コピープロテクションを始めとした著作物等の利用や使用を技術的に制限する手段(以下、単に「技術的保護手段」という。)を解除、回避、迂回、無視等することにより、技術的保護手段の効果を無効にすること(以下、単に「技術的保護手段の回避」という。)については、以下のように数年前から既に検討がなされてきている。
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(1)「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する 調査研究協力者会議」における検討 |
(平成5年7月~平成6年5月) |
平成6年5月に公表された「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議」の報告においては、コンピュータ・プログラムに係るコピープロテクション回避機器等の製造、販売等に関する規制を著作権法上設けることの当否について、主にゲームソフトやビジネスソフトに関し、諸外国等の状況も含めて検討が行われたが、結論としては、「この問題について何らかの制度上の対応が必要であるとの意見が有力であったが、具体的な対応については、プログラムのみでなく、ビデオのコピー・ガードやデジタル録音のコピー制限の問題などを含めて検討する必要があるため、著作権審議会において関係者からの意見を聴取しつつ別途早急にこの問題を検討することが適当であると考える」とされた。
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(2) マルチメディア小委員会ワーキング・グループにおける検討 |
(平成6年3月~平成7年2月) |
平成4年に設けられた著作権審議会マルチメディア小委員会では、平成6年3月に近年のデジタル化・ネットワーク化に関わる著作権制度上の問題全般について検討するためのワーキング・グループを設け、平成7年2月には検討経過報告が公表された。
同報告においては、著作物等の複製と受信に係る技術的保護手段の回避機器等の規制に係る検討内容が示され、複製に係る技術的保護手段の回避機器等の規制については、そのような機器等を製造又は頒布する行為は,民事救済及び刑事罰の対象とするか、又は刑事罰のみの対象とするという「考えられる対応例」が挙げられた。また「考察」においては、この問題については何らかの対応を行うことが適当であるということには異論がなかったが、私的使用のための複製の権利制限規定との整合性、著作物の通常の利用のために必要な正当と認められる複製との関係,保護期間を経過した著作物や著作物ではない情報まで事実上保護されるか否か、技術的保護手段の回避に関する情報の開示についての取扱い等について意見が出された。なお、私的使用のための複製についての権利制限規定の見直しに関しても、その対応例のひとつとして、技術的保護手段を回避する機器等を用いて複製する場合については、権利制限規定で許容される複製とはしないとする案が挙げられている。
また,受信に係る技術的保護手段の回避機器等の規制については、「考えられる対応例」は複製に係る技術的保護手段と同様であるが、「考察」においては,複製に係る技術的保護手段で出された意見に加えて、現行著作権法上、単なる受信行為については権利を有しないこととされていることとの整合性についての意見などが出された。
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(3) マルチメディア小委員会における検討 |
(平成8年10月~平成9年2月) |
マルチメディア小委員会では、平成7年2月の上記検討経過報告について広く意見を求め、これを踏まえた上で法改正を行うべき課題の特定等を行う予定であったが、WIPO(世界知的所有権機関)における著作権関係新条約策定の作業日程が急に早められたため、国際的動向の趨勢を見極めるために一時審議を中断し、国際的な枠組みの方向性がある程度定まった平成8年10月に審議を再開し、早急に対応すべき課題について集中的に検討を行うこととした。その後、WIPO新条約が平成8年12月に採択されたことも踏まえて、平成9年2月に審議経過報告がまとめられた。
