1 | 著作権審議会第2小委員会(主査 林修三)は、コンピュータに関する著作権制度上の諸問題全般について検討、整理することを目的として設置されたものであり、コンピュータ創作物の著作物性等についての検討も行い、昭和48年6月に報告書を公表している。 |
2 | 同報告書のコンピュータ創作物に関する部分の要点は、次のとおりである。 |
(1) | コンピュータは、創作を目的とするプログラムを基礎として、プログラムの作成者により設計された体系に従って、データとの組合せにより無数の作品をアウトプットとして作成することができる創作機器として、主として作曲に関し用いられている。 |
(2) | コンピュータ創作物は、プログラムの作成者がコンピュータをいわば道具として使用し、その思想感情を具体化したものであるから、著作物であり得る。 |
(3) | コンピュータ創作物の著作者が誰になるかは、創作の実態によって異なり、一律に決定することは困難であるが、コンピュータ創作物は、その創作を目的とするプログラムの作成者の設計した体系の枠内にあり、その者の思想感情が創作的に表現されているといい得るので、プログラムの作成者は、コンピュータ創作物の著作者たり得る。 |
(4) | コンピュータ創作物がアウトプットして自動的に得られる素材を加工し、完成したものである場合、素材を個性的な作品に作り上げる芸術家は、プログラムの作成者とともに創作物の共同著作者たり得る。 |
(5) | インプットされるデータがコンピュータ創作物の表現に個性的に反映する場合は、データを吟味選択してインプットした者も共同著作者の一員を構成する。 |
(6) | コンピュータを操作するにすぎない、いわゆるオペレータやコンピュータの所有者又は管理者にすぎない者は、コンピュータ創作物の創作に何らの精神的寄与をしないので、コンピュータ創作物の著作者たり得ない。 |
3 | 第2小委員会の検討の結果は以上のとおりであるが、第2章で述べるように、当時から20年経った現在では、コンピュータ創作物の実態はかなり異なってきている。
コンピュータ及びその利用技術の開発、普及は著しく、機械翻訳やコンピュータを用いたアニメーションの作成などコンピュータ創作物の種類も多くなっている。さらに、当時においては、創作を目的とするプログラムの作成者により設計された体系に従ってコンピュータ創作物を創作することが一般的であったが、現在では、汎用的なコンピュータ・システムを使用し、使用者が比較的自由に創作できる場合が多くなっている。
したがって、ここに、改めてコンピュータ創作物の現状に即して検討することが求められる。 |
II 国際的動向 |
コンピュータ技術の発達・普及は国際的な動きであるため、諸外国、国際機関においても検討が進められている。各国及び国際機関における検討状況は、以下のとおりである。 |
1 各国における検討・立法状況 |
〔アメリカ合衆国〕 |
1975年(昭和50年)に「新技術による著作物の使用に関する国家委員会」(The National Commission on New Technological Uses of Copyrighted Works、通称CONTU)が設置され、コンピュータ及び複写に関する問題について検討を開始したが、その中でコンピュータ創作物(a work produced through the use of a computer/a work produced with the assistance of a computer)の問題も検討された。
CONTUは、1978年(昭和53年)に最終報告書を公表したが、コンピュータ創作物に関しては、コンピュータは、カメラやタイプライタと同様の自動力のない道具(inert instrument)であるという観点に立ち、1)著作物性の有無は、創作性があるかないかで決定されるのであり、コンピュータの介在はそれに影響を与えない、2)コンピュータ創作物の著作者は、コンピュータを使用する者(one who employs the computer)であり、プログラムの著作者や入力されるデータの著作者は、コンピュータ創作物の著作者とは区別されること等を指摘した上で、現時点においては、現行法で対応できるとしている。
また、議会技術評価局(OTA)が、1986年4月に公表した報告書「エレクトロニクスと情報の時代の知的所有権」では、CONTUの見解に対し、カメラやタイプライタなどが創作のための自動力のない道具(inert tools of creation)であるのと同じ認識で、コンピュータ・プログラムを創作のための自動力のない道具と考えることは誤りを導くと述べ、相互作用のコンピュータ利用を通しての創作(creation through interactive computing)についてプログラムの著作者やコンピュータを使用する者の権利がどこまで及ぶのか等について、問題点を提起している。 |
〔イギリス〕 |
著作権法改正委員会が、1973年(昭和48年)に設置され、1977年(昭和52年)に報告書(通称ウィットフォード・レポート)が提出された。同報告書では、コンピュータ創作物(computer output)に関して、コンピュータを道具(tool)として認識し、コンピュータ創作物の著作者は、特定の結果を生み出すために、コンピュータを制御し及び調節する指令を工夫し、かつ、データを作り出した個人又は複数の人間(the person or persons, who devised the instructions and originated the data used to control and condition the computer to produce the particular result)であるとしている。
イギリス政府は、ウィットフォード・レポートに対してその見解を示し、かつ公の批判を求めるために、著作権法改正に関する報告書(通称グリーンペーパー)を1981年(昭和56年)に公表した。その中では、ウィットフォード・レポートでは、プログラムを作成した者とデータを作成した者の両方をコンピュータ創作物(a work produced with the aid of a computer)の著作者と考えているのに対し、むしろ、著作物を創作するためにプログラムを入れたコンピュータを通じてデータを処理することに責任を負う者(the one responsible for running the data through the programmed computer in order to create the new work)とするのが妥当であると指摘している。
また、1986年4月に政府は、「知的所有権と技術革新に関する報告書」(通称ホワイトペーパー)を公表したが、コンピュータ創作物(a work created with the aid of a computer)の著作者については、特別の条文がなくとも実質上の問題はないため、この点について特別の規定を設ける必要はないとしている。
1988年(昭和63年)の著作権法改正により、コンピュータ生成物(computer-generated works)について新たに規定された。その内容は以下のとおりである。 |
(1) | コンピュータにより生成される著作物の著作者は、著作物の創作に必要な手筈を整える者(the person by whom the arrangements necessary for the creation of the work are undertaken)であるとみなされる(第9条(3))。 |
(2) | コンピュータにより生成される著作物の著作権は、著作物が作成された暦年の終わりから50年の期間の終わりに消滅する(第12条(3))。 |
(3) | 著作者人格権は、コンピュータにより生成される著作物には適用されない(第79条(2)(c)、第81条(2))。 |
(4) | 「コンピュータ生成」とは、著作物の人間の著作者が存在しない状況において著作物がコンピュータにより生成されることをいう(第178条)。 |
〔スウェーデン〕 |
1985年10月著作権法改正に関する委員会が、「著作権とコンピュータ技術」に関する報告書を公表している。同報告書では、コンピュータ創作物に関して、コンピュータは望ましい結果を作り出すために使われる技術的補助手段と捉えた上で、コンピュータ創作物の著作者について、著作権保護を受けることができるための不可欠の創作的要素に寄与した者であるとし、創作のためのプログラムの著作者の寄与を基礎とした検討を行っている。すなわち、 |
1) | コンピュータ・システムが著作物の創作のために使用される場合は、基本的にそのシステムを技術的手段とみなすべきであること、 |
2) | コンピュータ・システムの助けを借りて作成される著作物が著作権保護を受けるためには、条約及び国内法に定める保護の一般的条件を満たさなければならないこと、 |
3) | コンピュータ・システムを用いて作成される著作物の著作権者は、当該著作物が著作権保護を受けることができるために不可欠の創作的要素を生み出す者のみであり、コンピュータ・プログラムのプログラマは、そのような創作的努力によって著作物に寄与した場合に限り、共同著作者と認めることができること、 |
4) | 嘱託の著作物又は雇用契約下にある者による著作物についてコンピュータ・システムが使用される場合、著作権の帰属の問題は、国内法にゆだねるべきであること等である。 |
また、WIPOは1991年(平成3年)から「文学的及び美術的著作物の保護に関する考えられるベルヌ条約議定書に関する専門家委員会」を招集し、ベルヌ条約議定書作成のための検討を開始した。同議定書における保護される著作物として、当初コンピュータ製作物(computer-produced works)が掲げられていたが、現在は検討項目から除外されている。
当初の議定書案におけるコンピュータ製作物の主な内容は、 |
1) | 人間の創作的な貢献が著作物の全体に溶け込んでいるために、その貢献に関して著作者を評価することが不可能な場合における、コンピュータにより創作された著作物であること、 |
