○著作権審議会権利の集中管理小委員会専門部会―中間まとめ―

     著作権審議会権利の集中管理小委員会専門部会
    平成11年7月 文化庁



    目 次
    はじめに ―問題の所在―
    第1章集中管理とは何か
    第1節 集中管理の範囲
    第2節 集中管理の意義
    第3節 技術革新と著作権管理
    第2章現行制度及び集中管理の現状の概要
    第1節現行制度の概要

    1 著作権に関する仲介業務に関する法律(仲介業務法)
    2 商業用レコードの二次使用料等に係る指定団体制度
    3 私的録音録画補償金に係る指定管理団体制度
    第2節 集中管理の現状の概要

    1 著作権
    2 実演家の権利
    3 レコード製作者の権利
    4 著作権等の共同行使
    第3章著作権制度審議会答申の概要
    第1節 見直しの背景
    第2節 答申の骨子
    第4章外国の法制度及び集中管理団体の現状
    第5章著作権の集中管理制度のあり方
    第1節 集中管理に関する法的基盤整備の必要性
    第2節 法的基盤整備に関する基本方針
    第3節 法的基盤整備の対象とすべき範囲
    第4節具体的な法的基盤整備の内容

    1 業務の実施
    2 使用料等の規制
    3 紛争処理制度
    第5節 集中管理の分散化と新たな集中管理の可能性
    第6章著作隣接権の集中管理制度のあり方
    第7章指定団体制度等のあり方
    第8章その他の集中管理に関する問題

    1 著作権等の集中管理と権利情報の集中管理
    2 文化目的、社会目的等の共通目的基金の創設
    3 著作権等に係る登録制度の整備
    4 集中管理団体における職員の資質の向上
    5 集中管理団体協議会(仮称)の設立
    添付資料
    著作権審議会権利の集中管理小委員会・専門部会名簿

    著作権審議会権利の集中管理小委員会・専門部会審議経過



    はじめに ―問題の所在―
    著作権の集中管理は、著作権を保護する一方で著作物の利用の円滑化を図る最適な方法の一つとして、古くから発達してきた。
    世界で最古の集中管理団体は、フランスの演劇作家・作曲家協会(SACD)であるといわれているが、その協会の前身である演劇法律事務所は、既に1777年に創設されている。協会設立の発端は、著作者の了解を得ずに上演・演奏を行っていた劇場との訴訟に勝訴したことであり、その後同協会は地方に代理人をおき、劇場との契約を進めた。また、音楽の分野では、1851年に創設されたフランスの作詞家・作曲家・出版者協会(SACEM)が最初である。同協会もパリのコンサート・カフェでの無断演奏訴訟に勝訴したのが協会創設のきっかけである。その後、音楽の演奏権に関する集中管理団体は、欧州を中心に次々と創設された。

    さらに、集中管理は、著作物の利用手段の開発普及とともに発展拡大していくことになる。例えばレコードの発明普及により録音権が、放送技術の開発により放送権が認められることになると、必要に応じ、集中管理団体が新たに創設され又は既存の団体が業務を拡大することにより、これらの権利の集中管理を行うこととなった。

    我が国では、昭和14年の「著作権に関する仲介業務に関する法律」(昭和14年法律67号)(以下「仲介業務法」という)の制定と同時に音楽については大日本音楽著作権協会(現 日本音楽著作権協会)が、小説については大日本文芸著作権保護同盟(現 日本文芸著作権保護同盟)が設立され、その後も脚本に関し仲介業務法に基づく二つの集中管理団体が設立され現在に至っている。

    著作物は、無体物であるため、一つの作品を広範な利用者が利用しうるという特質を有する。そのことは一面では、無断利用が広範に行われ、その実態を把握しにくいという脆弱性も有している。このような課題を克服するため、著作物利用手段の開発普及とともに著作権の集中管理もその取扱いを広げていったのである。最近では、音楽に限らず、文芸作品、美術作品、実演、レコードなど広範囲の分野において集中管理が定着しつつある

    この著作権又は著作隣接権(以下「著作権等」という。)の集中管理については、集中管理団体の権利濫用を防止するなどの観点から、その業務運営などについて一定の規制を設けている国や、著作権制度の中で使用料等の紛争について紛争処理の制度を整備している国が多い。 我が国においては、著作権の集中管理に関しては、仲介業務法による仲介業務制度が、また、著作権法では実演家又はレコード製作者に係る権利などの行使について指定団体制度等が設けられ、一定の規制が行われているところであるが、特に仲介業務法については、昭和14年の制定以来基本的に改正されていないため、規制の対象となる著作物の範囲や、業務実施・使用料に係る規制の内容が現在の著作物の利用実態等に適合していないのではないかという問題が指摘されている。

    また、政府全体における規制緩和政策の観点からは、経済的規制については原則廃止、社会的規制は必要最小限度に限定との原則に基づき、公的規制の見直しが求められている中で、仲介業務法についても、規制緩和の観点から何らかの見直しが求められるところである。

    これらを背景として、著作権審議会は、仲介業務法を中心とした著作権等の集中管理制度全体のあり方について、著作権等の保護を確保するとともに利用の便宜にも留意しつつ総合的に検討するため、平成6年8月に権利の集中管理小委員会(主査:紋谷暢男成蹊大学教授)を設置した。同小委員会は、平成7年4月、研究者、弁護士などの専門家から構成される専門部会(部会長:紋谷暢男成蹊大学教授)を設置し、集中管理に係る現状の把握と課題の整理を行わせることとした。

    本専門部会では、関係団体からのヒアリング等により集中管理の実態把握に努めるとともに、利用関係団体に対するアンケート調査を実施し、利用者側の意見の把握にも努め、慎重に審議を行った。

    この中間まとめは、本専門部会におけるこれまでの議論を踏まえ、今後考えられうる制度上の対応について、専門部会として基本的な方向性を提案するとともに、さらに検討すべき問題点を整理したものである。今後、この提案に対して、広く各方面から御意見が寄せられることを期待するものである。


    第1章 集中管理とは何か
    第1節 集中管理の範囲
    (概念図は資料1参照)
    仲介業務法では、仲介業務を次のように定義している。
    (定義)
    第1条
    (1)本法において著作権に関する仲介業務と称するは著作物の出版、翻訳、興行、放送、映画化、録音その他の方法による利用に関する契約につき、著作権者のために代理又は媒介を業としてなすをいう。
    (2)著作権の移転を受け他人のために一定の目的に従い著作物を管理するの行為を業としてなすはこれを著作権に関する仲介業務とみなす。
    (2)(略)
    また、1989(平成元)年、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局が独自にまとめた研究報告書「著作権及び著作隣接権の集中管理」によれば、著作権等の権利の管理形態は、権利者自身が管理する「自己管理」と権利者が管理機関に権利の行使を委任する「集中管理」に大別され、その「集中管理」については、管理機関が権利者から権利行使の委託を受け、「著作物の使用を監視し、使用を希望する者と交渉し、適当な使用料と交換に許諾証を発行し、使用料を徴収し、権利者に分配する」ことと定義している。

