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    ベトナム社会主義国民法典(抄)



     第6部 知的財産権および技術移転

     第34章 著作権と関連する権利

    第1節 著作者の権利

    第736条 著作者

    1.  文学、芸術、または学術の著作物(以下を全てまとめて著作物と呼ぶ)を創作した者はその著作物の著作者である。2人、または多くの者が一緒に著作物を創作する場合には、その者たちは合著作者である。

    2.  特定言語から他の言語に翻訳された著作物、脚色され、改変され、変形され、編集され、注釈され、または選択された著作物を創作した者は、他の著作物から派生した著作物を創作した著作者である。


    第737条 著作者の権利の対象

     著作者の権利の対象には、文学、芸術、学術の分野において表現されたいかなる創作物をも含むものとし、それは形式、手段、内容および価値、手続を経ているかを問わない。


    第738条 著作者の権利の内容

    1.  著作者の権利には、著作物に対する人格権と財産権を含む。

    2.  著作者の権利に属する人格権は、以下の権利を含む。

    a)  著作物に対して題号をつけること、著作物に実名または筆名をつけること、著作物が公表および利用されるときに実名または筆名を表示すること

    b)  自分で著作物を公表すること、または他人に著作物を公表させること

    c)  著作物の同一性を守り、他人が著作物を変更、切除、歪曲させないようにすること*1

     著作財産権は以下の権利を含む。

    a)  著作物を複製すること

    b)  派生的著作物を創作すること

    c)  著作物のオリジナルと複写物を頒布し、輸入すること

    d)  著作物を公衆に伝達すること

    dd)  コンピューターのプログラムの原著作物または複写物を貸与すること


    *1 本条の内容は、知的財産法第19条4項が「名誉または声望を害する態様で」という文言を含む点で異なっている。ただ、この相違は、知的財産法典が優先するという知的財産法典5条2項に従って解釈されることとなり、結局、本条が機能することはないと思われる。


    第739条 著作者の権利の発生時点および効力

    1.  著作者の権利は、著作物が創作され、かつ一定の物質の形式で表現された日から発生する。

    2.  著作者の権利のうちの人格権は、無期限に存続する。ただし、知的財産法典に規定された著作物を自ら公表し、または他人が公表すること許諾する権利は除く。

    3.  著作者に属する財産権は知的財産法典において規定された期間、存続する。


    第740条 著作者の権利の保有者

    1.  人格権は著作者に属する。

    2.  職務を実現し、または労務提供契約に基づかないで創作された著作物の場合に、著作者の権利のうちの財産権は、著作者に属する

    3.  任務の実現または労務提供契約に基づいて創作された著作物の場合、著作者の権利のうちの財産権は、別途の合意がなされた場合を除き、任務を提供した機関、組織または契約に従って労務を提供した者に属する。
     著作者の権利のうちの財産権が著作者に属さない場合、著作者は、知的財産法典の規定により、著作財産権の保有者が支払う報酬*2、許諾料を受け取る権利を有する。


    *2 潤筆という文言が用いられている。


    第741条 合著作の権利の分割

     合著作者に創作された著作物であって、当該合著作者によって創作された分離可能な部分を独立して使用するとき、別途の合意がない限り、本法典第740条に定められた規定は、その著作物の独立して用いられる部分に適用される。


    第742条 著作者の権利の移転

    1.  本法典第738条2項a/b/dに規定された人格権は、譲渡することができない。
     本法典第738条2項cに規定された人格権は、知的財産法典に定められた条件にしたがって移転することができる。

    2.  著作財産権は、全部またはその一部分を、契約または相続、譲渡によって移転することができる。著作財産権は、契約に基づいて、全部またはその一部分を移転できる。


    第743条 著作者の権利の移転契約

     著作者の権利に属する著作財産権の一部または全部の移転は、契約に基づいて実現される。著作者の権利の移転契約*3は、書面によってなされなければならない。


    *3 本条のタイトルは著作財産権であるものの、条文の第2文は、著作者の権利全てを含む内容となっている。ただし、公表権のみが移転可能と739条2項で規定されているため、本条第2文は、おそらく著作財産権のみに限定された規定とみるべきなのであろう。


