コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する
     調査研究協力者会議報告書

     ─既存プログラムの調査・解析等について─
    平成6年5月 文化庁

    目 次
    はじめに
    第1章既存プログラムの調査・解析について
    1 問題の所在
    2 国際的動向
    3 既存プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案に関する権利制限についての考え方
    4 結論
    第2章プログラムに係る著作権の権利制限規定について
    1 私的使用のための複製
    2 権利制限規定の性格
    第3章コピー・プロテクション解除装置の規制
    1 問題の所在
    2 国際的動向
    3 コピー・プロテクション解除装置の規制についての考え方
    4 結論
    (資料)各国著作権法における関係規定等
     ○コンピュータ・プログラムの法的保護に関する1991年5月14日の理事会指令
     ○イギリス著作権法
     ○ドイツ著作権法
     ○フランス知的所有権法
     ○スイス著作権法
     ○アメリカ合衆国著作権法
     ○プログラムの調査・解析に関するアメリカ合衆国の判決
     ○オーストラリア著作権法
     ○オーストラリア著作権法検討委員会報告案
     ○ガット・ウルグアイ・ラウンドTRIPS協定
     ○WIPOベルヌ条約議定書専門家委員会事務局メモ
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議について

     1 調査研究協力者名簿
     2 検討の経過



    はじめに
    1コンピュータ・プログラム(以下「プログラム」という。)が著作物として保護されることについては、我が国においては昭和60年の著作権法改正によりつとに明確化されているところである。国際的にも、ほとんどの主要国において立法化されているのみならず、本年4月に確定されたガット・ウルグアイ・ラウンドのTRIP(Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights;知的所有権の貿易関連側面)協定においても、プログラムを文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)上の言語の著作物(リテラリー・ワーク)として保護することが規定されており、この点については既に国際的に確立されていると言える。(注1)
    2しかしながら、コンピュータのハード、ソフトの両面における普及及び技術の発展等に伴い、プログラムの著作権保護に関しては、次の点を含め、なお様々な課題が指摘されている。
    1)プログラムの調査・解析の過程における当該プログラムの複製又は翻案と著作権者の複製権又は翻案権との関係の明確化
    2)私的使用のための複製に係る権利制限規定のプログラムへの適用の当否及び各種権利制限規定と契約との関係
    3)コピー・プロテクション解除装置の製造、販売等に関する規制を著作権法上設けることの当否
    3国際的にも、2に掲げる事項については、EU(欧州連合、ただし当時はEC(欧州共同体))において1991年5月に採択された「コンピュータ・プログラムの法的保護に関する1991年5月14日の理事会ディレクティブ(以下「ECディレクティブ」という。)」(注2)で取り扱われ、加盟国におけるプログラムの保護の調和が図られており、現在各加盟国において具体的な立法作業が進められている。また、WIPO(World Intellectual Property Organization;世界知的所有権機関)においてはベルヌ条約議定書の検討が1991年から進められているが、その中でも、2に掲げる事項を含むプログラムの法的保護についての国際的なハーモナイゼーションは重要な検討項目の一つとなっている。
    4そこで、本協力者会議では、2の1)~3)の課題についてプログラムの利用実態やその技術的状況及びプログラムの法的保護に関する国際的動向に留意しつつ、平成5年7月以来12回にわたる審議を行い、このたびその結果をとりまとめたので、ここに公表する。
    (注1)本協力者会議における既存プログラムの調査・解析に関する検討に関連して外国の関係者の一部から提出された意見の中に、現行著作権法の解釈について誤った理解がされているものがあったので、その点についてはこの際明確にしておく必要があると考える。すなわち、我が国におけるプログラムの著作権保護は欧米に比べて水準が低く、その根拠は1)プログラムが言語の著作物(リテラリー・ワーク)として保護されていないこと及び2)言語、規約及び解法が保護の対象から除外されていることであるという意見である。

    しかし、我が国において、プログラムの著作物は著作権法により適切な保護が与えられており、その内容は欧米諸国の著作権法と基本的に同じである。

    すなわち、我が国著作権法における著作物の例示(著作権法第10条第1項第9号)においてプログラムを他の言語の著作物と分けているのは単に分類上の用語の問題であって、プログラムの保護の内容は、基本的に他の言語の著作物と全く同じであり、ベルヌ条約上の広い意味でのリテラリー・ワークとして保護が与えられているものである。なお、リテラリー・ワークであっても、その特質に応じた特別規定を設け得ることは国際的に承認されており、現に、米国著作権法第117条及びECディレクティブ等においてもプログラムに関する特別規定が設けられているところである。

    また、プログラムの著作権保護が言語、規約及び解法に及ばないと規定している(著作権法第10条第3項)ことは、著作権は表現を保護しアイデアを保護するものではないという基本原則をプログラムについて確認的に規定しているものと解されている。この基本原則は、国際的にも承認されている。ECディレクティブ第1条第2項においては、プログラムについて、あらゆる要素の基礎となるアイデア及び原則はそのインタフェースの基礎となるアイデア及び原則をも含め、著作権により保護されないと規定している。また、米国では著作物全般について著作権法第102条(b)に、著作権の保護は着想、手順、工程、方式、操作方法、概念、原理又は発見には及ばないとの規定があり、さらに、判例上もマージ理論(あるアイデアの表現の仕方が1つしか存在しない場合、そのアイデアと表現とは混同し、当該表現には著作権保護が及ばないという原則)が認められている。TRIP協定第9条第2項でも、著作権の保護は表現に及ぶものであり、アイデア、手続き、操作方法又は数学的概念には及ばないと規定している。

    (注2)理事会ディレクティブ(Council Directive)は、そこで述べられる達成すべき結果について、各EU加盟国を拘束するものである(その形式及び方法については各国に委ねられる)。
    「コンピュータ・プログラムの法的保護に関する1991年5月14日の理事会ディレクティブ」は、1988年6月EC委員会が提示した「ECグリーンペーパー:著作権と技術をめぐる諸問題」を基に検討が進められてきたもので、EC委員会、欧州議会での審議を経て、1991年5月14日に閣僚理事会で決定された。


    第1章 既存プログラムの調査・解析について
    1 問題の所在
    (1)調査・解析の意義
    既存のプログラムについて、次の(2)及び(3)に掲げる目的及び手法により、その内容、アイデア等を抽出するための調査・解析が行われることがある。以下では、このような調査・解析に関する著作権法上の問題について検討する。

    なお、一般に工業製品について「リバース・エンジニアリング」という用語があり、プログラムについてもこの用語が用いられることがある。しかし、リバース・エンジニアリングという用語の定義は必ずしも確立されておらず、既存の製品を調査・解析してその構造や製造方法などの技術を探知するとともに、その結果を利用して新しい製品を開発することまで指して用いられることもあるので、ここでは検討対象となる行為を明確にするため、「調査・解析」との用語を用いることとする。

    したがって、以下に検討するのはあくまでも調査・解析自体に伴う著作権法上の問題であり、調査・解析の結果を利用して新たなプログラムを作成し頒布することは含まない。新たなプログラムの表現が既存のプログラムの表現の複製又は翻案に当たるときは、権利者の許諾がない限り、著作権侵害となることは当然であり、この点については改めて検討するまでもないと考えられる。また、調査・解析の結果を利用して新たに作成されたプログラムが既存プログラムの著作権を侵害しているとされるのはどのような場合か、すなわち、利用されたものが既存プログラムの表現であるか又はアイデアであるかの判断の在り方についても、調査・解析自体の問題とは別個の問題であることから、ここでの検討の対象とはならない。さらに、プログラムの調査・解析については、独占禁止法や不正競争防止法等の観点からの問題も考えられるが、これは著作権上の問題とは別個の問題であり、今回の検討の対象ではない。

    (2)調査・解析の主な目的
    プログラムの調査・解析の主な目的は次のとおりである。
    1)著作権侵害の調査、発見
    あるプログラムが別のプログラムの著作権を侵害していないかどうかを調査すること。
    2)プログラムの保守(バグの発見、修正)
    プログラムに不都合な動作が見られた場合、その原因を調べたり、不都合な部分を改善すること。
    3)プログラムの改良、移植
    プログラムの機能追加や、あるコンピュータ・システム上で稼働しないプログラムを稼働するように修正すること。
    4)プログラムの性能、機能の調査
    プログラムの性能がどの程度のものであるか、どのような機能が備えられているかを調査すること。
    5)互換プログラムの開発
    コンピュータ・システムの構成要素としてのあるプログラムと交換しても同種の機能を果たすことができるようなプログラムを開発すること。
    6)接続プログラムの開発
    あるプログラムと直接又は回線を介してデータをやりとりできるようなプログラムを開発すること。
    7)記憶媒体による情報交換
    あるコンピュータ・システム(又はプログラム)によってデータを書き込んだ記憶媒体について、別のコンピュータ・システム(又はプログラム)によっても利用できるようにすること(データの相互利用)。
    8)コンバータの開発
    あるコンピュータ・システムにおいて使用していたデータやソース・プログラムを別のコンピュータ・システムにおいて使用できるように変換するためのコンバータ(プログラム)を開発すること。

    (3)調査・解析の主な手法
    プログラムの調査・解析の主な手法は次の通りであるが、その目的に応じ、幾つかの手法を組み合わせて実施される場合がある。
    1)マニュアルの調査
    マニュアルからプログラムについての情報を抽出する。
    2)テストラン
    入力に対するプログラムの反応を調査する。
    3)接続テスト
    相互接続のために作られたプログラムを実際に接続対象のプログラム等に接続し、正常に動作するか否かを確認する。
    4)回線トレース
    調査対象のプログラムに通信回線を介して様々なメッセージを送信し、それに対する応答のメッセージを(送信メッセージを含め)採取し、採取したメッセージを時系列的に印刷し、通信プロトコル等を調査する。
    5)記憶媒体のダンプ
    記憶媒体に記録されたデータや制御情報をプリンタ等に出力し、記録形式を調査する。
    6)メモリダンプ
    主記憶装置(メインメモリ)上に記録されたプログラム(オブジェクト・プログラム)やデータの一部を印刷したり、ディスプレイ画面に表示し、調査する。
    7)逆アセンブル、逆コンパイル
    調査対象のオブジェクト・プログラムを、アセンブラ言語やコンパイラ言語の形式でのソース・プログラムに近い状況に変換し、調査する。
    8)ソース・プログラムの調査
    調査対象プログラムのソース・プログラムを分析し、調査する。

    (4)著作権法上の問題
    既存プログラムの調査・解析が著作権法上問題となり得るのは、調査・解析の過程で複製又は翻案行為が存在する場合である。ところで、プログラムの実行に伴うコンピュータの内部記憶装置への蓄積については、瞬間的かつ過渡的のものであって、著作権法上の複製には該当しないとの解釈が一般的である(著作権審議会第2小委員会報告書、同第6小委員会中間報告書)。また、仮にそれが複製に該当するという立場に立ったとしても、プログラムの複製物の所有者によるその利用に伴う複製は著作権法第47条の2第1項により許容されることとなる。したがって、著作権法上問題となるのは、調査・解析の過程においてプログラムの実行に必要な限度を超えた複製又は翻案行為が存在する場合である。

    このことを前提とすると、1(3)に掲げる既存プログラムの調査・解析の手法のうち、1)~5)については、一般に著作権法上問題となるような複製又は翻案行為は存在しないが、6)~8)については、既存プログラムの磁気ディスク等への固定又はプリントアウトなどの著作権法上問題となり得る複製又は翻案行為が存在する場合があると考えられる。

    2 国際的動向
    著作権は国際的に調和のとれた保護が図られることが望ましく、したがって、既存プログラムの調査・解析に関する問題の検討に当たっても国際的な動向に留意する必要がある。既存プログラムの調査・解析については、諸外国及び国際機関において検討あるいは法制度の整備が行われている。その主なものは以下のとおりである。

    (1)諸外国の例
    ア.EU(欧州連合)
    ECディレクティブにおいては、以下のような規定が置かれている。
    1)プログラムの要素の基礎になるアイデア及び原則を決定するために、ロード、ディスプレイ、ラン、トランスミット、ストアを実行中にプログラムの機能を観察、研究又は検査することができる(第5条第3項)。
    2)独立して創作されるプログラムと他のプログラムとのインタオペラビリティ(相互運用性)を達成するために必要な情報を得るために必要不可欠なときは、コードの複製及びその形式の翻訳をすることができる。ただし、次のような条件が充たされている場合に限る(第6条)。
    (a)プログラムの複製物を使用する権利を有する者等によって行われること。
    (b)インタオペラビリティを達成するために必要な情報があらかじめ利用可能でないこと。
    (c)インタオペラビリティの達成に必要なオリジナル・プログラムの一部の範囲に限られること。
    (d)獲得された情報は、インタオペラビリティ達成以外の目的に使用したり、他の者に提供したり、著作権侵害行為のために使用してはならないこと。
    EU加盟国は1993年1月1日までに、このディレクティブに反する法律、規則及び行政規定を改正し、その効力を発生させなければならないこととなっている。このため、イギリスにおいては1992年、ドイツにおいては1993年に著作権法を改正し、既存プログラムの調査・解析についてECディレクティブに従って規定を整備したところである。フランスにおいても同様の規定を整備するため、知的所有権法改正案を議会に提出している。