2) | その著作物の創作に必要な手筈を整える者が、著作権者となること、 |
3) | 人格権は認められないこと、4)保護期間は創作後50年であること等であった。 |
またEC(欧州共同体)は、1988年に、「ECグリーンペーパー:著作権と技術をめぐる諸問題」という意見書を公表した。同意見書では、「一定のプログラミング機能を実行すべくプログラムされているコンピュータの助けを受けて作成されるコンピュータ・プログラム」については、プログラム作成プログラムが組み込まれたコンピュータを使用した者が保護を受ける権利を有すると認められるべきであるとしている。 |
3 コンピュータ・グラフィックスの利用実態 |
(1)コンピュータ・アニメーション |
コンピュータ・アニメーションとは、アニメーションの制作における一連の作業をコンピュータを用いて行うことである。従来、アニメーションの制作は、1枚1枚の作画を手作業で行っていたが、その作画作業をコンピュータを用いて行い、効率化するものである。二つの絵を描き、比例配分でデータを変換していくことによってその中間部分を自動作成することが可能である。
コンピュータ・アニメーションの効果としては、 1)コンピュータ使用によりアニメーション作成の過程が大幅に縮小されること、 2)コンピュータ特有の表現が創出できること、 3)直接確認できない宇宙や分子構造などを立体で表現できること 等が考えられ、最近では、映画の制作、放送用のコマーシャル・フィルム、タイトル画の作成、ビデオゲームの影像、航空機のパイロット訓練用のフライト・シミュレーション等の各種シミュレーション(模擬実験)など幅広い分野に利用されている。 |
(2)グラフィックアート、グラフィックデザイン |
コンピュータによって表現方法を拡大し、特有の造形的表現を創出することが可能である。このため、コンピュータ・グラフィックスはグラフィックアート、グラフィックデザインの分野に利用されている。例えば、絵画等の視覚芸術、イラストレーション、ポスター等のデザインに利用されている。 |
(3)教育用、学術用グラフィックス |
コンピュータ・グラフィックスの利用により視覚に訴える学習が可能になり、学習効果を高めることができる。このため、コンピュータ・グラフィックスはCAI(Computer Aided Instruction;コンピュータによる教育支援)用のビデオソフトの中で利用されているほか、分子構造モデルなどの学術用グラフィックスとしても頻繁に利用されている。 |
(4)CAD/CAM |
CAD/CAMとは、Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturingの略でコンピュータ使用による設計、生産支援システムのことである。設計、生産部門の効率化のニーズに応じ、1970年代後半から急速な発展を見せている。設計作業の支援の部分がCAD、生産作業の支援の部分がCAMであり、両者が一貫してCAD/CAMとなる。
CADの効果は、 1)人間の限界を超えた設計への対応、複雑化への対応、品質・信頼性の向上、 2)設計・製造期間の短縮、 3)省力化、工数削減、 4)客の評価向上、 5)標準化の促進 であり、機械設計、回路設計、電気プリント板設計、建築設計、帳票設計等広い分野で利用されている。
CAMは、CADの設計データを用いて、工程設計、作業設計、加工情報作成等を行うものである。例えば、工場の機械に対し数値で表された命令を与えることで微妙な動きまでを一切コントロールしようとするNC(Numerical Control;数値制御)工作機械において制御用テープをCADの設計データから出力することにより、設計、生産の一体的流れによる効率的生産が可能となる。CAMも、CAD同様幅広い分野で利用されている。 |
(5)ビジネス・グラフィックス |
ビジネス・グラフィックスとは、企業等において行われるコンピュータ使用による様々な情報の図形処理のことである。
企業等において使用される数値データなどの情報をコンピュータにより、グラフや図形によって視覚化し、パターン化することにより、効率的な情報の伝達に役立たせるものである。
利用例としては、市場予測、経済見通しなど企業戦略立案のためのグラフ化、図形化のほか、企業等がPRあるいは新製品、新プロジェクト等のプレゼンテーションに使うために作成したグラフィックスなどが考えられる。
最近では、データベースからの情報をオンラインにより送り、端末でグラフ化、図形化することも多く行われている。 |
(6)コンピュータ・マッピング |
コンピュータ・マッピングとは、地図データをコンピュータに入力し、人口、土地利用、水道管の配置などの数値データや文字データと結び付けて処理、加工を行うものである。
コンピュータに入力された地図データをディスプレイを通じて修正できるため、データの修正が容易になる。また、地図データをデータベースとして蓄積できるので、地図の保管、検索が容易にできる。さらに、入力した地図データにより、道路管理図や下水道管理図、地籍図など異なった図面を合成して利用することも可能である。
地図データの入力には、多くの費用と労力を要するという問題があるが、コンピュータ・マッピングは地方自治体など官庁により行政に利用されているほか、ガス会社、電力会社などの公益事業、コンピュータ・メーカー、測量会社、地図出版社などに利用されている。 |
(7)リモートセンシング |
リモートセンシングとは、人工衛星の遠隔探査によって送られてくる情報を地球上のコンピュータにより画像編集、補正等の処理を施し、有用な画像として出力するものである。
リモートセンシングによって、地上からは把握できない様々な画像情報を得ることが可能となる。気象衛星の雲画像による天気予報図の作成、資源探査衛星による鉱物資源調査、土地利用図、海流分布図の作成等多くの分野で利用されている。 |
(8)医用画像処理 |
医学、医療の分野でのコンピュータ・グラフィックスの代表的利用例は、CTによる医用画像処理である。
CTは、Computer Tomographyの略であり、コンピュータ使用による断層撮影法のことである。CTを利用することにより、身体を構成する物質の状態をデータとしてコンピュータで処理し、人体の一横断面を影像として再生することができる。X線CTを用いた内臓の断層図、熱感知器を用いたサーモグラフィなどに実際に利用されている。 |
2 プログラム自動作成の方法・態様
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(1) | コンピュータに何をさせたいのか(What)を記述し、その記述からプログラムを生成する方式 |
業務仕様を記述すれば、それを自動的にプログラムに変換するというプログラム自動作成の究極的目的を達成しようとする考え方である。自然言語処理技術等人工知能的技術を利用して、特定の問題パターンに対応したプログラム自動作成法が研究されているが、まだ実用化の段階には至っていない。
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(2) | コンピュータが処理をどのように行うか(How)を記述し、その記述からプログラムを生成する方式 |
人間が記述しやすく、かつ見やすい形式で処理内容を記述し(例えば、フローチャートや木構造図を用いた詳細設計仕様書)、そこから自動的にプログラムを生成する方法である。
アセンブラ、コンパイラ、インタプリタ等変換プログラムを用いてソース・プログラムからロードモジュール(オブジェクト・プログラムを実際に実行可能にするために主記憶装置に格納しうる形にしたもの)まで変換することは、1950年代にフォートラン等の高級プログラム言語が登場したときから行われており、古典的にはこのような変換も自動プログラミングと呼ばれていたことは前述のとおりである。
この場合、まず、ソース・プログラムは、コンパイラ等によりオブジェクト・プログラムに変換される。オブジェクト・プログラムは、さらにロードモジュールに変換される。ロードモジュールの中には、ライブラリ中のサブルーチン(例えば、入出力や帳票作成のためのサブルーチン、または科学技術計算式のサブルーチン)が組み込まれている。
近年開発・実用化が進められてきているのは、詳細設計仕様書からのプログラムの自動作成である。従来は、ディテール・フローチャート等詳細設計仕様書をコーディングし、ソース・プログラムを作成していたが、その作業を省力化し、詳細設計仕様書をコンピュータに入力し、自動的にソース・プログラムへ変換するものである。詳細設計仕様書の表記法としては、フローチャート、ディシジョンテーブル(決定表)、木構造図(構造化表記法)などがある。木構造図は、図記号による構造化表現を用いるものであり、日本語による記述が可能である。詳細設計仕様書を木構造図によって記述する言語は、電算機メーカー各社が提供しており、詳細設計仕様書よりプログラムの自動作成を行う場合、フローチャート等の代わりにこれを利用することが多い。
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(3) | 上流工程支援ツールによるプログラム開発 |
1)スケルトンの自動生成 |
ブラウン管の画面上にあるアイコン(例えば、「開始」「画面グループ枠」等の表示)をマウスで指定し、適当に配置し、矢印でつなぎ、分岐のところに条件付けをする等の作業を行い、その結果、自動的に設計仕様書が生成されるものである。 |
2)画面レイアウトの定義 |
以前は、すべてソース・プログラムを作って画面レイアウトを決めていたが、現在は、画面にワープロのようにデザインをして、属性定義(項目名、桁数、表示色等を決めること)等を行うと、ソース・プログラムが自動的に生成される。 |
3)部品の再利用 |
ひな型となる仕様書をベースにして自分固有のプログラム設計仕様書を作ることである。ひな型の空欄部分に情報を指定するケース、そのまま使うケース、固有の処理を追加するケースがある。必ずしも自動ではないが、プログラム作成の省力化が図られている。 |
