○第1小委員会の審議結果について
    昭和63年1月



    目 次
    I 隣接権条約への加入

      1 隣接権条約への加入の必要性について
      2 隣接権条約の留保について
    II 実演家及びレコード製作者の国際的保護の充実等

      1 レコード保護条約締約国のレコード製作者の複製権について
      2 レコードの貸与に関する権利について
    III 有線放送事業者の取扱いについて

      1 著作隣接権の保護期間の延長
    別表 隣接権条約の留保について


    当小委員会は、著作権審議会総会の付託を受けて、昭和59年5月より、「実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約」(以下「隣接権条約」という。)加入問題についての検討を開始し、3度の関係団体の意見聴取を含む19回の会合を開き、条約加入問題についての検討を行うとともに、これに関連して、著作隣接権の保護期間の延長の問題等についても検討を行つた。昭和62年10月16日には、それまでの審議の概要を中間的にまとめて総会に報告したが、それについての総会における審議及び関係団体からの意見を得て、更に審議を行い、今回当小委員会としての審議結果をまとめ、総会に報告することとしたものである。

    当小委員会の審議結果は、次のとおりである。


    1 隣接権条約への加入
    1 隣接権条約への加入の必要性について
    (1)隣接権条約は、昭和36年(1961年)に、実演家、レコード製作者及び放送事業者の権利を国際的に保護することを目的として作成された条約で、各国が著作隣接権制度を設ける場合の1つの指針としての役割をも果たすものである。
    (2)我が国においては、現行著作権法制定時に、隣接権条約を参考として、著作隣接権制度を導入した。ただし、隣接権条約への加入の問題については、国内における著作隣接権制度の運用の実態や諸外国の動向等をも見極めた上で改めて検討することが適切であると考え、現行著作権法制定時には、同条約への加入を見送つた経緯がある。
    (3)一方、我が国は、現行著作権法制定に当たつて、外国レコードに関し、我が国の商業用レコードの製作業者が当該外国レコードの原盤の提供を受けて製作した商業用レコードについて、これを商業用レコードとして複製する行為及びその複製物を頒布する行為に対して罰則を科することとした。

    また、我が国は、昭和53年(1978年)に「許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約」(以下「レコード保護条約」という。)を受諾したが、これに伴う著作権法の改正により、同条約締約国のレコード製作者に、頒布目的に限定された複製権が認められた。

    これらの措置により、我が国は、外国レコードについて、いわゆる海賊版を防ぐために必要な保護を認めてきたところである。

    なお、実演家について、現行著作権法は、原則として、実演家の国籍のいかんを問わず国内において行われる実演を保護することとしているが、同法附則により、国内に常居所を有しない外国人が行う実演については、当分の間、保護しないこととしている。
    したがつて、我が国における実演及びレコードの利用の実態にかんがみるなら、外国人に係る著作隣接権の取扱いについての残された主要な課題は、国内に常居所を有しない外国人である実演家の保護と商業用レコードの二次使用の問題であると考えられる。
    (4)現行著作権法制定後17年を経過する中で、商業用レコードの二次使用に関する制度の運用並びに実演及び放送の利用の許諾に係る関係者間の手続が円滑に行われてきており、著作隣接権制度は、我が国において定着してきたと考えられる。

    また、現行著作権法制定時には、隣接権条約締約国は11か国にとどまつていたが、現在では、32か国に上り、連合王国、ドイツ連邦共和国、フランス等主要先進国の多くは同条約に加入しており(別紙参照)、著作隣接権制度は、国際的にも定着しつつある。
    (5)以上のような、我が国における外国のレコード製作者の保護の状況及び著作隣接権制度の国内的・国際的定着状況を勘案し、また、近年における我が国の国際的地位の変化を考慮すると、我が国が隣接権条約に加入し、著作隣接権の国際的な保護の充実を図る時期に至つているものと考える。
    (6)隣接権条約に加入するに当たつては、条約加入に伴つて保護が拡大されることとなる外国の実演、レコード及び放送の我が国における利用につき、円満な秩序が形成されることについて、十分な見通しを立てておく必要がある。

