理情報の改変等のうち、まず前者について検討を進め、その内容を平成10年2月に「中間まとめ」として発表し、広く関係者から意見を仰いだ後、権利管理情報についての検討を進めた。

    2.諸外国・国際機関等における検討の経緯
    欧米諸国では、1980年代から技術的保護手段の回避に係る規制が検討されてきた。1988年(昭和63年)には、英国が複製防止手段を回避する機器に対する規制を導入し、米国も1992年(平成4年)に、デジタル録音機器等にSCMS(Serial Copy Management System)方式への対応を義務づけると共に、これを回避する装置の製造等を禁止した。またECは1991年(平成3年)の理事会指令で、プログラムの保護のための技術的装置を回避する手段に対して規制を行うよう勧告し、これを受けて、例えばドイツは1993年(平成5年)に規制を導入した。

    1995年(平成7年)には、米国がホワイトペーパー「知的所有権及び全米情報基盤(Intellectual Property and the National Information Infrastructure)」(NII報告書)を、欧州委員会(European Commission)がグリーンペーパー「情報社会における著作権及び関連する権利(Copyright and Related Rights in the Information Society)」を発表し、高度情報社会における著作権等の在り方に関する総合的な検討の成果を示したが、両報告書はともに、技術的保護手段や権利管理情報が今後重要な役割を果たすことを指摘した。

    WIPOにおいても同様の検討は早くから進められ、1996年(平成8年)12月に採択されたWIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty[WCT])とWIPO実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty[WPPT])の両条約に、技術的保護手段に関する義務と権利管理情報に関する義務が規定された。

    現在各国は、WIPO新条約の採択を受けて、法整備を進めている。米国では、本年10月にWIPO新条約批准のために必要な措置も含めた「デジタル時代の著作権法(Digital Millennium Copyright Act)」が成立した。同法は、技術的保護手段について回避装置等の規制も行うとともに、権利管理情報の改変等の行為に対する規制も盛り込んでいる。また欧州では、1997年(平成9年)12月に発表された、技術的保護手段と権利管理情報に関する規定を含む「情報社会における著作権及び関連する権利の特定側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及び理事会ディレクティブ(European Parliament and Council Directive on the harmonization of certain aspects of copyright and related rights in the Information Society)」の草案を巡って、検討が続けられている。



    第2章 技術的保護手段の回避への対応
    第1節 技術的保護手段の回避への対応の趣旨

    1.技術的保護手段の有用性
    既に述べたように、近年の技術の進展、特にデジタル化・ネットワーク化の進展により、誰もが簡単に著作物等の高品質な複製等を行うことが可能となり、またコンピュータ・ネットワークを通じて発信することも可能になった。一方、著作権者等の利益を著しく害する複製等の利用も増大し、かつ把握が困難になりつつあり、従来の権利行使の方法では、著作権者等の権利の実効性を確保することが難しくなってきている。

    このため、コピープロテクションと呼ばれるような技術的保護手段が開発され、これを活用することにより、著作権者等の利益を著しく害する複製等の利用を防止し、著作権者等の権利の実効性を確保することが可能になりつつある。これらの技術は、著作権者等の権利利益を保護するものであるが、例えば音楽CDに用いられているSCMSや映像に用いられているCGMSと呼ばれる技術は、実際の開発では著作権者等と複製機器等のメーカーとの話し合いを経て開発されたものである。

    このような技術的保護手段は、単に著作権者等の権利の実効性を確保するだけでなく、著作権者等が安心して適正な価格で著作物等を市場におくことができるようになるため、著作物等を享受する側にとっても、よりよいソフトの供給が促進され、ひいては質の高い文化を享受できるという効果をもたらすといえる。また、コンピュータ・ネットワークを通じて著作物等の提供等を行う事業も、ソフトが供給されることにより一層の発展を遂げることが期待される。さらに、権利処理との組み合わせによって適切な権利行使を担保する役割も期待されている。

    以上のように技術的保護手段は、著作権者等の利益を著しく害する複製等の利用を未然に防ぐ効果的な手段であるという点で、著作権等の実効性を確保する非常に有用な手段であるとともに、著作物等を活用した事業を行う者や、著作物等を享受する者にとっても好ましい結果をもたらすものであるといえる。デジタル化・ネットワーク化の進展によって、技術的保護手段の有用性は今後ますます高まることが予想され、著作物等の利用の拡大に応え、著作権者等が著作物等を流通させる際に、技術的保護手段を活用する場合は今後ますます増加すると考えられる。

    2.技術的保護手段の回避に係る規制の必要性
    しかしながら、技術は技術によって破られるといわれるように、技術的保護手段の効果を無効ならしめる手段(回避手段)も登場している。
    このような回避手段は、技術的保護手段を用いることにより著作権者等の利益を著しく害する複製等の利用が不可能になったとの前提を崩すものであり、その結果、著作権等の実効性の確保が再び難しくなるとともに、著作権者等に再び著作物等を供給させることを躊躇させるという事態を招くことになる。これにより、著作権者等自身だけでなく、著作物等を活用した事業を行う者や、著作物等を享受する者にとっても不都合を生じさせることになる。このため、このような事態を生じさせず、著作権者等の権利の実効性を確保し、またこれにより著作物等の適正な流通・活用が図られるようにするため、技術的保護手段の回避に係る規制を行うことが必要であると考える。但し、この規制によって、著作物等の利用者、電気機器メーカー、汎用機器メーカー等が不当な訴訟のリスクに晒されたりすることがないよう適切な配慮をすることが必要である。

    第2節 検討の経緯
    技術的保護手段の保護に関しては、我が国では平成5年から検討が続けられており、何らかの対応の必要があることについては、意見が一致している。また諸外国でも早くから検討が行われており、既に英国・米国・ドイツでは関連立法がなされている。

    1.国内における検討の経緯
    (1) 「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議」 における検討(平成5年7月~平成6年5月)
    同会議は、プログラムの著作物に係るコピープロテクション回避装置に対する規制について詳細な検討を行い、平成6年5月に報告書を公表した。

    同報告では、「コピープロテクションの解除装置又は解除のための情報を用いて個々の利用者による広範な複製が行われることにより、著作権者の利益が害されているとの問題が指摘されている」とした上で、「この問題について何らかの制度上の対応が必要であるとの意見が有力であったが、具体的な対応については、プログラムのみでなく、ビデオのコピー・ガードやデジタル録音のコピー制限の問題等を含めて検討する必要があるため、著作権審議会において関係者からの意見を聴取しつつ別途早急にこの問題を検討することが適当であると考える」とした。

    (2) マルチメディア小委員会ワーキング・グループにおける検討
    (平成6年3月~平成7年2月)
    同ワーキング・グループが平成7年2月に発表した検討経過報告においては、複製と受信の技術的保護手段の回避装置等に対する規制についての検討内容が示されている。
    同報告では、複製に係る技術的保護手段の回避装置等を製造又は頒布する行為については、何らかの対応を行うことが適当であるということには異論はなく、著作権侵害とみなして民事救済及び刑事罰の対象とする案と、刑事罰のみの対象とする案が「考えられる対応例」として示された。また「考察」において、私的使用のための複製の権利制限規定との整合性を図るためには、少なくとも回避装置等を用いて行う複製には同規定を適用しないこととする(但し刑事罰は適用しない)等の対応を併せて講じる必要があると考えられるとされた。また、著作物等の通常の利用のために必要な正当な複製との関係についての意見や、保護期間の経過した著作物等や、著作物等でない情報まで事実上保護されるのではないか等の意見も出された。

    受信の技術的保護手段の回避装置等についても、複製の場合と同様に、規制を及ぼすことが適当であるという点で意見が一致し、やはり著作権侵害とみなして民事救済及び刑事罰の対象とする案と、刑事罰のみの対象とする案が「考えられる対応例」として示され、「考察」においては、現行著作権法上、著作者は単なる受信行為については権利を有しないこととの整合性についての意見等が出された。

    (3) マルチメディア小委員会における検討
    (平成8年10月~平成9年2月)
    マルチメディア小委員会は、平成9年2月に発表した審議経過報告において、コピープロテクション回避装置への対処について早急に検討を進めるべきことを報告した。

    同報告は、権利者の利益を著しく害する複製等が行われる状況を誘引する放置しがたい行為があることについては意見は一致しており、今後コピープロテクションが、インターネット等により著作物等が送信される場合も含め、権利保護・管理のための手段として広範に用いられることが予想されることから、コピープロテクションについて著作権制度上適切な位置づけを検討することは重要な課題であるとした。その一方で、コピープロテクションは様々な技術を用い様々な方式で施されることが予想されるものであり、対象となるコピープロテクションやその回避装置の範囲について慎重に検討する必要があることや、回避装置を使用して行う複製を、私的使用のための複製等の権利制限規定で認められる複製の範囲外と考えるか否か、装置の製造、販売等を行う業者の責任をどのように考えるかについて、実態を踏まえ、さらに議論を尽くす必要があるとし、結論としては、コピープロテクション回避装置への対処については、デジタル化の進展の中で著作権等の保護、さらには権利管理への技術の活用の重要性が増大することを考慮すると共に、国際的な検討の動向や技術の動向に配慮しつつ、早急に結論を得るよう、引き続き広い視点に立った検討を行う必要があるとしている。