    本専門部会は、仲介業務法の定義及び上記WIPO国際事務局の報告内容を参考として、検討対象とする『集中管理』の範囲を次のように設定することとする。
    集中管理の典型的形態としては、多数の権利者から、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(以下「著作物等」という。)に係る権利の行使に関する委託等を受け、著作物等の利用を監視し、利用者と交渉し許諾を与え、使用料を徴収し、委託者に分配することを業として行うこととする。
    「許諾を与え」とは、集中管理団体が許諾を与える場合はもちろんのこと、媒介のように集中管理団体の仲立により直接権利者が許諾を与える場合も含めるものとする。
    権利の行使に関する委託等を受ける行為としては、仲介業務法の定めに準じて著作物等の利用契約について代理又は媒介を引き受ける行為及び著作権等の信託(著作権等の処分を除く)を引き受ける行為を想定しているが、加えて、法律上は自己が権利義務の主体となるが、その経済的効果は他人に帰属することとなる間接代理の引受行為である取次(商法第502条)も含めるものとする。また、作詞家・作曲家と音楽出版者との間における著作権者に対する使用料の支払いや第三者への再譲渡の制限、譲渡期間の設定などの条件を付した著作権の譲渡も含めるものとする。
    許諾するかどうか又は使用料等の許諾条件をどうするかの決定については、集中管理団体に一任されているか、委託者に留保されているかを問わない。
    許諾権以外の権利(報酬請求権等)の集中管理も含むものとする。この場合、利用者に対する許諾行為は存在しないことになる。
    著作物等の利用の監視は、無断利用者を発見した場合に、注意を喚起し、許諾手続を行うことを要求する程度で足りる。
    集中管理の態様により、集中管理団体による利用の監視、利用者との交渉又は使用料の徴収・分配が行われない場合についても集中管理の概念に含める。
    これに対し、自らの権利を自らが管理することや自らが経営する会社など本人と同一視しうる会社により自己の著作物の管理を行わせることを、『個別管理』と位置付けることとする。

    第2節 集中管理の意義
    著作権等については、排他的・独占的権利にもかかわらず、所有権などの有体物に対する支配権や、物の発明に関する特許権のようにそれを利用するためには一定の製造設備等が必要であり、権利者がその利用実態を把握しやすいものとは異なり、特別の製造設備等を有しない一般人でも無断利用が容易かつ広範に行われやすいとの特性を持つ。特に音楽の演奏のような無形的な利用については、誰でも利用することができ、また利用後に無断利用の証拠が残らないことから、個人で権利を管理することは事実上不可能に近い。

    このように著作権等はもともと管理が難しい権利であるが、集中管理は、その歴史が示すとおり、利用者側の著作権尊重の意識の低い状況の中で無断利用が横行したことを契機に、これに対抗し権利者自身が自らの権利を守るために始めたものであり、現在においても集中管理団体は権利者団体である場合がほとんどであることにもあらわれている。

    しかし、著作物利用手段の開発普及とともに、利用者の著作権等に対する意識も徐々に高まり、それに伴って、利用者が適法に著作物等を利用するために簡易迅速な手続きでかつ適正な使用料で使いたいとする要求も生じてきたところから、集中管理は、一方で利用者の要請に答えて行われるという側面も有するようになってきた。

    特に、最近におけるデジタル化・ネットワーク化技術の発達により、この傾向は一層加速しつつある。
    特別の施設設備等を有しない者でも容易に著作物等の利用を行うことができるようになったこと
    著作物等を一度に大量に利用するようになったこと
    異なる権利が複合的に働く利用が増えたこと
    著作物等の利用形態が拡大したこと
    アについては、著作物等の利用手段が社会の広い分野に普及することにより顕在化してきた。複写機器の普及による論文等の複写がこれに該当するが、カラー技術の進歩により、絵画や写真の複写の可能性が増してきた。録音録画機器の普及による私的録音録画も同様である。最近では、インターネットの普及により個人がホームページを簡単に開くことができるようになり、音楽、映像作品、コンピュータプログラム等が無断で利用される状況が生じている。また、反対にインターネットの普及により、利用者は世界のどこからでも情報を引き出すことができ、必要に応じ、印刷やCD-ROM等の記録媒体に複製することが簡単にできるようになった。さらに、デジタル技術の普及により、何度複製しても音質、画質等の品質が劣化しなくなってきた。

    イについては、放送、有線放送が代表例である。最近ではCS放送の普及によりチャンネル数が増え、専門チャンネルも普及すると、音楽などの従来からよく利用されていた著作物等はもちろんのこと、例えば美術作品、写真、映像作品なども大量に利用される可能性がでてきた。また、記録媒体の容量が飛躍的に大きくなり、例えば通信カラオケのように1万曲以上の音楽と映像をデータベースに蓄積し提供することも容易になった。

    ウについては、最近特に顕著になりつつある。例えば、データベースサービスのようにネットワークを介した利用においては、著作物等の蓄積、提供及び受信の一連の過程の中で、複製権、公衆送信権などが複合的に働くような利用が多くなってきた。

    エについては、記録容量の増、圧縮技術の向上等により、映像作品の利用可能性が増している。また、美術や写真についても、解像度が高くなると、展覧会や出版物を通して観賞するのに加え、静止画による観賞という可能性が出てきた。さらに、CD-ROMなどを用いたマルチメディア・ソフトのように動画、静止画、音声などが同一の媒体で利用できることになるとともに、ネットワークの普及により、従来はパッケージ商品として流通していたものが、国境に関係なくネットワークを介して流通することになるなど、著作物等の新しい利用可能性が生まれている。

    以上のように著作権等の集中管理は権利を保護するという立場から出発し、次第に利用者からの要求に応えて簡易迅速な許諾手続きを提供するという立場を加味しつつ、現在では、権利を保護する一方で利用の円滑化を図る最適な方法の一つとして考えられている。著作物等の利用が社会の広範囲な分野で不可欠なものとなっている現在、分野によってその実態は異なるものの、集中管理によって許諾を前提とした権利処理を円滑に進める意義は大きく、健全な集中管理の発展が望まれるところである。