    第744条 著作者の権利に関連する権利の対象

     著作者の権利に関連する権利(以下、関連権という)の対象は、実演家の実演会、録音物または収録物、放送機関の放送番組およびコード化されたコンテンツを変換した衛星信号を含む。


    第745条 実演に対する権利の保有者とその権利の内容

    1.  実演に対する権利は、実演家の人格権と、実演を開催するため出資した者の財産権を含む。

    2.  実演家の人格権は、実演の際または実演の録音物若しくは収録物の発行の際に、氏名を表示する権利、および実演イメージの完全性を保護する権利を含む。

     実演を行うために出資した者の財産権は、実演家および他人に対して以下の行為を行う権利と、他人の当該行為を差し止める権利を含む。

    a)  実演を録音し、収録すること

    b)  実演の録音物、収録物のオリジナルまたはコピーを複製し、配布すること

    c)  実演を放送その他の方法で公衆に送信すること


    第746条 録音物、収録物の権利の保有者とその権利の内容

    1.  録音物、収録物に対する権利は、録音物、収録物に対して投資した者に属する。

    2.  録音物、収録物に対する権利は、以下の行為を行う権利と、他人がその行為を行うことを差し止める権利を含む。

    a)  録音物、収録物の全部または一部を複製すること

    b)  録音物、収録物のオリジナルまたはコピーを配布、輸入すること

    c)  営利目的で録音物、収録物のオリジナルまたはコピーを貸与すること


    第747条 放送番組に対する権利の保有者とその権利の内容

    1.  放送番組に対する権利は、放送機関に属する。

    2.  放送番組に対する権利は、以下の行為を行う権利と、他人に対して当該行為を差し止める権利を含む。

    a)  録音物、収録物を記録し、複製すること、および放送番組を放送し、放送番組の全部または一部を再放送すること

    b)  放送番組の記録または記録の複製物を配布すること


    第748条 コード化されたコンテンツを変換した衛星信号に対する権利と、その権利の内容

    1.  コード化されたコンテンツを変換した衛星信号に対する権利は、そのコード化されたコンテンツを変換した衛星信号を最初に送信した者に属する。

    2.  コード化されたコンテンツを変換した衛星信号に対する権利は、以下の行為を行う権利と、他人に対して差し止める権利を含む。

    a)  コード化されたコンテンツを変換した衛星信号を解読のための設備またはシステムを生産し、組み立て、変更し、輸入し、販売し、貸与する行為

    b)  解読された衛星信号に対する権利を有する者の許諾がないとき、解読された衛星信号を受信し、再送信すること


    第749条 関連権の移転

    1.  本法典第745条、第746条、第747条、第748条に規定する関連権のうちの財産権は、移転できる。

    2.  関連権の移転は、書面に基づいて行われる。



    【参考】ベトナム社会主義国民法典の人格権に関する規定

    24条 人格権

     本法典に規定される人格権は、個人に帰属する民事権であり、他人に移転できない。ただし、法律において別の定めがある場合はこの限りでない。

    25条 人格権の保護

    1.  自分の人格権が侵害されたときは、自己批判することを求める権利を有する。

    2.  侵害者または当該行為に権限を有する機関若しくは組織に対して、その侵害行為を停止し、謝罪、および公開による自己批判を要求することができる。

    3.  侵害者または当該行為に権限を有する機関若しくは組織に対して、損害賠償を請求することができる。

    26条 姓および名前に対する権利

    1.  個人は、姓・名前を保有する権利を有する。1人の姓および名前は、その人の出生届に書かれたその人の姓名に従い確定される。

    2.  個人は、管轄国家機関に承認された自分の姓名に従い、自分の権利義務を発生させ、行使する。

    3.  別名または筆名の利用は、他人が保有する合法的な権利を侵害してはならない。

    27条 姓名を変更する権利

    1.  個人は、以下の場合において、管轄機関に対して、姓または名前の変更の承認を求める権利を有する。

    a)  姓または名前を勘違いで用いるか、またはその者の家族の感情、名誉およびその者が合法的に有する権利に悪影響を及ぼす結果になる場合で、その姓および名前を有する本人が請求したとき。

