I 録音・録画機器の普及状況と家庭内録音・録画の実態等
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録音・録画機器の普及、家庭内での録音・録画の実態等については、昭和51年10月、社団法人日本音楽著作権協会、社団法人日本芸能実演家団体協議会及び社団法人日本レコード協会のいわゆる三団体が個人録音・録画に関する実態調査(以下「三団体調査(注1)」という。)を、また、昭和53年7月から8月にかけて、社団法人日本電子機械工業会が一般個人の各種磁気録音再生機等(テープ・レコーダー、ビデオテープ・レコーダー)の所有及び使用等の実態調査(以下「工業会調査(注2)」という。)を、更に、昭和53年9月、内閣総理大臣官房広報室が著作権に関する意識、録音・録画等についての世論調査(以下「総理府調査(注3)」という。)を、それぞれ行っている。
以下、総理府調査を中心に、三団体調査及び工業会調査等他の関連資料を参考としつつ、家庭内における録音・録画機器の普及、家庭内の録音・録画の実態等について説明を行う。 |
(注1)三団体調査は、個人録音については東京23区に居住する普通世帯及び単身世帯を構成する家族員を対象とし(標本数2,000世帯6,000人、有効回収数1,572世帯5,121人)、個人録画については東京23区及び近郊都市に居住する録画機器所有世帯を対象として(標本数137世帯、有効回収数91世帯)、個人面接の方法によって行われた。 |
(注2)工業会調査は、録音機器に関しては、全国の10~59才の男女個人を対象とし(標本数5,098人、有効回収数3,936人)、録画機器に関しては、東京都及びその周辺における録画機器所有世帯で最もよく利用している者(大学生以上59才まで)を対象として(標本数230人、有効回収数187人)、質問紙による個別面接の方法によって行われ、昭和54年3月に「各種磁気録音再生機等の使用実態調査報告書」として公表された。 |
(注3)総理府調査は、全国15才以上の男女を対象として(標本数5,000人、有効回収数3,948人)、調査員による面接聴取によって行われ、昭和53年11月、「著作権に関する世論調査」として公表された。 |
1.録音機器の普及と家庭内録音の実態 |
(1)録音機器の保有状況 |
総理府調査によれば、一般世帯における録音機器の保有状況については、全体の78.0%が何らかの録音機器を保有している。このうち、「ラジオ(テレビ)付きカセットテープ・レコーダー」が54.0%と最も多く、次いで「カセットテープ・レコーダー」(38.6%)、「カセットテープ・デッキ」(16.0%)の順に多い。以上のようにカセット式のものが圧倒的に多く、オープンリール式のものは、レコーダー及びデッキを含めて7.8%であり、非常に少ないといえる。
なお、工業会調査によれば、全体の87.4%の世帯において何らかの機器を保有しており、また、三団体調査では、東京都における世帯での保有状況は66.0%である。 |
(2)録音頻度等 |
総理府調査によれば、録音機器保有者のうち、1年間に少なくとも1回以上の録音を行う者は47.6%であり、その頻度は、「1ヵ月間に1回ぐらい録音する」(13.8%)、「1週間に1回ぐらい録音する」(11.0%)、「1週間に2~3回録音する」(7.7%)の順に多い。一方、録音機器は保有しているものの「ほとんど又は全く録音しない」者は52.4%である。
また、工業会調査によれば、録音機器の所有に関係なく、録音経験者(調査対象の63.9%)のうち、「この1ヵ月間に何回ぐらい録音したか」については、録音を行った者(録音経験者の49.7%)の中では「3回」(10.0%)、「1回」(9.5%)、「2回」(9.1%)の順に多く、1ヶ月間に録音した者の平均録音回数は5.0回であり、また、「この1ヶ月間には録音しなかった」者(50.3%)のうち、「この1年間では何回ぐらい録音したか」については、「3回」(13.5%)、「2回」(11.5%)、「10回以上」(10.4%)の順に多く、過去1年間の平均録音回数は4.5回である。
なお、同調査によれば、録音経験者の1回当たりの録音時間については、「(15分を超え)30分以下」(26.0%)、「(45分を超え)1時間以下」(23.9%)、「15分以下」(16.6%)の順に多く、1時間以下の者が全体の74.8%を占め、また、平均録音時間は約52分である。
次に、放送番組からの録音(エアチエック)やレコード、テープなどからの録音(ダビング)をする者で、音楽のみを録音する場合、1回の録音で何曲録音するかについては、工業会調査によると(調査対象者のうち15~59才の者の場合)、「7~10曲」(22.0%)が最も多く、次いで「15曲以上」(13.5%)、「3曲」(11.9%)、「5曲」(10.3%)の順に多く、かなりばらつきがみられる。なお、平均録音曲数は1回当たり7.0曲である。 |
(3)録音源 |
総理府調査によれば、録音をする者が主に何から録音しているかについては、「ラジオ」(61.8%)、「レコード」(37.2%)、「テレビ」(27.2%)が多く、他に「ミュージックテープ」(5.5%)、「その他のテープ」(4.5%)、「音楽会、劇場、野外などで直接」(3.0%)、「語学テープ」(2.4%)の順となっている。なお、「ラジオ」や「レコード」から録音している者は、特に若年層に多く(例えばラジオから録音している者は、15才~24才以下では70%以上)、また録音頻度の高い者は「ラジオ」からよく録音する傾向がある。
なお、工業会調査及び三団体調査の結果からも同様の傾向にあることがいえる。 |
(4)録音対象 |
総理府調査では、録音機器を所有し、かつ、録音経験を有する者が、「主に何を録音するか」については、「歌謡曲」(56.1%)と「ポピュラー、ジャズ、フォーク、ロック」(48.2%)が圧倒的に多く、次いで「自分や家族の歌や声」(16.0%)、「クラシック」(10.6%)、「邦楽、民謡」(10.3%)、「語学もの(英会話など)」(7.7%)の順に多い。
また、工業会調査及び三団体調査においても歌謡曲、ポピュラー等の軽音楽の録音が圧倒的に多い。 |
(5)個人録音テープの保有状況 |
工業会調査によれば、個人録音テープを所有している者の平均手持ち巻数は12.4巻である。また三団体調査では、個人録音テープを所有している者の平均手持ち巻数は14.1巻である。 |
(6)レコードなどの購入状況 |
工業会調査によれば、過去1年間にレコード、テープ(生テープを含む。)を購入した者(調査対象者の61.6%)の1人当たりの購入量では、1~4枚(巻)以内の者が過半数を超え、1~9枚(巻)以内の者では約8割に達する。購入者の1人当たりの平均購入量は、シングルレコード5.1枚、LPレコード5.4枚、ミュージックテープ4.0巻、生テープ7.4巻となっている。
