2.素材となる著作物の権利者の意識 |
マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物の権利者の意識は、権利者団体からのヒアリングによると、以下のとおりである。 |
(1) 音楽 |
音楽の著作物の権利は(社)日本音楽著作権協会が仲介業務団体として集中的に管理しているが、マルチメディア・ソフトへの利用については、利用の態様等が様々であり、定型的な利用方法が定まっていないため、現状としては、どんな使い方をするのか教えてもらい、話合いの上、使用許諾申請を出された範囲で個別に条件を定めて許諾をするという方式になると思われる。
また、映画の中に曲をそのまま使うのであれば同協会で自動的に許諾するが、CM等の映像と一緒に曲の一部分を使う場合は、著作者の創作意図と違ったかたちでイメージが定着することを嫌がるという問題がある。これらについては、使用料で解決するのは難しく、その都度事前に著作者の許諾を得てもらわなければならない。なお、コンピュータ・ゲームソフトなどの場合、どこにも作曲者の名前が表示されていないものが多い。著作者人格権を主張する第一歩は、著作者の氏名表示であると考えている。
同協会と契約を締結している外国の管理団体が管理している楽曲であっても、映像とともに使う場合は外国の管理団体の管理対象外であり、権利者自身が管理するという実態があり、その場合には個々の権利者に条件と使用料を確認しなければならないという問題がある。
さらに、マルチメディアの場合、1曲全部ではなく一部分だけ必要であるという場合があるが、その価値をどう評価するかは困難な問題であり、一部分の使用なら料金は安くて良いのではないかという意見もあるが、一部分の使用であるからこそ単価が安くては困るとか、著作者の意に沿わない使用が行われることが心配であるという権利者の声もある。同協会では、ゲームソフトの中に利用される曲については使用料規程の中のビデオグラムの規定で運用しているが、ゲームソフトメーカーからは、ゲーム専用の規定を作って欲しいという申し出があり、現在、協議中である。 |
(2) 脚本 |
(協)日本脚本家連盟は、仲介業務団体として、脚本に関する複製、上演、放送、有線放送等の権利の委託を受けており、実際にこれらの利用に関して権利行使も経験済みである。マルチメディアへの利用に対しても、リーズナブルな使用料を支払ってもらえれば許諾をするつもりであり、現行法で十分対応できると考えている。
しかし、同一性保持権等の著作者人格権については集中管理は無理なので、個別に著作者から許諾を得るしかない。また、改変等が伴う利用はして欲しくないと考えている。 |
(3) 写真 |
昭和46年に、写真の著作権の集中的管理を目指す団体として「日本写真著作権協会」が設立されているが、使用料の徴収等の活動はまだ行っていない。
また、1960年代の初めごろからフォトエージェントというものが出てきて、現在、日本フォトエージェンシー協会に約100社加盟している。これは、著作者からフィルムやフィルムの上質な複製を預かって、それをユーザーに使用させる業務を行っている。その中には素材的な使われ方をしても差し支えないと考える写真を提供する性格の業者が多く、写真の内容について、きちんとした使われ方が最後まで貫徹されることを望む作品については委託されるケースは少ない。
マルチメディア時代では、集中処理の拡大、取扱いを強化していくことは不可欠であるという一般的な認識はあるが、多くの写真家は具体的な範囲が不明確なままで集中処理に委ねることに不安を持っている。著作権の管理は、個別管理が基本であることを踏まえつつ、必要に応じてその範囲を明確にしながら集中処理の部分を増やしていくことが必要ではないかと思っている。
このような観点から、写真だけでなく、同じような状況にある美術、グラフィックデザインの権利者団体と協力して、共通の集中処理機構を作ろうという検討も行っている。 今後の著作権管理業務の広がりに対応して、仲介業務法の対象範囲の見直しも考える必要があるかも知れない。
写真をマルチメディアで使用させる場合には、展示権の中に様々な装置による表示の権利を含めるか、または、展示権の概念を拡大して、写真を映写することについても含まれるようなディスプレイ権というものを確立しないと新しい著作物の流通には対応できないのではないかと思われるため、このような権利を認めてもらいたいという要望がある。 |
(4) 美術 |
(社)日本美術家連盟では、テレビ放送での利用というごく限られた範囲での権利の集中管理を行っているにとどまる。マルチメディアなどへの利用については、時代のすう勢であり、やむを得ないものであるという意識はあるが、写真の場合と同様、多くの美術家は具体的な範囲が不明確なままで集中管理に委ねることに不安があり、特に、改変等が伴う利用については、強い危惧を持っている。 |
