○著作権審議会マルチメディア小委員会
     ワーキング・グループ中間まとめ

     ─コピープロテクション等技術的保護手段の回避について─
    平成10年2月 文化庁



    目 次
     はじめに
     技術の進展に伴う著作物等の保護・活用の変化
    「技術的保護手段の回避」に関する検討の経緯
     WIPO(世界知的所有権機関)・諸外国における検討状況等
     技術的保護手段の形態
     技術的保護手段の回避の形態
     技術的保護手段及びその回避に関する基本的考え方
     規制の対象とすべき行為
     権利制限規定との関係
    10 規制の手段

    著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ委員名簿

    著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ審議経過



    1.はじめに
    著作権審議会マルチメディア小委員会では、平成9年2月24日に公表した同小委員会審議経過報告において、「コピープロテクション解除装置への対処」については、「引き続き広い視点に立った検討を行う必要がある」とし、これを受け、同年5月に同小委員会に本ワーキング・グループを設け、コピープロテクション等技術的保護手段の回避や著作権管理情報の改竄に対する法的措置の在り方など、技術を活用した著作権の保護について検討を行うこととした。

    本ワーキング・グループにおいては、5月16日の初会合以来、精力的かつ具体的な審議を11回にわたって行い、ここに中間まとめを公表することとした。
    本中間まとめで取り上げた事項は,本ワーキング・グループの検討事項のうちコピープロテクション等技術的保護手段の回避に関するものであり、著作権管理情報の改竄等その他の事項については、今後検討を行った上で審議のまとめを公表することとしたい。

    本中間まとめを公表する趣旨は、技術的保護手段の回避への対処については,著作物等の著作者等の権利者、著作物等の利用者、電気機器メーカー、パソコン等汎用機器メーカー、ゲーム機器・ゲームソフトメーカー等、多くの関係者に関わる問題であり、また、技術を活用した著作物等の管理というこれまでの著作物等の管理の在り方とは異なる仕組みに関わる新たな視点の問題であるので、既に本ワーキング・グループの委員等から多くの意見が出されたところではあるが、更に広くこの問題について関係者の意見を聞く必要があると考えたからである。

    なお本中間まとめの内容については,本ワーキング・グループの審議において一定の意見の一致を見なかった事項もあり、その場合には結論を性急には求めず、両論併記の形等で記述しているところであり、これらの事項についても広く関係者の意見をいただきたいと考えている。



    2.技術の進展に伴う著作物等の保護・活用の変化

    技術の進展は、高品質で大量の複製を可能にするなど、著作権者等の権利を脅かす恐れももたらしたが、一方で、著作物等の複製等を技術的にコントロールすることも可能にし、このような技術を活用することによって著作権者等が安心してその著作物等を市場に供給することができるようになるとともに、消費者にとっても様々な消費形態が可能となり、多くのメリットを享受できるようになった。しかし、このような技術を無効ならしめるような手段が現れたため、著作権者等の権利を実効あらしめ、また著作物等の適正な流通・活用を確保するという観点から、このような技術的保護手段を回避する等の行為を規制するための法的なルールを定めることが重要である。

    近年の著作権を取り巻く技術の急速な進展は,著作権の在り方に大きな影響を与えてきている。
    まず、録音録画機器や複写機等の複製機器の性能が著しく向上し、さらに価格も低廉になり、操作も簡単になったことにより、従来は一般には行うことができなかった高品質かつ大量の複製を行うことが可能となった。特にデジタル化の進展により、誰もが簡単に,高品質でほとんど劣化しない複製を行うことが可能となったことがこの傾向に拍車をかけている。

    また、インターネットの爆発的な普及など、ネットワーク化の進展が、デジタル化の進展と相俟って、誰もがどこでも簡単にあらゆる場所のネットワーク上の著作物等にアクセスしたり、自らが発信者となることができるという状況を作り出している。
    これらの状況は,消費者に対して著作物等の新たな消費形態を提供するのみならず、著作権者等に対してもネットワーク上での著作物等の流通など著作物等の取引のための新たな市場を提供することとなった。

    他方、このようなデジタル化・ネットワーク化の進展は、著作権者等の許諾を得ない高品質の複製物が著作権者等の知らないうちに大量に出回り、ネットワークを通じて拡散し、様々な形で用いられるという懸念を著作権者等に抱かせるようになっている。このことに適切に対応できない場合には、著作権者等がその著作物等をこのような新たな市場に置くことを躊躇したり、無断複製等による利益の損失を価格に上乗せするなどの手段を取ることが予想されるため、ハードは進化しても魅力あるソフトが不足するという事態を招くおそれがある。

    しかし、技術の進展、特にデジタル化の進展は、同時に、このような状況においても適切に著作物等の複製等をコントロールする技術、すなわち技術的保護手段を生み出すこととなり、このような技術を活用することによって著作権者等が安心してその著作物等を取引市場に供給することができるようになった。例えば従来は、著作物等が違法に複製されても、そのような行為は海賊版業者や個々の会社等の内部で行われる行為であるため、それを防ぐことは容易ではなかったが、技術の進展によりそのような場における複製をある程度困難にすることが可能になったのである。またこのような技術の活用により消費者にとっても、ソフトの供給が促進されるとともに、今後は利用回数などの利用条件に応じてのきめ細かいサービスが適正な価格で提供されることなども可能となるため、より多様な形で著作物等による恩恵を受けることができるなど、多くのメリットを享受することも期待できる。

    しかしながら、技術は技術によって破られるといわれるように、技術的保護手段の効果を無効ならしめる手段も登場している。このような事態を放置することは、これまで築き上げられてきた技術的保護手段を前提とした著作物等の取引秩序を崩壊させ、著作権者等が再びその著作物等を市場に置くことを躊躇するなどの、著作権者等にも消費者にもデメリットとなる事態が生じかねないことから、このような事態を誘引する不正な行為については一定の規制が必要であると考えられる。もちろん、近年の技術の進展の速度は正に日進月歩の勢いであることから、この種の規制が技術の進展を妨げるものではあってはならないが、著作物等の適正な流通や著作権者等の権利を確保するために生み出された技術的保護手段を不当に回避することに対しては、これを規制するための法的なルールを定めることが重要であると考えられる。
    (注)本中間まとめにおける用語の意味は、以下のとおりである。
    「著作権等」は、著作権及び著作隣接権を指す。
    「著作権者等」とは、著作権者、著作隣接権者を指す。
    「著作物等」とは、著作権等の権利の対象となる著作物、実演等を指す。
    「利用」とは、複製や公衆送信等著作権等の支分権に基づく行為を指す。
    「使用」とは、著作物を見る,聞く等のような単なる著作物等の享受を指す。



    3.「技術的保護手段の回避」に関する検討の経緯

    コピープロテクション等の技術的保護手段の回避機器等に関する検討は、既に平成6年以降行われてきており、放置しがたい行為があるということについては意見が一致しているが、具体的な規制の対象の範囲や権利制限規定との関係等について、国際的動向も踏まえながら、更に検討する必要があるとされてきた。

    コピープロテクションを始めとした著作物等の利用や使用を技術的に制限する手段(以下、単に「技術的保護手段」という。)を解除、回避、迂回、無視等することにより、技術的保護手段の効果を無効にすること(以下、単に「技術的保護手段の回避」という。)については、以下のように数年前から既に検討がなされてきている。

