図書館と著作権

                                             (黒澤節男 著)

    Q1どのような図書館でも権利者に無断で複写サービスができるのでしょうか?

    A1どのような図書館でも複写サービスができるわけではありません。

    著作権法第31条に定める「図書館等における複製等」という規定は、図書館等の公共的奉仕機能に鑑み、国立国会図書館は当然のこととして、公共図書館、大学図書館等政令(著作権法施行令)で定める図書館等において、一定の要件を遵守することを条件に、権利者の許諾を得ることなく、利用者の求めに応じて複写サービスができることとしているものです。

    したがって、国立国会図書館や政令で定める図書館等以外では、原則どおり権利者の許諾を得て複写サービスを行わなければなりません。

    政令で定めている図書館等は次のとおりですが、これらの図書館等には、そのような施設であると同時に司書又はこれに相当する職員として文化庁長官が定める著作権講習会で修了証書を交付された職員がいることなどが義務付けられています。

    1. 図書館法第2条第1項の図書館で、都道府県、市区町村が設置する公共図書館等
    2. 大学・高等専門学校の図書館等
    3. 大学等における教育に類する教育を行う教育機関(水産大学校等)の図書館等
    4. 図書、記録その他著作物の原作品又は複製物を収集し、整理し、保存して一般公衆の利用に供する業務を主として行う施設で法令の規定によって設置されたもの。……具体的には博物館・美術館等で都道府県立や市区町村立も含みます。
    5. 学術の研究を目的とする研究所、試験所その他の施設で法令の規定によって設置されたもののうち、その保存する図書、記録その他の資料を一般公衆の利用に供する業務を行うもの……具体的には、日本原子力研究開発機構、国立国語研究所等
    6. 国、地方公共団体又は一般社団法人等が設置する施設で4、5に掲げる施設と同種のもののうち文化庁長官が指定するもの……具体的には、日本医師会医学図書館、日本点字図書館、著作権情報センター「資料室」等29施設が指定されています。(施設名は文化庁HP参照)
      なお、具体名で指定した29施設の他に、博物館法第2条第1項に規定する博物館又は同法29条の規定するいわゆる博物館相当施設であって、営利を目的としない法人により設置されたものも「図書館等」に指定(2015年)されております。

    現在小中学校や高校の学校図書館はこの政令には含まれておらず、企業の図書館、公民館に付置されているような図書室・資料室もこれには該当しません。ただし、2006年10月の文部科学省の通達で公民館図書室を公立図書館の分館として条例上位置づけることが容易になりましたが、分館であれば、複写サービスのできる図書館等に該当します。

    Q2コイン式複写機を用いて複写サービスを行うことに問題がありますか?

    A2コイン式複写機を館内において、職員のチェックなしで、利用者に自由にコピーを取らせているとしたら問題があります。

    著作権法第31条の規定というのは、物的にも人的にも図書館が主体となって複写することが前提になっております。


    著作権法第31条(図書館等における複製等) 第1項

     国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条及び第百四条の十の四第三項において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(次項及び第六項において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。

    一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物(次項及び次条第二項において「国等の周知目的資料」という。)その他の著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるものにあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

    二 図書館資料の保存のため必要がある場合

    三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料(以下この条において「絶版等資料」という。)の複製物を提供する場合



    かつて、複写複製問題を検討した文化庁の著作権審議会第4小委員会の見解(1976年9月)では「複製を行うことができる主体は図書館等であり、複製を行うに当たっては、当該図書館等の責任において、その管理下にある人的・物的手段を用いて行うことを要するものと解される。その運営が適正に行われるようにするため、著作権法施行規則第1条の3(注)に定める有資格者(司書又はこれに相当する職員)が置かれていることが複製を行うことのできる条件とされており、従って、コイン式複写機器により複写請求者自身により複製させ……たりすることはこの規定の趣旨を逸脱するものと解される。」と述べられています。ただ、この見解には付記があり、「ただし、複写複製物の請求からその交付に至る間の手続を厳正なものとするのであれば、作業としての複製行為のみを複写請求者……に行わせることは許容されてよいと解する見解もある。」とされています。

    最近では、コイン式複写機の著しい普及発展ともあいまって、図書館への導入もめずらしくなくなっている状況ですが、長い間の話し合いの末、次の5つの要件に合致すればその複写は適法とみなすことで、権利者である社団法人日本複写権センター(現:公益社団法人日本複製権センター)と使用者である大学図書館側との間で合意を見ており、コイン式複写機による複写サービスもこのような形態であれば許されるのではないでしょうか。

    1. 図書館が文献複写のために利用者の用に供する各コピー機について、管理責任者(及び運用補助者)を定める。
    2. コピー機の管理責任者は、司書またはそれに準じた者とする。
    3. 図書館は、各コピー機の稼働時間を定めて掲示する。
    4. コピー機の管理責任者は、管理するコピー機による文献複写の状況を随時監督できる場所で執務する。
    5. 図書館は、コピー機の稼働記録を残す。

    (注) 著作権法施行規則(司書に相当する職員)

    第1条の3 令第1条の3第1項の文部科学省令で定める職員は、次の各号のいずれかに該当する者で本務として図書館の専門的事務又はこれに相当する事務(以下「図書館事務」という。)に従事するものとする。
    一 図書館法(昭和25年法律第118号)第4条第2項の司書となる資格を有する者
    二 図書館法第4条第3項の司書補となる資格を有する者で当該資格を得た後4年以上図書館事務に従事した経験を有するもの
    三 人事院規則で定める採用試験のうち、主として図書館学に関する知識、技術又はその他の能力を必要とする業務に従事することを職務とする官職を対象とするものに合格した者
    四 大学又は高等専門学校を卒業した者で、1年以上図書館事務に従事した経験を有し、かつ、文化庁長官が定める著作権に関する講習を修了したもの
    五 高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者又は高等専門学校第3学年を修了した者で、4年以上図書館事務に従事した経験を有し、かつ、文化庁長官が定める著作権に関する講習を修了したもの


    Q3著作権法第30条の「私的使用のための複製」の規定により、図書館内においてもコイン式複写機で全文の複写ができると聞きましたが、そうなのでしょうか?

