著作権審議会第1小委員会専門部会(救済・罰則等関係) 中間報告書
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1. 問題の所在
インターネットの利用者数は平成9年には1,155万人であったものが、平成11年には2,706万人と2倍以上になっていること、また、世帯普及率も平成11年には平成9年の6.4%の約3倍である19.1%に飛躍的に増大するなど(通信白書平成12年度版より)インターネット等が新たなメディアとして急激に普及している。このような流れは、著作物等の新たな利用形態、すなわち国民が創作の成果を享受する新たな機会を生み出すものであるが、一面では著作物等の無断アップロード・送信行為の増大の危険性も高まっているとの指摘がある。
著作権審議会国際小委員会報告書(平成12年11月)にも記載されているとおり、著作物等のインターネット配信などが拡大するのに伴い、サービス・プロバイダーがその利用者の著作権侵害等に対して負うべき法的責任に関するルールの策定が重要となってきている。
著作権者等から、権利保護の実効性確保の観点から、サービス・プロバイダーに対して、無許諾でアップロードされた著作物等の削除等を義務づけることについての要望があり、また、サービス・プロバイダーからは著作権等侵害についてのサービス・プロバイダーの法的義務の範囲及びその責任の範囲を明確にすることによって、事業の安定的な運営を行うことが可能な環境を整備することについての要望がある。
著作権等侵害の可能性がある場合に、当事者(権利者と発信者)による紛争解決が可能となるよう、発信者に係る情報を開示する制度の創設について権利者及びサービス・プロバイダーから要望がある。
米国では、1998年(平成10年)のデジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)において、一定要件の下、サービス・プロバイダーについて著作権侵害による損害賠償責任を免除している。また、一定の要件を備えた著作権侵害主張の通知を受けた場合には、サービス・プロバイダーは速やかに素材を削除等しなければならないというノーティス・アンド・テイクダウンの手続を設けている。(過失責任を原則とする我が国に対し、米国においては、著作権侵害について無過失責任が認められているため、この手続に従うことにより、無過失のサービス・プロバイダーは免責されることとなる。)
EUは、2000年(平成12年)「電子商取引の法的側面に関するEU指令」において、名誉毀損等も含む分野横断的な視点から、サービス・プロバイダーの法的責任について規定している。
米国においては、「ナップスター」、「グヌーテラ」といった音楽等の著作物のファイルの交換を可能にするソフトウェアが出現しており、特に「ナップスター」については米国レコード協会がナップスター社を相手に訴訟を提起しており、サービス・プロバイダーとしてのナップスター社の著作権侵害についての法的責任について現在係争中である。
我が国においても、サービス・プロバイダーの法的責任の在り方について諸外国における立法の動向等に留意しつつ、関係省庁とも緊密な連携を図りながら、検討を行う必要がある。
政府全体としても、サービス・プロバイダーの法的責任の問題はIT戦略会議でも課題として取り上げられているほか、関係省庁においても検討が進められているところである。
※ 以下本報告書において単に「著作権」という場合、著作権、著作者人格権、及び著作隣接権を総称して用いるものとする。 |
2. サービス・プロバイダーの範囲について
サービス・プロバイダーとは、回線・サーバーの利用等、インターネット等のネットワーク上のサービスを提供するものをいう。例えば接続サービス、キャッシング、ホスティング、サーチエンジン等のサービスを提供しているものがこれに該当する。
営利・非営利の別は問わない。
(参考) | 米国DMCAは、大学がサービス・プロバイダーである場合について特別の規定を設けている。これは、通常の企業であれば、職員等の著作権侵害についての認識はサービス・プロバイダーである企業の認識とみなされるのに対し、大学において研究が行われている場合には、大学の職員である教授等の独立性が高いことから、教授等の著作権侵害についての認識は、ただちにはサービス・プロバイダーである大学の認識とみなさない旨の規定である。(1998年10月8日 Conference Report(下院)) |
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3. サービス・プロバイダー等の法的責任に関する裁判例
これまで第三者が行った著作権侵害についてサービス・プロバイダーの責任が問われた裁判例はないが、名誉毀損についてサービス・プロバイダーの責任が問題となった裁判例としては以下のものがあげられる。「ニフティサーブ事件」においては、サービス・プロバイダーにはフォーラムに書き込まれる内容について常時監視したり、探知したりする重い作為義務はないが、一定の場合には条理上の作為義務があるとし、サービス・プロバイダーの不法行為責任を認めているのに対し、「都立大学事件」においては、サービス・プロバイダーの不法行為責任はきわめて限定的な場合にのみ認められるとしてサービス・プロバイダーの責任を否定している。
◎ニフティサーブ事件(東京地裁判決平成9年5月26日)
パソコン通信の電子会議室に他人の名誉を毀損する発言が書き込まれた場合に、そのフォーラムのシステム・オペレーターが、フォーラムに他人の名誉を毀損する発言が書き込まれていることを具体的に知ったと認められる場合には、当該システム・オペレーターは、その者の名誉が不当に害されることがないよう必要な措置をとるべき条理上の作為義務があるとし、作為義務違反についてシステム・オペレーターが不法行為責任を負うこととするとともに、パソコン通信の主催者(ニフティ)が当該システム・オペレーターの不法行為につき使用者責任を負うとされた。
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一 フォーラムや電子会議室においては、そこに書き込まれる発言の内容を管理責任者が事前にチェックすることはできないこと等から、システム・オペレーターに対し、その運営・管理するフォーラムに書き込まれる発言の内容を常時監視し、積極的に他人の名誉を毀損するような発言がないかを探知したり、全ての発言の問題性を検討したりというような重い作為義務を負わせるのは相当でない。 | 二 フォーラムのシステム・オペレーターは、特定のフォーラムの運営・管理を委託されており、他人を誹謗中傷するような内容の発言が書き込まれた場合の対処もこの運営・管理の一部であるといえることや、フォーラムに書き込まれた発言によって名誉を毀損された者には自ら行い得る具体的な手段がないのに対し、フォーラムのシステム・オペレーターはその発言を削除することが可能であること、さらにはフォーラムの運営マニュアルにも他人を誹謗中傷するような発言が書き込まれた場合の対処に関する記載があること等から、システム・オペレーターが一定の法律上の作為義務を負うべき場面もある。 | 三 以上のことから、フォーラムのシステム・オペレーターが、フォーラムに他人の名誉を毀損する発言が書き込まれていることを具体的に知ったと認められる場合には、当該システム・オペレーターはその者の名誉が不当に害されることがないよう必要な措置をとるべき条理上の作為義務がある。 |
