デジタル・ネットワーク社会と著作権

    (半田正夫 著)

    Q1今の社会はデジタル・ネットワーク社会といわれていますが、どのような意味でそのようにいわれているのでしょうか。また、どのような特徴をもっているのでしょうか。

    A1最近のデジタル技術の発達により、コンピュータは従来の単なる演算機器から情報機器へと大きく変身するにいたりました。多種多様な情報がデータとしてコンピュータに取り込まれ、これがそのまま、あるいは加工されて利用されていますが、とくに通信技術の急激な進展により世界中のコンピュータがネットワークによって繋がるようになり、われわれは居ながらにして世界中の情報を瞬時に得ることができるようになりました。このような情報革命の現代を総称してデジタル・ネットワーク社会と呼ばれるようになっています。
    それでは、デジタル・ネットワーク社会はどのような特徴をもっているでしょうか。

    第1に、文字、音声、静止画、動画といった、従来のアナログ時代においてはそれぞれ別個独立の情報メディアとされていたものが、デジタル信号に置換されることによって同レベルの情報として1つのメディアに統合されることになったという点です。
    このことは、著作権法の領域においても重要で、これまで言語著作物、音楽著作物、写真著作物、映画著作物などはそれぞれ別個独立の著作物として、保護の対応の仕方も別個に扱われていましたが、デジタル信号に置換されることによってこれらの枠組みが取り払われ、新たに単一の著作物が成立することを意味するものであり、これをどのように著作権法上扱うかが問題となります。

    第2に、従来のソフトのような情報提供者による一方的な情報の伝達ではなく、ソフトの利用者が情報にアクセスして、その情報を自由に編集・加工できるといったインタラクティブ性を有しているという点にあります。著作物の利用でこれまで重要であったのは複製、貸与、放送といった著作物のそのままの形での利用でしたが、デジタル・ソフトになると、このほかに利用者による加工が重要な地位を占め、ソフトが簡単に変形されて著作物の同一性の識別が困難になってくることが予想され、著作者の利益をどのように保護したらいいかが問題となってきます。

    第3に、デジタル方式の複製技術の進展により、原物と全く異ならない複製物が簡単に作成できるという点にあります。すでにCD-RやDVD-RWが登場し、技術的にはCDやDVDに入力されているソフトと寸分違わぬクローンの製作が容易になっており、膨大な情報を蓄積しているこれらのソフトが簡単にコピーされることによって、ソフト製作者の利益が大幅に阻害されることになっています。これをどのようにして防ぐかが今後重要となることでしょう。

    第4に、コンピュータに取り込まれた情報がアップロードされることによりインターネットを通じて世界中に拡散される可能性をもっているということです。これは著作権の保護が一国の問題にとどまらず、国際的な視野で考えなければならないことを示しているといえましょう。

    以上の問題については、これまでも文化庁を中心に著作権法の改正などさまざまな対応をしてきておりますが、今後技術の進展とともにこの傾向がさらに加速されるものと考えられます。

    Q2ソフトウェアの製作を外部業者に委託した場合に、その著作権は誰が取得するのでしょうか。

    A2ソフトウェアの製作を外部業者に委託するケースはよく見られることですが、そもそも、その著作権は委託者、受託者のどちらに帰属するのでしょうか。

    著作権が発生するためには法的手続きは一切不要で、著作者が著作物を創作すると同時に発生します(無方式主義)。したがって著作者=著作権者となるのが原則です。この点で 著作権は、知的財産権のなかでも発明などのような、権利が発生するためには法で定める 一定の手続きが必要な場合とは異なります。このことが十分に理解されていないため、往々にして混乱が生じているようです。

    つまり、著作物を創作した者(著作者)が著作権者になる訳ですから、単に製作の場を提 供したとか、資金を提供したとかに過ぎない者は著作権者とはならず、設問のように、A社がソフトウェアの製作を外部業者B社に委託し、製作費を提供したとしても、それだけではA社は著作権を取得することはできません。また、依頼を受けたB社が社員bに命じてソフトウェアを製作したとすると、社員bが職務上製作したものとしてソフトウェアの著作権はB社に帰属することになります(職務著作、著作権法第15条)。

    したがって、もしA社が著作権を取得したいと考えるなら、B社にソフトウェアの製作を依頼する際に、どちらに著作権が帰属するのかを契約書等で明確にしておくことが必要です。

    なお、契約によってA社が譲り受けることのできる権利は財産権としての著作権(著作権法第21条~28条)に限られ、一身専属権としての性質をもっている著作者人格権(著作権法第18条~20条)が含まれていないのはもちろんです。
    もっとも著作者人格権の中でも公表権(著作権法第18条)については、著作権をA社に譲渡することによって、B社はA社による公表について同意したものと推定されているので(著作権法第18条2項1号)、B社がこの権利を行使することは実際上できなくなりますが、同一性保持権(著作権法第20条)はいぜん行使することができます。

    では、A社が著作権のみならず著作者人格権をも手中に収めたいと考える場合にはどう すればよいのでしょうか。Q4で述べるように、著作権法第15条の職務著作に関する要件を満たす著作物についてはその法人が著作者になりますから、B社の社員bが一時的にA社に出向し、A社の指揮・命令にしたがって職務上製作すれば、完成したソフトウェアの著作権のみならず著作者人格権も、A社に帰属することになるものと思われます。

    Q3複数の人が一緒になってソフトを作成したとすると、その著作権はどうなるのでしょうか。

    A3著作物の作成に複数の人が関与する場合としては、次の2つが考えられます。
    1つ目は、外観上は1個の著作物のように見えるけれども、その作品全体の創作に関しては共同行為はみられず、それぞれ独立した著作物が単に結合しているに過ぎないというケースです。たとえば、作詞家Aと作曲家Bによって作られた歌謡曲、挿絵画家Cと小説家Dによって作られた挿絵入りの新聞小説などがこれに当たります。このような著作物を一般に結合著作物といいます。これらの場合は、それぞれが独立の著作物であるため、著作者が単独の場合と何ら異なるところはありません。