なお、三団体調査によれば、この1年間におけるレコード、テープなどの購入量は、購入者の平均で、レコード8.0枚、ミュージックテープ1.6巻、生テープ9.7巻である。 |
(7)レコード購入量、コンサートなどに行く回数の変化 |
総理府調査によれば、録音機器を所有し、かつ、録音経験のある者で、これまでにレコードを買ったことのある者(録音経験者の89.8%の者)に対して、まず、「レコードの購入量は、テープ・レコーダー(テープ・デッキ)を使うようになってから、減ったと思いますか。それとも増えたと思いますか。」という質問については、「かなり減った」(20.1%)と「少し減った」(22.9%)を含め「減った」とする者が43.0%であるのに対し、「かなり増えた」(1.5%)と「少し増えた」(7.4%)を含め「増えた」とする者8.9%であり、また「変わらない」とする者は45.2%である。
次に、録音機器を所有し、かつ、録音経験のある者で、いままでに、コンサート、歌手の公演、寄席、芝居などに行ったことが「ある」ものは75.4%であり、「ある」と答えた者のうち、コンサートなどに行く回数が、テープ・レコーダー(テープ・デッキ)などの録音機器を使うようになってから、「減った」(「かなり減った」及び「少し減った」)とする者が20.8%であるのに対し、「増えた」(「かなり増えた」及び「少し増えた」)とする者は5.8%である。また、大多数の者(70.3%)は「変わらない」と答えている。
また、工業会調査によれば、この1年間にレコードを購入した者(ただし、15~59才の者に限る。)のうち、この1年間におけるレコードの購入量が、「増えた」とする者は19.5%であるのに対し、「減った」とする者は39.3%で、減ったとする者が多い。また、この1年間にミュージックテープを購入した者(ただし、15~59才の者に限る。)のこの1年間におけるミュージックテープの購入量の変化については、「増えた」とする者と「減った」とする者がともに23.6%と同率であるが、録音頻度の高い者では、「増えた」とする者が多いという傾向がある。
さらに、録音経験者(ただし、15~59才の者に限る。)について、自分で録音するようになってから、「演奏会に行く回数」、「演劇・演芸・映画を見に行く回数」、「シングル及びLPレコードの購入枚数」、「ミュージックテープの購入巻数」が以前と比べて変化があったかどうかに関する調査をみると、いずれも減ったとする者が増えたとする者よりも多いという傾向を示している。 三団体調査によれば、個人録音の経験のある者のLPレコードの購入量の変化については、録音するようになってから、「LPレコードの購入量が増えた」かについては、これを肯定する者が27.1%、否定する者が35.2%となっており、また、「生の演奏会に行く回数が増えた」かについては、これを肯定する者が13.1%、否定する者が40.3%となっている。 |
(8)個人録音テープの貸借等の状況 |
総理府調査によれば、「レコードなどから録音したテープを知人・友人などの間で貸したり、借りたり、あげたり、もらったりしたこと」があるかについては、「ほとんど(全く)ない」と答えた者が調査対象者全体の73.5%を占め、「よくある」「時々ある」を含め「ある」と答えた者は21.7%である。「ある」と答えた者のうち、年令別では若年層ほど多く、特に15~24才では50%以上である。
また、工業会調査によれば、レコード、テープなどを貸借、譲渡、交換などした経験のある者は調査対象者全体の32.4%であり、そのうち特に多いのは、「レコード」(18.1%)と「自分でレコード、ラジオ等から演奏を録音したテープ」(15.8%)である。貸借、譲渡などの相手方は、友人、知人との間が多く、例えば、レコード・ラジオ等から個人録音したテープで貸借、譲渡などしたもののうち、友人、知人間のものが83.8%を占めており、家族間のものは18.2%となっている。貸借、譲渡などの経験者の行う貸借、譲渡などの年間平均回数については、レコード・ラジオ等から個人録音したテープの場合、5.6回となっている。
三団体調査では、個人録音経験者のうちこの1年間において個人録音したテープを友人、知人間に貸したことがあるものは39.0%であり、また、譲ったことがあるものは14.9%である。 |
2.録画機器の普及と家庭内録画の実態 |
(1)録画機器の保有状況 |
総理府調査によれば、一般世帯における録画機器の保有状況は2.3%であるが、現時点では、ほぼ10%に達しているとの予測も示されている(日本電子機械工業会予測)。 |
(2)録画頻度 |
総理府調査によれば、録画機器保有者の録画機器保有者の録画については、「ほとんど(全く)録画しない」者が42.9%であり、57.1%の者が録画を行っているが、その録画を行う者の録画頻度では、「1ヵ月に1回ぐらい」(22.4%)、「1週間に1回ぐらい」(14.8%)の頻度で録画する者が多く、録画を行う者の過半数を占めている。
また、工業会調査では、録画機器保有者の全員が録画したことがあり、その録画頻度については、過去1ヵ月間に録画を行った者が96.8%であり、1ヵ月間で、「20回以上」(21.9%)、「1~3回」(18.7%)、「4~5回」(17.6%)の順に多く、平均10.1回である。なお、過去1ヵ月間に録画を行っていない者(3.2%)の過去1年間の録画頻度は、平均5.6回である。ちなみに、1回当たりの録画時間については、「(30分を超え)1時間以下」(41.7%)、「(1時間を超え)2時間以下」(40.1%)が圧倒的に多く、平均では、66.5分である。
なお、社団法人日本電子機械工業会が昭和53年8月から昭和54年3月にかけて行ったビデオ産業の成長性に関する調査(以下、「ビデオ調査(注)」という。)によれば、週平均の録画回数は2.2回、1回当たりの録画時間は平均76.2分である。
(注)ビデオ調査は、東京30Km圏のビデオテープ・レコーダーを所有する世帯の世帯主及び家族(標本数400世帯、有効回収数314世帯)を対象として、面接調査法によって行われ、昭和54年5月、「ビデオ産業の成長性に関する調査報告書」として公表された。 |
(3)録画源 |
工業会調査では、「テレビ」からの録画が98.9%で圧倒的に多く、他は、ビデオカメラを使った生録が1.1%である。 |
(4)録画対象等 |
総理府調査によれば、録画を行う者が主に何を録画するかについては、「映画番組」(33.9%)が最も多く、次いで「歌謡曲番組」(26.8%)、「スポーツ番組」(18.8%)、「劇・ドラマ番組」(17.9%)の順に多い。
また、工業会調査では、「劇場用映画(洋画、邦画)」(39.5%)、「スポーツ番組」(23.2%)、「ドラマ」(19.5%)、「音楽番組」(15.7%)、「ドキュメンタリー」(14.1%)の順に多い。