(5) 放送 |
放送業界には多くの映像資料が保存されているが、それらを素材として提供する場合、ほとんどが自社取材の自然風景映像であり、その他のものは提供利用が少ない。放送局とマルチメディア・ソフト製作者が共同で製作する場合もあるが、この場合も自社取材の自然ものや権利のかかわりが少ないものに限られている。
これは、放送番組製作時の権利処理は放送目的の利用のみに限られており、それ以外の利用の場合は、すべて権利処理をやり直さなければならないこと、このため権利処理の手間、時間、使用料が膨大となり、しかもまだ権利処理がルール化されていないことなどが問題点と考えられる。このため、放送局自身が保存番組の権利関係記録の完備を進める必要があるとともに、少なくとも権利者団体がある分野では、申請から使用料の支払まで一括して処理できるようなルールが定められ、権利処理が簡便にできるようになることが望ましいと考えている。
一方、権利者としての放送局にとっては、提供した番組素材が使われたマルチメディア・ソフトが、あるいは番組素材を使って製作したマルチメディア・ソフトがどのように使われるのか、他の権利者と同様に強い不安と危惧を持っている。 |
(6) 出版 |
出版者は、各種百科事典、辞書等について編集著作権を有している。また、著作者との契約により、出版権の設定を受け、または、権利処理の委任を受けているものがある。これらをマルチメディア・ソフトの製作者に素材として提供することがあるが、その使用範囲、条件等の権利処理ルール化が行われていないのが現状である。
なお、出版者の著作物の伝達者としての役割にかんがみ、マルチメディア・ソフトに出版物が素材として利用される場合、出版者固有の保護の方策を講ずるべきとの指摘があった。 |
3.権利の集中管理 |
現在、著作権等の集中管理を行っている団体としては、以下のようなものがある。(著作物等の分野ごとの権利の集中管理の現状については、「権利の集中管理の分類」の図参照) |
(1) 仲介業務団体 |
著作権に関する仲介業務に関する法律の規定に基づき、著作権者のために著作物(音楽、小説、脚本に限る)の利用に関する契約につき、代理、媒介をする団体であり、文化庁長官の許可を受けたものである。 |
1)(社)日本音楽著作権協会 音楽の著作権を管理するために、作詞・作曲家によって昭和14年に設立された。国内の作詞・作曲家のほとんどが権利を直接又は音楽出版社を通じて信託している(平成5年10月1日現在の会員数9,731人)。また、外国の音楽著作物の利用についても、演奏権については58か国69団体、録音権については44か国55団体と管理契約を結び、関係する著作権の管理を行っている。
協会は、原則として信託を受けた著作権の著作物のすべての利用方法について管理しており、利用方法ごとに使用料の算定方式を定めているが、それには次の4つの方式がある。 |
2)(社)日本文芸著作権保護同盟 文芸の著作権管理をするために文芸作家によって昭和14年に設立された。 平成5年10月1日現在815名の文芸作家等から信託を受け、文芸の著作物の放送、上演、ビデオ化等の二次的な利用について権利を管理している。
なお、出版については、作家が個別に権利処理をしているのがほとんどである。 また、放送等についても、そのための著作物の翻案については、個々の作家の許諾を得ることが必要である。 |
3)(協)日本脚本家連盟 昭和49年4月から、脚本の仲介業務団体として文化庁長官の許可を受け業務を行っている。平成5年10月1日現在信託者は1,169名であり、主に放送用の脚本について、リピート放送、ビデオ化等の二次的な利用について権利を管理している。
また、外国の権利者団体(4か国4団体)と管理契約を結び、国内作品の外国における利用又は外国作品の国内における利用に関する著作権の管理を行っている。 なお、脚本の最初の放送については、それぞれの脚本家が権利処理を行っている。 |
4)(協)日本シナリオ作家協会 平成3年7月、脚本の仲介業務団体として文化庁長官の許可を受けた。平成5年10月1日現在信託者は306名であり、主に劇場用映画の脚本について、(協)日本脚本家連盟と同様、脚本の二次的な利用について権利を管理している。 |
(2) 指定管理団体等 |
著作権法第30条第2項、第95条第1項、第95条の2第3項、第97条第1項、第97条の2第3項の補償金、二次使用料等を受ける権利について、法律に定める条件を満たす団体として、文化庁長官が指定するものがあるときは、その団体によってのみ行使できるもの。 |