    したがって、Aの作った詞はAのみが著作権を持ち、同様にBの作った曲はBのみが著作権を持っているので、詞のみを使用して歌詞カードを作りたいと考えている人はAの許諾を受けていればよく、Aが死亡して50年が経過すれば――たとえBの死後50年が経過していなくとも――歌詞カードを作ることは自由ということになります。

    2つ目は、2人以上の人が共同して創作に従事し、その結果として各人の寄与した部分を分離して個別に利用することができない単一の著作物が作成されるというケースです。複数人による大型のプログラムの開発など、デジタル・ソフトの多くはこれに当たると思われます。このような著作物を一般に共同著作物(著作権法第2条1項12号)といい、著作者を共同著作者といいます。この場合は、著作権は全員で1個しか存在しておりません。したがって、ABC3人が創作に関与して1つの著作物が完成したという場合において、この著作物を複製して利用したいと考えているDはABC全員の許諾を得なければならず、ABの許諾を得たがCの拒否にあったというときは、これを利用できないことになります。もっとも、著作権法は著作物の円滑な利用を図るため、Cは正当な理由なく同意を拒めないとして、この不都合さを回避しています(著作権法第65条3項)。

    なお、保護期間は原則どおり著作者の死後50年ですが、共同著作物の場合は著作者の死亡時期がまちまちであるため、最後に死亡した者の死亡の時から50年経過した時点で消滅することとしています(著作権法第51条2項)。

    Q4会社の命令でソフトを職務上作成しましたが、その著作権は誰のものとなるのでしょうか。

    A4会社の社員であるエンジニアが社命によりソフトを作成したとき、その著作権は作成したエンジニアのものとなるのか、あるいは会社のものとなるのかが問題となります。原則論からいえば、実際にソフトを作成したエンジニアが著作者であり、著作権者となるはずですが、エンジニアは会社から給料をもらい、その仕事の一環としてソフトを作成するもので、比喩的にいえばエンジニアは会社の手足として活動するに過ぎないという見方もできなくはなく、そのように考えると会社が著作者であり、著作権者であるとすることも可能ということになります。

    このように考え方としては2通りありますが、著作権法は、著作物を利用するのは一般に会社であるのに社員を著作者とすると法律関係が複雑になり、著作物の利用が困難になるとの理由により、一定の条件を満たした著作物については会社などの法人が著作者であり、著作権者であるとしました。その条件とは、

    1. 法人その他の使用者(以下、法人等という)の発意に基づき、法人等の業務に従事する者が職務上作成するものであること、
    2. 法人等が自己の著作名義の下に公表するものであること、
    3. 作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めのないこと、

    の3つです(著作権法第15条1項)。したがって、この3つの条件を満たす著作物は、すべて法人などの使用者が著作者として扱われ、著作権はもとより著作者人格権もまた法人等に帰属することになります。

    しかし、著作物のなかでもコンピュータ・プログラムの場合には会社のトップシークレットとして公表をまったく予定せず、そのためにプログラムのどこにも会社が著作者である旨を記載しないことが多いのですが、これでは上に述べた(2)の条件を満たさないものとして会社は著作者ではないということになってしまいます。そこで1985年の著作権法の改正により、コンピュータ・プログラムについてのみ(2)の条件を外すことにしました。したがって現在ではコンピュータ・プログラムについては会社が著作者である旨の表示がなくても会社が著作者であり、著作権者であることになりました。もっともこれは本来、公表を予定していないプログラム著作物を念頭に置いた規定ですから、CD-ROMなどで発売されるプログラムのように公表を予定しているものについては、ほかの人に誤解を与えないよう会社が著作者である旨を表示しておくことが望ましいといえましょう。

    Q5デジタル・ソフトを個人で使うためにコピーすることは許されるのでしょうか。

    A5音楽放送を家庭で録音したり、勉強のために文献をコピーしたりする場合のように、著作物を個人的にまたは家庭内や少数の友人間などで使うために複製する行為については、著作権者の許諾を必要としません(著作権法第30条1項柱書)。明治時代に作られた旧著作権法においても同様の規定が置かれておりましたが、そこでは「器械的又ハ化学的方法ニ依ラズシテ」というように複製手段に条件が付けられていたため、手書きによる複製は認められていましたが録音機や複写機などによる複製は認められていませんでした。しかし、これでは複製技術が進んだ現状には適合しないため、1970年に制定された新しい著作権法は、使用者本人が複製するかぎり複製の方法いかんを問わないことにしました。

    しかしながら、この規定はデジタル技術登場前に設けられたものであることに注意する必要があります。アナログ技術による複製の場合は、複製物は本物よりも質が落ちることから、私的使用など限られた場合に複製の自由を認めたところで権利者の利益がそれほど害されることはないとの判断に基づいて、無許諾での複製が許されたものです。

    ところが、デジタル・ソフトの場合では複製が簡単な操作で可能になるうえ、品質においても劣化することのないクローンが誕生するのですから、権利者としては到底承服しがたいところかと思われます。もちろん法もいたずらに手をこまねいていたわけではありません。何度かの法改正によって、私的複製の自由の原則にいくつかの例外を定めております。それは次のとおりです。

    その1は、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いての複製の場合は、たとえ私的使用のための複製であっても権利者の許諾が必要です(著作権法第30条1項1号)。レンタルレコード店の店頭などに設置されている高速ダビング機を利用しての複製などがこれに当たります。ただし、コンビニ店などに設置されている文献複写機を用いての複製については、当分の間、権利者の許諾は必要ないものとされています(附則第5条の2)。