    なお、ECディレクティブの解釈及び運用の実態については、まだディレクティブの採択から日が浅いため加盟国における法改正も完了しておらず、具体的な適用例や判例も報告されていないので、詳細は明らかになっていない。また、法改正済みの国においても具体的な規定の詳細な表現振りが各国ごとに若干異なっている。さらに、特に重要な概念である「インタオペラビリティ(相互運用性)」について、EC委員会担当者は、その正確な範囲は裁判所の解釈によって検討されなければならないと述べており、逆コンパイルによって競合プログラムを作成することが許されるかどうかについても、その考え方を示しているが、具体的なケースにおける適用のされ方は必ずしも明らかでないと考えられる。(注)

    (注)「インタオペラビリティ(相互運用性)」は、近年、オープン・システム化の条件として考えられている概念であり、接続性(connectibility)、可搬性(portability)及び操作の一貫性という3つの要素の一つ又はその組み合わせを指す等として理解されているが、ECディレクティブの前文では、「情報を交換し、また、交換された情報を相互に利用することのできることである」と定義している。

    また、EC委員会から欧州議会に宛てたコモン・ポジション(内容は、最終的に採択されたディレクティブと同じ)についての説明文書においては、「逆コンパイルは、独立に創作されるコンピュータ・プログラムのインタオペラビリティを確保するために必要な限度で、第6条によって許容される。このようなプログラムは逆コンパイルされたプログラムに接続されるかもしれない。あるいはこのようなプログラムは逆コンパイルされたプログラムと競合するかもしれず、その場合には通常逆コンパイルされたプログラムとは接続しないであろう。しかしながら、第6条は、独立に創作されたプログラムのインタオペラビリティを達成するために必要な限度を越えて逆コンパイルを許容するものではない。」とある(”Communication from the Commission to the European parliament”18 Jan. 1991)。

    さらに、EC委員会の担当者が執筆した解説書によれば、「「インタオペラビリティ」の前文における定義の正確な範囲は、裁判所の解釈によって検討されなければならない。また、第6条の規定の他の部分から隔離してインタオペラビリティの意味を考えることはできない。」、「独立に創作されるプログラムは、逆コンパイルされたプログラムとであっても又はシステムにおける他のものとであっても、相互運用(interoperate)してもよい。」とある。また、「第6条は競合製品を創作する目的で用いられてもよい」という見解も「第6条は逆コンパイルによる競合製品の開発を禁止している」という見解も「共に誤りである」として、「第6条の適用によって、すなわち他のプログラムの逆コンパイルにより開発されたプログラムは、インタオペラビリティを達成するという目的のために逆コンパイルが行われたという条件を満たす限りにおいて、逆コンパイルされたプログラムと競合することができる。情報を得るためのプログラムと相互運用することを何ら要求されないような競合製品を作るための逆コンパイルは許されないということを、このことは意味する。」としている(“Legal Protection of Computer Programs in Europe”Bridget Czarnota, Robert J. Hart)。

    イ.アメリカ合衆国
    (ア)アメリカ合衆国著作権法においては、プログラムの調査・解析に関する直接的な規定は存在しないが、一般的な規定として著作権者の複製権等の排他的権利にかかわらず、著作物の公正使用(フェア・ユース)は著作権侵害とならない、とされている(同法第107条)。どのような使用が公正使用に当たるかについては、1)使用の目的及び性格、2)著作物の性質、3)使用された部分の量及び実質性、4)著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響といった要素を考慮してケースバイケースで判断されるものである。
    (イ)近時、プログラムの調査・解析が公正使用に該当するという趣旨の判決が出されている。以下はその概要である。
    (i)アタリ対ニンテンドー事件(1992年9月10日 連邦巡回区控訴裁判所判決)
    プログラムのリバース・エンジニアリングがフェア・ユースに当たるかどうかについて、以下のように判断した。

    著作権法上、著作物からアイデア、プロセス、操作方法を得ることは自由である。同法は、ある著作物の複製物の合法的所有者がその著作物のアイデア等を理解するために必要な努力をすることを許すものである。米国著作権法は、その趣旨から第107条においてフェア・ユースを規定し、批評、注釈、研究等のための複製について著作権を制限している。

    リバース・エンジニアリングについて、ある複製が同条に規定するフェア・ユースに当たるかどうかを決定する場合、著作物の性質を吟味する必要があり、アイデアやプロセスを理解するために中間的複製行為が要求される場合にはその行為をフェア・ユースとする。したがって、コンピュータ・プログラム中の保護されないアイデアを認識するためにオブジェクト・コードをリバース・エンジニアリングすることはフェア・ユースである。

    ただし、許される複製の範囲は、著作物の保護されない要素を理解するのに必要な限度に限られ、また、複製の主体は著作物の複製物の正当な所持人でなければならない。
    なお、本件では、アタリは複製物の正当な所持人ではないのでフェア・ユースの有資格者ではない。
    (ii)セガ対アコレイド事件(1992年10月20日 第9巡回区控訴裁判所判決)
    逆アセンブル行為は複製行為に当たり、米国著作権法第117条の許容範囲を越えているとしながら、同法第107条(フェア・ユース)の適用により、本件逆アセンブル行為は許されるとした。

    具体的には、同法第107条の規定する以下の4つの判断要素に照らして判断した。

    1)使用の目的及び性格
    複製行為が商業目的であることは被告(アコレイド)に不利である。しかし、被告の最終目的は互換ゲームの販売であったが、複製の直接の目的は互換の機能要件を研究することであった。
    2)著作物の性質
    インタフェースは、オブジェクト・コードの形でのみ公衆に頒布されており、ビデオゲーム・プログラムの操作中は、見ることができない。オブジェクト・コードは逆コンパイルしなければ肉眼では見ることができず、逆アセンブルには、必然的に複製行為を伴う。
    3)著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質性
    被告がプログラムの全部を逆アセンブルしたことは被告に不利であるが、著作物全体が複製された事実はフェア・ユースの認定を排除しない。
    4)著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響
    ゲーム・ユーザーは一般に2つ以上のゲームを購入することから、原告はわずかに経済的損失を被るにせよ、重大な影響を被るとはいえない。他社に競争を不可能にさせることで市場を独占することは、創作的表現を促進する制定法の目的に反するものである。

    (ウ)(イ)の判決は特定の事実関係に基づくものであり、この問題についての判決はいまだ数少ないことから、米国法の下におけるプログラムの調査・解析に関する一般的な考え方を現時点で導き出すことは困難であるが、少なくとも特定の場合にはプログラムの調査・解析が公正使用に該当し得ると考えられる。(注)


    (注)本協力者会議のヒアリングにおける米国特許商標庁のChristopher A. Meyer氏の見解によれば、次のとおりである。

    米国の著作権法は、プログラムのリバース・エンジニアリングを一般的には禁止している。プログラムのリバース・エンジニアリングが「公正使用」であるという場合にのみ、それが合法とみなされる。直接的に競合する製品の製造を目的としたプログラムのリバース・エンジニアリングは、どのような場合にも決して「公正使用」には当たらない。

    公正に見て最大限に言えることは、プログラムとハードウェアの、ときにはプログラム間の互換性(compatibility)がリバース・エンジニアリングによってのみ確保されるという極めて稀に見られる場合に限って、また、市場において著作権者の製品を代替(substitute for)しない互換製品(a compatible product)を製造するために、逆コンパイルがなされる場合、それは「公正使用」とみなされ得るということである。

    ウ.スイス
    1992年10月に全面改正された著作権法には、プログラムを使用する権利を有する者は、プログラムのコードを解析することによって、独立して開発されるプログラムとのインタフェースに必要な情報を獲得することができるとの規定がある(スイス著作権法第21条第1項)。

    エ.オーストラリア
    オーストラリアにおいては、1988年から著作権法検討委員会においてプログラムの著作権保護について検討を開始し、1993年6月に報告案を公表した。

    それによれば、現在プログラムにも適用されている公正使用(フェア・ディーリング)の権利制限に加え、ECディレクティブとほぼ同じ条件を充たす場合及びエラーを修正するために必要な場合には逆コンパイルは許容されるべきであると勧告している。

    なお、同委員会は、報告案に対する各方面の意見を踏まえなお検討中であり、まだ最終報告には至っていない。

    (2)国際的な場における検討
    ア.ガット・ウルグアイ・ラウンド
    ガット・ウルグアイ・ラウンドにおけるTRIP協定においては、プログラムがベルヌ条約上の言語の著作物(リテラリー・ワーク)として保護されることが規定されているが(同協定第10条第1項)、既存プログラムの調査・解析についての規定はない。
    イ.WIPO
    WIPOにおいては1991年からベルヌ条約議定書作成のための専門家委員会が開かれており、プログラムの保護も検討項目の一つとなっている。同委員会におけるWIPO事務局作成の文書においては、独立して創作する他のプログラムと原プログラムとのインタオペラビリティを達成するために必要な情報を得るためなどの一定の条件で逆コンパイルを認めるとの提案がある。しかし、この点については、各国で意見が異なっているところであり、結論はまとまっていない。

    3 既存プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案に関する
      権利制限についての考え方
    (1)既存プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案に関する権利制限規定を設けるべきかどうかについては、以下のような様々な意見があった。
    1)調査・解析一般について、それに伴う複製又は翻案に関する権利制限規定を設けるべきであり、調査・解析の目的は特定すべきでないとの意見
    その理由としては次のようなものが挙げられている。
    (a)著作権法は、表現を保護するが、その表現の背後にあるアイデアを保護するものではない。著作権法上、公表された著作物の表現を介して著作者のアイデアを知りかつ利用することは禁止されておらず、著作権を、アイデアへのアクセスを妨げるための手段とすることは妥当ではない。

    プログラムの調査・解析は、プログラムの表現を介してそのアイデアを知覚するための手段であるから、著作権法上合法的な行為として捉えられるべきである。仮にプログラムの調査・解析の過程で複製又は翻案があったとしても、その事実をもって直ちに著作権侵害であるとするのは、プログラムの背後にあるアイデアへのアクセスを禁じてしまうこととなり、適当でない。
    (b)ハードウェアに対する調査・解析は、社会全体の技術の発展に不可欠であることから、特許法及び半導体集積回路の回路配置に関する法律(注)によっても許容されており、同様の技術的性格を有するプログラムを区別する理由はない。

    (注)特許法第69条第1項
    「特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。」
    半導体集積回路の回路配置に関する法律第12条第2項
    「回路配置利用権の効力は、解析又は評価のために登録回路配置を用いて半導体集積回路を製造する行為には、及ばない。」
    2)調査・解析に伴う複製又は翻案に関する権利制限規定を設けるべきであるが、特定の目的(調査・解析対象プログラムと市場において競合するプログラムの開発、その表現が実質的に類似するプログラム(海賊版プログラム)の開発等)の場合には許されないとすべきであるとの意見
    その理由は次のとおりである。
    (a)プログラム中の技術思想の解読を可能とし産業・文化の発展を促すという要請と先行的な技術開発のインセンティブを守るという要請との調整を図る必要がある。
    (b)市場において調査・解析対象プログラムと競合関係に立つプログラムの開発を目的とする調査・解析を許すことは先行的な技術開発のインセンティブを減退させるおそれがあるので、その場合には許諾が必要であるとすべきである。
    (c)調査・解析対象プログラムと表現が実質的に類似するプログラム(海賊版プログラム)の開発を目的とする場合には、本来許容されるべき正当な目的とはならないので、このための調査・解析に伴う複製又は翻案は許されないとすべきである(なお、先行的な技術開発の保護のためには、この目的による調査・解析に伴う複製又は翻案のみを許容されないものとすればよく、海賊版プログラム以外の競合するプログラムの開発を目的とする場合は許容してもよいとの意見もあった)。
    (d)その他の場合、すなわちバグの修正、接続プログラムの開発、純粋な学問的研究等を目的とする場合には、調査・解析対象プログラムに対し市場における不利な影響を与えるものではなく、商品開発のインセンティブを減退させる結果にはならない。これらの場合には権利は制限されるべきである。
    3)調査・解析に伴う複製又は翻案に関する権利制限規定を設けるべきであるが、許容される調査・解析は特定の目的(インタオペラビリティ、相互接続性(注)等の達成、エラー修正など)のためのものに限定すべきであるとの意見
    この意見の中には、許容される特定の目的をどの範囲とするかについて考え方に幅がある。理由としては次のようなものが挙げられている。
    (a)新たな創作活動へのインセンティブを与えるという著作権法の基本的な目的に照らし、権利の制限は社会的要請により合理性があると認められる必要最小限の範囲にとどめるべきである。
    (b)コンピュータ産業の実態としてプログラムの動作する環境についての事実上の標準が存在しており、ユーザーの便宜を考えると、新製品の開発においてはこのような環境下で相互に運用できるインタオペラビリティを達成するために規約を合致させなければならないという要請がある。そのためには既存プログラムの調査・解析によりインタフェース仕様を抽出する必要があり、これを認めないとコンピュータ市場における公正な競争及び技術の発展を阻害するおそれがある。
    (c)インタオペラビリティの達成以外にも、プログラムのエラー修正、著作権侵害の発見などは正当な目的として許容されるべきである。