同報告では、コピープロテクション等技術的保護手段の回避についても取り上げ、この問題については、ゲームソフトの場合のように、回避機器等使用者による著作権者の利益を著しく害する複製等が行われる状況を誘引する放置しがたい行為があることについては意見は一致しており、コピープロテクションについて著作権制度上適切な位置づけを検討することは重要な課題であると考えられるが、対象となるコピープロテクションやその回避機器等の範囲を慎重に検討する必要があること、また回避機器等を使用して行う複製を第30条等の権利制限規定で認められる複製の範囲外と考えるか否か、回避機器等の製造、販売等を行う業者の責任をどのように考えるかについて更に議論を尽くす必要があるため、コピープロテクション回避機器等への対処については、「デジタル化の進展の中で著作権等の保護、更には権利管理への技術の活用の重要性が増大することを考慮するとともに、国際的な検討の動向や技術の動向に配慮しつつ、早急に結論を得るよう、引き続き広い視点に立った検討を行う必要がある」とされた。 |
コンピュータ・プログラム |
ア ゲームソフト(パソコン用、専用機用) |
オリジナル信号照合 ゲームソフトの本体にオリジナルであるかどうかを識別する信号を組み込んでおき、ゲームソフトを作動させる機器にその信号を認識させる機器を装着してオリジナルである信号を持たないゲームソフト(海賊版コピーなど)の使用を不可能にするシステム。 |
フォーマットの形態の変更等 記録媒体に細工を行い、オリジナルのソフトでなければ起動しないようにすることにより、複製物の使用を不可能にするシステム。 |
イ ビジネスソフト |
インストール時のシリアルナンバー等入力 ビジネスソフトをコンピュータにインストールする際に,そのビジネスソフトの個々の製品に割り当てられた特定のシリアルナンバーや、ビジネスソフトに付属しているマニュアルに記された特定の記号等を入力しなければ、インストールを不可能にするシステム。 |
音楽CD及びデジタル録音機器・媒体 |
SCMS(Serial Copy Management System) 音楽CDの特定の箇所に特定のデジタル信号を組み込み、この信号をデジタル録音機器が識別することにより、1世代のみのデジタル複製を可能とし、2世代目以降の複製を不可能とするシステム(オリジナルの音楽CDに組み込まれた信号は「コピー1世代可」という内容であるが、1世代目の複製によってできたデジタル録音媒体に組み込まれている信号は「コピー不可」という内容に変更される)。 |
映画 |
ア アナログビデオ |
マクロビジョン方式(擬似シンクパルス方式、カラーストライプ方式) アナログビデオテープのアナログ信号の特定部分に一定の信号を組み込むことにより、このビデオテープを録画しても、録画機器がその信号を認識しながら録画するため、複製後の画面を再生すると、この信号の影響で画面が鑑賞に堪えないものとなるシステム。また、デジタル録画機器で録画しようとしても、機器がこの信号を認識し録画ができない。 |
イ DVDソフト |
CGMS(Copy Generation Management System) DVDのデジタル記憶媒体の特定の箇所に特定のデジタル信号(<1>コピー不可、<2>コピー1世代のみ可、<3>コピー自由(無制限)の3通り)を組み込み、この信号をデジタル録画機器が識別することにより、そのデジタル信号が指示するよう に複製をコントロールするシステム。なお、デジタル放送にもCGMS方式の採用が検討されている。 |
マクロビジョン方式上記アで述べたものと同じ働きをする信号を機器からアナログ出力時に付加することで、アナログ録画機器で作成された録画物が鑑賞に堪えないものとなるシステム。なお、デジタル放送のPPV(Pay Per View)番組にはこの方式が採用されている。 |
CSS(Content Scramble System)著作物等のデジタル信号を暗号化することにより、再生機器に組み込まれた機器による復号化の操作を行わない限り、著作物等として鑑賞することができないようにするシステム。 DVDソフトでは、CGMSとCSSが組み込まれており、たとえCGMSの信号が無効化されても、CSSの復号化が行われない限り鑑賞できないという技術を導入しており、これにより違法コピーされても復号化する鍵がない場合は再生することができないので、無断複製物の使用防止の効果もあると考えられる。 |
送信される静止画・音楽等 |
電子透かし 画像等のデジタル信号のある特定の部分に、人間の目には識別できない程度の影響しか画像等に与えずに、デジタル信号により作品の番号や販売者名、著作者名等の情報を組み込む技術。この信号を読み込む特定のソフトを使用することにより、その画像等が真正なものかどうか等が明らかになるため、著作物等の不正利用を発見することが技術的に可能となり、著作物等の無断複製等を心理的に抑止する効果がある。 最近では、電子透かしが情報を画像等の全体に埋め込むことでその改竄や 除去を困難にしているという性質に着目して、複製をコントロールするための特定の信号を組み込むために活用しようとする考えもある。 |