    その2は、電磁的にコピー・プロテクションのかけられている著作物について、その信号を除去または改変によってプロテクションを解除して、これによって可能となった複製を悪意で行う場合には、たとえそれが私的使用の目的であっても複製権の侵害となります(著作権法第30条1項2号)。

    その3は、音楽や映画の著作物について自動公衆送信権を侵害する違法な配信が行われている場合に、その事実を知りながらダウンロードする行為は、それが私的使用のためであっても権利者の許諾が必要となります(著作権法第30条1項3号)。インターネットの普及によって、携帯電話向けの違法配信サイトやファイル交換ソフトなどを利用することにより、違法に配信されている音楽や映画をダウンロードする行為が多発し、正規の市場が侵されて権利者の利益が失われることを防ぐ趣旨で、2009年の法改正によって追加されました。さらに、2012年の法改正によって罰則が科せられることになりました。この点については、Q13 を参照してください。

    その4は、映画館などで映画を盗撮する行為は、たとえそれが私的使用のためであったとしても権利侵害として扱われます(映画盗撮防止法第4条)。盗撮者が販売目的であるにもかかわらず、私的使用目的であると言い逃れを図るのを防止する目的で立法化されたものです。

    なお、このほか、1992年の法改正では、私的録音録画補償金制度を設け、デジタル方式の録音機器と録画機器およびこれらの機器に使用される記録媒体(磁気テープ、光磁気ディスク、光ディスク)については、これの購入の時点で権利者に支払われる一定の補償金が販売価格の中に組み込まれることになり(著作権法第30条2項)、権利者の利益が不当に害されないような配慮を行っています。この「私的録音録画補償金制度」については、「ケーススタディ著作権第2集 私的録音録画と著作権」に詳しく解説されています。

    Q6プログラムのバックアップ・コピーをとることは複製権の侵害となるのでしょうか。

    A6最近はあまりみられなくなりましたが、かつてはコンピュータの誤作動や電源の瞬断などによって高価なプログラムが破壊されることがよくありました。そこで利用者はこれに備えてバックアップ・コピーをとることが一般化しているのが現状です。本来であればこれも、著作権者に無断で行えば複製権の侵害となるはずです。もっとも私的使用のための複製に該当すればQ5で述べたようにその自由が保障されているといえます。しかし、企業が購入したプログラムについて、社員がバックアップ・コピーをとるなどの行為は私的使用のための複製とは認められていませんから、別の法的な手当てが必要となります。

    そこで著作権法第47条の3は、「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製……をすることができる。」と規定し、無断複製を許容しています。プログラムの購入の際の契約ではバックアップ・コピーをとっても差し支えない旨の権利者の意思表示がマニュアルその他に明記されているケースが多いのですが、その場合はもちろんのこと、そのような明記がされていない場合であってもバックアップ目的でのコピーは自由に行って差し支えありません。

    ただ許されるのは、バックアップ用であるところから1部のコピーに限られるのは当然で、会社が多数の社員のために社員の数だけコピーをとることは権利者の利益を不当に害することになるので許されないのはいうまでもありません。このことは、法文上、「電子計算機において利用するために必要と認められる限度」と書かれているところからも明らかといえましょう。

    Q7公共図書館で利用者の求めに応じてCDやCD-ROMなどの資料をコピーすることはできるのでしょうか。

    A7図書館では収集する資料がこれまでの書籍、雑誌、新聞、レコードなどに加え、最近ではCD、CD-ROMなどのデジタル・ソフトがしだいにウエイトを占めるようになってきました。著作権法は図書館利用者のニーズに応えるために一定の条件のもとでコピーサービスを許し、複製権の侵害とはならないものとしています。その条件とは、

    1. 公共図書館その他で政令で定める施設での複製であること、
    2. その図書館に所蔵する図書資料の複製に限られること、
    3. 利用者の調査研究のための複製であること、
    4. 複製の範囲は公表された著作物の一部分に限られること、
    5. 複製の部数は1人につき1部であること、

    となっています(著作権法第31条1号)。

    このうち(1)の政令で定める施設としては、国会図書館、都道府県立図書館、市町村立図書館、大学または高等専門学校の付属図書館のほか、国立美術館、国立科学博物館、経団連図書館などが認められていますが、企業内の図書館はこれに含まれていないので注意が肝要です。また(4)については、発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の論文については、その全部の複製も認められています。

    CDやCD-ROMの場合も法文上は、上記の(1)~(5)の条件を充たす限り現行法上そのコピーが可能ということになります。ただ、この条文ができた当時はCDやCD-ROMなどのデジタル著作物が図書館に保存されるということはまったく予想されていなかったことを考えると、はたしてそれでよいのか疑問なしとしません。法の手当てがなされるまでの間、図書館としては上述の条件によって許されているコピーはあくまで文献のコピーに限られるのであると解し、CDやCD-ROMをデジタルコピーすることは慎むべきものと思われます。

    ところで、コピーサービスで最近問題となっているのは、図書館が依頼者の求めに応じてファックスによるコピーサービスを行うことができるかについてです。ファックスによる送信は著作権者に認められている公衆送信権等(著作権法第23条1項)に触れることになるので、著作権者から有線送信の許諾を受けなければコピーを送ることはできないのではないかといった疑問が生ずるからです。

    この問題についてはいまだ本格的な検討がなされておりませんが、著作権法の規定を厳格に解するならば、図書館に許されているのはコピーサービスに過ぎず、公衆送信権の適用除外についてはまったく触れられていないのであるから、現在の段階ではこのような送信サービスを著作権者に無断で行うことはできないと考えるべきでしょう。