    (注)「相互接続性」とは、一般に互いに情報をやりとりできるということであり、相互運用性(インタオペラビリティ)の要素の一つである。情報のやりとりの方法としては、動的なやりとり(通信回線を介したデータの受け渡し、アプリケーション・プログラムとOSとの間のデータの受け渡しなど)と静的なやりとり(データ・ファイルを介したデータの受け渡し)とがあると考えられる。
    4)調査・解析に伴う複製又は翻案を認める必要はなく、権利制限規定は設けるべきではないとの意見
    その理由は次のとおりである。
    (a)著作権法上著作権者は著作物のいかなる複製又は翻案についても排他的権利を専有することが原則であり、プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案について特別に取り扱う必要はない。
    (b)調査・解析(特に逆コンパイル)に伴う複製又は翻案を許すと、既存プログラムの連続的な変更による海賊行為に利用されることとなる。
    (c)調査・解析は、プログラムの創作に必要な費用及び時間を回避し対象プログラムの著作権者に対する商業的優位を得るために用いられるものであるから、それに伴う複製又は翻案を許容すると、著作物の通常の利用を妨げ、著作者の正当な利益を不当に害することとなる。
    (2)既存プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案に関する権利制限規定を設けるべきかどうかについての(1)の1)~4)の各意見の論拠を掲げ議論を整理すると次のとおりであった。
    著作権法は表現を保護しアイデアは保護しないという原則とアイデアを抽出するための調査・解析との関係
    この点について1)の意見では、「公表された著作物の表現を介してアイデアを知りかつ利用することは禁止されていないことから、アイデアを知覚するための手段である調査・解析の過程においてたとえ複製又は翻案があったとしても、これを著作権侵害とするとプログラムの背後にあるアイデアへのアクセスを禁じてしまうこととなるので適当でない。」とする。2)及び3)の意見においても、「アイデアへのアクセスは一定の範囲で認められるべきである。」とされる。

    これに対し4)の立場からは、「著作権者は著作物の表現のいかなる複製又は翻案についても排他的権利を専有することが原則であり、プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案について特別に取り扱う必要はない。」、「著作権法は特許法と違ってアイデアの開示を保護の条件としておらず、むしろ著作者は著作物を公表するかしないか、どのような形態で公表するかを決定することができる公表権を有しているから、著作物の利用者に、著作物に含まれるアイデアを知るためにアクセスする権利を与える必要はない。」とする。

    しかし、この4)の意見に対しては4)以外の立場から、「プログラムの調査・解析は、それがオブジェクト・プログラム形式ですでに公表されているから調査・解析が可能なのであり、調査・解析を認めることは著作者に著作物の公表を強制することではない。」( 3)の意見)、「アイデアが営業秘密又は特許の要件に該当すれば、これらによって保護され得るものであり、アイデアの保護はこれらに委ねるべきである。」( 1)の意見)などの反論がある。

    いずれにせよ、著作権は表現を保護し、アイデアは保護しないという原則については異論はなく、問題は、アイデア抽出のための調査・解析に伴う著作物の表現の複製又は翻案を認める合理的な実際上の必要性があるかどうか及びこれを認めることの著作権者に与える影響をどう評価するかであると考えられる。

    アイデア抽出のための調査・解析に伴う複製又は翻案を認める合理的な実際上の必要性があるかどうか
    この点について4)以外の意見では、考え方に幅はあるが少なくとも一定の範囲で調査・解析に伴う複製又は翻案を許容すべき合理的な実際上の必要性があるとしている。具体的には3)の立場から、インタオペラビリティの確保、エラー修正又は著作権侵害の発見などの目的による調査・解析の実際上の必要性が指摘されている。

    これに対し4)の立場からは、「インタオペラビリティの達成のために必要な情報は、マニュアル等の資料を読んだり、稼働中のプログラムを観察するなどプログラムの複製又は翻案を伴わない方法によって取得することができる。さらに、そのような情報は、権利者から任意のライセンスにより開示を受けることにより、プログラムの開発者から十分に入手可能であり、それは市場機構の機能によって効率的に保障される。これは、インタオペラビリティを提供しオープン・システム化に対するユーザーの要求に応えるソフトウェア開発者の今日の行動により、実証されている。公正な競争は、競争法によって確保されるべきであり、著作権者が反競争的な目的でインタオペラビリティの達成のために必要な情報の提供を拒絶するような場合には、競争法が救済手段を提供すべきである。」と主張される。

    しかし4)以外の立場からは、「インタオペラビリティを達成するために必要なインタフェース情報を得るためにはしばしば逆コンパイルが唯一の実際的手段である。権利者による任意の情報開示は、自らの製品に接続し、より付加機能を有する製品の開発の場合には期待できるが、自らの製品と競合する可能性のある新製品の開発については期待できず、市場機構の機能によっては問題を解決することはできないので、権利者の排他的権利に対する、公正な競争の確保という観点からの制限を、著作権法それ自身が持たなければならない。」( 3)の意見)などの反論がある。

    調査・解析に伴う複製又は翻案を許容することの著作権者に与える影響をどう評価するか
    4)の意見によれば、「調査・解析(特に逆コンパイル)に伴う複製又は翻案を許すと、既存プログラムの連続的な変更により外形的表現を偽装した実質的な海賊版プログラムの作成に利用されることとなる。」とされるが、これに対し4)以外の意見からは、「逆コンパイルによっては原ソース・コードの最も価値ある部分(プログラマの詳細なコメント及び命令列の元の順序)は明らかにされず、また、逆コンパイルは極めて困難な作業であるので、一般に海賊行為のために利用されるとは考えられない。」( 3)の意見)、「仮に既存プログラムの調査・解析の結果に基づいて海賊製品が作成又は頒布されたとしても、それは調査・解析行為とは別個の問題であり、当該製品自体を調査することにより著作権を侵害しているかどうかを判断し、対応すべきである。」( 1)の意見)、「海賊版プログラムの開発のための調査・解析に伴う複製又は翻案は許されないことを明確に規定すればよい。」( 2)の意見)などとされる。

    また4)の意見によれば、「調査・解析の過程における複製物又は翻案物が頒布されないとしても、当該調査・解析は、革新的なプログラムの創作に必要な開発の費用及び時間の大部分を回避し、対象プログラムの著作権者に対する商業的優位を得るために用いられるものであるから、このような複製又は翻案の許容は、著作物の通常の利用を妨げ、かつ、著作者の正当な利益を不当に害することとなる。」とされるが、4)以外の意見によれば、「調査・解析の過程において複製物又は翻案物が作成されても、それがプログラムの内容、構造等を知るためにだけ用いられ、複製物又は翻案物の頒布につながらない限りは、著作権者に損害を与えるものではない。」( 1)の意見)、「競合プログラム等の開発を目的とする調査・解析でなければ対象プログラムに対し市場における不利な影響を与えるものではない。さらに、調査・解析を行う者に対して著作権者への通知義務を課すこととすれば、著作権者が当該行為者の活動を注視することなどにより適法目的以外の調査・解析は抑止される。」( 2)の意見)などとされる。

    仮に調査・解析に伴う複製又は翻案について特別の取扱いを認めるとしても、それを特定の目的の調査・解析に限定するかどうか
    1)の立場からは、「調査・解析の目的を特定すると、調査・解析の結果得られた、著作権によって保護されない情報の利用を規制することにつながり、著作権法の本来の目的にかんがみ、適当でない。また、実際上も調査・解析の目的をあらかじめ特定することは困難である。インタオペラビリティの概念については確立された定義がなく、今後の産業や技術の進展によって変化する可能性もあるので、法律上の要件とするには熟していない。調査・解析の正当な目的と考えられるものには、インタオペラビリティの達成、エラー修正、著作権侵害の発見のみならず、コンピュータ・ウィルスの発見・除去や、純粋な学術研究上の目的など様々なものがあり、網羅的に規定することは困難である。」とされる。

    これに対し、2)の立場からは、「先行的な技術開発のインセンティブを守るという要請にかんがみると、競合プログラムの開発を目的とする調査・解析を認めることは、このインセンティブを減殺することになり適当でなく、一方、それ以外の場合については権利を制限しても技術開発のインセンティブに影響はない。何が「競合プログラム」に当たるかについては、最終的には司法判断に委ねてよい。また、目的という主観的要件によって適法か違法かを左右するという問題点については、適法な目的で調査・解析を行う者に対し、調査・解析の目的、範囲等を調査・解析対象プログラムの著作権者へ事前に通知する義務を課することで解決できる。」とする。また、2)の立場の一部からは、「調査・解析対象プログラムと表現が実質的に類似するプログラム(海賊版プログラム)の開発を目的とする場合を除き、他の目的での調査・解析については権利を制限してよい。」とされる。

    さらに、3)の立場からは、「権利の制限は必要最小限の範囲にとどめるべきであるから、特定の正当な目的の調査・解析に限ってそれに伴う複製又は翻案を許容すべきであり、困難であるとしても「相互運用性」又は「相互持続性」等について可能な範囲で一定の定義を行った上で限定的に許容することをさらに検討すべきである。」とされる。

    4 結論
    本協力者会議においては、既存プログラムの調査・解析に関する著作権上の問題について、上述のような様々な考え方の理由及びそれに対する批判を詳細に検討した。その結果、この問題に関する論点はかなり明確になったと考える。

    すなわち、この問題については、調査・解析に伴う複製又は翻案を許容する合理的な実際上の必要性自体について、一部に否定する意見がヒアリングにおいて表明されたのみならず、必要性を肯定する意見の中にも許容すべき範囲に関し様々な有力な考え方があった。これらについて確定的な判断を下すためには、プログラムの研究・開発に係る技術の状況、産業の実態等を見極めつつ、著作権法上それらをどのように評価するかについての詳細な検討がなお必要であることが明らかになった。

    また、この問題については、国際的に調和のとれた対応が必要であるが、この点で立法による対応の一つの先例と考えられるECディレクティブについても、許容される範囲が必ずしも具体的に明確になっておらず、今後の実際の運用状況を注視する必要があるほか、米国をはじめ諸外国の法解釈、判例の動向についても見極める必要があり、いまだ国際的な動向も定着しているとは言い難いことが指摘された。

    したがって、現時点では本協力者会議として具体的な法改正の内容を提言するとの結論を得るには至らず、当面は現行法の解釈に関する判例、学説等の発展を待つとともに、今後の国内外の状況の進展に応じ改めて検討を行うことが適当と考える。

    (参考)本協力者会議の結論としては、4に述べたとおり具体的な法改正の提言には至らなかったが、審議の過程において、仮に権利制限規定を設けるとした場合の規定内容について様々な意見が出された。また、本協力者会議においては、この問題についての立法上の対応の当否を中心に検討を行ったものであるが、その過程において、現行法の解釈により調査・解析に伴う複製又は翻案を一定の範囲で許容することの可能性についても、様々な意見が出された。そこで、これらの意見を以下に参考として掲げることとする。

    1.仮に権利制限規定を設けることとした場合の規定内容についての考え方

    (1)許容される目的
    許容される調査・解析の目的については、次の考え方がある。
    特定の目的に限定しない(3(1)1)の意見に基づくもの)
    一般的には許容されるが、特定の目的(競合するプログラムの開発等)の場合には許容されない(3(1)2)の意見に基づくもの)
    特定の目的に限定する(3(1)3)の意見に基づくもの)
    この場合具体的な目的をどのようにするかについては考え方に幅があるが、次に掲げるものの全部又は一部とすることが考えられる。
    (a)プログラムの規約又は解法(プログラムの基礎にある著作権上保護されない要素)を認識するため
    (b)独立して創作されるプログラムと他のプログラム[又はハードウェア]との相互運用性(インタオペラビリティ)[又は相互接続性]を達成するため
    (c)エラー修正のため
    (d)著作権侵害を発見するため
    (2)許容される行為
    許容される行為については次の考え方がある。
    調査・解析の過程における必要な限度の複製又は翻案(3(1)1)の意見に基づくもの)
    許容される目的を達成するための調査・解析の過程における必要不可欠な限度の複製又は翻案(3(1)3)の意見に基づくもの)