1)(社)私的録音補償金管理協会 平成5年3月、(社)日本音楽著作権協会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会、により設立され、私的録音録画補償金のうち私的録音に係るものを受ける団体として、文化庁長官の指定を受けた。
改正著作権法の施行後、メーカー等の協力を得て、機器等の代金に上乗せされた補償金を消費者から徴収し、各種調査に基づく資料により著作権者、実演家及びレコード製作者に分配する。 なお、補償金請求権は、指定管理団体を通じてのみ行使できることが法律上規定されている。 |
(注)私的録画に係る補償金の管理団体は、改正著作権法の対象となる録画機器が未だ市販されていないため設立されていない。 なお、平成4年12月、私的録画に関する補償金制度を実施していくために必要な事項を検討するために、関係15団体((社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、日本放送協会、(社)日本民間放送連盟、(社)日本映画製作者連盟、(社)日本ビデオ協会、(社)全日本テレビ番組製作社連盟、日本動画製作者連盟、日本独立映画製作者協議会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本音楽事業者協会、(社)日本レコード協会、(社)音楽出版社協会)により私的録画委員会が設けられており、将来的には、同委員会が基盤となって私的録画に係る指定管理団体を設立することが考えられている。 |
2)(社)日本芸能実演家団体協議会 昭和42年に設立され、平成5年10月現在、59団体約57,000名で構成されており、著作隣接権に関し、利用者に対する実演の利用の許諾、方法及び条件に関する一般的基準の設定並びに事前の個別的処理が事実上困難と認められる事務(放送された実演の録音録画、リピート放送等に関する報酬請求等)を行っている。
また、昭和46年3月に商業用レコードに係る二次使用料を受ける団体、昭和60年2月に商業用レコードの貸与に係る報酬を受ける団体として文化庁長官の指定を受け、これらに関する業務を行っている。
なお、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下「実演家等保護条約」という。)締約国の実演家団体(16か国13団体)とレコードの放送二次使用料や貸レコード使用料等を受ける権利について管理契約を結んでいる。
現在、同協議会においては、近年のメディアの発達と実演の利用の拡大に対応し、従来以上に実演家の権利の統一的な行使を推進するため、平成5年10月、協議会内部に実演家著作隣接権センターを設立した。 |
3)(社)日本レコード協会 昭和46年3月に商業用レコードに係る二次使用料を受ける団体、昭和60年2月に商業用レコードの貸与に係る報酬を受ける団体として文化庁長官の指定を受け、これに関する業務を行っている。
また、実演家等保護条約締約国である外国のレコード製作者に対しては、各レコード会社が原盤供給契約に基づき、二次使用料等を送金している。 なお、レコード製作者の権利については、上記の二次使用料及び貸与報酬を受ける権利を除き、原則として個々の製作者が権利行使を行っている。 |
(3) その他著作権者により構成され、著作物の円滑な利用に係る事業を行っているもの |
1)日本写真著作権協会 写真の著作権に関する仲介業務等の事業を行うため、昭和46年5月に設立された。 同協会は、約3,000名から学校教育番組の放送等の利用に関して信託を受けているが、実際に仲介業務を行うには至っていない。
現在、メディアの発達に伴う著作権の集中管理の在り方について、(社)日本美術家連盟、(社)日本グラフィックデザイナー協会とともに検討を行っている。 |
2)(社)日本美術家連盟 美術の発展、普及及び美術家の職能擁護を目的として昭和24年に設立され、現在、約1,000名からテレビ放送に関する権利委任を受け、NHK、放送大学、放送教育開発センターと協定を結び、これに関する業務を行っている。 また、美術著作権に関する各種の契約のひな型を作成している。 |
3)日本複写権センター 複写に関する権利についての集中管理を目的として、平成3年9月に設立された団体であり、出版者著作権協議会、学協会著作権協議会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、全日本写真著作者同盟、美術著作権連合、(社)日本グラフィックデザイナー協会等の13団体を会員としている。 現在、企業を中心として複写許諾業務を行っており、今後、その対象を拡大していく予定である。 |