この他、三団体調査、ビデオ調査においても、調査項目(選択肢)の相違から順位、比率に若干の差異があるものの、ほぼ同様の傾向がみとめられる。 次に、録画の目的については、工業会調査では、「外出などで見ることのできない番組を録画したい」(43.2%)、「自分の好きな番組を繰り返してみたい」(40.0%)、「同じ時間に重なる別の番組をみたい」(27.0%)の順に多いが、「ライブラリーとして保管しておくため」も19.5%と多い。
また、同調査によれば、個人録画したテープのうち保存したいと考えている巻数では、調査対象者の62.9%の者は1~9巻と回答しており、50巻以上の者は1.1%である。なお、平均では4.4巻である。
なお、ビデオ調査においても、録画目的、個人録画されたテープの保存等の結果は、ほぼ工業会調査と同様である。 |
(5)テープの購入状況 |
工業会調査によれば、過去1年間にテープ(生テープ、録画済みテープのいずれか)を購入した世帯は96.8%であり、生テープは96.3%、録画済みテープは4.3%である。なお、過去1年間のテープの平均購入巻数は、購入者の平均では生テープ9.7巻、録画済みテープ4.2巻である。 |
(6)レコード購入量、コンサートなどに行く回数の変化 |
工業会調査によれば、個人で録画をするようになってからの「レコードやミュージックテープの購入量」の変化については、「(大変・やや)多くなった」が8.6%であるのに対し、「(大変・やや)少なくなった」は9.6%であり、「変わらない」(66.8%)、「もともと買わない」(13.4%)とする者が多い。次に、「演奏会を聴きに行く回数」の変化については、「多くなった」が0.5%であるのに対し、「少なくなった」は3.7%であり、「変わらない」(28.3%)、「もともと行かない」(67.4%)が多数を占めている。
また、「演劇・演芸・映画を見に行く回数」の変化については、「多くなった」が1.6%であるのに対し、「少なくなった」は4.2%であり、「変わらない」(26.2%)、「もともと見に行かない」(67.9%)とする者が多い。
次に、三団体調査では、個人録画を行うようになってからの「LP盤を買う枚数が増えたか」については、「その通りだと思う」が22.0%であるのに対し、「そうは思わない」が49.5%である。そして、「どちらともいえない」が19.8%で、「もともと買ったりしない」が7.7%である。また、「生の演奏会を聴きに行く回数が増えたか」については、「その通りだと思う」が8.8%であるのに対し、「そうは思わない」が45.1%であり、「どちらともいえない」が19.8%、「もともと行かない」が25.3%である。また、「映画を見に行く回数が増えたか」については、「その通りだと思う」が4.4%であるのに対し、「そうは思わない」が50.6%である。そして、「どちらともいえない」は24.2%で、「もともと見に行かない」が19.8%である。 |
(7)個人録画テープの貸借等の状況 |
工業会調査によれば、友人・知人等の間においてビデオ機器、テープを貸借・譲渡した経験がある者は6.4%であり、「生テープに番組を録画したテープ」を貸借・譲渡した者は5.3%となっている。また、このテープの貸借等の相手方は、10人中8人は「友人・知人」であるが、残りの2人は家族を除く「その他」と答えている。なお、年間の貸借等の回数は、平均2.4回である。 また、三団体調査では、録画機器所有者のうち、個人録画したテープを知人・友人に貸した経験のある者が20.9%であり、また、あげた経験のある者は6.6%である。なお、個人録画したテープを「仕事用に使った」(13.2%)、「多数の人が集まる行事に使った」(16.5%)とする者がいる(この点については、上記工業会調査では該当者なしである。)。 |
II 著作権法制と国際的検討の動向
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1.現行法 |
現行著作権法では、私的使用のための複製(録音・録画を含む広い概念)について次のように規定している。 |
法第30条(私的使用のための複製) 「著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる。」
ところで、この法第30条を含めて、いわゆる著作権の制限規定の解釈については、著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書(昭和51年9月)において次のように述べられているところである。
「著作権制度は、第一義的には著作者等の権利の保護を目的とするものであるが、併せて社会における著作物の利用が円滑に行われるよう配慮し、それにより文化の一層の普及と発展に寄与しようとするものである。この点に関し、現行著作権法は、その第1条にその目的を掲げ、「この法律は、著作物……に関し著作者の権利………を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」としている。この「公正な利用」の具体的な措置の一つとして、著作権の制限、すなわち著作権の内容が一定の場合に一定の条件の下において制限されることが定められているが、著作権の制限は、著作物の利用の面からは「公正利用」又は「自由利用」といわれている。どのような範囲や態様における利用をもって「公正利用」であると考えるべきかは、経済、社会、文化の発展段階に応じて変化していくものであろうが、いずれの場合においても、その根底には著作権者の利益を不当に害するような利用であってはならないという認識が存在するものである。従って、法第30条をはじめとする著作権の制限規定は、本来認められるべき著作権を制限するものであるという条文の性格上、厳格に解釈されなければならない。」(同報告書、11頁)
そこで、以上の趣旨を踏まえ、改めて法第30条の解釈を説明することとする。まず第一に、複製できる者(複製主体)については、「使用する者が複製することができる」と規定し、複製主体を使用者本人に限定している。もっとも家庭内においては、例えば、親の言い付けに従ってその子が複製する場合のように、その複製行為が実質的には本人(親)の手足としてなされているときは、当該使用する者(親)による複製として評価することができる。しかしながら、いわゆる音のコピー業者のような複製を業とする者に依頼する複製は、この要件に該当しないものと解する。
次に、複製の手段である複製機器は使用者がこれを保有していなければならないのかどうかという問題がある。このことについて、条文上その要否は必ずしも明らかとはいえないが、本条は、使用する者が自ら行う複製行為を許容したものであることから、本条の趣旨として自己の支配下にある複製機器によるべきことが要請されているものと解する。したがって、自己の所有している機器の場合はもとより、継続的使用を目的として借りている機器については、自己の支配下にある機器と考えることができるが、他人の設置したコイン式複写機器による複製のような場合において、これを自己の支配下にある機器によるものと認めることについては消極的に解せざるを得ないところである。