    (3)付加的な条件の必要性
    調査・解析が許容されるための付加的な条件を設ける必要性については、次の意見がある。
    付加的な条件を規定する必要はない
    (理由)上記(2)で調査・解析のために「必要な限度の複製又は翻案」が許されると規定すれば、個々の場合に応じ、情報の利用可能性等の事情を考慮して、当該調査・解析行為が必要な限度であったか否かを判断すれば足りる。

    必要な情報があらかじめ利用可能でないこと、他の手段によっては入手できないことなどの条件を明記すべきである
    (理由)権利の制限は必要最小限の範囲に限るべきである。

    (4)許容される行為の主体
    許容される行為の主体については次の考え方がある。
    プログラムの複製物を使用する正当な権原を有する者とする
    (理由)プログラムは権利者が使用を許諾する方法により流通する場合が多いので、所有者に限らず、貸与を受けたものを含め、プログラムの複製物を使用する権原を有するものに調査・解析を認めることが適当である。

    主体を限定しない(ただし、違法行為によってプログラムを入手した者、違法複製物であることを知ってそれを入手した者は除く)
    (理由)調査・解析を認めるべきか否かは、使用権原の有無と論理的に結びつくものではなく、悪質な場合を除外すれば足りる。

    (5)調査・解析の過程で作成された複製物又は翻案物の廃棄
    調査・解析の過程で作成された複製物又は翻案物の廃棄については、次の考え方がある。
    調査・解析の目的が達成された後は、複製物又は翻案物を廃棄しなければならないとすべきである
    (理由)複製物又は翻案物の作成は、調査・解析の過程において必要な限度で許容されるものであることにかんがみると、その目的達成後は保存を認める必要はない。

    プログラムの複製物を使用する権原を失った後は、複製物又は翻案物を廃棄しなければならないとすべきである
    (理由)調査・解析の目的達成時期を客観的に確定することは困難であり、調査・解析を許容される主体としての資格の喪失という客観的事実にかからしめることが適当である。

    廃棄義務を定める必要はない
    (理由)調査・解析に用いられた複製物又は翻案物は、実務上、その後の資料として保存する必要性がある(特定の場合においてのみ調査・解析に伴う複製又は翻案を認める立場からは、むしろ後日その正当性を立証するための証拠資料として積極的に保存する必要があるとの指摘もあった)。複製物又は翻案物の公表、頒布等が禁止されれば権利者に損害を与えることもないと考えられる。

    (6)調査・解析の過程で作成された複製物又は翻案物の公表、頒布等の禁止
    調査・解析の過程で作成された複製物又は翻案物の公表、頒布等が禁止されるべきことについては異論はない。

    (7)入手した情報の扱い
    入手した情報の扱いについては次の考え方がある。
    調査・解析の結果入手した情報については、許容される目的以外の目的のために利用したり、他に提供したりしてはならないとすべきである
    調査・解析の結果入手した情報は、著作権によって保護されないアイデアであり、その利用は制限されるべきではない

    (8)セーフガード規定
    セーフガード規定については次の考え方がある。
    「ただし、当該行為の態様等に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」旨の規定を設けるべきである
    (理由)規定の濫用のおそれがあるので、ベルヌ条約第9条第2項ただし書の趣旨を確認的に規定するのが適当である。

    特段のセーフガード規定は必要ない
    (理由)調査・解析のための必要な限度の複製物又は翻案物の作成は、その公表、頒布等を制限すれば著作権者に経済的な損失をもたらすものではない。

    (9)契約との関係
    契約との関係については次の考え方がある。なお、(1)及び(2)において調査・解析に伴う複製又は翻案をどのような目的・範囲で認めるかによって、この点についての結論は変わってくるとの指摘があった。
    本規定で許される行為を禁止する契約も一般的には有効であるが、この契約に反する行為は著作権侵害ではなく契約違反を問われるにとどまることを、明示又は解釈において明確化するのが適切である
    (理由)一般に著作権法上の権利制限規定によって許される行為であっても、当事者間の合意の上で禁止することに問題はなく、調査・解析についての契約上の扱いは経済原則に委ねればよい。規定に反する契約が無効であるとするには、相当な公益上の合理的理由が必要であるが、この場合にはそこまでの理由は認められない。なお、契約に反する行為は著作権侵害ではないとすれば、刑事罰の適用において法的安定性を欠くという問題も生じない。

    本規定に反する契約は無効であることを、明示するか又は解釈において明確化すべきである
    (理由)調査・解析に関する権利制限規定は著作物の公正な利用という観点から設けられるものであり、それに反する契約は無効とすべきである。規定に反する契約が有効であるとした場合は、結局、契約に縛られることとなるので、規定の意味がなくなってしまう。

    規定に反する契約の効力を一義的に判断するのではなく、プログラムの種類、性格等を踏まえてその効力を検討すべきである
    (理由)例えば、パッケージ・プログラムの場合には調査・解析を全面的に禁止する合理的理由は考えにくいが、銀行の送金システムのように非常に安全性が要求されるようなものの場合には合理性があると考えられ、このような事情を考慮して判断すべきである。

    (10)通知義務
    調査・解析を行った者に著作権者に対する通知義務を課す規定を設けることを検討すべきであるとの意見があった。
    (理由)特定の目的のための調査・解析に限って権利を制限することとした場合、目的という主観的要件によって判断することとなるため、行為者の主張によっては権利制限の範囲が不当に拡大されるおそれがある。そこで、違法な目的のための調査・解析に対する抑止効果を生ぜしめるため、調査・解析を行う者に、対象プログラムの特定及びその範囲並びに調査・解析の目的及びその期間等を権利者へ通知する義務を課すべきである。通知を受けた権利者が行為者の調査・解析行為を注視することも抑止効果があると考えられる。

    通知義務は調査・解析を行う者にとってはさほどの支障になるものではなく、むしろ、他人のプログラムを複製しようとする者にこのような義務を課すことはかえって公平であると考えられる。

    2.現行法の解釈により調査・解析に伴う複製又は翻案を
      一定の範囲で許容することの可能性
    (1)現行著作権法の解釈としては、著作権法第30条以下の権利制限規定は限定列挙であり、プログラムの調査・解析に関する規定がない以上、それに伴う複製又は翻案は認められないとの考え方がある。一方、現行法の解釈により、調査・解析に伴う複製又は翻案は一定の範囲で許容されるとの意見があり、その根拠は次のように様々な考え方に分かれている。
    1)著作権法第47条の2第1項は、プログラムの複製物の所有者が、自らのコンピュータにおいて利用するために行う複製又は翻案を認めている。したがって、接続の確保、エラーの除去等のプログラムの保守、改良及び移植を行う前提として複製又は翻案を伴う調査・解析を行うことは、許容されていると解することができる。
    2)著作権法第1条の著作権法の目的における「文化的所産の公正な利用」の観点から、公正な目的のための既存プログラムの調査・解析に伴う複製又は翻案を著作権侵害として主張することは民法第1条の権利濫用に該当し、信義誠実の原則に反することになると解される。
    3)現行法における複製権又は翻案権は、複製物又は翻案物をその固有の目的により利用することを前提として権利が付与されていると考えられるところ、調査・解析の過程において中間的に複製物又は翻案物が生じてもそれは複製物又は翻案物の固有の目的による利用に供されるものではないので、法的な意味での複製又は翻案とは評価されないと解される。
    (2)(1)の1)~3)については、それぞれ次のような問題点が指摘された。
    1)について
    著作権法第47条の2が適用され得る場合は限られており、インタオペラビリティの達成のためなどの調査・解析には適用され得ないので、問題の解決にならない。
    2)について
    著作権法においては、著作者等の権利の適切な保護を図るという基本的な目的にかんがみ、「文化的所産の公正な利用」の観点からの権利制限規定を同法第30条以下に限定的に列挙し、解釈上も拡張解釈を控えることが原則であるから、この問題についても明文の規定を設けるべきである。また、許容される根拠や範囲について、解釈により明確な基準を設けることは困難であるので、解釈論に委ねると、権利者と利用者の双方にとって法的に不安定な状況の下に置かれることになる。
    3)について
    現行法の文理解釈からはいかなる「有形的」な「再製」も複製に該当するものであり、安易に権利の制限につながるような解釈をするべきでない。いずれにせよ、いかなる場合に複製又は翻案に当たるのかという基準が不明確である。
    (3)(2)の指摘に対し、「調査・解析に伴う複製又は翻案を許容すべきかどうかを判断するに当たっては、個々の具体的なケースに即して調査・解析の目的及び範囲など様々な要素を考慮し、権利者と利用者との利益のバランスを図る必要があり、既存の法令の解釈によって柔軟に判断することが適当である。」との意見もあった。



    第2章 プログラムに係る著作権の権利制限規定について
    1 私的使用のための複製
    (1)問題の所在
    著作権法第30条第1項は、著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができると定めており、この規定はプログラムを含めすべての著作物について適用されることになっている。

    しかし、プログラムは、通常デジタル方式で記録されているため極めて簡単にオリジナルと全く同じものを複製することができるので、私的使用であってもその複製により著作権者の利益を侵害するとの問題が指摘されている。

    なお、プログラムについては、同法第47条の2第1項によりプログラムの複製物の所有者がそれを自らコンピュータにおいて利用するために必要な限度において複製又は翻案することが認められているので、問題となるのは、同法第47条の2第1項によっては認められないが同法第30条第1項によって認められる可能性があるような場合であり、具体的には次のようなケースが考えられる。
    1)個人が複数台のコンピュータを所有して(デスクトップ、ポータブルなど)、それぞれにプログラムをインストールするケース(ただし、職業上の使用は、私的使用には該当しないので同法第30条第1項は適用されない)
    2)ごく親しい友人等からプログラムを借りて私的使用のために複製するケース
    3)購入したプログラムを私的使用のために複製した後、中古品として売却するケース
    これらのケースのみならず、プログラムの私的使用のための複製が広範に行われることが全体として与える影響を考慮し、権利者の許諾なく私的に複製することができるとされることの妥当性を検討する必要がある。

    (2)国際的動向
    ア.諸外国の例
    (ア)EU(欧州連合)
    ECディレクティブにおいては、権利制限規定の中に私的使用のための複製又は翻案は含まれておらず(第5条及び第6条)、これらの規定は限定列挙と解されているので、私的使用のためであってもプログラムの複製又は翻案については権利者の許諾が必要であると考えられる。

    ドイツ及びフランスにおいては、この点について従来から、私的使用のための著作物の複製を許容する規定はあるがプログラムの複製については適用されないこととされている(ドイツ著作権法旧第53条第4項、フランス知的所有権法第122条の6)。ドイツは1993年に著作権法を改正したが、改正後もプログラムに関する権利制限規定の中に私的複製は含まれていない。
    (イ)アメリカ合衆国
    アメリカ合衆国著作権法においては、私的使用に係る権利制限規定は存在せず、著作物の公正使用(フェア・ユース)に関する規定(同法第107条)に基づき、1)使用の目的及び性格、2)著作物の性質、3)使用された部分の量及び実質性、4)著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響といった要素を考慮してケースバイケースで判断される。
     なお、私的使用については、1984年に連邦最高裁判所が、著作物であるテレビ放送の家庭内録画は公正使用に当たるとの判決を出している(ソニー対ユニバーサル事件)が、プログラムについての判決は出されていない。
    (ウ)スイス
    スイス著作権法において著作物の私的使用に関する権利制限規定はあるが、1992年の改正により同規定はプログラムについては適用されないこととされた(同法第19条第4項)。

    イ.国際的な場における検討
    (ア)ガット・ウルグアイ・ラウンド
    TRIP協定においては、具体的な権利制限規定は明記されておらず、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害しない一定の特別の場合に限定して、排他的権利に対する制限又は例外を加盟国が設けることができることを規定している(同協定第13条)。
    (イ)WIPO
    WIPOのベルヌ条約議定書専門家委員会における事務局文書においては、プログラムの目的と価値を考慮し、私的使用目的でのプログラムの複製は著作権者の許諾がない限り認められないことを提案している。しかし、プログラムの問題については各国で意見が異なっており、結論はまとまっていない。