    しかし、利用者が図書館まで足を運べばコピーサービスが受けられるのに、ファックスによるサービスを受けられないというのでは一般には納得されないでしょうし、遠隔地に住む人や足の不自由な人にコピーサービスのチャンスを閉ざすこととなって妥当でないように思われます。立法時にはまったく予想されなかった現在のファックスの発達・普及を考えるとき、この点についての法の改正が望まれるところといえましょう。

    Q8公共図書館で図書資料をデジタル化する際にどのような問題が生ずるでしょうか。

    A8公共図書館では「図書館資料の保存のため必要がある場合」に著作権者の許諾を要することなく著作物の複製をすることができます(著作権法第31条1項2号)。デジタル化することも複製に該当しますので、「保存のために必要な場合」に該当する限りデジタル化することは差し支えないでしょう。ただ、ここにいう「保存のために必要な場合」については一般にかなり限定的に捉えられており、収蔵スペースの関係でマイクロ・フィルムやマイクロ・フィッシュなどに縮小して保存する場合には原資料を廃棄することを条件として許されると解されているところからすれば、原資料をデジタル化と同時に廃棄処分すれば自由に行っても差し支えないが、原資料を保存しながらデジタル化する場合には著作権者から複製の許諾を得なければならないでしょう。

    デジタル化する際に注意しなければならないのは、スキャナーでイメージ入力する場合であればともかく、文字をいちいちデジタル信号に置き換えて入力する場合には、文字コードの関係からオリジナルテキストを完全な形でデジタル化できないという技術上の制約があるため、同一性保持権との関係で問題が生じないかという点です(著作権法第20条1項)。もっとも同一性保持権は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」には働かないとされていますので(著作権法第20条2項4号)、技術上の制約によりオリジナルテキストの完全なデジタル化が不可能であるというのであれば、同一性保持権が働かないと解する余地はありますが、そのためには技術的に不可能であることの立証が必要となりましょう。著作者によっては、意図的にJIS規格第一水準、第二水準に準拠した機器では打ち出すことのできない難解な漢字を使用したり、あえて仮名文字しか使用しなかったり、極端な例になると、見た目の美しさに凝るあまり、見開き2頁に漢字が適当なばらつきで入るよう苦心して原稿を作成する者もあると聞いていいますので、デジタル化にあたっては慎重な配慮が望まれるところといえましょう。

    ところで、図書館のネットワーク化の試みが各所で進められていると聞いています。これはデジタル化された図書館資料をオンラインによって直ちに他の図書館で入手できるようにするもので、各図書館にとっては資料収集のための経費節減と資料保管スペースの縮減につながるうえ、利用者にとっても必要な資料を簡単に入手できるという利点があり、今後おおいに発展が期待されます。ただ著作権法との関連でみると、少なくとも現行法上は権利処理を必要とするケースがありますので注意が肝要です。まず、図書館資料の複製物を他の図書館に提供する場合について、法は「絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合」に限り著作物の無許諾複製を許していますので(著作権法第31条1項3号)、入手が容易な資料については権利者の許諾が必要です。また利用者がオンラインで著作物の複製物を送信してもらう場合には公衆送信権が働きますので、この点の処理も必要といえましょう。

    なお、2009年の著作権法の一部改正により、国立国会図書館に限り所蔵資料を、納本後ただちにデジタル化(複製)できることとなりました(著作権法第31条2項)。

    Q9学校などの教育機関において、教育目的で既存の著作物をデジタル化する場合や、パソコンのアプリケーションソフトを使用する場合の注意点について教えてください。

    A9著作物をデジタル化する場合、その行為は複製に当たりますので、著作権者から複製の許諾を受けなければならないのが原則です。しかし著作権法第35条1項では、「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。」と規定しており、この範囲内であれば自由にデジタル化することができると考えて差し支えありません。

    ただし、同条ただし書では、「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」としていますので、デジタル化した複製部数のいかんによっては複製の許諾を受けなければならないことがあります。もっとも生徒が40~50名程度で同規模のパソコンにデジタル化する場合であれば、権利者の利益が不当に害されるおそれはないと見ることができ、但書の適用はないといって差し支えないでしょう。

    なお、授業を担任する教師自身ではなく、第三者に依頼してデジタル化する場合や、予備校やカルチャースクールなど営利目的の教育機関内でのデジタル化については、同条の適用は受けず複製の許諾が必要ですので注意してください。

    また、教育機関で使用するパソコンにアプリケーションソフトをインストール(複製)する場合、ソフトメーカーとの使用契約に指定された使用条件(パソコン台数、使用期間など)の範囲内でのインストールは何ら問題にはなりませんが、その範囲を超えてインストールすることはできません。

    さらに、教室内の複数のパソコンをネットワーク化し、同一プログラムを使用して授業を行う場合、現在では公衆送信権(著作権法第23条)の処理が必要です。

    以上のとおり、教育機関内でのデジタル化、あるいは、教育目的でのデジタル化といえども、すべてのケースにおいて権利者に無断で複製行為を行うことができる訳ではありません。あくまでも「著作権者の利益を不当に害しない範囲」で行う場合に限られており、教育現場での著作権に対するさらなる規範意識が求められています。

    なお、学校などの教育機関における著作物の利用については、「ケーススタディ著作権第1集 学校教育と著作権」に詳しく解説されています。

    Q10ホームぺージやブログは著作権で保護されるのでしょうか。

    A10デジタル・ネットワーク化の時代を迎え、インターネットによって情報を伝達するために企業や個人レベルでもホームぺージやブログを立ち上げる例が多くなってきました。本来ホームぺージとは、インターネットの情報発信システムWWWで最初に表示される画面のことをいい、いわば雑誌の表紙に当たる部分を指しますが、実際にはもっと広く、このホームぺージに続く一連のファイルすべてを含む言葉として理解されているようです。またブログとは、自分の書いた日記や雑文などをインターネットを通して公開できるサービスをいい、作成はホームページに比べるとはるかに簡単です。ホームページもブログもウェブサイトの一種です。

