はじめに ──問題の背景と経緯──
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1 |
出版者は、著作物の公衆への伝達上重要な役割を果たしておリ、特に言語や美術の著作物を公衆が享受する場合の多くは、出版者が作成し頒布した出版物を通して行われるものであって、出版物は、現代のニューメディアの時代においても、変わることなく重要な情報伝達媒体であると言うことができる。 |
2 |
一方、近年、複写機器の発達・普及が目覚ましく、それに伴い、著作物が出版物から複製されるようになった。
複写複製に関する著作権問題を審議した著作権審議会第4小委員会は、昭和51年に報告書を公表しておリ、同報告書において「複写機器が国民の日常生活において身近なものとなるにつれ、著作物の複写複製も容易に、かつ、数多くの機会を通じて行われる結果、社会全体における複写複製の総量は加速度的に増大しつつある。このため、著作物の創作者である著作者及び著作物の伝達に重要な役割を果たしている出版者の経済的利益が不当に害される可能性が強まり、現にこれらの者からその経済的利益の侵害に関する主張が出され」ていると述べるとともに、「複製行為が物理的に容易なものとなるに比し、個々の複製に当たって著作権者と連絡し、その許諾を得る手続は、しばしば煩瑣なものであるから」、「複写機器の発達、普及は許諾を得ない複製を増大させることとなろう」と指摘し、その対応策として、著作権思想の普及徹底、集中的権利処理機構の設立等を示した。 |
3 |
その後、昭和59年に、「著作権の集中的処理に関する調査研究協力者会議」が、集中的権利処理機構設立の具体的な方法等について提言した。同会議の報告書では、この複写問題について、特に学術分野の著作物に顕著に現れており、学術出版物の継続出版が困難となりつつあるとの指摘とともに、この問題を放置しておけば、学者や研究者が論文などを発表する場が狭められ、その結果、一般国民が学術文献に接する機会が狭められるのではないかと危惧する意見があることが指摘されている。
この提言や関係方面の反応を踏まえながら、現在、著作者や出版者の団体により集中的権利処理機構設立の準備が進められているが、一層進展しつつある複写機器の発達・普及に対応して、著作物の伝達上重要な役割を果たしている出版者について、複写を中心とした出版物の複製利用の実態を考慮した独自の保護について検討することが要請されることとなった。 |
4 |
この出版者の保護に関しては、旧著作権法を全面的に改正する際の著作権制度審議会においても検討されている。昭和41年4月に出された同審議会答申の説明書では、「出版物の組版面は、それ自体が著作物ではなく、あるいは、すでに著作権が消滅した著作物に係るものであっても、他人がそれを利用することに対し、その出版者がなんの保護をも与えられないことは妥当ではない。この場合、少なくとも組版面を写真複製等でそのまま利用することについてのなんらかの措置を、主として不正競争防止的な観点から著作権法上講ずることは考慮に価すると考える」としたが、同審議会での検討は、現在のように複写機器が発達・普及する以前になされたものであり、現行法では、出版者の保護の制度として、出版権の設定の制度が旧著作権法から引き継がれているのみである。 |
5 |
この点からも、改めて、複写機器の発達・普及に伴う出版物の複製利用の新たな実態を踏まえて、出版者の保護について検討することが必要とされるところである。
なお、この問題については、昭和60年に(社)日本書籍出版協会等の団体が、出版物の版面を利用した複写複製等の行為から出版者を保護するための出版者独自の権利の創設についての要望書を文化庁に提出している。また、国会の衆・参両院の文教委員会が、昭和60年以来、著作権法の一部改正の審議に際し、出版者を保護するための検討を行うよう附帯決議を行っている。 |
6 |
これらのことから、著作権審議会(林 修三会長:当時)は、昭和60年7月17日に開催された総会において、出版者の保護の問題について検討を開始することを決定し、第8小委員会を設置した。第8小委員会は、主査に北川善太郎京都大学教授を選出し、昭和60年9月以来検討を重ね、昭和63年10月には、その検討結果を中間的に取りまとめて公表した。この中間報告に関しては、主要な関係団体から直接ヒアリングを行い、また、その他多数の団体から意見が提出された。本小委員会は、このヒアリング結果等を踏まえて更に検討を行い、このたび、最終的に検討結果を取りまとめたので、ここに公表する。 |
3 出版活動 |
書籍、雑誌、新聞に関する出版活動は、おおむね次のような経過により行われている。 |
(1) 書籍 |
[1] 情報の収集 |
企画を立案するため、各種メディアから情報を収集する。 |
[2] 企画の立案・決定 |
収集した情報をもとに時代や世相を把握したり、また、ある分野の学問上や技術上の進展状況をとらえた上で、どのようなテーマについて、どのような読者対象を想定し、だれに執筆してもらうか、いつ発行するのか、図表、イラスト、写真等をどの程度盛り込むのか等を検討し、また、判型、ページ数、発行部数、定価、装丁等について、原価計算を行うなどして検討し、出版についての企画を立案・決定する。