第三に、使用目的は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」とする場合でなければならない。個人の娯楽や学習などのために録音したり、家族で楽しむために録画したりする場合などが典型例である。また「これに準ずる限られた範囲内」とは、人数的には家庭内に準ずることから通常は4~5人程度であり、かつ、その者間の関係は家庭内に準ずる親密かつ閉鎖的な関係を有することが必要とされる。したがって、例えば、親密な特定少数の友人間、小研究グループなどについては、この限られた範囲内と考えられるが、少人数のグループであってもその構成員の変更が自由であるときには、その範囲内とはいえないものと考える。
第四に、複製の対象は、「著作権の目的となっている著作物」であるが、その著作物の種類及び性質は問わないし、また、著作物が公表されているかどうかについても問わないこととされている。
その他、本条によって適法に作成された複製物の保存についての制約あるいは著作物(複製物)の市場や価格に与える影響という点から導き出される制約などが本条による複製行為について存するものであるかどうかについては、条文上明定されてはいないが、著作権者の正当な利益を不当に害しないことが、本条の複製についても当然の前提とされているものと考えられるところから、その範囲は明確でないとしても、複製については一定の制約があるものと解されている。このようなところから、例えば、家庭にビデオ・ライブラリーを作るためにテレビ番組などを録画して、これを保存することは、本条の趣旨を逸脱するものであるとの解釈もあるところである。 また、本条の規定は、著作隣接権の目的となっている実演、レコード又は放送の利用について準用されている(法第102条第1項)ので、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用することを目的とする場合には、使用する者はこれら実演、レコード又は放送を前記の条件のもとに複製することができることとなる。
なお、本条の規定によって適法に作成された録音物・録画物を、営業用など私的使用の目的以外の目的のために、頒布したり、あるいはこれらの録音物・録画物によって著作物を公衆に提示することは著作権者等の許諾が必要となることに留意しなければならない(法第49条第1号、第102条第4項第1号)。 |
2.条約及び各国法制 |
(1)条約 |
著作権及び著作隣接権の制限に関し、著作権関係条約は、次のように規定している。 |
○ベルヌ条約パリ改正条約(注1) 第9条第2項 |
「特別の場合について(1)の著作物(注 文学的及び美術的著作物)の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。」 |
○万国著作権条約パリ改正条約(注2) 第4条の2第2項 |
「もっとも、各締約国は、1に規定する権利(注 複製権等)について、この条約の精神及び規定に反しない例外を自国の法令により定めることができる。ただし、自国の法令にそのような例外を定める締約国は、例外を定める各権利について、合理的な水準の有効な保護を与える。」 |
○実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約 (隣接権条約)(注3) 第15条 |
1 締結国は、国内法令により、次に掲げる場合には、この条約が定める保護の例外を定めることができる。 (a)私的使用であるとき。 (b)~(d)(略) |
2 前項の規定のほか、締約国は、国内法令により、実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関して、文学的及び美術的著作物の著作権の保護に関し国内法令で定める制限と同様の制限を定めることができる。(以下略)
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○許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約(レコード保護条約)(注4) 第6条 |
「著作権その他特定の権利による保護又は刑罰による保護を与える締約国は、レコード製作者の保護に関し、文学的及び美術的著作物の著作者の保護に関して認められる制限と同一の種類の制限を国内法令により定めることができる。(以下略)」 |
以上のように複製権の制限に関する各条約の規定は、一般的、抽象的な内容のものであり、制限の具体的な範囲や態様については、各国の法令にゆだねられているところであり、ベルヌ条約の上記規定が設けられた際のストックホルム改正会議(1967年)における当初の公式提案においては、私的使用のための複製が複製権の制限の例示の一つとして掲げられていたように、私的使用のための複製は、著作権の制限の典型的な例として国際的にも理解されているということができる。
なお、WIPO(注5)のベルヌ条約逐条解説書によれば、私的使用に関して著作物の複製を認めている法律が多いが、複写機器、録音機器などの新しい複製技術の出現に伴い、事態は変化しているとし、
「ディスクあるいはカセット(再録音・録画)または放送波(ラジオのほかテレビジョンも)のいずれかから、良質の音と影像の記録を作成することは、子供にできるほど容易である。私的使用に関する制限の考え方は、コピーを私的に大量に作成することが可能になると、実効性を欠くことになる。」 との指摘がなされている。 |
(注1)ベルヌ条約パリ改正条約 ベルヌ条約は、1886年に創設されて以来数度にわたり改正されているが、1971年にパリで改正された最新の改正条約がこの条約である。 |
(注2)万国著作権条約パリ改正条約 国著作権条約は1952年に成立したものであるが、1971年にベルヌ条約と同時に改正された条約がこの改正条約である。 |
(注3)隣接権条約 この条約は、1961年に実演家、レコード製作者及び放送事業者の国際的保護を図るために作成され、1964年に発効したものである。我が国は未加盟である。 |
(注4)レコード保護条約 この条約は、レコードの海賊盤の防止を図るため、1971年に作成され、1973年に発効している。我が国は1978年にこれを締結した。 |
(注5)WIPO World Intellectual Property Organization(世界知的所有権機関)の略称。1967年ストックホルムで作成された世界知的所有権機関を設立する条約に基づいた国際機構であり、主要な任務として、全世界にわたって知的所有権の保護を改善すること、ベルヌ同盟の管理業務を行うこと等が挙げられている。国際連合の専門機関でもある。 |