    例えば、商業用レコードの二次使用料を受ける権利の行使に関し、文化庁長官が指定している団体と外国の権利者団体との間等で、権利行使の委任等についての契約を締結するなど、あらかじめ著作隣接権の円滑な行使が行われるために必要な条件を整備しておくための我が国の関係者の努力が必要であると考える。
    我が国としては、そのような条件が整い、円満な秩序が形成されることについて十分な見通しが立てば、速やかに、隣接権条約に加入することが適切である。


    2 隣接権条約の留保について
    隣接権条約においては、締約国が実演等の保護に関する国内の制度やその利用の実態等に応じた柔軟な対応ができるよう、各種の内容の留保を行うことが認められている。

    現在、隣接権条約締約国の多くが留保を行つているところであり、我が国が同条約に加入する場合には、現行の著作隣接権制度に対応した留保を行うことが適切である。

    この観点から、隣接権条約上認められている留保について個別に検討した結果は、別表のとおりである。


    II 実演家及びレコード製作者の国際的保護の充実等
    1 レコード保護条約締約国のレコード製作者の複製権について
    我が国の著作権法は、レコード保護条約締約国のレコード製作者に対して、同条約上の義務に従い、頒布目的に限定された複製権を認めている。

    他方、我が国が隣接権条約に加入した場合には、同条約により保護されるレコード製作者に対しては、国内のレコード製作者と同様に頒布目的に限定されない複製権を認めることとなる。

    隣接権条約に加入するに際し、著作隣接権の国際的保護の充実を図るという条約加入の趣旨に照らして、外国のレコード製作者の複製権について保護の充実を図ることが時宜にかなうこと及びこれにより制度の簡明化も図られることから、レコード保護条約締約国のレコード製作者の複製権についても、頒布目的に限定されない複製権に広げることが適当であると考える。

    2 レコードの貸与に関する権利について
    (1)我が国においては、貸レコード業が広く普及し、これによつて実演家・レコード製作者の経済的利益が大きな影響を受ける事態が生じたことから、昭和59年に著作権法を改正し、実演家・レコード製作者にレコードの貸与に関する権利を創設したところであり、レコードの貸与に関する権利は、我が国の著作隣接権保護制度の重要な内容となつている。

    ただし、現在のところ、この権利は、国内の実演家・レコード製作者に限つて認められているが、レコード保護条約上の義務とはなつていないことから、同条約締約国のレコード製作者には、この権利は認められていない。
    (2)締約国の実演家・レコード製作者にレコードの貸与に関する権利を認めることは、隣接権条約においても、条約上の義務とはなつていない。

    しかし、我が国において広範に普及している貸レコード業は、諸外国では、ほとんどその例をみない利用の態様であり、しかも、その店頭で邦盤と並んで洋盤レコードも多く貸し出されている実態を勘案するならば、外国の実演家・レコード製作者にも国内の実演家レコード製作者と同様にレコードの貸与に関する権利を認めることは、これらの者の保護を考える上で、実際上、重要な意義を有していると考える。
    (3)このような状況を勘案し、また、著作隣接権の国際的保護の充実を図るという隣接権条約加入に係る基本的な考え方を踏まえ、同条約加入に伴つて、隣接権条約により保護される実演家及びレコード製作者についてレコードの貸与に関する権利を認めるとともに、レコード製作者を保護することとしているレコード保護条約の締約国のレコード製作者についても、レコードの貸与に関する権利を認めることが適当であると考える。
    (4)外国の実演家・レコード製作者にレコードの貸与に関する権利を認めるに当たつては、この権利の行使に関し、原盤を供給する外国のレコード製作者と当該原盤の供給を受ける我が国のレコード製作業者の間のレコードの原盤供給契約の内容を定め、あるいは我が国と外国の実演家団体の間の取決めを行うなどの条件整備を行うとともに、この権利を外国の実演家・レコード製作者に認めた場合にも、内外の関係者間においてレコードの貸与に関する円満な利用秩序が維持・形成されることについて見通しを立てておく必要がある。

