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    デジタル単一市場における著作権および隣接権に関するならびに指令96/9 / ECおよび2001/29 / ECを修正する2019年4月17日の欧州議会および欧州理事会指令(EU)2019/790
    (欧州経済領域関連文書)



    欧州議会および欧州理事会は、
    欧州連合の機能に関する条約、特にその第53条1項ならびに第62条および第114条に鑑み、
    欧州委員会の提案を考慮し
    各国の国会に法案が委譲された後、
    欧州経済社会評議会の意見を考慮し(1)*1
    地域評議会の意見を考慮し(2)*2
    通常の立法手続きに従って規定する(3)*3
    次の事項により:

    (1) 欧州連合の機能に関する条約は、域内市場の創設と、域内市場における競争の歪曲を防止する固有のシステムの導入とを、規定する。著作権および隣接権に関する加盟国の法規のさらなる調和は、これらの目的達成に寄与する。

    (2) 著作権および隣接権分野において採択された数々の指令は、域内市場の機能に寄与し、権利者のために高度の保護を保証し、権利のクリアランスを促進し、著作物および他の保護対象物の利用を可能とする枠組みを創設する。この調和した法的枠組みは、域内市場の分断を回避するために、デジタル環境においてもまた、域内市場が適切に機能することに寄与し、イノベーション、創造、投資、および新たなコンテンツの製作を後押しする。この法的枠組みが与える保護は、欧州共通の文化遺産を前面に押し出しながら、文化的多様性を尊重しかつ促進する欧州連合の目的を実現することに寄与するものでもある。欧州連合の機能に関する条約第167条第4項は、欧州連合に対し、その行動において文化的側面を考慮することを要求する。

    (3) 技術の急速な発展により、著作物および他の保護対象物が創作され、生産され、頒布され、利用される方法は、変化し続けている。新たなビジネスモデルおよび新たなプレーヤーが絶えず出現している。当該分野の立法は、技術の発展を妨げないよう、時の経過に耐えられるものでなければならない。著作権分野における欧州の枠組みによって定められた目的および原則は、依然として妥当である。しかし、国境を越える使用を含む、デジタル環境における著作物および他の保護対象物の特定の使用については、権利者にとっても、利用者にとっても、依然として法的不安定が残されている。「現代的でより欧州的な著作権フレームワークに向けて」と題する2015年12月9日欧州委員会報告書に示されているように、ある分野においては、著作権および隣接権の高度の保護を維持しつつ、欧州連合の既存の著作権フレームワークを適応させ、補充することが必要である。本指令は、著作権および隣接権の特定の例外および制限をデジタルの国境を越える環境に適応させるための規定、および、特定のライセンス実務を促進するための措置(特に、ただし、限定的ではないが、商業的に入手できない著作物および他の保護対象物の頒布、およびコンテンツへのより広いアクセスを確保するため、ビデオオンデマンドプラットフォームにおける視聴覚著作物のオンラインでの利用可能性について)を規定する。本指令は、また、公有のコンテンツの使用を促進するための規定も含む。機能的で衡平な著作権市場を実現するために、出版物における権利、利用者がアップロードしたコンテンツを蓄積しおよびアクセスを提供するオンラインサービスプロバイダによる著作物または他の保護対象物の利用、著作者および実演家の契約の透明性、著作者および実演家の報酬に関する規定も必要であり、同様に、著作者および実演家が独占的に譲渡した権利の取消のための手続きも必要である。


    *1 OJ C (欧州連合官報告示) 125, 21.4.2017, p. 27.
    *2 OJ C (欧州連合官報告示) 207, 30.6.2017, p. 80.
    *3 2019年3月26日の欧州議会の状況(官報において未公表)および2019年4月15日欧州理事会決定

    (4) 本指令は、当該分野で現在施行されている各指令、特に欧州議会および欧州理事会指令96/9/EC(4)*4 、2000/31/EC(5)*5 、2001/29/EC(6)*6 、2006/115/EC(7)*7 、2009/24/ EC(8)*8 、2012/28/EU(9)*9 および2014/26/EU(10)*10 に定める規定を補充しつつ、これらに基づくものである。

    (5) 研究、イノベーション、教育、および文化遺産の保存の分野において、例外および制限に関する既存の欧州連合の規定に明確に含まれていない新たな種類の使用が、デジタル技術によって可能となっている。さらに、これらの分野において指令96/9/EC、2001/29/ECおよび2009/24/ECに規定する例外および制限の任意的な性質は、域内市場の機能に悪影響を与え得る。これが特に関連するのは、デジタル環境において、重要性が増しつつある国境を越える使用である。したがって、これらの新たな使用に照らし、学術研究、イノベーション、教育、および文化遺産の保存に関連してEU法が規定する既存の例外および制限は、評価し直す必要がある。テキストおよびデータマイニング技術の使用、デジタル環境における教育のための説明、および文化遺産の保存のため、義務的な例外または制限を導入すべきである。EU法における既存の例外および制限は、それらが本指令に定める義務的な例外または制限の適用範囲を制限するものでなく、加盟国がその国内法において国内法化する責任を負うものである限り、特に、テキストおよびデータマイニング、教育、および保存活動に対して、引き続き適用されなければならない。したがって、指令96/9/ECおよび2001/29/ECは修正されなければならない。

    (6) 本指令に定める例外および制限は、一方で、著作者と他の権利者の権利と利益、他方で、利用者の権利と利益との間の公正な均衡を目指している。例外および制限は、著作物または他の保護対象物の通常の利用を妨げることなく、権利者の正当な利益を不当に害しない特定の特別な場合にのみ適用されうる。

    (7) 指令2001/29/ECに定める技術的手段の保護は、EU法に基づき著作者および他の権利者に与えられた権利の保護およびその効果的な行使を保証するため、依然として不可欠である。技術的手段の使用により、受益者が本指令に定める例外および制限を享受することを妨げないよう保証しつつ、当該保護を維持することが適切である。権利者は、任意の手段により、それが保証される機会を持つべきである。権利者は、本指令に定める例外および制限を受益者が享受できるようにする適切な手段を、依然として自由に選択できなければならない。任意の手段がない場合、加盟国は、著作物または他の保護対象物がオンデマンドサービスにより公衆に利用可能とされた場合を含め、指令2001/29/EC第6条第4項第一段落に従って、適切な措置を講じなければならない。

    (8) 新たな技術により、テキスト、音、画像、データのようなデジタル形式の情報に対する自動的な情報分析が可能になり、それは、一般にテキストおよびデータマイニングといわれる。テキストおよびデータマイニングは、新たな知見を得ることおよび新たなトレンドを発見することを目的とした、大量の情報処理を可能とする。テキストおよびデータマイニング技術は、デジタル経済全体に普及しているが、広く認識されているのは、テキストおよびデータマイニングが、とりわけ、研究者の社会に利益をもたらし、これによりイノベーションを支えることができるということである。大学およびその他の研究組織だけでなく、文化遺産機関が、当該技術による恩恵を受けるが、それらはその主たる活動の枠内において研究を実施できるからである。しかし、欧州連合において、当該組織や機関は、どの範囲でコンテンツに対しテキストおよびデータマイニングを実行できるかが分からず、それらは法的不安定に直面している。特定の場合において、テキストおよびデータマイニングは、著作権、データベースに対するスイジェネリス権、またはそれら双方により保護される行為、特に著作物または他の保護対象物の複製、データベースからのコンテンツの抽出、またはそれら双方の行為をもたらし得るが、例えばテキストおよびデータマイニングプロセスで、データを標準化するような場合がこれにあたる。何ら例外または制限が適用されない場合、権利者から当該行為を行うことの許諾を得る必要が生じる。

    (9) テキストおよびデータマイニングは、著作権により保護されない単なる事実またはデータに対しても実行され得るが、そのような場合、著作権法に基づく何らの許諾も必要でない。複製行為を生じさせないテキストおよびデータマイニングもあり得るし、または、実行された複製が指令2001/29 / EC第5条第1項に定める一時的な複製行為に対する義務的な例外に該当する場合もまたありうるが、同条項は、当該例外の適用範囲を超える複製物の作成を生じさせないテキストおよびデータマイニング技術に引き続き適用されなければならない。