企画の立案・決定に当たっては、類似図書、類似企画の調査を行うほか、専門家の意見や読者アンケートの結果を参考とする。また、著者の選定に当たっては、著述歴等を考慮する。
作家等から著作物の出版を依頼される場合があるが、その場合、出版者は、その内容や執筆者の著述歴を考慮して出版するか否かを判断する。 |
[3] 原稿の執筆依頼 |
決定された企画に基づき、選定された執筆者に執筆依頼を行い、その際、企画の内容について十分説明するほか、用字、用語、写真、図表、索引等について打合せを行う。必要があれば、参考資料等を提供する。また、執筆者が執筆している間は、その進行状況を把握し、不足資料があれば、収集し、提供する。 |
[4] 原稿の整理 |
作成された原稿を整理し・法令上の問題や引用の出所の誤り、文法上の誤り等のチェックを行い、また、企画の内容に合っているかどうかを照合し、必要に応じ執筆者に修正等を以来する。また、用字、用語を統一する。 |
[5] 写真、イラスト、解説、年表等の検討、準備 |
本文中に写真、イラスト、口絵が必要な場合は、執筆者と打合せを行った上で、写真家やイラストレーター等にその作成を依頼する。解説、年表、あとがき等について検討し、その作成を解説者、執筆者等に依頼する。 |
[6] 目次、索引、奥付けの準備 |
目次、索引、奥付けについて検討し、原稿を作成する。 |
[7] 造本計画の立案と決定 |
用紙、製本の仕方、装丁、カバー、帯、書名書体等について検討、決定し、カバー、帯の原稿を作成するほか、必要に応じて装丁作家を選定し、装丁の作成を依頼する。 |
[8] 組方体裁の決定(割付) |
原稿を書籍の版面としてどのように作り上げるかを決定する。すなわち、判型、縦・横組、活字の大きさ、書体を決定し、段数、段間、柱(各ページの上部等に入れる章や節の題名、見出し)の位置、けい線、余白等の指定を行い、イラスト、写真、図表等の位置を指定する。 |
[9] 校正 |
原稿が印刷に回され、組版が作成され、校正刷りが出来上がると、校正を行う。校正は何回か繰り返し行われる。 |
[10] 印刷・製本 |
印刷を委託し、印刷が出来上がると、製本を委託する。 |
[11] 頒布 |
製本された書籍の販売・配布を行う。委託販売する場合は、取次店と交渉し、販売を委託する。
以上を図示すると、次のとおりである。 |
2 国際機関における検討 |
出版者の法的保護については、1987年(昭和62年)12月に、WIPO、ユネスコ合同印刷物(printed word)政府専門家委員会において、検討されている。
WIPO、ユネスコ両事務局がこの委員会のために作成したメモランダムでは、 |
1) |
複写的複製技術(reprographic reproduction technology)の劇的な発達により、海賊版の発生や印刷された著作物の通常の利用を妨げる事態が生じていること、 |
2) |
これに対し、出版者が保護を受けられない場合があること、 |
3) |
このような状況において、出版者が著作者の権利とは独立した保護を要求することは正当であること、 |
4) |
発行された版の組版面の保護という形態で出版者を保護している国が英国法系の諸国にあること、 |
5) |
出版者は、レコード製作者や放送事業者と同様、著作者の保護と類似の保護を受けるに値すること、 |
したがって、出版者に付与すべき権利は著作隣接権であること等の見解を述べている。また、出版者の保護の問題に対して各国が対応する場合の指針となるべき原則として、 |
1) |
発行された版の組版面に関して出版者に適正な保護を与えるよう各国が考慮すべきこと、 |
2) |
出版者の保護は、発行された版の組版面を、そのままの複製物(facsimile copies)を提供する複写又は類似の方法(reprographic of similar processes)により複製することに対して、出版者が許諾する権利を含むものであること、 |
3) |
保護期間は、発行後25年間であること、 |
4) |
発行された版に含まれている著作物に係る権利に適用される制限は、発行された版の組版面の保護にも準用されること、 |
5) |
発行された版の組版面の保護は、著作権の保護に何ら影響を及ぼすものでないこと等を掲げている。これは、「外国の立法例」(本章1)で触れたイギリス等における出版者の保護と同様の内容である。 |
この委員会では、相当数の出席者は、提案された原則について賛成を表明したが、委員会として、出版者保護の原則を採択するには至らなかった。
本問題については、1988年(昭和63年)6月に開催された「各種著作物に係る諸原則の統合と評価に関する政府専門委員会」において、前記印刷物政府専門家委員会での検討を踏まえて討議された後、1989年(平成元年)6月のベルヌ同盟執行委員会及び万国著作権条約政府間委員会に報告された。 |
第4章 出版者の法的保護
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1 出版者の保護の必要性 |
(1) 著作物の伝達者の保護 |
