○著作権審議会 第7小委員会
    (データベース及びニューメディア関係)報告書
    昭和60年9月 文化庁



    目 次
    はじめに
    第1部 データベース関係
    第1章データベースの現状
    1 データベースの定義及びその種類
    2 データベース作成の過程
    3 データベース開発等の現状
    4 データベース利用の現状
    5 データベース・サービス機関
    6 データベースに関する契約の現状
    第2章各国及び国際機関におけるデータベースに関する著作権問題の検討状況
    1 各国におけるデータベースに関する著作権問題の検討状況
    2 国際機関におけるデータベースに関する著作権問題の検討状況
    第3章著作権法による保護
    I データベースの作成と著作権
      1 蓄積される情報の著作物性
      2 抄録、抜粋の作成と原文献の著作権
      3 コンピュータの記憶装置への蓄積と著作権
    II データベース及びその関連資料の著作物性
      1 データベースの著作物性
      2 シソーラス等関連資料の著作物性
    III データベースの著作権
      1 著作者
      2 法人著作
    IV データベースの利用と著作権
      1 複製に関する権利
      2 送信に関する権利
      3 改変に関する権利
      4 音声、影像形式によるアウトプットに関する権利
      5 その他
    V 権利の制限
      1 著作権の制限
      2 強制許諾制度
    VI 著作者人格権
      1 公表権
      2 氏名表示権
      3 同一性保持権
    VII 保護期間
    VIII その他の問題点
      1 データベース・ディストリビュータ等の保護
      2 データベースの作成、利用に関する権利処理の在り方

    第2部 ニューメディア関係
    第1章有線系ニューメディア
    I CATV
     1 CATVの実態等
     2 国際的検討の動向
     3 現行著作権法の適用と問題点
     4 著作権処理等の現状と問題点
    II ビデオテックス、VRS等
     1 ビデオテックス、VRSの実態等
     2 現行著作権法の適用と問題点
    第2章無線系ニューメディア
    I 直接衛星放送
     1 直接衛星放送の実態等
     2 国際的検討の動向
     3 現行著作権法の適用と問題点
    II 衛星通信
     1 衛星通信の実態等
     2 国際的検討の動向
     3 現行著作権法の適用と問題点
    III 文字(多重)放送
     1 文字(多重)放送の実態等
     2 現行著作権法の適用と問題点
    IV 静止画放送
     1 静止画放送の概要等
     2 現行著作権法の適用と問題点
    V ファクシミリ放送
     1 ファクシミリ放送の概要等
     2 現行著作権法の適用と問題点
    第3章パッケージ系ニューメディア
     1 パッケージ系ニューメディアの概要等
     2 国際的検討の動向
     3 現行著作権法の適用と問題点
    おわりに

    (参考)
    1 著作権審議会第7小委員会
    (データベース及びニューメディア関係)委員名簿


    2 著作権審議会第7小委員会
    (データベース及びニューメディア関係)審議経過




    はじめに
    1多様な情報が大量に供給される時代においては、その膨大な情報の中から求める情報を効率良く、的確に得ることが必要になる。このような要求にこたえるのが、大量の情報を集約化し、コンピュータで検索可能な形に蓄積したデータベースである。データベースは、最近の情報処理技術や電気通信技術の発達に伴い急速に開発、普及が行われ(注)、社会の広範な場において様々な分野について作成され、利用されており、社会や産業の高度情報化に重要な役割を果たすとともに学術、文化の発展の基盤ともなっている。
    2このデータベースにかかわる権利関係については、従来、著作権法による保護について必ずしも明確な認識がないまま主として契約によつて処理されているが、データベースの開発、利用の広がりに伴い、契約関係を超えた問題も生じるところから、著作権制度上の取扱いをより明らかにすることが要請されるところとなっている。
    データベースと著作権制度とは、大きく分けて次の2つの面からかかわりを持つと考えられる。
     1)データベースとして蓄積される情報の著作権の問題である。すなわち、データベースには、学術論文や新聞記事等著作物に該当するものを、そのまま又は加工して蓄積することにより作成されるものも多く、これら既存の著作物をデータベースとして蓄積し、またデータベースから引き出すことについて著作権がどのようにかかわるかが問題となる。
     2)データベース自体の著作権の問題である。すなわち、データベース自体が著作物として著作権保護の対象となるか、著作物に該当する場合には、その著作権はデータベースの利用についてどのようにかかわるかという問題である。
     コンピュータに著作物をインプットし、又はコンピュータからアウトプットすることについて著作権がどのようにかかわるかという問題については、コンピュータに関する著作権制度上の問題を検討した著作権審議会第2小委員会(林修三主査)において考え方が整理され、昭和48年6月に報告書が取りまとめられている。しかし、その当時、我が国においてはデータベースの普及状況は極めて低い段階にあったため、データベース固有の問題についての掘り下げた整理は行われていない。

    データベースの普及が著しい勢いで進行している現状の中で今後のデータベースの保護とその円滑な利用を図り、データベースの一層の発達を促進するため、この問題についての十分な検討を行い、考え方の整理を行うことは、今や緊急の課題となっている。
    3また、近年の情報処理技術及び電気通信技術の飛躍的進歩に伴い、CATV、ビデオテックス、文字(多重)放送、衛星放送、ビデオディスク等のいわゆるニューメディアと呼ばれる新たな情報伝達手段が開発、実用化されつつある。

    ニューメディアは、文字どおり新たな情報伝達手段の総称であり、種々多様なものを含んでいる。ニューメディアを搬送形態に着目して分類すると、有線系ニューメディアとしてCATV、ビデオテックス、VRSが、無線系ニューメディアとして文字(多重)放送、ファクシミリ放送、静止画放送、直接衛星放送、衛星通信が、パッケージ系ニューメディアとしてビデオディスク、DADがある。
    4以上のように、搬送形態が異なるものの、これらのニューメディアにおいては、著作権法によって保護される著作物等が新たな態様で利用され、このような利用は今後益々増大することが予想される。こうしたことから、これらニューメディアの利用実態及び将来における利用可能性を踏まえた著作権問題の検討が、現在強く要請されているところである。

    ニューメディアに関する著作権問題には、ニューメディアの出現によって新たに問題になったもののみでなく、従来から指摘されていた問題点がニューメディアの開発、実用化に伴って顕在化し、見直しを迫られるに至ったものも存するが、それらの問題点は、次のように大別されると考えられる。
     1)ニューメディアによって伝達される著作物等の保護の問題である。すなわち、ニューメディアという新しい情報伝達手段によつて様々な著作物等が伝達されることになるため、それに関連してどのような著作権法上の問題が生ずるかということである。
     2)著作物伝達に携わる者の法的保護の問題である。すなわち、現在、著作隣接権制度によつて保護されている実演家、レコード製作者、放送事業者以外の著作物伝達に携わる者に何らかの法的保護を考える必要があるかという問題である。特に、今後、放送事業者と同様の役割を果たすことも考えられるCATV事業者等の著作権法における位置付けが問題となる。
    5以上のところから、著作権審議会(稲田清助会長)においては、昭和59年1月の総会においてデータベース及びニューメディアに関する著作権問題についての検討を開始することが決定され、そのために第7小委員会(林修三主査)が設置された。第7小委員会においては、更に、データベースとニューメディアの問題のそれぞれを専門的に審議するため、データベース分科会(阿部浩二分科会長)及びニューメディア分科会(安達健二分科会長。なお、昭和60年1月までは、安藤良雄分科会長)が設置された。

    本小委員会は、昭和59年3月から審議を開始し、分科会における審議を含めて38回にわたる慎重な審議を進めてきた。このうち、データベースに関する著作権問題については、昨年の12月にデータベース分科会の中間報告を公表し、これについての関係団体の意見も聞いたところであり、このような経緯を経て、このたび審議結果を取りまとめたのでここに報告する。

    (注)European Association of Information ServicesのEUSIDIC Database Guide(1983年)によれば、各国で利用が可能となっているデータベースは、1979年に1,280だったものが、1983年には1,845となっている。また、米国Cuadra社のDirectory of Online Databases(1985年春季号)によれば、各国でオンラインにより利用が可能となっているデータベースは、1979年に400だったものが、1983年には1,878、1985年には、2,764となっている。


    第1部 データベース関係

    第1章 データベースの現状
    1 データベースの定義及びその種類
    データベースという用語は多義的に用いられているが、本小委員会において著作権問題を検討するに当たり、データベースとは、「多数の情報を体系的に整理統合し、コンピュータによって検索し得るところの機械可読形態にした情報の集合体」と定義した。広義では、データベースは機械可読形態になっていないものを含め、一定の体系の下に整理統合された情報の集合体を指すことがある。しかし、機械可読形態でないものについては、著作権問題を検討する上で、従来の百科事典等の編集物と特段異なる問題は生じないと考えられるため、これを除外して考えることにした。また、コンピュータ・ソフトウェアを含めたデータベース・システム全体を指して言われることもあるが、コンピュータ・ソフトウェアを含めないこととした。
    データベースはその内容によって次のような種類に分けられる。

    (1)広義の文献データベース
    検索の最終目標となる情報そのものを提供するのではなく、情報の案内を目的とするデータベースであり、蓄積される情報は、通常、文字情報であるが、更に次のように分類される。
    1)狭義の文献データベース
    文献の題号、著者名などの書誌事項や抄録などを提供するもので、文献情報の案内を目的とするものである。
    2)その他の案内データベース
    所蔵目録や機関案内など文献情報以外の情報の案内を目的とするものである。

    (2)ファクトデータベース
    情報自体の提供を目的とするものであり、蓄積される情報は、文字情報、数値情報、画像情報など多様であるが、更に次のように分類される。
    1)全文データベース
    雑誌論文や法令などの全文を蓄積しているものである。
    2)その他のファクトデータベース
    人名録など文字情報を蓄積するもの、各種の統計など数値情報を蓄積するもの、地図、設計図など画像情報を蓄積するものなどがある。

    2 データベース作成の過程
    データベースの作成の過程は、蓄積される情報の種類などによって異なり、また、作成の過程を明確に区分することは困難であるが、概略を示せば次のとおりである。

    (1)情報の収集、選定
    一定の収集方針に基づいてデータベースとして蓄積する情報を収集する。収集方針はデータベースの主題、用途やデータベースの提供対象等を考慮して決定される。
    収集される情報は、学術文献、特許明細書、企業の財務データ、学術データ、各種の統計、新聞記事、法令など多様である。

    収集された情報の中から一定の選定基準に従って更にデータベースとして実際に蓄積される情報が選定される。この段階で質的に一定のレベルを満たしていない情報やデータベースとして蓄積されるのにふさわしくない情報がふるい落とされることになる。

    (2)体系の設定
    収集、選定した情報を整理統合するために、情報の項目、構造、形式等を決定してフォーマット(様式)を作成し、また、分類の体系を決定するなどのデータベースの体系の設定が行われる。この体系によって、収集、選定した情報をどのような形で蓄積するかが決定される。

    (3)情報の分析、加工
    1)情報の調査、評価
    設定された体系に従って情報を整理統合するため、不十分な情報の補正、信頼性の確認、単位の統一などが行われる。
    2)抄録作成
    文献データベースの場合には、抄録が1つの項目として蓄積されることが多いが、その長さや記述の形式、使用される用語などを統一する必要があるので、通常、データベース作成者が抄録を作成する。
    3)統計的処理等
    数値情報や画像情報の場合は、統計的処理を施したり、グラフや一覧表の形にした上で蓄積されることがある。
    4)キーワード選定
    文献データベースや全文データベースには、原資料の内容を分析し、その結果抽出される主題や重要概念を表現するキーワードが付される場合が多い。
    キーワードには、キーワードとして使用される言葉を体系的に整理したシソーラスなどの典拠リストによって統制されているものとそうでないものがある。
    5)コーディング
    コンピュータで検索し得るように、ある情報のそれぞれの項目に、それがどういう意味を持つかを示す印を付すコーディングという作業が行われる。例えば、文献データベースであれば、その項目が著者名であるか論文名であるか抄録であるかキーワードであるかなどを示す印を付けるものである。データベースシート(個々のデータを書き込むための用紙)が準備されている場合には、それに書き込むだけでコーディングが行われたことになる。

    (4)情報の蓄積
    収集、選定された情報は分析、加工の段階を経て磁気テープや磁気ディスクなどに順次編成ファイルの形で蓄積される。順次編成ファイルは、情報を収集、選択された順番に蓄積したものである。効率良く検索を行うためには更にランダムアクセスファイルが必要であり、この作成が行われる。ランダムアクセスファイルは、順次編成ファイルのある項目ごとに抜き出し、五十音順等の一定の順番に並べ直したものである。文献データベースであれば、ランダムアクセスファイルには標題名、著者名等の項目ごとに情報が蓄積されるため、これを使用して求める情報を容易に検索できる。
    蓄積が完了した後には、蓄積が正しくなされているかどうかの校正も必要となる。

    (5)その他
    (1)~(4)の過程を経て、情報の集合体であるデータベースが出来上がるが、利用者に提供するためには、利用者のためのマニュアルや検索のためのコンピュータ・ソフトウェアを作成する必要がある。

    3 データベース開発等の現状
    我が国においてデータベースは民間企業、政府機関、公益法人、大学、学会等様々な機関で作成されているが、諸外国に比べてデータベースの整備が遅れていると言われている。

    我が国において作成されているデータベースの総数を把握することは、企業などの内部においてのみ利用され一般に公開されないものも多いこと、データベースが様々な機関で作成され、また、データベースが対象とする分野も広範なことなどから極めて困難であり、網羅的な調査も行われていない。

    現存する調査結果によれば、我が国において利用されている商業データベースとしては、昭和59年度では1,242(複数のデータベース・サービス業者によって提供されているデータベースがあるため実数は924)のデータベースがあり、そのうち日本製データベースは208、外国製データベースは1,034となっている。これを分野別に見ると一般181、自然科学・技術459、社会科学・人文科学117、ビジネス466、その他19となっている(注1)。また、提供される文献データベース、ファクトデータベースの別では、我が国では、現在のところやや文献データベースの方が多いものの、ファクトデータベースの伸びは著しく、世界的に見るとファクトデータベースの方が多くなっている。

    また、各省庁で作成され、データベース管理システムによって管理されているデータベースは昭和57年度で68となっている(注2)

    (注1)昭和59年度通商産業省データベース台帳による。データベース台帳は、他人の用に供するため、データベースの構築、流通及び検索、解析等の処理を行う事業を行っているデータベース・サービス業者の申告に基づいて作成されたものである。
    (注2)昭和57年度行政管理庁(現総務庁)調査による。

    4 データベース利用の現状
    データベースの利用の形態は、オンライン方式とバッチ方式とに大別される。

    (1)オンライン方式
    データベースの運用に用いられているコンピュータと利用者が保有している端末機とを通信回線で結び、利用者は端末機からコンピュータにアクセスして直接情報を入手するものである。出力は、通常、画面へのディスプレイ、ハードコピーのプリントアウト、磁気テープや磁気ディスクへの複製など様々な形式により行われる。

    (2)バッチ方式
    利用者がデータベース・サービス業者に電話、郵便などで検索を依頼し、その結果をハードコピーのプリントアウトなどの形で受け取るものである。また、データベース自体を磁気テープなどの形で購入し、利用することもバッチ方式の一形態として考えられる。

    また、検索の種類としては、過去の遡ってある時点以降の情報を検索する遡及検索(retrospective searching)とデータベースの更新部分のみを対象とする現状追従検索(current awareness searching)がある。現状追従検索は、通常、あらかじめ質問式を登録しておき、その質問式に適合する最新の情報を検索するSDI(selective dissemination of information)の形式で行われる。

    以上がデータベースの基本的な利用形態であるが、複数のデータベースを接続したり、他の機械と連結したりすることにより一層利用の幅を広げることが可能である。すなわち、複数のデータベースを通信回線によって接続し、相互の利用を可能とすることにより、利用者は統一的な検索方法で各種のデータベースを活用できる。また、データベースと作業機械との連結については、例えば、文献目録のデータベースと文献運搬用ロボットを結合することにより、利用者の求めに応じて文献を自動的に運び出すことが可能である。さらに、CATVやビデオテックスなどのニューメディアの普及に伴い、データベースがそれらのメディアを通じて提供されることが予想されるが、これによって、データベースが一般の家庭においても一層活用されるようになり、日常生活に密着した情報が提供されるようになることが考えられる。

    5 データベース・サービス機関
    データベースが利用者に提供される場合、その過程では様々な者が関与する。
    まず、大きく分けるとデータベースを作成するデータベース・プロデューサと利用者に対しデータベースの提供を行うデータベース・ディストリビュータがある。また、ディストリビュータと利用者の間で検索業務を行うデータベース・リテーラ(インフォメーション・ブローカー)や、プロデューサとディストリビュータの間で磁気テープを仲介するデータベース・エージェントも存在している。ただし、現実には1つの機関が複数の性格を兼ね備える場合が多く、例えば、昭和59年度通商産業省データベース台帳によると、我が国のデータベース・サービス業者のうち、複数の性格を兼ね備える者が約半数に上る。