    A3そのような解釈は著作権法の趣旨からいって問題があります。

    著作権法第30条の規定というのは、「私的使用のための複製」といわれ、著作権の制限規定の最初に定められている規定ですが、そもそも、この著作権の制限規定というのは、著作者の持っている独占的・排他的といわれる、他人が著作物を使うことに対して許諾するかしないかを決定する権利を制限するもので、著作権法の目的である「文化的所産の公正な利用に留意」するためのものです。


    著作権法第30条(私的使用のための複製) 第1項

    著作権の目的となっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

    一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

    (以下 略)



    この法第30条は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」ということでごく限られた、狭い範囲での使用が目的であり、一般の家庭でテレビから録音・録画するとか、レンタルCDをiPadに録音するとかのことを想定しております。閉鎖的で零細な使い方と表現する人もいます。

    したがって、同条一号に定めるように外部に置いてある誰でも簡単に複製できる機器を使って複製する場合は、私的使用のための複製には該当しないと定めています。これが原則です。例えば、ダビングサービスをしている店の高速ダビング機を使ってビデオ映画などを録音・録画するような場合は、これには該当せず権利者の許諾が必要になります。

    しかし、同じような自動複製機器でも、文献の複写となりますと、一方では、それができる機器はコンビニをはじめとしてあらゆるところに置いてあり、他方では、許諾を求めようとしても文献の数、権利者の数はあまりにも膨大過ぎます。権利を集中的に管理している公益社団法人日本複製権センターでもその体制が必ずしも十分でなく、文献の複写を違法と決め付けることも現段階ではできないということで、集中的権利処理体制が整備されるまでの経過措置として「当分の間」は、暫定的に「文書又は図画」についてはこの自動複製機器からは除外することを定めています(著作権法附則第5条の2)。したがって、コンビニ等で私的使用のために文献の全文コピーをすることは現行法では適法となります。

    しかしながら、図書館という著作物の宝庫において厳しい要件を付けて著作物の一部分の複製のみしか認めていない法第31条の規定の趣旨や法第30条の改正規定と附則第5条の2の規定が制定された経緯からみれば、図書館にコイン式複写機を置いて図書館職員がノーチェックで全文コピーができるという考え方は、「文化的所産の公正な利用に留意」しつつ権利者の保護を図ることを目的とした著作権法を曲解しているものと言わざるを得ず、許されるものではありません。

    著作権法は、暫定的に「当分の間」は、除外することにしているだけであって、著作権法の本来の趣旨としては、本則どおり、誰でもが使用できる外部に置いてある自動複製機器で複製する場合は、私的使用のための複製には該当しないと考えられるからです。

    Q4複写サービスができる「著作物の一部分」とは、どの範囲でしょうか?

    A4 「著作物の一部分」とはどんなに多くとも著作物全体の半分以下と解釈されています。

    100ページの単行本の小説であれば、最大50ページまでは複写しても良いことになります。 短篇小説や詩集などの編集著作物であれば、そこに掲載された短篇なり詩なりの個々の著作物の半分以下になります。

    図書館における複写サービスが争われた事件がありますが、ある事典の一項目全部について利用者が複写を請求したのに対して図書館側が断った事件で、裁判所は「原告の請求した本件複写請求部分は、著作物の全部に当たるものであって、「著作物の一部分」の複製物の提供を認める著作権法31条1号の規定に当たらないものというほかはなく、その全部の複写を求めた原告の申込みに対して承諾しなかった被告の行為に違法性はない。」と判示しており(東京地裁平成7年4月28日判決 著作権確認等請求事件、黒澤節男著「Q&Aで学ぶ図書館の著作権基礎知識(第4版)」190頁)、事典の一項目が著作物だと認定し原告敗訴の判決をくだしております。

    言語の著作物以外の具体的なものとしては、地図の著作物の一部分はどの範囲になるかがありますが、見開き2ページで一著作物になっていれば、その半分の1ページは複写できることになります。ただ、複写の請求ができるのは「調査研究のため」となっていますのでその要件をクリアする利用者がどれほどいるでしょうか。

    絵画や写真の著作物は一部分では意味をなさない場合が多く、同一性保持権侵害の問題もあり得ますので、実際問題としては複写の対象にはなりにくいでしょう。

    なお、事典の一項目や短歌の一句のように全体の分量が少ない著作物については、複製を行うと一部分を超えて複写物ができてしまう場合があります。

    この件に関して、権利者と利用者との協議の末、2006年1月から、「同一紙面(原則として1頁を単位とする。)上に複製された複製対象物以外の部分(写り込み)については、権利者の理解を得て、遮蔽等の手段により複製の範囲から除外することを要しない。」旨のガイドラインが作成され、運用されています(国公私立大学図書館協力委員会HP「資料集」「大学図書館著作権検討委員会」の中の「複製物の写り込みに関するガイドライン」参照)。

    令和3(2021)年の法改正が行われて以降、図書館関係者、著作権者団体、出版社団体、有識者らが参加する「図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会」が設置され、鋭意検討が行われていたが、令和5(2023)年5月30日付けで「図書館等における複製及び公衆送信ガイドライン」が制定(8月30日修正)されており、複写サービスや後のQ&Aに出てくる公衆送信に関する様々な問題について指針が示されているので参考にされたい。(SARLIB一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会HP参照)

    Q5著作権法31条で、図書館等で複写サービスのできる著作物のうち、定期刊行物については、発行後相当期間を過ぎたら個々の著作物はその全部が複製できることになっていましたが、令和3(2021)年法改正でその文言がなくなりました。どういうことでしょうか?