◎都立大学事件(東京地裁判決平成11年9月24日)
大学のシステム内に名誉毀損に当たるホームページが開設され、被害者からの申し入れにもかかわらず削除されなかったことに対して、発信者とともに、システム管理者としての大学が訴えられたケースにおいて、ネットワーク管理者が被害者に対して責任を負うのは、名誉毀損文書が発信されていることを現実に認識しただけでなく、その内容が名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度が甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるとして、ネットワーク管理者の削除義務は否定された。
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一 大学におけるコンピュータネットワークのように、ネットワークを管理する者がインターネットで外部に流される個々の情報の内容につき一般的に指揮命令をする権限を有しない場合においては、情報の内容についてはその作成主体が責任を負うのが当然のことであるが、それでもなお、ネットワークの管理者は情報の削除権限を有するとされるのが通常である。 | 二 削除権限の行使は、情報教育担当教員の合理的裁量に委ねられ、裁量権の逸脱、濫用がない限り、情報教育担当教員の削除権限の行使がシステム内部の関係者に対する関係において違法になることはない。 | 三 名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事者以外の一般人の利益を侵害するおそれも少なく、管理者においては当該文書が名誉毀損に当たるかどうかの判断も困難なことが多いものであることから、加害者でも被害者でもないネットワーク管理者に対して、名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止すべき私法上の義務を負わせることは原則として適当ではない。 | 四 ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、発信を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られる。 |
このほか、サービス・プロバイダーではないが、著作権侵害について直接違法行為を行った者以外の者が不法行為責任を問われた裁判例としては次のものが挙げられる。
◎魅留来事件(大阪高裁判決平成9年2月27日)
著作権者の許諾を得ないでカラオケ装置をスナックの店内で稼働させたことについて、カラオケを利用してカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、営業上の利益を増大させることを意図している場合に客による歌唱について、演奏権侵害によるスナック経営者の不法行為責任を肯定するとともに、カラオケ装置のリース業者について、条理上著作権侵害の危険の防止措置を講じる義務、危険の存在を指示警告する義務を負うとして、共同不法行為責任を認めた。 |
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一 カラオケ装置のリース行為自体は著作権を侵害するものではないものの、カラオケ装置を権利者の許諾を得ずに使用することが即著作権侵害となるという状況を考慮すると、リース業者は、カラオケ装置のユーザーが許諾を得ないまま、カラオケ装置をカラオケ伴奏による客の歌唱に使用すれば、音楽著作物の上映権及び演奏権を侵害することを知っていたか、知るべきであったといえる。 | 二 リース契約の締結に際しては、契約書の契約条項に記載するなどの方法により、カラオケ装置等を営業目的のために使用する場合、著作物使用許諾契約を結ぶよう留意すべきことをスナック店の経営者に対し周知徹底させて契約締結を促したり、すでにリース契約中の者についても、契約の相手方であるスナック店が著作物使用許諾契約を締結していない場合は、経営者に対して、契約締結交渉に応じるよう指示、指導すべき注意義務があり、それに従わないスナック経営者に対しては、条理上当然にリース契約を解除してカラオケ装置を引き上げる注意義務があった。 | 三 これを行わなかったリース業者は、スナック店が著作権を侵害するのを幇助したものであり、その幇助について過失があるため、共同不法行為者にあたる。 |
また、出版社や放送局の著作権等侵害に係る責任等に関する裁判例としては、出版社が著作権等侵害について容易に知り得た場合、慣習等から著作権等侵害の可能性について予測可能であった場合、出版前に編集会議等を開催し、内容に積極的に関与していた場合について出版社の責任を肯定したものがある一方で、著作権等侵害の可能性の予測が困難であった場合や出版社が内容に関与していなかった場合に出版社の責任を否定したものがある。
また、放送局は、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないように万全の注意を払う義務があることは当然であるとして、著作権等侵害について放送局の責任を肯定した裁判例もある。 |
4. サービス・プロバイダーの民事上・刑事上の責任の範囲について |
(1) 著作権侵害に対するサービス・プロバイダーの関与の違い
不法行為に関する上記3.の裁判例等から判断すると、サービス・プロバイダーの利用者(発信者)の著作権侵害行為に対して、サービス・プロバイダーが著作権侵害の内容に事前に関与していたかどうか、また、関与していなかった場合には、その後著作権侵害について知り、または知るべきであったかどうかによりサービス・プロバイダーの著作権侵害に対する法的責任の考え方は異なっているといえる。
なお、不法行為責任の有無を検討するにあたって、出版社や放送局等のメディアの場合には、当該著作物の利用について内容的にも技術的にもコントロールすることができることが前提となっているのに対し、サービス・プロバイダーの場合には内容的にも、またケースによっては技術的にもコントロールが可能ではない点に留意する必要がある。 |
以上のことを考慮し、サービス・プロバイダーの権利者に対する民事上・刑事上の責任の有無等について整理するにあたって、著作権侵害に対するサービス・プロバイダーの関与のあり方に応じて次のようなケースに分類して検討することとする。