暗号化技術(公開鍵暗号方式、共通鍵暗号方式) 著作物等を暗号化することにより、特定の鍵を使わなければ復号化できず、著作物等を使用できない技術。この技術は、一般的な使用を技術的に制限するとともに、ないという点からは、無断複製物の使用防止の一つともいえると考えられる。 |
以上のように、技術的保護手段には様々な種類のものがあるが、その一方で、その技術的保護手段を回避するための手段として、次のようなものが存在する。 |
1. 複製作業不能型の回避 |
ア SCMS、CGMS 複製防止信号の改変、除去等により、複製作業が可能な状態にする。SCMSについては、専用の回避機器が市販されているが、CGMSについては、まだ新しい方式であることもあり、現時点では回避機器は市販されていないが、今後その出現が予想される。 |
イ シリアルナンバー等入力 シリアルナンバー等を入手し、入力することにより、複製作業が可能な状態にする。 |
2. 複製作業妨害型の回避(マクロビジョン方式) |
画面全体を黒くする信号を除去することにより、画像を正常な状態に戻す。専用の回避機器が市販されている。 |
3. 複製物価値減退・使用不能型の回避 |
ア マクロビジョン方式 画像を乱す信号を除去することにより、画像の乱れをなくす。専用の回避機器が市販されている。 |
イ 暗号化技術、CSS 暗号を解読し、復号化することにより、使用可能にする。ただし、暗号化技術は著しく向上しつつあり、その解読には莫大な経費や機器が必要であるともいわれているが、民生分野で用いられる暗号技術はコスト・設計等の観点から限界があるとも考えられる。 |
ウ オリジナル信号照合 海賊版等オリジナル信号のない複製物を、特定の機器を使い、オリジナル信号を有するものと誤認させて作動させる。各種ゲーム専用機に応じ、様々な回避機器が市販されている。 |
エ フォーマット形態の変更等 ソフトを起動させるときに特定のフォーマット等を検出するプログラムを削除したり、迂回することによって無効にするプログラムを用いて複製物の使用を可能にする。機器を用いる場合と、ソフトウェアを用いる場合がある。 |
4. 複製痕跡残留型の回避(電子透かし) |
画像等から痕跡の位置を特定した後,改変する。ただし、現在は画像等の全体に施す方式が採られているため、実行は事実上困難。 |
規制の対象とすべき回避行為については、上記<1>から<4>までの内容を踏まえると、現時点においては、現行著作権法により認められた権利を保護するために、著作権者等により、権利の対象となる著作物等に施された技術的保護手段を、当該著作物等の利用等を目的として、回避する行為であると考えられる。 またそもそも技術的保護手段には、前記「5.技術的保護手段の形態」に基づけば、概ね |
ア | SCMS、CGMS、マクロビジョン方式、コンピュータソフトのオリジナル信号照合、フォーマット形態の変更等のような、著作物等の利用等をコントロールする目的で記録媒体等に組み込まれた特定の信号等を録音録画機器等において認知する方式 |
イ | シリアルナンバーの入力等のような、著作物の複製を行う権原を有することを識別する情報を入力することによってのみその利用を可能とする方式 |
ウ | 暗号化技術、CSSのような、基本的には使用防止の技術であるような方式 |
のような種類の技術的保護手段があるが、「現行著作権法により認められた権利を保護するために施された技術的保護手段」としては、基本的には上記ア及びイの方式による技術的保護手段が該当すると考えられ、ウの技術的保護手段についてはもともと使用防止の技術的保護手段と考えられているものであることとの関係等を慎重に検討する必要があると考えられる。また、例えばイのような技術的保護手段については、WIPO新条約にいう「効果的な」技術的手段といえるかどうかという点を踏まえ、回避を規制する対象の手段に含めるべきかどうか慎重に検討する必要がある。
次に上記ア及びイの技術的保護手段を「回避する行為」とは、前記「6.技術的保護手段の回避の形態」に基づけば、概ね |
ア | 上記アの方式の技術的保護手段について、特定の信号等やこれを検出するためのプログラムを除去したり、改変したりする行為 |
イ | 上記イの方式の技術的保護手段について、何らかの方法で識別情報を入手し、入力する行為 |