最終的に出来上がるプログラムの中には、業務処理手順、つまり、業務処理のノウハウ、を記述した部分と、それを制御するためのロジックを記述した部分があり、前者の自動化は進められているが、後者は現実的には難しい。
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(4) | ソフトウェア作成支援システム(ソフトウェアCAD) |
プログラム作成の各過程をコンピュータによって支援するシステムである。特定の言語によって表記された設計仕様から、特定の言語で記述するプログラムに自動的に変換する機能を持つ。
ソフトウェア作成で使われる設計仕様の記述法やプログラミング言語は多数ある。 例えば、プログラムによる処理の記述にはコボル、フォートランなどの高級言語、データベースの構造の定義にはデータベース定義言語、画面や帳票形式の定義には画面/帳票形式定義言語、プログラム運用の設計にはジョブ制御言語が使われる。この場合、木構造図等からのコボル等への変換、データベース構造図からデータベース定義言語への変換、画面レイアウト定義図・帳票レイアウト定義図からの画面/帳票形式定義言語への変換、ジョブフロー図からジョブ制御言語への変換などの変換作業が必要である。
ソフトウェアCADとは、自動変換ツール(自動変換プログラム)を用いて、これらの変換を自動化するシステムである。ソフトウェアCADにより、その自動変換ツール自体を作成することも可能であり、利用者の必要に応じて自動変換ツールが作成される。ソフトウェアの作成者は、ツールの開発者が開発した自動変換ツールを必要なときに呼び出し、特定の表記法で記述された設計仕様をプログラムに変換する。
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(5) | プログラムの保守のための自動化 |
ソフトウェアの場合、システムライフサイクルの中で新規機能の追加、改良、修正が必要となる(プログラムメンテナンス、保守)が、最初にプログラムを作ったときの仕様書等が見つからなかったり、担当者が替わったりしたときに、保守ができなくなるのでは困るので、この部分を合理化するための自動化が進められている。
以前の保守は、ソース・プログラムを修正するだけであり、それに対応する設計仕様書まで修正することが十分でなかった。メンテナンス後のソース・プログラムは、それ以前のプログラム設計仕様書とは対応しないことが多いため、プログラムの内容に一致するようにプログラム設計仕様書を自動生成することが行われており、最近この部分がかなり進んでいる。この過程では、ソース・プログラムでの使用言語を、辞書を参照して変換し、プログラム設計仕様書を生成する。これが、うまくできるようになると、プログラム設計仕様書は、比較的、人間に分かりやすい言語で記述してあるので、プログラムの内容の修正等が、担当者が替わっても容易になる。
このように、プログラムの保守のためのプログラム設計仕様書からソース・プログラムへの変換及びその逆の変換の自動化が進められている。 |
2 データベース自動作成の利用実態 |
(1) | 数値系のデータベースについては、オンライン化の進展によって、情報収集の自動化、データの入力段階の自動化が進んでいる。具体例としては、POSシステム(Point of Sales)、証券取引所等の立会いの電算化、SIS(Strategic Information System)等による企業内データベースの自動化などがある。
これらのうち「POSシステム」とは、小売業等の単品別の販売情報や配送段階で発生する情報を管理するため、店頭にあるレジスタ機能を併せ持つ端末から売上データをセンターのコンピュータに送ってこれを集中処理し、販売管理を行うシステムである。POSシステムによる売れ筋情報等、情報処理会社が収集、整理統合した経営情報、販売情報等を会員以外の各企業に提供することも計画されている。既にPOS情報を収集、分析して各企業に提供する事業がスキャン・データサービスの名で行われている。 |
(2) | 文章系のデータベースについては、キーワード自動抽出及びCTS(Computer Typesetting System)により電子媒体化された情報ファイルの利用が、新聞記事、辞書、辞典などのデータベース作成等で進んでいる。 |
1)キーワード自動抽出 |
文章中から主として名詞を抽出し、キーワードとしての利用度が低いもの(ストップワード)を除き、言葉の重要度を判断することを機械的に行う。現在、汎用のソフトウェアとしても販売されている。 キーワード自動抽出の手順は以下のとおりである。 |
(i) | かな漢字交じりの日本語文章を解析(単位(形態素)に分解(分かち書き))して、その品詞を判定する。 |
(ii) | 名詞と判定された語を抽出する。複合語の場合は単語に分解、それを連結させて合成語を生成させる場合もある。 |
(iii) | (i)、(ii)の処理によって抽出された語のうち、一般的な用語を破棄する。 |
(iv) | キーワード辞書、シソーラスを参照して、それに収録されている語のみを選ぶ場合もある。 |
(v) | 語の出現頻度、出現位置、文章の主題との関連性などを測定して重要度を測定し、所定の基準に達したものをキーワード(文の主題を表現する語)として採用する場合もある。 |
(vi) | キーワードとして採用された語で、統制語でないものはシソーラス、ファイルを参照して統制語を追加する場合もある。 |
(vii) | 以上の結果、インデクサ(索引者)が点検、修正を行う場合がある。 キーワード自動抽出の課題としては、文章の主題にかかわりのない語が抽出され、ノイズが生じやすい。また、文章中に出現しない語は抽出されないこともある。 |
2)CTSにより電子媒体化された情報ファイルの利用 |
CTSとは、電算写植組版システムのことである。コンピュータの記憶装置に文字原稿、図形等を入力し、組版処理を自動化するものであり、組版、印刷工程の省力化が図られるため、出版社、新聞社において多く用いられている。CTSにより既に電子媒体化された情報ファイルをデータベースの素材として利用することが行われている。 |
3 データベースの流通の実態 |
データベースの流通の形態には、オンライン系とパッケージ系がある。オンライン系ではプロデューサとディストリビュータ、また、デイストリビュータと利用者との間で利用契約が結ばれるが、パッケージ系の流通に関しては、利用契約が結ばれる場合と結ばれない場合(特にCD-ROM等)がある。
また、ゲートウェイ(企業のLAN等を含む複数のネットワークを通じたデータベースのサービス)、マルチファイル検索(複数の独立したデータベースを検索して、その結果を混在させて一つにして出力するもの)等の新たな流通、利用方法が増えつつある。 |
第3章 コンピュータ創作物に関する著作権問題について
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前述のような実態及び現状を踏まえ、コンピュータ創作物に関する著作権問題について、各コンピュータ創作物に共通の問題と、固有の問題とに分けて検討することとする。 |
I 各コンピュータ創作物に共通の著作権問題 |
1 コンピュータ創作物の著作物性について |
(1) | 著作権法上、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されている。 この定義は、著作権法の立法趣旨から、思想感情を人が創作的に表現したもので、知的・文化的な包括的概念の範囲に属するものであることを当然の前提としているものと一般に解されている。 |
(2) | 人が著作物を創作するために道具を用いることは従来からあったものであり(筆記具、タイプライタ、ワードプロセッサ等)、コンピュータ創作物についても、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてコンピュータ・システムを使用したものと認められれば、その著作物性は肯定されることになる。 |
(3) | 人がコンピュータ・システムを道具として用いて著作物を創作したものと認められるためには、 |
| 1) | まず、思想感情をコンピュータ・システムを使用してある結果物として表現しようとする創作意図が必要である。ただし、この創作意図は、コンピュータ・システムの使用という事実行為から通常推認し得るものであり、また、具体的な結果物の態様についてあらかじめ確定的な意図を有することまでは要求されず、当初の段階では「コンピュータを使用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物を作る」という程度の意図があれば足りるものと考えられる。 | | 2) | 次に、創作過程において、人が具体的な結果物を得るための創作的寄与と認めるに足る行為を行ったことが必要である。どのような行為を創作的寄与と認めるに足る行為と評価するかについては、個々の事例に応じて判断せざるを得ないが、創作物の種類、行為の主体、態様等が主な判断基準になると考えられるので、「II 各コンピュータ創作物に固有の著作権問題」において、更に考察することとしたい。 | | 3) | さらに、結果物が客観的に思想感情の創作的表現と評価されるに足る外形を備えていることが必要であるが、この点の判断については、コンピュータ創作物であっても、コンピュータを使用しない通常の創作物であっても変わるものではないと考えられる。 |
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(4) | 一般にある創作物が著作物と認められるためには、(3)の1)から3)までの要件のすべてを充たすことが必要であると考えられるが、コンピュータを使用しない通常の創作物にあっては、人の創作意図及び創作行為は、通常、当然にあるものと考えられ、実際上は結果物の評価のみによって著作物性が判断されることが多い。コンピュータ創作物については、創作過程におけるコンピュータ・システムの介在という特性を踏まえて、人の創作意図及び創作的行為の有無を吟味する必要があると考えられる。 |
2 コンピュータ創作物の著作者について |