    (10) EU法は、テキストおよびデータマイニング行為に適用され得る学術研究目的の使用をカバーする特定の例外および制限を規定する。しかし、当該例外および制限は任意であり、学術研究分野における技術の使用に完全に適応するものではない。さらに、研究者がコンテンツに対する適法なアクセス権を有する場合、例えば、出版物に対するサブスクリプションやフリーアクセスライセンスがある場合、ライセンスの条件によりテキストおよびデータマイニングを除外されることがあり得る。研究がますますデジタル技術の支援により行われるようになっていることから、テキストおよびデータマイニングに関する法的不安定を治癒するための措置が講じられない限り、研究地域としての欧州連合の競争力が低迷する危険がある。


    *4 データベースの法的保護に関する1996年3月11日欧州議会および理事会指令96/9/EC(欧州連合官報法令OJ L 77, 27.3.1996, p. 20)
    *5 域内市場における情報社会サービス、特に電子商取引の特定の法的側面に関する2000年6月8日欧州議会および理事会指令2000/31/EC(電子商取引指令)(欧州連合官報法令OJ L 178, 17.7.2000, p. 1)
    *6 情報社会における著作権および関連権の特定の側面の調和に関する2001年5月22日欧州議会および理事会指令2000/31/EC(欧州連合官報法令OJ L 167, 22.6.2001, p. 10)
    *7 知的財産分野における著作権に関する貸与権および特定の権利に関する2006年12月12日欧州議会および理事会指令2006/115/EC(欧州連合官報法令OJ L 376, 27.12.2006, p. 28)
    *8 コンピュータープログラムの法的保護に関する2009年4月23日欧州議会および理事会指令2009/24/EC(欧州連合官報法令OJ L 111, 5.5.2009, p. 16)
    *9 孤児著作物の特定の認められる使用に関する2012年10月25日欧州議会および理事会指令2012/28/EU(欧州連合官報法令OJ L 299, 27.10.2012, p. 5)
    *10 域内市場におけるオンライン利用のための音楽著作物の著作権および関連権の集中管理ならびに全地域ライセンスに関する2014年2月26日欧州議会および理事会指令2014/26/EU(欧州連合官報法令OJ L 84, 20.3.2014, p. 72)


    (11) テキストおよびデータマイニングに関する法的不安定は、大学および他の研究組織、ならびに文化遺産機関のために、複製の排他的な権利およびデータベースからの抽出を拒む権利に対する義務的な例外を規定することによって、治癒されなければならない。大学および研究機関が民間部門と協力することを奨励する欧州連合の現行の研究政策に合わせ、その研究活動が官民パートナーシップの枠組みで実施される場合、研究組織もまた、当該例外を享受できなければならない。研究組織および文化遺産機関は引き続き当該例外の受益者でなければならないが、それらは、民間パートナーの技術ツールを使用することを含め、テキストおよびデータマイニングの実施のために民間のパートナーに頼ることができなければならない。

    (12) 欧州連合全体の研究組織は、学術研究を実施すること、または教育サービスを提供するとともに学術研究を実施することを主な目的とする、多種多様な者を網羅する。本指令の意味において、「学術研究」という用語は、自然科学と人文科学の双方を含むものと理解されなければならない。それらの者の多様性を考慮すると、研究組織がどのようなものかについて、共通の理解を持つことが重要である。この概念は、大学または他の高等教育機関およびそれらの図書館に加え、研究機関および研究を行う病院のような者もまた、包含するものでなければならない。法形式および法的構成の違いにもかかわらず、加盟国の研究組織は、一般に、非営利目的で、または加盟国によって承認された公益的使命の枠内において、その行為を行うという共通点を有する。そのような公益的使命は、例えば、公的資金を通じて、または国内法または公契約の規定を通じて、示されることがありうる。逆に、営利企業が、株主やパートナーの資格のような、構造上の立場により管理権を行使できる決定的な影響力を組織に及ぼし、それにより研究の成果に対し優先的なアクセスを導き出せることになる組織は、本指令の目的における研究組織とみなされてはならない。

    (13) 文化遺産機関は、その恒久的なコレクション内に保有する著作物または他の保護対象物の種類を問わず、公衆がアクセス可能な図書館および博物館を含み、同様に、アーカイブ、映画またはオーディオ遺産を寄託される機関も含むものとして、理解されなければならない。文化遺産機関は、また、とりわけ、国立図書館および国立アーカイブ、ならびにアーカイブおよび公衆がアクセス可能な図書館が関係する範囲で、教育施設、研究組織および公共の放送機関を含むものとして、理解されなければならない。

    (14) テキストおよびデータマイニングの例外は、研究組織および文化遺産機関が適法にアクセスできるコンテンツについて、研究組織および文化遺産機関(それらに属する者を含む)に、適用されなければならない。適法なアクセスとは、オープンアクセスポリシーに基づくコンテンツに対するアクセス、または権利者と研究組織または文化遺産機関との間における、登録のような、契約上の合意を通じた、もしくは他の合法的な手段を通じたコンテンツに対するアクセスを含むものとして、理解されなければならない。例えば、あるコンテンツに対するサブスクリプションを行った研究組織または文化遺産機関に所属する者は、当該サブスクリプションの対象に対して、適法なアクセス権を享受するとみなされる。適法なアクセスは、また、オンラインで自由にアクセスできるコンテンツへのアクセスを包含するものでなければならない。

    (15) 特定の場合、例えば学術研究成果の継続的検証のため、研究組織や文化遺産機関は、テキストおよびデータマイニングを行う目的による例外の枠内で、作成された複製物を保持する必要があり得る。そのような場合、複製物はセキュアな環境で保存されねばならない。加盟国は、国家レベルで、かつ関係する利害当事者との協議の後に、特に、当該複製物を保存する目的で信頼できる機関を指定する資格を含む、複製物を保持するためのより詳細な方法について、自由に決定できなければならない。例外の適用が不当に制限されないよう、当該方法は、比例的であり、かつ複製物をまったく安全な方法で保持し、かつ無許諾の使用を防ぐために、必要なものに限定されねばならない。テキストおよびデータマイニング以外の、学術ピアレビューまたは共同研究のような、学術研究活動の目的での複製物の使用は、適宜、指令2001/29/EC第5条第3項(a)に定める例外または制限に、引き続き該当するものでなければならない。

    (16) 著作物または他の保護対象物へのアクセス要求の数およびダウンロードの数の潜在的な多さを考慮すると、権利者は、そのシステムやデータベースのセキュリティおよび完全性が損なわれるおそれがある場合、何らかの措置を講じることが認められなければならない。当該措置は、例えば、特にIPアドレス認証やユーザー認証などに基づき、データへの合法的なアクセス権を持つ者のみがデータにアクセスできるよう保証することに資するものが想定される。当該措置は、内在するリスクに比例的でなければならず、システムのセキュリティおよび完全性を確保する目的を達成するために必要な範囲を超えてはならず、かつ、例外の効果的な適用を損なうものであってはならない。

    (17) 学術研究を行う者に限定される例外の性質および適用範囲を考慮すると、当該例外が権利者に生じさせる潜在的な害はごくわずかであると考えられる。したがって、加盟国は、本指令によって導入されたテキストおよびデータマイニングの例外に基づく使用に関して、権利者に対する補償を規定するべきではない。

    (18) 学術研究におけるテキストおよびデータマイニング技術の重要性に加え、テキストお よびデータマイニング技術は、生活のさまざまな領域で、さまざまな目的、特に、公共サー ビス、ビジネス上の複合的な決定、および新しいアプリケーションまたはテクノロジーの開 発の目的で、大量のデータを分析するために、私人および公人の双方によって幅広く用いら れている。権利者は、学術研究目的でのテキストおよびデータマイニングについて、本指令 に定める義務的な例外の適用範囲外である著作物または他の保護対象物の使用、および指 令 2001/29/EC に定める既存の例外および制限の適用範囲外である著作物または他の保護対 象物の使用を、引き続き許諾できなければならない。同時に、テキストおよびデータマイニ ングの目的で行われた複製および抽出を、合法的にアクセスできる著作物または他の保護 対象物で行うことができるかどうかについて(特に、技術的処理のために行われた複製また は抽出が、指令 2001/29/EC 第 5 条第 1 項に定める一時的な複製行為のための既存の例外の 条件をすべて満たさない場合)、テキストおよびデータマイニングの利用者は、法的不安定 に直面する可能性がある、との事実が考慮されるべきである。このような場合にさらなる法 的安全を図り、かつ民間におけるイノベーションを促進するため、本指令は、テキストおよ びデータマイニングの目的による著作物または他の保護対象物の複製および抽出のための 例外または制限を、特定の条件のもとで規定し、かつ当該テキストおよびデータマイニング の目的で必要となる期間中、これにより実行された複製物を保有することが認められなけ ればならない。
    当該例外または制限は、著作物または他の保護対象物がオンラインで公衆に利用可能とさ れた場合を含め、受益者が著作物または他の保護対象物に合法的にアクセスする場合であって、かつ、権利者が、テキストおよびデータマイニングのための複製および抽出に対する 権利を適切な方法で留保していない範囲でのみ適用される。オンラインで公衆に利用可能 とされているコンテンツについては、メタデータおよびウェブサイト、またはサービスの利 用規約を含む、機械により読み取り可能な手段により当該権利の留保が行われた場合にの み、当該権利の留保が適切であるとみなされる。テキストおよびデータマイニングの目的に よる権利の留保は、他の使用に影響を与えてはならない。他の場合において、適切とされう るのは、契約上の合意または一方的申告のような、他の手段により、権利を留保することで ある。権利者は、留保された権利が尊重されることを確保する措置を講じることができなけ ればならない。当該例外または制限は、本指令に規定する学術研究目的のテキストおよびデ ータマイニングのための義務的な例外を害するものであってはならないことに加え、指令 2001/29/EC 第 5 条第 1 項に規定する一時的な複製行為のための既存の例外も同様に、害す るものであってはならない。