    (3)私的使用のための複製についての考え方
    この問題については、少なくとも(1)の3)を認めることの合理性に乏しいという意見が大勢であり、また、(1)の2)についても一般に認めることには問題があるとの指摘があった。さらに、個々の複製のケースをそれだけ取り出してみると不当とは言えないようなものであっても、それが極めて広範に行われるため、結果的に権利者の経済的利益を著しく損なうような状況をもたらすおそれがあることも指摘された。一方で、プログラムの正当な使用まで阻害することのないよう慎重な配慮が必要であるという意見もあった。
    具体的には以下のような法改正の提案があった。
    (ア)著作権法第30条第1項の私的複製に関する権利制限規定は、プログラムには適用されないこととすべきである。
    (理由)プログラムの複製は、権利者の利益を著しく損なうこととなる一方、複製物の所有者にとっては同法第47条の2第1項の規定により、その利用に必要な複製はできることになっているので、その他に私的複製を許容する必要性はあまり考えられない。なお、(1)1)のようなケースについては、通常ライセンスを得られると考えられるので、契約に委ねても支障はない。

    (イ)コピー・プロテクション解除装置を使用した複製については、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いた複製と同様に、私的複製の権利制限の適用を除外することとするが、刑事罰については、個々の使用者には適用せず、解除装置の製造、販売等を行う者に適用することとすべきである。
    (理由)私的複製を一般的に禁止することは、その影響が広範にわたるとともに、仮に規定したとしても実効を期し難いと考えられる。コピー・プロテクションをかけているプログラムについては、その対象範囲や権利者の意図が明確であり、また、(仮にコピー・プロテクション解除装置の製造、販売等が規制されるならば)コピー・プロテクション解除装置の規制とあいまって、規定の実効性を確保することが可能である(コピー・プロテクション解除装置の規制については、第3章参照)。

    一方、イ.の具体的な法改正の提案については、プログラムの正当な使用まで阻害されるおそれがあるのではないか、特にイ.(ア)については実効性が確保されなければかえって法制度に対する不信が生ずるのではないかなどの疑問が出された。
    さらに、この問題は、プログラムのみでなく、データベースの著作物やマルチメディア・ソフトなどのデジタル化された著作物に共通する問題を含んでおり、プログラムについてのみ特別規定を設けることは適当でないのではないかとの意見が多かった。

    (4)結論
    本協力者会議においては、この問題について何らかの制度上の対応が必要であるとの認識ではおおむね一致したが、具体的な対応の在り方については、プログラムのみでなくデータベースの著作物やマルチメディア・ソフトなどのデジタル化された著作物に共通する問題に特に留意して、総合的に検討する必要があり、著作権審議会において関係者からの意見を聴取しつつ別途早急にこの問題を検討することが適当であると考える。

    2 権利制限規定の性格
    (1)問題の所在
    著作権法第47条の2をはじめとする著作権法上の各種の権利制限規定について、当該規定によって許容されている行為を契約により禁止することができるかどうかという問題がある。

    特に、パッケージ・プログラムの場合、いわゆるシュリンク・ラップ・アグリーメントの形式で提供されているケースが多いが、その中には著作権法上の権利制限規定によって許容されている行為を禁止するような条項が盛り込まれている場合があり、その場合の権利制限規定との関係が問題になるとの指摘がある。

    (2)国際的動向
    プログラムの使用に必要な複製及びバックアップ・コピーの作成に関する権利制限と契約との関係についての各国等の著作権法上の規定は以下のとおりである。

    ア.EU(欧州連合)
    (ア)ECディレクティブ
    エラー修正を含め、プログラムを使用するために必要な場合はプログラムを複製又は翻案することができるとされているが、これは契約に特段の定めがない場合に限られている(第5条第1項)。一方、バックアップ・コピーの作成は、プログラムの使用に必要な場合に限り、契約によって妨げられないとされている(第5条第2項)。
    (イ)イギリス
    適法な使用のために必要である場合、プログラムの複製又は翻案は許容されているが、契約によって禁止されていない場合に限られている(イギリス著作権法第50条C第1項)。一方、適法な使用者が適法な使用目的のために必要なバックアップ・コピーを作成することは許容されており、このような行為を禁止又は制限するような合意における約定又は条件は、その限りにおいて無効であるとされている(同法第50条A、第296条A第1項(a))。
    (ウ)ドイツ
    バックアップ・コピーの作成は、それが将来の利用に必要であるときは、契約によって禁ずることができないとされている(ドイツ著作権法第69条d第2項)。
    (エ)フランス
    現行知的所有権法改正案においては、プログラムを利用するために必要な場合は複製権又は翻案権は制限されることとされているが、著作者は当該行為に係る特約を定める権利を契約により留保できるとされている。バックアップ・コピーの作成の許容については、これに抵触する契約上の定めは無効とするとされている。

    イ.スイス
    バックアップ・コピーを作成する権利は、契約によって放棄できないとされている(スイス著作権法第24条第2項)。

    ウ.オーストラリア
    オーストラリア著作権法は、プログラムが紛失、破壊又は使用できないように故障した場合に使用するためのバックアップ・コピーの作成を認めている(同法第43条A第1項)が、同条項は原コピー(複製物が作成される元のコピー)の所有者が原コピーを取得したとき以前に原コピーの所有者に与えられる、プログラムの著作権者による又はその者のための明示的指示に反する場合には適用されないとされている(同条第2項(b))。

    (3)権利制限規定の性格についての考え方
    この問題については、次のような意見があった。
    著作権法の権利制限規定によって許されている行為を禁止する契約は有効である。もっとも、この契約に反する行為は著作権侵害となるわけではなく、契約違反となるにとどまると解する。[また、契約に関する一般法理により、その内容が公序良俗に反する場合は無効となることもあり得る。]
    (理由)著作権法上の権利制限規定によって許される行為であっても、当事者が合意したのであれば契約により禁止することに問題はない。規定に反する契約が無効であるとするには、相当な公益上の合理的理由が必要であるが、著作権法上の権利制限にそこまでの合理的理由は認められない。なお、契約に反する行為は著作権侵害ではないとすれば、刑事罰の適用において法的安定性を欠くという問題も生じない。

    著作権法の権利制限規定によって許されている行為を禁止する契約はその限りにおいて無効である。
    (理由)権利制限規定は著作物の公正な利用という観点から設けられるものであり、それに反する契約は無効とすべきである。規定に反する契約が有効であるとした場合は、結局、契約に縛られることとなるので、規定の意味がなくなってしまう。

    著作権法の権利制限規定によって許されている行為を禁止する契約の効力については、規定の設けられている趣旨、著作物の性格、利用の態様等に応じて判断されるべきである。
    (理由)権利制限規定は、各規定ごとにその趣旨が異なるものであり、また、同じ規定であっても適用される著作物の性格によって許容される範囲が異なるものである。したがって、規定に反する契約の効力については、このような様々な要素を考慮して具体的なケースに応じて判断すべきである。
    なお、パッケージ・プログラムのシュリンク・ラップ・アグリーメントについては、そもそもこれにより使用者と権利者との間の契約が法律上有効に成立しているかどうかについて極めて疑問があるとの意見が多かった。また、仮にシュリンク・ラップ・アグリーメントが契約として有効に成立しているとした場合でも、プログラムに係る著作権法上の権利ではないその使用に関する契約上の権利と著作権法上の権利とを明確に区別していない等、その内容についての問題点が指摘された。

    (4)結論
    本協力者会議においては、この問題はプログラムに固有の問題ではなく著作物一般に関する問題であり、各権利制限規定の趣旨、目的及び契約の実態等について詳細な検討を行う必要があり、当面は今後の判例等の蓄積を待つことが適当と考える。

    なお、シュリンク・ラップ・アグリーメントについては、実務関係者において、契約法上の見地から現在の内容を調査し、適切な契約の在り方を検討することを期待する。



    第3章 コピー・プロテクション解除装置の規制
    1 問題の所在
    (1)コピー・プロテクション解除装置等の実態
    パソコン用プログラムの製作者は、ゲーム・ソフトの多くとビジネス・ソフトの一部について、複製ができないようプロテクトするためのコードをその中に組み込んでいる。また、ゲーム専用コンピュータのプログラムは、特殊なカートリッジで提供されているため、ハード及びソフトの両面から複製ができないようになっている。

    一方、このようなプロテクションを解除するための装置が市販されている。パソコン用プログラムのプロテクション解除装置は、コピーのためのメインプログラムと、各市販プログラムに組み込まれているプロテクションを外すためのパラメータとを含むフロッピー・ディスクの形で供給されている。また、ゲーム専用コンピュータのプログラムについては、フロッピー・ディスクにコピーしさらにそのコピーからコンピュータを起動させることができるよう、ゲーム専用コンピュータに接続する装置とその装置を機能させるためのプログラムとから成る形で供給されている。

    さらに、コピー・プロテクションを解除するための情報が、出版物に掲載されるなどにより公表されることもある。

    このようなコピー・プロテクションの解除装置又は解除のための情報を用いて個々の利用者による広範な複製が行われることにより、著作権者の利益が害されているとの問題が指摘されている。

    (2)現行法の規定による対応の可能性
    コピー・プロテクション解除装置の使用者が、この装置を私的使用のための複製(著作権法第30条第1項)、コンピュータで利用するために必要な複製(同法第47条の2第1項)等の著作権法により許容された目的に供する限り、個々の使用者の行為は著作権侵害とならない。同法第112条第2項により、権利者は、著作権等を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対する差止請求を行うに際し、「もつぱら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄」等を請求することができるが、解除装置の使用目的をあらかじめ特定することはできず、かつ、個々の使用者の行為を把握することも事実上できないので、結局、使用者の行為をとらえてこの問題に対処することは不可能である。

    一方、コピー・プロテクション解除装置の製造、販売等を行う者について何らかの対応が可能かどうかを検討すると、解除装置がもっぱら侵害の行為に供されるとあらかじめみなすことは困難なので、同法第112条第2項の適用では対応できないと考えられる。

    2 国際的動向
    (1)諸外国の例
    ア.EU(欧州連合)
    (ア)ECディレクティブ
    ECディレクティブにおいては、プログラムの保護のために適用されている技術的装置の無許諾での除去又は回避を促進することのみを目的としている手段を流通させ又は商業用目的で所持する行為については、加盟国は国内法に従い救済措置を定めるとしている(第7条第1項(c))。
    (イ)イギリス
    複製防止の電子的形式によって著作物の複製物が頒布される場合、複製物を頒布する者は、その複製防止の形式を回避することを特に予定された装置又は手段を作成、輸入、販売又は貸与等を行う者に対し、著作権者が著作権侵害について有する権利と同一の権利を有するとされている。複製防止の形式を回避することを可能とし又は援助することを意図される情報を公表する者に対しても同様である(イギリス著作権法第296条第2項)。さらに、プログラムについては、当該装置又は手段を業務上所持する者に対しても同様の権利を有するとされている(同法第296条第2A項)。
    (ウ)ドイツ
    もっぱらプログラム保護のための技術的仕組みを不法に排除し、又は迂回することを容易にすることに供される手段について、権利者はその廃棄等を求めることができることとされている(ドイツ著作権法第69条f第2項)。
    (エ)フランス
    知的所有権法改正案においては、ソフトウェアを保護する技術的装置を解除し、又は無効化することができる方法に関する広告又は説明書には、当該方法の違法な利用が権利侵害として罰せられる旨記載しなければならないとの規定がある。

    イ.アメリカ合衆国
    アメリカ合衆国著作権法にプログラムのコピー・プロテクション解除装置に関する規定はないが、デジタル録音機器に装着されるシリアル・コピー・マネジメント・システム(音楽の著作物又はレコードのデジタル形式の複製を制限するシステム)について、そのプログラム又は回路を回避することを主たる目的とする装置の輸入、製造又は頒布及びそのようなサービスの実施を禁止している(アメリカ合衆国著作権法第1002条(c))。
    また、コピー・プロテクション解除装置の販売は寄与侵害(contributory infringement)に当たるとの考え方がある。

    すなわち、プログラムの複製装置の製造・販売について、侵害行為を認識しており他人の侵害行為を誘発し実質的にその行為に寄与した者は寄与侵害者としての責任を負うものであり、ROMに固定されたプログラムの複製装置については実質的に侵害に当たらない使い方がないことから、当該装置の販売を禁止すべきとした判決がある。(アタリ対JS&Aグループ事件(1983年12月6日 イリノイ州地裁判決))。一方、プログラムの保護機能を破るソフトの販売が寄与侵害に当たるとの原告の主張に対し、当該ソフトの購入者が著作権法上許容されるバックアップ・コピーを作成することができることから、実質的に非侵害的使用を提供しており寄与侵害の責任はないとした判決もある(ヴォールト対キューエイド事件(1988年6月20日 第5巡回区控訴裁判所判決))。