    A5 令和3(2021)年法改正では、その部分は次のような文言に改正されております。

    「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに 類する著作物(次項及び次条第二項において「国等の周知目的資料」という。)その他の著作物の全部の複製物の提供が著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情があるものとして政令で定めるもの」

    この政令は、2022年12月、次のように制定されました。

    「新法第31条第1項第1号の「政令で定めるもの」として、次に掲げる要件を満たすものを規定する。

    ①国等の周知目的資料

    ②発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物

    ③美術、図形又は写真の著作物であって、図書館資料を用いた著作物の複製に当たって、その対象とする著作物に付随して複製される著作物(表示の精度その他の要素に照らし軽微な構成部分となるものに限る)」

    「国等の周知目的資料」の追加は、第32条第2項の「引用」規定の「説明の材料としてなら新聞・雑誌等への転載を認めている規定」を改正したので、それに伴い、こちらの方も、追加改正したものです。
    なお、第31条第2項の「著作物の全部の公衆送信が著作権の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある著作物」も上記と同様の規定が政令で定められております。

    従来の定期刊行物以外に全部複写できる範囲が、今回の改正によって大幅に拡大したわけです。なお、この政令は2023年6月1日から施行されています。

    「発行後相当期間」とは、通常の販売経路において当該定期刊行物の入手できる期間を意味しますので、その定期刊行物が月刊誌であれば、次号の月刊誌が発行されれば、前号は、相当期間を経過した定期刊行物と考えて良いでしょう。

    逆に言えば、少なくとも定期刊行物が発行されてから、次号が発行されるまでの間、要するに最新号については、個々の著作物の全文複写はできないことになります。もちろん、一部分の複写はできます。

    定期刊行物には、日刊、週刊、月刊、季刊、年刊などいろいろあります。年刊などについては、次号が発行されるまでが「相当期間」とするのはちょっと長すぎるような気がしますが、権利者(公益社団法人日本複製権センター)・使用者(大学図書館)との合意では、3ヵ月経ったら相当期間を経過したとみなしています。

    なお、大学図書館の間では、「発行後相当期間」について独自の見解で合意しており、販売されているもの等の例外を除いて「大学が刊行する定期刊行物については,各大学図書館が受入した時点で『発行後相当期間』を経過したものとみなす。」としています。

    次号が発行された場合に相当期間を経過したものと判断しているのは、通常次号が発行されれば前の号は一応経済的役割が終わったということで権利者の利益も損ねないだろうとの考えに基づくものと思われます。

    図書館によっては、最新号にはカバーをしたり、付箋を付けるなりして、この定期刊行物は相当期間を過ぎておらず、全文コピーはできませんよとお知らせしている図書館もあるようです。

    なお、一部の専門雑誌では、巻末などにバックナンバーの紹介をしているものがありますが、出版物の取り寄せが必ずしも特殊な入手方法ではないことから考えると、バックナンバーの入手が可能なものについては、次号が発行されたからといっても相当期間を経過したと判断するのは難しいのではないでしょうか。

    Q6自館にない資料について利用者から複写請求があったので資料を所蔵している他の図書館に文献の複写依頼をして対応したいのですが、よろしいでしょうか?

    A6 いわゆるILL(Inter Library Loan) 「図書館間相互貸借」ということで、かつては図書の現物の貸借が主流だったと思いますが、現在では図書館間で文献複写の相互の依頼・受付が特に大学図書館では日常化しており、それ専門の係さえ置いている図書館もあります。

    この問題についての1984年に公表された文化庁の報告書では「利用者が求める著作物を所蔵している図書館等に直接複写申し込みを行う場合だけでなく、他の図書館等を介して申し込む事例が増えつつある。……しかしながら、法第31条が著作権者の利益を不当に害しない範囲において著作権者の権利行使に一定の制限を課しているという規定の趣旨から、このような実態を適法と解釈することは問題がある。」と記しており、関係者間でガイドラインを設定してその取り扱いを決める必要があると提言しています。

    現在では、使用者側の国公私立大学図書館協力委員会と権利者側の一般社団法人学術著作権協会と合意書を交わしてルール作りがなされています(国公私立大学図書館協力委員会HP「資料集」「大学図書館著作権検討委員会」の中の「大学図書館間協力における資料複製に関する合意書」参照)。

    そのガイドラインの内容は、複製の依頼を受けた図書館が、著作権法第31条の範囲内で複製物を一部郵送、ファックス送信又はインターネット送信をして、利用者に提供することを認めるというものです。ただし、提供者側には、利用者には紙面に再生された複製物のみを提供することや中間複製物を破棄することが義務付けられています。また、同一雑誌や同一書籍の複製依頼が多い資料については、購入努力義務も課せられています。

    なお、これとは別に、権利者団体と図書館団体(日本図書館協会、国公私立大学図書館協力委員会、全国公共図書館協議会)との協議の末、2006年1月から、相互貸借で借りた資料を借り受けた側でコピーをして提供してもかまわないという「図書館間協力における現物貸借で借り受けた図書の複製に関するガイドライン」が作成され、これまで、借り受けた図書を一旦所蔵館に返却してから再びコピー依頼をして複製物の提供を受けるという煩わしさをなくすという合意がなされ、運用されています(国公私立大学図書館協力委員会HP「資料集」「大学図書館著作権検討委員会」」参照)。

    Q7DVD、ビデオソフト、CD-ROMを図書館の外に貸出してもかまいませんか?音楽CDの貸出とは違うのでしょうか?