(2)各国法制 |
ほとんどの国においては、複製できる著作物等の種類及び範囲や複製の態様などに若干の相違があるものの、私的使用のための複製を著作権等の制限の1つとして容認している。その主なものを列挙すれば、次のとおりである。 |
○イギリス 調査又は私的研究のために著作物を公正に利用することは、著作権侵害にならないが、映画の著作物については、このような特段の規定がないので、公正利用は認められないものと解される。 |
○フランス 複製する者の私的使用に厳密に当てられ、かつ、集団的な利用に供されない場合には、公表された著作物を複製することができる。なお、実演家等の著作隣接権の保護についての国内法は存しない。 |
○スウェーデン 私的使用のために、発行された著作物やレコード、放送などから少数の複製物を作成することができる。これらの複製物は、他の目的に利用してはならない。 |
○アメリカ合衆国 批評、解説、ニュース報道、授業、研究、調査等を目的とする著作物(録音物を含む。)の公正使用は、著作権の侵害とならないとされ、また、個々の使用が公正使用となるかどうかを判断する場合の考慮すべき要素として、著作物の性質、使用の目的及び性格、使用された部分の量及び実質、著作物の潜在的市場又は価格に対する使用の影響を明記している。なお、実演や放送についての権利を認める規定は存しない。 |
○西ドイツ 著作物、実演等を私的使用のために複製することが許容されるが、放送や録音物・録画物から録音・録画機器により私的使用のために複製することが予想される場合には、著作権者、実演家等は、録音・録画機器の製造者等に対し、機器の販売価格の5%以内の範囲において報酬を請求することができるとしている。 |
第53条 私的使用のための複製 |
(1) | 著作物の個々の複製物を、私的使用のために、作成することは許される。 | (2) | 複製の権能を有する者は、複製物を他人に作成させることもできる。著作物を録画ないし録音物へ写調すること、及び美術の著作物を複製することについては、それが無償で行われる場合に限り、また同じ。 | (3) | 複製物は、これを頒布することも、公の再生のために利用することもできない。 | (4) | 著作物の公の口述、上演又は上映を録画ないし録音物に収録すること、美術の著作物の見取図及び設計図を実施すること、及び建築の著作物を模造することは、つねに権利者の同意を得た場合に限り許される。 | (5) | 著作物が、私的使用のために、放送を録画ないし録音物に収録することにより、若しくは録画ないし録音物を他の録画ないし録音物へ写調することによって、複製されることが、著作物の性質上、期待される場合には、その著作物の著作者は、そのような複製に適した機器の製造者に対して、その機器の販売によって生ずる複製の可能性について報酬の支払を目的とした請求権を有する。その機器を、この法律の適用地域において営業として輸入又は再輸入する者は、機器の製造者とともに、連帯債務者として責を負う。機器が、この法律の適用地域において、諸般の事情から、さきの複製を行うためには利用されないことが多分に期待できるときは、請求権は存しない。請求権は、管理団体を通してのみ行使することができる。製造者が機器の販売につき見込んだ収得金に対する相当なる配当が、各権利者に、報酬として帰属する。第84条、第85条第3項及び第94条第4項に基づく権利者をも含め、すべての権利者の報酬請求の額は、この売得金の100分の5を超えてはならない。」 |
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なお、本条第5項は、第84条(実演家の保護)、第85条第3項(録音物製造者の保護)及び第94条第4項(映画製作者の保護)で準用されている。 |
○オーストリア 1980年、著作権法の一部改正により、私的使用のための複製の規定を改正し、複製しうる著作物の範囲の拡大を図ったこと、複製物の部数を少部数に限定したことなどの規定の整備を行ったほか、生テープの販売者に対する公正な報酬を請求する権利を著作者、実演家、レコード製作者等に認めるという制度を導入し、1981年1月1日から実施された。(録画については1982年7月1日から実施されることとなっている。) |
第42条 何人も、その私的使用のために著作物の複製物を少部数作成することができる。 |
2 | 著作物を公に提示する目的で複製物を作成することは、私的使用のための複製に該当しない。 | 3 | 少部数の複製物は、委託を受けて他人の私的使用のためにも作成することができる。ただし、美術の著作物又は映画の著作物の複製は、無償で行う場合に限る。委託者の私的使用のために対価を得て文芸の著作物又は音楽の著作物を手写又はタイプライター以外の方法で複製することは、著作物の小部分の場合又は未発行若しくは絶版の著作物に係る場合に限り、許容される。 | 4 | 図面又は設計図にしたがって建築の著作物を完成すること、又は、このような著作物を模倣して建設することは、いかなる場合においても、それについて権限を有する者の許諾を必要とする。 | 5 | 放送された著作物又は商業目的で録画用又は録音用の素材に固定された著作物が、その性質上、私的使用のために、録画用又は録音用の素材に複製されることが予想される場合において、このような複製が予定された未使用の録画用又は録音用素材が商業目的で、かつ、有償で国内において頒布されるときは、著作者は、公正な報酬を請求する権利を有する。ただし、そのような未使用の録画用又は録音用の素材が国内において使用されない場合又は私的使用のための複製に使用されない場合は、この限りでない。公正な報酬を請求する権利を立証するためには、一応の証拠をもって足りる。その報酬の決定に際しては、特に素材の使用可能時間が考慮されなければならない。報酬は、国内において、商業目的で、かつ、有償で録画用又は録音用の素材を最初に頒布した者によって支払われる。 | 6 | 前項に基づく請求は、管理団体によってのみ行われる。 | 7 | 録画用又は録音用の素材を公正な報酬を含んだ価格で購入する者で、私的使用以外の目的のための複製にそれらを使用する者は、管理団体に対して公正な報酬の返還を請求することができる。ただし、私的使用以外の目的のための使用が著作物の自由利用にあたる場合には、この限りでない。返還請求権を立証するためには、一応の証拠をもって足りる。」 |
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本条の規定は第69条第3項(実演家関係)、第76条第4項(レコード製作者関係)及び第74条第7項(写真に関する権利の所有者)において、準用されている。