    なお、プログラムのコピー・プロテクションに関する事件ではないが、ソニー対ユニバーサル事件(1984年1月17日 最高裁判所判決)においては、寄与侵害の概念はある個人に他人の行為について責任を負わせることを正当にするという代位責任の問題であるとしつつ、代位責任は単に自分の販売した装置を買った顧客が著作物の無許諾複製をするかもしれないという推定される故意のみに基づいて負わせることはできないとしている。また、VTRは実質的に非侵害的な使用をすることも可能であり、結論として、VTRの販売は寄与侵害に当たらないとしている。

    ウ.オーストラリア
    著作権法検討委員会は、1993年の報告案において、ロック装置(プログラムのコピーを妨げるためにパスワードをつけるなど)の無許諾の回避は、著作権者やそのライセンシーの告訴によって起訴され得るべきであるとしている。また、著作権者等は、プログラムを無許諾の複製から保護するためのロック又は他の装置の、無許諾での回避を容易にすることを目的とする装置の商業用の製造、輸入、頒布又は商業用目的の所持行為を防止する権利を有するべきであるとしている。

    (2)WIPO
    WIPOのベルヌ条約議定書専門家委員会における事務局文書の権利の執行に関する部分において、著作物の複製物の作成を防止する装置を無効化させるために設計された装置等の販売、貸与、輸入等については、刑事制裁を講じ、また、著作権者に損害賠償請求権を与えることを国内法で規定すべきとの提案がなされている。権利の執行については、同専門家委員会の第3回会合において、TRIP協定の権利の執行の部分を準用すべきであるとの意見が多数であったが、結論はまだ出ていない。なお、TRIP協定には複製防止装置を無効化する装置に関する規定はない。

    3 コピー・プロテクション解除装置の規制についての考え方
    この問題については、原則的には何らかの規制が検討されるべきであるという意見が有力であった。一方、コピー・プロテクション解除装置の販売等のように間接的に権利者の利益に影響する行為に対しては、許容される複製等まで妨げるなど過剰な規制とならないよう慎重な配慮が必要である、著作権法による規制が適当かどうかについては疑問がある、などの意見もあった。
    具体的な法改正の提案として、コピー・プロテクションの解除装置の製造、販売等(コピー・プロテクションを解除することを可能とする情報を公表することを含む)を著作権侵害とみなすとの規定を設けるべきであるという意見があった。
    その理由としては次のようなものが挙げられている。
    (a)第2章の1にあるように、著作権法第30条第1項の私的複製に関する権利制限規定自体についてそのプログラムへの適用には問題があり、プログラムについての適用を解除するか、解除装置を用いた複製には適用されないとすることが適当である。
    (b)著作権法第47条の2第1項の規定については、現実にコピー・プロテクションのかけられているプログラムはその利用に際して複製又は翻案の必要性がないと製作者が判断しているものであり、同条の適用の可能性は乏しいと考えられる。
    (c)著作権者の利益を間接的ではあっても著しく侵害する行為を著作権法で規制することには合理的理由があり、現に著作権法第119条第2号は、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を営利目的で使用させる行為に対する刑事罰を規定している。
    一方、イ.の具体的な法改正の提案については、バックアップ・コピーなどの許容されるべき複製等まで妨げるおそれがあり、規制対象となる装置の範囲が広がり過ぎるのではないかとの疑問が出された。
    さらに、この問題はプログラムのみでなく、ビデオのコピー・ガードやデジタル録音のコピー制限の問題と共通する問題であり、プログラムのみについて特別規定を設けることは適当ではないのではないかとの意見が多かった。

    4 結論
    本協力者会議においては、この問題について何らかの制度上の対応が必要であるとの意見が有力であったが、具体的な対応については、プログラムのみでなく、ビデオのコピー・ガードやデジタル録音のコピー制限の問題などを含めて検討する必要があるため、著作権審議会において関係者からの意見を聴取しつつ別途早急にこの問題を検討することが適当であると考える。



    (資料)各国著作権法における関係規定等
    コンピュータ・プログラムの法的保護に関する1991年5月14日の理事会指令(ECディレクティブ)
    第5条 (制限される行為の例外)
    1契約に特段の定めがないときは、エラー修正を含め、適法な所有者がその所定の目的に沿って、コンピュータ・プログラムを使用するために必要な場合には、前条(a)及び(b)に掲げる行為(注:プログラムの複製及び翻案、改変等)は権利者による許諾を必要としない。
    2コンピュータ・プログラムを使用する権利を有している者によるバックアップ・コピーの作成は、その使用に必要な限り、契約によって妨げられない。
    3コンピュータ・プログラムの複製物を使用する権利を有している者は、権利者の許諾を得ることなく、プログラムの要素の基礎になるアイデア及び原則を決定するため、プログラムの機能を観察、研究又は検査する権限が与えられる。ただし、当該プログラムのロード、ディスプレイ、ラン、トランスミット、ストアのいずれかを実行中に当該行為を行う場合に限る。

    第6条(逆コンパイル)
    1次の条件が満たされる場合で、第4条(a)及び(b)にいうコードの複製及びその形式の翻訳が、独立して創作されるコンピュータ・プログラムと他のプログラムとの相互運用性(interoperability)を達成するために必要な情報を得るために必要不可欠なときは、権利者の許諾は必要とされない。
    (a)これらの行為が、利用許諾を得た者(licensee)、プログラムの複製物を使用する権利を有する者又はそれらの者に代わって権限を与えられた者によって行使されること;
    (b)相互運用性を達成するのに必要な情報が(a)に掲げる者にあらかじめ利用可能でないこと;及び
    (c)これらの行為が、相互運用性を達成するのに必要なオリジナル・プログラムの一部の範囲に限られること。
    2前項の規定は、その適用によって得られる情報を次のように利用することを許容するものではない。
    (a)独立して創作されるコンピュータ・プログラムの相互運用性を達成するため以外の目的のために使用すること;
    (b)独立して創作されるプログラムの相互運用性に必要なときを除き、他の者に提供すること;
    (c)実質的に表現が類似しているコンピュータ・プログラムの開発製作及び販売又は著作権を侵害するその他の行為のために使用すること。
    3「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の規定に沿い、本条の規定は、権利者の正当な利益を不当に害し、又はコンピュータ・プログラムの通常の利用を妨げるような方法の適用を許すものと解釈してはならない。

    第7条(特別の保護手段)
    1加盟国は、第4条、第5条及び第6条の規定を害することなく、その国内法に従って、次の(a)、(b)及び(c)に掲げるいずれかの行為を侵す者に対抗する適切な救済措置を定めるものとする。
    (a)(略)
    (b)(略)
    (c)コンピュータ・プログラムの保護のために適用されている技術的装置の無許諾での除去又は回避を促進することのみを目的としている手段を流通させ又は商業用目的で所持する行為
    2(略)
    3加盟国は、(c)に掲げるあらゆる手段の差押えについて定めるものとする。

    第9条(他の法令規定の引き続いての適用)
    1このディレクティブの規定は、特許権、商標、不正競争、トレード・シークレット、半導体製品の保護又は契約法に関する規定などの他の法令の規定を害しない。第6条の規定又は第5条第2項及び第3項に定める例外に反するいかなる契約の定めも無効とする。
    2(略)

    第10条(最終条項)
    1加盟国は、1993年1月1日までにこのディレクティブに従うために必要な法律、規則及び行政規定の効力を発生させるものとする。加盟国が、これらの措置をとる場合には、当該措置には、このディレクティブに関する言及を含み、又は公式発表の際には言及を伴うものとする。このようなディレクティブに関する言及の方法は加盟国が定めるものとする。
    2(略)

    イギリス著作権法(1992年12月改正、1993年1月施行)
    第29条(研究及び私的学習)
    (1)研究又は私的学習を目的とする文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の公正利用は、著作物の、又は発行された版の場合には印刷配列の、いずれの著作権をも侵害しない。
    (2)(略)
    (3)(略)
    (4)次の行為は公正利用ではない。
    (a)低水準の言語で表現されたコンピュータ・プログラムをより高水準の言語で表現されたバージョンに交換すること、又は
    (b)そのようにプログラムを変換する過程に付随して当該プログラムを複製すること。(これらの行為は第50条B(逆コンパイル)にしたがって行われるのであれば許容される。)

    コンピュータ・プログラム:適法な使用者
    第50条A(バックアップ・コピー)
    (1)コンピュータ・プログラムの複製物の適法な使用者が、適法な使用目的のために必要なバックアップ・コピーを作成することは著作権侵害ではない。
    (2)(略)
    (3)本条によってある行為が許容されている場合には、その行為を禁止又は制限するような合意における約定又は条件が存在するか否かは問題とならない(そのような約定は、第296条Aによって無効である)。

    第50条B(逆コンパイル)
    (1)低水準の言語で表現されたコンピュータ・プログラムの複製物の適法な使用者が行う次の行為は著作権侵害ではない。
    (a)より高水準の言語で表現されたバージョンに変換すること、又は
    (b)(2)を充たすことを条件として、そのようにプログラムを変換する過程に付随して当該プログラムを複製すること(すなわち、逆コンパイルすること)
    (2)条件は次のとおりである。
    (a)逆コンパイルされるプログラム又は他のプログラムとともに稼働され得る独立したプログラムを創作するために必要な情報を獲得するため、当該プログラムを逆コンパイルすることが必要であること(許容される目的);及び
    (b)そのように獲得された情報が許容される目的以外の目的に使用されないこと。
    (3)特に、次の場合には、(2)の条件は充たされない。
    (a)適法な使用者にとって、許容される目的を達成するために必要な情報があらかじめ利用可能である場合;
    (b)適法な使用者が、逆コンパイルを許容される目的を達成するために必要な行為に限定しない場合;
    (c)適法な使用者が、許容される目的を達成するためには提供する必要のない者に、逆コンパイルによって獲得された情報を提供する場合;又は
    (d)適法な使用者が、逆コンパイルされたプログラムとその表現において実質的に類似したプログラムを作成するため又はその他著作権により制限されている行為を行うために情報を用いる場合。
    (4)本条によってある行為が許容されている場合には、その行為を禁止又は制限するような合意における約定又は条件が存在するか否かは問題とならない(そのような約定は、第296条Aによって無効である)。

    第50条C(適法な使用者に許容されるその他の行為)
    (1)コンピュータ・プログラムの複製物の適法な使用者が行う複製又は翻案は、それが次のようなものであることを条件に、著作権侵害ではない。
    (a)適法な使用のために必要であること;及び、
    (b)使用が適法であると規定する合意における約定又は条件において禁止されていないこと。
    (2)特に、エラーの修正のために複製又は翻案することは、コンピュータ・プログラムの適法な使用のために必要である。
    (3)本条は第50条A又は第50条Bにより許容された複製又は翻案には適用されない。

    第296条(複製防止を回避するための装置)
    (1)この条は、著作権のある著作物の複製物が、著作権者により又はその許諾を得て、複製防止の電子的形式により公衆に頒布される場合に適用される。
    (2)複製物を公衆に頒布する者は、それが侵害複製物を作成するために使用されることを知り、又はそう信じる理由を有しながら次のことを行う者に対して、著作権者が著作権侵害について有する権利と同一の権利を有する。
    (a)使用された複製防止の形式を回避することを特に予定され、又はそのように適応されたいずれかの装置又は手段を作成し、輸入し、販売若しくは貸与し、販売若しくは貸与のために提供若しくは陳列し、又は販売若しくは貸与のために広告すること。
    (b)ある者がその複製防止の形式を回避することを可能とし、又は援助することを意図される情報を公表すること。
    (2A)(1)における公衆に頒布される複製物がコンピュータ・プログラムの複製物である場合、(2)は、「販売若しくは貸与のために広告すること」という文言が「販売若しくは貸与のために広告すること又は業務上所持(possesses)すること」と読み換えられて適用される。
    (3)(略)
    (4)この条における複製防止への言及は、著作物の複製を阻止し、若しくは制限し、又は作成された複製物の品質を害することを意図されるいずれかの装置又は手段を含む。

    コンピュータ・プログラム
    第296条A(一定の約定の無効)
    (1)合意に基づいてコンピュータ・プログラムの使用の権限を有している場合、その合意における約定又は条件は、次の行為を禁止又は制限している限りにおいて無効である。
    (a)合意された使用のために必要であるようなプログラムのバックアップ・コピーを作成すること;
    (b)第50条B(2)の条件が充たされている場合にプログラムの逆コンパイルをすること;又は
    (c)プログラムの要素の基礎にあるアイデア及び原則を理解するためにプログラムの機能を観察、研究又は検査するために装置や手段を使用すること。
    (2)本条においてコンピュータ・プログラムに関する逆コンパイルとは第50条Bにおけると同じ意味である。

    ドイツ著作権法(1993年6月施行)
    第53条(私的その他自己使用のための複製)
    1私的使用のために、著作物の個々の複製物を作成することは許される。複製の権能を有する者は、複製物を他人に作成させることもできる。ただし、著作物を録画ないし録音物に写調すること及び美術の著作物を複製することについては、それが無償で行われるときに限る。