    (19) 指令2001/29/EC第5条第3項(a)は、加盟国に対し、教育における説明目的に限り、各自が、各々個別に選択した場所および時間において、著作物または他の保護対象物にアクセスできるような方法により、著作物または他の保護対象物に対する複製権、公衆への伝達権、公衆へ利用可能とする権利に対する例外または制限を規定することを認めている。さらに、指令96/9/EC第6条第2項(b)および第9条(b)は、教育における説明のために、データベースの使用およびその内容の実質的部分の抽出を認めている。これらの例外または制限の適用範囲は、デジタル使用に適用される場合、明確ではない。その上、教育がオンラインでかつ遠隔で行われている場合、これらの例外または制限が適用されるかどうか、明確に規定されていない。さらに、既存の法的枠組みは、国境を越える効果を規定していない。この状況は、デジタルにより支援される教育活動と遠隔学習の発展を妨げる可能性がある。したがって、著作物または他の保護対象物が、オンラインおよび国境を越える場合を含め、デジタルによる教育活動の枠内で使用される場合において、教育施設が完全な法的安全を享受することを保証するため、新たな義務的な例外または制限の導入が必要である。

    (20) 遠隔学習および国境を越える教育のプログラムは、特に、高等教育のレベルで発展しているが、デジタルツールとリソースは、特に、学習体験を向上させかつ充実させるため、教育のすべてのレベルで、ますます使用されるようになっている。したがって、本指令に定める例外または制限は、初等および中等教育、職業教育ならびに高等教育の施設を含む、加盟国によって承認されたすべての教育施設が、享受できなければならない。例外または制限は、特定の教育活動が非営利目的で行われることにより、使用が正当化される範囲内でのみ、適用される。教育施設の組織的構造および財源は、活動が非営利な性質であるかどうかを決める決定的な要素であってはならない。

    (21) 教育における説明目的に限定される本指令に定める例外または制限は、研修活動を含む、教育を支援し、充実させ、または補完する目的による著作物または他の保護対象物のデジタル使用を包含するものと理解されなければならない。当該例外または制限の枠内で認められるソフトウェアの頒布は、ソフトウェアのデジタル送信に限定されなければならない。したがって、ほとんどの場合、説明の概念は、著作物の一部または抜粋の使用しか前提とせず、これにより主に教育市場向けの教材の購入に置き換わるものであってはならない。例外または制限を国内法化する場合、加盟国は、さまざまな種類の著作物または他の保護対象物について、バランスのとれた方法で、教育における説明目的にのみ使用できる著作物または他の保護対象物の割合を、引き続き自由に決定できなければならない。例外または制限の枠内で認められる使用は、教育における説明の枠内において、障害者の特定の利用可能性のニーズを包含するものとして理解されなければならない。

    (22) 本指令に定める教育における説明目的に限定される例外または制限に基づく著作物またはその他の保護対象物の使用は、試験中、または、例えば、博物館、図書館、その他の文化遺産機関内など、教育施設外で行われる教育活動中を含む、教育施設の責任の下で実施される教育および研修活動の枠内でのみ行われなければならず、かつ、当該活動の目的に必要なものに限定されなければならない。例外または制限は、例えば電子ホワイトボードまたはインターネットに接続される可能性があるデジタル機器などのデジタル手段を介して、教室内または他の場所において行われる著作物または他の保護対象物の使用、およびオンラインの授業または特定の授業を補完する教材へのアクセスのような、セキュリティの施された電子環境を介して遠隔で行われる使用を、包含するものでなければならない。セキュリティの施された電子環境とは、特にパスワードによる認証を含む、適切な認証手続によって、教育施設の教員、および学習プログラムに登録されている生徒または学生にアクセスを限定した、教育および学習のデジタル環境をいうものとして理解されなければならない。

    (23) 著作物または他の保護対象物の教育における使用を促進するため、多くの加盟国においては、指令2001/29/ECに定める例外または制限の国内法化に基づく、またはその他の使用をカバーするライセンス契約に基づく、異なる施策が採用されている。当該施策は、概して、教育施設およびさまざまなレベルの教育の必要性を考慮し、定められた。デジタル使用および国境を越える教育活動に関する新たな義務的な例外または制限の適用範囲を調和させることが不可欠であるとしても、国内法化の施策は、それが、例外または制限の効果的な適用も、国境を越える使用も妨げることがない限り、加盟国によって異なることがあってもよい。例えば、加盟国が、著作物またはその他の保護対象物の使用において、著作者および実演家の人格権を尊重するよう求めることは依然として自由でなければならない。したがって、加盟国は、国家レベルで締結された既存の合意に基づくことも可能でなければならない。特に、加盟国は、例外または制限の適用を、完全にまたは部分的に、例外または制限の下で認められる使用と同じ使用を少なくとも包含する、適切なライセンスの利用可能性に従属させるように定めることができる。ライセンスが例外または制限の下で認められる使用を部分的にのみカバーする場合、加盟国は、例外または制限が他のすべての使用に適用されることを保証しなければならない。
    加盟国は、例えば、主に教育市場向けのライセンスまたは楽譜のライセンスを優先させるために、この体制を用いることができる。例外をライセンスの利用可能性の下におくことにより、法的不安定または教育施設に管理上の負担を生じさせることを回避するため、当該アプローチを採用する加盟国は、教育における説明目的での著作物または他の保護対象物のデジタル使用を可能とするライセンス体制を容易に利用できるよう保証し、かつ、教育施設に当該ライセンス体制の存在についての情報が与えられるよう保証するための、具体的措置を講じなければならない。当該ライセンス体制は、教育施設のニーズに合致するものでなければならない。既存のライセンス体制の可視性の確保を目的とした情報ツールもまた、構築され得る。当該体制は、教育施設が権利者と個別に交渉しなければならないことを回避するため、例えば、集中許諾または拡大集中許諾に基づくことができる。法的安定を保証するため、加盟国は、どのような条件で、教育施設が当該例外の枠内で著作物または他の保護対象物を使用できるか、逆に、どのような場合にライセンス体制に基づき行動しなければならないかを明確にしなければならない。

    (24) 加盟国は、教育における説明のため、本指令に定める例外または制限の枠内において、権利者が、著作物または他の保護対象物のデジタル使用の対価として衡平な補償を受け取ることを、引き続き自由に規定することができなければならない。衡平な補償の基準を定める場合、加盟国は、とりわけ、その教育目的および権利者に生じる不利益を考慮しなければならない。衡平な補償を規定することを決定した加盟国は、教育施設に管理上の負担を生じさせない制度の利用を奨励しなければならない。

    (25) 文化遺産機関は、将来の世代のために、そのコレクションの保存に取り組んでいる。文化遺産機関のコレクション内に存在する著作物または他の保護対象物を保存する行為は、複製を必要とし、したがって、関係する権利者の許諾を求められる場合があり得る。デジタル技術は、当該コレクションに含まれる遺産を保存する新たな手段を提供するが、それらはまた新たな課題を生じさせる。それらの新たな課題を考慮し、当該機関が当該保存行為を行うことができるよう、複製権に対する義務的な例外を規定することにより、既存の法的枠組みに適応させる必要がある。

    (26) 文化遺産機関による保存のための複製行為について、加盟国において異なるアプローチが存在することは、国境を越える協力、保存手段の共有、および当該機関による域内市場における国境を越える保存ネットワークの確立を妨げ、それは、効率的でない資産の使用をもたらす。それは、文化遺産の保存に対し悪影響を与えかねない。