    なお、集中管理を行う理由の一つとして、個別管理に任せると権利者と利用者との力関係により権利者の不利になる可能性があるので、利用者から権利者を保護する必要があるためという考え方がある。この場合は、円滑な利用を求める利用者の要求に応えるという側面よりも、個別管理に任せると権利が買い取られたり安い使用料で許諾せざるを得ないので、著作者等は団結する必要があるという権利者側の事情がある。労働組合又は協同組合にも共通する考え方であるが、権利者団体である集中管理団体には少なからず見られる一面である。

    なお、著作権等の集中管理は、報酬請求権等の権利行使で著作権法上定められた一定の場合を除き、あくまでも著作者個人の権利の行使であることから、権利者が、集中管理団体に権利を委託するかどうかは任意のものであることはいうまでもない。

    第3節 技術革新と著作権管理
    デジタル化、ネットワーク化の技術の発展はめざましく、CDーROM、DVDなどの大容量・高品質の記録媒体の開発普及、インターネットなどのネットワーク技術の普及によって、著作物等の多様な利用が可能となってきた。

    このような技術革新の急な中で、コンピュータ技術及びネットワーク技術による許諾システムや使用料徴収システムを組み合わせることにより、許諾を前提として使用料等の許諾条件をあらかじめ権利者自身が登録する方法により権利処理を行えばよく、このような方法の採用によって権利の集中管理の必要性は低下し、個別管理の可能性が生じてきたとの指摘があるところである。

    また、現在関係者の間で実用化に向けて検討が進められている著作権権利情報集中システム(J-CIS:Japan Copyright Information Service System)が実現し、権利の所在情報の検索が容易になると、さらに個別管理の可能性は高まるとの意見もあるところである。

    集中管理は、簡易迅速な権利処理手続を利用者側に提示するとの要請から、特に音楽などの大量に利用される著作物については、演奏、放送等における権利処理のように自己が管理している全著作物の一定の利用行為に対して許諾を与える包括許諾方式を導入するとともに、個々の著作物について一定の利用行為ごとに許諾を与える個別許諾方式においても使用料は著作物ごとに差を設けず一律1曲いくらの定額使用料を導入してきた。また、包括許諾方式においても、事後に曲目報告を義務付けることにより、実質は個別許諾方式と同様の精度で分配を可能にしている。例えば、新しい技術である通信カラオケの例で見ると許諾は事業収入の一定割合の使用料の支払いを条件とする包括許諾方式ではあるが、システム全体として又は個々の店でどの曲が何回利用されたかを正確に把握することは技術的には可能である。

    このように技術革新は現行の集中管理においても包括許諾方式によるのか個別許諾方式によるのかの選択肢を増やすととともに分配精度の向上に大きな貢献をすると思われる。また、技術革新により、集中管理であっても委託者の希望する使用料の額で徴収を行うことや許諾の条件を権利者ごとに又は曲ごとに変えることができる可能性も生じてきた。

    技術革新によって個別管理の可能性が増えるのは事実であろうが、権利者が集中管理を選択する動機としては、例えば、個別管理のための事務の煩雑さや経費負担を回避したいこと、集中管理団体は無断利用者に対する監視業務を行ってくれること、集中管理団体を脱退することがかえって自己の地位を弱めることにつながることなどその理由は様々であると考えられる。

    したがって、集中管理か個別管理かの選択は、権利者の任意の選択に任されている限り、権利者自身が決定すべきものであるが、技術革新は確実に多様な管理方法や形態を可能にさせる方向に動いている。




    第2章 現行制度及び集中管理の現状の概要
    第1節 現行制度の概要
    1 著作権に関する仲介業務に関する法律(仲介業務法)

    (1) 制定の経緯
    仲介業務法は、昭和14年に制定された著作権の仲介業務を規制する法律である。制定の直接の要因となったのは、当時、社会問題にまで発展したいわゆる「プラーゲ旋風」である。ドイツ人のウイルヘルム・プラーゲ氏は、BIEMなどのヨーロッパの主要な著作権の集中管理団体の代理人として、昭和6年頃から我が国で業務を行っていたが、国民の間では著作権思想がまだ普及していなかったこと、また、プラーゲ氏が当時としては高額な使用料を請求していたことなどから、民事訴訟や刑事告訴が多発したり、強硬な権利行使により外国曲の放送ができなくなるなど、大きな社会問題となっていた。

    このため、次のような理由から仲介業務法が制定された。
    我が国における堅実なる仲介業務団体を設立するため、仲介業務団体の数を制限し、業務遂行を容易ならしめるため適当な指導監督を加えることにより仲介業務団体を育成する必要があること
    外国の著作物は我が国の仲介業務団体との相互管理契約により管理することとし、外国の仲介業務団体の我が国における活動を制限する必要があること

    (2) 仲介業務法の内容
    仲介業務法の概要は資料2のとおりであるが、基本的枠組みとしては、業務については許可制、著作物使用料については認可制を採用している。なお、法律に許可基準は一切なく、許可するかどうかは全て主務大臣(現在は文化庁長官)の裁量に委ねられる形となっている。

    仲介業務法の適用対象となる著作物については、勅令(政令)で定めることになっており、小説、脚本、楽曲を伴う場合における歌詞、楽曲とされた。これは、規制対象を必要な分野に限定するという方針から、当時比較的頻繁に利用され、仲介業務を行おうとする団体ができる可能性があったものなどについて限定列挙されたものである。

    なお、仲介業務法は、制定以来現在に至るまで実質的な改正は行われていない。

    (3) 仲介業務法の運用
    小説
    昭和14年、「社団法人大日本文芸著作権保護同盟」(現 社団法人日本文芸著作権保護同盟)が設立され、同年仲介業務の許可を受けた。当初、小説の著作権については委託者が非常に少なく、昭和21年以降は業務を中断していたが、昭和43年に改めて仲介業務の許可を受けて業務を再開し、現在に至っている。

    脚本
    昭和49年に「協同組合日本放送作家組合」(現 協同組合日本脚本家連盟)、平成3年に「協同組合日本シナリオ作家協会」が仲介業務の許可を受け、現在に至っている。

    同一分野について二つの団体が認められたのは、両団体の歴史的経緯による例外的な措置であり、平成3年に日本シナリオ作家協会を許可した際、文化庁は、既に許可していた日本脚本家連盟と仲介業務を統合することを指導している。

    日本脚本家連盟と日本シナリオ作家協会は、現在に至ってもなお仲介業務の統合を実現していないが、二重委託等の問題はなく、業務を共同で行うことも多いので、実務上、二つの団体が存在することによる不都合は生じていない。