    A7DVDや ビデオソフトは通常「映画の著作物」と考えられており、図書館等の図書、雑誌、音楽CD等の資料の貸出とは違う扱いをされておりますのでご注意ください。CD-ROMも著作物性のある映像が含まれていれば同じように取り扱われます。映画の著作物には、他の著作物と違って「頒布権」という独特の権利があります。「頒布」というのは、有償であるか無償であるかを問わず複製物を譲渡又は貸与すること、とされております。

    この頒布権は、元々は劇場用映画の配給権に基づくものといわれ、映画製作者がどの映画館に何日間上映するために貸与するか等について決定する権利を持っているものです。現行法ではビデオソフトは映画の著作物と考えられておりますから、当然のことながら、ビデオソフトの権利者に頒布権があり、原則的には許諾を得ないと一般の利用者に貸出ができないことになります。

    映画以外の著作物に貸与権が認められた時の法改正で、営利を目的とせず、貸与を受ける者から料金を受けない場合には、権利者に無断で貸与をしてもよいことになりました。貸与権が認められた後も、図書の貸出や音楽CDの貸出を図書館が権利者に無断でできるのはこのためです。

    この法改正の際、映画の著作物の非営利、無料貸与についても規定されましたが、図書や音楽CDとは違って、こちらの方は、貸与のできる施設を政令で定める「映画フィルムその他の視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的とする視聴覚教育施設その他の施設」(その後の法改正で 「聴覚障害者等の福祉に関する事業を行う者」を追加。)に限定し、権利者へ相当の額の補償金の支払いを義務付けました。

    その政令で定めた施設の中には、都道府県立や市区町村立の公共図書館が入っていますので、そこでは補償金の上乗せされたDVDやビデオソフトの貸出ができることになります。

    この法改正がなされた当時から権利者側の映画製作者(ビデオソフトメーカー)等と使用者側の公共図書館等との間でこのことについての話し合いが持たれ、結果として、現在では各ビデオソフトメーカーが「公共機関用」等とジャケットに印刷したり、シールを貼付したりして、直接又は流通事業者を通じて公共図書館等に「補償金」処理済みのビデオソフトを供給しています。また、一般社団法人日本映像ソフト協会でも、「補償金処理済み」と明示したシールを作成し、会員会社に供給しているようです。

    なお、大学図書館や学校図書館等も、公共図書館に準じた取り扱いがなされています。権利者と使用者で話し合いがついていない作品の貸出については、個別の問題として著作権処理をしなければなりません。権利者が貸出について許諾しなければ、貸し出せないことになります。

    なお、上記のように、映画の著作物の場合、当然のように「頒布権が働く。」と書いてきましたが、映画の著作物であっても、頒布権が働かない場合があるという判決が、2002年4月25日に最高裁判所から出されました。この場合は、中古のゲームソフトの販売に対して下された判決ですが、ゲームソフトのような一度に多数の者が楽しむものでない映画の著作物はいったん適法に譲渡されたことによって、その目的を達成したものとして権利は消尽し、もはや再譲渡には著作権の効力は及ばない、と判示しております。この最高裁判決後の2002年11月28日に下された東京高等裁判所の「中古のビデオソフトの販売に対する」判決では、この最高裁判決を援用し、著作権の行使が認められない(=権利が働かない)、という判断が示されています。

    このような判例の延長線上では、今後、付録に付いているような映像(映画の著作物)は、図書館が適正に購入したり譲り受ければ、その後、譲渡しようが、貸与しようが構わないということになりますが、早い機会に、立法的に明確にすることが望まれます。」


    (注) 著作権法施行令(映画の著作物の複製物の貸与が認められる施設)

    第2条の3 法第38条第5項の政令で定める施設は、次に掲げるものとする。

    一 国又は地方公共団体が設置する視聴覚教育施設

    二 図書館法第2条第1項の図書館

    三 前二号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は一般社団法人等が設置する施設で、映画フィルムその他の視聴覚資料を収集し、整理し、保存して公衆の利用に供する業務を行うもののうち、文化庁長官が指定するもの

    2 文化庁長官は、前項第三号の規定による指定をしたときは、その旨をインターネットの利用その他の適切な方法により公表するものとする。


    Q8市立の図書館で子どもたちに対してお話し会(朗読サービス)をしたいと思いますが著作権で注意すべきことはありますか?

    A8 「朗読サービス」と言えば小さな子どもたちを対象にしたお話し会や視覚障害者など障害を持っている方々に対して朗読する対面朗読などがあります。

    お話し会や対面朗読などのように一定の人数の利用者の前で、他人が発行している図書等を朗読することは、本来的には著作権の一つである「口述権」が働きます。口述とは「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達することをいう。」と定義づけられておりますのでこの権利が働きます。

    しかし、著作権法第38条の制限規定に該当すれば、権利者の許諾を得ず、自由にサービスができます。すなわち、(1)営利を目的としない、(2)聴衆から料金を徴収しない、(3)朗読する人に報酬が支払われない、という三つの条件が揃った場合がそれです。

    図書館で、図書館員やボランティアの方たちが読み聞かせたりすることが、このような3条件に従って行われている限り、自由にできます。

    2006年(2017年改訂)に一般社団法人日本書籍出版協会児童書部会など児童書四者懇談会が公表している「お話会・読み聞かせ団体等による著作物の利用について」という手引きによりますと、次のように記載されております。

    「営利を目的とせず、かつ観客から料金を受けず、かつ実演・口述する人(児童書を朗読する人)に報酬が支払われない場合に限り無許諾で利用できる。なお、本手引きにおいては、実演・口述する人への交通費等の支払い、ボランティアの交通費・昼食代および資料費、会場費等のお話し会の開催にかかわる経費に充当するために観客から料金を受ける場合は、無許諾で利用できることとします。」(一般社団法人日本書籍出版協会HP「ガイドライン」参照)

    Q9著作権法第37条の改正により視覚障害者などへの複製サービスが大幅にできるようになったと聞きましたが、具体的にどう変わったのでしょうか?