    6 データベースに関する契約の現状
    現在、データベースの利用については、契約による処理がなされている。そこでデータベースの法的保護を考えるに当たり、現在、契約にどのような内容が盛り込まれているかを概観する。
    データベース・サービスにおける取引関係はその形態に応じて次のように分類される。
    1)プロデューサが利用者に直接磁気テープを譲渡又は貸与する。この場合データベースの利用に関する権利はプロデューサに留保される。
    2)プロデューサがディストリビュータに磁気テープを譲渡する。データベースの利用に関する権利はディストリビュータに帰属する場合が多い。この形態の取引は最近では少ないと言われている。
    3)プロデューサがディストリビュータに磁気テープを貸与するとともに、データベースの提供についてのライセンスを供与する。データベースの利用に関する権利はプロデューサに留保される。ディストリビュータは、利用者からデータベース使用料金と処理料金(通信ネットワークの利用料金)を受け取り、プロデューサには所定のデータベース使用料金を支払う。
    4)プロデューサがディストリビュータに磁気テープを預託するとともに、データベースの提供を委託する。データベースの利用に関する権利はプロデューサに留保される。利用者はデータベース使用料金をプロデューサに支払い、ディストリビュータに対して処理料金を支払う。プロデューサはディストリビュータに対してデータベースの保管とオンライン化に伴う費用を支払う。

    以上のように、通常、データベースの利用に関する権利はプロデューサに留保されたまま、データベースの提供が行われる。

    プロデューサと利用者との間の契約に盛り込まれている内容としては、データベースに関する権利の帰属、使用場所や使用者の特定、無断複製などの禁止、第三者への複製物の提供や情報の伝送等の禁止などである。

    複製に関しては、ハードコピーのプリントアウトは利用者の内部利用に限定した上で、部数を限って認める場合が多い。データベースをオンライン方式により提供する場合、機械可読形式での複製は禁止しているのが一般的であるが、複製等を禁止しても実際には利用者を規制することが困難なので、最近では複製を認めてその代わりに別に料金を徴収するという例が見られる。また、磁気テープ等で提供する場合は、バックアップファイルの作成を認めるのが普通だが、必ずしも契約書に明示されない場合がある。

    プロデューサと利用者との間にディストリビュータなどが介在する場合、ディストリビュータと利用者との間の契約に盛り込まれる内容は、プロデューサと利用者との間の契約に盛り込まれるものと同様であり、その契約に複製、頒布等に関する制限条項を盛り込まない限り、プロデューサはディストリビュータとの契約に応じないというのが一般的である。



    第2章 各国及び国際機関におけるデータベースに関する
        著作権問題の検討状況

    データベースについては、国際的に流通し利用されるため、国際的な保護が図られることが必要である。アメリカ合衆国、イギリス等の各国及びユネスコ、WIPO(世界知的所有権機関)のような国際機関においても近年データベースの法的保護について関心が持たれ、検討が進められつつある。

    1 各国におけるデータベースに関する著作権問題の検討状況
    データベースに関する著作権問題について、具体的な検討が進められている主な国は次のとおりである。

    <アメリカ合衆国>
    1975年(昭和50年)に「新技術による著作物の使用に関する国家委員会」(The National Commission on New Technological Uses of Copyrighted Works、通称「CONTU」)が設置され、コンピュータ及び複写に関する問題について検討を開始したが、著作物をコンピュータにインプットし、蓄積し、及びコンピュータからアウトプットすることについての検討を行う小委員会が設置され、ここにおいてデータベースの問題も検討された。

    1976年(昭和51年)には著作権法の全面改正が行われ、1978年(昭和53年)から施行されたが、その中で文芸の著作物(literary works)が「その著作物が収録されている……有体物の性質にかかわらず、言語、数字、その他の言語的若しくは数字的記号又は符号で表現された著作物」と定義されており、これはデータベースを含むことが議会報告書においても述べられている。しかし、コンピュータに関連する著作物の使用について著作権が及ぶ範囲については、CONTUの検討結果をまたずに変更を加えることは適当でないとの判断により、旧法(1909年法)下における法的状態を暫定的に維持することとする規定を置いている(旧第117条)。

    CONTUは、1978年(昭和53年)に最終報告書を発表したが、データベースに関しては、1)データベースは編集著作物(compilation)であり、したがって著作権保護の対象となること2)コンピュータの記憶装置へ蓄積することは複製の一形態と考えられること 3)著作権により保護されるのは、個々のデータではなく、データが体系化されたものであるから、引き出された個々のデータを使用することはデータベースの権利侵害にならないが、データベースの相当の部分を引き出し、それを複製することは、著作権侵害となり得ること 4)データベースをどの程度引き出せば著作権侵害に該当するかは、公正使用(fair use)を考慮した事例ごとの分析を必要とするが、商業目的で行われる無許諾の複製については、公正使用に該当する場合は限られたものとなること等を指摘している。

    1980年(昭和55年)12月に、CONTUの勧告に従い、コンピュータ・プログラムの保護を主たる目的とした著作権法の一部改正が行われ、1981年(昭和56年)から施行されたが、同改正により、旧第117条は削除され、現行著作権法がデータベースを含む著作物のコンピュータ使用に関し全面的に適用されることとなった。

    <イギリス>
    著作権法改正委員会が1973年(昭和48年)に設置され、1977年(昭和52年)に報告書(通称ウィットフォード・レポート)が提出された。同報告書では、データベースに関して、1)データ編集物(compilations of data)は、プログラムと同様、文芸の著作物(literary works)として取り扱われるべきであること 2)コンピュータの記憶装置への蓄積は著作権が及ぶ行為とすべきであること 3)データ編集物の権利の帰属及び保護期間については他の著作物と同様に取り扱われるべきであること等を勧告している。

    イギリス政府はウィットフォード・レポートに対してその見解を示し、かつ公の批判を求めるために、著作権法改正に関する報告書(通称グリーン・ペーパー)を1981年(昭和56年)に公表した。そこではデータベースに関しては、1)著作物をコンピュータ・システムにインプットする行為は、著作権が及ぶ行為とすべきであり、この点を明確にするため、複製の定義を改正すべきであること 2)コンピュータに蓄積された著作物を画面にディスプレイすることは複製と考えられないが、ハードコピーの形でプリントアウトすることは、複製となることなどを述べている。

    <カナダ>
    消費者・企業省及び通信省は、1984年(昭和59年)5月に著作権法改正のための白書をカナダ連邦議会に提出した。
    同白書は、データベースの著作権法による保護に言及し、コンピュータに情報をインプットすることは複製に該当し得るとする一方、蓄積された情報を画面にディスプレイすることは複製には該当しないと述べている。

    <オーストラリア>
    1984年(昭和59年)6月にコンピュータ・プログラムの保護を主な目的として著作権法を改正し、その中で「文芸の著作物(literary work)」の定義にデータベースを含み得るようにした。すなわち、「文芸の著作物」には、「(人間が読み取り得るものであるかどうかを問わず)言語、数字、記号によって表現された表、若しくは編集物(compilation)」を含むと規定した。

    2 国際機関におけるデータベースに関する著作権問題の検討状況
    ユネスコ及びWIPOは、1979年(昭和54年)に「コンピュータの使用から生ずる著作権問題に関する作業部会」を招集し、検討を開始した。その後、1980年(昭和55年)の第1回政府専門家委員会、1982年(昭和57年)の第2回政府専門家委員会を経て、「著作物の利用及び創作のためのコンピュータ・システムの使用から生ずる著作権問題の解決のための勧告」が採択された。この勧告は、著作物の利用又は創作のためのコンピュータ・システムの使用は著作権保護の一般原則の適用を受けるべきであり、現在この原則の修正は必要としていないとした上で、各国がコンピュータ・システムの使用から生ずる問題に対処するための具体的指針を提示している。

    その主な内容は、1)蓄積されている情報の種類及びその支持物に関係なく、情報の収集物(collections)及び編集物(compilations)(多数の著作物の書誌データの収集物及び編集物を含む。)とデータベースの利用を目的とするシソーラス等を、著作権法上の保護を享有する著作物に含めることができること 2)インプットについては、機械が読み取ることができる支持物への再製であるかコンピュータの記憶装置への固定であるかを問わず人への伝達を可能とするほど十分に安定した形で固定される場合には、複製したものとみなされること 3)アウトプットについては、複製の行為又は公衆への提示行為のいずれかに該当すれば著作権法上の保護を与えるべきであり、複製や公衆への直接伝達についての国内法の規定が適用されるべきこと、さらに著作物をインプットする際にアウトプットについても権利主張する可能性を著作者に与えるため、コンピュータ・システムによって著作物を公衆に提示する著作者の排他的権利を国内法上明確に認めることが望ましいこと等である。



    第3章 著作権法による保護
    I データベースの作成と著作権

    1 蓄積される情報の著作物性
    データベースとして蓄積される情報には、例えば、学術論文や新聞記事の全文や抄録、学術論文等の題号や著者名等の書誌事項、自然観測データ、実験データ、株価、財務データ等の数値情報、法令、判決等多様なものがある。

    データベースの作成に関する著作権制度上の問題は、まず、これらの蓄積される情報が著作権保護の対象である著作物に該当するかどうかということである。

    著作権法(昭和45年法律第48号)は、第2条第1項第1号において著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しており、更に第10条第1項で著作物を例示している。この定義からすると、著作物であるためには、人間の思想、感情が何らかの形で表現されて客観的な存在となっており、その表現に創作的な行為と評価される知的活動の成果が認められることが必要である。
    データベースとして蓄積される情報の著作物性については、次のように考えられる。
    1)雑誌等に掲載されている学術論文が著作物に該当することは明らかである。新聞記事については、著作権法第10条第2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は著作物に該当しないとしているが、これは、単なる事実の伝達だけで書き手の個性の出ない人事異動記事のようなものは著作物に該当しないことを確認したにすぎないものであり、新聞記事のほとんどは、盛り込む事項の選択や記事の展開の仕方、文章表現等に創作性があると認められるので著作物と考えられる。
    2)学術論文等の抄録については、その内容から大きく分けて、学術論文等の原文献の内容を概括して記述する「報知的抄録」と、原文献の主題や範囲を記述するにとどまる「指示的抄録」がある。指示的であるか報知的であるかを問わず、抄録は、抄録作成者が一定の観点から作成するものであり、それには、通常、相当な知的作業を必要とするため、抄録は著作物に該当する場合が多いと考えられる。ただし、指示的抄録の中には、その長さがごく短く、著作物に該当しないものもあり得るところである。
    3)学術論文等の題号、著者名、掲載誌名、発行者名等の書誌事項は、それ自体著作物に該当するとは考えられない。
    4)数値データは、客観的事実そのものであって、思想、感情の表現ではないため、その数値を得るのにいかに知識や労力を要するとしても、個々のデータは著作物には該当しない。しかし、それらを図表、グラフ等に加工した場合、そこに創意工夫が認められれば、その図表等は著作物に該当し得る。
    5)法令や判決は著作物に該当するが、権利の目的とならない著作物を規定する著作権法第13条により、著作権保護の対象とはなっていない。
    6)抄録誌、文献情報誌、データ集など既に編集物として存在するものが、そのままデータベースに蓄積される場合もある。著作権法第12条には、「編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」という規定があり、これに該当する場合には、この編集物は編集著作物として保護の対象となる。したがって、個々の情報に著作物性が認められる抄録の場合はもちろん、書誌事項、数値データのように個々の情報に著作物性が認められない場合であっても、その選択又は配列に創作性が見出されれば、その編集物は編集著作物として保護の対象となる。

    2 抄録、抜粋の作成と原文献の著作権
    抄録は、1で述べたように著作物に該当すると考えられる場合が多いが、その作成について学術論文等の原文献の著作権が及ぶかどうかが問題となる。

    著作権法は、その第2条第1項第11号において「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」、すなわち、既存の著作物に依存しながらそれに創作的変更を加えて作成した著作物を「二次的著作物」とし、この翻訳、翻案など二次的著作物の作成行為については、元の著作物の著作者の翻訳権、翻案権(第27条)が及ぶこととしている。したがって、抄録が原文献の二次的著作物(翻案物)に該当するのであれば、その作成について原文献の著作権が及ぶこととなるので、抄録が二次的著作物に該当するか、原文献と独立した著作物に該当するかは重要な問題である。この点について、著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書(昭和51年9月)は、「指示的抄録は二次的著作物に該当しないものと解せられるのに対し、報知的抄録については、二次的著作物に該当するものがあり得る」としている(同報告書第2章4)。

    データベースのために作成される抄録は、例えば、典型的な学術論文の文献データベースの場合、報知的抄録であっても原文献の内容の骨格をごく簡潔に示すにとどまり、原文献の複製、翻案とは言い難いものが多く、原文献の著作権は及ばない別個の著作物である場合が多いと考えられる。

    また、著作物の一部分をそのまま抜き出したいわゆる抜粋については、その抜き出された部分自体が著作物としての価値を持ち得るようなものである限り、元の著作物の複製権が及ぶと考えられる。

    3 コンピュータの記憶装置への蓄積と著作権
    データベースとして蓄積される情報が著作物に該当する場合、コンピュータの記憶装置への蓄積が複製に該当し、当該情報の著作者の権利が及ぶかどうかが問題となる。

    著作権法は、「著作者は、その著作物が複製する権利を専有する。」(第21条)とし、複製については、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(第2条第1項第15号)と定義している。この定義からわかるように、複製とは著作物を有体物に再製する行為であり、印刷、写真のように著作物を直接知覚できる状態に置く場合であるか、録音、録画のように機械装置を介して初めて著作物を知覚できる状態に置く場合であるかを問わない。

    著作物をコンピュータの記憶装置に蓄積する行為について、著作権審議会第2小委員会報告書においては、著作物をその前段階でパンチカード、マークカード等に入れる行為を複製に当たるとしているのみならず、磁気テープ、磁気ディスク等の外部記憶装置に蓄える行為も複製に該当するとしている。ただし、内部記憶装置への蓄積は、瞬間的かつ過渡的で直ちに消え去るものであるため、複製に該当すると解することはできないとしているが、この考え方に対しては、内部記憶装置と外部記憶装置との機能上の差がほとんどないことから、それらへの蓄積を区別して扱うことは適当でなく、内部記憶装置への蓄積も複製に当たると解すべきであるという少数意見が付されている(同報告書第2章II1~3)。

    データベースの場合、長期間にわたり情報が蓄積され、利用されること、また、蓄積される情報の量も多いことから、内部記憶装置にのみ蓄積される場合は実際上ほとんどなく、内部記憶装置に一時的に蓄積する場合も外部記憶装置への蓄積の一過程にすぎない場合が多い。また、内部記憶装置と外部記憶装置との間では常にデータが出入りしており、両者を一体的なシステムとして考えられるという指摘もあった。これらの点から、内部記憶装置と外部記憶装置を区別せず、インプットした情報を直ちに処理して消去する場合は別として、コンピュータの記憶装置への蓄積は複製に該当すると考えられる。

    II データベース及びその関連資料の著作物性

    1 データベースの著作物性
    データベースの著作物性は、従来、著作権法第12条第1項に規定される編集著作物の観点から認められてきた。すなわち、データベースは、多数の情報を収集し、分類し、選択し、蓄積した結果作成された情報の集合体であり、第12条第1項に定められている「編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」に該当するという考え方は従来から一般的である。例えば、百科事典が編集著作物であることについては異論のないところであるが、これを印刷物としてではなく、機械可読形態で作成した場合であっても、これが編集著作物であることは容易に認められるところである。

    データベースは編集著作物であるという考え方は、データベースの作成過程において、通常、創作性があると評価される情報の選択又は配列という行為が存在していることを考慮すれば、容易に肯定できるものであり、したがって、データベースはおおむね編集著作物として著作権法による保護を受けるものであると考えられる。

    このような考え方は、データベースの作成過程における情報の選択又は配列という行為に着目し、ここに創作性を見出すものである。しかし、データベースは単なる情報の集合体ではなく、コンピュータにより容易に検索でき、効率的に利用し得るものであり、そのため、その作成においてはデータの体系付けやキーワードの選定・付与など従来の編集著作物とは異なった創作的行為と評価し得るような知的作業が重要な要素をなしている。したがって、「素材の選択又は配列」という編集著作物の観点からのみデータベースの創作性を考えることは必ずしも十分ではなく、著作権法第2条第1項第1号に定められている「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という著作物の定義に立ち返り、データベースの創作性を考えるべきである。このような観点から、情報の収集、選定、分析、加工、蓄積などのデータベース作成における個々の過程を吟味し、これらを総合した結果、著作権法に言う創作性があると認められれば、データベースは著作物として著作権法の保護を受けると考えられる。
    1)原資料を収集、選定する過程においては、収集方針に基づいて原資料が収集され、更に一定の選定基準に従って実際にデータベースとして蓄積される情報が選定される。収集方針、選定基準を決定し、それに従って具体的に個々の情報の採否を決定することは、創作的行為と評価し得る知的な活動である場合が多いと考えられる。
    2)収集、選定した情報を整理統合するために、データの項目、構造、形式等を決定してフォーマット(様式)を作成し、また、分類の体系を決定するなどデータベースの体系の設定が行われる。情報の集合体の作成しかもコンピュータで検索できる形のものを作成するにはこの体系設定が重要であるが、このような体系を設定することは、創作的行為と評価し得る知的な活動であると考えられる。
    3)設定された体系に従って情報を整理統合するための分析及び加工が行われる。この過程においては、情報の信頼性を確認し、欠けている情報の補充や情報間の整合性、統一性の確保のための補正が行われ、更に設定された体系に適合する形式に情報が加工される。このような情報の分析、加工を行うことは、創作的行為と評価し得る知的な活動である場合が多いと考えられる。文献データベースや全文データベースの場合は、検索するためのキーワードが付与されるが、キーワード選定は文献の要点を把握し、キーワードとすべき主題を抽出することにより行われるものであり、この分析、加工の過程の中でも特に創作的行為と評価し得る知的な活動であると考えられる。キーワードには、シソーラスなどの典拠リストにより統制されるものがあるが、その場合でも、個々の文献に具体的にキーワードを当てはめていくことは、創作的行為と評価し得る知的な活動である。
    4)これらの作業の後、情報が蓄積され、情報の集合体である表現物としてデータベースが完成される。インプットの行為自体は通常、機械的作業であると考えられるが、それ以前の段階における知的創作活動の結果がこの段階で固定されることになる。