一 サービス・プロバイダーが無許諾の著作物のアップロード時にその内容に関与する等、事前に積極的な関与を行っている場合 | 二 サービス・プロバイダーはアップロード時には関与していないものの、その後著作権侵害であることを知り、または知るべきでありながら、これを助長・援助し、または放置していた場合 | 三 サービス・プロバイダーがアップロード時にも関与しておらず、その後も著作権侵害であることを知らず、または知らないことについて相当の理由があった場合及びサービス・プロバイダーが無許諾で利用されている著作物を削除できる等著作権侵害について技術的にコントロールすることが可能ではない場合 |
このほか、アップロード時に内容に関与していないサービス・プロバイダーが、その後著作権侵害であることを知り、内容を削除した場合が考えられる。これについては、(2)及び(3)においては、一から三までとは別にサービス・プロバイダーの発信者に対する責任として取り上げることとする。
(2) サービス・プロバイダーの民事上の責任についての基本的な考え方
a)(1) 一(サービス・プロバイダーがアップロード時に積極的な関与を行っている場合)について
| | サービス・プロバイダー自らが送信可能化等の行為を行っていると認められる場合には、著作権侵害について権利者に対する損害賠償責任を問われるものと考えられる。
| サービス・プロバイダーは著作権法第112条の差止請求の相手方となり得るものと考えられる。
| b)(1) 二(サービス・プロバイダーはアップロード時に積極的な関与を行っていないが、その後著作権侵害であることを知り、または知るべきでありながら助長、援助し、または放置した場合)について
| | この場合サービス・プロバイダーは、一定の場合には著作権侵害について注意義務を有するとされ、その態様によっては著作権侵害の共同不法行為者として、権利者に対する損害賠償責任を問われるものと考えられる。
| ただし、例えば著作権侵害を主張する者からの通知等により著作権侵害がある可能性を知ったとしても、その通知等があったことによりただちにサービス・プロバイダーが著作権侵害について知るべきであったことにはならず、著作権侵害であると信ずるに足りる相当の理由がなければ、仮に外形的に著作権侵害の状況を助長・援助している等の状況があったとしても、著作権侵害について損害賠償責任を問われることはないと考えられる。
| 著作権侵害は著作権の各支分権が対象とする利用行為(複製、公衆送信等)を権利者の許諾なく行うことであり、サービス・プロバイダー自身が複製行為や自動公衆送信行為を行っているとは言い難いことから、サービス・プロバイダーは侵害者に該当せず、著作権法第112条の差止請求の相手方とはならないと考えられる。
| なお、公衆送信についてはサービス・プロバイダー自身が著作権侵害を行っていると評価しうるとする考え方や、少なくとも著作権侵害であることを知った後については、サービス・プロバイダーが侵害者であるといえるとの考え方もあり、それらの考え方に立てば、サービス・プロバイダーは差止請求の相手方となりうる。この場合、送信可能化は自動公衆送信を前提としていることから、著作物等をアップロード(送信可能化)する行為は発信者が行っており、公衆送信についてはサービス・プロバイダーが行っていると考えることにより送信可能化の主体と自動公衆送信の主体が異なることをどう考えるかについて整理する必要がある。
| c)(1) 三(サービス・プロバイダーはアップロード時に積極的に関与しておらず、かつその後も著作権侵害であることを知らず、または知らないことについて相当の理由があった場合及び無許諾で利用されている著作物を削除できる等、著作権侵害について技術的にコントロールすることが可能ではない場合)について
| | サービス・プロバイダーの権利者に対する損害賠償責任が問われることはないものと考えられる。
| サービス・プロバイダーは侵害者ではないことから、差止請求の相手方とはならないものと考えられる。
| ◆発信者に対する責任(著作権侵害であると信じて削除した場合) サービス・プロバイダーが著作権侵害に該当しない内容を削除したことについて、誤信について過失がある場合には発信者に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任が問われることがあると考えられる。
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(3) サービス・プロバイダーの刑事上の責任についての基本的な考え方
a)(1) 一について
| サービス・プロバイダーの故意(著作権侵害の罪に該当する事実についての認識・認容)が認められれば著作権侵害について刑事上の責任を問われる可能性がある。
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b)(1) 二について
| 著作権侵害を知りつつこれを助長・援助した場合には、①の場合と同様に、サービス・プロバイダーの故意が認められれば著作権侵害について刑事上の責任を問われる可能性がある。一方、著作権侵害について知らず、これを助長・援助した場合には、著作権侵害の罪に該当する事実についての認識・認容が認められず、サービス・プロバイダーが著作権侵害についての刑事上の責任を問われることはないと考えられる。また、著作権侵害を知りつつこれを放置する場合についても、著作権侵害を知りつつ放置するという不作為が著作権侵害を構成あるいは容易にする作為と同視しうる程度のものでなければならないことから、著作権侵害について、サービス・プロバイダーが不作為犯として刑事上の責任を問われる場面はかなり限定されている。
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c)(1) 三について
サービス・プロバイダーが著作権侵害について刑事上の責任を問われることはない。
| ◆発信者に対する責任(著作権侵害であると信じて削除した場合) 他人(著作権者)の権利を守るためにやむを得ずした行為である場合、真実は著作権侵害事実はなかったのに、事実関係を誤認して、著作権侵害行為があると誤認して削除した場合には、通常犯罪は成立しない。
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以上のことから、サービス・プロバイダーが刑事上の責任を負うことは通常考えられないことから、以下の議論については民事上の責任に限定して進めることとする。 |
5. サービス・プロバイダーの積極的な監視義務の有無