    A9 現行著作権法は、明治期に作られた旧著作権法が改正され、1971年から施行されていますが、これまでなかった著作権の制限規定がかなり多く追加され、視覚障害に対する点字による複製や点字図書館による録音も、権利者の許諾をうることなくできるようになりました。

    その後は40年近くこの規定は改正されずそのままでしたが、障害者権利条約とそれを受けて制定された「障害者差別解消法」等により、障害者の読書環境が大きく変化したことを踏まえ、2009年と2018年に大幅改定がなされました。

    一つは、録音サービスなどを受けられる対象が、当初は、「視覚障害者」に限定されていましたが、この二度の改正で、「視覚障害者その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者」に拡大されたことにより、発達障害や聴覚障害、肢体障害など障害の種類によらず「視覚による表現の認識が困難な者」に対象を広くしています。具体的には、「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」(公益社団法人日本図書館協会HP)をご覧ください。

    二つ目には、従来、点字図書館等に限られていた録音などのできる施設等が、大学図書館や公共図書館、児童や高齢者の福祉施設さらには一定の条件を満たしたボランティアグループに対しても認められ、図書館員やボランティアの方々が従来行っていた権利者を探して許諾を求めるという煩わしさから開放されました。

    さらに、利用方法についても、従来の録音に限定されていたものを、複製一般やパソコンによる送信なども認めましたので、録音のほか、布の絵本にしたり、立体絵本にしたり、色を変更した書籍にするなど提供を受ける個々の障害者の障害の種類や程度に応じて、必要な方式での提供が可能となりました。

    ただし、権利者側等が許諾をして同じような方式で録音物等が提供されている場合には、それとの競合を避ける意味でも、権利者等の利益を阻害しないためにもそのような無断複製は認められないので注意する必要があります。

    なお、聴覚障害者等のために、音声を字幕等により複製、送信したり、貸出目的で映像に字幕等を付して複製することなども、新たに図書館等ができるように改正されました(著作権法第37条の2)。

    Q10視覚障害者等のために、ボランティアの人たちも権利者に断らないで音訳サービスができるそうですが、どのような手続きが必要なのでしょうか?

    A10 Q9のA中でも記しておりますが、2018年の著作権法改正で、図書館だけでなく、NPO法人はもちろんNPO法人ではない普通のボランティアグループでも一定の条件を満たせば、権利者に断ることなく音訳ができるようになりました。

    それらは文化庁長官が指定した団体の場合もありますし、単に届出をするだけで、音訳ができる場合もあります。文化庁のHPを見ますと届出をするだけで良い場合の条件は次のようなものです。

    ①複製又は公衆送信を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力及び経理的基礎を有していること

    ②適正に行うために必要な著作権法に関する知識を有する職員が置かれていること③情報を提供する視覚障害者等の名簿を作成していること

    ④団体名、代表者名等を「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会SARTRAS」のウェブサイトに掲載していること

     

    なお、文化庁長官の指定を受けているNPO等のボランティア団体は、2023年10月末現在61団体あり(指定  名簿は文化庁のHP参照)、届出のみで行っているボランティア団体は156グループほどあります(登録名簿はSARTRASのHP参照)。

    Q11スマートフォンや携帯電話を使って資料を撮影する利用者がいますが、図書館としてはどう対応したらいいのでしょうか?

    A11Q3で書きましたように、著作権法には「私的使用のための複製」という規定があり、この規定に該当すれば、利用者は、著作権者に無断で複製することができます。

    そこでも書きましたように、図書館がコイン式複写機を設置して、何ら職員がチェックすることなく、極端に言えば、本の一冊丸々複製も可能という状況は、著作権法第31条の「図書館等における複製」という厳しい条件下で複製サービスを認めている趣旨からして違法といっていいでしょう。

    スマートフォンや携帯電話の場合は、大量に撮影することはあまり考えられず、例えば、料理本の1ページを写真にとるとか、新聞に載ったニュース記事などを撮影するような利用の仕方で、それほど、権利者の利益を侵すとまでは言えないようにも思えます。

    しかし、著作物の宝庫である図書館で、わずかずつであっても、自由にあれもこれも撮影しまくるというのは、あまり感心したことではありません。

    また、それをすることによって、周りで静かな環境で読書をしている他の利用者に迷惑を及ぼすことも当然考えられます。

    図書館として、そのようなスマートフォンや携帯電話による撮影は認めないという方針をとるのであれば、それは、一つの見識といえましょう。著作権法で止めるのは難しいので、根拠としては、静かな読書環境を保ちたいという図書館という施設の管理権に基づいて、利用者に止めてもらうよう注意すべきでしょう。

    Q12当館では、「図書館だより」に絵本や本の表紙を写真に撮り、毎月新着図書の紹介として載せ、また、その「図書館だより」をそのままホームページにも載せておりますがよろしいでしょうか?

    A12 絵本や本の表紙には、画家や写真家、イラストレーター、装丁者の著作物が掲載されていることが多いと思います。本来的には、それらの著作者が著作権を持っているわけですが、出版社に権利が譲渡されているかも知れませんので、「図書館だより」に載せる場合には、取りあえず、出版社に問い合わせしたらいかがでしょうか?

    図書館としては、その本の宣伝をしてやるのだからとか、著作者のためにもなるのだからと、善意で載せている気持ちかも知れませんが、権利者の中には、無断で複製していてけしからんといってくる人がいるかも知れません。

    しかし、最近は「図書館だより」などで新刊紹介の際に、表紙を使うことについて、無断でもよいのでは、という見解が示されており、筆者もほぼこの見解に賛成です。

    例えば、出版ニュース社代表の清田義昭氏は「日本中で出版される新刊書の数は1年間で約8万点である。そのうち書評やブックガイドなどで紹介されるのはそれほど多くはない。表紙の写真が使われるのは、さらにその一部だ。著者、出版者、読者の三者にとってプラスになるのだから、本の紹介のために表紙の写真を利用することは自由であっていいと思うのだが、どうだろうか。」(「コピライト」559号)と述べています。

    また、「図書館だより」等に表紙を掲載することは、著作権の制限規定である法第47条の2に該当し、無断でできるとの見解が、早稲田祐美子弁護士から示されています。(「コピライト」679号)。

    なお、Q8で紹介しましたように、一般社団法人日本書籍出版協会児童書部会など児童書四者懇談会が、「読み聞かせ団体等による著作物の利用について」という手引きを作成して、公表しておりますが、その中で、表紙の使用について次のように記しています。

    「ブックリスト、図書館内のお知らせ、書評等(ウェブサイト上含む)に、表紙をそのまま使用する場合は、商品を明示しているものとみなされ慣行上無許諾で使用できる。(それ以外の表紙使用は要許諾)」

    新聞の書評欄のように、図書館においても、その書籍の書評を書いて、そこに、本の写真を載せるのは、法第32条の「引用」の規定により、無断で行っても良いと思われます。

    Q13大学図書館では、「機関リポジトリ」を開設して当該大学の研究者の研究成果物を図書館のホームページに登録し、世界に情報発信することが行われていますが、著作権的に留意すべきことは何ですか?