    (27) したがって、加盟国は、例えば、技術的陳腐化もしくはオリジナルの媒体の劣化を改善するため、または当該著作物および保護対象物の毀損に備えるため、文化遺産機関が保存目的でそのコレクション内に恒久的に存在する著作物または他の保護対象物を複製する例外を規定しなければならない。当該例外は、適切な保存ツール、保存手段、または保存技術を用い、あらゆるフォーマットまたは媒体で、必要とされる数、著作物または他の保護対象物が存続している段階でいつでも、保存目的に必要な範囲内で、複製物を作成できるものでなければならない。文化遺産機関の恒久的なコレクション内にある著作物および他の保護対象物の保存以外の目的で文化遺産機関が行う複製行為は、EU法に定める他の例外または制限によって認められるものでない限り、引き続き権利者の許諾に基づくものでなければならない。

    (28) 文化遺産機関は、当該機関自身が、特にデジタル環境において、そのコレクションを保存するために必要となる行為を行うにつき、必ずしも、技術的手段または専門性を有するわけではなく、そのため、当該目的で他の文化機関または他の第三者の支援を求める可能性がある。本指令に規定する保存目的の例外の枠内において、文化遺産機関は、複製物の作成を、他の加盟国に所在する第三者を含め、その名と責任において行為する第三者に依頼することが認められなければならない。

    (29) 例えば、所有権の移転もしくはライセンス契約の結果として、法的寄託義務に基づき、または恒久的な貸借契約に基づき、当該著作物または他の保護対象物の複製物が当該機関によって恒久的に保有されている場合または当該機関に帰属する場合に、本指令の目的のために、著作物または他の保護対象物は、文化遺産機関のコレクションに恒久的に存在するとみなされる。

    (30) 文化遺産機関は、国境を越えることを含む、本指令の目的で商業的に入手できないとみなされる著作物または他の保護対象物のデジタル化および普及のための明確な枠組を享受すべきである。しかし、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の集合物の特別な性質は、および大量のデジタル化計画の対象となる著作物または他の保護対象物の数と相俟って、個々の権利者の事前の許諾を得ることが明らかに非常に困難であることを示している。これは、例えば、著作物または他の保護対象物の古さ、商業的に限定されたそれらの価値、またはそれらが商業利用に向けられたことがなかったという事実もしくはそれらが商業的目的で利用されなかったという事実によるものである。したがって、文化遺産機関のコレクションに恒久的に存在する商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の、特定の使用を促進するための措置を規定する必要がある。

    (31) すべての加盟国は、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の特定の使用に関して、十分に代表する関係する集中管理団体によって文化遺産機関に与えられるライセンスを、その点で代表する集中管理団体に委託していない権利者の権利にも適用することができる法制度を有しなければならない。本指令に従って、当該ライセンスはすべての加盟国を包含することができるものでなければならない。

    (32) 本指令によって導入された商業的に入手できない著作物または他の保護対象物に関する集中許諾に関する規定は、文化遺産機関が商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の使用のために、権利者から必要なすべての許諾を得ることが困難であるすべての場合に、解決策を与えるものではない。例えば、特定の種類の著作物または他の保護対象物のために何らの権利の集中管理の実務がない場合、または関係する集中管理団体が関係する範疇の権利者および権利を十分に代表していない場合が、その場合に該当し得る。これらの特別な場合に、文化遺産機関は、著作権および隣接権に対する調和した例外または制限の枠内で、すべての加盟国において、恒久的にそのコレクションに存在する商業的に入手できない著作物または他の保護対象物を、オンラインで利用可能にすることが可能でなければならない。重要なことは、当該例外または制限に基づく使用が、特定の要件(特にライセンスによる解決の利用可能性について)を満たす場合にのみ行われることである。ライセンス条件に関する合意の不存在は、ライセンスによる解決の利用可能性の欠如と解釈されてはならない。

    (33) 加盟国は、本指令により定める枠組み内において、その法的伝統、法的実務、または法的環境に従って、文化遺産機関が商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の使用のために導入する、拡大集中許諾または代表の推定のような、特定の種類のライセンス付与体制を、柔軟に選択できなければならない。加盟国は、また、集中管理団体が十分に代表されるといえるために満たすべき要件を柔軟に決定できなければならず、それは、当該決定が、関係する種類の使用を許諾できることを委託した、関係する種類の著作物または他の保護対象物の権利者の数の多さを基礎とすることを条件とする。加盟国は、例えば、共同ライセンスまたは関係する組織間の合意を要求するなど、複数の集中管理団体が関係する著作物または他の保護対象物を代表する場合に適用される特定の規則を、自由に規定できなければならない。

    (34) 当該ライセンス付与体制のために、厳格で十分に実効性のある集中管理システムが重要である。指令2014/26/EUは、当該システムを規定しており、当該システムは、特に、適切なガバナンス、透明性および情報伝達に関する規則、ならびに個々の権利者に対して負担する額を、定期的に、迅速かつ正確に、分配しかつ支払うことに関する規則を含む。

    (35) 商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の使用のため、本指令によって導入された、ライセンス付与体制の適用および例外または制限の適用を除外する機会を与えられるべきすべての権利者は、その著作物または他の保護対象物のすべてに関し、ライセンスすべてまたは例外もしくは制限に基づく使用すべてに関し、特定の著作物もしくは他の保護対象物に関し、または、ライセンス期間前もしくは期間中、または例外もしくは制限の下での使用前もしくは使用中を問わず、特定のライセンスもしくは例外または制限に基づく使用に関し、適切な保護措置を利用することができなければならない。当該ライセンス付与体制を規制する条件は、文化遺産機関にとっての実務的有用性を減殺するものであってはならない。権利者が1または複数の著作物または他の保護対象物に関し、当該体制の適用または当該例外もしくは制限の適用を排除する場合、継続中の使用は合理的な期間内に終了することが重要であり、かつ、当該使用が集中許諾に組み込まれている場合、いったん通知を受けた集中管理団体は、関係する使用の前提となるライセンスの付与を停止することが重要である。権利者による当該排除の適用は、ライセンスの枠内における著作物または他の保護対象物の実際の使用に対する報酬についての権利者の請求に、影響を与えてはならない。

    (36) 本指令は、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物のライセンス付与の遵守、および本指令に定める条件におけるそれらの使用の遵守、ならびに関係する当事者による当該ライセンス条件の遵守に関して、誰が法的責任を負うべきかを決定する加盟国の権能に影響を与えない。

    (37) 文化遺産機関のコレクション内の著作物または他の保護対象物の多様性を考慮すると、重要となるのは、本指令に定めるライセンス付与体制および例外または制限が利用可能となることであり、かつ、写真、ソフトウェア、レコード、視聴覚著作物、単体の美術の著作物(それらが、これまで商業的に入手できなかった場合を含む)を含む、さまざまな種類の著作物および他の保護対象物が、実際に使用され得ることである。これまで商業的に入手できなかった著作物には、ポスター、リーフレット、トレンチ・ジャーナル、アマチュアの視聴覚著作物だけでなく、著作者人格権に関する国内規定のような、他の法的制約の適用を害することのない、未公表の著作物または他の保護対象物が含まれうる。ある著作物または他の保護対象物が、その別のヴァージョンのいずれかにより入手可能である場合(例えば、文学の著作物の後続の販または映画の著作物の別ヴァージョン)、またはその別の形態で入手可能である場合(例えば、同一の著作物のデジタル形式および印刷形式)、当該著作物または他の保護対象物は、商業的に入手できないとみなされてはならない。逆に、特に、他言語ヴァージョンまたは文学の著作物の視聴覚著作物への翻案といった、翻案の商業的な入手可能性は、著作物または他の保護対象物を当該言語において商業的に入手不可能とみなすことを妨げるものではない。公開および頒布の方法に関し、さまざまな種類の著作物または他の保護対象物の特性を考慮するために、かつ、当該体制の利用を促進するために、例えば、著作物または他の保護対象物が最初に商業的に入手可能になってから一定の時間が経過しているという要件のような、当該ライセンス付与体制を具体的に適用するため、特別な手続きと要件が規定すべきであろう。加盟国は、当該要件および手続きを規定する場合、権利者、文化遺産機関、および集中管理団体と協議することが適切である。