サービス・プロバイダーのサービス自体はアップロードされる内容まで責任を負うものではないこと、著作権侵害であるか否かは当該内容が著作物であるか否かあるいは権利者の許諾を得ているか否かに係っているところ、著作物がアップロードされた外形のみをもって判断することは困難であること、また、サービス・プロバイダーに逐一権利者の意思を確認させることは困難であること、表現の自由との関係などの問題を引き起こすことが考えられることから、サービス・プロバイダーに積極的な監視義務を負わせることは、サービス・プロバイダーに非現実的で過度の負担を負わせることとなり、不適当であると考えられる。なお、前述の「ニフティサーブ事件」においても、名誉毀損について、システム・オペレーターが具体的に知ったと認められる場合には条理上の作為義務が生じるとしつつも、「フォーラムに書き込まれる発言の内容を常時監視し、積極的に他人の名誉を毀損するような発言がないかを探知したり、すべての発言の問題性を検討したりというような重い作為義務を負わせるのは相当でない。」としている。
この点について、DMCA上サービス・プロバイダーが免責される条件として、サービス・プロバイダーが侵害について善意・無過失であることが含まれており、著作権侵害を知りまたは知りうべきである場合には、これによって調査・削除義務が生じ、その違反があるとき、ノーティス・アンド・テイクダウン手続に基づく削除を行ったとしても免責が認められていないこととされている。 |
6. サービス・プロバイダーの法的責任の明確化の必要性について
サービス・プロバイダーがどのような場合に著作権侵害による損害賠償責任を問われるかは、個々の事案の内容ごとに最終的には裁判所により判断されるものである。
4.(1)一の場合はサービス・プロバイダー自らがアップロードに関与しており、そのアップロードが著作権侵害であることについて故意又は過失があれば不法行為責任を問われることは明確である。
一方で、二の場合には、注意義務が発生し、損害賠償責任が問われることがありうると考えられる。しかしながら、サービス・プロバイダーはアップロード時に積極的な関与をしておらず、かつ、積極的な監視義務もないことから、どのような場合に著作権侵害について知るべきであったのか、また、その上でどのような措置を講ずる必要があるのかは必ずしも明確ではなく、いかなる場合にサービス・プロバイダーが責任を問われるのかがあいまいである。
特に、発信者の連絡先が不明の場合や、発信者に対して著作物の削除等を要求したが、発信者がこれを放置している場合には、権利侵害を主張する者は、サービス・プロバイダーに対してその削除等を要求するケースが多いと考えられる。このような場合、サービス・プロバイダーは著作権侵害がある可能性について知ることとなるものの、権利侵害を主張する者が真の著作権者であるかどうかの判断をしたり、当該著作物の利用が著作権侵害であるか否かの判断をしたりすることが困難である。
このような状況は、一方において、権利者にとり著作権侵害の状態が放置されることとなり、迅速に権利侵害による被害の拡大を防止することができず望ましくない。他方において、サービス・プロバイダーは、権利侵害を主張する通知を受け、著作権侵害がないにもかかわらず当該著作物を削除等すれば、発信者に対する責任を問われる可能性がある。また、著作権侵害があるにもかかわらず、当該著作物を削除等しなければ、著作権侵害について知るべきであったとして共同不法行為責任を問われる可能性があり、非常に不安定な立場に置かれることとなる。 |
7. ノーティス・アンド・テイクダウン手続について
インターネット上での著作権侵害は短時間に大規模なものに発展するおそれがあり、裁判所による判断が示されるまで放置することは必ずしも適当ではないため、別途、簡易迅速な権利救済制度として、著作権侵害の可能性がある一定の場合にサービス・プロバイダーがとるべき定型的な手続(ノーティス・アンド・テイクダウン手続)を定めることが必要であると考えられる。
※ 本報告書においてノーティス・アンド・テイクダウン手続とは、著作権侵害を主張する者からの一定の通知に基づき、サービス・プロバイダーが当該著作物の削除等の措置を行う一連の手続を言い、米国DMCAに定められた手続とは異なるものである。 |
(1) 具体的な手続
サービス・プロバイダーに積極的な監視義務はなく、かつ、著作権侵害の責任追及に際しては権利者の権利行使の意思が前提であることを考慮すれば、サービス・プロバイダーがアップロード時に関与していない場合においてサービス・プロバイダーが著作権侵害がある可能性があることを知るのは、多くは著作権侵害を主張する者からの通知等がある場合であると考えられる。したがって、かかる場合に対して、サービス・プロバイダーが講ずべき措置について一定のルールを定めることが必要である。
権利侵害の主張は、電話によるもの、文書によるもの等多種多様であるが、このような権利侵害の主張に法律上一定の効力を持たせるためには、ノーティス・アンド・テイクダウン手続は法律上定められた一定の要件を満たす通知により開始されることとすることが適当である。
権利侵害を主張する者からの通知を受けた後のサービス・プロバイダーの対応としては、著作権侵害である場合に生じ得る被害の拡大を速やかに防止するという観点から、無許諾で利用されていると主張されている著作物の削除等とすることが適当であると考えられる。
被害の拡大防止の必要性がある一方で、発信者の表現の自由にも配慮する必要があるため、例えば、通知さえあれば不実権利者からのものであっても著作物が削除等されてしまうことを防止する観点から、サービス・プロバイダーは通知を受けた後、ただちに著作物の削除等を行うのではなく、発信者に対して通知を受けた旨を知らせ、発信者に異議申立ての機会を与えた上で、一定期間内に発信者からの異議申立てがなければ削除等することとすることが適当である。また、この期間については、著作権侵害である場合に生じ得る被害の拡大を防止する観点から、短期間に設定することが望ましい。
なお、具体的に通知を受けたサービス・プロバイダーがとるべき措置を規定するにあたっては、サービス・プロバイダーの提供するサービスの内容によっては、無許諾で利用されている著作物そのものの削除が困難である場合(キャッシングやサーチエンジン等)もあることから、サービス内容の態様に応じ、技術的にどのような措置が可能であるかを踏まえ、検討する必要がある。
このような手続をサービス・プロバイダーの作為義務として規定することについては、表現の自由の萎縮効果が大きいこと、あらゆる通知に対して画一的な対応を義務づけることとすると、明らかに問題があると思われる通知についてもサービス・プロバイダーとしては責任を問われないために削除せざるを得なくなること、また、作為義務として規定することにより、権利者はその義務の履行を求めてサービス・プロバイダーに対して訴訟を提起することができることとなるが、サービス・プロバイダー側からすると、当該著作物を削除するかしないかは自らの権利に無関係であり、サービス・プロバイダーが訴訟当事者となることは実質的な意味を有しないことが考えられる。したがって、サービス・プロバイダーの義務として規定するのではなく、権利侵害を主張する者からの通知を受けたサービス・プロバイダーが削除等を行った場合にはサービス・プロバイダーは民事上の責任を負わないこととする特別の手続とすることが適当である。