    ところで、ホームページやブログはテキストファイルで構成されている単純なものから、写真、動画などの画像データや音声を含むさまざまなものまで多種多様です。これらが著作物として著作権法による保護を受けるかについてですが、結論から先に言えば、少なくともその表現に創作性があれば著作物として保護されると考えてよいでしょう。確かに著作権法第10条1項に定められている著作物の具体的例示の中には入っていませんが、これは同法の立法当時にはホームページのようなデジタル創作物の登場はまったく予期されていなかったのですから、いわば当然といえましょう。同法の第2条1項1号には、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物として定義しているので、これに該当する限りホームページを著作物とみることは一向に差し支えありません。

    これに似たことはこれまでにもありました。コンピュータ・プログラムが登場した頃、これの無断複製が多発したことがありますが、裁判所は同法の第10条1項にコンピュータ・プログラムが例示されていなかったにもかかわらず、これを著作物として認めプログラムの創作者を保護しました。そして、これがきっかけとなって1985年の著作権法改正でプログラム著作物が明記されるにいたったという経緯があります(同第10条1項9号)ので、ホームページやブログも同様と考えてよいと思います。したがって他人の作ったサイトからその全部または一部抜き出して利用すれば複製権や公衆送信権の侵害に当たると考えます。

    ホームページを作成する行為は個人レベルでも可能ですが、複雑かつ高度なものになると外注に出すことも多いと思います。この場合にはホームページの著作権帰属について明確にしておくことが必要であるのは当然ですが、そこに盛り込む情報について他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないようホームページ作成者の注意を喚起するなど慎重な配慮をすることが望ましいといえましょう。

    Q11ホームぺージやブログを作成するにあたり、他人の著作物を利用したいのですが、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

    A11ホームページやブログを作成するに当たって他人の著作物(文章、写真、絵画など)を取り込むことがあります。この場合には電子信号によってパソコンのハードディスクやフロッピーなどに複製することになるので複製権の処理が必要になります。

    私的使用のための複製は自由であるという趣旨の規定がありますので(著作権法第30条)、みずからの趣味としてホームページなどを作成する場合には複製権の処理が必要ないように見受けますが、ホームページやブログは不特定多数の人からのアクセスが可能であり、またそれを予期して作成するものであるところから、「私的使用」の範疇を超えるものであって、権利者から複製の許諾をとらなければならないものと考えます。また、プロバイダーのサーバーにアップロードする際には送信可能化権が働きますのでこの処理も必要になります。
    以上が原則ですが、若干問題となる点がありますので、以下にそれを検討してみましょう。

    (a) 国・地方公共団体の作成した報告書の転載 著作権法第32条2項は、「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。」と規定しているので、「新聞紙、雑誌その他の刊行物」であれば自由に使ってもよいということにはなりますが、ホームページがはたして「刊行物」といえるかが問題となります。本来、刊行物とは出版物を指す言葉として使われておりますので、厳密にいえばこれに該当するとみることはできないということになります。しかし、国・地方公共団体等が作成した資料はその内容を国民一般に広く知らせることを目的として作成されたものですから、ホームページに転載して利用されることは、むしろ作成の目的に合致するものと解されます。このように見ていきますと、これらの転載には許諾を必要としないと考えてよいと思われます。

    (b) 引用 他人の著作物の一部分を引用することは、それが「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」である限り、権利者の許諾を必要としません(著作権法第32条1項)。しかし、「公正な慣行」とは何か、「正当な範囲内」とは分量的にはどの程度まで許されるのか、については明確ではなく、すべて判例に任されているといってよいでしょう。かつて山岳写真の一部分がカットされそこにスノータイヤの写真が合成されて問題となった事件において、最高裁は、「引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない」と判示しているので、 (1)自分の著作物と引用する他人の著作物との間に1行空けるとか、他人の著作物にカギカッコをつけるなどして、自他の著作物を明確に識別できるようにすること、 (2)自分の著作物が主で、引用する他人の著作物が従の関係にあること、が必要であると考えられます。特に(2)については、主従の関係は量的にだけでなく、質的にもそのような関係が存在することが要求されているとみるべきでしょう。なお、引用には出所の明示が必要であることに注意してください(著作権法第48条1項)。

    Q12無断でリンクを張ることは著作権侵害となるでしょうか。

    A12 リンクとはホームページをほかのホームページに結び付ける機能をいい、ホームページに飛び先を書き込んで、それをクリックするだけで目指すホームページにジャンプできるようにすることを「リンクを張る」という言い方をします。リンクを張ることにより、他人のホームページにある著作物に容易にアクセスすることができるだけに著作権侵害とはならないかが問題となります。

    結論を先にいえば、リンクを張ることは、単に別のホームページに行けること、そしてそのホームページの中にある情報にたどり着けることを指示するに止まり、その情報をみずから複製したり送信したりするわけではないので、著作権侵害とはならないというべきでしょう。

    「リンクを張る際には当方に申し出てください」とか、「リンクを張るには当方の許諾が必要です」などの文言が付されている場合がありますが、このような文言は道義的にはともかく、法律的には意味のないものと考えて差し支えありません。ホームページに情報を載せるということは、その情報がネットワークによって世界中に伝達されることを意味しており、そのことはホームページの作成者自身覚悟しているとみるべきだからです。リンクを張られて困るような情報ははじめからホームページには載せるべきではなく、また載せる場合であっても、ある特定の人に対してのみ知らせようと考えているときは、ロック装置を施してパスワードを入力しなければ見られないようにしておけばよいだけのことではないでしょうか。