4)(社)日本ビデオ協会 ビデオソフト産業の振興に寄与する目的で、昭和53年3月に設立(会員数55社)された。海賊版・無許諾レンタルの防止等の活動を行っている。 同協会では、ビデオソフトの個人向けレンタルについてビデオメーカー(14社)と頒布権行使委託契約を締結し、協会が窓口となって他の権利者(4団体)と連名で、レンタル事業者と契約を行っている。
また、ビデオソフトのホテル、バス等における業務用使用についての問い合わせや視聴覚教育施設等におけるレンタルについての相談の窓口となっている。 |
(4) 特別な契約例 |
多種の著作物を利用する場合に、契約が一本で済むように権利者団体が取り極めたもの。 |
1)個人向けビデオレンタル(図(1)) (社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本ビデオ協会の連名でビデオレンタル店と家庭内視聴を目的とする個人顧客に対する貸与に関する契約を結んでいる。
使用料等は各団体がビデオソフトメーカーに提示し、ビデオソフトメーカーからの販売時にビデオレンタル店から徴収され、ビデオソフトメーカーを通じて権利者に支払われる。 なお、この契約は、(社)日本ビデオ協会会員社のうち14社のビデオソフトを使用する場合のものであり、その他のものは個別契約となる。 |
2)有線テレビジョン放送(同時再送信)(図(2)) (社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本芸能実演家団体協議会の5団体の連名で、CATV会社と契約を結んでいる。
使用料は、CATV局の年間利用料収入総額の一定割合を一括して代表団体((協)日本脚本家連盟)に支払い、代表団体が他の団体に分配する。 |
3)放送番組のビデオテープ化(図(3)) (社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会の6団体の連名で、日本のテレビ番組を視聴不可能な遠洋航海の乗務員や在外公館職員の慰安、娯楽という特殊目的のためにNHKや民間放送の放送番組をビデオテープにすることについて、(社)日本船主協会や外務省と契約を結んでいる。
使用料は、ビデオテープ一本(60分番組を基準)につき単価を定め、一括して代表団体((社)日本芸能実演家団体協議会)に支払い、代表団体が他の団体に分配する。 |
4)文献複写(図(4)) 日本複写権センターは、その管理する著作物について各企業と複写許諾契約を結んでいる。 同センターの複写利用規定では、許諾の範囲を頒布を目的としない出版物の小部分かつ小部数の複写とし、使用料は1ページ2円を基本としつつ、複写機台数、従業員数を基にした年間使用料の包括許諾契約の方式も定めている。 |
(5) その他 |
放送番組著作権保護協議会 平成4年6月、海外における日本の放送番組の海賊版ビデオ対策について検討するため番組製作者と関係権利者15団体((社)日本音楽著作権協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本脚本家連盟、(協)日本シナリオ作家協会、日本放送協会、(社)日本民間放送連盟、(株)東京放送、日本テレビ放送網(株)、全国朝日放送(株)、(株)フジテレビジョン、(株)テレビ東京、(株)日本映画製作者連盟、(社)全日本テレビ番組製作社連盟、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会)で設立された。
海賊版対策には真正品ビデオの供給が不可欠であるため、現在、そのための権利処理ルールについて検討が行われている。
このほか、本協議会と(社)日本ビデオ協会が協力して、映像著作権連絡会議を設け、放送番組に限定されない映像に係る著作権問題全般について検討を行っている。 |
図(1)個人向けビデオレンタル |
[許諾契約関係図]

[レンタルシステム用商品の流通と使用料の流れ]

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図(2)有線テレビジョン放送(同時再送信) |
 ※契約に関しては実演家団体協議会がまとめ役をし、事務手続きも行う。
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図(3)放送番組のビデオテープ化 |
 ※契約に関しては実演家団体協議会がまとめ役をし、事務手続きも行う。 ※脚本家連盟から保護同盟とシナリオ作家協会に分配される。 |