    (38) 著作物または他の保護対象物が商業的に入手できないかどうかを判断する場合、特定の著作物もしくは他の保護対象物の特性、または特定の著作物もしくは他の保護対象物全体の特性を考慮し、通常の商業流通経路において公衆に利用可能であることを査定するための合理的な努力が要求される。加盟国は、当該合理的な努力を行う責任を誰に負担させるかについて、自由に決定できなければならない。合理的な努力は、時間の経過に応じて反復して行われることを要するものではないが、通常の商業流通経路における著作物または他の保護対象物の将来的な利用可能性について、容易にアクセス可能なあらゆる証拠を考慮することを要するものでなければならない。著作物ごとの評価は、関係する情報の入手可能性、商業的入手可能性の確実性、および想定される取引費用を考慮し、それが合理的であると判断される場合にのみ、必要とされなければならない。著作物または他の保護対象物の利用可能性の検証は、例えば、文学の著作物が他の加盟国において特定の言語版で最初に公表された、という容易に入手可能な情報が存在する場合のように、国境を越える検証が合理的であると判断されない限り、通常、文化遺産機関が設立された加盟国において行われなければならない。多くの場合、著作物または他の保護対象物全体が商業的に入手不可能であるという状況は、サンプリングのような比例的手法により決定され得る。例えば、中古品店における入手可能性のような、著作物または他の保護対象物の限定的な入手可能性、または著作物または他の保護対象物のライセンスを取得しうる理論的な可能性は、通常の商業流通経路における著作物または他の保護対象の公衆に対する利用可能性とみなされてはならない。

    (39) 国際的礼譲の理由により、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物のデジタル化および普及に関する本指令に規定するライセンス付与体制および例外または制限は、例えば代表契約を通じ、関係する集中管理団体が、問題となる第三国を十分に代表するものでない限り、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の全体が主に第三国の著作物または他の保護対象物から構成されると推定しうる入手可能な証拠がある場合、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の全体に適用されるものであってはならない。さらなる証拠を探す必要なく、当該評価は、著作物または他の保護対象物が商業的に入手できないかどうかを決定するために合理的な努力がなされた後に、入手可能な証拠に基づくことができる。商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の由来の著作物ごとの評価は、当該著作物が商業的に利用可能かどうかを決定することに向けられた合理的な努力がなされるためにも、それが必要となる範囲においてのみ、要求されるものでなければならない。

    (40) 契約当事者である文化遺産機関および集中管理団体は、ライセンスの地理的適用範囲について、加盟国全体に拡張する可能性、ライセンス料および許諾された使用を含め、引き続き自由に合意できなければならない。当該ライセンスの対象となる使用は、営利目的を有するものであってはならず、これには、例えば、展覧会の宣伝素材のように、文化遺産機関が複製物を頒布する場合を含む。同時に、文化遺産機関のコレクションのデジタル化には多大な投資を必要とする可能性があることを考慮すると、本指令に定める体制に基づいて与えられるすべての許諾は、文化遺産機関が、ライセンスの費用ならびにライセンスの対象となる著作物または他の保護対象物のデジタル化および普及の費用をカバーすることを妨げないようにすべきである。

    (41) 本指令に基づく文化遺産機関による商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の現在および将来の使用に関する情報、およびすべての権利者についてライセンスの適用または著作物もしくは他の保護対象物に対する制限もしくは例外の適用を除外することができる発効中の合意に関する情報は、適宜、ライセンスまたは例外もしくは制限に基づく関係する使用を行う前および使用中の双方において、適切に公表されなければならない。当該公表は、域内市場において国境を越えた使用が含まれる場合に、特に重要である。したがって、使用前の合理的な段階で、当該情報が公衆に利用可能となるよう、公衆がアクセス可能な欧州連合のための単一のインターネットポータルサイトの創設を規定することが適切である。当該ポータルサイトにより、権利者は、ライセンスの適用または例外もしくは制限の適用から、著作物または他の保護対象物をより容易に除外できるようになる。欧州議会および欧州理事会規則(EU)No 386/2012(11)*11 に基づき、欧州知的所有権庁は、固有の予算措置による財源を得て、知的財産権の侵害の防止を含む、知的財産権侵害に対抗する国内の当局、民間部門および欧州連合機関の活動を促進しおよび支援するための、特定の任務および活動が課せられる。したがって、当該情報を利用可能にするポータルサイトの創設および管理を、欧州知的所有権庁に委ねることが適切である。 ポータルサイトにより情報を利用可能とすることに加え、例えば、より広く公衆に行き渡るよう追加的なコミュニケーションチャンネルを使用するなど、関係する権利者のこの点に関する認識を高めるため、場合に応じて、さらなる適切な公表措置を講じることが必要となる場合もあり得る。追加的な公表措置の必要性、性質および地理的適用範囲は、関連する商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の特性、ライセンスの条件または例外もしくは制限に基づく使用の種類、および加盟国における既存の実務慣行により、決定される。公表措置は、各権利者に個別に通知する必要はないが、効果的でなければならない。


    *11 知的財産権の側面に関する業務、特に知的財産権の侵害に対する欧州観測所における公的および私的部門の代表者会議を、欧州連合(商標、意匠)知的財産庁に委ねることに関する2012年4月19日欧州議会および理事会規則(EU) No 386/2012(欧州連合官報法令OJ L 129, 16.5.2012, p. 1)

    (42) 商業的に入手できない著作物または他の保護対象物のために本指令によって設けられたライセンス付与体制が、妥当であり、かつ適切に機能すること、権利者が充分に保護されること、ライセンスが適切に公表されること、および、集中管理団体の代表性および著作物の分類に関する法的な確実性が確保されることの各事項を保証するために、加盟国は、利害当事者間における分野ごとの意見交換を奨励しなければならない。

    (43) 文化遺産機関のコレクション内に恒久的に存在する商業的に入手できない著作物または他の保護対象物に対する権利の集中許諾を促進するために本指令に定める措置は、関係する著作物または他の保護対象物の商業的に入手できない状態に基づいて当該許諾が付与されるものでない場合、EU法に定める例外または制限のもとにおいて、または拡大効を有する他のライセンスのもとにおいて、当該著作物または他の保護対象物の使用を害するものであってはならない。また、当該措置は、集中管理団体と文化遺産機関以外の利用者との間に締結されるライセンスに基づく、商業的に入手できない著作物または他の保護対象物の使用に関する国内の制度を害するものであってはならない。

    (44) 拡大効を有する集中許諾手続きは、権利者が集中管理団体に許諾したかどうかを問わず、集中管理団体が、権利者の名において、集中許諾を付与する者として、ライセンスを付与することを認める。拡大集中許諾、法的委任、代理権の推定などの手続きに基づいて構築される制度は、複数の加盟国において確立された実務であり、さまざまな分野において用いることができる。すべての当事者のために著作権の枠組みが機能するには、著作物または他の保護対象物のライセンス付与のための、比例的で法的な手続きを利用できることが必要である。したがって、加盟国は、指令2014/26/EUに従って、集中管理団体に対し、特定の種類の使用のために潜在的な多数の著作物または他の保護対象物をカバーするライセンスを提供すること、および、当該ライセンスから生じる収入を権利者に分配することを認めるという解決策に依ることができる。
    (45) 一部の利用の性質、および関連する著作物または他の保護対象物が通常は多数になることを考慮すれば、関係する各権利者のもとで個別に権利をクリアランスする取引費用は、手が出せないほど高くつくことになる。その結果、効果的な集中許諾制度がなければ、当該著作物または他の保護対象物の使用を可能にするために必要とされる、関係する分野におけるすべての取引が、実現することはありえそうにない。集中管理団体および同様の制度による拡大集中許諾は、権利者による許諾に基づく集中許諾が、利用されるすべての著作物または他の保護対象物を包括する網羅的な解決策とならない分野において、契約締結を可能とする。このような制度は、特定の場合に利用者に対し完全な法的安全を提供することにより、権利者による個別の許諾に基づく権利の集中管理を補完する。同時に、当該制度は、権利者に対し、その著作物の適法な使用から利益を得る機会を与える。