(1) | 著作権法上「著作者」とは「著作物を創作する者」と定義されている。また、1つの著作物の作成に複数の者が関与している場合には、著作物の作成に創作的に寄与した者が著作者であると考えられる(著作権法第2条第1項第12号(共同著作物)参照)。 |
(2) | コンピュータ創作物の作成過程に関与する者としては、1)コンピュータ・システムの使用者、2)コンピュータ・システムにおいて実行されるプログラムの作成者、3)データ又はデータベースなどの形でコンピュータ・システムに入力される素材の作成者が考えられる。
なお、1)のコンピュータ・システムの使用者の行為には様々なものが考えられるが、例えば、一定の創作意図のもとに、それに適したコンピュータ・システムを選択・構築し、必要なデータを入力し、適当なプログラムを実行することによってデータを処理して結果を出力し、その結果を当初の意図に照らして吟味、修正するなどの行為が考えられる。 |
(3) | コンピュータ創作物に著作物性が認められる場合、その著作者は具体的な結果物の作成に創作的に寄与した者と考えられるが、通常の場合、それは、コンピュータ・システムの使用者であると考えられる。
ただし、使用者が単なる操作者であるにとどまり、何ら創作的寄与が認められない場合には、当該使用者は著作者とはなり得ない。どのような場合に使用者が創作的寄与を行ったと評価でき、又は単なる操作者にとどまるかについては、個々の事例に応じて判断せざる得ないが、一般に使用者の行為には入力段階のみならず、その後の段階においても対話形式などにより各種の処理を行い、最終的に一定の出力がなされたものを選択して作品として固定するという段階があり、これらの一連の過程を総合的に評価する必要がある。 |
(4) | プログラムの作成者は、プログラムがコンピュータ・システムとともに使用者により創作行為のための道具として用いられるものであると考えられるため、一般的には、コンピュータ創作物の著作者とはなり得ないと考えられる(例えば、OSや汎用的プログラムの作成者)。
ただし、プログラムの作成行為と使用者の創作行為に共同性が認められるとするならば、プログラムの作成者がコンピュータ・システムの使用者と共に共同著作者となる場合もあり得ると考えられる(例えば、使用者とプログラマーが特定の創作物を共同して創作する意図の下に共同作業計画を策定し、それを踏まえてプログラマーが特定の創作物作成の用に供するためのプログラムを作成する場合)。
また、プログラムの作成者が自ら特定の創作物の作成を意図して、そのために作成されたものであると客観的に認識できる程度の特定性があるプログラムを作成し、使用者は単なる操作者にとどまる場合には、当該プログラムの作成者が単独でコンピュータ創作物の著作者となることもあり得ると考えられる。 |
(5) | データ又はデータベースなどの形でコンピュータ・システムに入力される素材の作成者は、素材自体が著作物であり、コンピュータ創作物がその二次的著作物に当たる場合には、原著作物の著作者たる地位を有するが、一般的には、コンピュータ創作物自体の著作者とはなり得ないと考えられる。
ただし、プログラムの場合と同様、素材の作成行為と使用者の創作行為に共同性が認められるとするならば、素材の作成者がコンピュータ・システムの使用者と共に共同著作者となる場合もあり得ると考えられる。
また、素材の作成者が、プログラムの作成者と共同して特定の創作物の作成を意図して、そのための特定のプログラム及び素材を作成していると認められ、使用者は単なる操作者であるに留まる場合には、素材の作成者とプログラムの作成者が共同著作者となる場合もあり得ると考えられる。
なお、素材の作成者が単独でコンピュータ創作物の著作者となることはほとんどあり得ないと考えられる。 |
(6) | 一般的には以上のように考えられるが、実際には、コンピュータ・システムの使用者、プログラムの作成者及び素材の作成者が明確に区別できない場合もあり、また、それぞれの者の果たす役割も様々であると考えられるので、具体的に、誰が著作者と認められるに足る創作的寄与を行ったかについては、最終的には個々の事例に応じて判断せざるを得ない。この点については、「II 各コンピュータ創作物に固有の著作権問題」において創作物の種類ごとに更に考察することとしたい。 |
3 既存の素材を利用して作成されたコンピュータ創作物の評価について |
(1) | 既存の著作物を入力して、コンピュータ・システムによってそれに処理を施す場合に、結果物を新たな著作物又は二次的著作物と評価するためにも、2の(3)において述べたと同様に、人の創作的意図、創作的行為及び結果物の表現の三つの要件を充たすことが必要であるが、この場合特に、創作的寄与が結果物に外形的に表現されていることが重要であり、それが認められなければ、複製物又は単なる変形物(注)と評価するしかないと考えられる。複製物又は単なる変形物か二次的著作物かあるいは新たな著作物かの評価については、一般の著作物の場合と同様、結果物の外形における類似性と付加された創作的表現の有無や程度に基づいて判断してよいと考えられる。
一般的に言えば、1)ほとんど既存の著作物を利用したのみで、何ら創作的な表現が付加されていないものは、複製物又は単なる変形物、2)既存の著作物の表現に依拠していることが外形上推知されるが、新たな創作的表現が付加されているものは二次的著作物、3)既存の著作物からアイディアその他の示唆を受けてはいるが、外形上既存の著作物の表現が推知されないような独立の創作的表現となっていると認められるものは新たな著作物、ということになろう。 |
(2) | 作成時及び結果物の利用における権利の働き方は次の通りである。 結果物が(1)1)の複製物又は単なる変形物となる場合は、その作成について素材となった既存の著作物を創作した原著作者の許諾を得る必要があり、結果物の利用については原著作者の権利のみが働く。
結果物が(1)2)の二次的著作物となる場合にも、その作成について原著作者の許諾を得る必要があるが、結果物の利用については二次的著作物の著作者と原著作者の権利の両方が働く。
結果物が(1)3)の新たな著作物となる場合は、その作成について原著作者の許諾を得る必要はなく、また結果物の利用についてはその新たな著作物を創作した著作者の権利のみが働く。 |
(3) | コンピュータ創作物においては結果物の利用が原著作物の更なる改変を伴うことが考えられるが、(1)1)及び(1)2)の場合においては、原著作者の翻案・変形に関する著作権及び著作者人格権たる同一性保持権との関係が問題となる。
一般に、複製物又は単なる変形物若しくは二次的著作物の作成についての原作者の許諾に際しては、併せてそれらの利用についての許諾も行われることが多いと考えられ、その場合、それらの利用に伴い通常予想される改変についても同意を与えたものと解するのが適当である。したがって、結果物の利用者はこのような通常の利用に伴う改変について改めて原著作者の許諾を得る必要はなく、また、原著作者はその限りで同一性保持権侵害を主張することができなくなると考えられる。
もっとも、これらの場合も通常必要と考えられない改変や通常予想されない改変については、作成の際の許諾の範囲を超えることとなり、また、意に反する改変として著作者人格権が働くことがあることはもちろんである。なお、これらの利用条件等については、原著作者と二次的著作物等の著作者との間の契約において、あらかじめできるだけ具体的に定めておくことが望ましい。 |
(注)複製物又は単なる変形物 |
既存の著作物を変形したものであるが、何ら創作的表現が付加されていないものについては、「複製物」に過ぎないという考え方と現に変形はされているので複製物ではないが二次的著作物とは評価されない「単なる変形物」であるという考え方がある。しかし、いずれの考え方によっても、このような変形を行った者には新たに権利は発生せず、また、変形及び変形して作成されたものの複製等の利用について原著作者の権利が及ぶという結論には変わりはないので、これは単なる用語の問題であると考えられる。そこで、以下では、このような場合に「複製物又は単なる変形物」と記述することにする。なお、翻訳の場合についても、同様に「複製物又は単なる翻訳物」と記述する。 |
4 コンピュータ創作物に係る著作権法改正について |
(1) | コンピュータ創作物で、その作成過程に人の創作的寄与と評価できる行為が認められない場合には、現行法上は著作物に該当しないと解されるが、外形上は著作物と評価されるに足る表現を備えている創作物については、法律を改正して何らかの保護を行うべきかどうかが基本的な問題と考えられる。仮に、何らかの保護を行うとすれば、権利者を誰とするか、権利の内容、保護期間等をどうするかなどについて、検討を行うことが必要となる。
しかし、この問題は著作権法の基本的な立法趣旨にかかわるものであること、各コンピュータ創作物ごとの考察に見るように、少なくとも現時点においては、各分野で利用されているほとんどのコンピュータ創作物について、人間の何らかの創作的寄与と評価できる行為が認められること、国際的にも人間の著作者が存在しないコンピュータ創作物についての規定を設けているのはイギリスのみであり、他に検討の動きもあまり見られないことなどから、今後の技術や立法に関する国際的・国内的動向を見ながらなお慎重な検討を行うことが適当と考える。 |
(2) | 現行法上、著作物性が認められるコンピュータ創作物については、基本的には現行法の諸規定を適用することによって対応可能であると考えられる。
なお、コンピュータ創作物については、その作成過程に人の創作的寄与と評価できる行為があること自体には疑いがない場合でも、極めて多数の者が様々な形で関与しているため著作者の特定が困難であることが多いので、「創作に必要な手筈を整える者」(「ベルヌ条約議定書案に関する問題」WIPO事務局メモ BCP/CE/I/2 パラグラフ55(c))を著作者とするとの特例規定を設けるとの考え方がある。しかし、このような問題は、多数の者が関与して作成される著作物について従来から存在したものであり、コンピュータ創作物に特有の問題とはいえず、また、このような規定を設けたとしても依然として誰を「創作に必要な手筈を整える者」と考えるかという問題が残る。 |