    以上を総合すると、情報を整理統合する体系を設定し、収集、選定し情報を分析、加工した上でその体系に従って整理統合するというデータベース作成の一連の過程には、通常、創作的行為と評価し得るような知的な活動が含まれていると考えられる。したがって、データベースは、著作物として著作権法による保護を受けると考えられる。

    このように、著作権法上データベースが著作物であることは明らかであるが、このことをより明確にするための立法措置を講ずることが望ましい。

    2 シソーラス等関連資料の著作物性
    データベースの作成に当たっては、シソーラスが作成される場合がある。シソーラスはキーワードとして使用される言葉を体系的に整理したものであり、同義語や同形異義語を明示するとともに、上位語、下位語、関連語など語の表わす概念の関係も示している。データベース作成者は、シソーラスの枠内で個々の情報にキーワードの選定・付与を行い、また、データベースの利用者は、シソーラスにより検索を効率的に行うことが可能になる。

    キーワードとしてふさわしい言葉を選び出し、それを更に体系的に整理する行為は、相当な知的創作活動を必要とすると考えられ、シソーラスは、データベースとは独立の著作物として保護されると考えられる。シソーラスが独立の著作物たり得ることは、1982年(昭和57年)に作成されたユネスコ・WIPOの「著作物の利用及び創作のためのコンピュータ・システムの使用から生ずる著作権問題の解決のための勧告」(第二章2参照)で明記されている。

    また、データベースを利用者が検索できるようにするために、利用者のためのマニュアルや検索のためのコンピュータ・ソフトウエアの作成が必要となるが、これらもそれぞれデータベースとは独立した著作物として保護される。

    III データベースの著作者

    1 著作者
    著作権法による保護を享受するのは、著作者である。著作権法は、著作者について「著作物を創作する者をいう。」(第2条第1項第2号)と定義している。したがって、情報の収集、選定、分析、加工、蓄積等データベースを作成する一連の作業の中で創作的な行為を行った者が著作者となる。

    データベース作成の過程においては、創作的な行為を行う者が複数存在し、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができない場合があるが、そのような場合は、創作的な行為を行った者全員が共同著作者となる。なお、抄録等個々の情報の作成にのみ関与し、情報の集合体としてのデータベースの作成に関与しなかった者は、個々の情報の著作者とはなっても、データベースの共同著作者とはならない。

    2 法人著作
    データベースは、企業や大学などで作成される場合が多く、また作成過程で様々な作業を必要とし、その一部を外部に委託する場合もあるため、こうした場合の著作権法第15条(法人著作)の規定の適用関係が問題となる。

    第15条第1項では、「法人その他使用者(以下この条において『法人等』という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と規定されている。したがって、データベースの著作者が第15条第1項の適用を受けて法人であると言えるためには、1)その法人の発意に基づくものであること 2)その法人の業務に従事する者が職務上作成するものであること 3)その法人の著作名義で公表するものであること 4)契約、勤務規則その他に別段の定めがないことの要件のすべてを満たす必要がある。この要件を満たしているかどうかを判断するに当たって特に問題となるのは、2)及び3)の要件の具体的適用関係である。

    まず2)の要件については、企業などがデータベースを作成する際に自社の従業員以外の部外者をデータベース作成に参加させた場合、この部外者がどのような立場に立つかが問題となる。この点については、第15条の規定は厳密に解すべきであり、「法人等の業務に従事する者」は、法人と個人の間に雇用等の関係を要するとして、企業などがデータベースを作成する際に部外者が参加した場合、この部外者が単なる機械的作業を行ったにとどまらず、創作的な行為に参加したと言えるような場合には、企業とこの部外者が共同著作者になると解すべきであるという考え方がある。これに対し、データベースの作成の実態を考えた場合、「法人等の業務に従事する者」をこのように厳格に解釈するのではなく、法人と個人との間に一定の身分関係の存することを必ずしも必要とせず、法人等の従業員と同様に法人等の指揮、命令を受けていれば足りるとの解釈もある。

    また、大学などにおいて作成されるデータベースについては、大学の教員が個人であるいは他の教員と協力してデータベースを作成する場合に、それが「職務上作成する著作物」に該当するか否かが問題となるが、通常、研究の補助手段として個人又は有志により作成されるデータベースについては、データベースの作成自体が大学教員の職務とは言えないため、法人著作に該当しないと考えられる。ただし、大学などの機関の事業として、教員などによってデータベースが作成された場合には、データベースの作成が職務として位置付けられたものと考えられるため、そのデータベースは「職務上作成する著作物」に該当すると考えられる。

    次に3)の要件については、企業の内部だけで使用する目的で作成されたデータベースが未公表のまま利用される場合などが問題となるが、この点については、著作権審議会第6小委員会(コンピュータ・ソフトウェア関係)において「その法人等が自己の名義の下に公表する」という要件には、「実際に世の中に法人名義で公表されたもののほか、仮に公表されるとすれば法人の名義で公表される性格のものも含まれる」(同報告書第2章III一)との解釈が示されており、データベースの場合も同様に解される。

    コンピュータ・プログラムについては、無名で公表する場合や他人名義で公表する場合も多いことから、これらの場合に法人著作に該当しないおそれがあり、解釈のみでは実態に合理的に対処できないので、法律上の取扱いを明確化すべきであるとの提言が第6小委員会において示されており(同報告書第2章III)、昭和60年の著作権法の一部改正において、第15条に新たに第2項を設けて、「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」と規定し、法人名義で公表することを法人著作の要件から除外して立法的解決が図られた。

    データベースについても同様の取扱いをすべきかどうかが問題となるが、データベースについては、プログラムと異なり、未公表のまま使用される場合が少ないと考えられること、企業等が作成しているデータベースでは作成した法人名が著作者名として表示されるのが通常であるところから、一般の著作物と異なった取扱いをする必要性は乏しく、現行の第15条第1項を適用することで特段の支障は生じないと考えられる。

    IV データベースの利用と著作権
    著作権法は、財産的権利としての著作権に含まれる権利として複製権その他の支分権を規定している。データベースの作成及び利用に関しては複製権、放送権、有線放送権、翻案権が関連が深いと考えられるが、その際、データベース自体の著作者の著作権と、データベースとして蓄積されている個々の情報が著作物である場合における情報の著作者の著作権との両方がかかわることに注意を要する。

    1 複製に関する権利
    著作権法は前述のとおり(本章I3)、複製権について、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」(第21条)と規定し、複製について、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(第2条第1項第15号)と定義している。したがって、著作権法に言うところの複製には、磁気テープ、磁気ディスクなどに機械可読形態で収録する場合、ハードコピーの形でプリントアウトする場合のいずれもが、これに含まれる。

    そこで、個々の情報が著作物であれば、その情報が蓄積されているデータベースが複製される場合には、それが機械可読形態での複製であれ、ハードコピーのプリントアウトの形式の複製であれ、そこに含まれる個々の情報の著作者の複製権が及ぶ。
    データベース自体の著作者の複製権については、データベース全体の複製について権利が及ぶことは言うまでもないが、従来から複製権は著作物の全体的な複製だけでなく、その一部分であっても、著作物としての価値を持ち得る部分である限り、その部分にも及ぶと解釈されてきたところである。データベースにこの解釈を適用すると、著作物としての価値を持ち得るような形で、情報をある程度のまとまりで複製することについては複製権が及ぶと考えられる。したがって、例えば、データベースの利用においては、データベースの一部についていわゆるダウンローディング(downloading)が行われることがあるが、これは、通常、データベースから情報を引き出し、再利用可能な形式で端末機に蓄積するもので、これについてはデータベースの一部複製であり、データベースの著作者の複製権が及ぶ行為であると考えられる。

    次に、データベースから一定の情報の集合体をハードコピーのプリントアウトの形で取り出した場合にデータベースの著作者の権利が及ぶかどうかが問題となる。データベースはデータベース作成者による項目分け、キーワード付け等の分類行為が行われた情報の集合体であり、利用者はその分類行為に着目して一定の命令を与えることにより、特定の分類に属する情報の集合体が取り出せるように体系付けられているものである。そして、その特定の分類に属する情報の集合体には一つの編集著作物として評価され得るものが存する。データベースからこのような編集著作物として評価され得る情報の集合体をハードコピーのプリントアウトの形で取り出す行為にはデータベース自体の著作者の複製権が及ぶものと考えられる。

    なお、利用者は、必要とする情報を元の情報の集合体の様々な部分から、利用者の選択により取り出すものであるが、データベース作成者により項目分け、キーワード付け等の分類行為が行われている情報が、その分類行為に従ってアウトプットされる場合は、そこに新たな創作性が生ずるものとは考えられない。ただし、アウトプットするに当たって、数字をグラフに変更する等の独自の加工を加えている場合には、新たな創作性が生ずると評価し得るものもある。

    一方、著作物と評価される一定のまとまりをもった情報の集合体までには至らないデータベースの一部を複製する場合には、データベースの著作者の複製権が及ばないこととなる。しかし、データベースの利用の実態から考えて、ある程度のまとまりを持った情報の集合体の複製について複製権が及ぶこととなれば商業的に意味のある複製については権利を行使することができるので、データベースの著作者の保護に欠ける事態は生じないと考えられる。

    なお、データベースのオンライン・サービスにおいて情報は利用者の指令によって端末機で複製されるが、その場合の複製主体は、オンライン・サービスを行う者と利用者のどちらと考えるべきかという問題がある。この場合、ハードコピーのプリントアウトなどの形で複製を行うか、画面にディスプレイするだけにとどめるかは利用者の選択によるものであり、複製の主体は利用者であると考えられる。ただし、オンライン・サービスを行う者が送信した情報が利用者の意思にかかわりなく自動的に複製されるような場合については、オンライン・サービスを行う者が複製主体になると考えられる。

    2 送信に関する権利
    著作権法は著作物の送信行為に関しては放送権及び有線放送権を認めており、「著作者は、その著作物を放送し、又は有線放送する権利を専有する。」(第23条第1項)と規定している。放送については、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうこと」(第2条第1項第8号)と定義し、有線放送については、「公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信を除く。)を行なうこと」(第2条第1項第17号)と定義している。

    データベースを放送したり、有線放送すれば、送信される個々の情報が著作物である限りにおいて、その著作物の著作者の放送権、有線放送権が及び、また、データベースの放送、有線放送については、データベースの著作者の放送権、有線放送権が及ぶと考えられる。なお、データベースの著作者の放送権、有線放送権が及ぶ範囲は、複製についてデータベースの著作者の複製権が及ぶ範囲と同様であると考えられる。

    データベースのオンライン・サービスは個々の利用者の求めに応じて情報を送信するものであるところから、有線放送に該当するか否か、すなわち「公衆によって直接受信されることを目的とするもの」と言えるか否かが問題となる。著作権審議会第6小委員会はコンピュータ・ソフトウェアに関して「オンライン・システムによりプログラムが特定多数の者に対して反復して伝達されるので、各々の送信の時間的なずれを除けば、それらの送信の総体は一般の有線放送と同様に考えられ、それに対して有線放送権が及ぶと考えられる。」(同報告書第2章IV2)との解釈を示している。

    現行著作権法制定当時において、「有線放送」として想定されていたものは、難視聴解消のためのCATVや音楽有線放送であり、データベースのオンライン・サービスのように利用者の求めに応じて情報が送られる形態のものは考えられていなかったと思われる。しかし、著作物の利用の観点からすれば、同じに多数の人に送られるか、要求によって個別に送られるかという差があるものの総体としては多数の人に送られていることには変わりはなく、このことによって権利の働き方が区別されるのは不自然であり、第六小委員会報告と同様に解して、データベースのオンライン・サービスのように利用者の要求によって著作物が個別に送られる場合も有線放送に該当すると考えるのが妥当である。

    ただし、有線放送が同時に不特定多数の視聴者に送信する形態として従来から観念され、社会的にも定着していることから、解釈のみによって対処することは必ずしも適切ではない面もあるところである。このことから、現在の有線放送の定義(第2条第1項第17号)を改正し、データベースのオンライン・サービスのような利用者の求めに応じて情報が送られるものも著作権法上の有線放送に該当することを明確にすること、または、有線放送という用語を用いず、従来観念されている有線放送の他、データベースのオンライン・サービスのようなものを含む著作物の有線電気通信による送信に関する権利を新たに設定する等の措置を講ずることが望ましいと考えられる。

    なお、この問題はビデオテックスやVRSのサービスのように、個々の利用者の求めに応じて情報が提供されるシステムに共通のものである。

    3 改変に関する権利
    著作権法は著作物の改変に関する権利として翻案権を認め、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」(第27条)と規定している。本条は、二次的著作物を創作するための原著作物の間接的利用とも言うべき行為に関する権利として、著作者にその著作物の翻訳、編曲、変形、又は翻案に関し排他的な権利を認める趣旨の下に定められた規定である。

    データベースは蓄積されている情報の追加、更新が不断に行われることが1つの特徴であるが、元のデータベースと比較し、追加、更新の内容が単に修正増減の範囲にとどまる場合や、追加、更新が創作的行為と評価されないような機械的な行為にすぎない場合は翻案とは言えないが、修正増減の範囲を超え、情報の追加、更新が創作的行為と評価される場合は、追加、更新が行われたデータベースが元のデータベースの二次的著作物として保護されることになる。しかし、情報の追加、更新は、データベースを作成したプロデューサによって行われるのが普通であり、翻案権が問題となることは現実には少ないと考えられる。

    次に、既存のデータベースのフォーマットを利用して、全く異なった情報を蓄積し、データベースを作成する行為については、翻案ではなく、新たな著作物の作成と考えられる。なぜなら、フォーマットそのものが著作物として保護されるのではなく、体系的に整理統合された情報の集合体がデータベースとして著作権法による保護を受けるからである。

    既存のデータベースとして蓄積されている情報を利用してフォーマットに変更を加えデータベースを作成する場合については、単なる修正増減の範囲を超え、かつ創作的行為と評価される行為があれば翻案に該当すると考えられる。

    既存のデータベースのキーワードの追加、変更についても、単なる修正増減の範囲を超え、データベースの特徴が変更されるような創作的行為と評価される行為があれば翻案に該当すると考えられる。

    複数のデータベースを併合して1つのデータベースを作成する行為については、創作的行為と評価される行為がある場合は、翻案に該当するが、そうでない場合は、それぞれのデータベースの複製と考えられる。

    4 音声、影像形式によるアウトプットに関する権利
    著作権法では、音声により著作物を公衆に伝達することにかかわる権利としては、口述権と上演権・演奏権を規定している。口述権については、「著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。」(第24条)と規定し、口述については、「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)」(第2条第1項第18号)と規定している。また、上演権・演奏権については、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。」(第22条)と規定し、上演については「演奏(歌唱を含む。)以外の方法により著作物を演ずること」(第2条第1項第16号)と規定している。

    情報を音声形式でアウトプットする行為についてこれらの権利が及ぶかどうかについては、著作権審議会第2小委員会において、「著作物を音声の形式でアウトプットする行為は、著作物の『口述』に該当する。なお、音楽の著作物を音声出力信号により音声としてアウトプットする行為は、著作物の『演奏』にあたる。」(同報告書第2章III1)との解釈が示されている。したがって、データベースの著作者及び蓄積されている個々の著作物の著作者は、データベースの音声形式でのアウトプットについて口述権、場合によっては上演権・演奏権を有すると考えられる。なお、口述権、上演権・演奏権は公衆に対して口述又は上演、演奏を行う場合でなければ及ばないので、実際にはこれらの権利が働く場合は当面は少ないと考えられる。

    一方、影像により著作物を公衆に伝達することにかかわるいわゆる上映権については、著作権法ではその第26条で「著作者は、その映画の著作物を公に上映……する権利を専有する。」と規定している。上映権は、映画の著作物に関してのみ認められている権利であり、静止画、文字情報など映画の著作物に該当しないものについては上映権は及ばない。したがって、情報を影像形式でアウトプットする行為について上映権が働く場合はほとんどないことから、第2小委員会においては「著作物をハードコピーまたは音声の形式でアウトプットする行為と均衡を失するので、著作物を影像の形式でアウトプットする行為を著作権により規制すべきであり、将来において立法的解決を図ることが望ましい。」(同報告書第2章III1)という提言がなされている。しかし、データベースの利用の実態を考えると公衆に対して影像の形式でアウトプットされることが少なく、また、オンライン・サービスにより提供された情報を公衆に対して影像形式でアウトプットする行為については、第23条第2項に規定する公衆への伝達権、すなわち「有線放送されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」が認められると考えられるところから、当面は著作物を影像形式でアウトプットする行為について権利を認めなくとも不都合は生じないと考えられる。

    5 その他
    データベースの利用を考えると、データベースを検索して必要な情報を引き出してくることは最も基本的な利用の形態であり、また、多数の利用者にデータベースを検索させることによって大きな経済的収益を挙げることが可能である。このことから、データベースを公衆に検索させる等のデータベースを公衆の利用に供する行為等について権利を設定するなど、何らかの措置を講ずる必要があるのではないかという問題について検討を行った。