    (1)「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する
      調査研究協力者会議」における検討
    (平成5年7月~平成6年5月)
    平成6年5月に公表された「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議」の報告においては、コンピュータ・プログラムに係るコピープロテクション回避機器等の製造、販売等に関する規制を著作権法上設けることの当否について、主にゲームソフトやビジネスソフトに関し、諸外国等の状況も含めて検討が行われたが、結論としては、「この問題について何らかの制度上の対応が必要であるとの意見が有力であったが、具体的な対応については、プログラムのみでなく、ビデオのコピー・ガードやデジタル録音のコピー制限の問題などを含めて検討する必要があるため、著作権審議会において関係者からの意見を聴取しつつ別途早急にこの問題を検討することが適当であると考える」とされた。

    (2) マルチメディア小委員会ワーキング・グループにおける検討
    (平成6年3月~平成7年2月)
    平成4年に設けられた著作権審議会マルチメディア小委員会では、平成6年3月に近年のデジタル化・ネットワーク化に関わる著作権制度上の問題全般について検討するためのワーキング・グループを設け、平成7年2月には検討経過報告が公表された。

    同報告においては、著作物等の複製と受信に係る技術的保護手段の回避機器等の規制に係る検討内容が示され、複製に係る技術的保護手段の回避機器等の規制については、そのような機器等を製造又は頒布する行為は,民事救済及び刑事罰の対象とするか、又は刑事罰のみの対象とするという「考えられる対応例」が挙げられた。また「考察」においては、この問題については何らかの対応を行うことが適当であるということには異論がなかったが、私的使用のための複製の権利制限規定との整合性、著作物の通常の利用のために必要な正当と認められる複製との関係,保護期間を経過した著作物や著作物ではない情報まで事実上保護されるか否か、技術的保護手段の回避に関する情報の開示についての取扱い等について意見が出された。なお、私的使用のための複製についての権利制限規定の見直しに関しても、その対応例のひとつとして、技術的保護手段を回避する機器等を用いて複製する場合については、権利制限規定で許容される複製とはしないとする案が挙げられている。

    また,受信に係る技術的保護手段の回避機器等の規制については、「考えられる対応例」は複製に係る技術的保護手段と同様であるが、「考察」においては,複製に係る技術的保護手段で出された意見に加えて、現行著作権法上、単なる受信行為については権利を有しないこととされていることとの整合性についての意見などが出された。

    (3) マルチメディア小委員会における検討
    (平成8年10月~平成9年2月)
    マルチメディア小委員会では、平成7年2月の上記検討経過報告について広く意見を求め、これを踏まえた上で法改正を行うべき課題の特定等を行う予定であったが、WIPO(世界知的所有権機関)における著作権関係新条約策定の作業日程が急に早められたため、国際的動向の趨勢を見極めるために一時審議を中断し、国際的な枠組みの方向性がある程度定まった平成8年10月に審議を再開し、早急に対応すべき課題について集中的に検討を行うこととした。その後、WIPO新条約が平成8年12月に採択されたことも踏まえて、平成9年2月に審議経過報告がまとめられた。

    同報告では、コピープロテクション等技術的保護手段の回避についても取り上げ、この問題については、ゲームソフトの場合のように、回避機器等使用者による著作権者の利益を著しく害する複製等が行われる状況を誘引する放置しがたい行為があることについては意見は一致しており、コピープロテクションについて著作権制度上適切な位置づけを検討することは重要な課題であると考えられるが、対象となるコピープロテクションやその回避機器等の範囲を慎重に検討する必要があること、また回避機器等を使用して行う複製を第30条等の権利制限規定で認められる複製の範囲外と考えるか否か、回避機器等の製造、販売等を行う業者の責任をどのように考えるかについて更に議論を尽くす必要があるため、コピープロテクション回避機器等への対処については、「デジタル化の進展の中で著作権等の保護、更には権利管理への技術の活用の重要性が増大することを考慮するとともに、国際的な検討の動向や技術の動向に配慮しつつ、早急に結論を得るよう、引き続き広い視点に立った検討を行う必要がある」とされた。



    4.WIPO(世界知的所有権機関)・諸外国における検討状況等

    平成8年12月にWIPO(世界知的所有権機関)で新条約が採択され、技術的保護手段の回避に関する規定が設けられた。この条約を受けて、米国では既に技術的保護手段の回避に関する条項を含む法案が提出され、またEUでも技術的保護手段の回避への対応を含むECディレクティブ(加盟国に対する理事会指令)の検討がなされているところである。

    (1) WIPO(世界知的所有権機関)
    WIPO(世界知的所有権機関)においては,平成8年12月に、デジタル化・ネットワーク化に対応するための新条約を検討する外交会議が開催され、WIPO著作権条約(WCT)及びWIPO実演・レコード条約(WPPT)の2つの新条約が採択された。これらの条約には技術的保護手段の回避に関する規定が盛り込まれており(WCT第11条、WPPT第18条)、「技術的手段に関する義務」という見出しのもと、「著作者(実演家又はレコード製作者)により許諾されておらず法によっても許容されていない行為をその著作物(実演又はレコード)について制限する、効果的な技(実演家又はレコード製作者)が利用するものの回避に対して、適切な法的保護及び効果的な法的救済を定めなければならない」と規定されている。

    (2) 米国
    米国では、既に著作権法において、デジタル録音機器・媒体に導入されているSCMS(Serial Copy Management System)という複製制御システムについて、この方式を「全体的又は部分的に実施するいずれのプログラム又は回路を回避し、除去し、無効とし、その他阻止することを主たる目的又は効果とするいずれかの機器を輸入し、製造しい」と規定している(第1002条(c))。

    さらに、(1)で述べたWIPO新条約の採択を受けて、議会に技術的保護手段の回避の規制に関する条項を含む幾つかの法案が提出され、現在審議中である。これらの法案のうち、特許商標庁によって準備され、平成9年7月に下院に提出された法案(HR2281法案。その後、同内容の法案(S1121法案)が上院に提出されている。)では、法律上著作権者等が権利を有する著作物の利用についての回避機器の製造、輸入、公衆への提供等を禁止するとともに、アクセスコントロールについては回避行為自体及び回避機器の製造、輸入等を禁止している。一方、このようなアプローチに反対する立場からも法案(S1146法案及びHR3048法案)が提出されており、これらの法案では、規制の対象となる行為を権利侵害又は権利侵害助長目的の回避行為に限定し、回避機器の製造、輸入、公衆への提供等は規制の対象外としている。なお、以上の法案の審議の見通しについては、現在のところ未定である。

    (3) EU及びその加盟国
    EUにおいては、既に平成3年5月のコンピュータ・プログラムの法的保護に関するディレクティブにおいて、「その唯一意図された目的が、コンピュータプログラムを保護するために適用され得た何らかの技術的装置の許諾を得ない除去又は回避を容易にする何らかの手段を取引に供する何らかの行為、又は営利目的のために所持することを行う者に対抗する適切な救済措置を加盟国は定める」こととされている(第7条)。

    また、現在、欧州委員会においては、情報社会における著作権及び関連権に関するディレクティブを作成中であり、平成9年12月に公表されたディレクティブの草案においては、加盟国に対し、機器の製造若しくは頒布又は役務の提供といった、著作権保護のために設計された効果的な技術的手段を権限なく回避することを可能にし、又は促進する行為を含むあらゆる行為に対しての適切な法的保護を与えることを要求することとしている。なお、この草案は現在各加盟国において検討がなされている段階であり、今後この内容についての協議がなされるものと思われる。

    英国においては、既に複製防止を回避するための機器を規制する規定が著作権法に設けられており(第296条)、同規定では、(1)複製防止の形式を回避することを特に予定され、又はそのように適応された装置又は手段の作成、輸入、販売等、(2)ある者が複製防止の形式を回避することを可能とし、又は援助することを意図される情報の公表、(3)コンピュータ・プログラムの複製物の場合には(1)に掲げた装置又は手段の業務上の所持について、規制の対象としている。