したがって、当面は、関係者間の契約による権利帰属の明確化及び現行法上の共同著作や法人著作の規定の適用によって対応することが適当と考える。もっともこのように多数の者が関与して作成される著作物は、最近、いわゆるマルチメディア・ソフトをはじめとして、その種類や量が増加してきており、このような状況に対応するために、法人著作の規定や映画の著作物に関する特別規定などの関連規定を見直す必要があるとの指摘がある。
また、コンピュータ創作物の利用に関する権利の内容や制限については、各創作物ごとの考察に見るように、当面現行法の諸規定及び関係者間の契約によって対応することが考えられるが、コンピュータ創作物に限らず、一般にデジタル形式によって媒体に記録された著作物については、利用者による複製や加工が極めて容易であり、かつ、権利者によるコントロールが困難であるとの特性に着目した観点から、それにふさわしい権利の内容や制限に関する規定の在り方を検討する必要があり、また、データをデジタル化することに伴う新たな著作隣接権を認めることが適当であるなどの指摘がある。
現在、著作権審議会マルチメディア小委員会において、情報のデジタル処理技術の発達に伴う新しいメディアの発展に対応した著作権上の問題が検討されているが、これらの指摘については今後、同小委員会において、コンピュータ創作物に限らず広い観点から検討されることを期待する。
その他、コンピュータ創作物の種類ごとの状況に応じた問題については、「II 各コンピュータ創作物に固有の著作権問題」において指摘する。 |
II 各コンピュータ創作物に固有の著作権問題 |
1 コンピュータ・グラフィックス |
(1)コンピュータ・グラフィックス作成の態様について |
コンピュータ・グラフィックス作成に関係してくる者としては、グラフィック・デザイナー、設計技術者などのコンピュータ・システムの使用者のほかに、コンピュータ・グラフィックス図形処理のプログラム作成者、素材となる形状データ(基本的図形、数値情報等)の作成者及び形状データのデータベース作成者が考えられる。
コンピュータ・グラフィックスの基本的な作成過程においては、コンピュータ・システムの使用者が図形の座標の値により、又はイメージスキャナ等により、まず基本的図形をコンピュータに入力する。この基本的図形は、使用者が自ら作成する場合もあれば、既存の図形や絵等を利用する場合もあり、後者のための各種の基本的図形を収納した画像制作用のデータベースも存在する。次いで、使用者は、対話形式により様々な図形処理を行っていくが、これらの処理にはコンピュータ・グラフィックス用に開発された各種の図形処理用のプログラムが用いられる。 |
(2)創作的寄与の評価について |
コンピュータ・グラフィックス作成の場合、通常は使用者が一定の発想の下に、基本的図形を作成又は選択して入力し、それについて対話形式により画像処理を行い作成していくため、そこに創作意図と創作的寄与があると考えられる。
コンピュータ・グラフィックスの場合、わずかな処理であっても結果物として出てくるものはかなり違ったものになるため、個別の処理の結果物に対する寄与を一々評価することは難しいことや、機械との対話を通じて当初の発想とは異なった結果物が作成されることもあり、個別の結果物についての明確な創作意図を立証することが難しいことが指摘される。しかし、一般に使用者は様々な画像処理を対話形式で行い、結果を確認する行為を試行錯誤を経ながら繰り返していき、その過程で当初の発想に合うものを選択するほか、当初の発想を修正したり、新たな発想を付け加えたりしながら、最終的に自らの創造的個性に最も適合するものを作成していくものであり、これら一連の過程を総合的に評価する必要がある。
なお、図形処理のプログラムの作成者及び形状データ又はそのデータベースの作成者も、特定のコンピュータ・グラフィックスを作成するために共同して作業し、創作的寄与があった場合はコンピュータ・グラフィックスの共同作成者となると考えられる。しかし、共同性がなく、それぞれ独立して作成され、使用することができる場合は、プログラム作成者等はコンピュータ・グラフィックスの作成者とはならず、システムの使用者の行為のみで判断されることとなると考えられる。 |
(3)既存の著作物の利用に伴う問題について |
写真、美術等の既存の著作物やそれらが組み込まれた画像自動作成システム、データベース等を使用して作成されたコンピュータ・グラフィックスについては、Iの4に述べたように、当該既存の著作物と新たに作成された結果物たるコンピュータ・グラフィックスとの外形における類似性と付加された創作的表現の有無や程度に基づいて、1)複製物又は単なる変形物、2)二次的著作物又は3)新たな著作物と評価される。
例えば、既存の三次元の完全な構成物から二次元の断面図を作成する場合は、断面のとり方は無数に考えられるものの、一つの断面を選択すればその結果は一義的に決定され、断面のとり方の選択のみに創作性を評価することは困難であるため、一般的には複製物又は単なる変形物に過ぎないと考えられる。これに対し、既存の断面図から立体的な絵を作成する場合には、一般に多くの足りない情報を付け加える必要があり、そこに創作性を認める余地があるが、具体的にどの程度になれば創作性が認められるかについては個々の事例に応じて判断せざるを得ないと考えられる。 |
(4)創作的寄与の認められない創作物について |
コンピュータ・グラフィックスの作成過程において、今後、自動化される範囲が一層拡大していくことが予想されるが、コンピュータ・グラフィックスは最終的には人の感性に訴えかけるものであるため、創作的表現と評価されるに足るものを作り出すためには、何を入力するか、また、出力された結果のうち何をどのような形で固定するかなどについて、少なくとも近い将来においては、何らかの人の創作的寄与は必要不可欠であると考えられる。
なお、学術的な分野などにおいて、データを単に図表化するような場合については、データを機械的に入力するだけで図表が自動的に作成されるシステムが既に存在している。現在のところ、このようなシステムを用いて作成された図表は一般に創作的表現と評価することはできないと考えるが、今後の技術の動向等によっては将来の検討課題となると考える。 |
(5)美術の著作物としてのコンピュータ・グラフィックスについて |
コンピュータ・グラフィックスが絵画のように固定した表現形式によるもので美術の範囲に属するものであれば、現行法上美術の著作物に該当する。この場合、著作者には原作品による展示権があるが、コンピュータ・グラフィックスのように元々デジタル情報の形で固定されているものについて、何が原作品であるのか明確でなく、また、展示権の規定自体の見直しが必要ではないかとの指摘がある。この問題は、いわゆるフォトCDのようなデジタル形式で媒体に記録された視覚的な著作物に共通する問題であり、それらの特性に着目して、著作権審議会マルチメディア小委員会において検討されることを期待する。
なお、純粋美術と応用美術の区別については、コンピュータ・グラフィックスに関しても、一般の著作物の場合と同様に考えてよい。その判断は、量産性、実用性や鑑賞の目的の有無等に基づいて行われるものであって、コンピュータ・グラフィックスであるからといって純粋美術としての性格を失うことがないことは当然である。また、コンピュータ・グラフィックスにより作成された創作物が物品に施された場合についての意匠との関係については、意匠法第26条の規定により、意匠権者等は、その登録意匠が出願時に生じた他人の著作権を侵害するときは、業として当該意匠又は類似意匠の実施をすることができないことになっている。 |
(6)映画の著作物としてのコンピュータ・グラフィックスについて |
コンピュータ・グラフィックスが画像が動く形式のものである場合には、現行法上、映画の著作物に該当する。オペレータの操作によって異なった画像が現れるものであっても、ビデオ・ゲームに関する判例で述べられているように、あらかじめ想定された範囲内でのみ変化するものであれば、映画の著作物と認めて差し支えない。
なお、映画の著作物の著作者は、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(著作権法第16条)となっているが、この規定をコンピュータ・グラフィックスの場合についても当てはめても、通常、コンピュータ・システムの使用者が著作者となると考えられる。
もっとも、最近では、環境とキャラクターがあらかじめ設定されているのみで、使用者が自由に組み立てることができるようなものも現われており、これを完成された映画の著作物と認めることは困難な場合もある。コンピュータ・グラフィックスとは、そもそも独立の著作物の形態というより、美術、映画等の各種の著作物を完成させる過程ととらえることもできるが、このようなインタラクティブなもの(双方向性のあるもの)については、今後、マルチメディア小委員会において検討されるべき問題である。 |
2 機械翻訳 |
(1)機械翻訳の態様について |
機械翻訳に関係してくる者としては、機械翻訳システムの使用者の他に原文解析、言語変換、訳文生成などのプログラムの作成者、基本用語、専門用語などの辞書データベースの作成者が考えられる。
機械翻訳の基本的な過程においては、機械翻訳システムの使用者が、原文の前編集を行ったうえでシステムに入力し、その出力結果について更に後編集を行う。プログラムには、一定の学習機能を備えたものもあり、この場合、使用者による後編集の積み重ねは、システムによる訳文生成のための情報として記憶されていく。また、辞書には、個人用辞書もあり、これは使用者が自らの必要に応じて作り上げていくものである。 |
(2)創作的寄与の評価について |
機械翻訳システムにおいては、使用者が特定の原文をその内容及び用途に合った適切な翻訳物を作成するため、通常かなりの程度の前編集及び後編集を行っており、そこに創作意図と創作的寄与があると考えられる。結果物である翻訳物との関係については、後編集の方が直接的であるため、創作的寄与が認められやすいが、翻訳した結果、相手側の言語で理解しやすくなるように、元の文章表現を変えるということは、前編集の中でもあり得ることであり、また、前編集と後編集は相補的関係にあり、前編集をきちんと行うと後編集が楽になるといった関係があるので、前編集から後編集までの全体としての行為で判断する必要があると考えられる。
