1994年4月にTRIPS協定が締結された。その第10条第2項は、知的創作物に該当するデータベースを著作権で保護することを義務づけた。本指令は、このTRIPS協定上の義務を履行するために制定された。しかし、本指令は、さらに一歩進んで、知的創作物に該当しないデータベースであっても、作成に実質的投資のなされたデータベースを、特別な権利(sui generis right)で保護することを定めた。
本指令では、「データベース」を、「体系的または系統的な方法で配列された独立した著作物、データおよびその他の素材の集合物であって、電子的またはその他の手段によって個別にアクセスすることできるもの」と定義する(第1条)。その上で、著作権の保護の対象となるもの(データベースの著作物)を「コンテンツの選択または配列に基づいて著作者自身の知的創作を構成するデータベース」と規定して、「コンテンツの選択または配列」に創作性が必要であり、創作性としては「著作者自身の知的創作(author's own intellectual creation)」で足りると規定し、その他の基準(造形的高度性など)の適用を排除する(第3条)。「著作者自身の知的創作」としての創作性は、米国著作権法の概念と同じく「originality」を意味する(前文第16節)。
また、特別な権利(sui generis right)の保護の対象となるデータベースを、「コンテンツの取得、検証または提供のいずれかに質的および/または量的に実質的な投資がなされたことを示すデータベース」と規定する(第7条)。特別な権利を与える目的は、情報市場に不可欠なツール(前文第9節)であるであるところ、データベースの作成に多額の投資を必要とするが、安易にコピーまたはアクセスできる(同第7節)ので、法的保護を与えなければその投資が行われることがないことにある(同第12節)。したがって、特別な権利の保護思想は、米国著作権法のインセンティブセオリーと同じである。
なお、本EU指令はデータベースの保護を規定するが、データベース著作物の有償無償の貸与には、知的財産分野における有償無償の貸与権及び著作権に関連する一定の権利に関する1992年11月19日の理事会指令92/100 / EEC が(前文第24節)、また、データベース著作物に対する著作権の期間は、著作権の保護期間及び関連する一定の権利の保護期間の調和に関する1993年10月29日の理事会指令93/98 / EEC(同第25節)が適用される。
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