    A13「機関リポジトリ」とは、大学等の機関が設置するインターネット上の電子書庫のことで、当該機関の研究者、学生、職員などその機関を構成している人たちの教育研究に関する著作物(成果物)を収集・蓄積・保存し、かつ、インターネットを通じて無償で学内外へ発信するシステムのことです。

    研究者等が大学図書館の開設する機関リポジトリに登録するということは、著作権の問題としては、複製権と公衆送信権が働きますので、その二つの権利について、研究者等の権利者から登録機関である大学図書館が許諾を得ることが必要になります。

    通常、著作権は、著作者が持っているので、図書館は、当該著作物の研究者等に許諾を得れば良いわけですから、これは問題ありませんが、権利が学会や出版社等に帰属(譲渡)されていると、ややこしくなります。また、現役の研究者等に許諾を求める場合は、比較的容易に許諾を得られますが、過去の紀要等に掲載された論文等について何十年も前の研究者等の論文を全て登録したいという場合はなお大変です。

    著作権が学会に帰属していれば、その学会の了解を得ればよいわけで、出版社の場合も著作権を出版社に譲渡していてもリポジトリに登録することだけはあらかじめ認めている出版社もありますので、その学会や出版社の意向によることになります。

    紀要等の場合も、学内の学会や教授会など構成員の賛同を得たうえで、規定上、編集委員会などに著作権全部を帰属されることを明記することは可能です。また、著作権は、そのまま研究者が所有し、機関リポジトリに登録する権利だけを譲渡という形で編集委員会に帰属させることも可能です。

    しかし、このような場合は、現在又は将来の紀要について、構成員が、自ら考えて決めていくことでルール化されていくわけですが、そのルールを決めるのに参加していない、過去の研究者の問題があります。

    著作権は、原則的には、著者すなわち過去の研究者又はその権利承継者が持っていますので、遡って登録する際には、それらの人の了解を得なければ登録できません。紀要のそれぞれの論文について許諾を得るという大変な作業が待っていますが、地道に一つ一つ積み重ねていかねばなりません。

    Q14国立国会図書館の所蔵資料のデジタル化と公共図書館等や外国図書館等への送信を可能とする著作権法の改正があったと聞きましたが、どのような内容ですか?

    A14国立国会図書館には、わが国唯一の国立の図書館として、国内で出版された図書等を収集、保存して、広く国民に提供するために、国立国会図書館法にも規定している「納本」という制度があります。

    毎年、国内では8万冊近い図書が刊行されますが、それを国立国会図書館が一括して集めることにより、後世に伝えていこうということで、一般の出版社は、1冊~2冊の、官公庁、大学などは、数冊から2、30冊の納本が義務付けられています。

    そして、この納本制度で集められた図書等をデジタル化して、原本を良好な状態のまま永久に保存することができるようにするために2009年、著作権法の改正が行なわれました。

    著作権法第31条第1項第2号には、保存のために必要があれば、図書館資料等の複製   を認めておりますが、マイクロ化、デジタル化した場合には、原本を廃棄しなければならないという極端な解釈もあり、また、汚損や劣化が激しいと良好な状態での資料保存という国立国会図書館本来の目的を達しえなくなる恐れがあるところから、国立国会図書館に限ってこのような保存方法を認めたものです。

    また、2012年の改正で、デジタル化資料のうち「絶版等資料」については公共図書館等への送信が認められました(さらに、2018年の改正で『これに類する外国の施設で政令で定めるもの』へも送信が認められました。

    更に、次のステップである令和3(2021)年改正で「特定絶版等資料」の個人への直接送信につながります(Q16参照)。国会図書館に所蔵する資料がより身近になり、利用可能 となったわけです。  

    そして、最近の審議会の解釈では、国立国会図書館が所蔵しておらず、大学図書館や公共図書館等が所蔵している絶版等資料のデジタル化を許容する見解が示されています(Q15参照)。

    国立国会図書館にのみ、このデジタル化を認めたのは、納本された原本を良好なまま全ての資料を後世に残すことが主目的ですから、館内閲覧や複写サービスなどはこのデータを使うことが基本になります。相互貸借などでデータではなくどうしても原本が必要な場合に限って、原本を使用することもありえましょう。

    国立国会図書館から送信できる機関は、第31条第1項の適用がある図書館等です。具体的には公共図書館、大学図書館や外国の図書館等です。

    日本の図書館の場合は、予め国立国会図書館に利用申請を行い、承認を受ける必要があります。高校以下の図書館は含まれません。

    外国の施設として政令で定めているのは、外国の政府や地方公共団体等が設置する施設で図書、記録その他の資料を公衆の用に供する業務を行うもので、具体的には、国立国会図書館と協定を締結しているなどの条件が付いています。

    そこで注意しなければならないのは、国会図書館でデジタル化された全ての資料が、送信できる対象になっているわけではなく、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料=「絶版等資料」という限定があるということです。

    国立国会図書館ホームページ(「関係者の方へ」→「図書館向けデジタル化資料送信サービス」)によりますと、現在約181万点(2023年10月現在)の資料が対象になっています。

    具体的には、1987年までに受け入れた図書、震災・災害関係資料の一部 約82万点、明治期以降の貴重書等や清代後期以降の漢籍等 約2万点、明治期以降に発行された雑誌(刊行後5年以上経過したもので、商業出版されていないもの) 約1万タイトル(約82万点)、1991~2000年度に送付を受けた博士論文(商業出版されていないもの) 約14万点が対象になっています。

    この制度を利用できるのは、31条1項に基づき政令で定める公共図書館、大学図書館等ですが、それら図書館等では、国立国会図書館に承認申請を行って承認を受けている図書館に登録している利用者に限られます。

    国会図書館から送信を受けた図書館等における利用方法としては、閲覧と複写の両方です。閲覧については、同一資料を複数の図書館等で同時にできます。また、複写については、当該図書館等が第31条第1項の複写サービスと同じように「著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する」ことになります。

     

    Q15国立国会図書館が所蔵せず大学図書館や公共図書館等のみが所蔵している絶版等資料のデジタル化やネットでの配信は可能でしょうか?