    データベースを公衆の利用に供する行為に権利を設定することは、公の演奏・上演、公衆への貸与等大きな経済的収益を挙げ得る行為に権利を設定している現行の著作権法の体系になじまないものではなく、必要があればデータベースを公衆の利用に供する行為に権利を設定することも考えられる。

    データベースの利用の実態を考えると、プロデューサがディストリビュータに提供する場合は、ディストリビュータが公衆に提供することを前提として契約を締結しており、また、ディストリビュータとユーザーとの間においては、第三者に利用させることを禁止する等の条項を契約に盛り込んでおり、それに違反すれば、契約違反となる。したがって、データベースを公衆の利用に供することについて新たに権利を設定しなくとも特にデータベースの著作者の経済的利益が害される実態にはないことから、現時点においては、データベースを公衆の利用に供する行為に権利を設定する必要性は少ないと考えられる。しかし、データベースが転々と流通し、それを検索させることによって大きな経済的収益を挙げるような利用形態が出現するなどのデータベースの流通、利用の実態の推移を見て対応を検討すべき重要課題であると考えられる。

    その際には、現行法においてはプログラムをコンピュータにおいて使用する行為について権利を設定していないので、そのこととの均衡を考慮して、データベースを公衆の利用に供する行為等に新たな権利を設定するかどうかの問題を総合的に検討する必要がある。

    V 権利の制限

    1 著作権の制限
    著作権法では、著作物の公正な利用を図るという観点から、一定の場合に著作権を制限し、著作物の自由な利用を認めている。データベースにかかわる制限規定としては、第30条(私的使用のための複製)、第31条(図書館等における複製)、第32条(引用)、第35条(学校その他の教育機関における複製)、第38条(営利を目的としない上演等)、第42条(裁判手続等における複製)等が考えられる。これらの著作権の制限規定がデータベースの作成及び利用に当たってどのように適用されるか、これらの規定を適用して何らかの問題が生じないかどうかについての検討が重要である。

    (1)私的使用のための複製
    第30条は、私的使用のための著作物の複製を認めている。この規定は個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での使用を目的とする複製を許容したものであり、企業、研究機関等における業務目的の複製については本条は適用されない。

    パソコンやニューメディア機器の普及により、今後家庭内でもデータベースを作成すること及びデータベースのオンライン・サービスを受けて情報を複製すること、あるいは将来的にはパッケージ等の形でデータベースが販売され、それを家庭内で複製すること等も考えられるが、これらの複製は第30条により許容されることとなる。なお、これらの複製が許されることにより権利者の利益が不当に害される事態も生じ得るのではないかという問題があるが、これについては、現在ではあまり実態がないと考えられるものの、将来の実態の推移を見ながら検討する必要があると考えられる。

    (2)図書館等における複製
    第31条は、図書館等政令で定める施設において、営利を目的としない事業として1)利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあっては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合(第1号) 2)図書館資料の保存のため必要がある場合(第2号) 3)他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合(第3号)には、図書館資料を用いて著作物を複製することができることとしている。図書館において、自らデータベースを作成したり、他の第三者が作成したデータベースを保有し、又はデータベース・サービスを利用している場合が考えられるが、これらの場合に第31条がどのように適用されるかが問題となる。

    まず、図書館が図書館資料の全文、抜粋等を複製してデータベースを作成することについて考えると、第1号はそもそも利用者の求めに応じての複製を許容するにすぎないため、あらかじめ図書館資料をデータベース化して将来の要求に備えることまで許容するものではない。また、第2号は、図書館資料の保存のための複製、すなわち収蔵場所が不足する場合の縮小複製や稀覯本の損傷等の予防のための複製等を許容するものであるから、これに該当する場合を除いては、図書館が図書館資料を複製してデータベースを作成することはできない。なお、図書館資料の書誌事項など著作物に該当しないものについては、そのデータベース化は自由になし得るところである。

    次に、データベースを図書館が保有し、又はオンライン・サービスを図書館が利用している場合に、契約によって明示的に認められていなくともデータベースから情報を引き出して図書館利用者にその複製物を提供できるかどうかが問題である。

    まず、オンライン・サービスの場合は、データベース自体が図書館が保有する資料とは言えないので、このような複製物の提供は第1号によっても認められない。

    図書館が第三者が作成したデータベースを保有し、これを複製して提供する場合の第1号の適用については、図書館が著作権者に何らの利益を還元することなく、ディストリビュータなどと同様の機能を果たすこととなり、特にデータベースの一部分であっても磁気テープ等の機械可読形態で複製して提供することは利用者が以後多様な利用を行うことができるため、データベース等の著作権者の利益を不当に害するおそれがあり、本来の趣旨に照らして許容されるものとは考えられない。なお、図書館が作成したデータベースの場合についても、そこに含まれる著作物の著作権については同様に考えられる。

    (3)引用
    第32条は、自己の著作物に他人の著作物を正当な範囲内において引用して利用することを認めている。引用とは、単なる転載を意味するのではなく、自己の著作物の説明の補強、具体化等のため他人の著作物を用いる必然性がある場合、それが他人の著作物であることを明確に示して必要最小限度で他人の著作物を利用することを認めるものである。他人の著作物を用いてデータベースを作成することは本条の引用には当たらず、著作権者の許諾が必要となる。

    (4)学校その他の教育機関における複製
    第35条は、学校その他の教育機関において授業の過程における使用に供することを目的とする複製を認めている。ただし、本条のただし書では、著作物の種類、用途、複製の部数、態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は適用されないこととしている。

    本条は、将来の利用に備える複製を認めるものでないため、あらかじめ教材となり得るような資料をデータベース化しておくことは、本条により許容される複製には該当しないと考えられる。したがって、本条の適用が考えられるのは、教育機関が保有する又はオンライン・サービスを受けているデータベースから必要な情報を複製して授業に用いることであるが、この場合も本条のただし書に照らし、大量部数を複製、頒布するなど、データベース等の著作権者の利益を不当に害する行為は許されない。

    (5)営利を目的としない上演等
    第38条第1項は、1)営利を目的としない 2)聴衆、観衆等から料金を受けない 3)実演家等に対し報酬が支払われないというすべての要件を満たす場合には著作物の上演、演奏、口述、上映、有線放送を行うことを認めている。

    データベースのオンライン・サービスが有線放送に該当するとした場合、同項により、非営利かつ無料であればデータベースのオンライン・サービスを行い得ることとなる。しかし、公的機関等がこのようなサービスを大規模に行うことも考えられ、それを自由とするとデータベースの著作権者等の利益を不当に害するおそれが強い。こうしたところから、営利を目的としないでデータベースのオンライン・サービスを行うことについては、データベースに関する権利者の利益を不当に害しないよう何らかの手当を施す必要がある。

    (6)裁判手続等における複製
    第42条は、裁判手続等のために必要な場合及び立法目的又は行政目的のための内部資料として一定の範囲において複製を認めたものである。この規定の場合も第35条と同様、著作権者の利益を不当に害する場合は除くというただし書を置き、複製が認められる場合について厳しい限定を加えている。

    行政機関等が内部利用のために著作物を蓄積してデータベースを作成する場合、また、行政機関等が保有する又はオンライン・サービスを受けているデータベースを複製して行政目的のための内部資料として用いる場合も、同条ただし書によりデータベース等の著作物者の利益を不当に害しない範囲に限られるので、同条の適用は限定的に解すべきであると考えられる。

    (7)新たな制限規定を考える必要性について
    コンピュータ・プログラムについては、昭和60年の著作権法の一部改正により、その複製物の所有者がプログラムの実行、保存の目的で行う複製等について著作権を制限する規定を設けたが(第47条の2)、データベースについても同様の制限規定を設けるべきか否かが問題となる。

    データベースの保存等の目的で行う複製等の必要性はプログラムと同様であるが、データベースの流通の現状を考えると、転々と流通する場合は少ないこと、また、データベースが磁気テープ等によって提供される場合でも現状では貸与によることが多く、販売される実態は必ずしも多くないことから、プログラムと同様に複製物の所有者が保存等の目的で複製等を行うことができるという規定を設けたとしても適用される場合が必ずしも多くないと考えられること、更にバックアップファイルの作成が明示又は黙示の許諾によって行われている現状を考えると新たに制限規定を設けて一律に規定する必要性は乏しい。

    ただし、データベースが転々と流通するような利用が増大し、データベースの保存等のための複製等について個別の許諾によることが困難な事態を生ずる場合には制限規定を設けることを検討する必要性も生じてくるものと考えられる。

    2 強制許諾制度
    著作権法では第67条(著作権者不明等の場合における著作物の利用)、第68条(著作物の放送)、第69条(商業用レコードへの録音)、第70条(裁定に関する手続及び基準)で裁定による著作物の利用について規定している。これらは、著作権者の意向にかかわりなく、公益的見地から政府機関が著作権者に代わって許諾を与えて著作物の利用を認めるいわゆる強制許諾制度である。

    強制許諾制度のうち、データベースについて主として問題となるのは第67条の著作権者不明等の場合における著作物の利用についての裁定であるが、この規定の適用についてデータベースに関して固有の問題は生じないと考えられる。

    なお、これらの規定の他にデータベースの作成、利用について新たに強制許諾制度の導入を考えるべきかどうかについては、データベースについて特別にこのような制度を考える必要性は見出し難く、また著作権条約においてもこのような制度の導入はごく限定された場合にしか認められないため、当面考慮する必要はないと考えられる。

    VI 著作者人格権
    著作者人格権とは、著作者がその著作物について有する人格的利益を保護する権利であって、民法で一般的に保護されている人格権を著作物とのかかわりにおいて具体化したものであり、著作権法は、公表権(第18条)、氏名表示権(第19条)、同一性保持権(第20条)を規定している。データベースの場合、法人著作に該当するものが多いが、その場合には、法人等が著作者人格権を持つことになる。

    1 公表権
    著作権法は公表権について「著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。」(第18条第1項)と規定している。すなわち、公表するか否か、どの時点で公表するか、どのような方法で公表するかを決定する権利である。

    この権利の適用を考えるに当たっては、「公表」の概念を明らかにする必要がある。著作権法では、「公表」を、発行すること又は上演、演奏、放送、有線放送、口述、展示、上映の方法で公衆に提示することとし(第4条)、「発行」については、著作物の性質に応じ公衆の要求を満たすことのできる相当程度の部数の複製物が作成、頒布されることとしている(第3条)。データベースがこの「発行」に該当する形で公表される場合は問題がないが、そうでない場合、、データベースの公表の時点を 1)データベースが作成された時 2)データベース・サービスが開始された時 3)実際に利用者に提供、提示された時等のいずれとするかが問題となる。特にデータベースとして蓄積される個々の情報については、結局、利用者が実際に検索しない場合があり得るが、その場合は未公表と考えてよいか、また、データベース全体についても一部分の利用のみで全体が公表されたと考えてよいかが問題となる。

    この点については、公表は公衆が著作物を知覚することが可能な状態にすることと考えられるので、データベース及びそこに含まれる著作物(未公表のもの)のいずれについても、利用者が利用しようと思えばいつでも利用できるという状態になった場合、すなわちデータベース・サービスが開始された時ととらえるのが妥当であると考えられる。

    なお、データベースを公表することにより個々の著作物も公表されることとなる点について、個々の著作物の著作者がその著作物をデータベースとして蓄積することを許諾した場合、通常、公表の同意があったものと考えられるので、公表権の適用に当たり特段の支障が生ずることはないと考えられる。

    2 氏名表示権
    著作権法は氏名表示権について、「著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。」(第19条第1項)と規定している。すなわち、無名の著作物として世に出すか、著作者名を表示して世に出すか、さらに、著作物に著作者名を表示する場合、実名を付けるか、周知の変名を付けるか、周知でない変名を付けるかを決定する権利である。

    データベース・サービスを行う場合、データベース及びそこに含まれる著作物の著作者の氏名表示権が問題となり得る。個々の著作物の著作者については、その時点で著作者の意思を個々に確認することは困難であるが、データベース作成の段階で著作者に複製等の許諾を得る際に、併せて著作者名の表示の問題についても処理しておくことが可能であるため、データベース・サービスの上で特段の支障は生じないと考えられる。

    3 同一性保持権
    著作権法は同一性保持権について、「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」(第20条第1項)と規定している。ただし、第2項において、やむを得ない改変について同一性保持権の適用を除外している。

    データベースは情報の追加、更新を常に必要とするが、これらの行為に同一性保持権が及ぶこととなるのかが問題となる。

    この点については、情報の追加、更新は通常データベースの作成者自身が行うため、データベースについての同一性保持権は問題とならないが、作成者以外の者が行う追加、更新については同一性保持権の問題となり得る。しかし、情報の追加、更新はむしろデータベースに本質的なものであり、通常は第20条第2項第4号の「やむを得ない改変」に該当すると考えられる。なお、プログラムの改変に関し明文の規定を設けていることとの均衡を考慮し、明文の規定を設けて具体的に規定することも考えられるが、現状はデータベースが転々流通する場合が少なく、また、データベースを磁気テープ等で提供する場合は、明示又は黙示の許諾により改変が認められている場合が多く、データベースの同一性保持権に関して紛争が生ずる事態に至っていないので、現時点においては著作権法に明文の規定を設ける必要性は必ずしもない。

    VII 保護期間
    著作権法は、著作物の原則的な保護期間について、著作者の死後50年を経過するまでの間存続すると規定し(第51条第2項)、法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の保護期間については、著作物の公表後50年(著作物がその創作後50年以内に公表されなかったときは、その創作後50年)を経過するまでの間存続すると規定している(第53条第1項)。

    データベースの場合、団体名義の著作物である場合が多く、この場合の保護期間の起算点となる「公表」については、既に本章VI1で検討したとおりである。なお、創作的行為と評価されるような情報の追加、更新の行われた場合には、本章IV3で検討したとおり、追加、更新後のデータベースは、元のデータベースの二次的著作物となり、その保護期間の起算点は、当該二次的著作物の公表の時となる。

    この現行の保護期間をデータベースについて適用した場合、問題があるかどうかについては、50年間の長期にわたり事実上先行データベースに独占的地位を与えることになりかねないかという意見も出されたが、データベースのように多額の資本を投下して作成され、長期にわたって利用されていくものについて短い保護期間は適当でないという意見もあった。データベースについての著作権は、データの構築方法、編集方針等をそれ自体保護するものではないので、既存のデータベースの全部又は一部を利用することなく、同様のものを作成することは保護期間内であっても権利が及ぶところではなく、50年間の保護期間で特に支障はないと考えられる。なお、ベルヌ条約との関係からもデータベースについて保護期間を短くすることは現在のところできないので、この問題は国際的な枠組みの中で考えるべき問題であると考えられる。

    VIII その他の問題点

    1 データベース・ディストリビュータ等の保護
    データベースの流通に大きな役割を果たすディストリビュータ等のデータベースの流通に携わる者についてどのような保護が考えられるかという問題がある。

    データベース・ディストリビュータを著作物の伝達者として著作隣接権制度により保護していくことについては、現在、ディストリビュータは利用者との契約により利益を確保することが可能であり、著作隣接権的な権利を設定しなくともディストリビュータの経済的利益が損われる実態にはないため、現時点においては、著作隣接権的な権利を設定する必要性は乏しい。新たに著作隣接権的な権利を設定することについては、今後における実態の推移を見て、著作隣接権制度全体とかかわる問題として、広範な検討を要する課題であると考えられる。

    ディストリビュータは、プロデューサから提供を受けた原テープを加工して、付加価値を加えて提供しているのが通常であるが、その行為に創作性が認められれば、二次的著作物の著作者として保護を受けることとなる。

    2 データベースの作成、利用に関する権利処理の在り方
    データベースに関する運用上の問題点の中で検討すべき問題としてデータベースの作成、利用に関する権利処理の在り方の問題が挙げられる。

    データベースの作成、利用に当たっては、データベースとして蓄積される個々の著作物の著作権者に複製等の許諾を得る必要があるが、個々のアウトプットごとに許諾を求めることは実際上困難であることから、データベースとして著作物を蓄積する段階で事後の様々なアウトプットを含めて包括的な契約を結ぶことが合理的と考えられる。さらに、データベースとして蓄積される著作物が多種、多量であることから、この個々の権利者との契約により処理するのではなく、特定の機関が権利を集中的に管理し、著作物を利用する者はそこに許諾を得て使用料を支払いさえすれば利用できることとする。いわゆる集中的権利処理方式の導入を考慮する必要があるかどうかが問題となる。この問題の検討の必要性については、複写に関する著作権の集中処理の方法について検討を行った、著作権の集中的処理に関する調査研究協力者会議報告書(昭和59年4月)においても指摘されているところである(同報告書第二章四)。この点については、個々の権利者との間で処理する従来の方式で現在のところ特段の支障は生じないが、著作権の権利行使の方法の一般論としては集中的に権利を処理する方向に進んでいくと思われるので、データベースを構築する際の著作物の蓄積についても、今後の発展の動向によっては集中的権利処理が必要となることも考えられる。

    第2部 ニューメディア関係
    本小委員会としては、ニューメディアに係る著作権問題を検討するに当たり、ニューメディアを有線系、無線系及びパッケージ系に分類し、以下のとおり検討を行った。