    我が国としては、そのような条件が整うとともに、円満な利用秩序が維持・形成されることについて十分な見通しを得た上で、外国の実演家・レコード製作者にレコードの貸与に関する権利を認めることが適切である。


    III 有線放送事業者の取扱いについて
    有線放送事業者の保護は、隣接権条約の範囲外の問題であり、また、外国の有線放送の利用は、ほとんど考えられないところである。

    したがつて、我が国が隣接権条約に加入した場合においても、同条約締約国の有線放送事業者を保護する必要はないものと考える。

    1 著作隣接権の保護期間の延長
    (1)我が国は、現行著作権法制定時に、隣接権条約の定めるところを参考として、著作隣接権の保護期間が、実演に関しては、その実演を行つた時、レコードに関しては、その音を最初に固定した時、及び放送に関しては、その放送を行つた時に始まり、それぞれの行為が行われた日の属する年の翌年から起算して20年を経過した時をもつて満了することとした。

    我が国が定めた20年という保護期間は、著作隣接権の保護期間が20年よりも短くてはならないと規定する隣接権条約の要求を満たすとともに、これと同じ期間の定めを設けるレコード保護条約の要求をも満たしている。
    (2)旧著作権法は、演奏歌唱及び録音物を著作物として保護していたが、現行著作権法制定に当たつて、これらは、新たに設けられる著作隣接権制度による保護の対象とすることとされた。

    著作隣接権の保護期間を定めるに当たつては、旧著作権法により保護されていた演奏歌唱及び録音物の保護期間が死後又は発行後30年であつたことから、著作権制度審議会において、著作隣接権の保護期間を30年にすべきであるとの意見もあつたが、二次使用料請求権の創設によつて実質的保護内容が拡大されたこと及び将来における著作隣接権の国際的保護を考慮すれば、条約の要求以上に長い保護期間を定めることは必ずしも適当ではないことを理由に、20年の保護期間が相当とされた。
    (3)また、現行著作権法施行時の経過措置においては、旧著作権法で保護されていた演奏歌唱及び録音物の保護期間を旧著作権法による保護期間の残存期間としつつ、当該残存期間が現行著作権法施行後20年より長い場合には、現行著作権法施行後20年で満了させることとした。

    これにより、昭和65年末には、旧著作権法で保護されていた演奏歌唱及び録音物でなおその保護期間の残存期間を有しているものについて、著作隣接権制度による保護がすべて満了することとなる。
    (4)こうした状況の中で、社団法人日本芸能実演家団体協議会及び社団法人日本レコード協会は、実演及びレコードの文化的・創作的価値は、20年という短い保護期間の経過で失われるものではないこと、我が国の20年という保護期間は、国際的にみて極めて不均衡であること等を理由として、昨年8月、著作隣接権の保護期間の延長についての要望書を提出している。

    また、我が国は、国内の商業用レコードの製作業者が外国レコードの原盤の提供を受けて製作した商業用レコードについて、これを商業用レコードとして複製する行為及びその複製物を頒布する行為を処罰することとしているが、これらの行為が禁止されている20年の期間が経過したものについて、近時、当該商業用レコードの製作業者以外の者が著作権者の許諾を得て、商業用レコードとして複製・頒布する事例が生じている。

    このことについて、レコード製作者の国際団体等から、我が国が著作隣接権の保護の分野においても国際的に適切な水準の保護を与えるべきであるとして、保護期間の延長の要望が出されている。
    (5)隣接権条約の規定する20年の保護期間は、同条約作成時には国ごとに区々であつた著作隣接権の保護期間について、中間の一期間を採用したものであり、また、現行著作権法制定時においては、同条約締約国11か国中10か国がその保護期間を20年ないし25年としていたことから、我が国がこの期間を採用したことについては、国際的にも問題はなかつたと考えられる。