図(4)文献複写 |
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権利の集中管理の分類 |
著作物等の分野ごとの権利の集中管理の現状 |
第3節 マルチメディア・ソフト製作時における既存の著作物に係る 権利処理のルールの在り方 |
1.契約による許諾の範囲の明確化 |
製作者側において、マルチメディア・ソフトを市場等に出す際に想定しているあらゆる利用形態をできるだけ具体的に示して、製作時に権利者から許諾を得ることが望まれる。単にマルチメディア・ユースというような抽象的な文言を用いることは好ましくない。
また、マルチメディア・ソフトの特性に鑑み、当該ソフトの使用者による複製、改変、送信等の利用行為で、当該ソフトの使用に伴って通常予想され、著作権法上権利者の許諾を要するものについても、製作者は、あらかじめ権利者の許諾を得るとともに、当該使用者に対しても明示する責任があると考えられる。 マルチメディア・ソフトの使用者による利用行為で著作権法上権利者の許諾を要するものについて、権利者との契約に従い、あらかじめ技術的制約を設けるという方法もある。この場合も、その制約の内容を当該使用者に対して明確に示す必要がある。
なお、契約上具体的に明示されていない利用形態については、その可否や追加報酬等について、その都度権利者と協議するとの条項を入れておくことが考えられるが、マルチメディア・ソフトから、他のメディアへの展開(紙ベースの出版、マルチメディア・ソフトに使われているキャラクターの商品化等)の可能性があるからとはいえ、それらの権利に関してすべて特定の製作者があらかじめ契約により独占してしまうことは、逆にその後の著作物等の流通、利用を阻害しかねないものであり望ましいとは考えられない。
さらに外国の著作物を利用する場合の契約の際には、権利の内容や商慣習などの違いにより、トラブルが生じる可能性もあると考えられるため、著作物の国際的な利用関係についても十分考慮する必要がある。 |
2.私的複製等に関する権利制限規定との関係 |
マルチメディア・ソフトの使用者による複製等の利用行為が、著作権法上の私的複製等に関する権利制限規定に該当する場合は、当該使用者は、権利者の許諾を得ることなくそのような利用行為を行うことができる。
しかし、例えば企業内における使用については、いかに内部的利用であっても私的複製の規定の適用はなく、また、個人による使用であっても、私的使用のための利用の範囲を逸脱し、目的外に使用されるケースもあると考えられる。
このように、制限規定の範囲は広く解釈されがちな面があるため、ソフトの使用者に対して制限規定の内容と限界に関する注意書きを明示することが望ましい。
もっともこれは、著作権法上の権利制限規定に基づく確認的な注意事項とすべきであり、それを超えた制限を注意書きによって課することは、その有効性自体に疑問があり、問題である。 |
3.著作者人格権との関係 |
著作者人格権は、譲渡できない一身専属権であり、経済的権利に基づく許諾によっても原則としては影響されない。 そのため、マルチメディア・ソフト製作者は、通常予想される改変等の利用行為についてできるだけ具体的に示して、製作時に著作者の了解を得ておくことが必要である。
著作者がマルチメディア・ソフトの製作時における契約において、当該ソフトの目的及び機能を十分に承知した上で経済的権利に基づく著作物の利用許諾を与えている場合には、ソフトの使用者による個人的使用における改変、その他の使用に伴って通常想定される改変については、著作者は信義則上一般に同一性保持権侵害を主張することはできなくなると解することもできる。しかし、この場合においても、通常想定されない改変について同一性保持権が働くこと、また、同一性保持権以外にも氏名表示権に関して人格権侵害が問題となりうることは当然である。いずれにせよ、ベルヌ条約第6条の2第1項(注)が規定するように、いかなる場合であっても著作者の名誉又は声望を害するような改変は認められない。 |
(注)ベルヌ条約第6条の2〔著作者人格権〕 |
(1)著作者は、その財産的権利とは別個に、この権利が移転された後においても、著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利を保有する。
したがって、製作者はソフト製作時に想定されていない利用行為や著作者の名誉・声望を害するような行為が認められないことをソフトの使用者にあらかじめ明示しておくことが望まれる。