なお、改正法を検討した司法委員会の報告は、最初の年においては全権利者に対する報酬は1,000万シリング(約1億8,500万円)を超えるべきでないという見解を示している。 |
3.国際的検討の動向と各国の対応 |
(1)国際的検討の動向 |
万国著作権条約政府間委員会(注1)及びベルヌ同盟執行委員会(注2)は、1975年(昭和50年)12月にスイスのジュネーブで開催された会期において、「ビデオカセット及びオーディオビジュアルディスクの使用から生ずる法律問題に関する作業部会」の設置を勧告し、この勧告に従ってユネスコ及びWIPO両事務局長によって招請された専門家で構成された同作業部会の会議が、1977年(昭和52年)2月にジュネーブで開催された。
作業部会では、ビデオグラム等の私的使用及び教育目的の利用の問題について審議が行われ、その結果は次のとおりである。
「ビデオグラム(「影像と音の連続の物的支持物及びその支持物に収録された影像と音の連続の固定物自体の両者」を意味する。)の私的使用によって惹起される法律問題に関して、私的使用はベルヌ条約(パリ改正条約)第9条第2項に基づき無条件で適法となるわけではなく、私的使用が許容されるためには、複製が著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことが必要である。ビデオグラムをビデオカセットとして複製することの容易さからみて、このような複製方法は前記の規定に定める限定条件を充たさず、したがって、その複製は前記条約に基づく排他的複製権に従わなければならないと思われる。また、万国著作権条約パリ改正条約が許容する複製権の例外も、その範囲に関する限りではベルヌ条約第9条第2項に規定する例外と本質的に異なるものではないと考える。
前記2条約に規定する複製権に対する制限の限定的な見方を大多数の国内法は考慮していないけれども、作業部会は、これらの制限の趣旨を尊重するならば、技術の発達普及によってビデオグラムの私的複製が行われる場合に著作者が自らの排他的複製権を有効に行使することができないときの唯一の解決策としては、著作者又はその権利承継人のために包括補償金(a global compensation)の制度を設けることにあると考える。また、その補償金の支払いは、税金その他の公課ではなくて、排他的権利を行使する機会を奪われることに対する代償の性質を有するものである。なお、その補償金は複数機器自体を対象とすべきか、又は音と影像の連続が固定される物的支持物(the material support)を対象とすべきかの問題については、専門家は後者の解決策の方を選ぶべきものとする。
次に、著作隣接権に関しては、隣接権条約第15条では私的使用の全面的な免除を規定しているので、著作隣接権者は著作者のように、私的使用のための複製に関して同条約に規定する排他的権利を主張することができない。もっとも、ビデオグラムの普及及び複製の容易さは、実演家、レコード製作者及び放送事業者を害することとなるので、専門家は、条約上の義務を援用することは不可能であるけれども、衡平を考えれば、著作隣接権者に対しても包括補償金の分配へ参加できる旨を国内法で規定することができると考える。」
その後、万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会の合同会議は、1977年(昭和52年)11月、パリにおいて開催され、本問題の今後の取扱いについて検討した結果、問題の緊急性にかんがみ、翌年上半期に両委員会の合同小委員会を招集して、この問題を更に研究することとなった。そして、そのための会議が、1978年(昭和53年)9月、パリで開催され、作業部会報告書、この報告書に対する各国及び各国際非政府機関の意見並びにこの問題に関する各国の法制、現在の対応及び将来の方針を主たる討議資料として審議を行った。その結論は次のとおりである。
「合同小委員会は、ビデオカセット又はオーディオビジュアルディスクに含まれている著作物、実演の権利者が既に被っている損害にかんがみ、現実的な対策を早急に見出す必要性があることを特に強調するとともに、この結論が録音物(sound recordings)にも適用されるべきものと考える。
ビデオグラムの私的使用に関しては、家庭内で適法に行われる録音・録画と違法な録音物・録画物の作成との間を区別することにより私的使用の概念の範囲を明確にする必要があると考える。しかしながら、複製を確実に監視しうる技術が存せず、それ故に、現実に排他的権利を行使しえない状況においては、私的使用のためのビデオグラムの使用により権利者が被る損害を緩和することを期待して、何らかの補償制度を採用することを勧告する。この補償制度は、著作物の複製及び上映(projection)に使用される機器若しくは影像と音の連続が固定される物的支持物のいずれか一方又は双方の販売価格に対する賦課金から成るものとすべきであり、後者の方が最も望ましい補償といえる。」
また、隣接権条約政府間委員会小委員会においても、ビデオグラムの私的使用に関し、前記ベルヌ・万国合同小委員会の結論に賛成する、とした。 1979年(昭和54年)2月、ジュネーブで開催された万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会合同会議では、先の合同小委員会が採択した報告書の審議を1979年10月まで延期し、その間にベルヌ条約及び万国著作権条約の締約国に同報告書に対するコメントを提出する機会を与えることとなった。そして、1979年(昭和54年)10月、パリで開催された万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会は、合同小委員会が採択したビデオグラムの私的使用より生ずる著作権問題の解決のための勧告を大筋においては是認したものの、なお、若干の問題(特に賦課金制度)については、更に深く研究する必要があるとして、両委員会は、1980年(昭和55年)に招集される専門家グループ(有線テレビジョンの著作権分野における影響の問題を検討するためのグループ)が、オーディオビジュアル・カセット及びディスクの使用による経済的影響、特に賦課金の導入から生ずる影響の問題をも併せて検討するよう希望を表明した。
1980年3月、ジュネーブで開催された専門家グループの会議においては、私的使用のために複製された複製物は、後に権利者の許諾なしに商業目的に利用される要因となる場合があることが指摘されたものの、この私的複製の問題は1981年(昭和56年)3月にWIPOが開催するレコード、映画等の海賊版(盤)に関する公開討論会において扱うべきでなく、賦課金制度の問題は別の機会に検討すべきこととされた。(なお、私的録音・録画の問題についての研究は、私的複写複製の問題とともに、次のWIPOの事業計画(1982年~83年)に含まれる見込みである。) |
