○第1小委員会の審議結果について
    昭和58年9月9日



    目 次
    1 著作物の複製物の貸与の取扱い及び映画の頒布権の見直し
    2 貸レコードに関する実演家、レコード製作者の権利の取扱い
    3 第30条の規定(私的使用のための複製)の明確化等


    現行著作権法制定以来既に13年を経過し、その間の録音・録画機器、複写機器、コンピュータ等新しい著作物利用手段の著しい開発普及に伴い、現行法制定当時に予想しなかつた著作権制度上の課題が生じており、特に最近では、レコードをはじめとする著作物の複製物のレンタル業の普及あるいはテープの高速ダビング業の出現により新たな著作権問題が生ずるにいたつている。このような状況に鑑み、本年1月、著作権審議会総会において、著作権法改正等のための審議を開始することとし、問題の緊急性等諸事情を勘案して、(1)著作物の複製物の貸与の取扱い及び映画の頒布権の見直し、(2)貸レコードに関する実演家、レコード製作者の権利の取扱い、(3)第30条の規定(私的使用のための複製)の明確化等、(4)隣接権条約への加入の問題を取り上げることが決定された。

    当第1小委員会は、総会の付託を受けて、本年2月より2度の関係団体の意見聴取を含む20回の会合を開き、著作権法改正のための当面の緊急課題として(1)から(3)の事項について検討を重ねてきた。7月26日にはそれまでの審議の概要を中間的にまとめて総会に報告したが、それについての総会における審議及び関係団体の意見を踏まえつつさらに審議を行い、今回当小委員会としての審議結果をまとめ、総会に報告することとしたものである。なお、(4)の事項については、事柄の性質に鑑み、別途検討することとしている。

    当小委員会の審議結果は、次のとおりである。


    1 著作物の複製物の貸与の取扱い及び映画の頒布権の見直し
    1)貸レコード、貸ビデオ等著作物の複製物の公衆への貸与が、現在著作権が及ぶこととされている他の著作物の利用態様と同じく著作物の有力な利用態様となりつつあり、著作物の複製によりもたらされる著作物の経済的利益に影響を与えている一方、現行法でも頒布権が規定され、公衆への貸与について権利が及んでいる映画(ビデオ・ソフトを含む。)は別として、著作物の複製物の貸与により得られる経済的利益に著作者が関与できないことは社会的不公平感を生み出すもととなつている。このような状況に鑑み、映画以外の著作物の複製物の公衆への貸与について著作者に新たに権利を認める必要がある。
    2)映画以外の著作物の複製物の貸与の問題に対応するためには、貸与行為に限らず広く頒布行為を対象とした頒布権を認め、複製物が一旦譲渡された後の再譲渡は自由とするが、公衆への貸与については複製物譲渡後も頒布権を及ぼすことが考えられる。しかし、このことについては、著作物の複製物の流通をコントロールすることができる強力な権利として現行法では映画に関してのみ認められている頒布権を一般の著作物に認めることとした場合に社会に与える広範な影響について慎重に検討する必要があること、各国の例を参考として頒布権を一般の著作物について認めるとしても頒布の際に付けられた条件、特に頒布目的についての制限がどの程度の効力を持つかについて必ずしも明確ではないこと、国際的にも頒布権についての研究がこれから進められようとする段階にあり、その動向を考慮する必要があること等から、今後の課題とすることが適当である。
    3)1)及び2)に鑑み、著作者に認める権利の内容としては、著作権の種類の1つとして映画以外の著作物の複製物の公衆への貸与(いかなる名義、方法によるかを問わず、実質的にこれと同様の効果を生じさせる行為を含む。)についての許諾権とすることが適当である。

    但し、書籍その他の出版物については、図書館、貸本業等により長い年月にわたり貸与による利用が自由に行われてきているという経緯があること、貸本等が出版物の流通に影響を及ぼし、著作者の利益を著しく害するという利用の実態にはないこと等に鑑み、例外とする。この場合、楽譜については、従来は音楽出版者が貸与専用の楽譜を作成し、オーケストラ等に利用させるのが貸与の主たる形態であつたが、最近、市販の楽譜を購入して貸与するという新しい貸与の形態が出現しつつある実態を踏まえ、慎重に取扱う必要がある。
    4)その複製物の公衆への貸与について頒布権が及んでいる映画については、ベルヌ条約との関係からも頒布権を維持する必要があるが、劇場用映画及び放送用映画の配給の実態に着目して立法されている映画の頒布権の内容に関しては、ビデオ・ソフトが大量に市販される等その流通の実態が現行法の制定当時とは著しく異なつてきている面があり、市販物の購入者の所有権との調整を図り、円滑な流通を阻害しないよう配慮する必要が生じつつあると考えられる。したがつて、例えば、映画についても複製物の譲渡後の再譲渡を自由とするが、公衆への貸与については権利を及ぼすものとする等映画の複製物の流通の実態に着目した措置を講ずることを引き続き検討する必要がある。
    5)3)の措置を講ずるに当たつては、図書館、視聴覚ライブラリーによる貸与等非営利目的での貸与について、第38条(営利を目的としない上演等)その他の著作権の制限規定との均衡を考慮し、一定の範囲内で著作権の制限を定めることとする。この場合、著作者の権利を不当に制限することとならないよう、厳格を期する必要がある。