    (4) 本ワーキング・グループにおける検討
    (平成9年5月~平成10年2月)
    本ワーキング・グループは、平成9年5月の設置以来、技術的保護手段の回避への対処について集中的に審議を進め、技術的保護手段の回避に係る規制を行うことにより、著作権者等の権利の実効性を確保し、著作物等の秩序ある流通過程を維持することが必要であるとの基本的考え方のもと、規制の在り方についての全般的な検討を進めた。また、技術的保護手段の回避への対処の問題は、著作権者等の権利者、利用者、電気機器メーカー等、多くの関係者に関わる問題であり、技術を活用した著作物等の管理という新たな視点の問題でもあることから、平成10年2月に「中間まとめ」を発表し、広く関係者から意見を聞くことにした。

    「中間まとめ」に対しては、計41団体から貴重な意見が寄せられた。それらの意見も踏まえて検討を行った結果が本報告書の内容となっている。

    2.諸外国・国際機関等における検討の経緯
    (1) WIPO
    WIPOにおける協議では、1993年(平成5年)のベルヌ条約議定書専門家委員会において、事務局より、著作物の複製物の作成を防止する装置を無効化させるために設計された装置等の販売、貸与、輸入等に対し、国内法の規定によって、刑事制裁を科し、著作権者に損害賠償請求権を与えることが提案され、その内容はベルヌ条約議定書についての事務局提案や、実演家及びレコード製作者の権利の保護に関する新文書についての事務局提案にも引き継がれた。

    これらを受け、1996年(平成8年)12月に採択されたWIPO新条約では、技術的保護手段の保護義務に関する規定が盛り込まれた(WCT第11条・WPPT第18条)。以下にWCTの規定の内容を紹介する(WPPTも同旨)。

    規定は技術的保護手段を"effective technological measures that are used by authors in connection with the exercise of their rights under this Treaty or the Berne Convention and that restrict acts, in respect of their works, which are not authorized by the authors concerned or permitted by law(著作者により許諾されておらず法によっても許容されていない行為をその著作物について制限する、効果的な技術的手段であって、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関して著作者が利用するもの)"と定義し、この技術的保護手段の"circumvention(回避)"に対して、締約国は"provide adequate legal protection and effective legal remedies(適切な法的保護及び効果的な法的救済を定め)"なければならないと定めている。

    (2) 米国
    米国は1992年(平成4年)に著作権法の修正によって、デジタル録音機器等にSCMS(Serial Copy Management System)方式等の複製制御装置の装着を義務づけると同時に、これらの方式の回避等を行うこと、回避等を主たる目的又は効果とする装置を輸入、製造、頒布すること、録音物のデジタル音楽記録物に著作権状況又は世代状況に関する不正確な情報をコード化すること等を禁止した(第1002条)。なおSCMS方式の内容等については後述する。

    続いて1995年(平成7年)に発表されたNII報告書は、全米情報基盤計画の成功のために重要な技術の一つとして、技術的保護手段について検討を加えている。

    同報告書は、全米情報基盤の成功には、情報等の消費者への流通を確保することが必要であるが、著作物の第三者への送信を実効的に制限する措置等について、著作権者がある程度のコントロールをなしうる状況が確保されなければ、著作権者は全米情報基盤において著作物を利用させることをしないであろうと述べている。そして今日のアクセスや利用に係るコントロール技術は、これらの問題に対する有力な解決手段となり得るが、法が何らかの保護を与えないかぎり、このような技術的保護は効果的たりえないと述べ、著作権者の有する排他的権利の侵害を予防又は制限する手順等の回避を主たる目的又は効果とする機器等を輸入、製造、頒布すること等を禁止するよう勧告した。

    その後、WIPO新条約の採択を受けて、1997年(平成9年)にはWIPO新条約批准のための法案がいくつか議会に提出され、審議がなされた結果、本年10月に技術的保護手段やアクセスコントロールの回避に係る装置やサービス等の製造、輸入、公衆への提供等の規制を含む「デジタル時代の著作権法」が成立した。

    (3) EU及びその加盟国
    EUにおいては、1991年(平成3年)の「コンピュータ・プログラムの法的保護に関する1991年5月14日の理事会指令(COUNCIL DIRECTIVE of 14 May 1991 on the legal protection of computer programs)」が、「コンピュータ・プログラムの保護のために適用されている技術的装置の無許諾での除去又は回避を促進することのみを目的としている手段」を、「流通させ又は商業用目的で所持する行為」に対し、加盟国は適切な救済措置を定めなければならないことを規定している(第7条)。これを受けて加盟各国で法整備が進められ、例えばドイツは1993年(平成5年)の著作権法改正によって、「もっぱらプログラムの保護のための技術的仕組みを不法に排除し、又は迂回することを容易にすることに供される手段」について、権利者が廃棄等を求めることができることとした(第69条f)。

    続いて1995年(平成7年)には、欧州委員会グリーンペーパー「情報社会における著作権及び関連する権利」が発表され、情報社会において権利保有者が不利な立場に置かれないようにするためには、技術的保護システムを国際的なレベルで導入することが必要であるとされた。ここで技術的保護システムとは、SCMS等も含む、デジタル化された著作物その他保護対象物に付される識別情報を用いた、ネットワークを活用する著作物その他保護対象物の管理システムを意味している。

    同ペーパーを受けて、1997年(平成9年)12月には「情報社会における著作権及び関連する権利の特定側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及び理事会ディレクティブ」草案が発表された。同草案は、技術的保護手段の回避行為や装置の規制を含むものであり、現在、検討が続けられている。

    なお、英国は、既に1988年(昭和63年)の著作権法改正によって、複製防止手段を回避する機器等を規制する規定を設けている(第296条)。同規定は、「複製防止の形式を回避することを特に予定され、又はそのように適応されたいずれかの装置又は手段」を作成、輸入、販売、貸与等すること、「複製防止の形式を回避することを可能とし、又は援助することを意図される情報」を公表すること等を禁止している。

    第3節 技術的保護手段の実態

    1.技術的保護手段の現状
    技術的保護手段の回避についてはこれまで様々な検討がなされてきたが、技術の急速な進展に伴い、技術的保護手段の内容、種類も変化しており、現在では、音楽、映像、プログラム等の分野で、著作物等が著作権者等に無断で利用や使用をされないように、それらの行為を制限するための様々な技術的保護手段が施されており、著作物等の種類別に見ると、概ね次のようなものが存在する。

    (1) レコード
    (a) SCMS(Serial Copy Management System)
    記録媒体等の特定の箇所に特定のデジタル信号を組み込み、この信号をデジタル録音機器が識別、反応することにより、1世代のみのデジタル複製を可能とし、2世代目以降の複製を不可能とするシステム(オリジナルの音楽CDに組み込まれた信号は「コピー1世代可」という内容であるが、1世代目の複製によってできたデジタル録音媒体に組み込まれている信号は「コピー不可」という内容に変更される)。CD、MD、DAT、CD-R等のデジタル記録媒体が対応している。

    (2) 映画
    (a) 擬似シンクパルス方式
    アナログ信号の特定部分に一定の信号を組み込み、録画機器にその信号を識別、反応させることで、鑑賞に堪えないような状態で記録させたり(アナログ録画機器の場合)、全く記録させないようにしたり(デジタル録画機器の場合)するシステム。多くのアナログ・ビデオテープに用いられているほか、DVDソフトやデジタル放送のPPV(Pay Per View)番組等のデジタル・データをアナログ出力する際にも用いられている。

    (b) CGMS(Copy Generation Management System)
    記録媒体等の特定の箇所に特定のデジタル信号(コピー不可、コピー1世代可、コピー自由の3通り)を組み込み、この信号をデジタル録画機器が識別、反応することにより、そのデジタル信号が指示するように複製をコントロールするシステム。多くのDVDソフトに用いられているほか、デジタル放送にも採用が検討されている。

    (c) CSS(Content Scramble System)
    著作物等のデジタル信号を暗号化することにより、再生機器に組み込まれた機器による復号の操作を行わない限り、著作物等として鑑賞することができないようにするシステム。
    DVDソフトでは、CGMSとCSSが組み込まれており、たとえCGMSの信号が無効化されても、CSSの復号が行われない限り鑑賞できないという技術を導入しており、これにより違法コピーされても復号する鍵がない場合は再生することができないので、違法複製物の使用防止の効果もあると考えられる。

    (3) コンピュータ・プログラム
    (a) オリジナル信号照合
    記録媒体の特殊箇所(通常の複製では複製されない箇所)に記録された、オリジナルかどうかを識別する信号を、使用時に機器がチェックして、オリジナル信号を持たないソフト(海賊版コピー等)の使用を不可能にするシステム。主にゲーム専用機用のゲームソフトで用いられている。

    (b) フォーマット形態の変更等
    記録媒体に細工を行い、通常の複製では使用可能な複製物が作れないようにするシステム。主にゲームソフトで用いられている。

    (c) シリアルナンバー等入力
    正規品に付属するマニュアル等に記されたシリアルナンバー等を入力しないと、プログラムのインストール(複製)が行えないようにするシステム。ビジネスソフト等で用いられている。