    第8節 コンピュータ・プログラムに関する特別規定
    第69条d(同意を要する行為の例外)
    1契約による別段の規定がない限り、第69条c一号及び二号(注:複製、翻案に係る排他的許諾権に関する規定)に掲げる行為は、それが、プログラムの複製物を使用する権限を有する者による修正を含め、コンピュータ・プログラムを的確に利用する上で必要であるときは、権利者の同意を要しない。
    2プログラムの利用の権限を有する者によるバックアップコピーの作成は、それが将来の利用に必要であるときは、契約によって禁ずることができない。
    3プログラムの複製物の使用の権限を有する者は、自ら権限を有する、プログラムのローディング、ディスプレイ、ラン、伝送、又は蓄積に関する行為によるときは、権利者の同意を得ることなく、プログラムの要素の基礎にあるアイデア及び原理を確かめるために、プログラムの機能を観察し、調査し、又はテストすることができる。

    第69条e(デコンピレーション)
    1独立に作成するコンピュータ・プログラムと他のプログラムとの相互運用性を確保するために必要な情報を得るために、第69条c一号及び二号の意味でのコードの複製又はコード形態の翻訳が不可欠であるときは、次の条件を充たす限り、権利者の許諾を要しない。
    行為が、許諾を得た者若しくはその他プログラムの複製物の使用につき権限を有する者、又はその名によって授権された者によってなされること。
    相互運用性の確保のために必要な情報が未だ一号に掲げる者にはそのままでは入手できないこと。
    行為は、原初のプログラムのうち相互運用性の確保に必要な部分に限ること。
    21項に基づく行為により得られた情報につき次のことをしてはならない。
    独立に作成するプログラムの相互運用性の確保以外の目的のために使用すること。
    第三者に引き渡すこと。ただし、独立に作成するプログラムの相互運用性に必要であるときはその限りではない。
    実質的に類似する表現形式をもったプログラムの開発、製造、又は市販のため、又は著作権を侵害するその他の何らかの行為のために使用すること。
    31項及び2項は、その使用が、著作物の通常の利用を妨げず、権利者の正当な利益を不当に侵害しないよう解釈しなければならない。

    第69条f(権利の侵害)
    1権利者は、所有者又は占有者に対して、違法に作成され、頒布され、又は違法な頒布を目的とするすべての複製物が廃棄されるよう求めることができる。(後略)
    21項は、もっぱらプログラム保護のための技術的仕組みを不法に排除し、又は迂回することを容易にすることに供される手段に準用する。

    第69条g(その他の法規定の適用、契約)
    1(略)
    2第69条d2項及び3項並びに第69条eに反する契約の規定は無効とする。

    フランス知的所有権法(1992年7月)
    第122条の5 著作物が公表されたときは、著作者は、次に掲げる行為を禁止することができない。
    (略)
    複写する者の私的使用に厳密に当てられ、かつ、集団的使用を目的としない複写又は複製。ただし、原著作物が創作された目的と同一目的の利用に当てられる美術の著作物の複写を除く。
    (略)
    (略)

    第122条の6 第122条の5第二号にかかわらず、ソフトウェアの著作物について、使用者によるバックアップ・コピーの作成以外のすべての複製又は著作者若しくはその権利承継人が明示的に許諾していないソフトウェアのすべての使用は、違法である。

    スイス著作権法(1992年10月改正、1993年7月施行)
    第19条(私的使用)
    1発行された著作物は私的な目的のために使われることができる。(後略)
    2(略)
    3(略)
    4この条はコンピュータ・プログラムには適用されない。

    第21条(コンピュータ・プログラムの解析)
    1コンピュータ・プログラムを使用する権利を有する者は、自ら又は他の者を通じて、プログラムのコードを解析することによって、独立して開発されるプログラムとのインタフェースに必要な情報を獲得することができる。
    2プログラムのコードを解析することによって獲得されたインタフェース情報は、プログラムの通常の利用又は権利者の利益を不当に侵害しない限り、相互に作用(interactive)するコンピュータ・プログラムの開発、保守及び使用のためにのみ使われることができる。

    第24条(保存及びバックアップコピー)
    1(略)
    2コンピュータ・プログラムを使用する資格を有する者は、そのバックアップコピーを作成することができる。この権利は契約によって放棄することはできない。

    アメリカ合衆国著作権法
    第107条(排他的権利の制限─公正使用)
    第106条(注:著作権者の排他的権利に関する規定)及び第106条A(注:視聴覚著作物の著作者の氏名表示に係る権利及び改変防止の権利等に関する規定)の規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、授業(教室における使用のための多数の複製を含む。)、研究、調査等を目的とする著作権のある著作物の公正使用(複製物又はレコードへの複製当該規定に明記する手段による使用を含む。)は、著作権侵害とならない。特定の場合に著作物の使用が公正使用となるかどうかを判定する場合には、次の要素を考慮すべきものとする。
    (1)使用の目的及び性格(使用が商業性を有するかどうか又は非営利の教育を目的とするかどうかの別を含む。)
    (2)著作権のある著作物の性質
    (3)著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質性
    (4)著作権のある著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響
    公正使用の判断が上記のすべての要素に基づいてなされている場合、著作物が公表されていないという事実それ自体は公正使用であるとの判断を妨げない。

    第117条(排他的権利の制限─コンピュータ・プログラム)
    第106条の規定にかかわらず、コンピュータ・プログラムの複製物の所有者がそのコンピュータ・プログラムの他の複製物若しくは翻案物を一部作成し、又はそのような作成を許諾することは、侵害とならない。ただし、次のことを条件とする。
    (1)そのような新しい複製物又は翻案物が、機械に関連するコンピュータ・プログラムの利用における不可欠の手順として創作され、かつ、他のいかなる方法によっても使用されないこと、又は
    (2)そのような新しい複製物又は翻案物が、もっぱら記録保存を目的とするものであり、かつ、コンピュータ・プログラムの継続的占有が適法でなくなった場合にすべての記録保存としての複製物が破棄されること。
    この条の規定に従って作成された正確な複製物は、プログラムのすべての権利の貸与、販売その他の移転の一部としてのみ、そのような複製物が作成された元の複製物と一緒に貸与し、販売し、その他移転することができる。そのように作成された翻案物は、著作権者の許諾を得た場合に限り、移転することができる。

    プログラムの調査・解析に関するアメリカ合衆国の判決(プログラムの調査・解析関係部分の判示概要)

    1.アタリ対ニンテンドー事件(1992年9月10日 連邦巡回裁判区控訴裁判所)
     (リバース・エンジニアリングについて)
    (1)憲法は著作権保護の目的を、著作者に対する報酬ではなく「科学の進歩」の促進であるとしている。著作権法は、一方で著作者が著作物をコントロールし利用する利益と、他方で社会が情報やアイデアの自由な流通から得る競合的な利益との間にバランスを取るものである。著作権法は表現に排他的権利を与える一方、他者がある作品のアイデアや情報に自由に依拠することを奨励する。

    著作権法上、著作物からアイデア、プロセス、操作方法を得ることは自由である。プロセス又は操作方法を保護するためには、創作者は特許法に目を向ける必要がある。アイデア、プロセス、操作方法を知覚不能な形式にしこれらを理解しようとする者に対して著作権侵害を主張することによる特許的な保護を、著作者は受けることができない。著作権法は、ある著作物の複製物の合法的所有者がその著作物のアイデア、プロセス、操作方法を理解するために必要な努力をすることを許すものである。
    (2)この許可は、著作物の排他性に対するフェア・ユースの例外に入ると思われる。米国著作権法(以下「法」と略。)第107条は、批評、注釈、研究等のために複製物を作成するような使用を含め、著作物を公正に使用することは侵害にならないとしている。
    (3)リバース・エンジニアリングについて、ある複製が同条に規定するフェア・ユースに当たるかどうかを決定する場合、著作物の性質を吟味する必要があり、アイデアやプロセスを理解するために中間的複製行為が要求される場合にはその行為をフェア・ユースとする。したがって、コンピュータ・プログラム中の保護されないアイデアを認識するためにオブジェクト・コードをリバース・エンジニアリングすることはフェア・ユースである。
    (4)著作物のアイデアを理解するためのフェア・ユースは、しかしながら、保護される表現を複製することにより利益を得るための過度の努力を正当化するものではない。法第107条(1)及び(4)は、中間的複製におけるフェア・ユースは保護される表現の商業的利用まで拡張されないことを明らかにしている。プログラムのフェア・ユースの複製は、著作物の保護されない要素を理解するのに必要な限度を越えてはならない。
    (5)公正使用が適用されるためには、著作物の許諾された複製物の所有者である必要がある。原告(アタリ)は、複製物を正当な許可を受けて所有したのではないため、原告の複製行為はフェア・ユースにはあたらない。

    プログラムのだまし取られた複製物によって汚れていず、またそのプログラムを理解するために必要なリバース・エンジニアリングは公正使用である。

    人間はリバース・エンジニアリングなくしてチップのオブジェクト・コードを理解することはおろか、観察することすらできない。リバース・エンジニアリングの過程は、著作権局からだまし取られたプログラムの複製物によって汚れていない限り、フェア・ユースである。

    2.セガ対アコレイド事件
    (1992年10月20日 第9巡回裁判区控訴裁判所)

    (被告による原告プログラムのオブジェクト・コードの逆アセンブル行為が著作権侵害に当たるかどうか)
    (1)中間的複製行為について
    オブジェクト・コードの中間的複製行為は、最終的な成果物が著作権を侵害するかどうかにかかわらず、著作権を侵害する可能性がある。
    (2)アイデア/表現の区別について
    オブジェクト・コードの逆アセンブルは、著作権保護の及ばないアイデアや機能的概念にアクセスするために必要であるから著作権法に違反しないと被告(アコレイド)は主張するが、プログラムの著作権はオブジェクト・コードにも及ぶので、ケースバイケースでフェアユースに当たるかどうかを判断すべきである。
    (3)米国著作権法第117条について
    オブジェクト・コードの逆アセンブルは米国著作権法(以下「法」と略。)第117条の許容範囲を越えている。
    (4)フェア・ユースについて
    本件においては逆アセンブルはプログラムの著作権で保護されない側面に対するアクセス獲得のための唯一の方法であり、かつ、被告はかかるアクセスを獲得するために正当な利益を有する(原告(セガ)ゲーム機と互換性のあるカートリッジの作り方を決定するため)が故に、プログラムの著作権で保護されない側面を研究又は調査するための正当な理由がある場合はかかる研究又は調査を目的とする逆アセンブルは法第107条のフェア・ユースを構成する。具体的には、同条の四つの要件に照らし判断する。

    ア.使用の目的及び性格
    複製行為が商業目的であることは被告に不利であるが、特定の商業目的使用の性質により不公正の推定は覆しうる。問題となっている使用は中間的なものに過ぎず、したがって商業的な「利得(exploitation)」は間接的又は派生的なものであった。被告の最終目的は互換ゲームの販売であったが、原告のコードの複製の直接の目的は互換性の機能要件を研究することであった。さらに、被告には他にこの要件を研究する手段はなかった。これらの事実に基づき裁判所は、被告は、正当かつ本質的に非利得的な目的で原告のコードを複製したものであり、その使用の商業的な側面は最小限の重要性しか持たないと結論する。

    また、裁判所は特定の使用から生じる公共の利益を考慮することができる。被告による互換性の機能要件の研究は原告ゲーム機で使用されるために提供される独自設計のビデオ・ゲームのプログラム数の増加をもたらした。著作権法は、創作的作品の普及とかかる作品に含まれる保護されないアイデアをもとにした創作的表現におけるこのような増加を推進しようとしているのである。
    したがって、使用の目的及び性格における不公正の推定は覆される。

    イ.著作物の潜在的市場または価格に対する使用の影響
    被告はゲーム機互換のビデオ・ゲーム市場で正当な競争者になることを意図しただけである。

    また、ゲーム・ユーザーは一般に二つ以上のゲームを購入することから、原告はわずかに経済的損失を被るかもしれないが重大な影響を被るとはいえない。他社に競争を不可能にさせることで市場を独占することは、創作的表現を促進する制定法の目的に反し、フェア・ユース原則に抵抗する強い衡平法上の基盤とはなり得ない。したがって、この要素も被告に有利に働く。

    ウ.著作物の性質
    著作権法による保護は、著作物の基礎にあるアイデアや作品の機能的又は事実的側面には及ばない(法102条(b))ことから、著作物はその性質により保護の程度が異なることとなる。

