などから、個々の権利者が自ら権利行使をすることは事実上不可能であり、個々の権利者に与えられた報酬請求権を有効に生かし、かつ権利者との報酬等の額に関する交渉等に係る権利者及び利用者双方の事務的負担を軽減するためには、これらの権利の行使について、指定団体等による行使を法律上義務付けることに異論はないと考える。 |
(複数団体の適否) |
したがって、制度の問題としては、指定団体等が独占的に権利行使をすることの適否、換言すれば複数の指定団体等の適否である。 複数団体による権利行使については、前述したようにこの分野の特殊性から、次のような問題がある。 |
ア | 私的録音録画補償金については、著作権法上、補償金の区分ごとに一つの団体を指定することになっており、また指定管理団体がある場合は権利者の意思にかかわらず強制的に権利を管理することになっているので、当該団体が全権利者に係る補償金を徴収することになっている。また、商業用レコードの二次使用料及び貸与報酬については、法律上は指定団体は一つに限ることになっていないので、指定団体は権利者からの委託があった場合にのみ権利行使できることになっているが、実際は非委託者の取り分も含め使用料を徴収し、非委託者からのクレームは指定団体が責任を持って対応するという慣行ができている。制度改正により、または別の団体の指定により複数団体による権利行使が可能となった場合は、指定(管理)団体は受託を受けた権利者の権利だけを行使することになるが、この場合、指定(管理)団体に権利を委託しない者の権利が有効に生かされず、かえって権利保護に欠ける制度になる可能性がある。 |
イ | 報酬等の額の算定については、現状では、例えば収入の一定率、レコード1枚当たりの金額、機器又は記録媒体1個当たりの金額など包括的に報酬等を決めざるを得ないので、交渉の煩雑さや報酬等の支払いの簡便さを考えれば、権利者・利用者双方にとって単一団体による行使が最も合理的・効率的である。 |
ウ | 報酬等の分配については、現状では、大量の著作物等が利用されていることから、サンプリング調査や他の利用形態における分配資料に基づき分配せざるを得ず、しかも関係権利者の数も膨大になることから、経費負担等の観点から、単一団体による分配が最も合理的・効率的である。 |
以上の点から、指定(管理)団体制度については、規制緩和政策等の観点から、複数団体による権利行使を認めるべきであるとの意見もあるが、複数団体を認めることの利点は乏しいと考えられ、権利の保護と権利処理の円滑化の両面から、現行の制度又は制度の運用を維持することが適当であると考える。 |
第8章 その他の集中管理に関する問題
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緩やかな規制を前提とし、集中管理団体の複数団体化の容認等の新しい集中管理制度の導入に伴い、今後重要となるであろう集中管理に関連する以下のいくつかの運用上の問題も含めて検討を行った。 |
1 著作権等の集中管理と権利情報の集中管理 |
(J-CIS構想) |
我が国では、前述したように現在関係者間で著作権権利情報集中システム(J-CIS)の構築に向けての検討が進められている。このJーCIS構想は、情報化の進展に対応した著作権問題について審議している著作権審議会マルチメディア小委員会が、平成5年11月に公表した第一次報告書ーマルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心としてーにおいて提言したものであり、円滑かつ簡便な権利処理のため、多様な分野の著作物にかかわる権利所在情報を統合し、それらの利用者に一つの窓口で提供するシステムである。また、この構想の実現については文化庁においても支援することとしており、平成7年度からは調査研究費を計上し、平成10年度からは科学技術庁とも連携して、構想の具体化について検討をしているところである。 |
(権利情報の集中提供化の推進) |
著作物等の利用が多様化しつつある現在、個別許諾方式による権利処理で対応可能な利用については、著作権等の集中管理による権利処理システムの整備だけでなく、一方で権利情報の集中提供化により、著作権等の個別管理がより有効に機能するような制度の整備も重要となっている。今後、ネットワークを通じた著作物等の流通において「権利認証機関」の位置付けが問題となると考えられるため、検討にあたっては、この動きにも留意しながら進めることが適切である。
また、集中管理制度の改正により、集中管理団体の複数化が認められると規制対象の集中管理かどうかにかかわらず、どの著作物が又はどの権利がどこの集中管理団体で管理されているのかを明らかにする必要がある。そうしないと、利用者は著作物を利用する場合、どの団体に利用の申込みをすればよいのか迷うことになる。制度の改正に当たって規制対象の集中管理団体に利用者等に対する管理著作物・著作権に関する情報提供を義務付けることとしたのは、利用者の便を図ることが理由の一つであるが、規制対象とならない非一任型の団体等についてもJ-CISに積極的に参加するよう働きかける必要がある。 |
2 文化目的、社会目的等の共通目的基金の創設 |
(我が国の法制及び実態) |
著作権法では、私的録音録画補償金制度に関し、指定管理団体は、徴収した私的録音録画補償金(第104条の第1項の機器等の購入の際の一括の支払いの場合に限る)の2割以内で政令で定める割合(現在は2割)に相当する額を「著作権及び著作隣接権の保護に関する事業並びに著作物の創作の振興及び普及に資する事業」のために支出することを義務付けている(第104条の8)。
これは、第104条の4第1項の一括の支払いの場合は、第30条第2項の利用行為ごとの徴収の場合と異なり、どの著作物等をどれだけ複製したかにかかわらず包括の一回の補償金で済み、しかも一回支払えば機器等が何年又は何回利用されてもそれ以上支払う必要がないこと、分配精度に限界があることなどから、全ての補償金を分配対象とするのは適当でなく、権利者全体の利益となるような事業に支出することにより、一種の間接的な分配を行うことが適切であるとの趣旨から設けられた規定である。
我が国の実態としては、私的録音補償金を徴収している(社)私的録音補償金管理協会が、前述の法律の定めに従い徴収額の20%を控除し共通目的基金として活用している。
この他、日本芸能実演家団体協議会においては、商業用レコードの二次使用料収入等の10%を控除し共通目的基金として、事業助成等に利用している実態がある。 |
(外国の法制及び実態) |
私的録音録画補償金の分野では我が国を始め、フランス、オーストリアなどいくつかの国は法律により補償金からの控除による共通目的事業を認めている。また、法律上の規定がない場合であっても、ドイツなどのように任意の拠出金として控除を行っている国もある。
法制の例としては、フランスでは、レコードの二次使用料のうち分配不能金額の50%を、また私的録音録画補償金のうち25%を創作援助活動、生の興行の普及及び芸術家養成活動に使用しなければならないことになっている(第321の9条)。
また、著作権協会国際連合(CISAC)で作成している演奏権管理協会間の相互管理標準契約書では、自己の会員の使用料から控除している場合に限り、外国団体への送金分から、協会が行う会員救済及び文化振興事業のために最大10%の控除が可能となっている。この制度を採用している団体としては、スペインのSGAE、スイスのSUISAなどがある。また、例えばイギリスのPRSは、会員の分配額から10%控除を行う一方で、外国団体への送金分については10%控除をしてくる団体への送金分に限り同率の控除を行い、会員の福利厚生事業の原資にしている。さらに、例えばフランスのSACEM、ドイツのGEMAについては会員の分配額に限り一定率の控除を行い文化事業等に使用している。 |
(共通目的基金のあり方) |
共通目的基金の問題に言及する前に、著作権等は私権であるので、集中管理団体の徴収した使用料は、管理手数料を控除した後、合理的な分配方法により個々の委託者に分配されるのが原則であることを、まず確認する必要がある。
それを前提にして、分配されるべき金額からの一定額を控除し共通目的基金を創設することについては、次の2つの原則が遵守される必要があると考える。 |