著作権法は、著作物に関し、著作者の権利を定めて、その保護を図るとともに、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者についても、活動の安定性を確保し、その文化的役割を十分果たすことができるよう、著作者の権利に隣接する権利を定めることによってその保護を図っている。
すなわち、音楽、演劇等の著作物を解釈し、演ずることにより公衆に伝達している実演家、並びに、著作物等をレコードや放送等の現代社会における有力な伝達媒体により公衆に伝達しているレコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者が、それぞれその役割の重要性を評価されて、著作隣接権制度により一定の権利が与えられている。
これら既存の著作隣接権者である実演家等は、それぞれその活動の内容や性質、権利が認められた背景等を異にしているが、総じて言えば、 |
(1) |
実演家等の行為は、著作物に密接に関連したものであり、音楽、文芸等の文化の創造に積極的な役割を果たすものであるとともに、著作物の公衆への伝達上重要な行為として、知的価値を認め得ること |
(2) |
情報伝達手段の発達やその普及等に伴い、看過できないほどの実演等の無断利用のおそれを前にして、固有の経済的利益を確保する必要が生じてきたこと |
(3) |
著作物の利用形態の多様化等に伴い、著作権者と実演家等、あるいは実演家等相互間における利害調整の必要性も生じてきたこと
などを総合的に勘案し、著作者そのものではないが著作者に準ずる重要な役割を果たしているものとして、位置付けられてきたと理解できる。 |
(2) 出版者の出版行為とその保護 |
(1) |
出版者(営業活動として行うか否かを問わない。以下同じ。)は、発意と責任をもって出版物の企画から発行に至る活動を全体として行う行為、すなわち出版行為を行う者である。出版者は、このような出版行為により、著作物の公衆への伝達上重要な役割を果たしている(注8)。特に、印刷媒体による複製物が公衆への伝達上主要な形態となっている学術論文等の著作物にとって、出版行為は重要な意義を有している。 |
(2) |
このように、出版者は、実演家等と同様、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしているが、現行著作権法上固有の権利は認められていない(注9)。しかし、著作権法は、昭和9年の改正以来、出版者に対して複製権者が出版権を設定できる制度を設けている。この制度を活用した契約が締結されている場合には、その著作物を文書又は図面として出版する排他的権利が出版者に与えられて、出版権の目的である著作物を他の者が頒布を目的として複製することを阻止することができ、その出版行為の実質的な保護が期せられている。 |
(3) 出版物の複写利用 |
(1) |
ところが、近年の複写機器の著しい発達・普及に伴い、出版者の保護に関して、出版権の設定の制度に基づき、出版物が他の者によって出版されることを阻止する権利を行使するという形態では対応できない類の新たな問題、すなわち、出版物からの著作物の複写という問題が生じてきた。 |
(2) |
出版物の複製は、今日、複写機器を用いることにより、極めて簡易に、かつ、低廉に行えるようになってきている。これに対して、現在、出版者は、その出版物の無断の複写利用を阻止し、あるいは、その利用者から一定の対価を受けることができるような権利は、原則的に、与えられていない。 |
(3) |
すなわち、出版者は前述の出版権の設定の制度により、頒布を目的とする複製には対応することができるが、複写の場合は、通常は頒布を目的としない複製であるため、出版権では対応できない。また、出版権は著作者から設定される権利であることから、雑誌類のように現実には著作者からその設定を受けられない場合には、頒布目的による出版物の複製にも著作権法上対応できない。 |
(4) |
このようなことから、例えば、複写されることが多いと言われている学術分野の出版物については、購買対象者の数が少なく、発行部数も少ないため、1冊当たりの単価が高くなっているが、このような出版物が頻繁に複写されることにより、購入者の減少を招き、1冊当たりの単価をますます高いものとし、そのため、更に複写を行う機会を増加させるという悪循環に陥り、このため、出版意欲の減退を招き、必要な図書の継続出版を困難にする場合があるとの指摘もあるところである |
(5) |
このような事態が生じることにより各種出版活動の安定性が損なわれる場合においても、現行制度上、出版者は、自己の固有の権利を行使して適切な対応をとる立場にはなく、出版活動、ひいては我が国における文化の発展上、憂慮される状況にある。 |
(4) 出版者の権利の必要性 |
出版者は、出版行為により、著作物の伝達上重要な文化的役割を果たしている。出版行為を行う者は、現行著作権法上出版権の設定の制度により既に一定の範囲で保護されているところである。しかし、複写機器の発達・普及という新たな状況を考慮すれば、(1)1)で述べたと同様の性質を有する出版行為により、著作物の伝達上果たしている出版者の重要な役割を評価し、既存の出版権の設定の制度に加えて、出版者に、その出版物の複写を中心とした複製についても一定の権利を認めることが必要であると考える。これは、実演家等について、著作権に準ずる権利を付与して保護することとなったのと同様である(注10)。