    ドイツにおいては、著作権法で、もっぱらプログラム保護のための技術的仕組みを不法に排除し、又は迂回することを容易にすることに供される手段について規制している。



    5.技術的保護手段の形態

    技術的保護手段には、著作物等に組み込まれた特定の信号を機器が照合する方式や、特定の情報を入力する方式など、著作物等の種類に応じて様々な内容のものがあり、その効果も、複製を不能にする、複製を妨害する、複製物の使用を不能にするなど様々である。

    (1) 著作物等に施されている技術的保護手段の実状
    技術的保護手段の回避についてはこれまで様々な検討がなされてきたが、技術の急速な進展に伴い、技術的保護手段の内容、種類も変化しており、現在では、ゲームソフトやアナログビデオなどの分野をはじめとして、著作物等が著作権者等に無断で利用や使用をされないように、それらの行為を制限するための様々な技術的保護手段が施されており、著作物等の種類別に見ると、次のようなものが存在する。

    コンピュータ・プログラム
    ア ゲームソフト(パソコン用、専用機用)
    オリジナル信号照合
    ゲームソフトの本体にオリジナルであるかどうかを識別する信号を組み込んでおき、ゲームソフトを作動させる機器にその信号を認識させる機器を装着してオリジナルである信号を持たないゲームソフト(海賊版コピーなど)の使用を不可能にするシステム。
    フォーマットの形態の変更等
    記録媒体に細工を行い、オリジナルのソフトでなければ起動しないようにすることにより、複製物の使用を不可能にするシステム。

    イ ビジネスソフト
    インストール時のシリアルナンバー等入力
    ビジネスソフトをコンピュータにインストールする際に,そのビジネスソフトの個々の製品に割り当てられた特定のシリアルナンバーや、ビジネスソフトに付属しているマニュアルに記された特定の記号等を入力しなければ、インストールを不可能にするシステム。

    音楽CD及びデジタル録音機器・媒体
    SCMS(Serial Copy Management System)
    音楽CDの特定の箇所に特定のデジタル信号を組み込み、この信号をデジタル録音機器が識別することにより、1世代のみのデジタル複製を可能とし、2世代目以降の複製を不可能とするシステム(オリジナルの音楽CDに組み込まれた信号は「コピー1世代可」という内容であるが、1世代目の複製によってできたデジタル録音媒体に組み込まれている信号は「コピー不可」という内容に変更される)。

    映画
    ア アナログビデオ
    マクロビジョン方式(擬似シンクパルス方式、カラーストライプ方式)
    アナログビデオテープのアナログ信号の特定部分に一定の信号を組み込むことにより、このビデオテープを録画しても、録画機器がその信号を認識しながら録画するため、複製後の画面を再生すると、この信号の影響で画面が鑑賞に堪えないものとなるシステム。また、デジタル録画機器で録画しようとしても、機器がこの信号を認識し録画ができない。

    イ DVDソフト
    CGMS(Copy Generation Management System)
    DVDのデジタル記憶媒体の特定の箇所に特定のデジタル信号(<1>コピー不可、<2>コピー1世代のみ可、<3>コピー自由(無制限)の3通り)を組み込み、この信号をデジタル録画機器が識別することにより、そのデジタル信号が指示するよう に複製をコントロールするシステム。なお、デジタル放送にもCGMS方式の採用が検討されている。
    マクロビジョン方式上記アで述べたものと同じ働きをする信号を機器からアナログ出力時に付加することで、アナログ録画機器で作成された録画物が鑑賞に堪えないものとなるシステム。なお、デジタル放送のPPV(Pay Per View)番組にはこの方式が採用されている。
    CSS(Content Scramble System)著作物等のデジタル信号を暗号化することにより、再生機器に組み込まれた機器による復号化の操作を行わない限り、著作物等として鑑賞することができないようにするシステム。
    DVDソフトでは、CGMSとCSSが組み込まれており、たとえCGMSの信号が無効化されても、CSSの復号化が行われない限り鑑賞できないという技術を導入しており、これにより違法コピーされても復号化する鍵がない場合は再生することができないので、無断複製物の使用防止の効果もあると考えられる。

    送信される静止画・音楽等
    電子透かし
    画像等のデジタル信号のある特定の部分に、人間の目には識別できない程度の影響しか画像等に与えずに、デジタル信号により作品の番号や販売者名、著作者名等の情報を組み込む技術。この信号を読み込む特定のソフトを使用することにより、その画像等が真正なものかどうか等が明らかになるため、著作物等の不正利用を発見することが技術的に可能となり、著作物等の無断複製等を心理的に抑止する効果がある。
    最近では、電子透かしが情報を画像等の全体に埋め込むことでその改竄や 除去を困難にしているという性質に着目して、複製をコントロールするための特定の信号を組み込むために活用しようとする考えもある。
    暗号化技術(公開鍵暗号方式、共通鍵暗号方式)
    著作物等を暗号化することにより、特定の鍵を使わなければ復号化できず、著作物等を使用できない技術。この技術は、一般的な使用を技術的に制限するとともに、ないという点からは、無断複製物の使用防止の一つともいえると考えられる。

    (2) 技術的保護手段の効果
    上記の技術的保護手段は、現在のところ、送信される静止画・音楽等に施されている技術の一部を除き、すべて複製防止又は無断複製物の使用防止の目的で掛けられている。
    複製行為は、複製物を使用又は頒布する目的で行われるため、複製を防止する時点としては、【1】複製作業の開始時、【2】複製作業中、【3】複製物の使用時及び【4】複製物の頒布時の4つが考えられ、それぞれに対応して、【1】複製作業自体を不可能にする方法、【2】複製作業は可能だが、画像を乱す特定の信号を挿入すること等により複製物の完成を妨害する方法、【3】複製作業は可能だが、何らかの方法により複製物の商品価値又は使用価値を無くすことにより、複製作業自体を無意味にする方法及び【4】複製作業は可能であり、複製物も使用できるが、無断複製等の痕跡を残すことにより、心理的に複製をさせないようにする方法の4つの形態がある。

    上記の技術的手段をこの4つの形態に当てはめると、以下のようになる。

    【1】の形態(複製作業不能型)
    :SCMS、CGMS、インストール時のシリアルナンバー等入力
    【2】の形態(複製作業妨害型)
    :大部分のマクロビジョン方式
    【3】の形態(複製物価値減退・使用不能型)
    :一部のマクロビジョン方式、暗号化技術、CSS、オリジナル信号照合、
     フォーマット形態の変更等
    【4】の形態(複製痕跡残留型)
    :電子透かし



    6.技術的保護手段の回避の形態

    技術的保護手段については、技術的保護手段のために付された特定の信号を除去するなどして技術的保護手段の効果を無効にするなどの方法により、その回避を可能とする手段が存在するものもあり、一部はその回避行為に必要な機器等が市販されている場合もある。
    現在、回避行為は、その後の複製等の利用等と一体で行われていることがほとんどである。

    以上のように、技術的保護手段には様々な種類のものがあるが、その一方で、その技術的保護手段を回避するための手段として、次のようなものが存在する。

    1. 複製作業不能型の回避
    ア SCMS、CGMS
    複製防止信号の改変、除去等により、複製作業が可能な状態にする。SCMSについては、専用の回避機器が市販されているが、CGMSについては、まだ新しい方式であることもあり、現時点では回避機器は市販されていないが、今後その出現が予想される。
    イ シリアルナンバー等入力
    シリアルナンバー等を入手し、入力することにより、複製作業が可能な状態にする。