    もっとも、クリックすることにより、他人のホームページ上の情報が自分のホームページのフレームの中に取り込まれるという形式のものであれば、話は別です。このような場合、自分のホームページの中に他人の情報を複製することになるので、複製権の処理が必要になってくるように思われますし、また取り込む情報が一部分であるならば不要な部分をカットしたということで同一性保持権(著作権法第20条)も働く可能性があるからです。

    Q13ファイル交換ソフや動画投稿サイトをト利用するにあたって、気をつけなければならない点は何ですか。

    A13ファイル交換ソフトとは、P2P(Peer to Peer)技術等を用いて、インターネットを介して不特定多数のユーザー同士が音楽や映像作品などを共有することを目的としたソフトウェアのことで、現在では複数間でのやり取りが可能になっていることから「ファイル共有ソフト」とも言われています。代表的なソフトとしては、Napster(1999年公開)やGnutella(2000年公開)、日本製のソフトではWinny(2002年公開)やShare(2003年公開)等があります。

    また、動画投稿サイトとは、インターネット上のサーバーに不特定多数のユーザーが投稿した動画ファイルを不特定多数のユーザーで共有し視聴できるもので、世界的に有名な動画投稿サイトとしてYou Tube等が挙げられます。

    デジタル化、ネットワーク化の普及やインターネットのブロードバンド化が急速に進展したことに起因して、既存のテレビ番組や映画・音楽作品などのファイル交換ソフトによる違法利用や動画投稿サイトへの違法アップロードが増え、適法に行われている配信ビジネスの市場規模を大幅に上回っているとの指摘もなされています。

    ここでは、ファイル交換ソフトや動画投稿サイトを利用するにあたって、著作物をアップロードする際の問題点と、著作物をダウンロードする際の問題点を解説します。

    <1>著作物をアップロードする場合著作物を公衆に直接受信させることを目的として、権利者に無断でインターネット上にアップロードする行為は、複製権の侵害(著作権法第49条1項1号)、送信可能化権の侵害(著作権法第23条1項)、および第三者が共有フォルダにアクセスして実際に著作物をダウンロードした場合には自動公衆送信権の侵害(同条)、となります。
    ネットワーク・テクノロジー自体が非常に秘匿性が高く、かつ、一般家庭に普及しているパソコンで簡単に、しかも大量に違法配信を行うことが可能になっている現代社会において、単に違法配信者への対策を講じるだけでは抜本的な解決に至らないことからも、次の②で説明する違法受信者への対策も講じられています。
    なお、Napsterのようにファイル交換ソフトを提供したうえで、ユーザーの情報探索のためにサーバーを設置するといったサービス提供者に対しては、みずから送信行為を行わなくてもサービス提供者の管理のもとに行われていることを根拠に、送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体者であると認定した司法判断もありますので注意が肝要です。

    <2>著作物をダウンロードする場合 ファイル交換ソフトや動画投稿サイトを利用して、音楽や映像作品などをダウンロードする行為は著作物の複製(著作権法第21条)に該当します。一般に著作権の制限規定により、自分だけが楽しむ目的でダウンロード(複製)した場合は、「私的使用のための複製」として複製権の侵害にはなりませんが(著作権法第30条1項)、2009年の著作権法の一部改正により、私的使用のための複製の範囲の見直しが行われ、違法著作物であることを知りながら、そのファイルをダウンロードして行うデジタル方式の録音や録画も、複製権の侵害となりました(著作権法第30条1項3号)。

    これによって、権利者は損害賠償請求などの民事上の救済を受けることができるようになりましたが、加害者に罰則の適用がなかったために違法配信による被害の減少にはつながらなかったようです。そこで、権利者側の強い要請によって2012年の法改正では、違法ダウンロードを行った者に対して2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれが併科されることになりました(著作権法第119条3項)ので注意が肝要です。

    Q14インターネットオークションやインターネットを利用した通信販売において、違法な著作物流通を抑止するため、新たな著作権法の改正がなされたと聞きましたが、どのような内容でしょうか。

    A14近年のデジタル化・ネットワーク化の急速な進展とともに、インターネットを利用したオークション・サイトやインターネット通販サイトが盛んに立ち上げられており、既存のいわゆる対面販売にも肉迫するほどの勢いで、市場規模が拡大しています。また、このような商取引の現場は非常に匿名性が高いことから、著作権等の権利を侵害する海賊版が数多く取り引きされていると言われています。

    著作権法では、従来から、権利を侵害している音楽・映像等の著作物を、その事実を知りながら「頒布」する行為、並びに、「頒布する目的をもって所持」する行為を著作権侵害とみなしてきました(著作権法第113条)。ここで「頒布する目的をもって所持」する行為までも著作権侵害としている理由は、頒布行為について相手方を特定して立証することが困難であるからです。

    しかしながら、前述のとおり頒布目的での所持や実際の引渡しが行なわれる現場など、物理的な頒布行為の状況を把握することがなかなか出来ないこともあり、従来の法体系のままでは、権利者に対して救済措置を講じる法的手段としての差止請求権(著作権法第112条)の行使もままならないのが実状でした。

    そこで、2009年の著作権法の一部改正において、違法な著作物の流通を抑止するための措置として、違法著作物であることを知りながら「頒布の申出を行なう」行為についても、新たに著作権を侵害する行為とみなされることになりました(著作権法第113条1項2号)。

    なお、「頒布の申出」には、オークションに違法著作物を出品する、あるいは、通信販売サイトで違法著作物の販売を告知する行為だけでなく、カタログやチラシの配付等により違法な著作物の販売を告知する行為も含まれています。

    今回の法改正により、頒布する旨の申出をおこなう行為そのものが著作権違反となることから、例えば、オークション・サイトを開設している主催者にも、法的責任が追及される可能性があります(罰則あり)ので注意が必要になります。