により、技術的保護手段の効果を無効ならしめ、著作物等の利用等を可能にする行為であると考えられる。なおアについては特定の信号等を意図的に無視させる行為についても回避行為に含めるべきとの意見もある。
以上のような規制の対象とすべき回避行為を法文上規定する場合には、対象が明確となるよう留意する必要がある。このことについては、規制の対象を明確に限定するため、技術的保護手段に該当する技術を政令等で具体的に特定する必要があるという意見、その場合には権利者団体、メーカー団体等や学識経験者を加えた会議で検討するなど適切なプロセスを経るべきであるという意見、さらには特定の技術を施すことを義務付けた上で、その技術を回避する行為を規制の対象とすべきであるという意見が出された一方、技術の特定は今後の技術の急速な発展から見て困難であり、また技術の発展そのものをも阻害するおそれがあるとの意見も出されたところであり、これらの意見を考慮しながら規定の方法について引き続き検討する必要がある。 |
(2) 回避行為に使用される機器等の製造、頒布等について |
1. 規制の趣旨 |
回避行為の際に用いられる機器等は、その存在だけでは著作権者等の経済的利益に は何の影響ももたらすことはないが、その機器等が1台あるだけで無数の回避行為が可能であり、ひいては無数の無断複製等の違法行為が起こり得ることを考えた場合、実際の回避行為よりも著作権制度や著作物等の流通・活用に与える脅威の度合いはより強いのではないかとも考えられる。したがって、このような回避機器等の製造、頒 布等により無数の回避行為を可能ならしめることについても、著作権者等の権利の実効性を確保し、著作物等の流通・活用の阻害要因を除去するため、規制の対象とすることが考えられる。 |
2. 機器等の種類との関係について |
上記4(1) 3で述べたように、機器等を用いた回避行為には、専ら回避行為に使用されることが予定されている機器等で行われるものと、汎用的な機器等で行われる場合がある。
前者の機器等については、回避行為を行うことを目的とし、またそれを機能とした機器等であり、その機器等を用いる者も回避行為を行うために用いることが明らかであり、正にこれらの機器等が大量の回避行為を誘引するものであるともいえる。したがって、このような回避機器等は、上記[1]の趣旨からみても、規制の対象とすべきであると考えられる。
この場合、仮に規制の対象となる機器等が、回避のみを唯一の機能、目的とした機器等との限定を付した場合には、機器等の機能のごく一部分に他の機能を付すことや、回避行為に用いる技術により他の行為が可能な場合も考えられ、そのような別の用途が主たる目的と主張されること等により、回避機器等に該当しなくなり、本来の規制の目的が達成されないことになりかねないという点に留意すべきであるが、一方、規制の対象範囲が明確でない場合には、機器等の製造業者等の正当な事業活動を制限しかねない点にも留意すべきであるとの意見もある。
一方、後者の汎用的な機器等については、回避行為に用いられることが目的であり、かつそれを機能とする機器等ではなく、その汎用機器等の使用者も必ずしも回避行為に使用するとは限らない。また、既にこのような汎用機器等の製造・頒布等を規制することは、今後の情報化社会の発展を阻害することにつながるおそれがあり、実態としても既に大量の汎用機器等が社会において使用されていることから、適当ではないと考えられる。ただし、これらの汎用機器等についても、著作権者等の権利の実効性を確実ならしめ、著作物等の適正な流通・活用の確保を図るためにも、これを用いて技術的保護手段の回避が行われないようにするため、機器等に技術的保護手段が回避されないような仕組み等を組み込むなどの努力がなされることが期待される。なお、この場合、機器の製造業者等の負担が大きくなる場合の情報産業への影響や、それに伴う価格転嫁による一般消費者への影響等、配慮すべき課題が多いことにも留意すべきである。
また、有体物としての装置等の回避機器の他、現在、ソフトウエアの形でも技術的保護手段を回避するためのプログラムが提供されているため、このような専ら回避を行うことを目的としたプログラムの作成・提供等も規制の対象とすることが適当である。なお、ネットワークでの提供については、どのような行為をもって提供とするのか等の問題がある。