    しかし、その後、隣接権条約締約国における保護期間の延長や20年を上回る保護期間を定めている国の批准・加入により、現在では、同条約締約国32か国中、20年の保護期間を有する国は、わずか10か国となつている。
    (6)隣接権条約加入問題の審議においても、著作隣接権制度の国際的な充実の状況及び我が国における著作隣接権制度の定着状況を勘案して、我が国における外国の実演及びレコードの広範な利用実態並びに今日における我が国の国際的な立場に応じた著作隣接権の保護の充実を図る方向で検討を進めてきたところである。

    このような著作隣接権制度の充実に係る基本的な考え方に照らし、また、先に述べた国内的・国際的状況並びに実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者の果たしている著作物の伝達者としての役割と文化的使命を勘案して、我が国の著作隣接権の保護期間を30年に延長することが適当であると考える。
    (7)著作隣接権の保護期間を30年に延長することに伴い、(3)に述べた旧著作権法で保護されていた演奏歌唱及び録音物の保護期間に係る経過措置並びに(4)に述べた外国原盤商業用レコードの保護に係る期間についても、これらが著作隣接権の保護期間との均衡から20年とされたことにかんがみ、いずれも30年に延長することが適当であると考える。
    (8)なお、今後とも著作物等の利用手段の発達、利用実態の推移や著作権保護の国際的な状況の変化等、著作権制度をめぐる環境の変化が予測されるところであり、著作権制度の体系の中における実演、レコード等の保護期間の在り方については、これらの動向を踏まえ、必要に応じて検討を行うことが適当であると考える。

    別表 隣接権条約の留保について

    (1) レコードの保護基準について
    留保内容国籍、固定及び発行をレコードの保護基準としているが、このうち、固定の基準又は発行の基準のいずれか一つを適用しない旨の留保〔第5条第3項〕
    国内法制国籍及び固定をレコードの保護基準としている。(第8条)
    留保の採否発行の基準を適用しない旨の留保を行う。

    (2) 放送事業者の保護基準について
    留保内容放送事業者の主たる事務所又は送信機の所在を放送の保護基準としているが、この両方が同一締約国になければならない旨の留保〔第6条第2項〕
    国内法制日本国民である放送事業者の放送又は国内にある送信設備から行われる放送を保護している。(第9条)
    留保の採否留保しない。

    (3) レコードの二次使用について
    留保内容
    (ア)レコードの二次使用の規定を適用しない旨の留保〔第16条第1項(a)(i)〕
    (イ)レコードの二次使用の規定をある特定の使用に関しては適用しない旨の留保〔第16条第1項(a)(ii)〕
    (ウ)レコードの二次使用の規定をレコード製作者が他の締約国の国民でないときは適用しない旨の留保〔第16条第1項(a)(iii)〕
    (エ)レコードの二次使用について実質的相互主義をとる旨の留保〔第16条第1項(a)(iv)〕
    国内法制
    (ア)レコードの二次使用の制度がある。(第95・97条)
    (イ)レコードの放送又は有線放送への使用について権利を認めている。(第95・97条)
    (ウ)日本国民をレコード製作者とするレコード又は国内において音が最初に固定されたレコードについて権利を認めている。(第95・97条)
    留保の採否
    (ア)留保しない。
    (イ)レコードの放送又は有線放送への使用についてのみ、二次使用の規定を適用する旨の留保を行う。
    (ウ)留保しない。
    (エ)保護の範囲(及び期間)について留保する。(ただし、保護の範囲に関しては、そのすべてについて相互主義を適用するのではなく、二次使用の規定を適用しない締約国の国民であるレコード製作者のレコードについては二次使用の規定による保護を与えない旨の留保を行うことが適当であると考えられる。)

    (4) テレビジョン放送の伝達権について
    留保内容テレビジョン放送の伝達権(入場料徴収の場合)の規定を適用しない旨の留保〔第16条第1項(b)〕
    国内法制影像を拡大する特別の装置を用いる場合にテレビジョン放送の伝達権を認めている。(第100条)
    留保の採否国内制度に即して留保する。


    別紙
    (省略)


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