(注1)万国著作権条約政府間委員会 1971年パリで改正された万国著作権条約第11条に基づき設置された委員会。その任務は、1.万国著作権条約の適用及び運用に関する問題を研究すること 2.万国著作権条約の定期的改正を準備すること 3.ユネスコ、ベルヌ同盟、アメリカ州諸国機構等の諸種の関係国際機関と協力して著作権の国際的保護に関するその他の問題を研究すること 4.万国著作権条約締約国に対し自己の活動を通報することである。 |
(注2)ベルヌ同盟執行委員会 1971年パリで改正されたベルヌ条約第23条に基づき設置された委員会。その任務は、ベルヌ同盟が継続的に、かつ、十分に機能することを確保することの他、ユネスコなど他の国際機関と協力して著作権の国際的保護に関する諸問題について研究することなどである。 |
(2)各国の対応 |
○イギリス 録音・録画問題を含む著作権の全分野について、その問題点及びその解決方策について検討することを目的として、1973年(昭和43年)に設置された委員会(委員長ウイットフォード判事)が、報告書をまとめ、その報告書(通称「ウイットフォード・レポート」)は、1977年に国会に報告された。その報告書のうち、録音・録画に関する部分を要約すると、次のとおりである。
「家庭内における録音・録画機器の使用から生ずる著作権問題に関しては、侵害行為の取締りが実行不可能であり、かつ、侵害が広範に行われているという事実認識の下における、唯一の満足すべき解決方法は、録音・録画機器の販売価格に対する賦課金の導入である。すなわち、私的な録音・録画に適するすべての録音・録画機器について、それが私的な目的に使用されるか否かを問わず、また国内で製造されたものか輸入されたものかに拘らず、その販売に対して賦課金を課する制度を適用することを勧告する。その賦課金に対して責任を負うべき者は、機器の製造者又は輸入業者とすべきであろうし、また、賦課金を徴収するための団体を指定することについては、審判所よりも商務大臣に委ねた方がよいと思われるが、賦課金の料率、その適用及び収益の分配に関しては、法定の審判所に管轄権が与えられるべきことを勧告する。」
以上のように、ウイットフォード・レポートでは、西ドイツで実施されているものに類似した賦課金制度の導入を勧告しているが、政府部内ではその取扱いについて目下検討中であり、具体的な法改正の動きには至っていない。 |
○フランス 録音機器による録音が作詞家及び作曲家に与えている損害にかんがみ、録音機器に4%の課税を行い、これを音楽及び舞踊関係の社会保障制度、助成基金に充てるための、財政法改正案(1976年)が国民議会(下院)に提出されたが、採択されなかった。
なお、未使用のテープに対して課税を行うことを内容とする法案を現在検討中である。 なお、複写の分野については、財政法の一部を改正し、文芸作家等を助成するため、複写機器の製造・販売等を行う者に対し、機器販売価格の3%を課税・徴収することができることとなっている(1976年1月1日発効)。 |
○スウェーデン 私的な録音・録画の問題に関し、録音・録画用の機器又は素材のいずれか一方又は双方に賦課金を課すということについては、目下、政府部内の著作権法改正検討委員会において検討中である。 |
○アメリカ合衆国 これまで主として教育目的のための録音・録画問題に関心があったが、1979年(昭和54年)には、家庭内における録音問題に関して二つの報告書(注1)が出され、また、家庭内における放送番組からの録画に関する(注2)判決が出された。今後、これらを1つの契機として更に調査研究が進められるものと考えられる。 |
(注1)1つは、「テープ再生機器を保有している家庭の調査報告書」(1979年9月)であり、これは、著作権使用料審判所の外部委託調査であり、14歳以上の者1,500名を調査対象とし、保有する録音機器の形成、録音実態(録音の有無、録音の頻度、録音源など)、レコード・生テープの購買状況、テープ録音がレコード購入に与える影響などについて調査が行われた。
他の報告書は、「家庭内テープ録音に関する委員会の報告書」(1979年11月)であり、家庭内のテープ録音問題を研究、調査するに至った経緯、調査手続、方法、上記報告書の概要などを内容としている。 |
(注2)放送された映画の家庭内録画が、フェアユース(公正使用)として許容されるかどうかという問題について争われ、1979年10月2日、カリフォルニア連邦地方裁判所判決において、フェアユースと認められたもので(現在上訴中)、この判決を、通常、ベータマックス判決と呼んでいる。
訴訟の概要は、テレビ映画製作者(ユニバーサル・シティ・スタジオ及びウォルト・ディズニー・プロダクション)が、ベータマックスの製造者、販売者、小売店、広告代理店、所有者を相手どって、放送された映画を録画機器により家庭内使用のために録画することは映画製作者の著作権を侵害することなどを理由に、差止め及び損害賠償の請求をしたものであるが、これについて裁判所は、その利用はフェアユースに該当し、著作権侵害とはならないと判示した。なお、家庭内における録音・録画の問題の実質的な解決は立法政策に課された問題である旨が判決理由の中に述べられていることも注目される。 |
○西ドイツ 私的使用のための音楽著作物の録音をめぐる訴訟等を背景に、1965年の著作権法の全面改正により、著作者及び著作隣接権者が、録音・録画機器の製造者等に対し、その機器の販売価格の5%の範囲内において、補償金(報酬)の支払を請求しうることを認める制度(いわゆる西ドイツ方式)を導入した(法第53条第5項)。
しかし、録音・録画機器製造者に対して報酬支払請求をしうるとする法第53条第5項に対しては、機器製造者側の強い反発を招き、同項を憲法(いわゆるボン基本法)違反であるとして、連邦憲法裁判所への異議申立てが行われた。これに対して連邦憲法裁判所は法第53条第5項の規定は機器製造者の基本権を侵害していない旨の決定をした(1971年7月7日決定)(注)。
その後、機器の普及率の伸び悩みやより安価な機器の登場などにより権利者団体に支払われる賦課金収入が予想外に伸びないことから、権利者団体からこの制度を更に拡充し、生テープ製造者からも賦課金を徴収できるようにすべきであるなどの運動が起こっている。さらに、1980年には、現行規定では報酬請求額は機器の販売価格の5%の範囲内とされているのを「相当な報酬」を請求することができるとすること等を内容とする法務省参事官草案が出されている。 |
(注) |
1.異議申立人である録音機器製造者の主張の要点 |