    第1章 有線系ニューメディア
    有線系ニューメディアとしては、CATV、ビデオテックス、VRSがあるが、これらの実態等を把握し、著作権法上の問題点について検討した。
    I CATV
    1 CATVの実態等
    (1)CATVの設置状況等
    我が国のCATV(Cable Television;有線テレビジョン放送)は、昭和60年3月末で、施設数約3万8000、受信契約者数約430万に達しており全世帯数の約1割を占めている。
    このCATVは、有線電気通信法(昭和28年法律第96号)及び有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)による規制を受けており、その数は以下のとおり増加してきている。


    年度

    許可施設

    届出施設

    小規模施設

    合計
    施設数受信契約者数施設数受信契約者数施設数受信契約者数施設数受信契約者数
    53 225 356,336 13,086 1,705,664 9,058 252,426 22,369 2,314,426
    56 354 575,956 17,801 2,420,952 12,833 337,627 30,988 3,334,535
    59 484 828,549 21,788 3,032,484 15,949 404,997 38,221 4,266,030
    (昭和59年度「通信白書」郵政省及び「有線テレビジョン放送の現況(昭和60年3月31日現在)」郵政省有線放送課より)
    (注)許可施設 有線テレビジョン放送法に基づき設置につき郵政大臣の許可が必要な施設(引込端子数501以上)
    届出施設 引込端子数51以上500以下の施設及び引込端子数50以下の施設で自主放送を行う施設
    小規模施設 引込端子数50以下の施設で同時再送信のみを行う施設
    昭和60年3月31日現在のCATV施設数38,221のうち許可施設が484(全施設の1.3%)、届出施設が21,788(同57%)、小規模施設が15,949(同41.7%)であり、500端子以下の規模の小さい施設が98.7%を占めている。
    しかし、引込端子数10,000を超えるCATV施設の数も増えてきており、徐々にではあるが、大規模化の傾向が見られる。

    (2)CATVにおける業務内容
    CATVにおける業務内容を分類すると以下のとおりである。
    a 放送の再送信
    放送の再送信とは、放送波を受信して有線によりさらに送信することを言い、区域内再送信と区域外再送信の2つがある。前者はある放送局の放送区域内に存在するCATV施設が、当該放送局の電波を受信して再送信する場合である。後者は、ある放送局の放送区域外に存在するCATV施設が、当該放送局の電波を受信して再送信する場合である。

    b 自主放送
    自主放送は、自主制作番組による放送と供給番組による放送の2つに分かれる。前者は、CATV事業者が自分で制作した番組を放送する場合であり、後者は、他から供給された番組、例えば映画会社や放送局から供給された番組を放送する場合である。

    c 許可施設及び届出施設について
    業務別に施設数を見ると以下のとおりである。

      55年度 56 57 58 59
    再送信 16,569 18,076 19,723 20,912 22,131
    再送信及び自主放送 56 63 70 80 110
    自主放送 17 16 19 28 31
    合計 16,642 18,155 19,812 21,020 22,272
    (「有線テレビジョン放送の現況」より作成)

    再送信のみを行っている施設が圧倒的に多いことがわかる。区域外再送信を行つている施設数は昭和60年3月31日現在の許可施設と届出施設の合計22,272のうち、4,198施設であり、区域内再送信を行っている施設数は、同様に22,024である。

    許可施設と届出施設のうち自主放送を行っている施設は、昭和60年3月31日現在両者の合計施設数22,272のうち141施設である。自主放送において有線放送されている番組は、行政告知、地域内ニュース、趣味娯楽番組等であり、多くは自主制作番組であるが、他から番組の供給を受けて有線放送を行っているところもある。
    d我が国のCATVは、辺地における難視聴対策として出発したが、現在は都市難視聴の解消を目的としたものが増加する傾向にある。難視聴を原因として設置されたCATV施設について、都市難視聴と辺地難視聴を分けてその数を比較すると以下のとおりである。

      施設数 受信契約者数
    都市難視聴 19,984 2,655,792
    辺地難視聴 17,887 1,468,068
    37,871 4,123,860
    (「有線テレビジョン放送の現況(昭和60年3月31日現在)」より作成)

    (3)CATVの将来
    難視聴解消目的によって設置されたCATV施設は、(2)で見たように建築物の高層化に伴い都市において増えてきており、現在においてもCATV施設の多くを占めている。また、視聴し得る番組を増やす番組多様化を目的として区域外再送信を行う施設も相当数にのぼっている。現在のCATVにおいては、テレビジョン放送の再送信が主な業務となっており、自主放送は極めて少なく、また、規模という点については、小規模の施設がほとんどである。

    しかし、昭和59年度の通信白書が報告するように、許可施設について引込端子数3,001以上の施設の構成比が昭和48年度4.7%(7施設)から昭和58年度末で15.4%(66施設)に増加しており、大規模化の傾向が見られ、また、引込端子数10,001以上の施設でかつ自主放送を行う施設もいくつか存在している。

    このような状態のCATVがニューメディアとして注目されてきたのは、CATVの持つ多チャンネル性と双方向性が新しい多様なサービスを可能にするものとして考えられるようになったからである。CATV施設でもいわゆる「都市型」と言われているものは、大規模、多チャンネルの施設で、すでに10施設が設置について許可されており、現在業務を開始すべく準備中である。それらの引込端子数及びチャンネル数は以下のとおりである。

    引込端子数\チャンネル数 25以上30未満 30以上35未満 35以上
    1万以上3万未満 1施設 2施設 1施設
    3万以上 1 4 1
    (郵政省資料より作成)

    さらに、郵政省が昭和58年度に双方向サービスの実施を原則として認める方針を打ち出し、また、昭和60年の電気通信事業法(昭和59年法律第86号)の施行により、双方向のサービスも可能となった。

    この大規模、多チャンネル、双方向性を備えたCATV施設では、従来から行われている再送信のみならず、その多チャンネル性を生かし、ニュース専門、娯楽映画専門のチャンネル等を設けることにより、利用者の多様なニーズに対応することもできることとなる。さらに、双方向性を生かした視聴者参加番組の有線放送や、各種アンケート調査、テレショッピング、在宅学習等を行うことができるほか、サービスとしては、テレメータリング(自動検針システム)、ホームバンキング等も行うことができる。

    将来のCATV施設では、このように多種多様な番組、サービスを提供することができるが、番組の中心は、番組供給会社が供給する番組であると考えられる。現在も、パッケージの形で娯楽映画等を一部供給されているが、アメリカのCATVが衛星により番組を供給されることによって飛躍的に発展したように、昭和63年春の輸入通信衛星の運用開始を手初めとして、我が国においてもそのような方法により番組の供給が行われ、それに伴いCATVが発展することも予測される。その他マイクロ回線を利用した番組供給も考えられる。
    このようにCATVは、将来、大規模、多チャンネル、双方向性を備えたものになると予測され、情報化社会におけるニーズにこたえて多種多様なサービスを行うニューメディアとして発展するものと考えられている。

    また、CATVは、放送と比較してそのカバーする知識が小規模であることから、再送信や供給番組による放送のみならず地域と密着したきめ細かい情報を提供することが期待されている。市町村を単位とするCATVは、その地域に密着した行政告知や身近なニュース番組等を自主制作し、放送することが行われており、今後ますます多くなるものと考えられる。

    2 国際的検討の動向
    1974年(昭和49年)のユネスコ第18回総会及びベルヌ同盟第7回執行委員会は、ユネスコ及びWIPO(世界知的所有権機関)両事務局に対して、ケーブル・システムが急速に普及、発展し、放送された番組がケーブルにより広範に伝達される機会が増大すること等にかんがみ、ケーブルにより伝達されるテレビ番組に含まれる著作物に係る著作権問題について研究するよう要請を行った。両事務局は、1975年(昭和50年)に各国政府及び関係非政府機関を対象として調査を行った。

    この調査結果に基づき、1977年(昭和52年)6月に開催された万国著作権条約政府間委員会及びベルヌ同盟執行委員会の作業部会において、この問題について討議が行われた。そこでは、著作権に関しては、条約上「公の伝達権」が認められており、これに有線放送が含まれると解されるので、条約の改正は必要ないこと、著作隣接権に関しては、隣接権条約上ケーブルによる伝達について権利として規定されていないので、条約上隣接権者の保護が不十分であるとされた。

    引き続き、1978年(昭和53年)7月ベルヌ同盟執行委員会及び万国著作権条約政府間委員会の合同小委員会において、この問題について更に検討されたが、1977年の上記作業部会と同様、ベルヌ条約及び万国著作権条約を改正する必要がないことを確認し、各国が法律の規定又は判例によりこの問題に対処していかなければならないとされた。

    その後、ベルヌ同盟執行委員会、万国著作権条約政府間委員会、隣接権条約政府間委員会の合同小委員会(1982年(昭和57年)12月及び1983年(昭和58年)12月)において、テレビ番組のケーブル伝達に関して国内立法のためのモデル案を作成する作業が進められたが採択には至らず、両事務局が各国における進展をフォローすることとされた。

    3 現行著作権法の適用と問題点
    1の(2)で触れたように現在のCATV事業では、テレビジョン放送の再送信業務が中心であり自主放送番組は多いとは言えないが、今後大規模、多チャンネルの都市型CATVが出現し、またCATV事業へ番組を供給する事業が充実すると、自主放送番組もしだいに多く放送されるようになると考えられる。

    このような場合、現行法上権利が認められていないCATV事業者の法的保護を図る必要性も生まれてくると考えられる。CATV事業者の法的保護を検討していく場合には、CATV事業者と同様公衆によって直接受信されることを目的として電気通信の送信を行う者であり、かつ、現在著作隣接権制度により保護されている放送事業者との対比において検討していくことが適切であると考えられる。
    以下、CATV事業者の法的保護について検討する。

    (1)CATV事業者の法的地位について
    現行著作権法においてCATV事業者に著作隣接権を認めていないのは、立法当時におけるCATVはテレビジョン放送の難視聴地域の解消を目的とするものがほとんどであり、その法的保護を図らなければならない実態になかったことによる。

    現在のCATVにおいてもなお難視聴解消を目的とするものが多くを占めているが、今後発展が予想されるCATVは、大規模化、多チャンネル化され、自主放送番組が増加することが考えられ、そこにおいて多くの著作物等が使用され、CATVが著作物等の有力な伝達媒体となることが考えられる。

    放送事業者に著作隣接権が認められているのは、放送の番組の制作、編成に著作物の創作性に準ずる創作性が認められること、また、そのために多くの時間と努力と経費を要しており、その第三者による利用について権利を認めないことは不公平であるということによるが、CATVの今後の発展を考慮した場合、放送事業者に著作隣接権を認めたのと同様な事情がCATV事業者についても認められる。こうしたところから、放送事業者と同様にCATV事業者に著作隣接権を付与することを考慮すべきである。

    ただし、難視聴解消や番組多様化を目的としてCATVにおいて再送信を行っている場合については、その行為は放送局で放送している全番組を受信し、伝達しているにすぎず、そこに準創作的行為を認めることができないので、そのような場合にもCATV事業者に著作隣接権を付与することには疑問があるところである。

    CATV事業者に著作隣接権を付与する場合は、放送事業者との対比において、以下の権利を付与することが考えられる。

    a 複製権……
    有線放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利
    これは、CATV事業者の複製権であり、有線放送に係る音又は影像の録音、録画と写真的複製が権利内容である。有線放送から直接録音、録画する行為のみならず、有線放送から一旦録音、録画したものを更に増製する行為をも含むので、有線放送の内容が社会的に伝播されていくことを規制することができる。
    b 再有線放送権又は放送権……
    有線放送を受信してこれを再有線放送し、又は放送する権利
    これは、有線放送を受信して行う有線放送又は放送が権利内容であり、有線放送が本来対象としていない者へ番組等が伝達されることを防ぐことができる。
    c 有線テレビジョン放送の伝達権……
    有線テレビジョン放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその有線放送を公に伝達する権利
    これは、有線放送された番組を通常予定しているような家庭用受信機で受信するのではなく、本来有線放送が予定している範囲を超えた有線放送番組の映画的な利用行為に関する権利である。

    (2)CATV事業者の義務について
    第95条及び第97条には、放送事業者及び音楽の提供を主たる目的とする有線放送を業として行う者は、商業用レコード(市販の目的をもって製作されるレコードの複製物(第2条第1項第7号))を使って放送又は有線放送を行った場合には、そのレコードに係るレコード製作者又はレコードに収録されている実演に係る実演家に二次使用料を支払わなければならないと規定し、放送事業者と音楽の提供を主たる目的とする有線放送を業として行う者に対し二次使用料の支払い義務を課している。この両者は、商業用レコードを大量に使用し、かつ、商業用レコードが通常予定している使用範囲をはるかに超えて使用しているところから二次使用料の支払い義務を課しているものであり、実演家については、実演の機会を失うことに対する補償としての性格もある。

    現行法制定当時におけるCATVは、放送の再送信がほとんどであったところからCATVにおける商業用レコードの使用を問題にするほどの実態にはなかったが、今日では自主放送が増えてきており、CATVの大規模化の傾向も見られるところから、商業用レコードがCATVで使われる場合は、レコードの通常予定している使用範囲を超えた利用としてCATV事業者にも商業用レコードの二次使用料の支払い義務を課すべきものと考えられる。

    (3)一時的固定の制度について

    a CATV事業者への一時的固定制度の適用について
    第44条第1項は、「放送事業者は、第23条第1項に規定する権利(放送権)を害することなく放送することができる著作物を、自己の放送のために、自己の手段又は当該著作物を同じく放送することができる他の放送事業者の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。」と規定し、放送事業者について一時的固定の制度を認めている。

    これは、生番組を放送するよりも、あらかじめ録音、録画物に収録し放送する場合が多いという我が国の放送界の実態にかんがみ、適法な放送を実施するために行われる一時的な録音、録画について、放送の許諾とは別に録音、録画の許諾を得なければならないとすることは適当でなく、また、このような一時的な録音、録画を認めたとしても、権利者の権利を不当に害することにはならないことから、著作権の制限規定として認められた制度である。ベルヌ条約上も、第11条の2第3項に「放送機関が行う一時的記録(ephemeral recordings)の制度」として規定されている。

    今後CATVが大規模化、多チャンネル化されることが予想されており、CATV事業者が自主制作番組を制作する機会が多くなると考えられ、このような場合、CATV事業者に対し一時的固定の制度を認めるかどうか問題となる。

    CATV事業者が自主制作番組を制作する場合、番組作成の過程においてあらかじめ録音、録画することは有線放送を行う上で必要であると考えられる。また、放送事業者に認めているのと同様に一時的な録音、録画を認めたとしても、そのことによって権利者の利益を不当に害することとはならないと考えられることから、現在放送事業者にのみ認められている一時的固定の制度をCATV事業者についても認めることが適当であると考えられる。

    b CATV事業者に一時的固定を認める場合の問題点
    第44条第2項では「前項の規定により作成された録音物又は録画物は、録音又は録画の後6月(その期間内に当該録音物又は録画物を用いてする放送があったときは、その放送の後6月)を超えて保存することができない。ただし、政令で定めるところにより公的な記録保存所において保存する場合は、この限りでない。」と規定し、一時的固定の制度に基づき作成された録音、録画物は、公的な記録保存所で保存する場合以外は6か月を超えて保存することができないことになっている。CATV事業者に一時的固定の制度を認める場合、この保存期間をどのように設定すればよいか、また、公的記録保存所での保存を認めるかどうか問題となる。

    (i)保存期間等について
    一時的固定の制度に基づき作成された録音、録画物は、放送のための技術的手段として作成されるものであるので、その必要性がなくなれば消去されるべきものであり、また、同制度は、固定物の保存を前提とする制度ではないため、保存期間は本来必要最小限の期間であるべきである。

    現行制度での保存期間は、固定後又は放送後6か月であるが、これは、民間放送局間でのテープネット(他の放送事業者から固定物の提供を受けて行う放送)による放送がすべて終了するまでに相当の期間がかかることを考慮して定められたものである。

    CATV事業者については、テープネット放送という実態がまれであることから、CATV事業者に一時的固定の制度を認める場合には、権利者の保護という点を考慮して一時的なものという意味でより短い期間を設定すべきであると考えられる。

    なお、放送事業者の行う一時的固定の制度については、当該著作物を同じく放送することができる他の放送事業者の手段による一時的固定を認めているが、これは民間放送局ではテープネット放送が多いという特殊事情を考慮したものであるので、CATV事業者については、このような規定を設ける必要はないと考える。

    (ii)公的記録保存所について

    現在、公的記録保存所として一時的固定物の保存が許される施設は、著作権法施設令第3条第1項に規定されている。第1に掲げられているのは、東京国立近代美術館フィルムセンターである。第2は、「放送の用に供した録音物又は録画物を記録として収集し、及び保存することを目的とする施設(公益法人が設置するものに限る。)で、当該施設を設置する者の同意を得て文化庁長官が指定するもの」であり、現在、日本放送協会(NHK)が設置する放送博物館及び放送文化財ライブラリー並びに(社)日本民間放送連盟が設置する日本民間放送連盟記録保存所がある。保存することができる一時的固定物は、同施行令第4条第1項に「記録として特に保存する必要があると認められるものでなければならない」とされている。

    CATVにより有線放送される番組の中には、地域内の行事や歴史等を記録したものもあり、残しておくべき貴重な番組もあることは十分考えられる。また、一時的固定物は、録音、録画について権利者の許諾を得て作成されたものではないので、固定物を記録として研究対象にするような場合以外は、その利用について改めて権利者の許諾が必要になり、記録として保存する必要があるものについてのみ保存することを認めたとしても、権利者の利益を不当に害することにはならないと考えられる。