    (4) その他一般
    (a) 暗号化システム
    著作物等を暗号化し、特定の鍵を用いてのみ復号を可能ならしめ、当該鍵の受け渡しを管理することにより著作物等の使用を管理するシステム。共通鍵方式と公開鍵方式がある。この技術は、一般的な使用を技術的に制限するとともに、暗号化された著作物等が違法複製されても、復号できなければ著作物等を享受できないという点からは、違法複製物の使用防止技術の一つともいえると考えられる。


    2.技術的保護手段の回避の形態
    以上のように、技術的保護手段には様々な種類のものがあるが、その一方で、その技術的保護手段を回避するための手段として、次のようなものが存在する。

    (1) レコード
    (a) SCMS
    信号を改変等することにより、複製作業が可能な状態にする。再生機器と録音機器の間に接続して信号を改変等する専用の回避装置が市販されている。

    (2) 映画
    (a) 擬似シンクパルス方式
    信号を除去することにより、正常な録画を行えるようにする。再生機器と録画機器の間に接続して信号を除去する専用の回避装置が幾種類も市販されている。

    (b) CGMS
    信号を改変等することにより、複製作業が可能な状態にする。まだ新しい方式であることもあり、現時点で回避装置は市販されていないが、技術的には可能であり、今後その出現が予想される。

    (c) CSS
    暗号を解読し、復号することにより、使用可能にする。

    (3) コンピュータ・プログラム
    (a) オリジナル信号照合
    海賊版等オリジナル信号のない複製物を、特定の装置を使い、オリジナル信号を有するものと誤認させて作動させる。各種ゲーム専用機に応じ、様々な回避装置が市販されている。

    (b) フォーマット形態の変更等
    特定のフォーマット等を検出するプログラムを削除又は迂回して複製物の使用を可能にする。

    (c) シリアルナンバー等入力
    シリアルナンバー等を不正に入手することにより、複製作業が可能な状態にする。市販製品のシリアルナンバー等は、インターネット等を通じて入手することが可能な場合がある。

    (4) その他一般
    (a) 暗号化システム
    暗号を解読し、復号することにより、使用可能にする。なお、暗号化システムは著しく向上しつつあり、その解読には莫大な経費や機器が必要であるといわれているが、民生分野で用いられる暗号化システムは、コストや設計等の観点から限界があるともいわれている。


    3.技術的保護手段の類型
    現在用いられている技術的保護手段は、上述したように、複製の制限に係るものがほとんどであり、これらの技術的保護手段の効果を複製作業との関係で分類すると、次のように大別できると考えられる。
    (a) 複製不能型
    複製作業自体を不可能にする。
    先に挙げた例では、SCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式の一部、シリアルナンバー等入力が該当する。
    (b) 複製作業妨害型
    複製作業は一応可能だが、画像を乱す信号を挿入すること等により複製物の完成を妨害する。
    先に挙げた例では、擬似シンクパルス方式の一部が該当する。
    (c) 使用不能型
    複製作業は可能であり、著作物等の複製物もできるが、そのままでは使用できないようにする。使用ができないので、複製の意味もなくなる。
    先に挙げた例では、オリジナル信号照合、CSS、暗号化システム、フォーマット形態の変更等が該当する。


    第4節 回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段

    1.著作物等の利用との関係
    技術的保護手段の回避に係る規制を行う趣旨は、既に述べたように、著作権者等の権利の実効性を確保し、またこれにより著作物等の適正な流通・活用が図られるようにするためであると考えられるので、回避に係る規制の対象となる技術的保護手段は第一義的には著作権として定められている著作者の複製権、著作隣接権として定められている実演家の録音・録画権、レコード製作者の複製権等のように、支分権に関連するものとすることが適当であると考えられる。

    一方、既に技術的保護手段の実態の部分で述べたように、著作物等の使用や受信といった著作権等の支分権の対象外の行為を技術的に制限する手段もあるため、これらの取扱いをどう考えるかという問題がある。いわゆるアクセスコントロールの問題である。このことについては、使用や受信というような、従来著作物等の享受として捉え、著作権等の対象とされてこなかった行為について新たに著作権者等の権利を及ぼすべきか否かという問題に帰着し、単に技術的保護手段の回避のみに関わる問題ではなく、現行制度全体に影響を及ぼすことがらであること、流通に伴う対価の回収という面からは著作権者等のみでなく、流通関係者等にも関係する問題であり、更に幅広い観点から検討する必要があると考えられること、今後の著作物等の流通・活用形態の変化の動向を見極める必要もあること等の理由から、本ワーキング・グループとしては、現時点においては、現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とすることが適当であると考えられる。

    但し、使用を技術的に制限する手段の回避については、特に今後はコンピュータ・ネットワークを通じた著作物等の流通におけるアクセスコントロールを保護することが不可欠になることからすれば、規制の対象とすべきであるという意見があり、米国の立法でもアクセスコントロールに係る規制が盛り込まれていることから、これらの国際的な動向にも留意する必要がある。

    また、現行著作権法は、プログラムの著作物について、入手時に違法複製物であることを知っていた場合には、その業務上の使用を著作権侵害とみなすとしていることから、現行法に照らせば、このような使用に係る回避を規制の対象とすることも考えられる。しかしながら、現在問題となっているのは、プログラムの違法複製物を業務上ではなく個人的に使用するための技術的保護手段が回避されることであり、違法複製物の個人的な使用に関してまで規制を及ぼすことについては、複製権侵害に対する救済手段との関連やプログラム以外の著作物等における違法複製物の使用との関連等について解決すべき問題があると考える。一方、このような技術は、複製を効果的に防止する手段であって、暗号化技術等のアクセスコントロール以上に、その回避を規制する必要があるとの意見があった。

    2.著作物等の種類等との関係
    技術的保護手段が施されている著作物等の種類には、音楽の著作物、映画の著作物、プログラムの著作物、実演、レコード等、多岐にわたっており、またアナログ方式とデジタル方式の双方にも施されており、更にCD-ROMのようなパッケージ、コンピュータ・ネットワーク、デジタル放送等様々な伝達方法に用いられているところであるが、技術的保護手段の趣旨から考えると、このような著作物等の種類等の違いによって規制の対象とするか否かを区別する必要はないと考えられる。但し、これらの違いにより用いられる技術的保護手段も異なる場合があるので、このような技術的多様性を考慮した上で回避に係る規制を検討する必要がある。

    3.技術的保護手段を施す主体
    技術的保護手段を施す主体としては、著作権者等自身のほか、著作権者等から技術的保護手段を施す承諾を与えられた者、著作権者等から複製等の利用の許諾のみを得た者、これらとは関係ない第三者が考えられる。この場合、技術的保護手段が著作権者等の権利の実効性を確保するために施され、これにより著作物等の適正な流通・活用の確保が維持されるということを考えると、回避に係る規制の対象となる技術的保護手段は、著作権者等自身及び著作権者等から技術的保護手段を施す承諾を与えられた者によって施されたものとすることが適当と考えられる。一方、このような考え方に対し、著作権者等から利用の許諾を得たライセンシーが自己の判断で技術的保護手段を施す場合も、ライセンシーを保護するために対象とすべきとの意見もあった。

    4.回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段の内容
    以上のような考え方を踏まえると、回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段とは、現行の著作権法に規定された著作権者等の権利を侵害する行為を防止するために、著作権者等やそれらの者から技術的保護手段を施す承諾を与えられた者が施した効果的な技術的保護手段ということになると考えられる。このような技術的保護手段は複製だけに限らず著作物等の利用全体に係るものであるが、上述した複製に係る技術的保護手段の類型でいえば、複製不能型及び複製作業妨害型の技術的保護手段が該当すると考えられる。なおこのうち、シリアルナンバー等入力の方式については、その本来の趣旨がソフトの所有者のみに複製を可能とするものであり、ソフトを使用可能にすることが主目的であること、シリアルナンバーさえわかれば簡単に回避できるため必ずしも効果的とはいえないこと等を考慮すると、あえて規制の対象とする必要性は乏しいと考えられる。

    従って、現段階で対象となる具体的な技術的保護手段としては、上述した技術的保護手段の実態に照らせば、著作物等の利用のうち複製を制限する、SCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式が該当することになると考えられる。

    このような対象となる技術的保護手段を規定する場合には、今後の技術の進展を阻害しないためや、更に新しい技術の登場が予想されるため、技術を特定することは必ずしも適切ではないと考えられるが、一方で対象となる技術が明確でないことは混乱を招くおそれがあるので、できるだけ対象を明確にすることが必要であると考えられる。

    上記のSCMS、CGMS、擬似シンクパルス方式は、著作物等の複製物等に複製制御の信号を組み込み、この信号を当該複製物等を利用する機器(録音録画機器)において識別、反応する方式をとっている。また今後、著作物等の利用を制限するために用いられる方式でもデジタルの特性を生かしたこのような方式を基本的には用いることが予想されることから、このような方式を念頭に置いた規定を設けることが適当と考えられ、技術的保護手段の規定のイメージの一例としては、電子的方法、磁気的方法等により、著作物等の複製物に記録され、又は著作物等とともに送信される、著作物等の利用の制限に係る特定の信号を、著作物等を利用する機器において識別、反応する方法を用いることにより、著作物等の利用を制限する手段というようなものが考えられる。