簡易迅速な手続としてノーティス・アンド・テイクダウン手続を設けることとした場合、権利侵害を主張する者は、権利者の特定、侵害されたと主張する著作物及び権利の特定、削除を求める内容の特定などに必要な事項を通知することが必要であるが、その際、サービス・プロバイダーが著作権侵害に関して著作権法上独自の判断を迫られることを避けられるものでなければならない。
サービス・プロバイダーが削除をする前に発信者の異議申立ての機会を設けていることから、ノーティス・アンド・テイクダウンの手続として削除した著作物の復活の手続を設けることは不要である。
特に、通知事項を上記のように定めれば、不実権利者による通知の濫発を防止する観点からも不実の通知を行った者の発信者又はサービス・プロバイダー等に対する損害賠償責任の明確化などの措置を検討することが必要である。
以上のように手続面での保障を行うことにより、アップロードされた内容を削除することについて、表現の自由との関係では問題は生じないと考えられる。
一方で、発信者からの異議申立てについて、これが濫用され、結果としてノーティス・アンド・テイクダウン手続の実効性が損なわれるような事態とならないよう、何らかの措置を検討する必要がある。
(参考) | DMCAにおいては、通知の要件として、通知を行う者の氏名等の著作権侵害に該当すると主張される内容を特定するための条件等のほか、権利侵害を主張する者が著作権侵害が行われていると善意誠実に信ずる旨の陳述及び通知に記載された情報は正確である旨の陳述等が要求されている。
さらに、不実の通知を行った者に対しては、その通知により生じた損害をサービス・プロバイダー、発信者、著作権者等に対して賠償する責任を負うこととされている。
また、サービス・プロバイダーは権利侵害を主張する者からの通知により、削除を行った場合には、その旨を発信者に通知することとされており、発信者は一定期間内であれば自らの氏名等を開示した上で、削除された内容の復活を請求することができる。(サービス・プロバイダーは、権利侵害を主張する者が差止請求訴訟を提起している場合を除き、復活させなければならない。) |
(2) ノーティス・アンド・テイクダウン手続への裁判所の関与
ノーティス・アンド・テイクダウン手続は簡易迅速な手続として位置づけられるべきであるため、ノーティス・アンド・テイクダウン手続の過程において裁判所の関与は必要ないと考えられる。
(3) ノーティス・アンド・テイクダウン手続の効果
ノーティス・アンド・テイクダウン手続は、実際に著作権侵害があるかどうかにかかわらず、簡易かつ迅速に権利者の救済を図るための制度であり、当該制度の活用により、権利者にとっては権利侵害状態の速やかな是正が、また、サービス・プロバイダーにとっても事案の定型的な処理を行うことにより事業の円滑な遂行が期待されるものである。
サービス・プロバイダーは、ノーティス・アンド・テイクダウン手続に則って著作物の削除等を行う場合、権利者に対して権利侵害についての損害賠償責任を負わないものと解される。なお、権利侵害を主張する者からの通知を受けた旨をサービス・プロバイダーが発信者に知らせた結果、発信者からの異議申立てがあって、結果としてサービス・プロバイダーが著作物等の削除を行わなかった場合でも、サービス・プロバイダーは損害賠償責任を負わないものと解される。
ただし、サービス・プロバイダーがアップロード時に関与していた場合や、ノーティス・アンド・テイクダウン手続に定められた通知以外の事情により著作権侵害について知り、または知るべきであった場合については、サービス・プロバイダーは本手続上の効果を主張することができず、民法第709条に従い損害賠償責任の有無について判断されることとなる。
サービス・プロバイダーには著作権侵害についての積極的な監視義務はないものの、仮にサービス・プロバイダーが権利侵害を主張する者からの通知以外の何らかの事情により著作権侵害の可能性について知るに至った場合であっても、権利者による訴えの提起等がなければ著作権侵害について損害賠償責任を問われることは通常はないことから、このようなケースについては、サービス・プロバイダーの法的責任について規定を設ける必要はなく、個別判断に委ねることとして差し支えないと考えられる。
また、本手続に従う著作物の削除等について、著作権侵害であるかどうかにかかわらず、サービス・プロバイダーは発信者に対する責任を負わないこととなる。
仮に、サービス・プロバイダーが発信者に対して権利侵害を主張する者からの通知を受けた旨を知らせずに当該著作物を削除する等、ノーティス・アンド・テイクダウン手続に従わずに著作物を削除等した場合には当該著作物の削除等について、また、所定期間内に発信者から異議申立てがないのにもかかわらず、当該著作物を削除しない等ノーティス・アンド・テイクダウン手続に従わずに著作物を放置した場合には著作権侵害について、損害賠償責任を負うこともあり得る。ただし、ノーティス・アンド・テイクダウン手続に従わなかったからといってただちにサービス・プロバイダーの損害賠償責任が認められるものではなく、民法第709条に従い、個別に判断されることとなる。
なお、ノーティス・アンド・テイクダウン手続の過程において、著作権侵害であると信ずるに足りる相当な事情が生じた場合の著作権侵害についてのサービス・プロバイダーの法的な責任についても、民法第709条に従い、個別に判断されることとなる。
同時に、著作権侵害について損害賠償請求を行うことまでは求めないが、著作権侵害の状態を排除したいと考える権利者にとっては、適切な異議申立て濫用の防止措置が講じられることとなれば、このノーティス・アンド・テイクダウン手続は、迅速に著作権侵害の拡大を防止することができる手段として大きな効果を持つこととなる。 |
8. サービス・プロバイダーに対する差止請求
ノーティス・アンド・テイクダウン手続を上記7.のように規定した場合、権利侵害を主張する者からサービス・プロバイダーに対して通知をしたにもかかわらず、その著作物等の削除等が行われないことや、発信者からの異議申立てがあったことにより削除等が行われないことがあり得ることから、著作権侵害があった場合に、サービス・プロバイダーに対する差止請求を認める必要があるかどうかについて検討を行うことが適当である。
この点について検討を行うにあたっては、現行の著作権法第112条ではサービス・プロバイダーに対する差止請求は認められないのか、認められないとすると、差止請求を認めることとする何らかの措置が必要であるか、その場合、著作権侵害を行っていないサービス・プロバイダーに対して差止請求を認めることの理由をどのように考えるのかといった事項に留意しながら、検討を行う必要がある。