また、機器等の具体的内容については、ハードウェアとしての機器のほか、当該機器を構成する各部品(キットとして提供される場合)、回避を可能にするために作成されたチップ、ソフトウェア、回避機器の製造方法等の情報が考えられるが、少なくとも専ら回避を行うために使用されることを目的として作成された、完成品としての機器、部品やソフトウェアは規制の対象とすべきと考えられる。
以上のような点を考慮すると、規制の対象となる回避機器等とは、例えば「専ら技術的保護手段の回避を行うために使用されることを目的として作成された機器、部品又はプログラム」のようになると考えられる。 |
(注)部品とは、例えば機器のような単体としてまとまりのある形状のものではないが、それを機器の内部に装着することにより、回避行為が可能となるようなもの(例えば回避行為を可能ならしめるようなチップ)や、回避機器を組み立てるのに必要十分なキットなどを指す。 |
なお、回避機器等を法文上規定する場合には、本来規制の対象として考えていない機器等まで規制されないようにするとともに、対象が明確となるよう表現ぶり等に留意する必要がある。 |
3. 規制の対象となる行為の範囲 |
回避機器等に係る行為を規制する場合には、これらの機器等を流通させることを防止することが必要であるとの観点から、少なくとも機器等が回避行為を行う者の手に渡る時点で規制が及ぶことが必要であり、このためには機器等を頒布・提供することを規制の対象とすることが必要であると考えられる。また、その前段階である機器等の製造、輸入を規制の対象とする場合には、製造しても頒布・提供しなければ著作権者等の権利を脅かすような回避行為が広く行われるおそれはないと考えられることから、頒布する目的での製造、輸入に限るなど、何らかの限定を付すことも考えられる。
このほか、目的による限定としては、製造、頒布等によって不当な利益を得ていることに重点を置くのであれば、営利目的や業としての行為に限定することも考えられるが、回避のためのソフトウェアの頒布行為が非営利でネットワークなどを通じて無料で行われていることも多く、これらの場合でも規制の対象に含めるのが適当であると考えられるため、刑罰法規の明確性等の要請により限定を付する考え方があり得ることを別とすれば、そのような基準により限定する必要はないのではないかとも考えられる。 |
1. 回避行為に係る規制の手段 |
ア 民事的救済 回避行為については、著作権者等の権利・利益の確保という観点から、適切な民事的救済の方法を検討する必要がある。
既に述べたように、回避行為は複製等の利用等を伴うことが一般的であるので、このような利用等が行われる場合には、当該利用等が著作権侵害に該当し、現行法に基づく損害賠償請求や差止請求により救済されることになる。
次に、回避行為のみが単独で行われる場合には、回避行為を停止又は予防するための差止請求を行うことを認めることが考えられる。損害賠償請求については、そもそも回避行為自体により損害が生じているか否かについてなお検討する必要がある。
また、このような規制を行う手法として、回避行為をみなし侵害とする方法や、みなし侵害とせずに直接差止請求の対象とする方法等が考えられる。 |
イ 刑事罰 回避行為が複製等の利用等を伴って行われる場合には、現行法に基づき、著作権侵害として刑事罰の対象となる。
次に、回避行為自体が単独で行われる場合については、回避行為が、著作権者等の権利・利益を脅かし、個々人に対する侵害にとどまらず、反社会的な行為であるという観点や著作物等の適正な流通・活用の確保を阻害し、一定の社会秩序を害するという観点から刑事罰を科すことが考えられる。なお、この場合、回避行為自体は著作物等の利用等そのものではないこと、個々の回避行為自体は後述する回避機器等の製造、頒布等に比べれば全体の損害に寄与する程度が低いといえるのではないかということ、個々の回避行為を把握することは実際問題として難しい面があることに着目して、個々の回避行為を行う者を刑罰の対象とはしないという選択肢もあり得ると考えられる。 |
2. 回避機器等の製造、頒布等の規制の手段 |
ア 民事的救済 回避機器等は、専ら回避行為を行うための機器等であることから、個々の回避行為を防ぐためには、回避機器等の製造、頒布等をも規制の対象とすることが、有効な手段であると考えられる。他方、差止請求が事前の抑止であることを考えると、権利の侵害との間に強度の関連性の認められる行為についてのみ、差止請求を認めるのが適当であると考えられる。