使用者が個人用辞書を作成したり、学習機能を備えたシステムに特定の翻訳物の作成のためではなく学習データを入力することは、システム自体の改良に対する寄与ではあるとしても、特定の翻訳物作成についての直接的な創作的寄与と評価することは困難である。ただし、そのような行為が使用者の創造的個性の表現を目指して行われ、他の使用者による汎用的な使用に供されることがないときには、当該システムを用いて得られる個別の翻訳物の作成についての使用者の創作的寄与が認められる可能性もあると考えられる。
なお、原文解析等のプログラムの作成者及び汎用的な辞書データベースの作成者は、一般的に翻訳物の作成の精度、正確度等を高めることに寄与することとなるが、特定の翻訳物の作成自体にかかわっているわけではないので、その著作者とはなり得ないと考えられる。 |
(3)既存の著作物の利用に伴う問題について |
翻訳については、常に原著作物が存在するが、結果物が二次的著作物とは認められない単なる翻訳物か又は二次的著作物である翻訳物かを評価するためには、Iの4に述べたところに準じて、結果物における創作的表現の有無に基づいて判断するほかないと考えられる。
一般的に言えば、例えばごく短い技術的な文章について、最も一般的な単語の訳語を単純にあてはめただけであるとみられるような翻訳物については、二次的著作物とは認められない単なる翻訳物と考えてよい。これに対し、原著作物の内容及び用途に合った適切な訳語を多数の訳語の中から選択し、それを組み合わせていると認められる場合には、そこに創作性があり二次的著作物である翻訳物となると考えられる。単に単語の訳語が既存の辞書に依拠しているからといって、創作性が否定されるものではない。 |
(4)創作的寄与の認められない創作物について |
現在の機械翻訳システムにおいては、二次的著作物と評価されるに足る翻訳物を作成するためには、前編集や後編集などの形で一般に何らかの人の創作的寄与が必要であり、特に文芸的な著作物については、コンピュータ・グラフィックスと同様、最終的には人の感性に訴えかけるものであるため、少なくとも近い将来においてこの状況が変わることはないと考えられる。
なお、学術的な分野などでは、例えば外国語の技術的な文章の大意を大ざっぱに把握するために、原文を機械的に入力し得られた結果を、多少の誤りや読みにくさはあってもそのまま利用するといった利用法が考えられる。現在のところ、このような翻訳物は一般に二次的著作物と評価することはできないと考えるが、今後の技術の動向等によっては将来の検討課題となると考えられる。 |
3 コンピュータ作曲 |
(1)コンピュータ作曲の態様について |
コンピュータ作曲に関係してくる者としては、コンピュータ作曲システムの使用者とシステムを構成するプログラムの作成者がいる。 コンピュータ作曲において用いられるシステムは、音楽が有する一定の規則性を分析しプログラム化したものである。一般に使用者は、システムに曲の構成や音階の範囲などの種々のパラメータを与え、システムが一定の規則の範囲内でランダムに作り出した音の配列を選択・修正することにより曲を完成する。
なお、使用者によるシステムへの入力の方法には、パラメータの設定の他に、自作又は既存の一定のメロディーの入力、具体的な音声や楽器音の入力、図形による入力などの方法がある。 |
(2)創作的寄与の評価について |
コンピュータ作曲においては、通常は使用者が一定の発想の下に、システムにパラメータの設定などの方法による入力を行い、システムから得られた音の配列の中から使用者が選択・修正する行為に、創作意図と創作的寄与があると考えられる。
コンピュータ作曲の場合、その結果物は、システムがランダムに発生する音の配列に依存するところが大きいことが指摘されるが、一般に使用者は、システムから得られる多数の結果の中から、自らの発想に合うものを選択するほか、それらを修正したり様々な組合せを工夫したりしながら、最終的に自らの創造的個性に最も適合するものを作成していくものであり、これらの一連の過程を総合的に評価する必要がある。
なお、システムを構成するプログラムの作成者には、コンピュータ・グラフィックス及び機械翻訳の場合と同様、使用者の行為との共同性が認められる場合は別として、一般には、個別の結果物に対する創作的寄与は認められないと考えられる。 |
(3)既存の著作物の利用に伴う問題について |
既存の楽曲等の著作物を入力して、コンピュータ・システムによって処理を施す場合に、結果物が1)複製物又は単なる変形物か、2)編曲などの二次的著作物か、3)新たな著作物かの評価については、Iの4に述べたように、結果物の表現に基づいて判断してよいと考えられる。
例えば、既存の楽曲の全部又は一部をそのまま入力し、○○風(ジャズ、ロック、ラテン等)にアレンジしたものを作成することは、それがありふれた一般的パターンに従って行われるにとどまり何ら創作的表現が付加されていないときは、複製物又は単なる変形物に過ぎないと考えられる。既存のメロディーにありふれた伴奏を付ける場合も同様である。
また、既存の楽曲の一部をサンプリングにより利用して新たな楽曲を創作する場合には、結果物を耳で聴いて既存の楽曲の表現形式上の本質的な特徴が認識できるときは二次的著作物となるが、極めて短い音を断片的に利用している場合などで耳で聴いても既存の楽曲が利用されていることを認識することができないときは新たな著作物となると考えられる。 |
(4)創作的寄与の認められない創作物について |
コンピュータ作曲の過程において、今後、自動化される範囲が一層拡大していくことが予想されるが、コンピュータ作曲は、コンピュータ・グラフィックスと同様、最終的には人の感性に訴えかけるものであるため、創作的表現と評価されるに足るものを作り出すためには、何を入力するか、また、出力された結果のうち何をどのような形で固定するかなどについて、少なくとも近い将来においては、何らかの人の創作的寄与は必要不可欠であると考えられる。 |
4 プログラム自動作成 |
(1)プログラム自動作成の態様について |
プログラム自動作成に関係してくる者としては、自動作成システムの使用者のほかにプログラム設計仕様コンパイラ等変換プログラム(以下、単に「コンパイラ」という。)などの作成者、モジュールを納めたライブラリの作成者などが考えられる。
プログラムの自動作成においては、フローチャート、木構造図及び画面レイアウト等により、使用者が処理内容を図形や記号を用いた設計仕様書で記述し、システムに入力することにより、システムはソース・プログラムさらにはオブジェクト・プログラムに変換していく。さらに、設計仕様書のひな型があらかじめ用意され、使用者はひな型の空欄部分に情報を書き込んだり、マウス等により処理内容の流れを変更して用いる方法がある。
コンパイラによる変換過程においては、あらかじめシステムに組み込まれたライブラリから必要なモジュールが呼び出され、部品として利用される。
使用者は、これらの過程においては、コンパイラによる変換の際に得られる様々なメッセージや実行結果から得られる情報により、ソース・プログラムの修正・改善を行い、最終的な目標である結果を得るためのプログラムを作成していくものである。 |
(2)創作的寄与の評価について |
プログラム自動作成の場合、少なくとも現時点では通常の場合、使用者はある程度のプログラミングに関する知識技能を有しており、作成しようとするプログラムの表現を念頭に置いて、一定の創作意図の下に、システムに入力を行い、さらにシステムからのメッセージや実行結果を得て修正・改善を行っていくなどの創作的寄与を行っているものと考えられる。
しかし、使用者が、設計仕様書等のひな型において単なるデータを入力したり処理内容を選択しただけでは作成するプログラムへの創作的寄与は認められないと考えられる。ただし、このように、ひな型を用いて作成されたプログラムについては、後述のように、このひな型の作成者の権利が働くものと考えられる。
ライブラリの作成者については、その中に含まれているモジュールが、使用者が作成するプログラムに組み込まれる限りにおいて、後述のように、当該モジュールの著作者としての権利が働くことになると考えられる。 |
(3)既存の著作物の利用に伴う問題について |
プログラム自動作成においては多くの場合、必要な既存のモジュールがライブラリから組み込まれるが、完成したプログラムのうち使用者が作成した部分と組み込まれたモジュールの部分は通常分離可能であり、完成したプログラムはいわゆる結合著作物になるといえる。また、ほとんど既存のモジュールの組合せによって構成されるものについては、編集著作物となるケースも考えられる。いずれにしても完成したプログラムの利用については、モジュールの著作者の権利が及ぶことになる。
また、設計仕様書等のひな型を用いてプログラムを作成する場合においては、作成されるプログラムの基本的要素は既にひな型に含まれており、ひな型自身がプログラムの著作物としての要件を備えているものと考えられる。したがって、使用者が単にデータを入力したり処理内容を選択したのみである場合にはひな型が単に複製されたものとなり、また、使用者がひな型を利用しつつ一定の創作的な変更を施した場合にはその二次的著作物となり、いずれの場合にも、作成されたプログラムの利用については、ひな型の著作者の権利が及ぶものと考えられる。
プログラム自動作成システムを用いて作成したプログラムに含まれるこれらのモジュールやひな型の著作者の権利については、当該自動作成システムが汎用的なものとして一般の使用に供されている場合には、当該自動作成システムの使用に伴い通常想定されるモジュールなどの複製等については黙示の許諾がある旨の考えもあるが、契約等において明確化が図られることが望まれる。また、当該自動作成システムの使用許諾契約が終了した場合の取扱いについても同様に契約等による明確化が望まれる。 |
(4)プログラムの著作物の範囲について |