    第5節 規制の対象とすべき行為

    1.基本的な考え方
    規制の対象とすべき行為は、技術的保護手段が機能すればできなかったはずの著作物等の利用を可能にすることにより、著作権等の実効性を損なう行為であると考えられる。
    このような行為は、実際に技術的保護手段を回避して著作物等を利用する行為(以下、単に「回避を伴う利用」という。)と、回避を伴う利用を大量に可能にする回避装置等の製造等の行為の二つがあると考えられる。

    2.回避行為に対する対応
    技術的保護手段を回避して無効化し、不可能であるはずの著作権者等の利益を著しく害する複製等の利用を可能にする行為は、権利侵害行為に直結する、まさに著作権等の実効性を損なう行為である。このため、権利侵害行為の前段階である回避行為自体を規制することにより、権利侵害行為を事前に防止することが考えられる。このようないわば準備行為の規制は特許法等のみなし侵害行為の規制の例があるが、この場合については準備行為を規制することにより、侵害行為自体をより効果的に防止できるという観点から設けられていると考えられる。

    しかしながら、現在行われている技術的保護手段の回避は、複製等の利用の際に再生機器から複製機器に送信される制御信号を除去、改変するというものであり、このような個々の利用に伴って回避が行われる場合には、その利用行為自体が著作権等の侵害に該当するか否かを問えば足りるのであって、回避行為自体を新たに規制の対象としても、権利侵害行為を事前により効果的に防止することができるとは必ずしもいえないと考えられる。

    このため、技術的保護手段の回避に対する規制については、このような実態を踏まえれば、あえて回避行為自体を新たに規制の対象とするのではなく、利用の段階でとらえることとし、回避を伴う利用を規制の対象とすることが適当ではないかと考えられる。但し、例えば回避行為のみを専門に行う業者のように、第三者のために回避を行う行為については、あたかも回避装置等に係る行為と同様の効果をもたらし、大量の回避を伴う利用を可能ならしめる行為であって、また個々の利用に先立つ行為として行われるものであると考えられることから、権利侵害行為のより効果的な防止を図るために、規制の対象とすることが適当であると考えられる。

    なお、ある特定の規格の利用機器において識別、反応する信号により技術的保護手段が用いられている場合に、他の規格の利用機器では当該信号を識別、反応しないため、結果的に技術的保護手段が無効化されることも考えられる。このような場合についても規制の対象とすべきという意見もあるが、このような規制は特定の規格を利用機器において義務付けることと実態としては同じになると言え、今後の技術の進展等を考慮すると適当ではないと考えられる。なお、このことに関連し、利用機器の提供者はいかなる技術的保護手段にも対応するように設計する義務はない旨を法文上明記すべきとの意見があった。以上のことをふまえると、技術的保護手段の回避とは、故意に、技術的保護手段に用いられている特定の信号を除去、改変することにより、著作物等の利用機器における当該信号の識別、反応を誤らせ、もって技術的保護手段により制限されている利用を可能ならしめる行為であるといえる。

    3.回避装置等の製造等の規制

    (1) 規制の趣旨
    回避を伴う利用の際に用いられる回避装置等は、その存在だけでは著作権等の実効性を損なうことはないが、一台の回避装置等が大量の回避を伴う利用を可能にし、かつこれらの回避装置等が大量に社会に出回ることにより、社会全体として著作権者等に著しい損害を与え、ひいては著作権制度や著作物等の流通・活用にも深刻な影響を与えるおそれがあるとも言える。従って、回避装置等の製造等により大量の回避を伴う利用を可能ならしめる行為についても、著作権等の実効性を確保し、またこれにより著作物等の流通・活用が図られるようにするため、規制の対象とすることが適当と考える。

    (2) 装置等の種類との関係について
    回避を伴う利用の際に用いられる装置等には、専ら回避行為に用いられる装置等と、汎用的な装置等の場合が考えられる。

    前者の装置等は、回避を行うことをその機能とし、かつ回避を伴う利用に用いられるために製造等がされているものと言える。このような装置等は正に大量の回避を伴う利用を誘引するものと言え、規制の対象とすべきものと考えられる。

    この場合、仮に規制の対象とする装置等を、回避を唯一の機能とする装置等に限定した場合には、装置等の機能のごく一部分に他の機能を付し、その機能こそが装置等の主機能である等と主張されることにより、回避装置等に該当しなくなり、規制の目的が達成されないことになりかねないという点に留意すべきであるが、一方、規制の対象範囲が明確でない場合には、装置等の製造業者等の事業活動を過度に制限しかねないということにも留意する必要がある。

    他方、汎用装置等については、回避を行うことが唯一の機能ではなく、また、その装置等の使用者も必ずしも回避を伴う利用のために用いるとは限らない。また、このような汎用装置等を規制することは、今後の情報化社会の発展を阻害することにつながるおそれがあり、実態としても既に大量の汎用装置等が社会において使用されていることから、適当ではないと考えられる。但し、これらの汎用装置等についても、著作権等の実効性を確実ならしめ、著作物等の適正な流通・活用の確保を図るためにも、技術的保護手段の回避に用いられないような仕組み等を組み込む等の努力がなされることが期待される。なお、この場合、装置の製造業者等への負担が大きくなる場合の情報産業への影響や、それに伴う価格転嫁による一般消費者への影響等、配慮すべき課題が多いことにも留意すべきである。

    装置等の形態としては、有体物としての回避専用装置のほか、ソフトウェアの形でも技術的保護手段を回避するための専用プログラムが作成され、コンピュータ・ネットワーク等を通じて提供されることが考えられるので、これらも規制の対象に含めることが適当であると考えられる。また、専ら回避行為に用いられる専用部品や専用半完成品等についても、規制の対象とすることが考えられ得る。なお、規制を行うに当たっては、本来規制の対象として考えていないものにまで規制が及ばないよう、表現を明確にするよう留意する必要がある。

    (3) 回避装置等に係る規制の対象となる行為
    具体的に規制すべき行為としては、回避装置等が広く用いられる機会をなくすことが必要であるとの観点から、回避装置等の製造、頒布、頒布目的の所持又は輸入、公衆送信(送信可能化を含む)、公衆に使用させる行為を規制の対象とすることが必要であると考えられる。なお、回避装置等の製造等までも規制の対象とすることについては、機器メーカーに対して不当な萎縮効果を及ぼすことがないよう留意する必要があるとの意見があった。

    この場合、営利目的や業としての行為に規制の対象を限定することも考えられるが、回避を伴う利用に供せられるプログラムが、コンピュータ・ネットワーク等を通じて非営利で提供されている現状に照らすとこれらも規制の対象とすることが適当であると考えられるため、刑罰法規の明確性等の要請により限定を付す考え方があり得ることを別にすれば、そのような限定を行うことは必要はないのではないかと考えられる。

    また、回避装置等は回避を専用とする機能を有するものであるが、回避装置等を用いて行う技術的保護手段の回避を伴う利用が著作権等の侵害を生ぜしめないような場合も考えられる。このため、回避装置等に係る行為を規制する場合には、回避装置等が著作権等の侵害に供されない場合を除外することも考えられるが、回避装置等が将来にわたって著作権等の侵害に供されないことが明らかであるかどうかを示すことは極めて困難であること、権利侵害行為に用いられないかもしれないという理由で回避装置等を規制しないことは、そもそも規制の実効性を失わしめ、WIPO新条約にいう"adequate legal protection and effective legal remedies(適切な法的保護及び効果的な法的救済)"との規定の趣旨からも適当でないと考えられ、これらを踏まえた措置を講ずる必要がある。

    4.権利制限規定との関係
    現行の著作権法は、著作権者等に複製権等の排他的権利を付与する一方で、権利制限規定を設け、著作物等の公正利用等様々な観点から、私的使用のための複製、図書館や教育機関での複製、引用等、一定の場合には、著作権等を制限し、著作権者等の許諾がなくとも複製等の利用を行うことを適法としている。

    このため、技術的保護手段が施されている著作物等について、技術的保護手段の回避を伴って利用を行うことも、権利制限規定の範囲内とすることが適当かどうかという問題がある。

    権利制限規定は、著作物等の公正な利用を図るという観点から設けられているが、その趣旨は様々であり、(a)著作物等の利用の性質からして著作権等が及ぶものとすることが妥当でないもの、(b)公益上の理由から著作権等を制限する必要があると認められるもの、(c)他の権利との調整のため著作権等を制限する必要のあるもの、(d)社会慣行として行われており、著作権等を制限しても著作権者等の経済的利益を不当に害しないと認められるもの、というような趣旨に基づいて設けられていると考えられる。

    このうち、私的使用のための複製については、次のように考えられ、技術的保護手段の回避を伴ってまで行われる複製についてはこれを適法な複製として認めることは適当ではないと考えられる。