    A15最近の文化審議会著作権分科会の報告書(図書館関係の権利制限規定の見直しに関する報告書)では、このことについて、明確にしております(同報告書p12)。

    国立国会図書館における資料のデジタル化と大学図書館や公共図書館等への提供を契機として、大学図書館等が所蔵している、絶版等資料の活用についても議論が行われ、審議会の結論に導かれたものと思われる。そこでは、次のように記述しています。長いですが正確を期すためそのまま転載します。

    「国立国会図書館が保有していない貴重な資料(入手困難資料)を、大学図書館・公共図書館等が保有している場合も想定されるところ、こうした資料についても国民の情報アクセスを確保する観点から、(ア)大学図書館・公共図書館等においてデジタル化した上 で、(イ)大学図書館・公共図書館等から国立国会図書館に提供し、(ウ)国立国会図書館 において専用サーバーにデータを蓄積するとともに、(エ)国立国会図書館から全国の図書館等や各家庭等に向けた送信を行うこと(いわば、国立国会図書館をハブとして資料 の全国的な共有を図ること)が望ましいと考えられる。

    この点、基本的には、既に平成29年4月の文化審議会著作権分科会報告書において 整理されているように、(ア)については法第31条第1項第2号、(イ)については法第31条第1項第3号、(ウ)については法第31条第2項(令和3年改正以前の旧第2項を指す・筆者注)、(エ)については法第31条第3項(令和3年改正以前の旧第3項を指す・筆者注、及び今回の見直し)により、それぞれ可能であると考えられる。このうち(イ)に関して、法第31条第1項第3号では「他の図書館等の求めに応じ …」と規定されているが、国立国会図書館は網羅的な資料収集の役割を担っているところ、個別に国立国会図書館が資料を特定した上で他の図書館等に提供を要請するという行為を行わずとも、包括的に資料の提供を要請していれば、「他の図書館等の求めに応じ」の要件を満たすものと評価できると考えられる。」

    このように報告書に書かれていますので、結論から言えば、大学図書館や公共図書館においてもデジタル化ができ、国立国会図書館を介して図書館等へのネット配信は可能ということになります。

    Q16令和3(2021)年の著作権法改正で、国立国会図書館による絶版等資料の各利用者への直接のインターネット送信が認められたと聞きましたが、それはどのようなものでしょうか?

     

    A16Q14のAで述べてきたように、2009年以来の著作権法改正は、国立国会図書館による資料のデジタル化に始まって、デジタル化資料のうち絶版等資料については、各図書館等へ送信できるまでになってきて、今回の令和3年改正は、その先の各研究室や家庭にまで直接送信できるようにしようという主旨の改正です。

    その背景としては、①新型コロナ感染症の流行等のため図書館が休館している場合、②病気・身体障害等で図書館に行けない場合、③近隣に図書館が存在しない場合などの理由から図書館等での閲覧等が困難な利用者がいること、研究者へのアンケートでも75%の人が公開範囲の拡大を要望していること、そして2012年改正の際の著作権分科会でも最終的には各家庭等での閲覧を可能とすることが適当とされたことなどが挙げられています。

    この制度の運用に当たって、国立国会図書館では、文化庁と共催で、権利者団体や出版者団体、有識者などをメンバーとする「国立国会図書館における入手困難資料の個人送信に関する関係者協議会」を設置し、検討の上「国立国会図書館のデジタル化資料の個人送信に関する合意文書」を作成し、22年5月から運用を開始しています。(国立国会図書館HP参照)

    その合意文書によれば、送信対象となる資料は、特定絶版等資料のうち「入手困難な資料」としており、入手困難資料とは、流通在庫がなく、かつ商業的に電子配信されていない等、一般的に図書館等において購入が困難である資料としています。

    具体的な送信対象候補とする資料としては①図書:戦前の資料は、送信対象候補とする。戦後の資料については、入手困難とした資料に限定し、送信対象候補とする。住宅地図は除外し、漫画については取り扱いを留保。②雑誌:官庁出版物は、送信対象候補。その他の資料は、著作権等管理事業者により著作権が管理されている資料を除き、送信対象とする。③博士論文:出版されているものを除き、送信対象としています。

    このサービスを受けられる対象者は事前に国会図書館の利用者登録を行った者で、登録利用者に対して識別するためのID・パスワード等の情報を発行することとしております。

    所蔵部数を超える同時閲覧制限は行わないので、複数の利用者がこの制度を同時に使うことができます。

    また、関係者間の協議により、漫画、商業雑誌、出版されている博士論文等については送信しないこととされており、その他の図書等についても国立国会図書館による入手可能性調査などで権利者の利益を不当に害しないことが担保されておりますので、範囲は狭いものとなっています。

    特定絶版等資料を送ってもらった利用者は、必要とも認められる限度のプリントアウトをすることや受信装置を用いて公に伝達することができるようになっています。

    なお、この改正は2022年5月1日から施行され、同年5月19日から実際の運用が始まっています。

     

    Q17令和3(2021)年の著作権法改正で、各図書館等から図書館資料の一部分を メールで各利用者に送信できるようになったと聞きましたが、それはどのような場合でしょうか?