    (46) デジタル時代において、柔軟なライセンススキームの提供を可能とすることの重要性が増大し、かつ、そのようなスキームの利用が増加していることに直面すると、加盟国は、すべての権利者が関係する集中管理団体にライセンス契約の締結を承諾したかどうかに関係なく、集中管理団体が任意にライセンス契約を締結できるライセンス付与体制を、規定できなければならない。加盟国は、本指令およびEU法に定める保護措置ならびに欧州連合の国際的義務に従うことを条件として、その国内の伝統、実務または状況に従って、当該制度を維持し、かつ導入することができなければならない。EU法に別段の定めがない限り、当該制度の有効性は、関係する加盟国の領土内に限定されねばならない。加盟国は、当該制度がEU法(指令2014/26/EUに定める権利の集中管理に関する規則を含む)に従うことを条件として、契約を締結する集中管理団体に対して許諾を与えていない権利者の権利に、著作物または他の保護対象物に付与されたライセンスを拡張できる、特定の種類の制度を選択できる柔軟性を持つことができなければならない。したがって、特に、当該制度は、指令2014/26/EU第7条が、契約を締結する団体の会員でない権利者に適用されることも、保証するものでなければならない。当該制度は、拡大集中許諾、法的委任、代理権の推定を含みうる。集中許諾に関する本指令の規定は、理事会指令93/83/EEC(12)*12 第3条に定める制度のような義務的集中管理制度または拡大効を有する他の集中許諾制度を適用する、加盟国の既存の権限に対し、影響を与えてはならない。

    (47) 重要となるのは、拡大効を有する集中許諾制度が、明確に定められる使用分野(そこでは、関係する著作物または他の保護対象物の利用の性質または種類を原因として、ライセンス取得に必要な取引が、関係する権利者すべてをカバーするライセンスを含む取引のように、行われると見込めないほど、個別に権利者から許諾を得ることが、概して費用を要し、かつ実際的でない)においてのみ、適用されることである。このような制度は、集中管理団体の会員ではない権利者を含む、権利者の取り扱いに関して、客観的、透明かつ非差別的基準を基礎とするものでなければならない。特に、影響を受ける権利者が、ライセンスを求める利用者の加盟国の国民もしくは居住者でない、または当該加盟国において設立されていないという単なる事実は、それ自体、当該制度の使用を正当化するほど、権利の取得が、費用を要しかつ実際的でないと考える理由にはならない。ライセンスに基づく利用が、関係する権利の経済的価値に悪影響を及ぼすものでないこと、および権利者から重要な商業的利益を奪うものでないことも、また重要である。

    (48) 加盟国は、ライセンスを提供する団体に委任していない権利者の正当な利益を保護するために適切な保護措置が導入されていること、および当該保護措置が差別なく適用されることを、保証しなければならない。特に、制度の拡大効を正当化するために、当該集中管理団体は、権利者からの許諾に基づき、著作物または他の保護対象物の種類およびライセンスの対象となる権利を十分に代表しなければならない。加盟国は、集中管理団体が管理する権利の種類、効果的に権利を管理する集中管理団体の能力、当該団体が扱う創作の分野、および、当該団体が、指令2014/26/EUに従って、関係する種類の使用のライセンスを付与できる権限を与えた関係する種類の著作物または他の保護対象物の権利者の相当数をカバーしているかどうか、という各事実を考慮して、当該集中管理団体が、十分に代表するとみなされるとの条件を満たすための要件を決定しなければならない。法的安全および上記制度の信用性を確保するため、加盟国は、ライセンス契約によって許諾された利用について誰が法的責任を負うかについて、決定することが認められるべきである。特に、ライセンスの付与および報酬の分配に関する情報へのアクセスに関する事項を含め、ライセンスに基づきその著作物が利用されるすべての権利者に対し、平等な取り扱いが保証されなければならない。公表措置は、ライセンス期間を通じて有効なものでなければならず、かつ、利用者、集中管理団体、または権利者に不釣り合いな管理上の負担を生じさせるものであってはならず、また、各権利者に個別に通知することは必要ではない。
    権利者がその著作物の管理を容易に回復できるようにし、その利益を害するその著作物のあらゆる使用を中止できることを保証するために、ライセンス契約締結前およびライセンス期間中を含む、その著作物または他の保護対象物の利用全体、および著作物または他の保護対象物全体のために、または特定の使用および特定の著作物または他の保護対象物のために、著作物または他の保護対象物に対する当該制度の適用を除外する効果的な機会を、権利者が与えられることが不可欠である。このような場合、継続中の使用は合理的な期間内に終了されなければならない。権利者による当該除外は、ライセンスによる著作物または他の保護対象物の実際の使用に対する報酬の請求に影響を与えてはならない。加盟国は、また、権利者を保護するため、追加的措置が適切であることを決定できなければならない。当該追加的措置は、当該制度および権利者が当該制度からその著作物または他の保護対象物除外することのできる選択肢があることを知らせるため、例えば、集中管理団体と域内における利害関係を有する他の当事者との間の情報交換を奨励することを含み得る。


    *12 衛星放送およびケーブル再送信に対して著作権および著作隣接権の特定の規定の調整に関する1993年9月27日理事会指令93/83/EEC(欧州連合官報法令OJ L 248, 6.10.1993, p. 15)

    (49) 加盟国は、拡大効を有する集中許諾制度の適用の結果として許諾されるすべてライセンスの目的および適用範囲、ならびに可能となる使用が、法律において、または、基礎となる法律が一般規定である場合には、当該一般規定から生じる適用されるライセンス実務または許諾されたライセンス契約において、常に注意深くかつ明確に、定められていることを保証しなければならない。さらに、当該制度に基づいてライセンスを運用することができる能力は、指令2014/26/EUを国内法化した国内法に基づく集中管理団体に限定されるべきである。

    (50) 加盟国全体に拡大効を有する集中許諾制度に関連するさまざまな伝統と経験があること、および権利者の国籍または居住する加盟国とは関係なく権利者に対してそれらが適用される可能性を考慮すると、当該制度の具体的機能(特に、権利者のための保護措置の有効性。当該制度の利用可能性、集中管理団体の会員でない権利者または他の加盟国の国民である権利者もしくは他の加盟国に居住している権利者に与える影響、および、域内市場において当該メカニズムに国境を越える効果を与えるための規則を定める潜在的必要性を含む、国境を越えるサービス提供への影響)について、欧州連合レベルでの意見交換および透明性を確保することが重要である。透明性を確保するため、欧州委員会は、本指令に基づく当該制度の使用に関する情報を、定期的に公表しなければならない。したがって、当該制度を導入した加盟国は、欧州委員会に対し、関連する国内規定およびその実際の適用(特に、一般規定に基づき導入されたライセンスの適用範囲と種類、ライセンスの拡張、および関係する集中管理団体)について、通知しなければならない。これらの情報は、指令2001/29/EC第12条第3項により設置された連絡委員会において加盟国と討議されなければならない。欧州委員会は、欧州連合における当該制度の利用ならびにライセンス付与および権利者に対する当該制度の影響、文化的なコンテンツの普及、著作権および著作隣接権の集中管理の分野における国境を越えるサービス提供、および競争への影響に関する報告書を公表しなければならない。

    (51) ビデオオンデマンドサービスは、欧州連合全体における視聴覚著作物の普及に決定的な役割を果たしうる。しかし、当該著作物、特に、欧州の著作物のビデオオンデマンドサービスにおける利用可能性は、制限されたままである。当該著作物のオンラインにおける利用に関する契約は、権利のライセンスに関する問題が原因となり、締結が困難となっている可能性がある。当該問題は、例えば、特定の地域の権利者が著作物のオンライン利用に対する経済的なインセンティブが低く、ライセンスを付与しないかまたはオンラインでの権利を留保している場合に生じ得、これによりビデオオンデマンドサービスにおいて視聴覚著作物を利用できないという結果をもたらし得る。その他の問題は、利用の窓口に関連している可能性がある。
    (52) ビデオオンデマンドサービスに対する視聴覚著作物の権利のライセンスを促進するために、加盟国は、契約の締結を希望する当事者が、公平な組織または1人もしくは複数の調停人の支援をうけることができるよう、交渉手続きを規定することが義務づけられるべきである。その目的のために、加盟国は、本指令に定める条件を満たす新たな組織を設立するか、既存の同様の組織に委ねることが可能でなければならない。加盟国は、管轄を有する一もしくは複数の組織または調停人を指定できなければならない。その組織または調停人は、当事者と会合し、専門的、公平かつ外部からの助言を提供することによって、交渉を支援しなければならない。異なる加盟国の当事者が交渉に関与する場合、および当該当事者が交渉手続きに委ねることを決定した場合、当事者は、管轄を有する加盟国について、事前に合意しなければならない。当該組織または調停人は、交渉の開始を促進するために、または交渉の過程において契約の締結を促進するために、当事者と会合することができる。当該交渉手続きへの参加およびその後の契約の締結は任意であり、当事者の契約の自由に影響を与えてはならない。加盟国は、交渉支援のスケジュール(日程)および期間ならびに費用負担を含む、交渉手続きの具体的な作用について自由に決定できなければならない。加盟国は、交渉手続きの有効性を確保するために、管理上および財政上の負担が比例的であるよう、留意しなければならない。加盟国への義務ではないが、加盟国は代表機関同士の意見交換を奨励しなければならない。