1) | 立法者は現行規定を設けるに当たって、不当な事実前提より出発した。すなわち、著作者の収入は録音機器出現後大巾に増加した。 | 2) | 立法者は現行規定を設ける録音機器の製造は何ら著作権侵害を意味せず、著作権法上全く価値中立的なものであるにもかかわらず、録音機器製造者に賦課金の支払義務を課することは基本法第3条(法の下の平等)に反する。賦課金を課するとするならば、テープの量が生じうる著作権侵害の範囲を決めるのに正当な尺度であるから、テープ製造者に課するのが実際的である。 | 3) | 機器製造者に報酬の支払いを義務づけることによって、機器製造者に特別の義務を課し、財産的損失を被らせることは、基本法第14条(財産権の保障)の規定に違反する。 | 4) | 機器製造者が合理的な理由なしに販売者や消費者に比べて不利益を受けることは、本質的には、営業を営むことを制限し、基本法第12条第1項(職業選択の自由)に反する。 | 5) | 報酬支払義務を、保護著作物の複製をする「可能性」に関連づけることは、法治国家の原理に反する。 |
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2.連邦憲法裁判所の判断 |
2.著作権審議会第5小委員会(録音・録画関係)審議経過
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昭和52年 |
第1回 10月4日(火) 検討すべき事項の説明、それに対する質疑応答 |
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第2回 11月15日(火) 家庭内録音・録画に関する実態調査(三団体調査)について |
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第3回 12月20日(火) 録音・録画に関する著作権問題をめぐる各国の状況について |
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昭和53年 |
第4回 2月14日(火) 法第30条による録音・録画の許容から生ずる問題について |
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第5回 3月28日(火) 法第30条と隣接権条約等との関連について 著作物の放送使用料等に補償費を加算することによる解決方法について |
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第6回 5月9日(火) 家庭内録音・録画の主なソース別の論点及びこれまでに提出された主な意見について |
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第7回 6月9日(金) 法第30条の範囲を超える録音・録画から生ずる問題について |
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第8回 7月14日(金) 西ドイツ方式について |
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第9回 9月7日(木) 西ドイツ方式について |
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第10回 10月24日(火) 参考人(放送作家関係者及びビデオ関係者)の意見陳述、それに対する質疑 |
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第11回 11月28日(火) 工業会及び総理府の実態調査について |
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第12回 12月18日(月) 録音・録画に関する3つの実態調査 (「総理府調査」「工業会調査」及び「三団体調査)について |
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昭和54年 |
第13回 1月23日(火) 今後の審議の進め方について |
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第14回 2月23日(金) 法第30条により許容される録音・録画の範囲や条件について |
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第15回 3月23日(金) 録音・録画に関する実態調査上の問題点について |
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第16回 4月17日(火) 録音・録画に関する理論上の問題点について |
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第17回 5月22日(火) 著作権者等に対する補償の必要性及びその理由について |
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第18回 7月30日(月) 「学校その他の教育機関における録音・録画」及び「視覚障害者向けの録音テープの作成」について (映画関係者及び図書館等関係者から意見聴取) |
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第19回 9月25日(火) 複写複製に関する著作権問題等との関連について |
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第20回 11月21日(水) 録音・録画問題に係る最近の国際的動向について |
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昭和55年 |
第21回 1月23日(水) 録音・録画問題に係る最近の国際的動向について |
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第22回 3月26日(水) 録音・録画問題に関する対応策について 法律問題等整理委員会の設置について |
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第23回 12月18日(木) 法律問題等整理委員会の審議結果について 第5小委員会報告骨子(案)について |
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昭和56年 |
第24回 5月29日(金) 第5小委員会報告書(案)について |
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第25回 6月19日(金) 第5小委員会報告書(案)について |