第9回 入賞事例

    これらの教育実践事例資料は、教育関係者が著作権教育を目的として、非営利で利用する場合に限り、自由にご利用いただけます。

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    情報科の授業で著作権法を理解する
    -"情報モラル"や"著作権者保護"から"トレードオフの理解"にするために-

    教諭 生田 研一郎

    今回、優良賞をいただき、誠にありがとうございます。

    本校の旧課程では情報Aを第1学年と第2学年で1単位ずつ設置しており、著作権は第2学年の最後に学習する内容です。6時間という短い時間の中で情報社会における著作権に関する事例、著作権の法的理解、トレードオフ、演習と様々なことに取り組みました。

    著作権を定めた著作権法は文化振興法の一つであり、非常に人工的な権利です。著作権教育と言うと情報モラルや著作権者保護といったいわゆる「道徳的課題」といった切り口になりがちですが、これでは著作権の本質を理解することはできません。これを踏まえて法と倫理を分離し、情報社会における著作権の法的側面とトレードオフを扱うことを試みました。

    今後は制作や実習を取り入れた授業や、スマートフォンやインターネットなどを絡めた授業に取り組みたいと思います。

    教育活動の概要 題名 情報科の授業で著作権法を理解する-“情報モラル”や“著作権者保護”から“トレードオフの理解”にするために-
    対象学年 高校2年生(1年生と2年生に分割履修した2年次)
    授業科目 情報A(1単位)
    授業時間数 6時間
    実施期間 2013年1月~2月
    レポート・教材
    ねらい 小学校と中学校の新学習指導要領(総則)では情報モラルを身につけさせることが求められており、高等学校の新学習指導要領(情報科)の「社会と情報」では「情報社会における法と個人の責任」において著作権の法的側面を理解させることが求められている。これを踏まえて、①具体的な事例を知ること、②法と倫理(ルールとモラル)を分離すること、③著作権はトレードオフであることの3点をねらいとした。
    内容 著作権法を正面から扱い、「著作物とは何か」「著作隣接権と著作権の違いは何か」「著作権の保護対象外になる場合とその理由は何か」「著作権保護期間の延長問題とは何か」などの内容を、法的内容に深入りせずに丁寧に解説した。1時間目は具体的な事例をまとめて紹介、2~5時間目は法的内容について解説、6時間目は演習とした。
    成果と課題 同様の内容を数年度続けて授業で扱っており授業の安定性は確保しているが、法改正や社会情勢の変化に対応できるように教材研究を続ける必要がある。生徒自身の考えが必要な課題を出せるようになり、トレードオフを踏まえた回答ができるようになってきているが、生徒の考えを浮き彫りにするような演習や実習の教材開発が必要だと考える。今回の授業は著作権の法的側面に偏っているため、経済的側面も扱ってバランスを取るのが今後の大きな課題である。
    生徒の感想
    • 著作権保護を弱くした方が様々な情報を人々がつかみやすくなって情報社会の発達につながっていくと思った。
    • 著作権を保護しなければ、模倣するため著作物の価値が下がり、結果、文化が衰退していくと思った。著作権保護を強くすべきだと授業を通して思った。
    • 著作財産権(著作権)は国際的に保護されていて安心できるが、保護期間は著作者の死後50年となっているため、長すぎて忘れ去られる死蔵作品となってしまうのではないかと感じた。
    • 授業内で発表した「ブラックジャックによろしく」という漫画について調べるうちに、著作権を保護しすぎることは、著作者にとっても消費者にとってもメリットが少ないということに気がついた。授業を通して、著作権についての様々な考えを学び、自分の意見が変わったことで関心が高まった。
    • 著作権の授業では、著作権法を踏まえて2つの問について考えました。著作権保護については、社会の発展を考えると弱くした方が宣伝効果が大きく、発展すると思いました。また、違法ダウンロードについても刑事罰化をしても正当なダウンロードができるのであれば音楽文化は衰退しないと思います。いずれにせよ、きちんとした法整備は必要であると思いました。
    選考委員コメント

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