また、著作権侵害を知っているサービス・プロバイダーに対する差止請求について検討するにあたっては、第113条第1項第2号においては著作権等を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布する行為は著作権等を侵害する行為とみなされており、著作権侵害について「情を知って」いた出版社等のメディアは差止請求を受けることとなることとのバランスにも留意する必要がある。
同時に、著作権侵害に係る紛争は、基本的には発信者と権利者の間で解決すべき問題であることから、発信者情報の開示制度により、発信者がどの程度明らかになるのかについても留意する必要がある。
また、差止請求とは別に、当事者間での著作権侵害についての訴訟の結果、著作権侵害があったことが確定した場合には、発信者からの申し出の有無にかかわらず、サービス・プロバイダーが著作物等の削除を行うことができる根拠を設けることを検討すべきであるとの意見があり、これについては、現行制度上、著作権侵害があったことが確定した場合に、当該著作物の削除がなお維持されるのかどうか等も含め、検討を行う必要がある。 |
9. 発信者情報の開示
(1) 発信者情報の開示と「通信の秘密」の関係
「通信の秘密」には匿名による表現の自由の側面も含まれていることから、公然性のある通信に係る発信者情報についても「通信の秘密」の保護の対象となると考えられている。
(2) 「通信の秘密」の制限について
「通信の秘密」は憲法で保障されているものの、全ての場合に優越するものではなく、当然に内在する制約があり、違法な内容を表現する自由までも含むものではない。
そもそも著作権侵害についてはその性質上当事者間で解決すべき問題であること、法律上規定されたノーティス・アンド・テイクダウン手続に則って無許諾でアップロードされた著作物を削除することにより、サービス・プロバイダーが損害賠償責任を問われることはなくなるが、アップロードされてから削除されるまでの過去の著作権侵害について権利者が発信者に対して損害賠償請求を行うことが考えられること、また、ノーティス・アンド・テイクダウン手続によっても発信者からの異議申立てにより削除等が行われない場合に、迅速に当事者間の解決に移行する必要があることから、サービス・プロバイダーによる発信者情報の開示が必要となる。
(3) 発信者情報開示の要件
発信者情報の開示は「通信の秘密」の保護の制限にあたることから、サービス・プロバイダーによる発信者情報の開示が認められるためには、著作権侵害であることの蓋然性が高く、発信者情報が訴訟提起のために必要不可欠であり、かつ、サービス・プロバイダーによる情報の開示以外の手段によっては、発信者に係る情報を得ることが極めて困難である等の条件を充たすことが必要である。
DMCAにおいては、通知の写しを添付する等の形式的な要件によって裁判所の書記官が発信者情報の開示を決定することができることとされているが、我が国において発信者情報の開示を請求するために具体的にどのような要件を備える必要があるかについては、通信の秘密や表現の自由との関係に十分留意して検討する必要がある。
(参考) | DMCAでは、ノーティス・アンド・テイクダウンの手続に則って通知をしていることが発信者情報の開示請求の前提条件とされている。これにより、権利者は当該内容が著作権侵害であると信じる相当の理由があることが示される。さらに、ノーティス・アンド・テイクダウンの手続に従うと、通知を受けたサービス・プロバイダーからその内容の削除について通知を受けた者は、その削除について異論があればその内容の復活を求めることができ、復活の請求を求めなかった者は、自らが著作権侵害を行っているということを消極的に容認しているということができることから、著作権侵害が行われていることの蓋然性が高いということができると考えられる。また、復活の請求の際には、請求者はその氏名等を明記した反対通知を送付しなければならず、その時点で侵害者を特定することができることとなることから、通知の写しの添付を要件とすることにより、発信者に係る情報を入手するための他の可能な方策を尽くしたことを示すこととなる。 |
著作権侵害が主張される場合においても、通信の秘密や匿名による表現の自由を十分に保護する必要があるとの考え方に立つとすれば、発信者情報の開示の決定に当たっては、通知の写しの添付等の形式的な要件では足りず、著作権侵害の蓋然性について実質的な判断を要すると考えられる。
(4) 発信者情報の開示の手続(判断機関)
発信者情報の開示決定にあたって、著作権侵害に該当する可能性が高いか否か、さらに「通信の秘密」により保護される利益との比較衡量等、実質的な判断が必要であるとすれば、裁判所による判断が適当であると考えられる。
上記のような実質的な判断については、専門性が要求されると同時に、著作権侵害による被害の拡大防止のため、簡易迅速な手続が必要であることから、第三者機関による判断が適当であるとの意見がある。
これについては、第三者機関に発信者情報の開示の可否について判断させることは、サービス・プロバイダー自らが判断して発信者情報の開示を決定する場合の責任を第三者機関に転嫁していることにしかならず、著作権侵害や通信の秘密の問題について実質的な判断を第三者機関にさせることは適当ではないとの意見もある。
具体的な手続等については、名誉毀損等他の法領域における検討状況を踏まえ、判断することが適当である。 |
10. 他の法領域との関係
平成12年7月7日閣議決定によりIT戦略本部が設置された。10月16日に開催された第4回IT戦略会議・IT戦略本部合同会議で、IT担当大臣から関係閣僚に「ネット上の紛争の解決に当たって接続プロバイダー等の責任を明確化する」など、「電子商取引の特質に応じたルールや情報化社会の基本的ルールについて、全く新しいルールづくりが喫緊の課題」であるとして、次期通常国会に向けて必要な法律案の策定作業について努力するよう要望があった。
通商産業省においては、平成12年11月22日に産業構造審議会情報経済部会で第2次提言を公表し、その中で仲介者の責任の明確化が必要であることを提言した。
郵政省においてはインターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会においてサービス・プロバイダーの責任の明確化について検討を行っているところである。
このような各方面での検討結果を踏まえて、他の法領域との均衡から横断的な対応が望ましい事項、あるいは著作権法固有の問題として対応すべき事項の整理について判断することが必要である。 |
11. その他