    なお、このこととの均衡を考慮して、この際、映画の頒布権についても同様の措置を講ずべきであるとの考え方もある。


    2 貸レコードに関する実演家、レコード製作者の権利の取扱い
    1)商業用レコードの公衆への貸与が実演、レコードの有力な利用態様となりつつあり、商業用レコードの複製によりもたらされる実演家、レコード製作者の経済的利益に影響を与えている一方、商業用レコードの貸与により得られる経済的利益に実演家、レコード製作者が関与できないことは社会的不公平感を生み出すもととなつている。このような状況に鑑み、著作物の複製物の公衆への貸与について著作者に権利を認めることと関連して、商業用レコードの公衆への貸与について実演家、レコード製作者に新たに権利を認める必要がある。
    2)実演家、レコード製作者に認める権利の内容としては、著作物の伝達の媒体であり、準創作的要素が認められる実演、レコード等について著作権に準じた一定の保護を与えるという著作隣接権制度の趣旨、商業用レコードの二次使用等現行法の下における録音物等を用いてする実演、レコードの利用についての実演家、レコード製作者の権利の内容との均衡を考慮すれば、商業用レコードの公衆への業としての貸与(いかなる名義、方法によるかを問わず、実質的にこれと同様の効果を生じさせる行為を含む。)についての報酬請求権とすることが適当である。

    この場合、発売直後における商業用レコードの公衆への貸与が商業用レコードの通常の流通に与える影響の大きさに鑑み、このような貸与については実演家、レコード製作者の意向にかからしめる余地を残す必要が認められ、また、実演家、レコード製作者の権利を実効あらしめるための措置が必要と考えられるところから、商業用レコード発売後短期間に限り許諾権を認める等の特例措置をあわせて講ずることが適当と考えられる。なお、その許諾権の行使に当たつては、著作者、実演家、レコード製作者の間の調整を図つて円滑を期するとともに、権利行使が慎重かつ適正に行われるよう配慮すべきことが要請される。

    なお、非営利目的での貸与については、1の5)の取扱いとの均衡を考慮して措置することとする。
    3)2)の報酬請求権を認めるに当たつては、権利者、利用者ともに極めて多数にわたることに鑑み、円滑な権利行使を図るため、団体による権利行使、報酬額についての文化庁長官の裁定等、第95条、第97条のような措置を講ずる必要がある。
    4)なお、1の3)による著作者の権利については、ベルヌ条約、万国著作権条約に規定する内国民待遇により、これらの条約によつて保護義務を負う外国の著作者についても権利が認められるが、2)による実演家、レコード製作者の権利については、現行法の下における著作隣接権の取扱いと同様、外国の実演家、レコード製作者には特に権利を認める必要はないと考えられる。
    5)商業用レコードの貸与の問題に関連し、ビデオ・ソフトの貸与についての実演家の権利の取扱いが問題となるが、この問題については、映画に録画された実演についての実演家の権利や映画の著作者の権利の取扱い全体との関連もあり、今後の検討にゆだねることが適当である。


    3 第30条の規定(私的使用のための複製)の明確化等
    1)従来の文献の複写業者に加え、最近のテープの高速ダビング業者の出現によつて著作者等の利益が害される事態が生じていることに鑑み、複製機器を設置し、営業として他人に利用させる者は当該複製について著作権法上の責任を負うものとする旨を規定する必要がある。
    2)私的使用のための複製について著作権を制限している第30条については、既に著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)、第5小委員会(録音・録画関係)の報告書においてその解釈が示されているが、同条は一般に拡大解釈されるおそれがあることに鑑み、これらについて規定上明確化することが望ましい。
    3)ベルヌ条約第9条第2項但書又は現行法第35条・第42条但書に規定されているような著作権者の経済的利益を不当に害することとなる複製は許されない旨の規定を第30条に追加すべきであるという考え方もあるが、このことについては、第5小委員会において検討された家庭内録音・録画についての抜本的解決を図ることとの関連を考慮する必要がある。

    なお、家庭内における録音・録画問題についての抜本的な解決を図るため、制度面での対応が早急に必要であるという点については異論がない。


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