    2. 複製作業妨害型の回避(マクロビジョン方式)
    画面全体を黒くする信号を除去することにより、画像を正常な状態に戻す。専用の回避機器が市販されている。

    3. 複製物価値減退・使用不能型の回避
    ア マクロビジョン方式
    画像を乱す信号を除去することにより、画像の乱れをなくす。専用の回避機器が市販されている。
    イ 暗号化技術、CSS
    暗号を解読し、復号化することにより、使用可能にする。ただし、暗号化技術は著しく向上しつつあり、その解読には莫大な経費や機器が必要であるともいわれているが、民生分野で用いられる暗号技術はコスト・設計等の観点から限界があるとも考えられる。
    ウ オリジナル信号照合
    海賊版等オリジナル信号のない複製物を、特定の機器を使い、オリジナル信号を有するものと誤認させて作動させる。各種ゲーム専用機に応じ、様々な回避機器が市販されている。
    エ フォーマット形態の変更等
    ソフトを起動させるときに特定のフォーマット等を検出するプログラムを削除したり、迂回することによって無効にするプログラムを用いて複製物の使用を可能にする。機器を用いる場合と、ソフトウェアを用いる場合がある。

    4. 複製痕跡残留型の回避(電子透かし)
    画像等から痕跡の位置を特定した後,改変する。ただし、現在は画像等の全体に施す方式が採られているため、実行は事実上困難。

    以上が主な技術的保護手段の回避の手段であるが、これらの回避行為の多くはオリジナルの著作物等に付された認識信号等に対し直接除去等の行為を行うのではなく、複製の際にオリジナルの著作物等が信号等によって送られるその信号等を変化させたり無視したりすること等により行われている。

    (例1)ゲームソフトの技術的保護手段の回避
    オリジナル信号を有しない海賊版等の複製物を使用する際に、回避機器を用いてオリジナル信号を有するものと誤認させて(=回避)、作動させる。
    (例2)音楽CDのSCMSの回避
    CDプレイヤーとデジタル録音機器の間に回避機器を接続しておき、再生 時にオーディオ信号とともに流されるSCMS信号の内容を回避機器内で録音可能フラグに改変して(=回避)、デジタル録音機器に送ることにより、デジタル録音機器を誤認させて録音する。
    (例3)アナログビデオのマクロビジョン方式の回避
    ビデオプレーヤーと録画機器の間に回避機器を接続しておき、再生時に映像信号に組み込まれている画像を乱す信号を除去して(=回避)、録画機器に送ることにより、正常な映像信号を録画する。
    すなわち、回避行為が単独で行われ、その後に複製行為等があるのではなく、これらの行為はいわば一体として行われているといえる。ただし、オリジナルの著作物等に付された信号等自体を除去する形態の回避行為も可能性としては考えられる。



    7.技術的保護手段及びその回避に関する基本的考え方

    著作権者等が安心してその流通過程に著作物等を置き、利用の態様に応じた適正な利益回収を行うことができるようにするためには、技術的保護手段を著作物等に施すことが今後ますます必要になると考えられる。このため、著作権者等が技術的保護手段を活用することについて著作権法上積極的な意義付けを与えるとともに、技術的保護手段の回避が、技術的保護手段の存在によって築かれた著作権者等の権利の実効性や著作物等の流通過程に脅威を与える行為であるので、回避行為等を規制することにより、著作権者等の権利の実効性を確保するとともに、著作物等の秩序ある流通過程を維持することが必要である。ただし、この規制により著作物等の利用者、電気機器メーカー、汎用機器メーカー等が不当な訴訟のリスクにさらされたりすることがないよう、適切な配慮が必要である。

    従来は、著作物等の複製手段は限定されており、作成される複製物の品質もオリジナルに比べかなり劣ったものであったが、近年の科学技術の進展により、高性能の録音録画機器や複写機等の複製機器が出現し、また大量生産による低価格化が進んだことにより、特別な技能を有しない一般人でも簡単に短時間で大量の高品質の複製が行えるようになってきている。また無断複製物の流通も多数の者が大量に複製することが可能となったことから、その把握が困難になってきている。

    このような無断複製等に対しては,従来の法制度においても、海賊版のような違法複製物の作成、輸入、頒布等の禁止が刑事罰や損害賠償というかたちで規定されているが、違法行為の把握が困難になりつつある現状においては、そのような法的措置のみでは著作権者等の利益が確保されることが難しくなってきている。

    このため、いわゆるコピープロテクションと呼ばれる複製防止等の技術的保護手段が開発され、特にその作成等に多額の投資と期間を要する映画(ビデオ)、音楽、プログラム等の分野の著作物にこの技術的保護手段を施すことにより、高品質な無断複製物の作成を防止するようになってきた。これらの技術的保護手段の中には、音楽においてはSCMS、ビデオにおいてはCGMSという技術のように、著作権者等と電気機器メーカーの話し合いにより、電気機器メーカーの努力で開発されてきたものもある。

    また、デジタル化・ネットワーク化が進展し、これに伴い今後更に著作物等の流通・活用が盛んになることが予想される中で、著作権者等が安心してその流通過程に著作物等を置くことにより、ソフトの供給が促進されるとともに、利用の態様に応じた適正な利益回収を行うことができるようにするためには、違法行為の把握が困難になりつつある現状を考えると、技術的保護手段を著作物等に施すことが今後ますます必要になると考えられる。

    以上のことから、著作権者等が技術的保護手段を活用することについて著作権法上積極的な意義付けを与え、これを回避する行為については、技術的保護手段の存在によって築かれた著作権者等の権利の実効性や著作物等の流通過程に脅威を与える行為と考えられるため、このような回避行為及びこれに関連する行為を規制することにより、著作権者等の権利の実効性を確保するとともに、著作物等の秩序ある流通過程を維持することが必要ではないかと考えられる。ただし、この規制により著作物等の利用者、電気機器メーカー、汎用機器メーカー等が不当な訴訟のリスクにさらされたりすることがないよう、適切な配慮が必要である。

    一方、技術的保護手段の回避に関する問題に対して著作権法による対応を行うことについては、このような技術的保護手段が、著作物等を保護するだけでなく、単なるデータや保護期間の切れた著作物など権利の対象となる著作物等以外の保護のためにも活用されるものと考えられることから、この問題について著作権法による対応が適当なのかどうかを更に検討する必要があるとの意見も出されたところである。また、暗号化技術など特にアクセスコントロールに係る技術の多くは、今後のデジタル化・ネットワーク化の中で、流通、取引の安全性や秘密保持の確保のような目的で活用されるものでもあることから、著作権法のみならず関係各法分野からの検討も含め、より広い観点からの検討が必要であるとの意見も出された。



    8.規制の対象とすべき行為
    (1) 規制の対象とすべき回避行為
    1. 著作物等の利用との関係について

    技術的保護手段として用いられる技術には、現行の著作権制度により認められている権利を保護するものの他に、使用や受信のように権利としては設けられていない行為についても制限するものがあるが、現時点においては、現行著作権法で認められた権利を保護するために施された技術的保護手段に係る回避行為を規制することが適当である。

    技術的保護手段を回避する行為等を規制の対象とする趣旨は、著作物等の秩序ある流通過程を維持するとともに、著作権者等の権利をより実効あらしめるためであるから、規制の対象とすべき行為としては、基本的には著作権として定められている複製権等の支分権に関連するものに限ることが考えられる。

    さらに、既に技術的保護手段の種類の部分で述べたように、使用や受信といった、著作権法上の支分権の対象となる行為以外の行為を技術的に制限する形態のものもあるため、このような技術を回避する行為等をどう考えるかが問題となる。