    したがって、CATV事業者に一時的固定の制度を認める場合は、貴重な番組を保存する意味から、適正な公的記録保存所において保存できるよう措置する必要があると考えられる。

    (4)その他

    a 制限規定について

    (i)第34条(学校教育番組の放送)について
    同条は、「公表された著作物は、学校教育の目的上必要と認められる限度において、学校教育に関する法令の定める教育課程の基準に準拠した学校向けの放送番組において放送し、及び当該放送番組用の教材に掲載することができる。」と規定し、番組内容が学校教育法(昭和22年法律第26号)、学習指導要領等に基づく学校向け番組において、教育の目的上必要な著作物を自由に利用できるようにしている。ただし、同条第2項により、著作物を放送し、又は教材に掲載する者は、著作者にその旨を通知するとともに、著作権者に相当な額の補償金を支払う必要がある。CATV事業者が学校教育法等の法令に準拠した学校向けの有線放送番組を有線放送することに関して、教育という観点から、必要な著作物を自由に利用できるようにするかどうかの問題がある。

    現在CATVにおいては、放送番組を再送信する場合以外は学校向け番組を有線放送する実態があまりないことから、同条の規定の適用がなければCATV事業を行う上で大きな支障があるとは考えられないが、第34条の規定を受けて放送される放送番組を再送信する場合は、その放送自体に対して著作権が制限されているので、それを受けて有線放送することに対して著作権を制限しても問題はないと考えられる。また、自主放送についても、学校教育法等の法令に準拠した学校向け番組を有線放送することが行われるとすれば、第34条の規定を適用しても特段問題はないと考えられる。

    (ii)第38条(営利を目的としない上演等)について
     同条第1項は、「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもってするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、口述し、若しくは上映し、又は有線放送することができる。ただし、当該上演、演奏、口述、上映又は有線放送について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」と規定し、放送以外の著作物等の無形的な利用について営利目的ではなく、かつ、料金を徴収しない場合には、自由利用を認めている。

    放送という利用形態が第38条第1項から外されている理由は、放送によって著作物等が利用された場合、他の無形的な利用よりも大量の著作物等が利用され、そのうえ、無線により広い範囲に拡散されるからであり、たとえ営利性が無く、料金を徴収していなくてもその影響が大きいことによる。

    今後のCATVについては、大規模化、多チャンネル化されることが予想されており、その発展によっては大量の著作物等が利用され、放送の場合と同様な著作物の利用の態様が生じ得ると考えられる。このような場合には、有線放送という形態での利用について第38条第1項の規定から除外することを考慮する必要がある。この場合、共同受信組合等が行う難視聴解消のための再送信など従来から非営利かつ無料で行われてきたCATV事業についても有線放送権が働くようになることは、その社会的影響から問題があるところであり、第38条第1項を改正する場合は、その点を考慮に入れて検討すべきである。

    b 強制許諾制度について
    第68条は、「公表された著作物を放送しようとする放送事業者は、その著作権者に対し放送の許諾につき協議を求めたがその協議が成立せず、又はその協議をすることができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払って、その著作物を放送することができる。」と規定し、著作物の放送に対して強制許諾制度を設けている。これは、放送の公共的機能にかんがみ、著作権者の権利濫用を抑制するために導入されたものである。

    CATVに対してこのような強制許諾制度を導入するかどうか問題となるところである。CATV事業は、市町村単位を放送区域とする地域のメディアとして重要な役割を果たす等公共的性格を持っていると考えられる。しかし、放送に関する強制許諾制度について現行法制定以後適用された実例もなく、この規定をCATVにまで拡大する必要性は少ないものと考えられる。

    c その他
    CATV事業者に一時的固定の制度を認める場合は、映画の著作物の著作権の帰属について規定した第29条のような既存の規定との調整を図る必要がある。

    第29条においては、第1項において、映画の著作物の著作権は、当該著作物の著作者ではなく映画製作者に帰属すると規定し、第2項においては放送事業者が放送のための技術的手段として製作する映画の著作物については、放送権や他の放送事業者に頒布する権利に限って放送事業者に帰属するとしている。CATV事業者が製作した有線放送のための映画の著作物については、第29条第1項の規定に基づきすべての権利が帰属するということは妥当ではなく、放送事業者と同様、限定的な権利を帰属させる方向で検討すべきである。

    CATV事業者に放送事業者と同様の法的地位を付与していくとすれば、放送における実演の円滑な利用を図っている第92条、第93条、第94条の規定について、CATVで有線放送される実演も同様に取り扱うこととするかどうかの問題があるが、これらのことは、CATVの今後の発展を見極めたうえで著作隣接権者の権利について総合的に検討する必要がある課題であるため、問題点の指摘をするにとどめる。

    以上はニューメディアといわれるCATVについての検討の結果であるが、この結果を踏まえCATVに関し著作権法上の措置を講ずる場合には有線ラジオ放送をも視野に入れて検討しなければならないことは当然のことであり、このことを念のため付言する。

    4 著作権処理等の現状と問題点

    (1)著作権処理等の現状
    a 同時再送信
    (社)日本音楽著作権協会、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本放送作家組合、(社)日本芸能実演家団体協議会の権利者五団体が日本放送作家組合を窓口団体として包括許諾で個々のCATV事業者に許諾を与えている。

    b 自主放送
    音楽と音楽以外の著作物については権利処理の方法が異なっており、音楽の著作物については、(社)日本音楽著作権協会が自主制作番組、供給番組を含めて一括した包括許諾を個々のCATV事業者に与えている。

    音楽以外の著作物については、現在供給番組の一部について、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本放送作家組合、(社)日本芸能実演家団体協議会、(社)日本レコード協会が日本放送作家組合を窓口団体として包括許諾を行う形態により、CATV事業者が権利処理をする「異時再送信」としての取扱いがなされているが、その他の供給番組、自主制作番組については、権利処理のルールが確立していない。

    (2)著作権処理等の問題点等

    a 同時再送信
    権利者団体の窓口を一本にしぼつた包括許諾により、個々のCATV事業者が権利処理を行うというルールが定着しており、現在の権利処理の方法は現実的である。

    b 自主放送
    音楽については、現在の権利処理の方法で特段の支障が生じていない。音楽以外の著作物については、上述のように権利処理のルールが確立していないが今後発展が予想される多チャンネルの都市型CATVにおいては、番組編成において供給番組が欠くことのできないものであり、中心を占めていくものと考えられる。この供給番組においては、各種の著作物が多量に使用されることが予想され、この都市型のCATVの発展のためには著作権処理のルールの確立が緊急の課題となっている。

    このことは、本小委員会の審議の過程において指摘のあった点であり、これを受けて、文化庁に実務者及び学識経験者からなる「ニューメディア(CATV)における著作権等の処理の在り方に関する調査研究協力者会議」が設けられ現在検討を行っている。この会議における検討結果をも踏まえて早急に関係団体の間において適切なルール作りが行われる必要がある。

    供給番組の権利処理の方法については、番組制作者が処理する方法、番組供給者が処理する方法、CATV事業者が処理する方法の3つの方法が考えられる。著作権の処理については、法律上の責任はCATV事業者が負うが、番組の円滑な流通の確保を図るためには、原則としてCATV事業者に番組を供給する者(番組供給者あるいは番組制作者)が権利を処理したものをCATV事業者に提供する方向で検討することが望ましい。また、現段階においては権利者の窓口をできる限り一本化することが望ましいと考える。

    II ビデオテックス、VRS等
    1 ビデオテックス、VRSの実態等
    ビデオテックス(Videotex)は、電話回線と家庭のテレビ受信機を接続し、センターに蓄積した文字、画像(静止画)情報を利用者の要求に応じて提供するシステムであり、VRS(Video Response System;画像応答システム)は、テレビ受信機と専用キーボード等を端末とし、センターとの間を光ファイバーケーブル等の広帯域伝送路によって接続し、センターに蓄積した音声、画像情報を利用者の求めに応じて提供するシステムである。

    ビデオテックス、VRS共に有線電気通信によつて情報が提供されるという点で有線系ニューメディアに位置付けられているものであり、利用者が主体的に情報を選択できる双方向性を有したメディアと言うことができる。

    (1)ビデオテックスの概要
    ビデオテックスは電話回線を利用した文字図形情報システムの総称であり、各国ごとに異なった名称が付けられている。我が国ではキャプテンシステム(CAPTAIN System;Character And Pattern Telephone Access Information Network System)と呼ばれるシステムが商用サービスを開始している。諸外国では、イギリス(システム名-プレステル)、フランス(テレテル)、西ドイツ(ビルトシルムテキスト)、オランダ(ビディテル)、フィンランド(テルセット)、カナダ(テリドン)等の国において実験又は実用システムが稼動しているところである。

    ビデオテックスは文字及び図形(静止画)により、センターに蓄積された情報を利用者に提供するものであり、画像に着色することができる。また、利用者は表示された画像をハードコピーのプリントアウトの形で出力することも可能である。

    ビデオテックスにより提供されるサービスは、その双方向性を活用する形であり、センターの画像ファイルに蓄積された情報を利用者の要求に応じて提供する情報検索サービスやホームショッピング、ホテル、劇場、交通機関などの予約等ができる注文・予約サービスなどが主として考えられる。

    我が国においては、郵政省と日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社;NTT)において、キャプテンと呼ばれるシステムの開発が進められていたが、昭和59年11月から首都圏及び京阪神地区で商用化が開始されている。サービス対象地域は順次拡大されており、昭和62年度中には全国的にサービスが行われる予定となっている。

    キャプテンの情報提供者(I P;Information Provider)は、NTTが開発した共同利用型のキャプテン情報センターに情報を蓄積するか、自分の情報センターをビデオテックス通信網に接続して情報を提供する。昭和60年4月で、キャプテン情報センターに蓄積されている画面数は、111,600画面であり、月間1,000万画面程度のアクセスがある。

    ビデオテックスは、静止画により情報を提供するものであるが、キャプテンでは、オプション機能によってアニメ的な簡単な動画を表示することも可能である。キャプテンの場合、1画面に表示できる文字数は、標準的な端末においては120文字、高密度端末を使用した場合においては480文字であり、画面を16色以内で着色することができる。

    キャプテンにおける情報の検索は、索引番号を指定して直接必要な画面を呼び出す方法、目次画面(情報分野別目次画面と五十音別情報索引画面がある)に従って、順次選択していき、必要な画面を呼び出す方法、見たい情報の項目名をカナ文字で入力して画面を呼び出す方法などにより行われる。

    (2)VRSの概要
    VRSは、回線によって家庭のテレビ受信機等と各種の情報が蓄積されているセンターを接続し、利用者からの要求に応じて情報を音声及び画像で個別に提供するシステムで、回線に広帯域伝送路を使用しているため、ビデオテックスと異なり、自然画、動画の提供が可能であり、ビデオテックスとCATVの機能を兼ね備えたものと言える。

    VRSは、NTTが昭和52年から実験を行っており、現在三鷹、武蔵野地区で実験が行われているINS(Information Network System;高度情報通信システム)でもVRSサービスが行われている。

    VRSのサービスは、静止画サービス、リクエスト動画サービス、定時同報動画サービスの3つに大別される。

    静止画サービスは、個々の利用者の要求に応じて、文字、図形、写真などの静止画像を音声とともに提供するもので、情報検索、情報案内の他、外国語などの教育学習やゲームなどの趣味、娯楽に利用することが考えられる。
    リクエスト動画サービスは、個々の利用者の要求に応じて動画を提供するもので、自然科学、娯楽等の分野のビデオソフトが提供される。

    定時同報動画サービスは、あらかじめ決められたスケジュールで動画番組が放映されるもので、希望の番組が放映される時間にセンターにアクセスして視聴する。なお、これは本章Iで述べたCATVと同一のものであると考えられる。

    2 現行著作権法の適用と問題点
    ビデオテックス、VRSを通じて様々な情報が提供されるが、これらの情報が著作物に該当するかどうか、著作物に該当する場合にどのように著作権が関係するかが問題となる。

    (1)ビデオテックス、VRSにより提供される情報の著作物性
    ビデオテックス、VRSのセンターには多様な情報が蓄積されるが、この蓄積される情報が著作権法の保護対象となる著作物に該当するかどうかという問題である。この点については、第1部第3章において、データベースとして蓄積される情報の著作物性について述べたところがビデオテックス、VRSのサービスにおいて提供される情報に関しても当てはまると考えられる。それ以外のものについては、次のように考えられる。
    (i)ビデオテックス、VRSではイラストなどが使用されるが、これについては美術の著作物に該当するものも多いと考えられる。
    (ii)VRSでは自然画を送ることができるので写真が蓄積されることが考えられるが、写真については、平面的な絵画をそのまま撮影したものなど一部の創作性を有しないものを除いて写真の著作物に該当する。
    (iii)VRSでは動画を送ることができるので多様な動画が使用されるが、これらはおおむね映画の著作物と考えられる。
    (iv)ゲーム、計算、教育など各種のプログラムを端末に送り、端末に蓄積されたプログラムを実行することができるが、これらはプログラムの著作物に該当する。また、ビデオゲームの影像については、映画の著作物に該当するとの判決(昭和59年9月28日東京地方裁判所、昭和60年3月8日東京地方裁判所、昭和60年6月10日東京地方裁判所)が出されているところであり、映画の著作物に該当し得る。
    (v)VRSでは音声を送ることができ、また、ビデオテックスでもキャプテンは、メロディーの音高、音長、楽器の種類などの情報をコード化してセンターから端末に送り、端末に内蔵されているシンセサイザーによって出力するメロディー表現が可能なので既存の音楽の著作物が使用されることが考えられる。
    (vi)ビデオテックス、VRSの場合、IPが提供する情報を作成し、情報センターを通じて利用者に提供することがあるので、IPが提供する個々の画面が著作物に該当するかどうかが問題となる。

    個々の画面の著作物性については、文字のみにより構成されているものについては、そこに表示されているものが、言語の著作物に該当するかどうかを考える必要がある。
    キャプテンを例にとると、標準端末では一画面120文字(すべて漢字で表示する場合)であるが、この程度の長さのものでも著作物として保護するのに十分な創作性を持つと評価できるものがあり得るところである。
    (vii)IPが提供する情報の集合体の著作物性については、情報の収集、選定、整理統合という作成の一連の過程に創作性があれば、その情報の集合体は著作物として評価され得る。第1部第3章でデータベースの著作物性について検討したが、IPが提供する情報の集合体についても同様の創作性を持ち得るものもあると考えられる。
    (viii)センターに蓄積される情報の集合体全体についても、情報の収集、選定、整理統合という作成の一連の過程における創作性を検討する必要がある。センターにおいては、各IPが提供する情報が蓄積され、目次が付けられているにすぎないような場合には、センターのファイル全体を1つの著作物として評価することは困難であると考えられる。

    (2)ビデオテックス、VRSの利用と著作権
    a 著作物のセンターへの蓄積と著作権
    ビデオテックス、VRSを通じて提供される情報がセンターのコンピュータの外部記憶装置に蓄積される場合は、複製に該当すると考えられるので著作権者の許諾が必要である。
    b 電話回線等により提供される著作物の利用と著作権
    ビデオテックス、VRSは、電話回線、広帯域伝送路によって情報が提供されるが、この有線電気通信による送信行為を著作権法上どのように評価するかが問題となる。特に利用者の要求に応じて個別に情報が送られる点をどのように評価するかであるが、利用者の要求に応じて個別に情報が送られる場合も各々の送信の時間的なずれを除けば、送信の総体は一般の有線放送と同様に考えられ、有線放送権が及ぶと考えられる。しかし、有線放送が同時に不特定多数の視聴者に送信する形態として従来観念され、社会的にも定着している傾向があることから、解釈のみによって対処することは必ずしも妥当ではないため、有線放送の定義を改正し、ビデオテックス、VRSのような利用者の求めに応じて情報が送られるものも著作権法上の有線放送に該当することを明らかにするか、または有線放送という用語を用いず、従来観念されている有線放送の他、ビデオテックス、VRSのようなものを含め著作物の有線電気通信による送信に関する権利を新たに設定する等の措置を講ずることが望ましいと考えられる。このことについては、データベースのオンライン・サービスと同様である。

    ビデオテックス、VRSによって提供された情報をハードコピーでプリントアウトしたり、磁気テープなどに機械可読形態で複製することについては複製権が及び、音声形式でアウトプットする場合には、口述権、場合によっては上演権、演奏権が及ぶ。

    一方、静止画、文字情報などを影像によりアウトプットすることについては、第1部第3章においてデータベースに関して検討したように、現行著作権法は、上映権を映画の著作物についてのみ認めているため、静止画、文字情報など映画の著作物に該当しないものを影像により公衆に提示しても権利は働かない。

    しかし、ビデオテックス、VRSでは、センターに蓄積された情報がオンラインにより端末に提供され、端末でアウトプットされるため、第23条第2項に規定する「有線放送される著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利」が働くので、著作者等の保護に欠ける面はなく、重ねて著作物を影像の形式でアウトプットすることについて権利を認める必要性に乏しいと考えられる。


    第2章 無線系ニューメディア
    無線系ニューメディアとしては、直接衛星放送、衛星通信、文字(多重)放送、ファクシミリ放送、静止画放送がある。以下それぞれについて実態等を把握し、著作権法上の問題を検討した。