    さらに説明を加えるならば、違法な著作物の流通を撲滅するためには、インターネット上で取引される商品の提供者に対して上記のような法的な対策を強化することが緊急かつ重要であると同時に、海賊版であることを知りながら商品を購入している一般消費者に対しても、著作権を尊重する意識の向上や社会的合意形成が強く求められています。

    Q15フリーウェアは著作権を放棄したものと考えてよいのでしょうか。

    A15インターネットで入手できるソフトには無償のもの(フリーウェア)と有償のもの(シェアウェア)とがあります。後者についてはソフトを作成・提供する者が著作権をもっていることは明らかですが、前者については無償であるということで権利者が権利を放棄したと考えてよいかが問題となります。

    無償で提供するということは、ユーザーが入手したソフトをいかに複製しようと、またいかに使用しようと権利者はクレームをつけない趣旨と考えられますので、一見、著作権を放棄したかのように思えます。しかし、そのように考えるべきではありません。

    フリーウェアを提供するソフト作成者の意図としては、無償とすることによってこのソフトを広く普及・伝播させ、費用の回収および収益の獲得はバージョン・アップの際に有償にしようと図ろうとしている場合もあると考えられます。またバージョン・アップされたソフトは通常、もとのソフトの二次的著作物と考えられますので、たとえば、Aの作成したソフトがフリーウェアとして公表されたときにその時点で著作権が放棄されたものとして扱われますと、AのソフトをもとにBによって作成されたバージョン・アップ・ソフトが利用された場合に、Aは原著作物の著作権者としてこれにクレームをつけたり、使用料を請求したりすることが全くできなくなるという不利益を受けることとなります。Aはこのような、いわば自分の首を締める結果となることを自ら容認するはずがないと思われます。

    したがって、フリーウェアはその作成者が著作権を放棄したものではなく、権利はいぜん持っているが、ただその行使を控えているだけだとみるのが、作成者の意図に叶った妥当な考え方ということができましょう。

    Q16インターネットを活用した各種サービスを行うにあたって、著作権法上の権利制限が拡大したと聞きましたが、どのような内容でしょうか。

    A16現在では、音楽や映像作品を初めとするデジタル化されたさまざまな著作物がインターネットの世界で流通されています。

    一方で、これまでの著作権法においては、インターネット等を通じて著作物を利用する場合の権利制限(権利者の許諾を受けなくても、著作物を自由に利用できる)規定が十分に整備されておらず、デジタル・コンテンツの流通が諸外国に比べて遅れているとの指摘もなされていました。

    そのため、インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置として、2009年と2012年の著作権法の一部改正において、いくつかの権利制限規定の見直しが行われました。

    ■インターネット情報の検索サービスを実施するための複製等
    これまで、インターネット上でいわゆる「情報検索サービス」を実施する過程の中で行われる、著作物の収集、整理、解析、表示等の行為が、著作権侵害に当たるのではないかと危惧され、他方、情報に含まれるすべての著作物の権利者から事前許諾を得ることも現実には困難であるとの指摘もなされていました。
    2009年の法改正により、情報検索サービスを行う者が、一定の条件(違法に送信可能化された著作物の存在を知った場合はその表示を停止する、権利者がインターネット上で情報収集を禁止する旨の意思表示を行っている場合は情報を収集しない、等)の下、当該サービスを提供するために必要な範囲内で送信可能化された著作物の複製や公衆送信等を行うことが認められました(著作権法第47条の6)。

    ■インターネット販売等での美術品等の画像の掲載
    インターネットオークション等で絵画や写真等を出品する場合、作品を紹介するためにその縮小した画像を掲載することが、複製権(著作権法第21条)や公衆送信権等(著作権法第23条)に抵触するとの指摘が一部ありました。
    2009年の法改正により、掲載する画像を一定の大きさ・精度にすること等を条件に、美術や写真の著作物の譲渡等の申出のために行う商品紹介用画像の複製や公衆送信を著作権者の許諾なく行うことができるようになりました(著作権法第47条の2)。

    ■送信の効率化等のための複製
    インターネットにおけるブロードバンド化が急速に進展している現在、より一層の送信の効率化や安定性を実現するため、次のような複製行為についての権利制限が認められました(著作権法第47条の5)。 (1) アクセスが集中することによる送信遅滞等を回避するための別のサーバーへの蓄積(ミラーリング) (2) サーバーの障害発生等に備えたバックアップ (3) 送信の中継の際にネットワーク上の負荷を分散させ、処理速度の向上を図るためのサーバーへの蓄積(キャッシング)

    ■コンピュータ等による情報解析のための複製
    現代のような情報化社会においては、膨大な情報の中から必要とする情報だけを抽出して解析することの重要性が求められています。そして、この技術をさらに進展させるために、著作物の利用をもっと円滑化すべきとの指摘がなされていました。
    情報解析の過程において、すべての情報をいったんコンピュータに蓄積した上で、その中から必要な情報の整理・抽出を行うという複製行為に対しては、権利者の利益が侵害される程度が低いと考えられながらも、これまで明確に適法であるとする規定が存在しなかったことから、権利者の許諾が必要との解釈も成り立っていましたが、2009年の法改正により、権利を制限することが明文化されました(著作権法第47条の7)。

    ■電子計算機利用の際に必要な複製
    文書や映像作品の閲覧、または音楽の視聴など、さまざまな場面においてコンピュータ等を使った著作物の利用の機会が増えています。その際、コンピュータ内で情報処理を行う過程で生じる一時的な情報の蓄積について、著作権法上、複製に該当するのではないかとの指摘がされていました。
    そこで2009年の法改正により、「当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度」において、コンピュータ等を使った情報処理の過程における一時的・過渡的な著作物の複製について権利制限が認められました(著作権法第47条の8)。