    楽曲を伴う場合における歌詞、楽曲
    昭和14年、「社団法人大日本音楽著作権協会」(現 社団法人日本音楽著作権協会)が設立され、同年仲介業務の許可を受け、現在に至っている。なお、プラーゲ氏も昭和15年に許可申請を行ったが不許可処分とされた。

    (音楽出版者の集中管理)
    なお、音楽出版者は、当初は主として楽譜を出版し、これを宣伝普及することが業務であったが、戦後欧米型の音楽出版者に移行し、著作権の管理も行うようになった。このような音楽出版者の業務の仲介業務法上の取扱いについては、昭和36年10月に著作権制度調査会委員国塩耕一郎氏からの照会に対する文部省の回答という形でその解釈が示されている。

    国塩氏は、その照会の中で音楽出版者の著作権管理業務を次のように定義した上で、音楽出版者が譲渡を受けた著作権を日本音楽著作権協会に委託し管理を行わせる場合は、仲介業務法に抵触しないかどうかについて照会した。
    音楽著作権を、著作権の全存続期間又は一定期間を限り、代金の支払いに関する特定の条件付きで譲り受ける。
    譲受けの代金は音楽著作物の収益の推定が困難である実状に鑑み、これを一括払いとせず、当該著作物の利用によって得られる将来の全収益の中から、契約によって定められた一定の条件にしたがって、著作権の譲渡期間中に分割払いするものとする。
    この照会に対し、文部省は、昭和36年12月に、「音楽出版者の行う行為が、条件付きで譲渡を受けた音楽著作物の著作権により自ら出版し、自ら写調物を発行する等当該出版者が直接その著作権を使用する行為にとどまり、他の使用者による使用についての契約等はいっさい社団法人日本音楽著作権協会が行うものであるならば」、音楽出版者の行為は、仲介業務法上、仲介業務とはみなさない旨の回答をした。したがって、これを換言すれば、仲介業務法では、音楽出版者が著作者からア及びイの方法により著作権を譲り受け他人に許諾を与える業務を行う場合には、同法第1条第2項でいう「著作権の移転を受け他人の為に一定の目的に従い著作物を管理する行為」に該当し規制の対象と解釈されることになると考えられる。

    戦後の占領政策と仲介業務
    戦後、外国の著作権は連合国最高司令部(GHQ)の管理下に置かれ、その仲介業務についてもGHQによる許可が必要とされた。当時、ジョージ・トーマス・フォルスター(フォルスター事務所、米国)、レオン・プルー(株式会社フランス著作権事務所、フランス)など四者がGHQの許可を受けた。我が国が主権を回復した後、これらの者は一斉に仲介業務の許可申請を行ったが、昭和28年、文部省はこれに対し、申請の許可の決定を当分の間保留するとした上で、仲介業務法の趣旨を尊重し業務を継続している限り、違法なものとして取り扱う意思はない旨の暫定黙認の回答をしている。

    なお、主に外国曲の録音権に関する仲介業務を行っていたフォルスター事務所については、昭和49年、文化庁から正式に許可を受けたが、同年業務を廃止している。

    2 商業用レコードの二次使用料等に係る指定団体制度
     (著作権法第95条、第95条の2、第97条、第97条の2)
    著作権法上、実演家及びレコード製作者に認められた商業用レコードの二次使用料を受ける権利及び商業用レコードの貸与報酬を受ける権利については、著作隣接権のように許諾権ではなく、商業用レコードが放送又は有線放送されたとき又は貸レコード店で貸し出されたときに、当該放送局又は貸レコード店から二次使用料又は報酬を受けることができる権利である。これらの権利は、個々の実演家又はレコード製作者に与えられた権利ではあるが、個々の権利者が直接行使するとその数は膨大なものになり、支払い側の事務処理も大変煩雑になることから、一定の要件を備えた権利者団体がある場合で当該団体を文化庁長官が指定したときは、当該団体によってのみ権利を行使させる制度になっている。

    この制度により、本来個々の実演家等に与えられた権利が一つの包括的権利であるかのように行使されることから、権利処理は指定団体と個々の放送局・レンタル店等又はこれらにより構成される業界団体との協議によって額を決めることができる。
    【指定団体】
    ア 商業用レコードの二次使用料を受ける権利

      実演家     社団法人日本芸能実演家団体協議会
      レコード製作者 社団法人日本レコード協会
    イ 商業用レコードの貸与報酬を受ける権利

      実演家及びレコード製作者ともアと同じ
    なお、具体的な制度の内容については、資料3を参照。

    3 私的録音録画補償金に係る指定管理団体制度
     (著作権法第104条の2)
    著作権法第30条及び第102条では、私的使用のための複製について著作者等の権利を制限しているが、デジタル方式の機器及び記録媒体を用いた私的録音録画の場合については、一定条件の下、利用者は著作権者及び実演・レコードに係る著作隣接権者に相当な額の補償金を支払わなければならないことになっている(第30条第2項、第102条第1項)。この私的録音録画補償金を受ける権利については、前述の指定団体制度の場合と同様、個々の著作権者等が行使することは事実上不可能であることから、一定の要件を備えた権利者団体がある場合で当該団体を文化庁長官が指定したときは、当該団体によってのみ権利を行使させる制度になっている。

    この制度は、補償金の支払義務者は著作物等の利用者であるが、実際は協力義務者である録音録画機器及び記録媒体のメーカー等から徴収すること(第104条の5)、補償金の額は文化庁長官の認可にかからしめていること(第104条の6)などの点で指定団体制度とは異なるが、個々の権利者の権利行使が事実上不可能なことから円滑な権利処理のために設けられた制度という点では同じである。
    【指定管理団体】
    私的録音 社団法人私的録音補償金管理協会
    私的録画 社団法人私的録画補償金管理協会
    なお、具体的な制度の内容については、資料4を参照。

    第2節 集中管理の現状の概要
    1 著作権

    (1) 小説等の文芸作品
    日本文芸著作権保護同盟(委託者数919名、平成10年度使用料徴収額約3億2,900万円)が集中管理を行っているが、その管理対象は、放送番組の製作・放送、ビデオ化、上演などの二次利用に限られている。また、委託者数も限られており、日本音楽著作権協会のようにほとんどの作家の権利を管理しているわけではない。なお、出版等の一次利用については、著作者自身と利用者である出版社等が直接契約する場合がほとんどである。

    保護同盟における権利委託の方式は原則として信託であるが、文芸作品の場合はほとんどが個別許諾方式によることから、実務上は利用の申込みがあるたびに委託者本人の意向を確認した上で許諾契約を行っており、むしろ媒介に近いといえる。