    b)  養父若しくは養母の請求に基づいて、養子の姓または名前を変更する場合、または、養子が当該養子縁組を解消し、養子本人またはその養父若しくは養母の請求に基づいて、養子または養子の実父若しくは実母が名づけた当初の姓または名前に戻すことを請求する場合。

    c)  実父または実母の請求に基づいて、当該父母と子供の親子関係が存在することが確認されたとき。

    d)  父の姓から母の姓に変更する場合、または母の姓から父の姓に変更する場合*4

    dd)  家族または親類関係の有無や出身地等が不明確であったが、血縁関係がある者を発見できたとき。

    e)  性別を再確認された人の姓または名前を変更するとき。

    g)  以上に規定されていないが、戸籍法に規定されている場合。

    2.  9歳以上の人の姓または名前を変更するときは、その本人の承諾を得なければならない。

    3.  個人の姓または名前を変更しても、古い姓または名前に基づいて成立している民事の権利義務を変更または消滅させることはない。


    *4 ベトナムでは結婚しても姓が変更されることがない。


    28条 民族を確認する権利(省略)

    29条 出生登録される権利(省略)

    30条 死亡登録される権利(省略)

    31条 自分の影像に対する権利

    1.  個人は自分の影像に対する権利を有する。

    2.  個人の影像を利用するときは、本人の承諾を得なければならない。本人が死亡した場合、行為能力がなくなった場合、または15歳未満の場合に、本人の父、母、配偶者、または成人になった子供、またはその者の代理人の承諾を得なければならない。ただし、国家若しくは公の利益と合致する場合、または法律に別の規定がある場合を除く。

    3.  影像の本人の名誉、品位または信用を害する、他人の影像の利用を禁止する。

    32条 生命健康身体の確保についての権利(省略)

    33条 身体の一部を移植する権利(省略)

    34条 死亡後の遺体と遺体の一部を献体する権利(省略)

    35条 人間の身体の一部の移植を受ける権利(省略)

    36条 性別を再確認する権利(省略)

    37条 名誉、品位または信用を保護する権利

     個人の名誉、品位または信用は、尊重され、法律により保護される。

    38条 私的領域の秘密に関する権利

    1.  個人の私的領域は、尊重され、法律により保護される。

    2.  個人の私的生活をめぐる情報および資料を収集し、または公表することは、本人の承諾を得なければならない。本人が死亡した場合、行為能力がなくなった場合、または15歳未満の場合に、本人の父、母、配偶者、成人になった子供、またはその者の代理人の承諾を得なければならない。管轄機関および組織の決定に基づいて情報または資料を収集し、または公表する場合を除く。

    3.  個人の手紙、電話、電信その他の電子情報は、安全性と秘密性を確保される。法律に規定された権限を有する国家機関の決定がある場合は、手紙、電話、電信その他個人の電子情報を検査することができる。

    39条 結婚する権利(省略)

    40条 夫婦の平等についての権利(省略)

    41条 家族によって監護を受ける権利(省略)

    42条 離婚する権利(省略)

    43条 父母と子の関係を承認し、または否認する権利(省略)

    44条 養子縁組を成立させる権利と、養子になる権利(省略)

    45条 国籍についての権利(省略)

    46条 居住を侵害されない権利(省略)

    47条 移動と居住の自由に関する権利(省略)

    48条 信仰と宗教の自由に関する権利(省略)

    49条 労働の権利(省略)

    50条 営業の自由の権利(省略)

    51条 研究活動と創造の自由の権利

    1.  個人は、技術学術の研究、発明、造形、考案、生産の合理化、創作、文学学術の論評、その他の研究、創作活動に自由に参加する権利を有する。

    2.  研究、創造を自由に行う権利は、尊重され、法律により保護される。個人の研究、創造を自由に行う権利を妨げ、または制限してはならない。




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