第9回 入賞事例

    これらの教育実践事例資料は、教育関係者が著作権教育を目的として、非営利で利用する場合に限り、自由にご利用いただけます。

    優良賞 埼玉県・川口市立県陽高等学校 定時制の課程一覧にもどる

    協調学習を活用した著作権学習
    -社会人として必要な著作権に関する正しい知識を身につける-

    教諭 阿部 浩

    昨年に引き続き優良賞を頂戴し誠にありがとうございました。

    埼玉県内最大の夜間定時制高校である本校には多様な生育歴・学習歴を有する生徒が在籍しています。規律の確保、基本的生活習慣の定着を図りつつ、生徒の生きる力を育む学習指導を模索する日々が続いております。

    スマートフォンやインターネット等の普及が進み、「買わずに楽しめる」環境が急速に整備されました。本校生の多くが、CDを買わずに、アップロードされた動画や音楽を「買わずに」楽しんでいます。

    知的財産の保護が今後の日本の経済活動の生命線と私は考えます。微力ですが、授業を通して生徒たちに著作権の重要性・必要性を伝えることができればと考え3年間取り組んで参りました。今後は、著作権教育指導の輪を広げる取り組みを進めたいと思います。

    教育活動の概要 題名 協調学習を活用した著作権学習-社会人として必要な著作権に関する正しい知識を身につける-
    対象学年 高等学校商業科4年生
    授業科目 経済活動と法
    授業時間数 5時間(事前アンケートを含む)
    実施期間 2012年5月29日、6月21日、26日、28日、7月3日
    レポート・教材
    ねらい 生徒との雑談の中で、「音楽CDを買ったことがない」という話があった。ほとんどの生徒がレンタルショップでレンタルしているとのことであった。また、スマートフォンの普及によりYouTubeなどの動画配信サイトで視聴する生徒が急増している。
    音楽や映画・アニメーションなどお金を払わなくても楽しめることが当たり前になっている現在、製作者の権利や財産を侵害している意識は産まれにくい。
    こうした現状を踏まえ、私たちの社会生活はサービスとそれに対する対価を支払うことで成り立つ経済活動の原理原則を踏まえ、著作権に関する正しい知識と理解を深めていく学習活動を行いたいと考えた。
    内容
    1. 教育活動の概要
      1時間目:協調学習に関するオリエンテーション及び著作権に関するアンケート調査実施
      2時間目:知的財産権の学習(教科書p34~35)
      著作権に関するアンケート結果の分析
      3時間目:Web教材「誰でもできる著作権契約」視聴し、トラブルの例についてグループで話し合い学習を行う(協調学習の手法を取り入れる。エキスパート活動(班毎のテーマ)を学習する)。
      4時間目:ジグソー活動(班を再編し、学習内容をお互いが発表し、テーマ全体の学習理解を深める)
      5時間目:クロストーク(班の代表者が発表し、質疑応答を通じてクラス全体で学びの共有を図る)
      著作権のまとめ(振り返り学習)
    2. 流れ
      <導入>
      協調学習に関するオリエンテーション及び著作権に関するアンケート
      <展開>
      (1)アンケートに基づき、授業のねらいを説明する。
      (2)教科書p34~35 知的財産権についてプリント学習を行う。
      (3)協調学習
      • エキスパート活動
        • クラスを3班(1班あたり8~9人)に編成し、班単位で著作権を学ぶテキストを作成するための調べ学習を行う。
        • 班の中で、役割を決めて各自がレポートを作成し、班全体でとりまとめる。この際、班毎に閲覧できる資料やサイトを指定した。教科書や便覧、書籍の閲覧は自由に行えることとした。
          <紹介したサイトや書籍>
          • CRIC:著作権Q&A
          • 文化庁:誰でもできる著作権契約
          • 文化庁:5分でわかる著作権教材
          • 文化庁:高校生のための著作権教材
          • 秦克則「図解これだけ覚える著作権入門」(成美堂出版)
          • 橋本拓朗「最新著作権の基本と仕組みがよ~くわかる本」(秀和システム)
      • ジグソー活動
        • エキスパート活動の班を新たに3班に編成し直し、エキスパート活動で作成したレポートを、交換し合い、お互いの学習内容について紹介しあう。この話し合いを通じて、自分以外の発表を聴くことで、幅広く、奥深く知識を構成することができる(知識構成型ジグソー法)。
        • 説明不足や間違いなどを確認し合い、改めてレポートをまとめる。この際、エキスパート活動のレポートで優れていたものを紹介し合い、評価できる点や参考にできる点を生徒が発表した。
      • クロストーク
        • 班毎に、自分たちの研究レポートを発表し、その後、質疑応答を行った。
      (4)まとめ:振り返り学習とアンケートを実施
      • 著作権に関する事例のふりかえり(導入前アンケートの事例に再度取り組んだ)
      • アンケートを実施し、授業全体の感想を調査した。
      • フリートーク形式で生徒が感想を発表。
    成果と課題 事前アンケートでは、著作権に関する知識は浅く、「やってはいけない」とわかっていても、その行為が「他人の財産を侵害している」との考えに結びついていない生徒が大半であった。やはり、無料動画配信サイトの影響が強く反映されていると感じた。
    特に音楽やマンガなど娯楽性の高い著作物は、「無料」と謳われているサイトをさがして、利用している生徒が大半を占めていた。
    協調学習を行う前に、教科書に沿って知的財産権を学習し、その中の著作権について絞り込んだ学習を進める手法を選択した。教科書では知的財産権全体で約2ページ、著作権は半ページのボリュームのため、要点を先に整理し、協調学習の中で、より深い学習を行うこととした。
    協調学習を行う上で、グループの編成に苦心した。男女比や生徒間の人間関係、学力の面も考慮して組み合わせには慎重を期した。
    Web教材はアンケート結果にもあるように大変好評であった。特に、アニメーションやQ&A形式は分かり易くまとめられてあることで、生徒達のレポート作成に大変役立った。反面、やはり、著作権法の条文を読み解くことは苦戦しており、「まとめサイト」や「Q&A」の有り難さを実感したようである。
    クロストークでは意見交換よりも、各自が準備した知識が正しいか間違いかの確認に時間が費やされ、遵法意識を深める話し合いに物足りなさを残した。
    振り返り学習で行った事例アンケートでは、著作権学習実施前と比べて、違法性を指摘できる生徒の数は増えたものの、知識を事例に結びつけて答えを求められるレベルには至っていない。相手の財産や権利を侵害しなければ無断使用してもよい、という自己中心的な解釈が全面的に解消されるところまで理解度を深めることができなかった。やはり、基本となる知識や考え方と、具体例を結びつけた指導を研究していく必要性を感じた。
    生徒の感想
    • エキスパート活動では、Web教材を使って調べ学習を行っている時が楽しかった。
    • 教科書やプリントよりも、わかりやすくてまとめやすかった。
    • ジグソー活動で、自分が調べた事例を他のグループの人にうまく説明できなかった。
    • 自分はわかっていても、相手に自分の考えをうまく伝えることは難しかった。
    • まとめの時間が全然足らなくて、本当に忙しかった。法律の用語は難しいし、読めない字も多い。辞典まで使うとは思わなかった。
    • クロストークの時間は苦痛だった。レポートにまとめるほうが気楽だった。
    • 音楽CDや映画DVDを買うことはほとんどない。授業を通じて、作者の権利や財産を侵していることがわかった。
    • 動画サイトがある限り不正はなくならないのではないかと思った。
    • ルールを守らせる工夫とともに、違反者には厳しい罰則をすべきだと思った。
    選考委員コメント

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