このような方策を採ることで、新たな技術的進歩等に対応した出版者の保護を期し、その出版活動の安定と活発化を図ることによって、著作物の社会への伝達を促進し、文化の発展に寄与するものと考える。 |
(3) 権利の性質 |
出版者の権利の内容については、上記で述べたように、複写を中心とした出版物の複製に係る権利であるが、この権利の性質について、許諾権とするか報酬請求権とするかという問題がある。
出版者の保護は、本章1「出版者の保護の必要性」で述べたように、複写機器の発達・普及という技術的進歩等に対応して新たに出版者の保護を図るものであるが、一方、出版物の複写利用は社会の各分野で広く行われており、情報を簡便に入手できる手段として情報の普及に寄与している点も考慮すれば、複写利用者に、複写に際し、著作権者に加えて出版者の許諾をも要することとすることは適当ではない。むしろ、著作権者の許諾を得ることを前提とした上で、出版者の利益を確保しながら、出版物の複製を認める形、すなわち、出版者の権利の性質は、報酬請求権とすることが適当である。
これに対して、出版物が多数複製され、頒布されるとすれば、出版者への影響が大きく、このような場合には、出版者の許諾に係るものとすることが適当であるとの意見もあるが、このような利用形態に対しては、出版権の設定の制度や不正競争防止法、不法行為法に基づく保護、さらに、債権者代位権の行使等により、出版者は対応することができる可能性がある(第2章「現行法制による出版者の保護」参照)と考えられる。
この出版者の権利は、既存の出版権の設定の制度に影響を及ぼすものではなく、相互に補完し合って出版者の保護を図るものとして位置付けることが適当である。 |
(4) 権利の制限 |
著作権法は、著作者等の権利の保護を図る一方、著作物等の公正な利用については著作権等を制限し、ある一定の条件の下で自由に著作物等を利用することができるように措置している。
出版者の権利の性質は、本章3(3)「権利の性質」で述べたように、報酬請求権であるが、著作権等について、それが制限され、自由に著作物等を利用できる場合が設けられていることとの均衡を考慮して、出版者の権利についても、無報酬で出版物の版面を利用できる場合を設けることが適当である。
出版者の権利は、複写を中心とした出版物の複製に関する権利であるところから、現行法上の著作権の制限規定のうち複製に係るものについて、出版者の権利を制限するかどうかが問題となる。以下は、複製に係る制限であって、これらの規定を設けた趣旨及びこれらの規定とのかかわりにおいて出版物が利用されると考えられる事例を掲げる。 |
第30条(私的使用のための複製) |
個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用する目的であれば、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合を除き、使用者自身が複製することができることを規定している。ただし、この自動複製機器については、当分の間、専ら文書又は図面を複製する機器を含まないこととしている(著作権法附則第5条の2)。
第30条は、このような利用が零細であり、著作権を制限しても著作者の経済的利益を不当に害するおそれがないと考えられること等から規定されたものである。
家庭内等の閉鎖的な範囲内で使用する目的で、著作物を複製する場合、当該著作物が収録されている出版物の版面を用いて複製することが考えられる。 |
第31条(図書館等における複製) |
図書館等における蔵書等を用いた複写サービスや図書館資料の保存のための複製等を許容したもので、図書館等の公共的機能にかんがみ、著作権を制限したものである。
著作権が制限される場合は、利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分の複製物を1人につき1部提供する場合、図書館資料の保存のため必要がある場合、他の図書館等の求めに応じ、一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合であるが、いずれの場合も図書館資料である出版物の版面を用いて複製することが考えられる。 |
第32条(引用) |
公表された著作物は、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内において引用して利用することができること、また、国又は地方公共団体の機関が公表する広報資料等の著作物を、説明の材料として新聞、雑誌に転載することができることを規定している。これは、著作物の引用が社会的に広く行われているという実態があり、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、目的上正当な範囲内にとどまる限り、著作権を及ぼすことが適当ではないこと、また、転載については、国や地方公共団体の広報資料等が広く社会に伝播されるべき性質のものであることにかんがみ、著作権を制限したものである。
絵画、図表等を引用、転載する場合、これらの著作物が収録されている出版物の版面を用いて写真製版して自己の著作物の出版物に掲載することが考えられる。