    (53) 著作物の保護期間の終了は、当該著作物が公有となり、当該著作物に関してEU著作権法が定める権利が終了することを意味する。ビジュアルアートの分野においては、公有となった著作物の忠実な複製の流通は、文化および文化の促進へのアクセス、ならびに文化遺産へのアクセスに貢献する。デジタル環境における、著作権または隣接権によるこれらの複製物の保護は、著作物に対する著作権による保護の終了と一貫しない。さらに、当該複製物の保護を定める著作権分野における国内法の違いは、法的不安定を生じさせ、公有となったビジュアルアート作品の国境を越える普及に影響を与える。したがって、公有となったビジュアルアート作品の特定の複製物は、著作権および隣接権によって保護されるべきではない。これらすべては、ハガキのような複製物を文化遺産機関が販売することを妨げてはならない。

    (54) 質の高い報道と市民の情報へのアクセスを確保するためには、自由かつ多元的な報道が不可欠である。それは、公の言論および民主主義社会の機能に対し、基本的に寄与する。報道出版物をオンラインで広く利用可能とすることは、ニュースアグリゲーターまたはメディアモニタリングサービスのような新たなオンラインサービスを生じさせ、そのため、報道出版物の再利用は、そのビジネスモデルの重要な一部を構成し、かつ、収入源となる。報道出版物の出版者は、この種のサービスプロバイダに対し、その出版物のオンライン利用に関するライセンスを付与する困難に直面し、それは報道出版物の出版者が投資を回収することを困難にする。報道出版物の出版者は権利者として認められていないため、デジタル環境における情報社会サービスプロバイダによるオンライン利用に関し、報道出版物の権利のライセンスおよび当該権利の遵守は、多くの場合、複雑かつ非効果的である。

    (55) 報道出版物の製作における出版者の組織的および財政的寄与は、出版業界の持続可能性を確保し、これにより信頼しうる情報の利用可能性を高めるために、認識され、さらには促進されなければならない。したがって、利用者が報道出版物をオンラインで共有する場合を含め、個人の利用者による報道出版物の私的または非商業的使用に適用される著作権分野におけるEU法の既存の規定を害することなく、情報社会サービスプロバイダによるオンライン利用に関して、報道出版物の調和的な法的保護を、欧州連合レベルで保証する必要がある。当該保護は、欧州議会および欧州理事会指令(EU)2015/1535の意味(13) *13における情報社会サービスプロバイダによるオンライン利用に関して、加盟国内で設立された出版者の報道出版物を複製しかつ公衆に利用可能にする著作隣接権を、EU法に導入することによって、効果的に保証されなければならない。本指令に定める報道出版物の法的保護は、加盟国内で設立され、および欧州連合域内に所在地の登録があるか、主たる管理事務所があるか、または主たる事業所がある出版者が享受する。報道出版物の出版者の概念は、出版者が本指令の意味における報道出版物を発行する場合、報道出版者または報道通信社のようなサービス提供者を含むものとして理解されなければならない。


    *13 情報社会サービスに関する技術的規則または規定の分野における情報手続を定める2015年9月9日欧州議会および理事会指令(EU) 2015/1535(欧州連合官報法令OJ L 241, 17.9.2015, p. 1)

    (56) 本指令の目的で、報道出版の概念は、EU法に基づくサービス提供を構成する経済活動状況において、紙を含むあらゆる媒体で発行された報道出版物のみを対象とするように、定義される必要がある。対象となる報道出版物には、例えば、日刊新聞、週刊または月刊の一般誌または専門誌(定期購読型の雑誌を含む)、および情報ウェブサイトが含まれる。報道出版物には、主に文学の著作物が含まれるが、同様に、特に写真やビデオのような他の種類の著作物または他の保護対象物もますます含まれるようになっている。学術専門誌のような、学術または高等教育機関での研究目的で発行された定期刊行物は、本指令に基づき報道出版物に認められる保護の対象に含まれない。当該保護は、報道出版者のようにサービス提供者の発意、ならびにその編集責任および管理下で行なわれるものではない活動の一部として情報を提供するブログのようなウェブサイトにも適用されない。

    (57) 本指令に基づき報道出版物の出版者に与えられる権利は、情報社会サービスプロバイダによるオンライン利用に関する限り、指令2001/29/ECに定める複製権および公衆に利用可能とする権利と同じ適用範囲を有するものでなければならない。報道出版物の出版者に与えられた権利は、ハイパーリンクを張る行為には及ばない。当該権利は、また、報道出版物において伝達される単なる事実に及ぶものではない。本指令に基づき報道出版物の出版者に与えられる権利には、指令2001/29/ECに定める例外および制限に関する規定と同じ規定が適用されなければならず、これには、当該指令の第5条第3項(d)に定める批評またはレビューの目的による引用の場合の例外も含まれる。

    (58) 情報社会サービスプロバイダによる報道出版物の利用は、出版物または記事全体の使用だけでなく、報道出版物の一部の使用によっても構成されうる。報道出版物の一部の当該使用もまた、経済的重要性を有している。同時に、情報社会サービスプロバイダによる個々の言葉の使用または報道出版物の極めて短い抜粋による使用は、報道出版物の発行者がコンテンツ製作において行った投資を損なうものではない。したがって、個々の言葉の使用または報道出版物の極めて短い抜粋による使用は、本指令に定める権利の適用範囲にいれるべきでないと規定することが適切である。情報社会サービスプロバイダによる報道出版物の大量の集約および使用を考慮すると、極めて短い抜粋の除外は、本指令に定める権利の有効性に影響を与えないように解釈されることが重要である。

    (59) 本指令に基づき報道出版物の出版者に与えられる保護は、著作物または他の保護対象物が組み込まれた報道出版物から独立して、著作者および他の権利者が著作物または他の保護対象物を利用できる範囲に関するものも含め、当該出版物に組み込まれた著作物または他の保護対象物に対する著作者および他の権利者の権利を害するものであってはならない。したがって、報道出版物の出版者は、著作者および他の権利者に対しても、同じ著作物または他の保護対象物の許諾に基づく他の利用者に対しても、本指令に基づき出版者に与えられる保護を援用しうるものであってはならない。それは、一方では、報道出版物の出版者と、他方では、著作者および他の権利者との間で締結された、契約上の合意を害するものであってはならない。報道出版物に組み込まれた著作物の著作者は、情報社会サービスプロバイダによるその報道出版物の使用に対し、報道出版者が受領する収入の適切な一部に対する権利を有しなければならない。当該権利は、国内法がEU法を遵守することを条件として、雇用契約の枠内における権利の所有または権利の行使に関する国内法を害するものであってはならない。

    (60) 報道出版物、書籍、学術出版物、音楽出版物の出版者を含む出版者は、多くの場合、契約上の合意または規約による著作権の移転を基礎とする処理を行っている。当該状況において、出版者は、その出版物に含まれる著作物の利用を目的として投資を行うが、ある場合に、当該著作物が、加盟国における複写複製に対応する既存の国内体制または公貸権の体制に付随するものを含む、私的複製または複写複製に関する例外または制限のような、例外または制限の枠内において著作物が用いられる場合には、収入を奪われる可能性がある。いくつかの加盟国においては、当該例外または制限に基づく使用に対して定められた補償が、著作者と出版社との間で分配される。この状況を考慮し、かつ関係するすべての当事者の法的安全を改善するため、本指令は、著作者と出版社との間で補償を分配する既存の体制を有する加盟国が、当該体制を維持することを認める。これは、たとえ他の加盟国において、その国内文化政策に従って、補償が分配されず、補償が著作者に対してのみ与えられるものであるとしても、2015年11月12日より前に当該補償分配体制を有していた加盟国にとって特に重要である。本指令は、確かに、すべての加盟国内において非差別的方法により適用されるものでなければならないが、同時に、指令は当該分野における伝統を尊重しなければならず、かつ、現在当該補償分配体制を導入していない加盟国に対し、その導入を義務づけるべきではない。本指令は、公貸権の枠内における報酬に関する加盟国の既存または将来の措置に対し、影響を与えてはならない。
    本指令は、また、EU法に従うことを条件として、権利の管理および報酬に対する権利に関する国内の措置に対し、影響を与えてはならない。著作者が出版者に対しその権利を譲渡もしくはライセンスした場合、またはその他出版物に著作物を寄稿した場合において、著作者と出版者とを共に代表する集中管理団体が仲介する場合を含め、例外または制限により著作物に生じる損害を補償するための体制が存在する場合、すべての加盟国は、当該出版者が当該報酬の一部を分配される権利があることを、義務的ではないが、規定することが認められなければならない。加盟国は、出版者が補償または報酬の請求を実際に行う方法を引き続き自由に決定し、かつ、その国内体制に従って、著作者と出版者との間で、当該補償または報酬を分配する条件を引き続き自由に決定するものでなければならない。