    I 直接衛星放送
    1 直接衛星放送の実態等

    (1) 直接衛星放送の概要
    直接衛星放送とは、赤道上空に打ち上げられた放送衛星を使って放送を行うもので、受信側は、パラボラアンテナで衛星からの電波を受信する。宇宙空間の衛星から送信が行われるため、同一の放送を広範囲で受信でき、また、地球上の地理的条件等に左右されないので、難視聴の問題が起こらないという特徴がある。また、地球上の放送波より高い周波数帯を使用することによって、以下のようなサービスを行うことが可能となる。
    ○高品位テレビ放送
    現在のテレビジョン放送よりも画質が細かく鮮明であり、音声も良好なテレビジョン放送であり、大きな面積のディスプレイ上に映し出すことによって迫力ある番組を見ることができる。スポーツ中継、劇場用映画等の放送に適している。

    ○PCM(Pulse Code Modulation)音声放送
    音をアナログ信号からディジタル信号に変換して放送を行うラジオ放送であり、ディジタル信号であるため、品質の高い音を聴取することができ、音楽放送に適している。

    ○専用波文字放送
    専用波を用いて行う文字放送である。詳しくは、本章III1を参照。

    ○多チャンネル静止画放送
    専用波を用いて、50チャンネル程度の、文字、図形、自然画の静止画面による番組を放送するものである。詳しくは、本章IV1を参照。

    (2)直接衛星放送の発展
    昭和53年に実験用放送衛星(BS)の打ち上げが成功し、衛星放送のシステム運用実験が行われた。
    BSの実験の成果をもとに、実用放送衛星BS-2の打ち上げが決定され、昭和59年1月、BS-2aの打ち上げが成功した。BS-2は、NHKのテレビジョン放送の難視聴解消のほか、高品位テレビ放送、PCM音声放送等の実験や衛星放送の技術開発を目的とするもので、昭和59年5月12日から試験放送を開始した。

    また、BS-2に継ぐ放送衛星としてBS-3の打ち上げが既に決定されている。このBS-3は、BS-2よりも大型であり、NHK2チャンネル、一般放送事業者1チャンネルのチャンネル割当が決まっている。一般放送事業者用の1チャンネルの利用のため民間各層の参加による新会社、日本衛星放送株式会社が昭和59年12月に設立された。どのような放送を行うかは現時点では決まっていないが、スクランブル信号を用いた有料放送(ペイテレビ)を行うことが検討されている。これは、スクランブル信号を送信することによって、その信号を除去する特殊な装置を持った契約者のみが番組の提供を受けることができるようにするものである。

    具体的な計画はBS-3までであるが、(1)で述べたように高い周波数帯を用いることによって、将来高品位テレビ放送、PCM音声放送が可能になれば、現在行われている放送よりも良質な画面、良好な音の放送ができ、さらに、専用波文字放送、多チャンネル静止画放送のような多様なサービスも行うことができるようになる。

    2 国際的検討の動向
    1985年(昭和60年)3月ユネスコ・WIPOの共催により、直接衛星放送に係る著作権問題を討議するための専門家会議が開催された。
    会議では、直接衛星放送は、ベルヌ条約及び万国著作権条約上の「放送」に当たるということで意見の一致を見た。しかし、直接衛星放送によつてカバーされるエリアが従来の放送に比べ格段に広いことから、放送が複数の国にまたがる場合、どの国の法律を適用するべきかという問題、さらに、強制許諾制度について、その制度を導入している国においてのみ効力を有するという条約上の規定を複数の国にまたがる直接衛星放送に対してどのように適用するかという問題等が今後の検討課題として残された。

    3 現行著作権法の適用と問題点
    直接衛星放送が実用化される場合、専用波文字放送や静止画放送が実現されることになるが、これらについてはそれぞれの項で触れることとし、ここでは、現在のテレビジョン放送やラジオ放送の手段として衛星が使われることを想定し、著作権問題を考える。なお、高品位テレビ放送、PCM音声放送については、画質又は音質において優れている点が従来の放送と相違しているものであり、著作物等を利用する形態としては変わらないのでここでは特に取り上げることはしない。

    「放送」について、著作権法第2条第1項第8号で「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうことをいう。」と定義している。パラボラアンテナとアダプターを備えることによって、だれでもが直接受信することを目的に衛星を使用して著作物等を送信する行為は、著作権法上の「放送」に該当するものと考えられる。つまり、現在は、放送波が高層の地上アンテナより発信されているが、衛星による送信は、地上アンテナの替わりに衛星に設置されたアンテナを使用しているにすぎないと考えられるからである。

    II 衛星通信

    1 衛星通信の実態等

    (1)衛星通信の概要
    衛星通信とは、宇宙空間に打ち上げられた人工衛星を利用して地球上の固定地点の間の通信を行うことを言う。通信に衛星を使うことの特質としては、良好に通信し得る地域が格段に広いこと、地球上の地理的条件に左右されることなく通信ができること、中継点が衛星であるので地球上の災害の影響を受けにくいこと、距離による経済的格差がないこと等がある。
    このような特質を持つ衛星通信については、例えば次のような利用が考えられる。
    ○地球上の通信の補完的利用
    地上のどこからでも送信することができるので、事件現場等から情報を伝達するなどの臨時的な通信や災害時の通信、離島との通信に利用される。

    ○同報通信
    同じ情報を同時に多数地点へ送信すること。例えば、企業の本店から各支店への情報の通信、新聞社本社から各支社への紙面の伝送等。

    ○CATVへの番組伝送
    番組供給会社等から各CATVへ番組を伝送すること。

    (2)衛星通信の発展
    衛星通信は、国際的には、インテルサット(国際電気通信衛星機構)が国際電気通信サービスを提供しており、国際電話、テレックス、テレビジョン中継等が行われている。また、衛星を国内通信に利用する国が増加してきており、日本においても昭和58年2月に実用通信衛星CS-2a、同年8月にCS-2aの予備機としてCS-2bがあいついで打ち上げられ、本格的な衛星通信の時代に入った。

    日本における衛星通信システムの開発は、昭和40年代から既に始まったが、昭和47年に通信衛星に対する周波数の割当が国際的に決定され、その後、実験用通信衛星(CS)を打ち上げることが決まった。そして、昭和52年にCSは打ち上げられ、衛星通信システムの運用実験が行われた。上記CS-2は、その成果を踏まえ、実用通信衛星として打ち上げられたものである。

    CS-2の目的は、災害時の通信の確保、臨時通信、離島通信のための利用、衛星通信技術の開発である。

    CS-3については、昭和62年又は63年の打ち上げが決定されているものの、どのような形で利用されるかは具体化されていないが、CS-2の利用態様の継続のほか、企業内、業種間での自営通信のための利用、VAN(付加価値通信網)サービスの回線としての利用、CATVへの番組供給のための利用等が考えられている。

    2 国際的検討の動向
    衛星通信に係る著作権問題については、放送番組を衛星を介して伝送する場合のその伝送信号の保護問題として議論されてきた。保護手段として考えられたのは、隣接権条約の改正、ITU(国際電気通信連合)規則の改正又は新しい条約の締結であった。

    1968年(昭和43年)10月に、BIRPI(WIPOの前身)主催による作業部会が開催されたが、隣接権条約上の「放送」の定義である「公衆によつて受信されることを目的とする無線通信による音の又は影像及び音の送信」は、最終的に公衆によって受信されることを目的とするすべての送信を意図しているのであって、直接的な受信のみに限定されているわけではないということから、衛星による番組の伝送は「放送」に当たるとする意見と、衛星による伝送信号は公衆が受信することができないこと、また、放送波とはまったく異なっていることから、「放送」に当たらないとする考え方が対立して、結論が得られなかった。

    他方、1969年(昭和44年)12月にユネスコ主催により「宇宙通信分野における国際的取決に関する政府専門家会議」が開催され、衛星信号を保護する手段として、既存の条約を適用するのではなく新しい条約を制定することで意見の一致を見た。

    これらの動きを受けて、1971年(昭和46年)4月ユネスコ・WIPO共催により衛星通信の著作権・著作隣接権問題に関する第1回政府専門家委員会が開催され、新しい条約を制定することが決定され、ローザンヌ案が作成された。このローザンヌ案は、その後2回にわたる政府専門家会議の後「衛星により送信される番組伝送信号の伝達に関する条約」として1974年(昭和49年)にブラッセルで制定され、1979年(昭和54年)に発効した。

    この条約の内容は、各締約国は、他の締約国の国民である送信機関の番組伝送信号で衛星を利用するものが自国内において又は自国から無断で伝達されることを阻止しなければならないことを規定しているが、その阻止手段については具体的な規定はなく、締約国の国内法にゆだねられている。

    3 現行著作権法の適用と問題点
    通信衛星を介して著作物等を伝送する行為のうち、例えばCATV事業者に番組を伝達する場合等限られた少数の者に伝達することについては、放送番組がマイクロウェーブによってキー局からネット局へ分配されている場合と同様、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうこと」という「放送」には該当しないので、放送権は及ばない。

    しかし、限られた少数の者に伝達することを意図する場合であっても、将来における機器の普及によっては、衛星を経由した信号を各家庭で個別に受信することが可能となると考えられるが、この場合、公衆による直接受信を目的とした伝達ではないので、放送と概念することには無理があるとの見解もある。しかし、このように解することは権利者の保護に欠けることとなるため、公衆によって直接受信されるような状況の下において、それを承知の上で送信することは現行法の下においても「放送」に該当するものと考えるのが妥当である。

    また、通信衛星による伝達であつても多数の者によって直接受信されることを目的として送信を行う場合には、放送権が及ぶものと解される。

    なお、CATVに番組を伝送する場合等に、伝達先の機関以外の者が番組伝送信号を傍受して更に伝達してしまうということに関する送信機関の保護の問題がある。これについては、2で触れたように国際的には「衛星により送信される番組伝送信号の伝達に関する条約」が既に発効しており、各締約国が適切な保護手段を講ずるべきこととなっている。我が国においても、将来、このような問題に対応し送信機関を保護するための措置を講じなければならない事態も生じると考えられるが、その際には著作権法上の対応を含め総合的に検討する必要があると考えられる。

    III 文字(多重)放送

    1 文字(多重)放送の実態等
    文字(多重)放送とは、文字、図形情報をディジタル信号の形で送信して、受信側は、テレビジョン受像機でその情報を単独であるいはスーパーインポーズ(テレビジョン画面に重ねて表示すること)の形で映し出すものである。伝送形態としては、通常のテレビジョン放送波のすき間にディジタル信号を重畳して送信するものと、専用波を用いて送信するものの二種類がある。受信側は、アダプターを通常のテレビジョン受像機に付加することによって文字、図形情報をブラウン管上に表示する。また、プリンターを接続することによってハードコピーとして取り出すこともできる。

    文字(多重)放送の特徴は、1)放送したい時に放送したい番組を放送することができること(速報性)2)多種類の番組を同時に放送することができるので、好きな時に好きな番組を選択できること(随時性、選択性)3)プリンターを備えることによって記録性を持たせることもできること(記録性)がある。

    文字(多重)放送については、昭和57年に放送法(昭和25年法律第132号)が改正され、文字(多重)放送がNHKと一般放送事業者の業務として認められ、更に既存のテレビ局以外の事業者(第三者機関)が文字(多重)放送を行うことができることになった。この第三者機関は、放送設備については既存の放送局との賃貸契約によることとされている。
    昭和58年10月からNHKが東京と大阪で放送を開始しており、民間放送局においても文字(多重)放送を始めるべく現在準備中である。

    (1)伝送方式
    伝送方式は以下のものがある。
    a パターン方式
    文字、図形を細かい点(画素)に分解して、ディジタル信号に変換し伝送し、受信側は信号を一度記憶装置に蓄積した後、分解された画面を影像として組み立てブラウン管上に映し出すものである。漢字や複雑な図形を伝送することに適しているが、伝送に時間がかかることが欠点である。
    b コード方式
    文字の1つ1つを符号(コード)で表して、それをディジタル信号で伝送し、受信側は、送られてくる符号を文字に変換し、ブラウン管上に映し出すものである。受信機には、文字とその符号を記憶する記憶装置を備えておく必要がある。伝送時間は短いが、複雑な図形を伝送することができないという欠点がある。また、簡単な電子音楽も送ることができる。
    c ハイブリッド方式
    aとbの併用であり、文字はコード方式、図形はパターン方式で送るものである。現在はパターン方式で放送が行われているが、将来はこの方式に移行する予定である。

    (2)文字(多重)放送の番組
    文字(多重)放送で放送される番組の種類は、以下のとおりである。
    a 番組の持つ性格による分類
    (i)補完番組
    テレビジョン放送番組の内容を補完する番組。例えば、野球中継のときに他球場の戦況を表示する場合や聴力障害者向けの字幕放送等。
    (ii)独立番組
    テレビジョン放送番組の内容とは関係ない番組。
    b 送出形態による分類
    (i)反復形番組
    同じ内容で繰り返し放送する番組、例えば、番組案内、株価情報
    (ii)単発番組
    特定の曜日、特定の時間に放送する番組、例えば、週間ニュース
    (iii)テレビジョン番組と同時に放送する番組、例えば、字幕放送
    また、番組内容としては、NHKが行っている文字(多重)放送では、ニュース、天気予報や聴力障害者向けのドラマ等の字幕放送であるが、将来はその他交通情報、株式情報、テレビ番組案内等や広告のみを放送することが考えられている。

    2 現行著作権法の適用と問題点
    文字(多重)放送は、従来の放送とは異なり、文字、図形のみを伝送するものであるが、著作権法上は、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうこと」という「放送」に該当するものと考えて特段の問題はない。
    (1)聴力障害者向けの字幕放送で、字幕を作成する場合、表示できる文字数に制約があるところから、ドラマの台本、ニュースの原稿等を短く要約する必要があるが、この要約については、ドラマであれば、原作者、脚本家の翻案権が働く場合もあり得るので、この場合には放送の許諾を得る段階で字幕作成についても許諾を得る必要がある。

    このことについては、著作権者の翻案権を制限し、聴力障害者向けの字幕作成が容易に行われるようにすべきであるとの意見もあったが、放送の許諾を得る段階で翻案についても許諾を得ることができるので、そのような制限規定を設ける必要はないと考える。

    また、字幕作成に関しては、要約が行われることから同一性保持権との関係が問題となる。著作権法第20条第1項では「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」と規定し、第2項では、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」については、同一性保持権が及ばないことを規定している。聴力障害者向けの字幕の作成に当たって行われる要約は、「やむを得ない改変」とは考えられないので、字幕を作成する場合は、放送についての許諾を得る際に同一性保持権の面からの著作者の了解も得る必要がある。なお、そのような要約が翻案に当たる場合は、元の著作物とは別の二次的著作物として客観的に認識されるため著作者の意に反するとは言えず、同一性保持権は問題とはならない。
    (2)また、文字情報がスーパーインポーズの形でテレビジョン画面に表示される場合、画面上に表示された絵画等の著作物や画面自体のイメージを損うのではないかということがある。独立番組であれば、文字情報を表示するかどうかは受信者の選択によるので問題となることはないが、補完番組であれば、どのように文字情報を表示するかは送信側が決めることでもあるので、画面上の著作物や画面自体のイメージを損わないような配慮が必要であると考える。
    (3)文字(多重)放送は、著作権法上「放送」に該当するので、このような文字(多重)放送を業として行う者は、著作権法上「放送事業者」に該当し、著作隣接権による保護を受ける。文字(多重)放送の場合、既存の放送局から設備を借りて第三者機関が文字(多重)放送を行うことができ、この第三者機関が「放送事業者」と言えるかどうか疑問が出されたが、その者が反復継続して文字(多重)放送を行うのであれば、放送を業として行う者として「放送事業者」と考えて特段問題はない。
    (4)また、放送事業者は、放送権を害することなく放送できる著作物を一時的に録音、録画することができることとなっており(第44条)、文字(多重)放送を行う場合、あらかじめディスク等に文字、図形情報を固定しておき、放送時間に合わせて送信することが考えられるが、この固定は「影像を連続して固定すること」(録画)とは言えないので、第44条の規定の適用を受けることができない。

    しかし、文字(多重)放送においても、上記のような一時的固定を行うことが必要であり、またこのことを認めても権利者に著しい不利益をもたらすものとは考えられないので、今後の実態の推移によっては従来の放送と同様にこのような複製についてこの制度が適用されるよう第44条の規定の整備を図ることが考えられる。

    IV 静止画放送

    1 静止画放送の概要等

    (1)静止画放送の概要
    静止画放送とは、現在のテレビジョン画面では連続して画像を送ることによって動的な表現を可能としているが、連続した画像をそれぞれ別個の静止画として送ることにより多くの情報を伝送するものである。伝送形態としては、通常のテレビジョン放送波のすき間に静止画の信号を重畳して送信するものと、専用波を用いて送信するものの2種類がある。前者の場合は、2~3種類の番組を送信することができるが、音声は出ない。後者の場合は、50種類程度の番組を音声と併せて送信することができる。受信側は、テレビジョン受信機に付加されたアダプターにより、静止画の信号を一時的に記憶装置に記憶させておき、ひとつの静止画を連続して再生する。

    静止画放送の特質は、1)多種類の番組を同時に伝送することができるので、多くの情報を伝送できること 2)好きな時に好きな番組を選ぶことができること(随時性、選択性)が考えられる。

    (2)静止画放送の番組
    静止画放送の番組として考えられるのは、ニュースや天気予報、交通情報、各種案内情報等がある。それらを同時に繰り返し伝送すれば、受信者は好きな番組を好きな時に受信することができる。また、例えば、質問を表示した静止画と答や解説を表示した静止画を同時に伝送することによって、受信者が任意に選択して学習を行うような教育番組、通信教育における利用が考えられる。