    このことについては、使用や受信というような、著作物等の享受について事実上著作権者等の権利を及ぼすべきか否かという問題は、単に技術的保護手段の回避のみに関わる問題ではなく、現行制度全体に影響を及ぼすことがらであること、流通に伴う対価の回収という面からは著作権者等のみでなく、流通関係者等にも関係する問題であり、更に幅広い観点から検討する必要があると考えられること、今後の著作物等の流通・活用形態の変化の動向を見極める必要もあること等の理由から、本ワーキンググループとしては、現時点においては、現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とするのが適当であると考えられる。なお、現行著作権法では、プログラムの違法複製物について、その入手時に違法複製物であることを知っていた場合(知情使用)には、その使用も権利侵害とされていることから、現行法の取り扱いに照らせば、その限りで、違法複製物の使用に係る回避行為も規制の対象となると考えられる。

    一方、アクセスコントロールに係る回避行為については、特に、ネットワークを通じた著作物等の流通形態におけるアクセスコントロールが重要になることからすれば、規制の対象とすべきであるという意見がある。なお、米国のHR2281法案やEUでの検討では著作物等へのアクセス及び受信の技術的保護手段の回避も規制の対象とする方向である一方、米国のS1146法案等ではこれらを規制の対象とはしない方向であるという状況であり、これらの動向にも留意する必要がある。

    また、電子透かし技術については、現在のところは、著作物等の利用自体を技術的に制限しているものではないが、将来はこれを活用して、利用等をコントロールするという方法も考えられているため、その場合には技術的保護手段のひとつとして考慮しなければならないものと思われる。なお、電子透かし技術により著作物等に埋め込まれる内容が著作物等や著作権者等の権利管理情報である可能性があることから、WIPO新条約で規定されている権利管理情報の除去、改変等に対する法的救済という観点からの検討も必要である。

    2. 著作物等の種類等について

    権利の対象となっている著作物等であれば、著作物等の種類、アナログとデジタルのような方式の違い、パッケージかネットワークか放送かという伝達方法の違いによって、技術的保護手段の回避行為に係る規制を限定する必要はないと考えられる。ただし、技術的保護手段はこれらの方式等の違いにより異なる技術が用いられることも考えられるので、このような技術的多様性を考慮した上で回避行為の規制等を検討する必要がある。

    技術的保護手段が施されている著作物等は,プログラムの著作物、映画の著作物、音楽の著作物等多岐にわたっており、また、アナログとデジタルの双方の著作物等に施され、更にCD-ROMのようなパッケージ、ネットワーク、デジタル放送等様々な伝達方法に用いられているところであるが、技術的保護手段の趣旨から考えて、権利の対象となっている著作物等であれば、このような著作物等の種類等によって規制の対象となる回避行為を限定する必要はないものと考えられる。なお、WIPO新条約においてもこのような区別を設けずに全ての著作物を対象にして規定されているところである。ただし、技術的保護手段はこのようなアナログとデジタル、パッケージとネットワークのような方式等の違いにより異なる技術が用いられることも考えられるので、このような技術的多様性を考慮した上で回避行為の規制等を検討する必要がある。

    3. 回避の手段・目的について

    技術的保護手段を回避する行為については、機器等を用いるか否かなどの手段により、規制の対象となるか否かを区別する理由は乏しいと考えられる。また、回避の目的については、現時点では、複製等の利用等を目的としたものに限ることが考えられる。

    技術的保護手段を回避する手段は、機器(装置やチップ等を指す。)のようなハードウェアを使用する場合、ソフトウェアを使用する場合、これらの機器等(機器やソフトウェアを指す。)は使用せず、例えば何らかの方法でシリアルナンバー等を入手して回避行為を行う場合に概ね分類できる。また、これらの手段に使用される機器等については、専ら回避に用いられることが予定されたものと、汎用的なものの2通りがある。

    シリアルナンバーを入手して行う回避行為のように特定の機器等を使用しないで行われる場合や、汎用的な機器等を使用して回避行為を行う場合については、専ら回避に用いられることが予定された機器等をわざわざ入手して行うのではないから規制すべきではないという考え方もあるが、これらの回避行為が著作権者等の権利に与える脅威を考えた場合、機器等を用いるか否かなどの手段により、規制の対象となるか否かを区別する理由は乏しいと考えられる。

    また上記<1>の検討を踏まえると、現時点では、規制の対象とすべき回避行為は、複製等の利用又はプログラムの違法複製物の知情使用(以下、これらを単に「利用等」という。)を目的としたものに限ると考えられる。なおこの場合、権利制限規定の対象となる利用を目的とした場合が問題となるが、このことについては「9.権利制限規定との関係」で詳述する。

    4. 技術的保護手段を施す主体について

    規制すべき回避行為の対象となる技術的保護手段は、基本的には、著作権者等自身が施す場合であり、少なくとも関係のない第三者が施す場合は対象外とするのが適当である。


    技術的保護手段は、著作権者等自身が施すほか、著作権者等からライセンスを得て複製物を作成する者が施す場合、これらとは関係ない第三者が施す場合が考えられる。この場合、技術的保護手段の回避を規制する趣旨が、著作権者等の権利の実効性の確保と著作物等の適正な流通・活用の確保であることから考えると、規制すべき回避行為の対象である技術的保護手段は、基本的には、著作権者等自身が施す場合であり、少なくとも関係のない第三者により施された技術的保護手段は規制の対象から除外されるものと考えられる。また、著作権者等からライセンスを得て複製物の作成を行う者が施す場合については、実態を踏まえ、どの様な場合に対象とすべきか等を更に検討する必要がある。

    5. 規制の対象とすべき回避行為の内容

    規制の対象とすべき回避行為については、現行著作権法により認められた権利を保護するために、著作権者等により、権利の対象となる著作物等に施された技術的保護手段を、当該著作物等の利用等を目的として、回避する行為であると考えられるが、技術的保護手段や回避する行為には様々なものがあり、規制の対象となる行為を規定する際には、その対象が明確となるようにすべきであり、その規定方法については、引き続き検討する必要がある。

    規制の対象とすべき回避行為については、上記<1>から<4>までの内容を踏まえると、現時点においては、現行著作権法により認められた権利を保護するために、著作権者等により、権利の対象となる著作物等に施された技術的保護手段を、当該著作物等の利用等を目的として、回避する行為であると考えられる。
    またそもそも技術的保護手段には、前記「5.技術的保護手段の形態」に基づけば、概ね
    SCMS、CGMS、マクロビジョン方式、コンピュータソフトのオリジナル信号照合、フォーマット形態の変更等のような、著作物等の利用等をコントロールする目的で記録媒体等に組み込まれた特定の信号等を録音録画機器等において認知する方式
    シリアルナンバーの入力等のような、著作物の複製を行う権原を有することを識別する情報を入力することによってのみその利用を可能とする方式
    暗号化技術、CSSのような、基本的には使用防止の技術であるような方式
    のような種類の技術的保護手段があるが、「現行著作権法により認められた権利を保護するために施された技術的保護手段」としては、基本的には上記ア及びイの方式による技術的保護手段が該当すると考えられ、ウの技術的保護手段についてはもともと使用防止の技術的保護手段と考えられているものであることとの関係等を慎重に検討する必要があると考えられる。また、例えばイのような技術的保護手段については、WIPO新条約にいう「効果的な」技術的手段といえるかどうかという点を踏まえ、回避を規制する対象の手段に含めるべきかどうか慎重に検討する必要がある。