    そもそも私的使用のための複製を認めている趣旨は、上記(a)に該当し、個人や家庭内のような範囲で行われる零細な複製であって、著作権者等の経済的利益を害しないという理由によるものと考えられる。一方、技術的保護手段が施されている著作物等については、その技術的保護手段により制限されている複製が不可能であるという前提で著作権者等が市場に提供しているものであり、技術的保護手段を回避することによりこのような前提が否定され、著作権者等が予期しない複製が自由に、かつ、社会全体として大量に行われることを可能にすることは、著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると考えられるため、このような、回避を伴うという形態の複製までも、私的使用のための複製として認めることは適当ではないと考えられる。

    なお、現行著作権法においても、公衆用自動複製機器を用いて行う複製については、社会全体として大量の複製を可能ならしめ、著作権者等の経済的利益を著しく害する形態の複製であるとして、私的使用のための適法な複製から除外されているところである。一方、私的使用のための複製については、幅広い観点から、デジタル化・ネットワーク化の進展とそれに伴う著作物等の利用形態の変化をふまえ、権利者と利用者のバランスを考慮した全体的な見直しが必要であるとの意見、回避を伴う複製を規制することについてのコンセンサスが必ずしも社会一般に形成されているに至っていないとの意見等もあったところである。

    図書館等における複製や教育機関における複製等公益上の理由から認められている権利制限規定に基づく利用については、当該規定が設けられている趣旨が、原則として、公益を著作権者等の意思に優先させているものと考えられることから、また、引用等社会慣行として行われており、著作権等を制限しても著作権者等の経済的利益を不当に害しないとして認められている権利制限規定に基づく利用については、技術的保護手段の回避を伴う利用であっても、著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあるとまでは現状では言えないと考えられることから、それぞれ規制の対象とすることは適当でないと考えられる。一方、これらの場合においても利用実態をよく見極めた上で公益性そのものの見直しを行うべきとの意見もあったところである。

    なお、上記(a)の趣旨に該当する権利制限規定には、プログラムの著作物の複製物の所有者によるバックアップやバージョンアップ等のための複製等も該当するとも考えられるが、この場合の複製等は利用に必要と認められる限度において認められるものであり、例えばゲームソフトのバックアップ等のような複製はこれに該当しないと考えられていること、所有者自身の複製等の行為であること等から見て、必ずしも著作権者等の経済的利益を著しく害するとは言えず、規制の対象とすることは適当ではないと考える。


    第6節 規制の手段

    1.回避行為に係る規制の手段
    回避行為自体を規制する場合には、権利侵害行為の準備行為として、例えばみなし侵害行為とすることにより規制することが考えられるが、前述のように回避を伴う利用としてとらえると、民事的救済については、当該利用が著作権等を侵害する行為に該当する場合には、現行法に基づき損害賠償請求権や差止請求権により救済されることになり、刑事罰については、回避を伴う利用が著作権等を侵害する行為であれば、現行法に基づき刑事罰の対象となる。但し、私的使用のための回避を伴う複製については、同じく私的使用のための適法な複製から除外されている公衆用自動複製機器を用いて複製を行った者が刑事罰の対象とはなっていないこととの均衡を考慮し、刑事罰の対象としないことが適当ではないかと考えられる。

    また、第三者のために回避を行う行為については、個々の回避行為とその後の利用行為の関係が必ずしも明確でなく、回避装置等に係る行為と同様に大量の違法利用を可能ならしめる行為であることから、次の回避装置等に係る規制と同様の考え方で規制を行うことが適当であると考えられる。

    2.回避装置等の製造等に係る規制の手段
    回避装置等の製造、頒布、頒布目的の所持又は輸入、公衆送信(送信可能化を含む)、公衆に使用させる行為を行うことを規制する場合、通常は、どの著作物等が回避を伴う利用の対象となるかが特定できないため、著作権等を侵害される者が特定できないという問題がある。このため、特定の著作権者等の権利が侵害されるという前提で設けられている現行法の著作権等の侵害に係る民事的救済や刑事罰の対象とすることは難しいと考えられる。但し、明らかに特定の著作権者等の権利を侵害すると認められる場合等においては、現行法での対応が可能な場合も考えられる。

    一方、回避装置等により社会全体で大量の回避を伴う利用が行われ、著作権者等全体の利益を著しく害し、またこれにより著作物等の適正な流通・活用が阻害されることから、これを防止し、著作権等及びこれがもたらす社会公共の利益を十全に保護するという観点から、回避装置等の製造等を行うことを規制することが考えられる。また、その場合は非親告罪とすることが考えられる。



    第3章 権利管理情報の改変等への対応
    第1節 権利管理情報の改変等への対応の趣旨
    1.権利管理情報の有用性
    近年の急速な技術の進展により、著作権等に係る情報、すなわち権利管理情報を、電子的な方式等により、著作物等とともに伝達したり著作物等の複製物に付す(以下、単に「著作物等に付す」という。)ことが可能となり、これにより、違法利用の発見・立証、さらには権利処理(許諾権及び報酬請求権の処理を指す。以下同じ。)を効果的に行うことができるようになってきている。

    違法利用の発見・立証については、例えば、著作物等が違法複製されても、権利管理情報も共に複製されるため、著作権者等はコンピュータ等を用いてその権利管理情報を読みとることにより、違法利用の発見・立証が容易になった。特に、コンピュータ・ネットワークを通じて違法複製物の探索を行うシステムも実用化されており、より一層違法利用を発見しやすくなっている。これにより、著作権者等は安心して市場に著作物等を提供することができるようになり、利用者も様々な著作物等を享受することが可能となる。

    また権利処理については、権利管理情報を用いることにより、著作物等の利用者は権利に関する情報を容易に入手することができるようになるに留まらず、権利処理の一連の過程をコンピュータ・ネットワーク等を通じて容易に行うことが可能になりつつある。これにより、著作物等の正当な許諾に基づく利用が促され、著作権者等の権利の実効性が確保されると共に、著作物等の利用者にとっても、権利処理に伴う困難や負担が大きく減少し、著作物等を簡単に利用できる状況を生み出す結果をもたらすことになった。更に、権利管理情報と技術的保護手段を組み合わせて用いることにより、利用者の要望に応じた著作物等の様々な利用形態に係る権利処理を権利の実効性を確保しつつ行うことが可能となってきている。

    今後の技術の進展によって、権利管理情報は、このような形以外でも様々な活用がなされることが予想されるが、いずれにせよ、権利管理情報は、著作権等の適正な行使等の確保、利用者による積極的な著作物等の利用や多種多様なソフトの享受の促進という両面から非常に有用な技術であると言うことができ、その有用性は今後デジタル化・ネットワーク化の一層の進展によって、ますます高まることが予想される。

    2.権利管理情報の改変等に係る規制の必要性
    以上のような有用性のある権利管理情報は、改変等により内容が不真正なものになった場合には、様々な支障を生ずることが予想される。
    まず違法利用の発見・立証の場面においては、不真正な内容の権利管理情報では、違法利用がなされた場合でも、権利管理情報を読みとることによって違法利用を発見・立証することが困難になり、他人の名前に著作者名が改変されたような場合には、自己の著作物等であることの立証が難しくなることも考えられる。また、コンピュータ・ネットワークを通じた違法利用の探索でも発見できなくなり、違法利用の発見が一層困難になる。

    次に権利処理の場面においては、不真正な内容の権利管理情報は誤った権利処理を発生させてしまう可能性がある。例えば、利用条件の情報が改変されれば、本来ならば著作権者等が許諾しないであろう利用条件で許諾処理が行われてしまう可能性があり、著作権者名が改変されれば、無権利者との間で権利処理が為されてしまう可能性がある。このように、権利管理情報が不真正なものになることにより、著作権者等の権利を侵害したり、利用者にとっても善意の違法利用を生ぜしめる場合が生じる。特に、コンピュータ等を用いた自動的な権利処理では、ひとたび権利管理情報の改変等が誤った処理を発生させた場合、その発見は容易ではなく、自動処理の高速性・大量性を併せ考えると、発見までに多大な被害を受ける場合が多数生じることが予想される。

    このように、権利管理情報の改変等によりその内容が不真正なものとなると、違法利用の発見・立証が困難になったり、誤った権利処理が発生すること等により、著作権者等の権利の実効性が失われ、著作権者等が著作物等を市場に置くことを躊躇し、その結果、ソフトが供給されなくなったり、コンピュータ・ネットワーク等を通じて著作物等を活用する事業等にも影響を生じ、よりよい多様な著作物等の享受もできなくなるおそれがある。このため、権利管理情報の内容を不真正なものにする改変等の行為を規制する必要があると考えられる。