プログラム自動作成の発展に伴い、著作権法上の「プログラムの著作物」の範囲自体が問題となる。このことについては、コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書「コンピュータ・ソフトウェアと法人著作について」に述べているように、プログラム自動作成に用いられる仕様書が、自然言語に近い表現で、しかも、図や表の形で記述されているとしても、そのままシステムに入力すれば、何ら創作行為を加味することなく、自動的に従来のプログラム言語に変換されるとすれば、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現されたもの」に該当し、プログラムの著作物となると考えられる。また、このような仕様書は、同時に言語あるいは図形の著作物という側面を併せ持つ。
また、現在の自動プログラミング用の仕様書の記述に用いられる言語は、従来の高級言語に比べると自然言語に近い表現ができるとはいえ制約も多く、自然言語とは別の一種のプログラミング言語と考えることができるが、技術の進展により、将来、あいまいにならない程度に制限されたものであれば、自然言語で書かれたものであっても電子計算機に対する指令を組み合わせたものといい得る場合があると考えられる。
なお、電子計算機に対する具体的指令の組み合わせの表現と単なるアイデアにとどまる解法(アルゴリズム)をどのように区別するかは、現在においても運用上の困難が指摘されているが、プログラム自動作成の進展に伴いますます重要な課題となると考えられる。このことについては、プログラムの著作物に特有の問題として、今後別途検討が行われることが望ましい。 |
(5)コンパイラによる変換の評価について |
ソース・プログラムからオブジェクト・プログラムへのコンパイラによる変換については、コンパイラによるオプティマイゼイション(最適化)の指定はあり得るとしても、創作行為が介在しているとまではいえないのでオブジェクト・プログラムはソース・プログラムの複製物に過ぎないとの意見が従来の大勢であった(第6小委員会報告書)。
しかし、プログラムの自動作成の進展に伴い、使用するシステムによって得られるオブジェクト・プログラムの表現にかなりの違いが出てくるようになってきている。前述のように、設計仕様書等のひな型を用いて作成されたプログラムについては、ひな型の二次的著作物となる場合が考えられるし、さらに、今後ソース・プログラムにおいて自然言語に近い表現が可能になってくると、どのような場合に単なる複製物となり、または二次的著作物となるかの区別がますます困難かつ重要な課題となると考えられる。このことについても、プログラムの著作物に特有の問題として、今後別途検討が行われることが望ましい。 |
5 データベース自動作成 |
(1)データベース自動作成の態様について |
データベースの作成は、情報の収集・選定・分析・加工・蓄積等一連の過程を通じて行われ、作成過程における自動化としては、情報の収集における自動化、情報の分析・加工段階の自動化が進められ、実用化されるようになってきている。
情報の収集における自動化は、コンピュータのネットワークを利用して発生した情報を自動的に収集し、データベースとして蓄積していくものであり、主として数値系データベースで利用されている。例としては、POSシステムのように小売店の店頭にあるレジスタ機能を併せ持つ端末から売上データがセンターのコンピュータに集まり、これをセンターで集中管理するシステムがある。この場合、店頭のレジスタから入力された情報はすべてセンターのコンピュータに自動的に集められ蓄積されてデータベースの情報を構成することになる。
情報の分析・加工段階における自動化には、キーワード自動抽出があり、主として文章系データベースで利用されている。データベースの情報を検索するためには、キーとして定義されている用語(キーワード)を検索条件として指定する必要がある。このキーワードの抽出・付与等の作業を支援する技術が、キーワード自動抽出であり、入力した文章情報を解析し、所定の基準に達したものをキーワードとして採用し、さらに採用されたキーワードをインデックス用のファイルに登録するまでの過程を自動化したものである。 |
(2)創作的寄与の評価について |
1)データベース作成に係る創作的寄与 |
データベースの著作物とは「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」(著作権法第12条の2第1項)であり、作成過程において、情報の選択又は体系的な構成に創作的寄与を行った者がそのデータベースの著作者である。
具体的には、情報を収集、選定する過程において、一定の収集方針、選定基準を定め、それに従って具体的に個々の情報の採否を決定すること、収集、選定した情報を整理統合するために、データの項目、構造、形式等のフォーマットを作成し、また、分類の体系を決定するなどデータベースの体系の設定を行うこと、設定された体系に従って情報を整理統合するため、キーワードの抽出、付与を含む情報の分析・加工を行うことが、一般に創作的寄与と評価される場合が多いと考えられる。なかでも、データベースの体系の設定を行うことは、データベースの特性を考えると最も重要な創作的寄与が行われる部分であり、実務上はプロデューサがこれを行い、その指示に従って情報の収集・選定や分析・加工が行われることが多い。 |
2)情報の収集における自動化 |
POSシステムのような情報の収集における自動化が図られているデータベースにおいては、あらかじめ、データベースに蓄積する情報の種類について収集方針、選定基準が定められ、それに応じて項目・構造・形式等のフォーマットが設定されており、また、バーコード等によって入力された情報が、センターのコンピュータに送られたときに自動的に体系的な構成に従って蓄積されるようになっている。このような情報蓄積のための基準やフォーマットを設定し、体系的な構成を準備することに、データベース作成についての創作的寄与があると考えられる。
一方、多数の情報を単に機械的に入力することは、いかに労力を要するとしても創作的寄与とはいえず、情報の入力や送信をする小売店等及びその情報をセンターにおいて単に機械的に受信し蓄積する者は、創作的寄与を行っているとは考えられない。
なお、データベースとは具体的な情報の集合体であり、体系的な構成等が準備されただけではデータベースと評価されないのではないかとの疑問があり得る。しかし、このようなデータベースにおいては、あらかじめデータベースに蓄積しようとする情報の種類が選択され、体系的な構成が与えられており、創作的な行為はそこで完了して、あとは情報を機械的に入力するのみとなっている。したがって、データベースの著作物として完成されるのは、具体的な情報が入力された時点であるとしても、その著作者は、あらかじめ、体系的な構成等を準備した者であると認めて差し支えないと考える。 |
3)キーワードの自動抽出 |
キーワードの自動抽出においては、文章情報を機械的に入力することにより、一定の基準に適合するキーワードが自動的に抽出、付与されるが、少なくとも現段階においては、主題にかかわりのない語が抽出されたりする一方、文章中に出てこない言葉は抽出されないこともあるので、その後でインデクサ(索引者)がキーワードの点検、修正、追加を行うこともある。その場合、インデクサの行為にも、機械翻訳の後編集と同様に創作的な寄与が認められると考えられる。
ただし、キーワードの抽出は重要な行為ではあるが、データベース作成のための一連の過程の一つであるにとどまり、前述のように、データベースの体系の設定を行うプロデューサの指示によって実務上の作業が行われることが多いものである。したがって例えば将来キーワードの抽出が完全に自動化された場合であっても、体系の設定等における創作的寄与がある限り、そのことのみによって、データベースの著作物性が否定されるものではない。
なお、汎用的なキーワードの自動抽出ソフトの作成者は、特定のデータベースの作成自体にかかわっている訳ではなく、作成のための道具を提供しているに過ぎないと考えられるので、当該ソフトを用いて作成されたデータベースの著作者となり得ないと考えられる。 |
(3)既存のデータベースの利用に伴う問題について |
既存のデータベースを検索して情報を端末機等に蓄積し、加工等をして新たなデータベースを作成して利用することがあり得る。この個々の情報が著作物であれば、個々の情報の著作者の複製権が働くことは当然である。また、データベース自体の著作者の複製権についても、一般に著作物としての価値をもち得るような形で、情報をある程度のまとまりで複製することについては権利が及ぶと考えられるが、具体的な判断については困難な場合もあると考えられる。
この問題は、データベースの自動作成の場合に限らず、データベース一般について、データベース自体の権利がどういった利用に対して働くか、また、働くものとすべきかという観点から、別途適切な場において検討されることが望ましい。 |
(4)ディストリビュータの保護について |
データベースの著作物性は、情報の選択又は体系的な構成における創作性によって認められるものであり、現行法上、データベースを公衆に提供する者については、独自の権利は認められていない。しかし、実際上データベースの価値については、いかに大量の情報や新しい情報など価値のある情報を収集しているか、また、それらをいかに公衆に提供しているか(データを検索するためのシステムなどを含む)が重要な判断の要素となっており、そのためにディストリビュータが果たしている役割を著作権法上何らかの形で評価すべきかどうかが問題となる。
昭和60年9月の著作権審議会第7小委員会の報告においては、データベース・ディストリビュータを著作物の伝達者として著作隣接権制度により保護することについて「今後における実態の推移を見て、著作隣接権制度全体とかかわる問題として、広範な検討を要する課題である」と指摘しているが、放送事業者及び有線放送事業者の著作隣接権による保護とのバランスの観点からも、送信事業者の保護が課題と考えられることから、この問題については、別途適切な場において検討されることが望ましい。 |