なお、著作権が譲渡等により著作者以外の者へ移転されている場合には、製作者は著作権者に著作物の利用の許諾を得るとともに、人格権にかかわるものについては著作者の了解を得ることが必要であるが、そのような場合には、著作権者においてもその旨を製作者に教示し、著作者との間の橋渡しをするなどの協力を行うことが望まれる。 |
4.製作者と権利者団体との協議 |
現在までのところ、マルチメディア・ソフトの素材として著作物を利用する際には、当該ソフト製作者が個々の権利者又は権利者団体との契約によって対応しているが、既存の権利処理ルールをマルチメディア・ソフト製作における利用について、そのまま適用することには問題があり、一方、マルチメディア・ソフト製作における利用に関する使用料や許諾条件についての権利処理ルールは確立されておらず、まとまった検討もされていないという現状である。
マルチメディア・ソフト製作における既存の著作物の利用については、著作権の保護と文化的所産である著作物の効率的な再利用の両面を考慮した適切かつ円滑な権利処理ルールが必要であり、今後、製作者と権利者のそれぞれの関係団体の間で、マルチメディアに係る権利処理の在り方について協議する場を設けることが望ましい。また、その前提として、製作者と権利者のいずれにおいても、協議の窓口となる団体を形成することが期待される。
なお、マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物は国内のものだけでなく、外国の著作物を利用する場合も多いと考えられる。そのため、上述のような権利処理ルールの検討に当たっては、諸外国における状況を調査し参考にするとともに、我が国と外国の関係権利者団体間の権利の相互管理についても考慮する必要がある。 |
これらを踏まえると、まず、マルチメディア・ソフトの製作者などの著作物の利用者においては、具体的にどのような著作物のどのような利用について権利の個別許諾が困難であり、集中管理が必要であるかを明確に示す必要がある。
また、権利者においては、大量かつ多様な著作物の利用の進展により、現実に個別許諾が困難になっているケースが増えているという事実を直視し、個々の権利者の利益を確保しつつ適切かつ円滑な権利処理が行えるよう、様々な方策を柔軟に検討する必要がある。 |
2.権利の所在情報の提供体制の整備の具体的な在り方 -「著作権権利情報集中機構(仮称)」の設立- |
権利の所在情報の提供体制の整備のために、本小委員会としては、「著作権権利情報集中機構(仮称)」を設立することを提唱する。これは、多様な分野の著作物に係る各権利者団体の管理している権利所在情報を統合し、それらの情報を利用者に一つの窓口で提供するシステムを構築するものであり、「著作権権利情報集中機構(仮称)」は、このようなシステムの管理、運営に当たる組織である。
そのためには、まず、各権利者団体において管理する権利所在情報の内容を充実し、データベース化を図る必要がある。現在、音楽の著作物についてはデータベース化がかなり進んでいるが、それ以外の分野においては極めて不十分な状況にあり、各分野においても可能な限り情報の整備に取り組むことが期待される。なお、映像関係の分野では、一つ一つの映像作品にかかわる権利情報が、他の分野の著作物に比べて極めて多く、かつ、こうした情報を集めることのできる団体が現在は存在しないなどの困難な状況があるため、まず、関係者が集まって基礎的な体制づくりのための検討が進められる必要がある。
また、これらの情報を一つのシステムに統合して利用できるようにするためには、利用者のニーズを考慮して入力すべき情報の項目等についての共通基準を定め、データベースとしての一定の体系を設定する必要がある。さらに、利用者に対する情報提供の具体的な内容、方法に応じたシステムを構成する必要がある。このようなデータベース及びシステム構成の在り方について、基礎的な調査研究が行われなければならない。その際には、権利者のプライバシーの保護、提供者のノウハウに対する考慮等も必要である。
なお、このようなシステムの構築には、多大の労力と資金を要するものと考えられるが、マルチメディア・ソフトの製作者を含む著作物の利用者すべてにとって多大の利益のあるものであり、また、製作者等が管理している権利所在情報も多数あることから、製作者等もこのような情報提供システムの構築について積極的に協力し、早期にその実現が図れることが望まれる。
文化庁においても、このようなシステムの構築が、今後のマルチメディア社会における新しい文化の創造・発展の基盤となり、広く国民による文化的所産の享受に資するものであるとの観点から、国として、関係者における取り組みの状況を踏まえつつ、これを推進するための施策を検討することが期待される。 |