    一方、このような規制については、現時点では関連技術の開発、普及が不十分であり、今後の技術発展、市場の実態を見届けた上で慎重に検討すべきであるとの意見もある。

    第2節 検討の経緯
    1.国内における検討の経緯
    (1) マルチメディア小委員会ワーキング・グループにおける検討
    (平成6年3月~平成7年2月)
    同ワーキング・グループは平成7年2月に発表した検討経過報告において、権利管理情報の保護についても検討を行っている。
    報告は、権利管理情報を「著作物等に係る権利の帰属、利用条件、同定番号などの権利管理に必要な情報」と定義し、「著作物等の複製物に著作権者等の氏名などの権利管理情報を組み込む技術が発達普及しつつあり、将来的には通信ネットワークの高度化に伴い、権利処理等に大きな役割を果たすことが予想されるので、その信頼性を確保し促進していく必要があるとの意見がある」としている。そのうえで「考えられる対応例」として、「[A]著作物等の複製物の提供又は放送・送信に際し、故意に虚偽の著作権管理情報を付与し、又は真正な情報を改ざん・除去する行為について、刑事罰の対象とする」、「[B]著作物等の複製物の提供又は放送・送信に際し付与する著作権管理情報について、登録制度を設け、登録内容についての推定効を与える」、の二案を挙げ、「考察」として、[A]については、現行刑法の規定の適用の可能性や、取引の安全等に関する他の法令との関係に留意する必要があること、[B]については、無方式主義との関係や登録体制の問題等に留意する必要があることを指摘し、当面は著作権権利情報集中・提供システムの整備を促進するとともに、ネットワークを用いた権利処理システムの構築のための研究を推進することが適当であり、制度上の対応は今後の動向を踏まえ更に慎重に検討する必要があると結論づけている。

    2.諸外国・国際機関等における検討の経緯
    (1) WIPO
    1996年(平成8年)12月に採択されたWIPO新条約には、電子的権利管理情報の保護義務に関する規定が盛り込まれている(WCT第12条・WPPT第19条)。以下にWCTの規定の内容を紹介する(WPPTも同旨)。

    権利管理情報の定義については、"information which identifies the work, the author of the work, the owner of any right in the work, or information about the terms and conditions of use of the work, and any numbers or codes that represent such information(著作物、著作物の著作者、著作物に係るすべての権利者、又は著作物の利用の期間及び条件に関する情報を特定する情報、並びにそのような情報を表示するあらゆる数値又はコード)"であり、"attached to a copy of a work or appears in connection with the communication of a work to the public(著作物の複製物に付され、又は公衆への著作物の伝達に伴って示される)"ものであって、かつ"electronic(電子的な)"権利管理情報が保護の対象とされている。

    規制の対象となる行為は、"knowing, or with respect to civil remedies having reasonable grounds to know, that it will induce, enable, facilitate or conceal an infringement of any right covered by this Treaty or the Berne Convention(この条約又はベルヌ条約が対象とする権利の侵害を誘発し、可能にし、助長し、又は隠蔽する結果をもたらすことを知りながら(民事救済の場合には、そのことを知る合理的根拠を有しながら))"、"knowingly(故意に)"、"to remove or alter any electronic rights management information without authority(正当な権限なく電子的権利管理情報を除去又は改変すること)"又は"to distribute, import for distribution, broadcast or communicate to the public, without authority, works or copies of works knowing that electronic rights management information has been removed or altered without authority(正当な権限なく電子的権利管理情報が除去又は改変されたことを知りながら、著作物又は著作物の複製物を、正当な権限なく、頒布し、頒布のために輸入し、放送し、又は公衆に伝達すること)"である。

    なお、両条約の採択にあわせて発表された合意声明では、"infringement of any right covered by this Treaty or the Berne Convention(この条約又はベルヌ条約が対象とする権利の侵害)"は排他的権利と報酬請求権の双方を対象として含むと解すること、実質的に方式主義をもたらすような権利管理情報システムの実施についてこの規定を根拠としてはならないこと、の二点が確認されている。

    (2) 米国
    1995年(平成7年)に発表されたNII報告書は、全米情報基盤計画を成功させるために重要な技術の一つとして、権利管理情報について検討を加えている。
    同報告書では、著作物の利用者は権利管理情報を用いることによって、利用許諾を効率的に行い取引費用を軽減することができるが、そのためには公衆を虚偽の情報から保護することが必要であり、著作権法を修正して権利管理情報が虚偽であることを知りつつこれを提供等する行為や、無断で権利管理情報を改変等する行為を禁止するよう勧告している。
    その後、WIPO新条約の採択等を受けて、本年10月には権利管理情報の改変等に係る規制を含む「デジタル時代の著作権法」が成立した。同法には、WIPO新条約に沿った内容の規制とともに、虚偽の権利管理情報を提供、頒布、頒布のために輸入する行為に関する規制や、放送局等が行う送信の場合の例外等の規定が盛り込まれている。

    (3) EU
    EUでは、1995年(平成7年)に発表された欧州委員会グリーンペーパー「情報社会における著作権及び関連する権利」で、情報社会における識別情報制度の重要性が指摘されている。すなわち、識別情報(著作物その他保護対象物自体についての情報のほか、著作者や許諾条件についての情報が想定されている)によってデジタル化された著作物その他保護対象物を識別する制度を、ネットワークを通じた管理システムに結びつけることにより、例えば利用料の徴収や分配が容易に行うことができるようになるのであり、情報社会が権利保有者に不利に働かないようにするためには、このような制度を国際的なレベルで導入することが必要であるとしている。

    同ペーパーを受けて、1997年(平成9年)12月には「情報社会における著作権及び関連する権利の特定側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及び理事会ディレクティブ」草案が発表され、権利管理情報に関する条項も盛り込まれた。その内容は、基本的にはWIPO新条約における規定をそのまま反映したものとなっているが、保護の対象となる権利として、データベースのコンテンツの抽出又は再利用に関するいわゆるスイ・ジェネリス(sui generis)の権利も含まれている。

    第3節 権利管理情報の実態
    1.権利管理情報の現状
    権利管理情報の現状は、既に実用化され違法複製物の発見・立証等に活用されているもの、実験段階にあるもの等様々であるが、その内容は概ね次の通りである。

    (1) 静止画
    絵画、写真、地図等の静止画については、既に権利管理情報等を電子透かしとして埋めこんだ著作物等を記録したCD-ROMが市場に流通しており、インターネットを通じたデジタル静止画データの販売においても、電子透かしの活用が予定されている。更に、コンピュータ処理によってコンピュータ・ネットワーク上の権利管理情報を探索し、違法複製物を発見するシステムが既に登場している。

    (2) 動画
    映画や放送等の動画については、権利管理情報を電子透かしとして埋め込み、違法複製物の発見・立証等に活用することが実用化しており、現在検討が進められている動画データの規格であるMPEG4においても動画データの著作物等に権利管理情報を書き込む領域を設けることが考えられている。またDVD等についても、電子透かしにより権利管理情報を埋めこむことが検討されている。

    (3) レコード・音楽等
    音楽・音声等においても、権利管理情報等を電子透かしとして埋めこんだ著作物等が、インターネットを通じた販売や、CD-ROMによって市場に流通しており、静止画の場合と同様に、コンピュータ処理による権利管理情報の探索によってコンピュータ・ネットワーク上の違法複製物を発見するシステムが登場している。

    また、現在発売されているCDには、記録された各音源に対応して、音源を特定する国際規格コードであるISRC(International Standard Recording Code)が記録されている。ISRCから権利管理情報の具体的内容を検索するデータベースは日本も含め世界各国で構築されており、レコードの利用管理に活用する計画がある。ISRCはMPEG4規格のデータにも権利管理情報として埋めこまれることも計画されており、また、電子透かしとして音楽・音声データに埋めこむことも想定され、今後更に広く社会に流通することが予想される。

    2.権利管理情報の改変等の現状
    上記のような権利管理情報については、実際に活用されている電子透かしを除去するプログラムがインターネット上のホームページで無償で提供されている例もあり、権利管理情報の改変等により、コンピュータ処理による権利管理情報の探索によっては発見することができない違法複製物が、コンピュータ・ネットワーク上に存在するとも考えられる。また、このような改変等の手段は、今後、権利管理情報の発展、普及に伴い、さらに登場してくることが予想される。

    第4節 改変等を規制の対象とすべき権利管理情報
    既に述べた権利管理情報の有用性及び改変等の規制の必要性に鑑みれば、改変等を規制の対象とすべき権利管理情報は、権利処理や違法利用の発見・立証等に活用されるような情報であって、その内容が改変等され不真正になることにより、著作権者等の権利の実効性を損ない、権利の侵害を引き起こすようなものであり、具体的には以下のような内容、形態等のものと考えられる。

    1.内容
    (1) 具体的項目
    権利管理情報の内容となる著作権者等の権利に関する情報としては、WIPO新条約の規定を踏まえると、具体的には、以下の項目になると考えられる。
     (a) 著作物名
    (b) 著作者名
    (c) 著作権者名
    (d) 実演名、レコード名、放送名又は有線放送名
    (e) 実演家、レコード製作者、放送事業者又は有線放送事業者の権利を有する者の名
    (f) 利用の条件(利用許諾を与える条件、報酬、二次使用料)
    (f)にいう「利用の条件」には、利用対価(報酬、二次使用料を含む)のほか、利用方法、利用期間、利用地域、利用量等が含まれると考えられる。なお、ここでいう「利用許諾を与える条件」に関する情報とは、権利処理に際し予め示される許諾の条件の情報であって、権利処理の結果として実際に与えられた許諾の内容の情報とは異なる。