    ■情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用
    動画共有サイトにおいて、さまざまなファイル形式で投稿された動画を提供する際に、統一化したファイル形式にする必要があり、そのために著作物である動画が複製あるいは翻案されることがあります。この場合のように、インターネットを利用して情報を提供するにあたり、その提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要なコンピュータによる情報処理を行うときは、その必要と認められる限度において、著作物を記録媒体への記載または翻案を行うことができるとし、複製権または翻案権が働かないことを明らかにしました(著作権法第47条の9)。2012年の法改正によって追加されました。

    Q17当社では翻訳ソフトを販売しておりますが、このソフトを購入した者がこれを使用して外国の著作物を権利者に無断で翻訳した場合に、当社は何らかの法的責任を負わされることがあるでしょうか。

    A17最近では翻訳ソフトの性能が向上し、便利なツールとして広く利用されるようになってきているようです。そしてこれをパソコンにインストールしてインターネットで得た海外の情報を翻訳するケースが次第に増えてきました。

    著作物を翻訳する際には著作権者の翻訳権(著作権法第27条)が働きますので、これの許諾を得て翻訳するのであれば何ら問題はありませんが、権利者に無断で翻訳すると翻訳権の侵害として民事上、刑事上の責任を追及されることになるのは、他の著作権侵害の場合と何ら変わりはありません。

    翻訳ソフトを使用して著作物を翻訳する者がこのような責任を追及されるのは当然として、問題なのはその者に翻訳ソフトを販売した者が犯罪行為あるいは不法行為を幇助したとして責任を追及されることはないかという点です。

    結論を先にいえば、原則として責任を追及されることはないということができましょう。というのは、翻訳ソフトの使用者は必ずしも著作権を侵害するとは限らないからです。たとえば、保護期間の切れた著作物を翻訳する場合とか、著作物性を有しない文書を翻訳する場合などはもちろん、著作権のある著作物を翻訳する場合であっても、権利者の許諾を受けている場合とか、私的使用のために翻訳する場合には著作権侵害とはなりません(著作権法第43条1号)。

    したがって、翻訳ソフトの使用者がこのような使い方をする限り、当然のことながら翻訳ソフトの販売者の責任が問題となることはありません。また翻訳ソフトの使用者が翻訳権の侵害にあたる行為を行ったとしても、翻訳ソフトの販売者がその事実をまったく知らない場合あるいはそのような使われ方をすることを予想していなかった場合には、同様に責任を負わされることはありません。このことは金物屋から買った包丁を使って殺人を行った場合に金物屋が殺人行為の幇助者として責任が負わされることのないのと同様です。もっとも、販売者がソフトの使用者の権利侵害の意図を知りつつ、あえて販売した場合や、積極的に権利侵害となる翻訳を勧めたという場合であれば、責任が負わされることになるのは否定できないでしょう。

    Q18長年にわたって書籍の出版を行ってきた当社ですが、時代の要請に応えるためにこのたび電子出版をも手掛けることにしました。著作権法上、どのような点に気を付ければよいでしょうか。

    A18電子出版をする場合には、少なくともインターネット送信を行うために自動公衆送信権を得ていることが必要です。著作権の中には自動公衆送信権が含まれていますので、著作権者から著作権を譲り受けている場合はもとよりのこと、著作権の一部としての自動公衆送信権のみを譲り受けていれば、あなたはその著作物について電子出版をすることができます。しかし、著作権の全部譲渡や一部譲渡はその分だけ権利を失うことになるため、著作権者がそのような契約をあなたと結ぶことは嫌うのがふつうです。これ以外にあなたが適法に電子出版をするには、著作権者との間に電子出版についての出版権設定契約を結ぶ方法があります。従来、出版権設定契約は文書または図画として出版する場合にのみ認められておりましたが、電子書籍時代の到来とともに、出版者の間にこの分野についても出版権の取得を望む声が大きくなり、これに応える目的で2014年の著作権法改正により、電子書籍についても出版権の設定が可能になりました(著作権法79条1項)。したがって、電子出版についての独占的な権利を取得しようと思えば、著作権者との間に出版権設定契約を結ぶ必要があります。これまで出版権設定契約を著作者との間に結んでいた場合であっても、従来の出版権は文書または図画としての出版に限られていたわけですからこれで転用ということはできません。あらためてインターネット送信による電子出版についての出版権設定契約を結ぶことが必要となります。今回新たに出版権の取得を望む場合には文書・図画としての出版権とインターネット送信としての出版権の双方か、あるいはその一方かを選択して契約を結ばなければなりません(著作権法80条1項)。いま電子出版の計画がなくてもいずれその方面にも手を広げる可能性のあることを考慮し、双方について出版権を及ぼしておいたほうがよいのではないでしょうか。出版権を取得しますと、あなたは契約の内容に従い独占的に著作物を利用できます。さらに、著作権者の承諾を得た場合には、他人に対し、複製または公衆送信を許諾することができることになりました(著作権法80条3項)。そのほかは、これまでの文書・図画による出版の場合と同様、特約のない限り3年で出版権は消滅しますし(著作権法83条2項)、原稿の引き渡し等を受けてから6月以内にインターネット送信を行う義務が出版者に課せられています(著作権法81条)。出版権の設定によって著作権者はその分だけ権利を失うことにはなりますが、原則として3年の存続期間が終了すれば、再びまた完全な内容の著作権を回復することができますので、取られっぱなしの著作権の全部譲渡や自動公衆送信権の譲渡の場合に比べ、著作権者の協力が得られやすいものと思われます。

    なお、電子出版を合法的に行うには以上のほかに自動公衆送信の許諾契約によるという方法もあります。ただこれはインターネット送信を著作権者との間で了承を得たというにとどまり、それ以上の強い効力はありません。したがって、他の業者が同一著作物につき著作権者の許諾を得て電子出版した場合にそれを阻止することはできないということになります。

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