3.権利の集中管理体制の整備の具体的な在り方 |
(1) 各分野における権利の集中管理体制の整備 |
すべての分野の著作物について、マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に関する権利の集中管理を行う単一の団体を設立するとの考え方もあるが、分野によって著作物の性質や利用のされ方の違いから権利者の意識や集中管理の態様が異なっており、単一の団体を設立することは困難と思われる。
したがって、まず、著作物の分野ごとの権利の集中管理団体の整備充実が図られるべきである。この場合、それぞれの分野において、その特性に応じ、まずできるところから体制の整備を進めていく必要がある。写真、美術及びグラフィックデザインの分野において、関係団体間で共同して集中管理体制の在り方の検討が始められていることは注目すべきことであり、これらのいわゆる視覚的著作物の共通した側面に着目した適切な体制が整備されることを期待する。映画については、現状では権利の集中管理は実際上困難な面があるが、まず、映画製作者の団体において、前述の「著作権権利情報集中機構(仮称)」に参画する前提として、映画にかかわる権利者情報を整備し、それを集中的に管理し、提供する体制を整えた上で、可能な集中管理の在り方について検討することが期待される。 |
(2) 権利の集中管理団体における著作物の利用許諾方法の改善 |
権利の集中管理団体における著作物の利用許諾の範囲、使用料については、マルチメディアその他の新しい利用形態に柔軟に対応ができるように改善を図ることが必要である。 例えば、効率的な権利処理を進めるとの観点から、現在、支分権ごとに行っている権利処理を改めて、一連の利用形態の範囲においては、包括的な許諾を与えその対価として包括的な使用料を定めることについても検討することが期待される。
また、人格権は集中管理になじまないことは前述のとおりであるが、一定のルールを設けて利用者の相談に応じ、著作者個人の承諾を得る必要がある場合についてあらかじめその旨と承諾を得るべき相手方を教示する体制を整えることは可能でありかつ望ましいと考えられる。 |
(3) 権利の集中管理団体間の連携・協力 以上のような著作物の分野ごとの権利の集中管理団体の整備を前提として、関係権利者団体間で合意ができればその範囲において、例えば、現在、個人向けビデオレンタル等の許諾において、関係する文芸、脚本、音楽などの権利者団体が連名で権利行使しているように、マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物の利用行為について、一定のルールに基づき連名で権利行使をする方法を採用することは可能であり、各分野の権利の集中管理団体間でこのような連携・協力を推進していくことが望ましいと考える。 |
第5節 マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の 著作物の権利の集中管理に関する制度上の課題 |
マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題については、第3節及び第4節に述べたように、当面は団体間の協議や当事者間の契約を通じて、望ましい権利処理ルールを確立していくとともに、権利者団体が製作者の協力を得つつ任意の集中管理を進めていくことが望まれるが、特に権利の集中管理については、任意の集中管理ではアウトサイダーの問題が常に残るという問題がある。著作権法上、一定の報酬請求権については指定団体等を通じてのみ権利行使を認める制度があるが、将来的には、例えば、個別管理の困難な著作物の特定の利用方法については、一般的に上記制度を導入することができるようにすることや、現在の裁定制度の見直しを図ることも考えられる。なお、権利の集中管理団体の活動に関しては、仲介業務法が存在するが、その対象範囲、内容が現在の著作物の利用の実態等に適合しているかどうか疑問があり、仲介業務法の見直しを検討すべきであるとの指摘もある。これら権利の集中管理の制度全体の在り方については、マルチメディア・ソフト製作のみの問題ではなく、著作物の利用全般に関連する大きな問題であるため、別途適切な場を設けて検討することが適切であろう。 |
おわりに