    また、出版された後の翻訳、映画化等の二次利用については、出版の際の契約により、著作権者が二次利用の権利行使を出版社に委任している場合は、出版社が利用契約を行うことがあるが、この場合、利用の申込みごとに著作権者の了解を得るのが通常である。

    さらに、主に外国作品が国内で翻訳される場合の契約の代行を専門に取り扱う、いわゆる翻訳エージェンシーも何社か業務を行っている。

    (2) 脚本
    日本脚本家連盟(委託者数1,393名、平成10年度使用料徴収額約12億360万円)及び日本シナリオ作家協会(委託者数328名、平成10年度使用料徴収額約2億4,500万円)の2つの集中管理団体があり、両団体でほとんどの脚本家の権利を管理している。

    管理の対象範囲は、両団体とも主に放送番組の再放送、劇映画の放送、放送番組等のビデオ化などの二次利用であり、権利委託の方法は原則として信託である。権利処理の方法は、原則として個別許諾方式である。

    (3) 音楽
    日本音楽著作権協会(委託者数11,283名、平成10年度使用料徴収額約984億8,300万円)が音楽著作権に関する我が国唯一の集中管理団体として、演奏、公衆送信、録音、出版など全ての利用形態を管理対象としている。商業的に利用される音楽については、個人で権利を管理している場合は少なく、同協会は実質的に市場を独占している。

    同協会に権利を委託しているのは、主に作詞家、作曲家及び音楽出版者であるが、このうち音楽出版者が持っている権利は、同協会に権利を直接委託していない作詞家、作曲家から譲渡されたものである。権利委託の方法は、委託者の全作品の著作権全部の信託であり、作品ごとあるいは支分権ごとの委託はできない。また、外国の集中管理団体との相互管理協定の締結、または外国曲を管理している音楽出版者からの委託を受け、外国作品の我が国における利用についても管理対象としている。

    利用許諾の方式については、利用形態によって、社交場の演奏や放送のように包括許諾方式によるものと、映画録音、出版のように個別許諾方式によるものとがある。

    なお、音楽出版者については、音楽出版社協会に加盟している約260社のほか、多数の未加入の会社等が存在する。また、音楽出版者の中には、外国の音楽出版者との契約により外国曲に関する我が国における著作権者(実際の管理は日本音楽著作権協会へ委託)として業務を行っているところも多い。

    (4) 美術
    美術の分野は、仲介業務法が適用されず、自由に集中管理を行うことができるが、現状では、音楽、小説、脚本の分野のような集中管理団体が存在せず、大半を各著作権者が個別に管理している。

    従来、美術の著作物の利用方法は、出版、展示などの一次利用がほとんどで、集中管理の必要性は低いと考えられていたが、近年、マルチメディアコンテンツへの利用などの二次利用が多くなっていることから、平成7年5月、日本美術家連盟、全日本写真著作者同盟及び日本グラフィックデザイナー協会の3団体が美術著作権機構という団体を設立し、集中管理体制の整備をめざしている。また、日本美術家連盟は、一部の放送局と協定を締結し、会員の作品の放送権の処理を行っているほか、展覧会での図録等への掲載に関する権利処理も行っている。

    なお、外国作品については、平成4年、フランス著作権事務所の美術部門を引き継ぐ形で美術著作権協会という団体が設立され、外国の15の美術著作権の集中管理団体と業務提携し、これらの団体の管理作品の日本における利用についての許諾の仲介を行っている。

    (5) 写真
    写真の分野についても、美術と同様であり、音楽のような集中管理団体は存在しないが、前述した美術著作権機構が集中管理体制の整備をめざしている。

    なお、現在、全国に約200社の写真エージェンシーがあり、写真家からネガを預かり、書籍、雑誌、ポスター等への利用について、複製の許諾とともにネガの貸与を行っている実態がある。

    (6) 放送番組、劇映画等
    映画の著作権を取り扱う集中管理団体はない。放送番組、劇映画等のビデオ化については、個々の映画の著作権者とビデオソフトの製造者との間の個別許諾方式による権利処理がほとんどである。この場合、原作、脚本、音楽などについては、前述の集中管理団体又は個々の著作権者との個別許諾方式による権利処理が行われている。

    ビデオレンタルについては、邦画の著作権者(12社)から権利委託を受けた日本映像ソフト協会が、日本文芸著作権保護同盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会及び日本音楽著作権協会の権利者四団体と連名でビデオレンタル店に対し貸与許諾を与える「日本映像ソフト協会個人向けレンタルシステム」が運用されている。ただし、この場合、貸与使用料は日本映像ソフト協会が徴収せず、各ビデオソフトの供給ルートからビデオの提供を受ける際に商品の料金に上乗せして直接権利者へ支払うことになっている。また、各権利者団体への使用料の支払いは、使用料を受け取ったビデオメーカーが行うことになる。

    なお、洋画及び邦画の一部は、供給を受けたビデオソフトを販売するか貸与するかは原則として店の自由とするフリーダム方式を採用している。

    (7) 学術論文等
    学術論文等の著作権のうち複写に係る権利については、著作者、学協会及び出版社12団体によって日本複写権センター(平成10年度徴収使用料額約1億 6,100万円)が設立され、平成4年から業務を行っている。現在のところ、企業内における複写が主たる管理対象であり、約2,400社の企業等と利用許諾契約を締結している。

    なお、出版された学術論文等の翻訳等についても、著作権者との委託契約により、当該学術論文等を出版した出版社が権利処理を仲介している実態がある。

    (8) キャラクター
    漫画、アニメーション等のキャラクターの分野についても、音楽等のような集中管理団体は存在しないが、著作権管理については、原作者自らが管理する場合、映画製作者が原作者(原画)の権利を含めて管理する場合、出版社が管理する場合、専門のエージェントが管理する場合などに分けられる。

    なお、キャラクターに係る著作権は、原作者、映画製作者、出版社などの関係者が著作権を共有していることも多い。

    2 実演家の権利
    商業用レコードの二次使用料及び商業用レコードの貸与報酬を受ける権利については、指定団体である日本芸能実演家団体協議会(平成10年度使用料等徴収額約60億242万円)が行使している。また、商業用レコードが最初に発売されてから1年間与えられる貸与権の行使についても同様である。これらの権利は、当該実演家が所属する団体やプロダクションの団体経由で同協議会に委託されるか、直接委託されている。二次使用料等については、同協議会と利用関係団体(放送二次使用料は日本放送協会及び日本民間放送連盟、貸与報酬等は日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合)の協議により定められている。なお、二次使用料の契約とあわせて、両団体の契約により商業用レコードに固定されている実演の放送番組への録音及び当該放送番組の保存・利用について、包括許諾方式による権利処理が行われている。