    プログラムは、著作権保護の範囲を決定する「アイデア/表現二分法」に独特の問題を提起する。プログラムの複合的な性格のため、保護される表現と保護されないアイデアを明確化する確定した基準はない。第2巡回区が最近採用した、プログラムをそのサブルーチンやサブ・サブルーチンの構成要素に分解し、それぞれのアイデアやコアとなる機能的要素を特定するテストによれば、プログラムの多くの側面は著作権により保護されなくなる。裁判所は、プログラムの実用的な性格に照らし、このアプローチを支持する。

    本件においては、互換性の機能要件を理解するためには、原告のビデオ・ゲームのカートリッジの逆アセンブルが必要であったことが立証されている。ゲーム機のインタフェース手順は、オブジェクト・コードの形でのみ公衆に頒布されており、ビデオゲーム・プログラムの操作中は、見ることができない。オブジェクト・コードは逆アセンブルしなければ肉眼では見ることができず、逆アセンブルには、必然的に複製行為を伴う。

    著作権のあるオブジェクト・コードの逆アセンブル自体が不公正使用であるならば、著作権者は自己の著作物の機能的側面に対して事実上の独占を得ることになる。著作物の基礎にあるアイデア又は機能的原理に対する合法的独占を享有するためには、特許法が課する厳格な基準を満たさなくてはならない。

    原告のビデオ・ゲームのプログラムは複製なしに調査しえない、保護されない側面を含むが故に、裁判所は、伝統的な著作物よりも低い程度の保護しか与えない。
    以上より、この要素も被告に有利に働く。

    エ.著作物全体との関連における使用された部分の量及び実質
    被告がプログラムの全部を逆アセンブルしたことは被告に不利であるが、著作物全体が複製された事実はフェア・ユースの認定を排除しない。
    以上のことから、上記ア.イ.ウ.のフェア・ユース要素が被告に有利に傾き、エ.の要素のみが原告に有利に傾くがそれもごくわずかであるという結論を生じる。

    著作物の使用がフェアであるか否かの決定に際し、「著作権法の究極の目的は一般公衆の利益のための芸術的創作性を刺激することである」という公共政策に留意する必要がある。

    原告は、開発に投入した時間、努力及び資金がフェア・ユースの認定に不利に作用すると主張する。しかし裁判所は、著作権保護に対する「額に汗」の理論を明確に退けている。裁判所は、逆アセンブルがアイデア及び機能的概念にアクセスする唯一の方法であるとき、また、そのようなアクセスを求める正当な理由があるときは、逆アセンブルは、その作品のフェア・ユースであると結論する。

    オーストラリア著作権法
    第43条A(コンピュータ・プログラムのバックアップ・コピー)
    (1)(2)を条件として、コンピュータ・プログラムである言語の著作物の著作権は、次の場合には、その著作物又は著作物の翻案であるコンピュータ・プログラムの、複製物を作成することにより侵害されない。
    (a)複製物が作成される元のコピー(以下この条において「原コピー」という。)の所有者により又はその者のために複製物が作成されるとき;及び
    (b)原コピーが失われ、破棄され、又は使用不能にされた場合において、原コピーの代わりに、原コピーの所有者により又はその者のために使用されることのみを目的として複製物が作成されるとき。
    (2)(1)は、
    (a)コンピュータ・プログラムの侵害コピーからの;又は
    (b)原コピーの所有者が原コピーを取得したとき以前に原コピーの所有者に与えられる、コンピュータ・プログラムの著作権者による又は著作権者のための、明示的な指示に反するような
    コンピュータ・プログラム又はコンピュータ・プログラムの翻案の、複製物の作成に適用されるものではない。
    (3)この条の目的上、
    (a)コンピュータ・プログラム又はコンピュータ・プログラムの翻案のコピーとは、そのコンピュータ・プログラム又は翻案が有形形式で複製されているあらゆる物品であり;また、
    (b)コンピュータ・プログラム又はコンピュータ・プログラムの翻案のコピーに関する明示的指示とは、そのコピーに又はそのコピーが提供される包装に印刷された明白に読むことができる指示を含む。

    オーストラリア著作権法検討委員会報告案(1993年6月)
    10.15
    バックアップ・コピーを作成する権利は、複製物の作成に対抗して著作権者が「ロック」したコンピュータ・プログラムの複製物には及ぶべきではない。委員会は、この提案は、第43条(2)(b)を残すべきであるというパラグラフ10.14の提案と合致すると考える。コンピュータ・プログラムのロックは、著作権者が通常の使用以上の複製物の作成を防止したいという要求を知らせるための一つの方法である。

    10.72
    本委員会は、EC及びセガ事件における米国控訴裁判所で採用されたアプローチを支持する。言語の著作物としてのコンピュータ・プログラムに現在適用されている範囲のフェア・ディーリングのための例外に加えて、コンピュータ・プログラムの逆コンパイルは、独立に開発されたコンピュータ・プログラムと他のプログラムとのインタオペラビリティを達成するために必要な場合、以下の条件の下で許容されるべきであると本委員会は勧告する。
    (a)逆コンパイルが、合法的に取得されたプログラムの複製物の所有者若しくは複製物を使用する権利を有する別の者によって行われること、又はそれらの者のために逆コンパイルする許諾を受けた者によって行われること;及び
    (b)インタオペラビリティを達成するための情報があらかじめ利用可能でないこと;及び
    (c)その行為がインタオペラビリティを達成するために必要なプログラムの部分に限られること。
    以下の制限が適用されるべきである。
    (i)逆コンパイルはインタオペラビリティを達成するためにのみ用いられるべきである;及び
    (ii)獲得された情報は、独立に開発されたコンピュータ・プログラムのインタオペラビリティのために必要である場合にのみ他者に与えられるべきである。
    本委員会はまた、コンピュータ・プログラムの逆コンパイルは、プログラムの動作におけるエラーを修正するために必要である場合、以下の条件の下で許容されるべきであると勧告する。
    (a)逆コンパイルが、合法的に取得されたプログラム複製物の所有者若しくは複製物を使用する権利を有する別の者によって行われること、又はそれらの者のために逆コンパイルする許諾を受けた者によって行われること;
    (b)エラーのないコンピュータ・プログラムのバージョンがあらかじめ利用可能でないこと;
    (c)その行為が、エラーを修正するために必要なプログラムの部分に限られること;及び
    (d)プログラムの正常に機能するバージョンが合理的期間内に通常の商業価格で利用可能でないこと。
    以下の制限が適用されるべきである。
    (i)逆コンパイルはエラーを修正するためにのみ用いられるべきである;及び
    (ii)獲得された情報はエラーを修正する目的でのみ他者に与えられるべきである。

    16.28
    委員会は、ロック装置の無許諾での回避は著作権者又は著作権者の排他的ライセンシーの訴訟提起により、訴訟の対象となると考える。著作権者はコンピュータ・プログラムの保護のために適用されているロックや他の装置の無許諾での回避を促進することを目的としている装置を商業用目的で製造し、輸入し、頒布し、商業用目的で所持することを阻止する権利を有するべきである。

    ガット・ウルグアイ・ラウンドTRIPS協定(1994年4月)
    第10条(コンピュータ・プログラム及びデータ編集物)
    1コンピュータ・プログラム(ソース・コードであるかオブジェクト・コードであるかを問わない。)は、1971年のベルヌ条約上の言語の著作物として保護される。

    第13条(制限及び例外)
    加盟国は、排他的権利の制限又は例外を、著作物の通常の利用を妨げず、かつ、権利者の正当な利益を不当に害しない特別な場合に限定する。

    WIPOベルヌ条約議定書専門家委員会事務局メモ(1993年6月)
    第II部(BCP/CE/III/2-II)
    I.M38
    考えられる議定書は以下のようなものであることが提案される。
    (a)その著作権者の許諾なしには、以下の(b)及び(c)に従いつつ、私的使用目的でのコンピュータ・プログラムの複製は認められないこと;
    (b)コンピュータ・プログラムの著作権者の許諾なしに、コンピュータ・プログラムの複製物の適法な所有者がこのようなプログラムの複製物又は翻案物を一個作成することを認めることは、その複製物又は翻案物が以下のようなものである限り、国内法に委ねられる問題であること。
    (i)プログラムがある機械のために適法に獲得されたものである場合に、当該プログラムをその機械に接続して使うために必要不可欠なものであり、その機械の使用のための、かつ、その使用の範囲内のものであること;
    (ii)記録保存のための、及び、必要である場合(プログラムのオリジナル・コピーが紛失し、壊れ、又は使用不可能となった場合)に、適法に得られた複製物を元に戻すためのものであること;ただし、このような複製物又は翻案物は上記に述べた以外の目的で使用することはできず、また、当該コンピュータ・プログラムの複製物や翻案物の継続的な所有が適法に終了した場合に廃棄されなければならないこと;
    (c)また、コンピュータ・プログラムの著作権者の許諾なしに、コンピュータ・プログラムの複製物の適法な所有者がそのプログラムをそのコーディング及び構造が調査できるような形に逆コンパイルすることを認めることも、以下に従う限り、国内法に委ねられる問題であること;
    (i)独立して創作する他のプログラムと当該原プログラムとの相互運用性を達成するために必要な情報が、他の情報源から容易に得ることができず、相互運用性を達成するために必要な関連する独自プログラムの部分だけに関するものである場合に限って、このような逆コンパイルが認められるべきこと;
    (ii)このような逆コンパイルを通じて得られた情報が独立して創作されるコンピュータ・プログラムの相互運用性を達成するためだけに利用しうるものであり、その表現においてこの独自プログラムと実質的に類似するようなプログラムを作成するために、又は、その他のいかなる著作権を侵害する行為のためにも使用できないこと。

    第III部(BCP/CE/III/2-III)
    IX.75
    議定書加盟国は、下記の義務を負うべきことを提案する:
    (a)下記が、販売若しくは貸与又は販売若しくは貸与を目的とした流通のために製作あるいは輸入された場合には、上記パラグラフ73(注:刑事制裁に関するパラグラフ)に従った制裁と同じ制裁を司法機関によって適用することを規定すること;
    (i)著作物の複製物の作成の防止若しくは制限又は作成された複製物の品質を劣化させるための装置(以降、「複製保護あるいは複製管理装置」と称する。)を無効化するため特別に設計又は改造するか、又は主として同目的のために設計又は改造されたすべての装置;
    (ii)(略)
    (b)(略)
    (c)著作物の著作者又はその他の著作権者は、下記の場合においても、その著作権が侵害された場合と同様に、パラグラフ71(注:民事救済に関するパラグラフ)に従い損害賠償金を受け取る権利を有すると規定すること;
    (i)著作物の著作者若しくはその他の著作権者によって製作されるか又はその許諾に基づいて製作された著作物の複製物が複製保護又は複製管理装置を伴った電子形式で販売又は貸与に供されているとき、当該装置の無効化を目的として特別に設計、改造されるか、又は主として同目的のために設計、改造された装置が、販売若しくは貸与のために製作若しくは輸入されるか、又は販売若しくは貸与によって流通された場合;
    (ii)(略)



    (参考)
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議について
    1 調査研究協力者名簿
    阿部 浩二岡山商科大学教授・岡山大学名誉教授
    石田 晴久東京大学教授
    加戸 守行日本芸術文化振興会理事長
    座 長 北川善太郎京都大学教授
    小島 康壽通商産業省機械情報産業局情報処理振興課長
    齊藤  博筑波大学教授
    中山 信弘東京大学教授
    原田 英介株式会社日本総合研究所代表取締役副社長
    半田 正夫青山学院大学教授
    藤井 展之株式会社ダイナウェア代表取締役社長
    弁護士
    三木  茂弁護士
    水野 幸男日本電気株式会社副社長
    三次  衛富士通株式会社顧問
    紋谷 暢男成蹊大学教授
    横山 俊朗 株式会社ティーアンドイーソフト代表取締役社長

    2 検討の経過

    第1回会議 平成5年7月22日
    今後の審議の進め方について
    第2回会議 平成5年9月1日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題について
    (ヒアリング及び討議)
    第3回会議 平成5年9月27日
    1)コンピュータ・プログラムに係る著作権問題について(ヒアリング)
    2)既存プログラムの調査・解析について
    第4回会議 平成5年11月5日
    1)既存プログラムの調査・解析について
    2)プログラムに係る著作権の権利制限及びコピー・プロテクション解除装置について
    第5回会議 平成5年11月29日
    プログラムに係る著作権の権利制限及びコピー・プロテクション解除装置について
    第6回会議 平成5年12月13日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題について
    (米国関係者からのヒアリング)
    第7回会議 平成6年1月10日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題について
    (これまでの意見の整理等)
    第8回会議 平成6年2月22日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題について
    (これまでの意見の整理等)
    第9回会議 平成6年3月15日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題について
    (報告書構成案について)
    第10回会議 平成6年4月18日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書(案)について
    第11回会議 平成6年5月16日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書(案)について
    第12回会議 平成6年5月30日
    コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書(案)について


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