    次に上記ア及びイの技術的保護手段を「回避する行為」とは、前記「6.技術的保護手段の回避の形態」に基づけば、概ね
    上記アの方式の技術的保護手段について、特定の信号等やこれを検出するためのプログラムを除去したり、改変したりする行為
    上記イの方式の技術的保護手段について、何らかの方法で識別情報を入手し、入力する行為
    により、技術的保護手段の効果を無効ならしめ、著作物等の利用等を可能にする行為であると考えられる。なおアについては特定の信号等を意図的に無視させる行為についても回避行為に含めるべきとの意見もある。

    以上のような規制の対象とすべき回避行為を法文上規定する場合には、対象が明確となるよう留意する必要がある。このことについては、規制の対象を明確に限定するため、技術的保護手段に該当する技術を政令等で具体的に特定する必要があるという意見、その場合には権利者団体、メーカー団体等や学識経験者を加えた会議で検討するなど適切なプロセスを経るべきであるという意見、さらには特定の技術を施すことを義務付けた上で、その技術を回避する行為を規制の対象とすべきであるという意見が出された一方、技術の特定は今後の技術の急速な発展から見て困難であり、また技術の発展そのものをも阻害するおそれがあるとの意見も出されたところであり、これらの意見を考慮しながら規定の方法について引き続き検討する必要がある。

    (2) 回避行為に使用される機器等の製造、頒布等について

    回避行為に使用される機器等は、その機器等を用いることにより大量の回避行為を可能ならしめることから、著作権者等の権利の実効性を確保し、著作物等の流通・活用の阻害要因を除去するため、規制の対象とすることが考えられる。この場合、規制する機器等は専ら回避行為に用いられることを目的として作成された機器等に限定し、また、少なくともそのような機器等の頒布・提供を規制の対象とする必要があるが、いわゆる汎用機器のような機器の規制にまで及ぶべきではないと考える。

    1. 規制の趣旨
    回避行為の際に用いられる機器等は、その存在だけでは著作権者等の経済的利益に は何の影響ももたらすことはないが、その機器等が1台あるだけで無数の回避行為が可能であり、ひいては無数の無断複製等の違法行為が起こり得ることを考えた場合、実際の回避行為よりも著作権制度や著作物等の流通・活用に与える脅威の度合いはより強いのではないかとも考えられる。したがって、このような回避機器等の製造、頒 布等により無数の回避行為を可能ならしめることについても、著作権者等の権利の実効性を確保し、著作物等の流通・活用の阻害要因を除去するため、規制の対象とすることが考えられる。
    2. 機器等の種類との関係について
    上記4(1) 3で述べたように、機器等を用いた回避行為には、専ら回避行為に使用されることが予定されている機器等で行われるものと、汎用的な機器等で行われる場合がある。

    前者の機器等については、回避行為を行うことを目的とし、またそれを機能とした機器等であり、その機器等を用いる者も回避行為を行うために用いることが明らかであり、正にこれらの機器等が大量の回避行為を誘引するものであるともいえる。したがって、このような回避機器等は、上記[1]の趣旨からみても、規制の対象とすべきであると考えられる。

    この場合、仮に規制の対象となる機器等が、回避のみを唯一の機能、目的とした機器等との限定を付した場合には、機器等の機能のごく一部分に他の機能を付すことや、回避行為に用いる技術により他の行為が可能な場合も考えられ、そのような別の用途が主たる目的と主張されること等により、回避機器等に該当しなくなり、本来の規制の目的が達成されないことになりかねないという点に留意すべきであるが、一方、規制の対象範囲が明確でない場合には、機器等の製造業者等の正当な事業活動を制限しかねない点にも留意すべきであるとの意見もある。

    一方、後者の汎用的な機器等については、回避行為に用いられることが目的であり、かつそれを機能とする機器等ではなく、その汎用機器等の使用者も必ずしも回避行為に使用するとは限らない。また、既にこのような汎用機器等の製造・頒布等を規制することは、今後の情報化社会の発展を阻害することにつながるおそれがあり、実態としても既に大量の汎用機器等が社会において使用されていることから、適当ではないと考えられる。ただし、これらの汎用機器等についても、著作権者等の権利の実効性を確実ならしめ、著作物等の適正な流通・活用の確保を図るためにも、これを用いて技術的保護手段の回避が行われないようにするため、機器等に技術的保護手段が回避されないような仕組み等を組み込むなどの努力がなされることが期待される。なお、この場合、機器の製造業者等の負担が大きくなる場合の情報産業への影響や、それに伴う価格転嫁による一般消費者への影響等、配慮すべき課題が多いことにも留意すべきである。

    また、有体物としての装置等の回避機器の他、現在、ソフトウエアの形でも技術的保護手段を回避するためのプログラムが提供されているため、このような専ら回避を行うことを目的としたプログラムの作成・提供等も規制の対象とすることが適当である。なお、ネットワークでの提供については、どのような行為をもって提供とするのか等の問題がある。

    また、機器等の具体的内容については、ハードウェアとしての機器のほか、当該機器を構成する各部品(キットとして提供される場合)、回避を可能にするために作成されたチップ、ソフトウェア、回避機器の製造方法等の情報が考えられるが、少なくとも専ら回避を行うために使用されることを目的として作成された、完成品としての機器、部品やソフトウェアは規制の対象とすべきと考えられる。

    以上のような点を考慮すると、規制の対象となる回避機器等とは、例えば「専ら技術的保護手段の回避を行うために使用されることを目的として作成された機器、部品又はプログラム」のようになると考えられる。

    (注)部品とは、例えば機器のような単体としてまとまりのある形状のものではないが、それを機器の内部に装着することにより、回避行為が可能となるようなもの(例えば回避行為を可能ならしめるようなチップ)や、回避機器を組み立てるのに必要十分なキットなどを指す。

    なお、回避機器等を法文上規定する場合には、本来規制の対象として考えていない機器等まで規制されないようにするとともに、対象が明確となるよう表現ぶり等に留意する必要がある。

    3. 規制の対象となる行為の範囲
    回避機器等に係る行為を規制する場合には、これらの機器等を流通させることを防止することが必要であるとの観点から、少なくとも機器等が回避行為を行う者の手に渡る時点で規制が及ぶことが必要であり、このためには機器等を頒布・提供することを規制の対象とすることが必要であると考えられる。また、その前段階である機器等の製造、輸入を規制の対象とする場合には、製造しても頒布・提供しなければ著作権者等の権利を脅かすような回避行為が広く行われるおそれはないと考えられることから、頒布する目的での製造、輸入に限るなど、何らかの限定を付すことも考えられる。

    このほか、目的による限定としては、製造、頒布等によって不当な利益を得ていることに重点を置くのであれば、営利目的や業としての行為に限定することも考えられるが、回避のためのソフトウェアの頒布行為が非営利でネットワークなどを通じて無料で行われていることも多く、これらの場合でも規制の対象に含めるのが適当であると考えられるため、刑罰法規の明確性等の要請により限定を付する考え方があり得ることを別とすれば、そのような基準により限定する必要はないのではないかとも考えられる。



    9.権利制限規定との関係

    技術的保護手段の回避行為の規制の趣旨が、著作権者等の権利をより実効あらしめるとともに、技術的保護手段を前提とした著作物等の流通・活用システムを維持することにあることを考えると、基本的には著作物等に施された技術的保護手段を著作権者等の意図に反して回避する行為はすべて規制されるべきであり、また、技術的保護手段の回避を行って著作物等の利用を行う場合は、権利制限規定において許容される公正な利用ではないとも考えられる。一方、個々の権利制限の規定の趣旨等に照らして許容されるかどうか検討すべきという意見や、技術的保護手段との関連だけでなく、権利制限規定そのものの基本的な見直しから議論する必要があるという意見もあり、この点については更に検討を進めることが適当である。

