タイ著作権法の概要/構成
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1.第1章第1節及び第2節
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(1) |
ベルヌ条約に従い、無方式で著作権を成立せしめる。知的財産庁に登録することができるが、それは、著作物創作に関する証拠をサポートするものとして機能する。 |
(2) |
ベルヌ条約第2条に示されるように、タイ著作権法も著作物を列挙し、文芸の著作物にはコンピュータ・プログラムを含むと明記し、更に、演劇の著作物、美術の著作物、音楽の著作物、視聴覚著作物、映画の著作物、録音・録画の著作物、放送の著作物等について定義し、更に、実演家、翻案、公衆への伝達、発行についても定義を与、著作権行政を担当する者として、Officials, Director General, Committee, Ministerを挙げている(本書では、担当公務員、長官、委員会、大臣と訳している。)。 |
(3) |
ベルヌ条約にならい、著作権による保護を受けないものとして、憲法、法令、規則、告示や判決、裁判所の決定、また、これらの翻訳やその収集物を挙げている。
保護を受ける著作物の著作者についても、ベルヌ条約第3条乃至第5条と同旨の規定を設けている(著作者の国籍、常居所等の要件について。)。 |
(4) |
委嘱によ作成されている著作物についての規定もある。
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2.第1章第3節
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第3節は、著作権の保護で、著作権者の持つ専有権を列挙する。すなわち、複製又は翻案、公衆への伝達、コンピュータ・プログラム等の貸与、その他であり、これらの権利について、条件を附し又は附さないで権利を行使することの不当な競争制限になるか否かについて触れていることは注目される(第15条(5))。
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3.第1章第4節
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第4節は保護期間である。
保護期間は、ベルヌ条約に従い、一般的保護期間は、著作者の生存中及びその死後50年である。50年となっのは、1994年(B.E.2537)法、すなわち現行著作権法によってであり、1995年3月21日に施行されている。それより前は30年であった。
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4.第1章第5節及び第6節
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第5節は著作権の侵害である。許可なくしてなされる著作物の複製又は翻案、公衆への伝達は、著作権の侵害になると原則的一般的に規定し、録音・録画物、コンピュータ・プログラム等について更に詳しく述べ、第6節では著作権の侵害の例外として、著作物の私的使用のためにする複製、批評、解説・紹介等のためにする複製その他ベルヌ条約に反しない例外規定をめている。国際社会一般に認められている例外の規定といえる。コンピュータ・プログラムについて、特に詳しく規定している。
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5.第2章
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第2章は実演家の権利である。
タイは、実演家等保護条約(ローマ条約)にも、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)にも加盟していないが、実演家の権利を新設し、第44条から第53条まで規定している。そこには、実演のレコードとの関連や、放送、公衆への伝達等について言及されている。実演家の同意を得て作成された記録物ではあるが、それが他目的のために複製されるこは実演家の権利の侵害になる等、実演家の専有権についても規定されている。
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6.第3章
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第3章では、特定の環境下における著作権の使用について規定している。特定の環境下における著作権の使用とは、既に印刷された資料の形態で、若しくはそれに類似する形態で、公に伝達されている著作物について、研究、教授、調査等のため、収益を目的とすることなくその著作物の使用許可を求めることを指す。当該著作物のタイ語への翻訳又はすでにタイ語で出版されている翻訳物を複製することを求めるタイ国民は、長官に対し、一定の条件に従い、申請をることができる(第54条)。申立てを受領した長官は、許可にかかわる報酬及び条件につき関係当事者間の合意を得るよう斡旋しなければならず、合意が不成立のときは、長官は、相当な報酬と条件を定めて許可することになっている(第55条)。
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7.第4章
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第4章は著作権委員会(Copyright Committee)について定められており、構成、任期、資格、権限、義務等が詳細に規定されている。
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8.第5章
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第5章では、国際関係からみた著作権と実演家の権利が定められている。
タイが加盟国となっている著作権の保に関する国際条約、また、実演家の権利の保護に関する国際条約の加盟国の国民である著作者が著作権を持つ著作物や実演家の権利、また、タイもその加盟国である国際機関が著作権を持つ著作物は、本法により保護される(第61条)。
タイはベルヌ条約国であるが、実演家等の保護に関するローマ条約にも、WTC、WPPTにも加盟していない。しかし、TRIPs協定による拘束があるため、その第14条により、レコードへの実演の固定に関し、実演家は固定されていない実演の固定及びその固定物の複製がその許諾なしに行われる場合には、これらの為を防止することができること、内国民待遇の原則が働くことになる。
また、現に行っている実演について、無線による放送及び公衆への伝達がその許諾を得ないで行われる場合も同様である。
大臣は、これらの関係加盟国を官報で告示することになっている。
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9.第6章
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第6章では、著作権と実演家の権利に関する争訟について規定されている。
タイでは、民事事件であれ刑事事件であれ、著作権又は実演家の権利に関する争訟では、争われている著作物はこの法律による著作権を有する著作物であり、若しくは実演家の権利の目的物であり原告がその著作権若しくは実演家の権利の所有者であると推定される。但し、被告が著作権者若しくは実演家の権利の所有者は存在しないことや、原告の権利を争っているときは、その限りではないとされている(第62条第1項)。
著作権侵害等の訴訟については、侵害を知り、侵害者の何人かを知ったときから3年の時効、侵害の日から10年の除斥期間の定めがある(第63条)。
侵害にあたっての損害賠償には、損失に加えて権利保全確保のための執行費用を含む(第64条)。
侵害及びその虞れに対し差止命令の申立てが可能である(第65条。この法に規定する違法行為に関しては、和解(Settlement)に付すことも可能である(第66条)。
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10.第7章
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第7章は、著作権に関する担当公務員(Officials)について規定されており、若干特異な性格・権限をもつ。
本法施行のために、担当する公務員は刑法典に基づく公務員であり、違法行為が為されるとみられる合理的な疑いがあるときは、物品の捜索、検査のためその所有者が誰であれ、建物、事務所、工場等に、日の出から日没までの間、また、その執務時間内に立ち入ることや、争訟提起のための文書、書類等差押え、また、押収することや、その提出を求めることができ、何人もこれに協力することが義務づけられている(第67条、第68条)。
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11.第8章
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第8章では、著作権、実演家の権利への侵害についての罰則が規定されている。侵害が、営利目的で為されたときは、より重い刑が科せられる(第69条)。また、5年以内の重犯は、その違法行為の法定刑の2倍が科せられ(第73条)、著作権の侵害に対しては、民刑事両面からの制裁規定をもち、著作権の侵害者に科される罰金の2分の1を、著作権者は裁判所に請求できるというユニークな規定もみられる(第76条)。
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(阿部浩二) |