インターネットの普及により、国境を超えた著作物の利用が容易となっていることから、これに伴い、国境を超えた著作権侵害の紛争が発生する可能性が高まっている。このような中、例えば外国のサービス・プロバイダーのサーバーに日本向けに日本語の著作物がアップロードされている場合には日本法の規定が適用されるのかといった問題や、権利侵害を主張する者はどの言語で通知すればいいか等、国際的な紛争に関する準拠法などに関するルールの整備が重要になっている。このような問題については、今後、国際的動向に留意しつつ検討する必要がある。 |
12. 終わりに
このような立法による措置にかかわらず、将来的には例えば、サービス・プロバイダーは、権利者からの許諾があったことを示す表示の付された著作物のアップロードしか認めない等、技術的に可能な範囲で、権利者とサービス・プロバイダーが連携して著作権等の保護を図るようなシステムの構築が望まれる。
また、著作権侵害について当事者間での紛争解決を可能とするため、運用として、サービス・プロバイダーが発信者情報をできる限り正確に把握していくことが期待される。 |
参考資料
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1. デジタル・ミレニアム著作権法(米国)概要
◎サービス・プロバイダーは、一定の要件を充たしていれば第三者の著作権侵害に基づく金銭的責任を免除される。
1. 免責の対象となるサービス・プロバイダー
1) | 繰り返し侵害を行っている加入者に対するアカウントの取り消しに関する方針を採用し、これを加入者及びアカウント保有者に通知していること。 | 2) | 著作権のある著作物を特定し、または保護するために著作権者が使用する技術的手段のうち標準的なものを導入し、かつこれを阻害しないこと。 |
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2. 免責の対象となる行為
(1)単なる導管(接続サービス) (2)キャッシング (3)ホスティング (4)サーチエンジン(リンク)
3. 免責の条件
サービス・プロバイダーがアップロード時に、内容に関与していないこと。
アップロード後も、サービス・プロバイダーが著作権侵害について善意・無過失であること。
著作権侵害について、要件を備えた通知(著作権侵害主張通知)があった場合には速やかにその著作物等を削除等すること。(Notice&Takedown)(別紙1)
★ | 削除等について、サービス・プロバイダーは原則として責任を負わない。ただし、ホスティングについては削除された内容の復活について、一定の手続をとっていることが条件とされている。(別紙2) | ★ | 著作権侵害についての虚偽の事実の主張があった場合にその虚偽の主張をした者の責任について規定が設けられている。
| | <虚偽の事実の主張について> 故意に、素材が著作権を侵害していると虚偽の事実を主張し、サービス・プロバイダーがこれに基づき素材を除去し、又はアクセスを解除した場合や、素材が錯誤や誤認により除去され、又はアクセスを解除されたと虚偽の事実を主張し、サービス・プロバイダーがこれに基づき素材を復活又はアクセス可能にした場合には、その虚偽の主張をした者が、その主張により侵害者と主張された者、著作権者若しくはその許諾を受けたライセンシー又はサービス・プロバイダーが被った全ての損害を賠償する責任を負う。 | ★ | サービス・プロパイダーがそのサービスを監視し、又は侵害行為を示す事実を積極的に探知することや、素材に対して、法律で禁止されているアクセスを行い、素材を除去し又はアクセスを解除することを要するものではないことが明記されている。 |
◎侵害者を特定するための文書提出命令
侵害者を特定するため、著作権者又はその代理人は連邦地方裁判所書記官に対し、サービス・プロバイダーに文書提出命令を発することを請求することができ、この提出命令を受けたサービス・プロバイダーは、著作権者又その代理人に対して、文書提出命令が要求する情報を速やかに開示しなければならない。(別紙3)
◎侵害差止命令
金銭的責任の免除を受ける行為であっても、サービス・プロバイダーは裁判所の差止命令を受ける。ただし、命令の内容は侵害にあたる素材又は行為者へのアクセス提供を禁じる命令に限られている。 |
〔別紙1〕 | 〔Notice&Takedown〕 |  | *素材の削除等については原則としてSPは責任を問われないが、ホスティングについては、素材の削除等の後、一定の手続をとることが要件 |
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〔別紙2〕 | 〔削除無責任の手続(ホスティングについて)〕 |  | *権利者が情報の発信者に対して差止請求訴訟を提起している場合には素材の復活を要しない。 |
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〔別紙3〕 | 〔DMCAにおける侵害者を特定するための文書提出命令〕 |  | ★ | 請求の内容 請求は、以下を書記官に提出して行う。・ | 著作権等侵害主張通知の写し | ・ | 求める文書提出命令 | ・ | 文書提出命令を要求する目的は侵害者とされる者を特定することであり、かつ係る情報は著作権を保護する目的のみに使用される旨の宣誓陳述書< |
| ★ | 文書提出命令の内容 サービス・プロバイダーに入手可能な範囲で、通知に記述する素材を侵害すると主張される者を特定するに十分な情報を著作権者又はその代理を授権した者に対して速やかに開示すること。 | ★ | 文書提出命令を発行するための理由 法律に定められた書類等が適切な形式である場合には、書記官は求められた文書提出命令を速やかに発行する。 |
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2. デジタル・ミレニアム著作権法 →(DMCA)第512条参照 |
3. 電子商取引指令(EUディレクティブ)概要
★この指令案においては、著作権の分野に限定せず、名誉毀損等も含めた中間サービス・プロバイダーの法的責任について規定している。
◎サービス・プロバイダーは一定の要件を充たしていれば、第三者の違法行為について責任を免除される。 |
1. 免責の対象となる行為
(1)単なる導管 (2)キャッシング (3)ホスティング
2. 免責の条件
(1) 単なる導管(自動的、中間的、一時的な蓄積を含む)についての免責 | 1) | サービス・プロバイダーが素材の送信を開始していないこと。 | 2) | サービス・プロバイダーが受信者を選択しないこと。 | 3) | サービス・プロバイダーが素材の選択をしたり、改変を行ったりしないこと。 | 4) | 送信をなすために必要な時間を超えて蓄積がなされないこと。 |