    技術的保護手段は、著作権者等の権利をより実効あらしめるための手段であるとともに、著作物等の流通・活用のために重要な役割を果たすものであるため、技術的保護手段が施されてある状態を保持するための手段として、技術的保護手段の回避行為の規制を行うとともに、その規制を実効あらしめるため、専ら回避行為への使用を目的として作成された機器等の製造、頒布等に係る規制をあわせて行うことが考えられる。

    一方、現行の著作権法では、著作権者等に複製権等の排他的権利を付与する一方で、権利制限規定を設け、著作物の公正利用等様々な観点から、私的使用のための複製、図書館や教育機関での複製、引用等一定の場合には、著作権者等の権利が及ばないとし、著作権者等の許諾がなくとも複製等の利用を行うことは適法とされている。

    このため、現行の権利制限規定の対象となるような複製等の利用の場合であっても、技術的保護手段が施されている著作物等について、技術的保護手段の回避を行って利用を行うことも権利制限規定の範囲内とすることが適当かどうかという問題がある。

    これについては、技術的保護手段の回避行為の規制の趣旨が、著作権者等の権利をより実効あらしめるとともに、技術的保護手段を前提とした著作物等の流通・活用システムを維持することにあることを考えると、基本的には技術的保護手段の回避の目的如何を問わず、著作物等に施された技術的保護手段の回避行為は全て規制されるべきであるとも考えられる。たとえ現行権利制限規定の対象となる利用に伴う回避行為の場合であっても、権利制限規定が設けられている前提が権利制限規定に基づく利用が著作権者等の権利を不当に侵害しない公正な利用であるということであると考えられる以上、著作権者等の権利を保護すること等を目的として施されている技術的保護手段を回避する行為を規制の対象外とすることは適当でないとも考えられる。

    以上は,権利制限の対象となるような利用を行う際の回避行為自体が許されるべきか否かの問題であるが、これに関連し、回避行為に伴う当該利用自体も許されない行為であるかどうかという問題がある。

    そもそも、ベルヌ条約第9条の2によれば、権利制限規定は、<1>著作物の通常の利用を妨げず、かつ、<2>その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件として認められているものである。したがって、技術的保護手段を回避する行為のような、<1>著作物に施された技術的保護手段が保たれたまま流通するという公正な取引ルールに従わず、また、(2)著作権者等が技術的保護手段を施してまで守ろうとする利益を保持できなくするような行為については、このような条約の趣旨に照らしても適法な行為として認めるべきではないのではないかとも考えられる。

    なお、技術的保護手段の回避と特に関係すると思われる権利制限規定としては、私的使用のための複製(第30条)が考えられるが、私的使用のための複製が権利制限の対象となっている理由としては、従来の複製は零細でありかつ劣化することが前提であるとともに、実際問題としても個々人が家庭内で行う複製をコントロールできなかったためであると考えられるため、技術的保護手段により高品質な複製をコントロールできるような場合には、それをあえて回避してまで私的使用のために複製することを認める根拠には乏しいのではないかと考えられる。

    一方、以上のような考え方に対しては、権利制限規定は著作権等の重要な例外として、個々の制度の趣旨にかんがみ認められたものであって、その制度趣旨を支える環境の変化に伴って規定自体について修正を加える必要が生じうることは否定できないとしても、技術的保護手段を施した著作物等を権利制限規定の範囲内で利用することが必ずしも権利者の「正当な利益を不当に害している」とはいえないとの意見、権利制限規定の中で、いわばフェアな回避が許容されなければならない場合があるか、あるとすればどのような要件・効果の下に認められるべきかを検討すべきという意見、そもそも権利制限規定の基本的な見直しから議論すべきとの意見もある。

    このように、技術的保護手段と権利制限規定の関係の問題の解決に当たっては、関連する検討すべき課題が多いことから、さらに関係者の意見を聞くなどして検討を進めることが適当である。



    10.規制の手段
    (1) 一般的な著作権侵害等の規制

    著作権侵害に関する規制には、大別して、損害賠償請求や差止請求による民事的救済と刑事罰があり、これにより、著作権者等の人格的経済的利益の確保や社会的公益の確保が図られている。また、著作権侵害に該当しない行為でも、著作権者等の人格的経済的利益を侵害する行為は著作権侵害とみなされ、規制の対象とされている。更に、著作権等を直接侵害するものではないが、著作権等及びこれがもたらす社会公共の利益を十全に保護するため、一定の行為が規制されている。

    著作権侵害に関する規制の種類としては、大別して、民事的救済と刑事罰がある。民事的救済としては、著作権者等の人格的又は経済的利益を確保するために、第一に民法による損害賠償請求権(第709条)、第二に著作権法に基づく差止請求権(第112条)があり、このほか著作権侵害を故意に行った者に対しては、著作権者等の人格的又は経済的利益を単に個人的な法益としてとらえるだけでなく社会的な法益としてとらえ、その法益の侵害を反社会的な行為としてとらえるという観点から、刑事罰を科すこととしている。

    また、著作権侵害そのものではないが著作権者等の人格的又は経済的利益を侵害することとなる行為を著作権侵害とみなし、民事的救済及び刑事罰の対象としている。具体的には、海賊版の輸入行為、プログラム著作物の違法複製物の業務上の使用及び著作者の名誉又は声望を害する方法による著作物の利用が、著作権等の侵害とみなす行為として規定されている(第112条)。なお、特許法(第101条)及び半導体集積回路の回路配置に関する法律(第23条)にも、侵害行為の準備行為等に当たる行為を権利侵害とみなす規定が設けられている。

    さらに、公正な慣行の確保や取引の安全の確保等の公益的見地から、引用等の場合の出所明示の義務(第48条)、著作者が存しなくなった場合の人格的利益の保護(第60条)、著作者以外の者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の頒布2)の規定が設けられており、これらの規定に違反した者は、刑事罰が科せられることとされている。

    (2) 技術的保護手段の回避行為等に係る規制と現行法との関係

    技術的保護手段の回避行為や回避機器等の製造、頒布等の行為は、著作権者等の権利の実効性の確保と、著作物等の適正・円滑な流通・活用という両方の観点から、規制の在り方を考える必要があるが、これらの行為は複製等の利用等そのものではないため、これらに対する規制を行う場合には、新たな規定を設ける必要がある。

    技術的保護手段を著作物等に施すことは、著作権者等の権利を実効あらしめるとともに、著作物等の適正な流通・活用を確保することを目的としたものであることから、技術的保護手段の回避行為は、著作権者等の権利の実効性を失わしめる行為であるとともに、著作物等の適正・円滑な流通・活用を妨げる行為であるといえる。したがって、技術的保護手段の回避行為について規制する場合には、著作権者等の権利の実効性の確保という著作権者等個々人の救済という観点と、著作物等の適正・円滑な流通・活用という社会公共の利益の保護という観点の双方から検討する必要があると考えられる。

    一方、技術的保護手段を回避する行為は複製等の利用等が行われているわけではないので、著作権侵害そのものに該当するとはいえない。したがって、現行法上は著作権侵害に係る規制を直接適用することはできないため、回避行為を規制するためには、新たに規定を設ける必要がある。

    なお、技術的保護手段の回避行為を著作権侵害とみなす行為と位置づけることも考えられるが、第113条で列挙されている著作権侵害とみなす行為は、例えば既に著作権侵害に相当するような複製行為が行われた場合など、著作権侵害と同視し得る行為のみが規定されており、回避行為のような、いわば事前の準備行為についての規定はないため、特許法等他の法律において事前の準備行為をみなし侵害とする規定が設けられていることも参照しながら、検討する必要がある。