また、出版物の版面自体の特徴を論ずる文章中に、当該版面を写真製版して掲載することが考えられる。 |
第33条(教科用図書等への掲載) |
公表された著作物を、学校教育の目的上必要と認められる限度で、著作者への通知と文化庁長官が定める補償金を支払うことを条件として、教科用図書等に掲載することができることを規定している。これは、学校教育の目的上最も適した著作物を使用する必要があり、教科用図書等への掲載の許諾を著作者の意思に係るものとすることは適切ではないことから、著作権を制限しているものである。
統計資料、絵画、写真等の著作物を教科用図書に掲載する場合、当該著作物が収録されている出版物の版面を用いて写真製版して掲載することが考えられる。 |
第34条(学校教育番組用教材への掲載) |
公表された著作物を、学校教育の目的上必要と認められる限度で、著作者への通知と相当な額の補償金の支払いを条件として、学校教育に関する法令の定める教育課程の基準に準拠した学校教育番組において放送することができることとするとともに、当該放送番組用教材に掲載することができることを規定している。これは、第33条の場合と同様な理由で著作権を制限したものである。
著作物を放送番組用教材に掲載する場合、当該著作物が収録されている出版物の版面を用いて写真製版して掲載することが考えられる。 |
第35条(学校その他の教育機関における複製) |
学校等の教育機関において教師等教育を担当する者が、授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度で、公表された著作物を複製することができると規定するとともに、著作物の種類、用途、複製の部数、態様に照らして著作権者の利益を不当に害することがあってはならないとしている。これは、学校等の教育機関においては、教育という性格上著作物を複製利用することが必要であり、また、実態として頻繁に行われていることにかんがみ、著作者の利益を不当に害しない範囲内で著作物を複製することができるよう著作権を制限しているものである。
教育機関において授業を担当する者が、著作物を複製して授業の過程において使用する場合に、当該著作物が収録されている出版物の版面を用いて複製することが考えられる。 |
第36条(試験問題としての複製) |
公表された著作物を、入学試験等の問題として、その目的上必要と認められる限度で複製することができることを規定している。これは、試験という性格上、事前に著作者の許諾を得ることとすることは適当ではなく、また、著作権者の経済的利益を害しない特殊な利用であることから、著作権を制限しているものである。
著作物を試験問題として複製する場合に、当該著作物が収録されている教科書等の出版物の版面を用いて複製することが考えられる。 |
第39条(時事問題に関する論説の転載) |
新聞、雑誌に掲載された時事問題に関する論説は、他の新聞、雑誌に転載することができることを規定している。これは、論説が広く社会に伝播され、更に議論の対象となるべきものであるという特質にかんがみ、報道としての利用についてのみ著作権を制限したものである。
新聞に掲載された論説を他の新聞に転載する場合、当該論説が掲載されている新聞の版面を用いて写真製版して転載することが考えられる。 |
第40条(政治上の演説等の利用) |
公開して行われた政治上の演説等を、同一の著作者のものを編集する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができると規定し、出版物に掲載することも認めている。また、国又は地方公共団体の機関における公開の演説等を、報道の目的上必要と認められる場合には、新聞や雑誌に掲載することができると規定している。これは、政治上の演説等は、社会へ広く伝播され、自由に利用されるべき性格のものであることにかんがみ、大幅な自由利用を認めたものであり、また、公開の演説等は同様に広く伝達されるべきものであることにかんがみ、新聞等への掲載について著作権を制限したものである。
政治上の演説等を利用する場合、当該演説等が収録されている出版物の版面を写真製版して政治討論会等の資料として利用することが考えられる。また、公開の演説等を報道する場合、当該演説等が収録されている新聞の版面を用いて写真製版して他の新聞に掲載することが考えられる。 |
第41条(時事の事件の報道のための利用) |
時事の事件を報道する場合、当該事件を構成し、または当該事件の過程において見られ、聞かれる著作物を報道の目的上正当な範囲内において複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができることを規定している。これは、時事の事件を報道する場合には、事件となっている著作物を利用して報道する必要があること、また、事件において見たり聞いたりできる著作物が報道に伴って利用されることは必然的であることから、著作権を制限したものである。
時事の事件、例えば、絵画の盗難事件について報道する場合に、当該絵画が収録されている出版物の版面を用いて複製して報道のために利用することが考えられる。
また、海賊出版の事件を報道するため、真正品と海賊版の両者の版画を複製して利用することが考えられる。 |