| (2) キャッシングについての免責 | 1) | サービス・プロバイダーが素材を改変しないこと。 | 2) | 発信者が素材へのアクセスに条件を課している場合には、その条件に従うこと。 | 3) | 業界で広く受け入れられているルールに従って素材の更新が行われていること。 | 4) | サービス・プロバイダーが素材についての情報を得るための技術的手段のうち標準的なものを阻害しないこと。 | 5) | サービス・プロバイダーが侵害の事実を知った場合に速やかに素材を削除し、又はアクセスを解除すること。 |
| (3) ホスティングについての免責 | 1) | サービス・プロバイダーが侵害の事実等を知らないこと、又は知った場合に速やかに素材を除去し、又はアクセスを解除すること。 | 2) | サービス・プロバイダーが侵害行為をコントロールしていないこと。 |
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★サービス・プロバイダーがそのサービスを監視し、又は侵害行為を示す事実を積極的に探知する義務等を有するものではないことが明記されている。
4. 著作権侵害についての出版社・放送局の責任に関する裁判例
[ 1. 出版社の責任 ]
(1)著作権等侵害についての出版社の責任を肯定した裁判例
1) 出版社が著作権等侵害について容易に知り得た場合 | 【卒業レリーフ事件】(東京地判平成2年4月27日) 美術作品Aに係る著作権侵害により作成された美術作品Bの写真を雑誌に掲載したことに関し、美術作品Aは、創作後、美術誌に掲載され、個展において展示されて公表され、美術関係の学生も知っていたことから、出版社がこの美術作品Aの著作権を侵害して製作された美術作品Bの写真を雑誌に掲載し、頒布することは、不法行為にあたる。
【地のさざめごと事件】(東京地判昭和55年9月17日) A、B、Cにより編集、作成され、非売品として発行された遺稿集旧版に関する著作権等を侵害してDの編集名義で新たに遺稿集新版を出版したことについて、出版するに際して、この書物の著作者ないし編集者が誰であるかは、旧版のあとがきを見て調査する等すれば容易に知ることができたにもかかわらずこれを怠って、新版の著者ないし編集者として他の者の名を冠した出版社には、真の著作者ないし編集者の編集著作権及び編集著作者人格権を侵害した責任を生じる。
| 2) 慣習等から著作権等侵害の可能性について予測可能であった場合 | 【改訂薬理学事件】(東京地判平成2年6月13日) 書籍の改訂版を作成する際に、業務としてこれを編集、発行する者は、改訂前の表現が改訂版書籍にも使用される可能性があることを当然予測すべきであり、改訂前の書籍の執筆者と改訂版の執筆者が異なる場合には、改訂前の表現の無断利用が行われないように、予め執筆者に対して注意を促し、更に、執筆済み原稿を照合して表現の利用の有無を確認し、表現の利用があった場合には利用された表現の執筆者の同意の有無を確認するなど、改訂前の執筆者の有する著作権等を侵害することを回避すべき措置を講じるべき義務がある。
| 3) 出版前に事前調査を行っていた場合 | 【日照権盗用事件】(東京地判昭和53年6月21日) 出版社は、執筆者から書籍の出版を依頼され、執筆者の出版歴等を調査し、編集会議を開いて書籍の市場性等を検討した上、これを承諾し、書籍の発行等に踏み切ったことから、その際に必要な注意を用いれば、その書籍の発行等が著作権等を侵害するものであることを知り得たはずであるのにこれを怠った点において過失があるといえ、出版社の不法行為が成立する。 |
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(2)著作権等侵害についての出版社の責任を否定した裁判例
1) 著作権等侵害の可能性の予測が困難であった場合 | 【ぐうたら健康法事件】(東京地判平成7年5月31日) 出版社が著作権を侵害した文書を出版したことについて、出版社が地方の小出版社である一方で、執筆者が名の知られた医師であることなどを考えると、出版社が執筆者の原稿について著作権を侵害するものであるかどうかについて予め広く一般の雑誌記事にまで目を通して調査すべき義務があるということはできない。
| 2) 出版社が内容に関与していなかった場合 | 【医学部助手氏名脱漏事件】(千葉地判昭和54年2月19日) 大学医学部教授の持ち込み企画による医学書が分担執筆者の一人の著作者人格権を侵害していた場合の出版社の責任について、出版社が、教授が著作内容や分担執筆者との関係等を一切調整した出版原稿を受け取る旨の約束を取り付け、分担執筆者の氏名の掲記方法及び氏名を著作者側の代表者および履行補助者の指示に従って行ったことが認められる場合、そのうちの一人の氏名を脱漏して出版したとしても、その者の著作者人格権の侵害については責任を負わない。(なお、同様の医学書について、実態としては分担執筆している場合であっても教授の単独名義としている場合が多い。) |
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[ 2. 放送局の責任 ]
【悪妻物語事件】(東京高裁平成8年4月16日) 放送事業、放送番組の制作等を業としている放送局としては、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないように万全の注意を払う義務があることは当然である。これは、テレビドラマの制作を第三者に委託し、これを放映する場合であっても同じである。
テレビ番組制作契約に、この契約によりテレビ局が取得する諸権利を支障なく行使できるように、番組に使用される一切の著作物の著作権等の処理をすべて制作会社において行うものとすることが定められているが、これにより第三者に対する権利侵害についての注意義務が軽減されたり、免除されたりするものではない。 |
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5. 著作権審議会第1小委員会専門部会(救済・罰則等関係)委員名簿 | 平成12年12月4日現在 (敬称略、五十音順)
| | 小 川 秀 樹 | 法務省民事局参事官 | | 後 藤 恒 久 | (株)NTTデータ経営企画部長 | 座 長 | 斉 藤 博 | 専修大学教授 | | 道垣内 正 人 | 東京大学教授 | | 中 山 信 弘 | 東京大学教授 | | 野 村 豊 弘 | 学校法人学習院常務理事 | | 長谷川 充 弘 | 法務省刑事局参事官 | | 牧 野 利 秋 | 弁護士・元東京高等裁判所判事 | | 増 田 稔 | 最高裁判所事務総局行政局参事官 | | 松 田 政 行 | 弁護士 | | 山 地 克 郎 | (社)電子情報技術産業協会法的問題専門委員会委員長 | | 山 本 隆 司 | 弁護士 |
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