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以上のとおり、本小委員会は、マルチメディアに関する著作権問題について問題の所在を洗い出すとともに、まず、マルチメディア・ソフトの素材として利用される既存の著作物に係る権利処理の問題について検討を行った。その結果、第2章第3節及び第4節に示すように、運用上の条件設備によって当面対応ができると考えられるものについて、その望ましい方向についての考え方を明らかにするとともに、同章第5節に示すように、権利の集中管理に係る制度上の問題全般について、別途検討の場を設ける必要があることを指摘したところである。 また、マルチメディア・ソフトに係る権利に関する制度上の問題については、情報処理技術の発展、普及の状況を見定めつつ、第1章第3節1.に掲げた事項を中心に、本小委員会において引き続き検討を進め、結論を得た段階で公表することとする。 |
著作権審議会マルチメディア小委員会審議経過 |
(平成4年3月30日著作権審議会第66回総会でマルチメディア小委員会の設置を決定)
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第1回会議 平成4年6月4日 審議の進め方について |
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第2回会議 7月3日 マルチメディア等の現状及び今後の可能性と課題について (ヒアリング及び討議) |
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第3回会議 8月19日 電子出版の現状と課題について(ヒアリング及び討議) |
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第4回会議 9月18日 1)マルチメディア産業の現状と課題について(1)(ヒアリング及び討議) 2)「マルチメディア著作権(松田委員提出)」について |
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第5回会議 10月22日 1)マルチメディア産業の現状と課題について(2)(ヒアリング及び討議) 2)データベースとマルチメディアについて(ヒアリング及び討議) |
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第6回会議 12月18日 マルチメディア・ソフト等への素材提供に伴う権利処理について (ヒアリング及び討議) |
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第7回会議 平成5年2月10日 今までの検討内容及び今後の進め方について |
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第8回会議 3月19日 権利の集中処理の現状把握について |
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第9回会議 4月22日 1)マルチメディア・ソフト製作者側から見た問題点について (ヒアリング及び討議) 2)マルチメディア・ソフト製作時における権利処理の実態について (ヒアリング及び討議) |
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第10回会議 6月11日 マルチメディアに利用される著作物の権利者から見た問題点について (ヒアリング及び討議) |
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第11回会議 7月23日 マルチメディア小委員会第一次報告書 ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(骨子案)について |
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第12回会議 8月31日 マルチメディア小委員会第一次報告書 ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(案)について |
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第13回会議 9月22日 マルチメディア小委員会第一次報告書 ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(案)について |
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第14回会議 10月22日 マルチメディア小委員会第一次報告書 ─マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心として─(案)について |