第5回 入賞事例

    これらの教育実践事例資料は、教育関係者が著作権教育を目的として、非営利で利用する場合に限り、自由にご利用いただけます。

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    「創り出すなかで学ぶ著作権」 ~アニメーション制作の過程で~

    担当教諭 吉田 拓也

    受賞のことば

    樟蔭高等学校・写真

    ふと目にした新聞で記事をみて、何かの縁だと感じ、思い切って応募しました。結果は、優良賞。この事例は4年前から行っているもので、それがこのような評価を受けたことは、素直にうれしいです。授業でもこのことを生徒に伝えると、歓声の嵐。みんな、喜んで感想を書いていました。

    著作権をテーマにした授業では、法の知識や一般的な事例、そして使用範囲、許諾、引用などを単に知識として与えるのではなく、姿勢や態度まで身につけさせることが大事だと思います。今までの取り組みでも、実際に他人の著作物を使う、使わせる、許諾をとるといったことも行いましたが、どうも生徒は作業的で実感がわいていないような気がしました。

    そこで考えたのは、「自分たちが、長い時間をかけて取り組んで創り上げた作品の著作権者になる」ということでした。これは、明らかに生徒たちの姿勢や態度が変容しました。今までは、教科書だけを見て考えたことを、さらにその知識を土台として、自分の心で判断するようになったのです。

    法律は、完璧なものではないので時代によって少しずつ変化します。私はそれよりも、生徒たちにこの授業で学んでほしいのは、これからの社会生活のなかで、作品の向こうにいる著作権者の気持ちや費やした時間、労力を想像し、その人の立場にたって自分の心と照らし、主体的に判断する姿勢や態度を身につけさせることだと思います。

    この実践は、そうした変化を生徒たちに与えてくれるものだと私は確信しています。

    (教諭 吉田 拓也)

    教育活動の概要 題名 「創り出すなかで学ぶ著作権」 ~アニメーション制作の過程で~
    対象学年 高校1年生
    授業科目 教科「情報」
    授業時間数 10回(連続2時間×5回)
    実施期間 平成21年10月~11月
    レポート・教材
    ねらい

    近年、生徒が漠然と教科書の単元の順番で学ぶ著作権教育のなかで、基礎的な知識や新たな場面に対応する正しい姿勢を身につけることは机上の空論のような気がして、不安に感じることが多い。もちろん、基礎知識やケーススタディしなければならないことが一定量あるので、単元として設けて学ぶ必要はある。しかし、生徒に生きた知識を持たせるためには、やはり具体的な体験をさせる必要がある。

    そこで、今までは、みるだけだったアニメーションを、今回は創る側へシフトし、体感してもらいたい。そうなれば、著作権者に対して豊かな想像力を持って、自らの行動を推し量ることができるようになるだろう。

    内容

    グループで、キャラクターやストーリー構成などを考え、それを折り紙を使って表現し、Webカメラでコマ撮りする。効果音や音声なども自分たちで録音して、映像とのオーサリングを行う。もちろん、撮影の基本となるカメラアングルやフレームサイズなどは、この単元の前段階で習得済みである。

    テーマは、「動物の動き」とし、時間は30秒という制限をつけた。特殊な環境での実施ではなく、比較的、安価なWebカメラ数台と、こちらもまた安価なアニメーション制作ソフト(CLAY TOWN)を使った実践である。

    成果と課題

    キャラクターの設定やストーリーを決めるとき、生徒は非常に頭を悩ます。それをグループの力で乗り越え、絵コンテを完成させて、撮影に入ったとき、さらに生徒は高い壁にぶつかる。わずか30秒の作品を創るだけなのに、800枚にも及ぶコマ撮りをしなければならない。創作した主人公を少し動かしては撮影し、また少し動かしては撮影する。

    この作業を乗り越えた生徒は、立派は著作権者だ。そして、この経験をした生徒は、考え出して創りだすという作業のスケールの大きさを体感する。そうすると、この経験を現実的に他者に当てはめて想像することができるようになる。自ずと姿勢が変化する。この経験は、生徒にとって貴重な財産となる。

    児童・生徒の感想
    • アニメを創ることは、とても大変だった。でも、ちゃんとできた時はその作品が他の人たちに簡単にマネされたりするのは、とてもイヤだと思った。私の作品もちゃんとした著作権を持っていると思うし、私も著作権者になったと思う。その時私は、「これが著作権か」って思った。
      これからいろいろな著作権を持った作品に出会う機会が増えてくると思う。人が一生懸命考えてアニメを作っているのに、一部の人が簡単にパソコンでコピーしたりしている。そういうことを考えると、とても腹が立つしすごく悲しくなる。さらに著作権者からすれば、もっと悲しいと思う。
    • 私は、今回アニメーション作品を創り終えて改めて著作権というものを考えることができたと思います。苦労や努力をしてやり遂げた作品を見つめ直すと、私たちのアイデア、準備に使用したサンプル作品、作業、編集、全てが著作権を持つ者として呼ばれることに値するくらい大事なものだったと思い出します。苦しく楽しかった作る側を経験して、それから他の人の作品を目で見ることも実際の「著作権」を知る大切な学びだったのだと今になって思います。
    • 自分で作品を作る前までは、だれかの作品を見ても「ふーん」「すごいなあ」としか思わなかったのが、自分たちで何時間も時間をかけて1つの作品を作り終えてからは、作品に対する気持ちが変わりました。たかが10分前後のアニメを作るためでもたくさんの手間ひまがかかって、完成した時の気持ちはやはり大きいものです。1つのものに執着してモノを作るというのはやはり大変なことだと思いました。
      これから、いろんな作品を見るときは、どれほどの人々が携わって、どれほどの手間ひまがかかっているのかも考えようと思いました。
    選考委員コメント

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