    また、放送番組のビデオ化、CATVへの番組提供、海外放送局への番組提供等についても、著作隣接権の処理を行っている。

    このほか、芸能プロダクションの団体である日本音楽事業者協会、歌舞伎俳優の団体である日本俳優協会、俳優の団体である日本俳優連合などにおいて、放送番組の二次利用、実演の放送等について権利処理を行っている実態がある。

    なお、プロダクション所属の歌手、俳優等については、当該プロダクションが著作隣接権の管理を行っている場合が多い。

    3 レコード製作者の権利
    商業用レコードの二次使用料及び商業用レコードの貸与報酬を受ける権利については、レコード会社及び音楽出版者から委託を受け、指定団体である日本レコード協会(平成10年度使用料等徴収額約60億4,700万円)が行使している。

    二次使用料等については、日本レコード協会と利用者又は利用関係団体(放送二次使用料は日本放送協会及び日本民間放送連盟、貸与報酬は日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合)の協議により定められている。

    なお、貸与権については、実演家の場合と異なり、個々のレコード会社が行使しているが、貸与許諾に係る使用料を受ける権利については日本レコード協会が行使している。

    また、複製権については、原則として各レコード製作者等が個別に管理しているのが現状である。ただし、日本レコード協会がレコードの放送番組への複製及び当該放送番組の保存・利用について実演家の場合と同様の方法により権利処理を行っているほか、放送番組のビデオ化など一部について権利処理を行っている実態がある。

    4 著作権等の共同行使
    (1) 私的録音録画補償金
    指定管理団体である私的録音補償金管理協会(平成10年度補償金徴収額約20億1,400万円)が著作者、実演家及びレコード製作者の三者に係る私的録音補償金を受ける権利について共同行使をしているが、これは法律に基づくものである。

    同協会が徴収した補償金は、一部を共通目的基金として著作権思想の普及等に使用されるほかは、日本音楽著作権協会、日本芸能実演家団体協議会、日本レコード協会の三団体に一定率が分配され、これらの団体を通じて各権利者へ分配されている。

    なお、私的録画補償金については、私的録画補償金管理協会が本年の3月に設立され、文化庁から指定管理団体としての指定を受けている。当該団体は、対象機器及び記録媒体を定めた著作権法施行令の施行日である7月1日以降に販売される機器等について補償金を徴収することから、まだ徴収・分配の実績はない。

    (2) その他
    有線テレビジョン放送の再送信、放送番組のビデオ化などについて、利用が限定的、公益性があるなどの理由により、複数の集中管理団体が共同で権利行使を行っている例がある。これらの場合、許諾は包括許諾方式であり、一般に利用ごとの使用料が低額であるので、代表団体が使用料を受領し他の団体に分配するという方式が採られている。なお、前述した「日本映像ソフト協会個人向けレンタルシステム」も共同行使の一例である。

    (共同行使の実例)
    ア 有線テレビジョン放送(同時再送信)
    日本音楽著作権協会、日本文芸著作権保護同盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会及び日本芸能実演家団体協議会の五団体の連名で、CATV会社と契約を結んでいる。使用料は、CATV局の年間利用料収入総額の一定割合を一括して代表団体(日本脚本家連盟)に支払われ、代表団体が他の団体に分配する。
    イ 放送番組のビデオテープ化
    日本音楽著作権協会、日本文芸著作権保護同盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、日本芸能実演家団体協議会及び日本レコード協会の六団体の連名で、日本のテレビ番組を視聴不可能な遠洋航海の乗組員や在外公館職員の慰安、娯楽という限定的な目的のためにNHKや民間放送の放送番組をビデオテープに複製することについて、日本船主協会や外務省と契約を結んでいる。使用料は、ビデオテープ1本(60分番組を基準)につき単価を定め、一括して代表団体(日本芸能実演家団体協議会)に支払われ、代表団体が他の団体に分配する。
    ウ 聴覚障害者向け字幕ビデオ製作
    日本音楽著作権協会、日本文芸著作権保護同盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、日本芸能実演家団体協議会及び日本レコード協会の六団体の連名で、聴覚障害者への貸出用としてテレビ番組に字幕をつけ、ビデオテープに複製し、障害者へ貸与することについて、聴力障害者情報文化センターと契約を結んでいる。使用料は、毎年一定額が代表団体(日本芸能実演家団体協議会)に支払われ、代表団体が他の団体に分配する。




    第3章 著作権制度審議会答申の概要
    仲介業務法の見直しについては、過去に一度著作権制度審議会において検討が行われている。この検討結果は最終的には法改正には至らなかったが、参考までにその概要を紹介する。
    第1節 見直しの背景
    昭和38年11月、著作権制度審議会は、文部大臣から、著作権等に関する仲介業務制度の改善について諮問を受け検討を開始した。

    仲介業務法は、昭和14年に制定された法律であるが、次のような点で制定当時とは仲介業務団体の状況が異なり、このことが制度の見直しの背景にあったものと思われる。
    仲介業務法制定当時、許可された二法人のうち、大日本文芸著作権保護同盟は戦後業務を休止していたこと
    連合国最高司令部(GHQ)より仲介業務の許可を得ていた四業者が、我が国の主権回復後一斉に、我が国政府に仲介業務の許可申請を提出したが、この申請に対し暫定黙認の文書を与えていること(内、二業者が業務を継続)
    我が国の主権回復後、イ以外のいくつかの業者が翻訳等に関する仲介業務の許可申請をしてきたこと
    イの業者であるフォルスター事務所は、外国曲の録音権を中心に仲介業務を実施しているが、日本音楽著作権協会の使用料徴収額と同程度の規模であること
    我が国においても欧米型の音楽出版者が出現し発達普及しつつあること
    以来、著作権制度審議会は、小委員会を設け審議を行い、昭和41年4月には審議結果を公表し関係団体の意見を聴取した上で、更に検討を重ね、昭和42年5月に答申を行った。

    第2節 答申の骨子
    (答申の全文は、資料5を参照)

    1 規制の必要性
    著作権の仲介業務に関する規制は従来どおり必要であるとし、次の三点を規制の理由としている。
    他人の財産を管理するものであるから、その業務の基礎が確実であり、かつ、その運営が公正に行われるものでなければならないこと
    集中管理団体の機能に即するよう、集中管理団体の設立を規制するとともに、著作権の集中管理から生ずる強大な機能について、その行使の適正を期し、著作物の利用の円滑化を図る必要があること
    著作権者の保護及び文化の普及、発達に資するよう堅実な集中管理団体の育成を図る必要があること