    また、例えば、著作権の譲渡が生じた場合、著作物に付された譲渡前の著作権者の情報の取扱いが問題となりうるが、これについては基本的には、譲渡の時点で真正な著作権者名の情報ではなくなったのであるから、改変等が規制の対象となる権利管理情報には該当しなくなったと考えることが適当である。但し、例えば、譲渡前の著作権者の情報が、ホスト・データベースで譲渡後の著作権者の情報に変換されて、なお著作権の管理に用いられるような場合は、当該情報は次に述べる「コード情報」に該当するとも考えられ、後述するように、その情報がなお著作権者の権利に係る情報であることを知って改変等の行為を行うような場合は、規制の対象となる場合にあたる可能性もあると考えられる。

    なお、著作権者等が不真正な情報を付したり放置した場合には、著作権法121条の著作者名詐称表示の禁止のように一定の責任を負わせる等の配慮が必要であるとの意見もあったところである。

    (2) 数値情報又はコード情報
    著作物等に付される情報には、上述のような具体的項目の内容を直接に示す情報のほか、単独では単なる数字やコードであり具体的項目の内容を示さないが、ホスト・データベース等と結びつけられて、具体的項目の情報に変換され表示される情報も多く用いられている。このような情報の使用には、著作物等に付す情報量を小さくできる、著作権等に係る情報の内容が変更になった場合もホスト・データベースの内容を変更するだけで対応できる等の利点があり、今後も著作物等の管理に広く用いられることが予想される。従ってこのような数値情報、コード情報等も、保護の対象となる権利管理情報に含めることが適当である。WIPO新条約も、著作物等を特定する情報等を表示する"any numbers or codes(あらゆる数値又はコード)"を権利管理情報に含めている。

    (3) 使用に係る情報
    著作物等に付される情報には、著作権者等の権利に係る情報のほか、著作物等の「使用」に係る情報(例えば視聴料に係る情報)があり、この使用に係る情報も、保護の対象となる権利管理情報に含めるべきではないかとの議論がある。

    しかし、ここでいう権利とは、著作権法上認められている権利と考えることが、現時点では適当であると考えられることから、著作物等の使用に関する情報を権利管理情報に含め、その改変等を規制することは、適当ではないと考えられる。

    但し、著作物等の使用に係る情報の取扱いについては、これも対象とすべきとの意見もあったところであり、今後、国際的ハーモナイゼーションの見地から、国際的な動向も踏まえた対応を検討することも重要であると考える。

    2.著作物等との形態上の関係
    権利管理情報の有用性は、著作物等に権利管理情報が付された状態で、複製物として市場に置かれたり、コンピュータ・ネットワーク等を通じて流通することにより、違法利用の発見・立証や権利処理等に効果的に用いられるということにある。したがって、権利管理情報は、著作物等の複製物においてはともに記録されるという形態で、著作物等の伝達においてはともに伝達されるという形態で用いられると考えられる。

    なお、著作権等に係る情報については、例えば著作権等に係る情報のみを集積したデータベースのように、それ自体が権利処理等に大きな便宜を与えるような場合もあるので、このような情報の改変等を規制すべきかという問題がある。しかしながら、今回の規制の趣旨は、著作物等に付されている権利管理情報が著作物等の個々の利用の管理等に有用であるということに鑑み、その改変等を規制するものであり、著作権等に係る情報自体を保護しようとするものではないことから、基本的には規制の対象とすることは適当ではないと考える。但し、他の法律(刑法等)によってこのような情報の改変等については規制があり得る。

    3.権利管理情報の形態
    著作権等に係る情報が著作物等の個々の利用の管理に特に有効に活用されるのは、コンピュータ・ネットワークを通じた違法利用の発見や権利処理等に供せられる場合であると考えられることから、コンピュータ等の処理に供せられることが一般的である電子的、磁気的、光学的等の形態を、権利管理情報の形態とすることが適当である。

    なおWIPO新条約では保護の対象を"electronic(電子的な)"権利管理情報としているが、ここで言う"electronic(電子的な)"は、我が国の刑法等で言う厳密な意味での「電子的」よりも広い概念であると解される。

    4.権利管理情報を付す主体
    権利管理情報を付す主体は、通常は著作権者等又は著作権者等が権利管理情報を付す承諾を与えた者であると考えられるが、著作権者等から複製や公衆送信等の利用の許諾のみを得た者や、著作権者等に関係のない第三者が権利管理情報を付す場合も考えられる。このような者が付した権利管理情報については、著作権者等が関与していないのであるから保護の対象とする必要があるのかという問題がある。

    しかしながら、第三者が勝手に付した権利管理情報でも、不真正な情報が付され、又は真正な情報の改変等が行われた場合には、著作権等の侵害を引き起こす可能性を生ぜしめる場合があり、またWIPO新条約においても、権利管理情報を付す主体について限定していないことから、付した主体によって保護の対象となる権利管理情報を限定することには理由が乏しいのではないかと考えられる。

    第5節 規制の対象とすべき行為
    1.基本的な考え方
    権利管理情報の改変等を規制する趣旨に鑑み、規制の対象とすべき行為は、権利管理情報の内容を不真正な内容にすることにより、違法利用の発見・立証を困難にしたり、誤った権利処理を生ぜしめること等により、著作権者等の権利の実効性を損なうような行為であり、具体的には、権利管理情報の内容を不真正なものに変える行為や、不真正な内容の権利管理情報を公衆に提供する行為が該当すると考えられる。

    2.著作物等に付されている権利管理情報の改変、除去、付加の規制
    著作物等に付されている権利管理情報の内容を不真正なものに変える行為は、権利管理情報の内容が真正であったならば得られたであろう著作権等の実効性を損なう行為であることから規制が必要と考えられ、具体的には当該権利管理情報に係る著作権者等の承諾なく行う次のような行為が考えられる。
    (a) 既に付されている権利管理情報を虚偽の内容に改変し、あたかも虚偽の内容が真正な内容であるかのような状態にすること(改変)
    (b) 既に付されている権利管理情報を除去し、あたかも権利管理情報が無内容であるかのような状態にすること(除去)
    (c) 虚偽の内容の権利管理情報を新たに付加し、あたかも虚偽の内容が真正な内容であるかのような状態にすること(付加)

    なお、改変、除去、付加の行為を規制するのは、著作権等の実効性が損なわれることを防ぐためであるから、著作権等の実効性を損なうおそれがない改変、除去、付加は、規制の対象には当たらないと考えられるが、著作権等の実効性を損なうおそれの有無については、その判断基準の明確化を図る必要がある。

    ところで著作権法は、著作権等の侵害については行為者の主観を問わず違法としているものの、例えば、違法複製物を頒布等する行為やプログラムの著作物の違法複製物を業務上使用する行為のように、行為者が著作権等の侵害に係る主観的要件を満たす場合に限って違法としている場合もある。権利管理情報の改変、除去、付加についても、それらが著作権等の侵害を助長、誘発、可能化、隠蔽する結果をもたらすような、著作権等の実効性を損なう行為ではあっても、著作権等の侵害そのものではないことを考えると、行為者が一定の主観的要件を満たす場合に限って違法とすることが適当と考えられる。
    具体的には、自らの行っている権利管理情報の改変、除去、付加の行為についての故意を要件とするとともに、今回の規制が、著作権等の実効性が損なわれることを防ぐための規制であることを考慮すると、当該改変、除去、付加の行為が、著作権等の実効性を損なわせる(著作権等の侵害を助長、誘発、可能化、隠蔽する)結果をもたらすことについて、行為者がそれを知り、又は知り得る場合に限って規制することが適当であると考えられる。

    3.権利管理情報の改変、除去、付加を伴う利用の規制
    不真正な内容の権利管理情報が著作物等に付されている状態になる場合には、著作物等に付されている権利管理情報それ自体について改変、除去、付加がなされる場合の他に、著作物等の利用を行う過程において、権利管理情報の改変、除去、付加が行われる場合も考え得る。例えば、著作物の複製物から複製を行う際に権利管理情報の改変、除去、付加を行い、不真正な内容の権利管理情報が付された著作物の複製物を作成するような場合が考えられる。このような行為は、不真正な内容の権利管理情報が著作物等に付されている状態を生み出す点で、著作物等に付されている権利管理情報を改変、除去、付加する行為と共通する。

    このような改変、除去、付加によって著作権等の実効性が損なわれることを防ぐためには、権利侵害を助長、誘発、可能化、隠蔽する結果をもたらすことについて、行為者がこれを知り、又は知り得る場合に限って、原則として規制の対象とすることが考えられる。

    しかし一方で、著作物等の利用を行う過程においては、例えば、放送局での放送の過程においてや、デジタル形式の著作物等をアナログ形式で複製するとき等、技術的制約等の理由から、権利管理情報の改変、除去、付加が行われてしまう場合もあり、このような場合にまで規制を行うことは適当ではないと考えられる。