    A17Q16と同時に令和3年改正で、もう一つ、図書館関係の制限規定の改定がありました。

    従来、利用者は、図書館等へ出向いて複写サービスを受けていましたがFAXやデジタルデータで複製物を受け取ることはできませんでした。

    今回の改正は、国立国会図書館や公共図書館、大学図書館等から直接利用者にデジタルデータを送信しようとするものです。

    この制度は、前問の回答と同じように時代の要請によって改正されたものです。

    改正法では、権利者保護のための厳格な要件の下で、特定図書館等においては、事前に登録している利用者の求めに応じ、著作物の一部分をメールで送信することができるとしております。ただし、図書館等の設置者が権利者に相当の額の補償金を支払うことが条件になっております。

    権利者保護のための厳格な要件というのは、正規の電子出版等の市場との競合防止することや利用者によるデータの不正拡散等の防止、図書館等における法令を遵守した適正な運用等の担保(責任者の配置、職員への研修の実施、利用者情報を適切に管理すること、データの流出防止措置等を講じる)などが挙げられております。

    特定図書館等というのは、上記のような法令を遵守した適正な運用等を行えるような図書館等のことをいいます。

    特定図書館等から公衆送信された著作物を受信した利用者は、調査研究の用に供するために必要と認められる限度において複製ができます。そして、実態上は、補償金はコピー代や郵送料と同様、基本的には利用者が図書館に払うことを想定しております。

    補償金の管理は、権利者や出版者で組織する団体を文化庁長官が指定(2022年11月7日、一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会=SARLIB)して、この団体が一括して、徴収・分配業務を行うことになります。

    また、補償金を決めるに当たっては、図書館側の意見も聴取したうえで案を作成し、文化審議会等に諮ったうえで文化庁長官が認可することになっています。

    公衆送信サービスに求められる補償金について、SARLIBは「図書館等公衆送信補償金規程」を作成し、文化審議会への諮問・答申を経て2023年3月29日文化庁長官により認可された。算定においては、次表のように図書館資料を「新聞」「定期刊行物」「本体価格が明示されている図書」「それ以外」の4種類に分けて補償金額を設定している。

    なお、この補償金の額を認可した文化庁のSARLIBへの文書では、運用実績のない中で当初に適用するものとして検討されたので、実際の運用実績と図書館設置者の意見を十分考慮し、この規定の見直しを検討することなどが留意事項として示されており、この規定自体暫定的なものと思われます。

    なお、現時点(2023年12月1日現在)のSARLIBのホームページを見ると「参加届出書」「参加特定図書館等」の両項目とも「準備中」との表示がされており、運用はまだ始まっていない。

    * SARLIBホームページから
    (図書館等公衆送信により支払う補償金の額)
    第3条 設置者が支払う補償金の額は、下表に定める図書館資料の種類に応じた補償金算定式を適用して算出した額とする。

    図書館資料の種類 補償金算定式 備考
    新聞 1 頁あたり 500 円
    2 頁目以降 1 頁ごとに 100 円
    定期刊行物
    (雑誌を含む。)
    1 頁あたり 500 円
    2 頁目以降 1 頁ごとに 100 円
    本体価格が明示されている図書 本体価格を総頁数で除し、公衆送信を行う頁数と係数10をそれぞれ乗ずる 1 冊あたりの申請に係る補償金額が 500 円を下回る場合には、500 円とする
    上記以外
    (本体価格不明図書・脚本/台本含む限定頒布出版物・海外出版物等)
    1 頁あたり 100 円 1 冊あたりの申請に係る補償金 額が 500 円を下回る場合には、500 円とする

    (注)見開きで複写を行い、図書館等公衆送信を行う場合は、2 頁と数える

     

    Q18図書館が創立記念日などに外部講師を招いて講演会を開催する場合、講師から依頼を受けた図書館員が新聞記事などの資料をコピーして配布することや講演の記録として録音をすること、講演要旨を「図書館だより」などに載せることは問題ありませんか?

    A18まず、新聞記事ですが、多くの場合それは記者が書いた著作物に該当します。誰が、いつ、何をどうした、というような誰が書いても同じような記事は著作物になりませんが、それ以外の記事で記者の個性が表現されていれば、それは著作物になります。最近では、記名入りの記事も結構あります。

    次に、図書館主催の講演会ですが、著作権法第35条には「学校その他の教育機関における複製等」という規定があって、教育を担任する者及び授業を受ける者が「授業の過程において」使用する場合に権利者の許諾を得ずに複製しても良いと規定しております。「その他の教育機関」には「社会教育機関」としての図書館も含まれます。ただ、学校の授業の過程で使用する場合と同じような形態で図書館が行う場合としては、年間スケジュールに組み込まれた図書館主催の講演会や公開講座等が考えられます。創立記念日の講演会がそのような位置づけであるならば、新聞記事等をコピーして配布することは可能となります。

    しかしながら、図書館が主催でなく、単に図書館の会議室で行われた外部の団体主催の講習会等であれば、それには該当せず、著作権者の許諾を得てコピーして配布することになります。

    同条では、複製の主体は「教育を担任する者」又は「教育を受ける者」に限定しておりますが、図書館職員がコピーする場合であっても、講師の指示した箇所のみをコピーするのであれば、「講師の手足として複製行為を行う」と考えて良いと思われ、コピーは可能でしょう。

    更に、講演の録音ですが、主催者が記録のために録音することはよくある事例ですが、謝礼を払っているからと言って、無断で録音して良いとも必ずしも言えないので、録音の許諾はとっておくべきでしょう。

    また、講習会参加者が録音することについては、Q3で述べた「私的使用のための複製」であればやむを得ないということになります。ただし、前の方の席で何人かが一斉に録音機器を操作するのは、講師としてもやりにくい場合もあるでしょうから、事前に講師に話して了解を得ておく配慮も必要でしょう。

     

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