    2 規制の対象
    (1) 著作権の範囲
    規制の対象は、規制の必要性の趣旨に鑑みて、特に必要とするものに限定すべきである。
    音楽の著作物については、規制の必要性があるが、規制対象は国際慣行及び我が国の実状に鑑み、「演奏権(放送権、有線放送権及び映画音楽の上映演奏権を含む)及び録音権(映画録音権を含まない)」に限定すべきである。
    文芸の著作物(小説、脚本だけでなく詩、短歌など文芸の著作物全般)については、その性質上、原則として仲介業務を規制する必要性は認められないが、放送権については仲介機関の発達が予想されるため、規制を考慮することが適当である。なお、翻訳権については、規制を必要とする事情は認めがたい。
    美術・写真の著作物については、今後の仲介機関の発達の態様を予測しがたく、現段階ではこれらの仲介業務を規制する積極的な必要性は認めがたい。

    (2) 業務の態様
    仲介業務として規制すべき行為は、信託及び代理・媒介とする。
    音楽出版者については、自己が管理する演奏権又は録音権を直接行使する場合は規制の対象とするが、それらの行使を他の仲介機関に委ねる場合には、規制する必要はない。

    3 音楽の著作物に関する規制の態様
    (1) 業務実施の規制
    許可制が適当である。制度として単一制をとることは問題であるが、単一制の利点をできる限り取り入れられるよう許可基準を定め、かつ運用すべきである。
    許可基準としては、適格性、公正な組織・構成、業務遂行能力、十分な経理的基礎、欠格事由の要件のほか、「その業務の開始が著作物利用の円滑化、権利者の保護その他公益上の見地から必要であり、かつ適切であること」を定める必要がある。

    (2) 業務運営の規制
    仲介行為の引受けに関する契約約款、著作物使用料の分配方法及び仲介機関の手数料の決定、変更を文部大臣の許可に係らしめること、業務報告書及び会計報告書の提出を義務付けること等、仲介機関の業務の運営に対する規制、監督を原則として維持すべきである。
    管理の引受けに関する義務、特定の著作物の使用を勧奨することの禁止、著作物の利用に関する応諾義務、業務執行役員の構成、選任等に関する文部大臣の関与及び経理の監督の強化について規制することが適当である。

    (3) 使用料に対する規制
    著作物使用料規程の認可制は維持すべきである。
    当事者間の協議が不調の場合に行政庁が裁定する制度は、我が国では適当でない。
    認可に当たっては、使用者団体の意見を聴取するとともに、権利者代表、使用者代表及び公益代表の三者で構成される審議会に諮問するものとすることが適当である。また、2~3年の期限を付して認可することが適当である。

    4 文芸の著作物の放送権に係る規制
    おおむね音楽の著作物に関する仲介業務に対する場合と同様に措置してさしつかえないが、許可基準の運用に当たっては、文芸の著作物の性質及び利用の実態に応じた配慮が必要である。使用料率については認可制とすることが適当である。

    5 著作隣接権に関する仲介業務について
    著作隣接権については、商業用レコードの二次使用料等に係る報酬請求権を除き、その性質上、集中管理にはなじまないと考えられる。これらの仲介業務については、将来における管理の実態に応じて、規制の要否を検討すべきである。



    第4章 外国の法制度及び集中管理団体の現状
    各国著作権法等の参照条文は資料7
    各国の法制度の一覧は資料8を参照
    1 ドイツ
    1933(昭和8)年に「演奏権に関する仲介業務に関する法律」が制定され、演奏権の集中管理が主務大臣の許可制となった。その後、この法律は、1965(昭和40)年の「著作権及び著作隣接権の管理に関する法律」(以下「管理団体法」という)に引き継がれ、1985(昭和60)年、1995(平成7)年の改正を経て現在に至っている。

    管理団体法では、対象範囲に限定なく全ての著作権又は著作隣接権(報酬請求権を含む)の集中管理は許可制である(第1条)。集中管理団体には、利用者の求めに応じ、相当の条件で許諾する義務、すなわち応諾義務が課されている(第11条)。使用料については、使用料規程を定め官報で公表することを義務付けており(第13条)、また、利用関係団体との包括契約を締結する義務が定められている(第12条)。なお、使用料規程及び包括契約は届出制である(第20条)。また、集中管理団体が関与する著作物等の利用契約又は包括契約の締結・変更に関する紛争が生じた場合、当事者は仲裁所に仲裁を求めることができる(第14条)。

    このほか、管理の引受義務(第6条)、利用者等に対する管理著作権の報告義務(第10条)などが課されている。なお、著作物の貸与報酬、私的録音録画補償金、複写複製補償金等に係る報酬請求権については、集中管理団体による行使が義務付けられている(著作権法第27条、第54条)。

    著作権の集中管理団体例であるが、音楽では、GEMAが演奏権及び録音権の管理を独占的に管理している。創設は1903(明治36)年である。言語の著作物では、VG WORTが業務を行っており、複写複製に係る権利も管理している。美術についてはVG BILD-KUNSTが業務を行っており、追及権の管理も行っている。

    2 スペイン
    対象範囲に限定なく全ての著作権及び著作隣接権の集中管理については許可制である(第142条)。集中管理団体を規制したのは比較的新しく1987(昭和62)年制定の知的所有権法からであり、1996(平成8)年の全面改正を経て現在に至っている。制度としては、ドイツと類似している。使用料については、集中管理団体に応諾義務を課した上で、使用料規程の制定を義務付けており、また、利用関係団体が要求した場合には当該団体との間で包括契約の締結が義務付けられている(第152条)。使用料規程は届出制(第154条)であるが、使用料等の紛争が生じた場合の調停及び仲裁委員会の制度(第153条)が規定されている(調停は放送のケーブル送信が対象、仲裁は集中管理団体と利用関係団体又は放送事業者との間の紛争が対象)。このほか、管理の引受義務(第147条)、会員のための福祉事業などの社会的活動に関する規定(第150条)などが定められている。

    なお、私的録音録画補償金、レコードの二次使用料及びレコード等の貸与報酬に係る報酬請求権の行使については、集中管理団体による行使を義務付けている(第25条、第108条、第109条)。