第42条(裁判手続等における複製) |
裁判手続において必要な場合や、行政等の目的遂行のための内部資料として必要と認められる限度で著作物を複製することができることを規定している。これは、裁判、行政等の目的を実現するために必要な著作物の利用を公正な利用として認め、著作権を制限したものである。
裁判手続上、又は行政を遂行する際の内部資料として著作物を複製する場合、当該著作物が収録されている出版物の版面を用いて複製することが考えられる。
また、出版物の版面の複製に関する裁判等において、裁判手続上版面を複製することが考えられる。 |
第46条(公開の美術の著作物等の利用) |
公園等一般公衆に開放されている屋外の場所等に設置されている美術の著作物は、販売を目的として複製する場合を除き、自由に利用することができることを規定している。これは、公開の場所に設置されている美術の著作物が、実態として様々な形で利用されていることから、著作者の利益を著しく害すると考えられる場合を除き、自由利用を認めたものである。
公開の場所に設置されている彫刻等の美術の著作物を、本条に基づき利用する場合、既存の出版物に収録されている当該彫刻等の写真を、その出版物の版面を用いて更に複製して利用することが考えられる。 |
第47条(美術の著作物等の展示に伴う複製) |
美術の著作物等の原作品を展示する場合に、展示する者が当該著作物を観覧者のために解説、紹介することを目的とした小冊子に複製して掲載することができることを規定している。これは、展覧会等において展示してある美術の著作物について解説・紹介用の小冊子に掲載することが通常行われており、原作品を展示することに関する許諾とは別に複製に係る許諾を得ることとすることは、小冊子への利用という複製の態様から考えて適当ではないことによるものである。
美術の著作物等を本条により小冊子に掲載する場合、その著作物の原作品によらず、当該著作物が収録されている美術全集、写真集などの既存の出版物の版面を用いて複製して小冊子に掲載することが考えられる。 |
これらの制限規定のうち著作隣接権に準用されている規定は、第30条、第31条、第32条、第35条、第36条、第41条、第42条であり、準用の理由は、著作権を制限する理由と同様である。また、第33条、第34条、第39条、第40条、第46条、第47条は準用されていない。第33条、第34条は、著作隣接権の対象である実演等が教科用図書や学校向け放送番組用教材に掲載されることは考えられないこと、第39条、第40条、第46条、第47条は、それぞれ新聞等に掲載されている論説、政治上の演説等または美術の著作物等の著作物に着目した規定であるので、実演等の複製利用とは関係がないことから準用されていないものである。
上記のように著作権の制限に基づく著作物の利用と出版物の利用とは密接に関係しているが、第30条、第31条、第32条、第35条、第36条、第41条、第42条の規定については、現行の著作隣接権についても、これらの著作権の制限規定を、それぞれの制限規定の趣旨を考慮して準用していることから、これらの制限規定に規定する複製行為と同様な出版物の利用行為については、出版者に報酬を支払うことなく行うことができることとするのが適当である。また、第33条、第34条に規定する複製行為と同様な出版物の利用行為が行われることが考えられるので、それぞれの規定の趣旨を考慮し、この場合にも無報酬で行うことができることとすることが適当である。
また、第39条、第40条、第46条及び第47条の規定は、論説、演説、陳述等の著作物に着目した規定であるが、著作物の利用とその著作物が収録されている出版物の版面の利用とが密接に関連していることを考慮するならば、出版者の権利を制限しないこととすることは、新たに認められる出版者の権利によって、著作物の公正な利用を図るための著作権の制限規定を設けた趣旨が十分生かされないことになり適当ではない。したがって、これらの制限規定に基づき論説等の著作物が利用されることに伴い出版物の版面が利用される場合には、出版者への報酬の支払いを要しないとすることが適当である。
なお、現行著作権法上の制限規定については、現行法が制定後約20年を経過しており、その間の著作物利用技術の発達・普及には目覚ましいものがあるところから、立法当時の著作物の利用状況とは異なる現在の利用状況を踏まえながら、別途見直しを行う必要があるのではないかとの意見もあった。 |
(5) 権利の存続期間 |
著作権法は、著作物等を一定の期間保護し、その後は社会の共有財産としてだれもが利用できるよう、著作者等の権利についてその存続期間を設けている。出版者に権利を認める場合、その存続期間をどのように設定するかが問題となるところである。
著作権法は、著作隣接権の保護対象となっている実演、レコード、放送又は有線放送について、それぞれ、実演を行った時、音を最初に固定した時、放送又は有線放送を行った時から30年間存続することを定めている。
著作隣接権の存続期間については、現行著作権法の制定以来、20年と定められていたものが、昭和63年10月に30年に延長する著作権法の一部改正が行われ、昭和63年11月21日から施行されているところである。