    4.権利管理情報の改変、除去、付加がなされた著作物等の複製物の頒布等の規制
    権利管理情報の改変、除去、付加の行為が発生させる、著作権等の実効性を損なう効果は、当該著作物等が有体物として又はコンピュータ・ネットワーク等を通じて流通し、利用される機会が増えることによって、著しく拡大するといえる。従って、著作権等の実効性が損なわれることを防ぐためには、権利管理情報を改変、除去、付加する行為だけでなく、権利管理情報が改変、除去、付加された著作物等の複製物を頒布等する行為に対しても、規制を行う必要があると考えられる。

    具体的には、当該権利管理情報に係る著作権者等の承諾なく権利管理情報が改変、除去、付加されたことを知りながら、当該権利管理情報に係る著作権者等の承諾なく、
    (a) 権利管理情報が改変、除去、付加された著作物等の複製物を、頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為
    (b) 権利管理情報が改変、除去、付加された著作物等を公衆に伝達(公衆送信、送信可能化等)する行為
    (c) 権利管理情報が改変、除去、付加された著作物等の複製物を、頒布の目的をもって輸入する行為
    のような行為について、改変、除去、付加の行為における場合と同様の要件の下で、規制の対象とすることが適当であると考えられる。

    5.権利制限規定との関係
    権利制限規定に基づく利用を行う場合に、権利管理情報の改変等が正当化されるような場合があるか否かについては、権利管理情報自体は利用を技術的に制限する情報ではないので(利用を直接制限する情報は技術的保護手段の問題と考えられる)、権利管理情報の改変等を行わなければ権利制限規定に基づく利用が行えないという問題は基本的には生じないと考えられる。なお、権利管理情報と技術的保護手段の関連性については、今後の技術的動向等にも留意する必要がある。

    6.機器規制の必要性の有無
    権利管理情報の改変等を行うには様々な手段が考えられるが、その一例として機器やプログラムを用いる場合が考えられる。そこで、それらの機器やプログラムを規制することにより、規制をより実効あるものにすることも考えられる。

    しかし、現在のところ、権利侵害を助長、誘発、可能化、隠蔽するような権利管理情報の改変等を目的とした機器やプログラムが広く用いられているとはいえないことや今後どのような機器等が出現するか必ずしも想定できないこと、コンピュータのような汎用機器において改変等が可能であるとしても汎用機器等を規制することは社会に深刻な影響を及ぼす可能性があること等を考慮すると、現時点において機器規制を行う積極的な理由はないように思われるが、専用の機器等が広く用いられる事態が生ずる場合にはその対応を検討する必要もあると考えられる。

    第6節 規制の手段
    1.民事的救済
    権利管理情報の改変等の行為に対する規制の実効性を確保し、権利の侵害が現実に発生することを防止するためには、改変等が行われる時点又は行われるおそれのある時点で、著作権者等に適切な民事的救済の手段を与えることが適当であると考えられる。

    民法上、不法行為に基づく損害の賠償請求や不当利得に基づく利得の返還請求が考えられる。
    さらに、差止請求権については、権利管理情報の改変等は、著作権等の侵害を助長、誘発、可能化、隠蔽する行為であり、著作権等の侵害の準備行為であるともいえることから、著作権等の実効性を確保するため、権利管理情報の改変等により著作権等の侵害を助長等する者及びそのおそれのある者に対する差止請求権を著作権者等に認めることが適当と考えられる。なお現行著作権法も差止請求権を、著作権等の侵害に限らず、違法複製物を頒布する行為等著作権等の実効性を損なう行為に認めているところである。

    2.刑事罰
    現行著作権法は、著作権等の侵害やその他の著作権等の実効性を損なう行為に対し、刑事罰を科すことにより、規制の実効性を高めている。権利管理情報の改変等も、著作権等の実効性を損なう行為として、同様に刑事罰を科して規制の実効性を高めることが考えられる。なお権利管理情報の改変等は、著作権等の侵害の準備行為としても位置づけられると考えられるが、このように準備行為に刑事罰を科す例は、他法でも既に見られるところである(特許法第101条・商標法第37条等)。

    ところで、権利管理情報の改変等が著作権等の実効性に与える影響は一様ではなく、個人の行う個々の改変等の行為も含めて一律に刑事罰をもって規制することは必ずしも適当ではないと考えられる。このため、権利侵害を助長、誘発、可能化、隠蔽する結果をもたらすことを知りながら行った営利目的での改変等のように、特に悪質な行為であると考えられるような場合に限り、処罰範囲の合理的限定、構成要件の明確性等に留意した上で、刑事罰をもって規制することが現時点では適当ではないかと考えられる。この場合には、現行の著作権侵害等と同様、親告罪とすることが適当であると考えられる。なお、刑事罰を科すことによる効果的な規制とするためには、今後の技術の動向や市場の実態に留意すべきであるとの意見もある。

    また、権利管理情報の改変等の行為には、著作物等の複製物に付された権利管理情報を改変する行為が電磁的記録不正作出罪(刑法第161条の2)や電子計算機使用詐欺罪(同第246条の2)に該当し得るように、現行刑法の規制が及ぶ行為もあると考えられる。しかし刑法の規制は著作権者等の権利の保護を目的とする著作権法による規制とは保護法益が異なると考えられ、また具体的な刑法の規制内容は、有体物としての記録物に対する行為の規制や、不正な記録がなされた記録物を事務処理の用に供する行為の規制等であり、公衆送信されている権利管理情報の改変等の行為や、改変、除去、付加された権利管理情報が付された著作物等の複製物を単に頒布する行為等は、規制の対象とならないと思われる。このため、今回の規制の趣旨を踏まえた必要な刑事罰を著作権法上設けて対処することが必要であると考えられる。



    (参考)
    著作権審議会マルチメディア小委員会(技術的保護・管理関係)
    ワーキング・グループ委員名簿


    座長  半 田 正 夫   青山学院大学教授
    揖 斐   潔  法務省民事局参事官
    大 塚 祐 也 (社)日本電子機械工業会著作権副委員長
    岡   邦 俊  日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
    北 川 善太郎  名城大学教授・国際高等研究所副所長
    (平成9年5月16日~平成9年9月30日、
    平成9年10月1日~第14期著作権審議会会長)
    木 村   孝  日本弁護士連合会コンピュータ研究委員会
    委員長・弁護士
    木 村   豊 (社)日本音楽著作権協会常務理事
    久保田   裕 (社)コンピュータソフトウェア著作権協会
    理事・事務局長
    児 玉 昭 義 (社)日本映像ソフト協会
    専務理事・事務局長
    斉 藤   博  専修大学教授
    堺 田 勝 夫 (社)日本事務機械工業会著作権等小委員会委員長
    千 葉 卓 男 (社)日本レコード協会
    常務理事・事務局長
    中 村 英 一 (株)NTTデータ知的財産部長
    (平成10年8月1日~)
    側 見   稔  前・NTTデータ通信(株)知的財産部長
    (平成9年5月16日~平成10年7月31日)
    中 山 信 弘  東京大学教授
    野々上   尚  法務省刑事局参事官(平成10年8月1日~)
    尾 崎 道 明  前・法務省刑事局参事官
    (平成9年5月16日~平成10年7月31日)
    松 田 政 行  日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
    紋 谷 暢 男  成蹊大学教授
    山 地 克 郎 (社)日本電子工業振興協会法的問題専門委員会
    委員長


    著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ
    (技術的保護・管理関係)審議経過


    第1回会議 平成9年5月16日
    検討事項及び検討の進め方について
    第2回会議 平成9年7月2日
    コピープロテクション技術等の現状について(1)
    ○コンピュータ・プログラム分野
    ○録音機器・録音媒体分野
    第3回会議 平成9年7月31日
    コピープロテクション技術等の現状について(2)
    ○録画機器・録画媒体分野
    ○デジタル送信分野
    第4回会議 平成9年9月17日
    コピープロテクション技術等の現状について(3)
    第5回会議 平成9年10月31日
    技術的保護手段の意義等について
    第6回会議 平成9年11月12日
    規制の対象とすべき技術的保護手段の回避行為及び権利制限規定との関係等について
    第7回会議 平成9年11月27日
    技術的保護手段の回避に係る規制の手段について
    第8回会議 平成9年12月25日
    技術的保護手段、技術的保護手段の回避及び回避機器の対象範囲について
    第9回会議 平成10年1月20日
    ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)中間まとめ(案)について (1)
    第10回会議 平成10年2月9日
    ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)中間まとめ(案)について (2)
    第11回会議 平成10年2月20日
    ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)中間まとめ(案)について (3)
    第12回会議 平成10年4月24日
    権利管理情報の改竄等に係る検討事項について
    第13回会議 平成10年5月15日
    権利管理情報の改竄等の禁止の必要性等及び中間まとめに対する意見書について
    第14回会議 平成10年6月12日
    権利管理情報の改竄等に係る規制の対象及び対応措置等について
    第15回会議 平成10年6月30日
    権利管理情報に係る法的措置全般について(1)
    第16回会議 平成10年8月4日
    権利管理情報に係る法的措置全般について(2)
    第17回会議 平成10年9月25日
    ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書(案)について (1)
    第18回会議 平成10年11月2日
    ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書(案)について (2)
    第19回会議 平成10年12月4日
    ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書(案)について (3)


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