したがって、当該回避行為に専ら用いられる機器等について、その頒布の停止等を求める差止請求を認めるという方法が考えられる。損害賠償請求については、回避行為の場合と同様の考え方になると思われる。また、このような規制の手法としては回避機器等の頒布をみなし侵害とする方法や、みなし侵害とはせずに差止請求の対象とするという方法が考えられる。ただし、これらの場合には、回避行為の場合と違い、回避機器等による回避行為の対象となる著作物等が特定できるのか、すなわち誰が差止請求を求められるのかという問題がある。
なお、回避行為が複製等の利用等を伴って行われる場合には、現行法上、差止請求を行うことができ、当該利用等に用いられる回避機器等も廃棄等必要な措置を講じることができるとされているが、この場合、回避機器等の製造、頒布等の停止等まで行うことが可能なのかという問題がある。 |
イ 刑事罰 回避機器等の製造、頒布等が、著作権等及びこれがもたらす社会公共の利益を侵害する危険性がある行為であることから、現行法のみなし侵害と同様の考え方に基づいて刑事罰を科すことが考えられるが、この場合も民事的救済と同様、誰が刑事罰の対象となる行為の被害者なのかが特定しにくいという問題がある。
一方、回避機器等により社会全体で大量の回避行為やこれに伴う利用等が行われ、著作権者等の権利・利益を著しく害するとともに、技術的保護手段による著作物等の適正な流通・活用を阻害する要因であることに着目し、著作権等及びこれがもたらす社会公共の利益を十全に保護するという観点から、その製造、頒布等について一般的な規制を行うために刑事罰を科すということが考えられ、またその場合は非親告罪とすることが考えられる。 |
3. 規制の手段の基本的考え方 |
以上のような考え方等があることを考慮すると、基本的には、個々の回避行為については、対象が個々の著作物等であることを踏まえ、また回避機器等の製造、頒布等については、当該機器等が社会全体に与える影響の大きさという点を踏まえ、規制の在り方を検討することが適当ではないかと考える。 |
以上 |
2.著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ (技術的保護・管理関係)審議経過
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第1回会議 平成9年5月16日 検討事項及び検討の進め方について |
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第2回会議 平成9年7月2日 コピープロテクション技術等の現状について(1) ○コンピュータ・プログラム分野 ○録音機器・録音媒体分野 |
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第3回会議 平成9年7月31日 コピープロテクション技術等の現状について(2) ○録画機器・録画媒体分野 ○デジタル送信分野 |
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第4回会議 平成9年9月17日 コピープロテクション技術等の現状について(3) ○現状のまとめ |
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第5回会議 平成9年10月31日 技術的保護手段の意義等について |
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第6回会議 平成9年11月12日 権利制限規定との関係及び規制の対象とすべき技術的保護手段の回避行為ついて |
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第7回会議 平成9年11月27日 規制の手段について |
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第8回会議 平成9年12月25日 技術的保護手段、技術的保護手段の回避及び回避機器の対象範囲について |
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第9回会議 平成10年1月20日 ワーキング・グループ中間まとめ(案)について |
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第10回会議 平成10年2月9日 ワーキング・グループ中間まとめ(案)について |
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第11回会議 平成10年2月20日 ワーキング・グループ中間まとめ(案)について |