「出版者の権利の性格等」(本章2)で述べたように、出版者の権利が著作隣接権制度の中に位置付け得るとすれば、その存続期間は、現行法上の著作隣接権の存続期間である30年とすることが適当であると考えられる。
また、出版物の実態についても、同一の版面で出版される期間が長期にわたることは少なく、この点からも、30年間の保護で支障はないものと考える。 |
著作権審議会第8小委員会(出版者の保護関係)審議経過
(昭和60年7月17日著作権審議会第47回総会で第8小委員会の設置を決定)
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第1回会議 昭和60年9月21日
審議の進め方について |
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第2回会議 10月25日
関係団体から意見聴取 |
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第3回会議 11月22日
検討項目の決定 |
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第4回会議 12月20日
各国の法制、国際機関における検討状況、出版者保護の必要性について |
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第5回会議 昭和61年2月19日
出版者保護の必要性、保護の対象について |
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第6回会議 6月6日
保護の対象、保護の享受者について |
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第7回会議 7月18日
権利の内容について |
第8回会議 9月3日
権利の内容、権利の制限について |
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第9回会議 11月8日
権利の制限、保護期間、その他の問題について |
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第10回会議 昭和62年1月16日
権利の制限、保護期間、その他の問題について |
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第11回会議 2月13日
出版者の権利と著作権の集中的権利処理との関係について |
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第12回会議 3月9日
保護の必要性、保護の内容(権利の性質等)について |
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第13回会議 4月17日
保護の必要性、保護の内容(権利の性質、権利の制限等)について |
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第14回会議 5月22日
保護の必要性、保護の内容(遡及効等)について |
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第15回会議 6月26日
保護の必要性、保護の内容(遡及効等)について |
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第16回会議 8月4日
保護の必要性、出版権設定の制度との関係、保護の内容(遡及効等)について |
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第17回会議 9月29日
出版権設定の制度との関係、保護の内容(権利の内容)について |
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第18回会議 11月16日
保護の内容(権利の内容)、出版権設定の制度との関係、編集著作権との関係について |
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第19回会議 昭和63年1月25日
電子出版及びその関連技術の動向、保護の内容(権利の内容)について |
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第20回会議 4月6日
企業・大学等における出版物からの複写実態調査について |
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第21回会議 5月13日
保護の内容(権利の内容、権利の性質)、権利行使の在り方について |
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第22回会議 6月10日
保護の内容(権利の性質)、編集著作権との関係、既に発行された出版物の取扱いについて |
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第23回会議 7月18日
