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    貸与権及び貸出権並びに知的所有分野における著作権に関連する特定の権利に関する2006年12月12日の欧州議会及び
    理事会指令(2006/115/EC)(法典化版)


    まえがき

    目 次

    ( 前文 )


    第1章 貸与権及び貸出権
    第1条  調和の対象
    第2条  定義
    第3条  貸与権及び貸出権の権利者及び対象
    第4条  コンピュータ・プログラムの貸与
    第5条  衡平な報酬に対する放棄不能な権利
    第6条  排他的公貸権の適用制限


    第2章 著作権に関連する権利
    第7条  固定権
    第8条  放送及び公衆への伝達
    第9条  頒布権


    第3章 共通規定
    第10条  権利の制限
    第11条  適用期間
    第12条  著作権と関連する権利との関係
    第13条  通知
    第14条  廃止
    第15条  発効
    第16条  名宛


    付属書Ⅰ
    A編 一連の改正に伴い廃止された指令
    B編 国内法への移行期間一覧(第14条に規定)


    付属書Ⅱ
    相関表



    まえがき

     この翻訳は、欧州連合ウェブサイトから2020年4月7日に入手したDirective 2006/115/EC of the European Parliament and of the Council of 12 December 2006 on rental right and lending right and on certain rights related to copyright in the field of intellectual property(codified version)(以下「貸与権指令2006/115/EC」という)を底本にしたものである。貸与権指令は1992年に採択された後、保護期間指令(93/98/EEC)及び情報社会指令(2001/29/EC)により改正されており、貸与権指令2006/115/ECは、これらの改正全てを統合したものである。
    貸与権指令はコンピュータ・プログラム指令(91/250/EEC)に次ぐ二番目に古い著作権関連指令である。本指令が策定された背景には、音楽CDの出現により劣化しない複製物が簡単にできるようになったことによる海賊版蔓延のおそれがあるが、複製を介在しないストリーミング・サービスが主流となった現在では隔世の感を禁じ得ない。それにも関わらず、本指令は現在でもいくつかの点で大きな意味を有する。その一つに、著作者及び実演家に放棄できない報酬請求権(unwaivable right to equitable remuneration)を付与(第5条)した点が挙げられる。
    Ficsorによれば、報酬請求権には3つのタイプがある。すなわち、(1)単なる報酬請求権(ローマ条約12条に定める商業用レコード二次使用料請求権など)、(2)排他的許諾権を制限する代わりに与えられる報酬又は補償の請求権(ベルヌ条約第9条第2項に基づく私的複製補償金など)及び(3)排他的許諾権を移転しても存続する「残余(residual)」報酬請求権である。残余報酬請求権は、他の業界の利益や公益と比較衡量した結果である(1)及び(2)の報酬請求権と性質を異にする。すなわち、レコード製作者や映画製作者に比べ格段に立場が弱い著作者や実演家が、排他的許諾権を移転した後も衡平な報酬を確保できるようにしている*1 。この残余報酬請求権をEU法体系に初めて導入したのが貸与権指令第5条である。
    貸与権指令起草者のLewinskiによれば、映画業界の強い要望で最終条文には入らなかったものの、残余報酬請求権は集中管理団体での管理を想定していた。これにより、投資を回収し利益を最大化するために著作物や実演の利用をコントロールできる排他的許諾権を求める製作者の要望を満たすとともに、集中管理団体が報酬額を交渉することで、個々の著作者及び実演家の交渉力の弱さをカバーし、個別契約よりも多くの報酬が得られるようになる*2
    この仕組みは高く評価されているようで、デジタル単一市場における著作権指令((EU) 2019/790)策定にあたり国際音楽家連盟(FIM)等4つの実演家組織が行った"Fair Internet for Performers!"キャンペーンでは、利用可能化権譲渡後も、実演のオンデマンド利用に対し公正な報酬を受ける権利を実演家に付与すること、そしてその権利を実演家が放棄できないようにし、権利管理団体によって管理されることを新指令に規定するよう求めた。残念ながらこのような文言は入らなかったものの、新指令の履行段階において、各加盟国の法令に上述のような規定が盛り込まれるよう働きかけていくとしている。
    なお、翻訳に際しては、旧版(駒田泰土訳『欧州委員会理事会指令』(著作権情報センター、1996年)を基礎とした。

    *1 Mihaly Ficsor [2006]’Collective Management of Copyright and Related Rights in the Digital, Networked Environment: Voluntary, Presumption-Based, Extended, Mandatory, Possible, Inevitable?’ Collective Management of Copyright and Related Rights, Kluwer Law International BV
    *2 Silke von Lewinski [2012] ‘Collectivism and its Role in the Frame of Individual Contracts’ Individualism and Collectiveness in Intellectual Property Law, Edward Elgar Pub.



    2021年3月
    榧野 睦子


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