    また、機器等の製造、頒布等の規制についても新たに規定を設ける必要があるが、この場合、機器等の製造、頒布等を行う者自身が回避行為及びこれに伴う利用等を行うわけではないので回避行為を行う者より厳しい規制をすべきではないという考え方と、機器等の製造、頒布等の行為がなければほとんどの回避行為及びこれに伴う利用等が行われないこと、回避行為及びこれに伴う利用等を積極的に誘引しているのは機器等の製造、頒布業者等であるともいえることから、回避行為を行う者自身よりもより厳しく規制を行うべきであるという考え方の2つがあり得ることに留意する必要がある。

    (3) 回避行為等に係る規制の手段

    回避行為及び回避機器等の製造、頒布等の規制の手段については、様々な考え方があり得るが、基本的には、回避行為については対象が個々の著作物等であること、回避機器等については回避機器等が大量の回避行為を可能ならしめるものであり社会全体に与える影響が大きいことを踏まえて検討することが適当である。

    1. 回避行為に係る規制の手段

    ア 民事的救済
    回避行為については、著作権者等の権利・利益の確保という観点から、適切な民事的救済の方法を検討する必要がある。

    既に述べたように、回避行為は複製等の利用等を伴うことが一般的であるので、このような利用等が行われる場合には、当該利用等が著作権侵害に該当し、現行法に基づく損害賠償請求や差止請求により救済されることになる。

    次に、回避行為のみが単独で行われる場合には、回避行為を停止又は予防するための差止請求を行うことを認めることが考えられる。損害賠償請求については、そもそも回避行為自体により損害が生じているか否かについてなお検討する必要がある。

    また、このような規制を行う手法として、回避行為をみなし侵害とする方法や、みなし侵害とせずに直接差止請求の対象とする方法等が考えられる。

    イ 刑事罰
    回避行為が複製等の利用等を伴って行われる場合には、現行法に基づき、著作権侵害として刑事罰の対象となる。

    次に、回避行為自体が単独で行われる場合については、回避行為が、著作権者等の権利・利益を脅かし、個々人に対する侵害にとどまらず、反社会的な行為であるという観点や著作物等の適正な流通・活用の確保を阻害し、一定の社会秩序を害するという観点から刑事罰を科すことが考えられる。なお、この場合、回避行為自体は著作物等の利用等そのものではないこと、個々の回避行為自体は後述する回避機器等の製造、頒布等に比べれば全体の損害に寄与する程度が低いといえるのではないかということ、個々の回避行為を把握することは実際問題として難しい面があることに着目して、個々の回避行為を行う者を刑罰の対象とはしないという選択肢もあり得ると考えられる。

    2. 回避機器等の製造、頒布等の規制の手段

    ア 民事的救済
    回避機器等は、専ら回避行為を行うための機器等であることから、個々の回避行為を防ぐためには、回避機器等の製造、頒布等をも規制の対象とすることが、有効な手段であると考えられる。他方、差止請求が事前の抑止であることを考えると、権利の侵害との間に強度の関連性の認められる行為についてのみ、差止請求を認めるのが適当であると考えられる。

    したがって、当該回避行為に専ら用いられる機器等について、その頒布の停止等を求める差止請求を認めるという方法が考えられる。損害賠償請求については、回避行為の場合と同様の考え方になると思われる。また、このような規制の手法としては回避機器等の頒布をみなし侵害とする方法や、みなし侵害とはせずに差止請求の対象とするという方法が考えられる。ただし、これらの場合には、回避行為の場合と違い、回避機器等による回避行為の対象となる著作物等が特定できるのか、すなわち誰が差止請求を求められるのかという問題がある。

    なお、回避行為が複製等の利用等を伴って行われる場合には、現行法上、差止請求を行うことができ、当該利用等に用いられる回避機器等も廃棄等必要な措置を講じることができるとされているが、この場合、回避機器等の製造、頒布等の停止等まで行うことが可能なのかという問題がある。

    イ 刑事罰
    回避機器等の製造、頒布等が、著作権等及びこれがもたらす社会公共の利益を侵害する危険性がある行為であることから、現行法のみなし侵害と同様の考え方に基づいて刑事罰を科すことが考えられるが、この場合も民事的救済と同様、誰が刑事罰の対象となる行為の被害者なのかが特定しにくいという問題がある。

    一方、回避機器等により社会全体で大量の回避行為やこれに伴う利用等が行われ、著作権者等の権利・利益を著しく害するとともに、技術的保護手段による著作物等の適正な流通・活用を阻害する要因であることに着目し、著作権等及びこれがもたらす社会公共の利益を十全に保護するという観点から、その製造、頒布等について一般的な規制を行うために刑事罰を科すということが考えられ、またその場合は非親告罪とすることが考えられる。

    3. 規制の手段の基本的考え方
    以上のような考え方等があることを考慮すると、基本的には、個々の回避行為については、対象が個々の著作物等であることを踏まえ、また回避機器等の製造、頒布等については、当該機器等が社会全体に与える影響の大きさという点を踏まえ、規制の在り方を検討することが適当ではないかと考える。

    以上



    (参考)
    1.著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ
     (技術的保護・管理関係)委員名簿


    座長 半 田 正 夫  青山学院大学教授
    揖 斐   潔 法務省民事局参事官
    大 塚 祐 也(社)日本電子機械工業会著作権副委員長
    岡   邦 俊 日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
    (北川善太郎 名城大学教授・国際高等研究所副所長 平成9年5月16日~平成9年9月30日、平成9年10月1日~第14期著作権審議会会長)

    木 村   孝 日本弁護士連合会コンピュータ研究委員会
     委員長・弁護士
    木 村   豊(社)日本音楽著作権協会常務理事
    久保田   裕(社)コンピュータソフトウエア著作権協会
     理事・事務局長
    児 玉 昭 義(社)日本映像ソフト協会専務理事・事務局長
    斉 藤   博 専修大学教授
    堺 田 勝 夫(社)日本事務機械工業会著作権等小委員会委員長
    側 見   稔 前・NTTデータ通信(株)知的財産部長
    千 葉 卓 男(社)日本レコード協会常務理事・事務局長
    中 山 信 弘 東京大学教授
    松 田 政 行 日本弁護士連合会知的所有権委員会委員・弁護士
    紋 谷 暢 男 成蹊大学教授
    山 地 克 郎(社)日本電子工業振興協会法的問題専門委員会
     委員長


    2.著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ
     (技術的保護・管理関係)審議経過


    第1回会議 平成9年5月16日
    検討事項及び検討の進め方について
    第2回会議 平成9年7月2日
    コピープロテクション技術等の現状について(1)
    ○コンピュータ・プログラム分野
    ○録音機器・録音媒体分野
    第3回会議 平成9年7月31日
    コピープロテクション技術等の現状について(2)
    ○録画機器・録画媒体分野
    ○デジタル送信分野
    第4回会議 平成9年9月17日
    コピープロテクション技術等の現状について(3)
    ○現状のまとめ
    第5回会議 平成9年10月31日
    技術的保護手段の意義等について
    第6回会議 平成9年11月12日
    権利制限規定との関係及び規制の対象とすべき技術的保護手段の回避行為ついて
    第7回会議 平成9年11月27日
    規制の手段について
    第8回会議 平成9年12月25日
    技術的保護手段、技術的保護手段の回避及び回避機器の対象範囲について
    第9回会議 平成10年1月20日
    ワーキング・グループ中間まとめ(案)について
    第10回会議 平成10年2月9日
    ワーキング・グループ中間まとめ(案)について
    第11回会議 平成10年2月20日
    ワーキング・グループ中間まとめ(案)について


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