    2 現行著作権法の適用と問題点
    静止画放送は、従来の動画に替えて静止画を送るものであるが、放送の定義「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうこと」に当てはまるので、著作権法上「放送」と考えられ、著作物の静止画放送を行う場合は権利者の放送権が及ぶ。
    また、静止画放送を反復継続して行っている者は、著作権法上「放送事業者」であり、著作隣接権による保護を受けると考えられる。

    さらに、放送事業者が行う一時的固定については、文字(多重)放送の場合と同様、文字、図形情報や自然画を一旦信号の形で蓄積し、放送時間に合わせて送出されることができるよう、今後の実態の推移によっては第44条の規定の整備を図ることが考えられる。

    V ファクシミリ放送

    1 ファクシミリ放送の概要等
    (1)ファクシミリ放送の概要
    ファクシミリ放送とは、文字、図形、写真を細かい点(画素)に分解し、電気的信号に変換して伝送するものであり、受信側は、特別な受信機によりハードコピーとして取り出す。伝送形態としては、テレビジョン放送波に重畳させることが現在考えられている。
    ファクシミリ放送の特徴は、ハードコピーとして取り出すので記録性、保存性があることである。

    (2)ファクシミリ放送の番組
    ファクシミリ放送において放送される番組は以下のとおりである。
    (i)補完番組
    テレビジョン放送番組の内容を補完する番組であり、例えば、放送されるニュースについて更に詳細なものを伝送したり、教育番組において細かい表やグラフ、テキスト等を伝送する場合である。
    (ii)独立番組
    テレビジョン放送番組とは関係のない番組を伝送するものであり、各種ニュース、生活情報、レジャー情報等を提供する一般向け番組と株価情報のように特定契約者に対してのみ伝送する特定者向け番組が考えられる。特定者向け番組については、番組を識別する暗証コードやスクランブル信号を用いて放送することになる。

    2 現行著作権法の適用と問題点
    (1)ファクシミリ放送では、受信された情報がハードコピーの形で取り出されるので、その点が従来の放送とは異なる。そこで、ファクシミリ放送が「放送」に該当するかどうか及び受信者による複製との関係をどのように考えるか問題となる。

    「放送」の定義は、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信の送信を行なうこと」であり、ファクシミリ放送もこの定義に当てはまるので、著作物等のファクシミリ放送を行う場合は、権利者の放送権が働くと考えられる。

    また、受信側で行われる複製の複製主体については、ファクシミリ放送では受信側で当然に複製が行われる形態で送信されるので、複製主体は送り手であると考えられる。この場合、複製権と放送権の二重の権利が働くことになるが、複製と放送では著作物の利用形態としては別であるので、二重に権利が働くとしても特段問題はないと考える。
    (2)さらにファクシミリ放送を行う者を「放送事業者」として著作隣接権による保護を図るべきか問題となる。「放送事業者」とは「放送を業として行なう者」(第2条第1項第9号)であり、ファクシミリ放送を反復継続して行う者は「放送事業者」として著作隣接権による保護を受ける。

    しかし、現在考えられているファクシミリ放送の利用形態のうち、例えば、ファクシミリ新聞であれば、特定の契約者に物流による配達に替えて無線によって新聞を配送しているにすぎず、また、教育番組のテキスト等をファクシミリ放送で送る行為はテキスト等を配布していることと同じであり、このような行為を行う者を放送事業者と考えるには疑問があるとの意見があったが、この点については今後の実態の推移を見てさらに検討すべき課題であると考える。
    (3)なお、ファクシミリ放送を行う場合、受信側で行われる複製について(1)で述べたように、放送事業者は放送の許諾と同時に複製についての許諾を得る必要があるので、ファクシミリ放送を行う上で一時的固定の制度を設ける必要はない。


    第3章 パッケージ系ニューメディア
    1 パッケージ系ニューメディアの概要等
    パッケージ系ニューメディアとして取り上げられているものは、ビデオディスクとDAD(Digital Audio Disc)である。
    ビデオディスクとは、「絵の出るレコード」と呼ばれるように、音と影像をディスクにディジタル信号で記録したもので、専用のプレーヤーをテレビジョン受像機に接続して再生する。動画の他、静止画も記録することができるので、映画のみならず、写真や絵画等も記録でき、また、雑誌や図書等を印刷物の替わりにビデオディスクに記録して発行することもできる。ビデオディスクは、また、非常に多い情報量を蓄積でき、光学方式のビデオディスクでは、静止画の場合、片面54,000画面、VHD方式では、倍の108,000画面を蓄積することができる。また、それぞれに番号(番地)が指定されているので、ランダムアクセスを行うことができる。

    ビデオディスクの利用方法としては、映画の収録、企業等における書類の保存のための利用、写真集、百科事典等の発行等が考えられる。

    DADとは、音をディスクにディジタル信号で記録したもので、レコード、テープよりはるかに良質な音を収録できる。DADについては、第2条第1項第5号のレコードの定義「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)」に当てはまるので、ここでは特段取り上げないこととする。

    2 国際的検討の動向
    1977年(昭和52年)2月にユネスコ及びWIPO共催により「ビデオカセット及びオーディオビジュアル・ディスクの使用から生ずる法律問題に関する作業部会」が開催された。
    この会議における著作権条約の観点からの検討では、既存の著作物のビデオグラム(注)への固定は「複製」と考えられること、ビデオグラフィック著作物(注)については、映画の著作物に同化して考えられていることに賛否両論があったが、その決定は国内法にゆだねられた。

    隣接権条約の立場からの検討では、放送事業者及びレコード製作者については法律的問題は生じないとされた。しかし、実演家については、ビデオグラムが映画の著作物に同化されていることに伴う法的地位を改善するという問題が検討されたが、条約の改正までには至らなかった。

    この作業部会に続き、1978年(昭和53年)9月にベルヌ同盟執行委員会及び万国著作権条約政府間委員会の小委員会において、及び同年同月に隣接権条約政府間委員会小委員会において、この問題について再度検討が行われたが、1977年の上記作業部会での結論以上のことは出なかった。

    (注)ビデオグラム…………
    影像と音の連続の物的支持物及びその支持物に収録された影像と音の連続の固定物
    ビデオグラフィック著作物……
    ビデオグラムへの固定のために特に作成された著作物

    3 現行著作権法の適用と問題点
    ビデオディスクは、動画のみならず静止画も固定することができ、機能的にはランダムアクセスができるという特徴がある。このような特性に基づく著作権法上の問題は特段ないと考えられるが、若干の点について検討を行った。
    (1)第79条には、「第21条に規定する権利(複製権)を有する者は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。」とし、著作物を文書又は図画として出版する場合の出版権の設定について規定している。出版権を設定することができるのは、著作物を文書又は図画として出版する場合に限られている。百科事典、写真集等をビデオディスクで発行する、いわゆる電子出版ということが行われるが、このような形態による著作物の発行については、文書又は図画として出版する場合に当たらないので、出版権を設定し得ないこととなっている。この点については、新しい多様な情報伝達手段が出現してきている現在、出版という限られた態様にのみとらわれることなく、ビデオディスクで発行する者等にも独占的な権利を設定できる制度を設けるべきではないかとの意見があったが、このことは、出版界等の今後の動向ともかかわってくるので、現時点において直ちにこのような制度を設ける必要性はないと考えられる。
    (2)また、ビデオディスクに固定された映画の著作物であれば、それを公に再生することに対して上映権が働くが、言語の著作物や写真の著作物等については、公に再生されてもなんら権利が働かないが、この点について権利者の保護に欠けることとはならないかという問題がある。これについては、現在の利用の状況からみて公の再生について権利を認めなければ著作者の利益が著しく損われるという実態にはないので、現時点において特段の措置を講ずる必要性は認められない。また、現在でもマイクロフィルムに固定された言語の著作物をだれでもが再生することができるような形での利用が行われており、ビデオディスク固有の問題とは言えないところでもあり、今後におけるこのような形態による各種著作物利用の動向を見て、総合的に判断すべき問題であると考えられる。
    (3)なお、ビデオディスクに固定されているものが映画の著作物である場合、実演家は、第91条により録音、録画権を有しているが、許諾を得て作成された映画の著作物については、その利用について権利が働かないことになっており、劇場用映画やテレビ映画がビデオディスク化されてCATVで有線放送されたり、公衆に貸与されるなど多様に利用されても実演家はなんら権利主張できないという現状にある。ビデオディスクに関連して、ビデオソフトのほとんどが映画の著作物として、映画の著作物に関する著作権法上の規定が適用されているが、実演家の保護という点で欠けるのではないかとの意見があった。しかし、この問題は、映画に録画された実演についての実演家の権利や映画の著作物に関する権利の取扱い全体との関連もあるところであるので、本小委員会としては問題点を指摘することにとどめる。



    おわりに
    1以上のとおり、本小委員会は、データベース及びニューメディアに関する著作権問題について現在の実態及び将来における発展の可能性を踏まえ検討を行ったが、その結果、著作権制度上の対応を考慮する必要のある主な事項として以下のものがある。
    これらの事項については、関係各方面の意見を十分に聴取し、速やかに適切な対応をすることが望まれる。

    1)データベースの保護の明確化
    現行著作権法上もデータベースが著作物であることは明らかであるが、このことをより明確にするための措置を講ずること。

    2)著作物の送信に関する規定の整備
    データベースのオンライン・サービス、ビデオテックス、VRSのサービスのように利用者の要求に応じて著作物が送信される場合も現行著作権法上有線放送に該当すると考えられるが、解釈のみによって対処することは必ずしも適切ではないので、有線放送の定義(第2条第1項第17号)を改正して、その点を明確にすること、または、有線放送という用語を用いず、従来観念されている有線放送の他、データベースのオンライン・サービスを含む著作物の有線電気通信による送信に関する権利を新たに設定する等の措置を講ずること。

    3)CATV事業者の法的保護
    CATVは、今後の発展により大規模化、多チャンネル化し、自主放送番組が増加すると考えられるが、CATVの番組の制作、編成には放送事業者と同様の著作物の創作性に準ずる創作性が認められるところから、CATV事業者を著作隣接権制度により保護すること。

    4)CATV事業者による商業用レコードの二次使用料の支払い
    CATVにおける商業用レコードの使用の実態等を考慮して、放送事業者、音楽有線放送事業者と同様にCATV事業者に商業用レコードの二次使用料の支払いを義務づけること。

    5)CATV事業者による一時的固定等の取扱い
    CATVにおいても自主制作番組を制作する場合が多くなってきている現状等を考慮して、CATV事業者に有線放送のための一時的録音、録画を認めること。

    6)営利を目的としない有線放送の取扱い
    CATVやデータベースのオンライン・サービス等についてはその実態を考慮して、非営利かつ無料で行われる著作物の上演、演奏、口述、上映、有線放送は著作権者の許諾なしにできるという規定(第38条第1項)を適用しないよう措置すること。
    2なお、本小委員会としては、データベース及びニューメディアに関する著作権問題について現在の実態及び将来における発展の可能性を踏まえ、現時点において考えられる著作権法上の問題点の検討を行い、問題の解決のための具体的な方策や考え方を可能な限り示すべく議論を進めた。しかし、今後における発展を待って検討すべき事項もあり、問題点の指摘にとどまらざるを得ないものもあった。

    特にニューメディアについては、VRSや静止画放送のように現在まだ開発中で、今後どのような形で実用化され、著作物等がどのように利用されるかは推測の域をでないものもある一方、文字(多重)放送やビデオテックスのように一部ではあるが実用化されているものや、CATVのように従来からあるものでその利用の可能性について改めて見直されているものもあり、その開発、普及の状況は様々である。したがって、本小委員会における検討結果については、今後の発展動向によっては改めて検討する必要性を生ずるものもあると考えている。


          

    (参考)
    1 著作権審議会第7小委員会
     (データベース及びニューメディア関係)委員名簿

    主  査林  修三 駒沢大学法学部教授

    (データベース分科会)
    分科会長阿部 浩二 岡山大学法学部教授
    委  員井出  翕 東洋大学社会学部教授
    黒川徳太郎(財)NHKサービスセンター著作権業務室長
    斉藤  博 新潟大学法学部教授
    千原 秀昭 大阪大学理学部教授
    名和小太郎 データベース・サービス業連絡懇談会座長代行
    浜口 友一 日本電信電話株式会社データ通信本部
    企画部調査役
    半田 正夫 青山学院大学法学部教授
    宝子山幸充(社)日本新聞協会編集部編集担当主管
    紋谷 暢男 成蹊大学法学部教授
    山本阿母里(社)日本書籍出版協会著作権委員会委員

    (ニューメディア分科会)
    分科会長安藤 良雄 成城大学長
    (昭和59年3月3日~昭和60年1月30日)
    安達 健二 東京国立近代美術館長
    (昭和60年1月31日~)
    委  員安藤 良雄 成城大学長
    (昭和59年3月3日~昭和60年1月30日)
    大橋 雄吉(社)日本映画製作者連盟ビデオ部会委員
    黒川徳太郎(財)NHKサービスセンター著作権業務室長
    小泉  博(社)日本芸能実演家団体協議会専務理事
    後藤 和彦 常磐大学人間科学部教授
    斉藤  博 新潟大学法学部教授
    寺島アキ子(協)日本放送作家組合常務理事
    土井 輝生 早稲田大学法学部教授
    松平  恒(株)電通メディア開発局副理事
    村上 達弥 日本放送協会著作権部長
    母袋 恭二(社)日本有線テレビジョン放送連盟常任理事
    矢沢 章二(社)日本民間放送連盟著作権部長


    2 著作権審議会第7小委員会
     (データベース及びニューメディア関係)審議経過
    (昭和59年1月19日著作権審議会第42回総会で第7小委員会の設置を決定)

    (第7小委員会)
    第1回 昭和59年3月3日
    1)検討事項について
    2)審議の進め方について
    第2回 12月4日
    第7小委員会データベース分科会中間報告案について
    第3回 昭和60年6月24日
    1)各分科会の審議状況について
    2)審議の進め方について(ワーキング・グループの設置を決定)
    第4回 8月19日
    ワーキング・グループの審議結果について
    第5回 9月10日
    第7小委員会報告書(案)について
    第6回 9月14日
    第7小委員会報告書(案)について
    第7回 9月25日
    第7小委員会報告書(案)について

    (データベース分科会)
    第1回 昭和59年3月29日
    1)検討事項について
    2)データベースの開発、製作、利用の実態について
    第2回 5月9日
    データベースの開発、製作、利用の実態について
    第3回 5月23日
    データベースの開発、製作、利用の実態について
    第4回 7月4日
    1)データベースの開発、製作、利用の実態について
    2)各国及び国際機関におけるデータベースに関する著作権問題の
      検討の状況について
    第5回 7月18日
    データベースに関する著作権制度及びその運用にかかわる検討事項について
    第6回 7月26日
    1)データベースに関する著作権制度及びその運用にかかわる
     検討事項について
    2)データベースの作成と著作権について
    第7回 8月7日
    1)データベースの作成と著作権について
    2)データベース及びその関連資料の著作物性について
    第8回 8月27日
    データベースの著作者について
    第9回 9月12日
    データベースの利用と著作権について
    第10回 9月26日
    データベースの利用と著作権について
    第11回 10月2日
    データベースの利用と著作権について
    第12回 10月13日
    1)データベースの利用と著作権について
    2)権利の制限について
    第13回 10月29日
    1)権利の制限について
    2)著作者人格権について
    3)保護期間について
    4)その他の問題点について
    第14回 11月27日
    第7小委員会データベース分科会中間報告(案)について
    第15回 12月4日
    第7小委員会データベース分科会中間報告(案)について
    第16回 昭和60年1月30日
    第7小委員会データベース分科会中間報告に対する関係団体からの意見聴取
    第17回 2月6日
    第7小委員会データベース分科会中間報告に対する関係団体からの意見聴取
    第18回 6月17日
    1)第7小委員会データベース分科会中間報告に対する
      関係団体意見聴取結果について
    2)ニューメディア分科会の審議状況について
    3)データベースに関する著作権制度上の問題について

    (ニューメディア関係)
    第1回 昭和59年4月23日
    1)検討事項について
    2)ニューメディアの開発、普及の実態及びデータベースとの関係について
    第2回 5月21日
    ニューメディアの開発、普及の実態について
    第3回 6月28日
    放送系ニューメディアの開発、普及の実態について
    第4回 7月23日
    有線系ニューメディアの開発、普及の実態について
    第5回 9月22日
    1)今後の審議の進め方について
    2)ニューメディアに関する著作権制度上の問題点について
    第6回 10月31日
    1)検討事項について
    2)有線系ニューメディアに関する著作権制度上の問題点について
    第7回 12月17日
    有線系ニューメディア(CATV)に関する著作権問題について
    第8回 昭和60年1月31日
    有線系ニューメディア(CATV)に関する著作権問題について
    第9回 3月18日
    有線系ニューメディア(ビデオテックス、VRS(双方向CATVを含む))に関する著作権問題について
    第10回 5月25日
    有線系ニューメディア(ビデオテックス、VRS(双方向CATVを含む))に関する著作権問題について
    第11回 6月10日
    無線系ニューメディアに関する著作権問題について
    第12回 6月24日
    無線系ニューメディア、パッケージ系ニューメディアに関する著作権問題について
    第13回 9月3日
    第7小委員会報告書(ニューメディア関係分)(案)について


    ページの上部へ戻る