著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)審議経過 |
(昭和60年12月20日著作権審議会第50回総会で第9小委員会の設置を決定)
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第1回会議 昭和61年3月29日 今後の審議の進め方について |
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第2回会議 6月5日 コンピュータ・グラフィックスの実態について |
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第3回会議 8月8日 CAD/CAMの実態について |
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第4回会議 9月30日 自動翻訳の実態について |
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第5回会議 11月4日 ソフトウェア自動作成の実態について |
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第6回会議 12月17日 コンピュータ作曲の実態について |
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第7回会議 昭和62年2月13日 データベース作成支援の実態について |
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第8回会議 3月26日 コンピュータ創作物の実態について(ワーキング・グループの設置を決定) |
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ワーキング・グループ 第1回会議 6月25日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第2回会議 8月25日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第3回会議 11月25日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第4回会議 昭和63年2月2日 ニューロコンピュータについて、コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第5回会議 4月7日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第6回会議 7月4日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第9回会議 10月3日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について |
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第10回会議 平成元年2月2日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ創作物の著作物性、著作者について) |
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第11回会議 4月14日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ創作物の著作物性、著作者について) |
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第12回会議 6月19日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ創作物の著作物性、著作者について) |
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第13回会議 8月18日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ創作物の著作物性、著作者について) |
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第14回会議 10月23日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ創作物の著作者について) |
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第15回会議 平成2年2月15日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ創作物の著作者について) |
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第16回会議 4月13日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ・グラフィックスについて) |
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第17回会議 7月26日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ・グラフィックスについて) |
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第18回会議 11月21日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ・グラフィックスについて) |
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第19回会議 平成3年1月21日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(検討事項例)について(コンピュータ・グラフィックスについて) |
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第20回会議 4月19日 コンピュータ創作物(自動翻訳)に関する著作権問題について |
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第21回会議 6月17日 コンピュータ創作物(自動翻訳)に関する著作権問題について |
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第22回会議 8月6日 コンピュータ創作物(自動翻訳)に関する著作権問題について |
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第23回会議 10月29日 ベルヌ条約議定書について、コンピュータ創作物(コンピュータ作曲)に関する著作権問題について |
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第24回会議 平成4年1月13日 ベルヌ条約議定書について、コンピュータ創作物(コンピュータ作曲)に関する著作権問題について |
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第25回会議 3月5日 ベルヌ条約議定書について、コンピュータ創作物(プログラム自動作成)に関する著作権問題について |
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第26回会議 4月17日 コンピュータ創作物(プログラム自動作成)に関する著作権問題について |
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第27回会議 6月12日 コンピュータ創作物(データベース自動作成)に関する著作権問題について |
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第28回会議 11月6日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(骨子案)について |
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第29回会議 平成5年1月25日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(骨子案)について(コンピュータ・グラフィックス、自動翻訳) |
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第30回会議 3月9日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(骨子案)について(コンピュータ作曲、プログラム自動作成) |
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第31回会議 4月21日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(骨子案)について(データベース自動作成) |
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第32回会議 5月31日 コンピュータ創作物に関する著作権問題(骨子案)について |
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第33回会議 8月27日 第9小委員会報告書(案)について |
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第34回会議 10月12日 第9小委員会報告書(案)について |