第8小委員会中間報告(素案)について |
第24回会議 8月22日
第8小委員会中間報告(案)について |
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第25回会議 9月2日
第8小委員会中間報告(案)についてについて |
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第26回会議 9月27日
第8小委員会中間報告(案)について |
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第27回会議 12月2日
第8小委員会中間報告に対する関係団体からの意見聴取 |
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第28回会議 12月3日
第8小委員会中間報告に対する関係団体からの意見聴取 |
第29回会議 12月12日
第8小委員会中間報告に対する関係団体からの意見聴取結果について |
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第30回会議 12月27日
第8小委員会中間報告に対する関係団体からの意見聴取結果について |
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第31回会議 平成元年1月13日
出版者の知的行為と出版物の公正利用について |
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第32回会議 2月18日
出版者の保護と知的行為に関する考え方について |
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第33回会議 4月17日
出版者の出版活動に与える影響等について |
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第34回会議 6月8日
出版者の出版活動に与える影響等について |
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第35回会議 7月24日
「日本複写権センター」の設立準備状況及び出版者の権利行使の在り方について |
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第36回会議 8月9日
複写権センターと新たな権利の関連について、出版者の権利の性質について |
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第37回会議 9月8日
出版者の権利の性質について |
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第38回会議 10月13日
出版者の権利の性質について |
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第39回会議 10月30日
出版者の権利と新技術による出版物の紙面の利用について、出版者の権利の性質を
報酬請求権とした場合の出版者保護の内容等について |
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第40回会議 11月27日
第8小委員会最終報告(素案)について |
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第41回会議 12月15日
第8小委員会最終報告(案)について(出版者の法的
保護に関するワーキング・グループの設置を決定) |
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ワーキング・グループ
第1回 平成2年1月12日
出版者保護の必要性についての考え方について |
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第2回 1月22日
出版者の法的保護に関する論点の整理について |
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第3回 1月29日
第8小委員会最終報告(案)について |
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第42回会議 2月16日
ワーキング・グループの審議結果(第8小委員会最終報告(案))について |
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第43回会議 3月9日
第8小委員会最終報告(案)について |
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第44回会議 3月29日
第8小委員会最終報告(案)について |
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第45回会議 4月27日
第8小委員会最終報告(案)について |