    著作権の集中管理団体例としては、音楽についてSGAEが演奏権及び録音権を独占的に管理している。また、この団体は文芸、美術等についても管理している。

    3 フランス
    従来、集中管理団体に対する規制はなかったが、1985(昭和60)年制定の「著作権並びに実演家、レコード・ビデオグラム製作者及び視聴覚伝達企業の権利に関する法律」により規制が実施され、この制度は1992(平成4)年制定の知的所有権法に引き継がれ現在に至っている。対象範囲に限定はなく、全ての著作権及び著作隣接権の集中管理が対象である。集中管理団体は民法法人として裁判所により許可されるが、文化大臣は当該団体の定款及び一般規則の草案に対し、重大な問題がある場合は大審裁判所に意見を述べることができる(第321の1条、第321の3条)。団体は権利者団体に限られる(第321の1条)。使用料については、認可制、裁定制等は採用していないが、レコードの二次使用料については裁定制度がある(第214の4条)。このほか、管理作品の目録提供義務などが課されている(第321の7条)。

    なお、レコードの二次使用料及び私的録音録画補償金に係る報酬請求権については、集中管理団体による行使が義務付けられている(第214の5条、第311の6条)。また、複写複製権(許諾権)も同様である(第122の10条)。

    集中管理団体の例であるが、音楽の分野では、演奏権のSACEMと録音権のSDRMが業務を行っている。SACEMは1851年創設の音楽では世界で最も古い集中管理団体である。SDRMは、1935(昭和10)年にSACEMが設立した団体であるが、1974(昭和49)年からは、経営の合理化のため管理部門と職員をSACEMに統合し、事実上は単一の団体として業務を行っている。演劇の分野では、1777年創設のSACDが大多数の劇作家及び劇作曲家の権利を管理しているが、他にDRAMAという団体もある。文芸作品については、1837年創設のSGDLが業務を行っている。美術では、ADAGPが集中管理を行っている。過去にはSPADEMという団体があったが1996(平成8)年に業務を廃止した。この他、ピカソ、マチスはそれぞれ特別の団体が管理している。

    4 スイス
    スイスは、1940(昭和15)年制定の「著作権使用料徴収に関する連邦法」により音楽の演奏権に関する集中管理を許可制とし、許可は単一団体に限るとした。1992(平成4)年の改正著作権法では、集中管理に関する規定を同法に盛り込んでいる。同法では、集中管理を許可制としているが、対象範囲を非演劇用音楽の演奏、放送及び録音に関する排他的権利と文芸・美術作品の貸与報酬、私的録音録画報酬、放送のケーブル再送信及びレコード等の二次使用料に係る報酬請求権に限定している(第40条、第41条)。また、許可は分野ごとに単一団体に限るとされ、許可の効力は5年である(第42条、第43条)。使用料については、利用関係団体の意見を聴いた上で使用料規程を定め、仲裁委員会の認可を受けなければならない(第46条、第55条、第59条)。このほか、管理の引受義務(第44条)などが課されている。

    なお、私的録音録画及びレコード等の二次使用に係る報酬請求権については、集中管理団体による行使が義務付けられている(第20条、第35条)。

    集中管理団体の例としては、音楽では、長い間演奏権のSUISAと録音権のMechanlizenzに分かれ業務を行ってきたが、1980(昭和55)年に両団体が合併し、現在ではSUISAが独占的に管理を行っている。

    5 アメリカ合衆
    著作権制度では、集中管理の業務規制はない。ただし、例えば、1914(大正3)年に設立された音楽の演奏権の集中管理団体であるASCAPについては、司法省が反トラスト法違反で告訴した際の同意判決(Consent Degree)により、排他的権利の取得の禁止、利用申請に対する応諾義務、使用料協議不成立の場合の裁判所による決定、司法省の監督権限などが定められており、団体の行為が大幅に制限されている。

    著作権法では、著作権使用料審判所(Copyright Royalty Tribunal)が使用料を決定する権限を与えられている(第801条)が、レコードの製作頒布(第115条)、ジュークボックスによる演奏(第116条)、有線放送による二次送信(第111条)などの強制許諾制が導入されている場合に限られる。

    著作権の集中管理団体例としては、音楽の分野については、我が国の日本音楽著作権協会と管理契約を締結している団体だけでも、演奏権については、ASCAP、BMI、SESAC、APRS、AMRAの5団体が、録音権については、Harry Fox、SESAC、AMRAの3団体があり、同一分野にいくつかの団体が存在するという数少ない国である。なお、録音権については音楽出版社の自己管理も多い。論文などの複写については、CCCが企業等の内部複写を対象に独占的に管理を行っている。美術については、VAGA及びARSが業務を行っている。

    6 イギリス
    著作権制度の中に業務実施に関する規制はない。ただし、使用料等を記載した「許諾要綱」(第116条)をめぐる紛争については、著作権審判所(Copyright Tribunal)(第145条)に申請して裁定を受けることができる。具体的には、集中管理団体から提案された許諾要綱については、利用関係団体は、著作権審判所へ裁定を申請でき(第118条)、また、許諾要綱の効力発生後の紛争については、利用者又は利用関係団体は裁定を申請できることになっている(第119条)。なお、この審判所の前身は、1956(昭和31)年法による実演権審判所(Performing Right Tribunal)であり上演、演奏、放送に係る紛争だけを取り扱っていたが、1988(昭和63)年法により著作権審判所に改組され、複製権、レコード・映画・コンピュータプログラムの貸与権、実演家の権利等に関する事項についても取り扱うことになった。

    集中管理団体の例としては、音楽では演奏権のPRSと録音権のMCPSの2団体が業務を行っているが、業務の効率化・合理化の観点から協力関係を深めている。また、複写権についてはCLAが、美術についてはDACSが集中管理を行っている。

    7 カナダ
    著作権制度の中に集中管理団体の業務実施に関する規制はない。ただし、集中管理団体が音楽の著作物、実演及びレコードの演奏、放送等の送信に係る使用料を徴収する場合は、事前に使用料表(Tariffs)を定め、著作権委員会(Copyright Board)(第66条)の承認を得なければならない(第68条)。また、その利用を除く著作物、実演、レコード、送信信号の利用については、使用料表の承認を求めることや使用者と協定を結ぶことができる(第70.1条、第70.12条)。さらに、集中管理団体と利用者の間で使用料等の紛争が生じた場合、同委員会に申請をして裁定を受けることができる(第70.2条)。このほか、管理著作物等に関する情報提供義務などが定められている(第67条、第70.11条)。

    集中管理団体の例としては、演奏権では従来二団体であったのが1990(平成2)年に合併してSOCANができ現在に至っている。録音については、CMRRA、SODRACがある。

    8 イタリア
    1941(昭和16)年に制定された著作権法でSIAE(1882年設立)が著作物の利用に係る唯一の集中管理団体であることが規定された(第180条)。法律によって集中管理団体が指定されている例である。
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