    (61) 近年、オンラインコンテンツ市場の機能は、複雑さが増している。利用者がアップロードした著作権で保護される大量のコンテンツに対してアクセスを提供するオンラインコンテンツ共有サービスは、オンラインによるコンテンツに対するアクセスへの主たる発信源となった。オンラインサービスは、文化的および創作的な著作物へのより広いアクセスを提供する手段の一つを構成し、文化的および創造的産業に対し、新しいビジネスモデルを展開する大きな機会を提供する。しかし、たとえそのサービスが多様性を認めるものであり、コンテンツへのアクセスを容易にするとしても、著作権で保護されるコンテンツが権利者の事前の許諾なくアップロードされる場合、当該サービスは問題を生じさせることになる。当該サービスのプロバイダが、著作権に関係する行為を行っているかどうかに関し、さらに、EU法に定める例外および制限の適用を害することなく、アップロードされたコンテンツに対して問題となる権利を有しないサービスの利用者によってアップロードされたコンテンツについて、権利者から許諾を得る必要があるかどうかに関し、法的不安定が存在する。当該法的不安定は、その著作物または他の保護対象物が使用されているかどうか、およびどのような条件で使用されるかを決定する権利者の権限、ならびに当該使用の対価として適切な報酬を得る権利者の権限に影響を与える。したがって、権利者とオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダとの間のライセンス市場の発展を促進することが重要である。当該ライセンス契約は、公平であり、かつ、両当事者間の合理的な衡平を保つものでなければならない。権利者は、著作物または他の保護対象物の使用に対して、適切な報酬を受け取ることができなければならない。しかし、契約の自由は、当該措置によって害されるものであってはならないことから、権利者は、許諾を与える義務も、ライセンス契約を締結する義務も負うものではない。

    (62) 特定の情報社会サービスは、その通常の使用の枠内において、利用者がアップロードした著作権で保護されるコンテンツまたは他の保護対象物へのアクセスを公衆に提供するために設計されている。本指令に定めるオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダの定義は、同一の視聴者のためのオンラインの視聴覚ストリーミングサービスのような、他のオンラインコンテンツサービスと競合することにより、オンラインコンテンツ市場において重要な役割を果たすオンラインサービスのみを対象としなければならない。本指令が対象とするサービスは、著作権で保護される大量のコンテンツを分類し、コンテンツ内においてターゲット広告を行うことも含む、より多くの公衆を惹きつけるため、当該コンテンツを分類し、宣伝することによって、直接的または間接的にそれにより利益を得る目的で、著作権で保護される大量のコンテンツを蓄積し、利用者がアップロードすることを可能とし、共有できるようにすることを、主な目的または主な目的の一つとするサービスである。当該サービスには、その活動から利益を得る目的で、利用者が著作権で保護される大量のコンテンツをアップロードしかつ共有できるようにすること以外の目的を、主たる目的とするサービスを含むものであってはならない。当該サービスには、例えば、欧州議会および欧州理事会の指令(EU)2018/1972(14)*14 の意味における電子通信サービス、BtoBのクラウドサービスプロバイダ、およびサイバーロッカータイプのオンラインのファイル蓄積サイトのような利用者が自己使用目的でコンテンツをアップロードできるクラウドサービス、または、主な活動をオンラインでの小売とし、かつ著作権で保護されるコンテンツへのアクセスを与えるものではないオンラインマーケットプレイスを含む。
    オープンソースソフトウェア開発および共有プラットフォーム、非営利の学術または教育リポジトリ、非営利のオンライン百科事典のようなサービスの提供者も、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダの定義から除外しなければならない。最後に、著作権による高度の保護を保証するため、本指令に定める免責の体制は、著作権侵害を行いまたは促進することを主な目的とするサービスプロバイダに対して適用してはならない。

    (63) オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが著作権により保護される大量のコンテンツを蓄積しおよびアクセスを提供するかどうかは、ケースバイケースで、例えば、サービスの視聴者層およびサービスの利用者がアップロードした著作権により保護されるコンテンツのファイル数などの要素の組み合わせを考慮して、評価されなければならない。

    (64) オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが、利用者によってアップロードされた著作権により保護される著作物または他の保護対象物へのアクセスを公衆に提供する場合に、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが、公衆への伝達行為または公衆に利用可能とする行為を行うものであることを、本指令において明確にすることが適切である。したがって、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、関係する権利者から、特に、ライセンス契約の方法により、許諾を得なければならない。これは、EU法に基づく場合のほかに、公衆への伝達または公衆に利用可能とすることの概念に影響を与えるものではなく、また、著作権で保護されるコンテンツを使用する他のサービス提供者に対し、指令2001/29/EC第3条第1項および第2項を適用する可能性にも影響を与えない。

    (65) オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが、本指令に定める条件に基づき、公衆への伝達行為または公衆へ利用可能とする行為に対して責任を負う場合、指令2000/31/EC第14条第1項は、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダによる保護されるコンテンツの使用について本指令の規定から生じる責任に対し、適用されない。これは、本指令の適用範囲外の目的のために、当該サービスプロバイダに対し、指令2000/31/EC第14条第1項を適用することに、影響を与えてはならない。


    *14 欧州電子通信コードを創設する2018年12月11日欧州議会および理事会指令(EU) 2018/1972(欧州連合官報法令OJ L 321, 17.12.2018, p. 36)

    (66) オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが、自らアップロードしたものではなく、利用者によってアップロードされたコンテンツへのアクセスを提供するとの事実を考慮し、いかなる許諾もない場合のために、本指令の目的で、特別の責任体制を規定することが適切である。これは、著作権侵害に対する責任以外の場合における国内法に基づく救済措置、および国内の裁判所または行政当局がEU法に従って差止めを命じる可能性を、害するものであってはならない。特に、年間売上高が1,000万ユーロ未満であり、かつ、欧州連合内での月間ユニークビジター数の平均が500万を超えない新たなオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダに対して適用される特別の体制は、EU法および国内法に基づく救済措置の利用可能性に影響を与えてはならない。サービスプロバイダに何ら許諾が与えられていない場合、サービスプロバイダは、関係する権利者が特定した無許諾の著作物または他の保護対象物が、そのサービスにおいて利用可能とされないよう、専門家としての注意に求められる高度の業界水準に従って、最善の努力をしなければならない。この目的のため、権利者は、複数の要素のなかでもとりわけ、権利者の規模およびその著作物または他の保護対象物の種類を要素として考慮しつつ、関係する必要な情報を、サービスプロバイダに提供しなければならない。オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが権利者と協力して講じる措置は、著作権を侵害しないコンテンツの利用可能性を妨げる結果となるものであってはならず、そのコンテンツには、その使用が、ライセンス契約、または著作権および隣接権に対する例外もしくは制限に含まれる著作物または他の保護対象物を含む。したがって、当該サービスプロバイダが講じる措置は、当該サービスに関する情報を合法的にアップロードしかつ合法的にそれにアクセスするためにオンラインコンテンツ共有サービスを使用する利用者に対し、影響を与えてはならない。
    加えて、本指令に定める義務は、加盟国に対し、一般的監視義務を課すことを促すものではない。オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが専門家としての注意に求められる高度の業界水準に従って最善の努力を行ったかどうか決定するための評価の際は、サービスプロバイダが、関係するすべての要素および動向、および比例原則に照らし、採用した措置の業界水準および有効性を考慮し、そのウェブサイトにおいて無許諾の著作物または他の保護対象物が利用可能とならないよう、迅速な操作者によりとりうるあらゆる措置を講じたかどうかを、考慮すべきである。当該評価の目的のために、サービスの規模、さまざまな種類のコンテンツが利用可能とされないよう、潜在的な将来の発展を含む、既存の手段に関する進化中の最高水準、サービスのための当該手段の費用など、いくつかの要素を検討しなければならない。著作権により保護される無許諾のコンテンツが利用可能とならないようにするさまざまな手段が、コンテンツの種類に従って、適切かつ比例的であり得、したがって、特定の場合には、権利者の通知によってのみ、無許諾のコンテンツが利用可能となることを回避できる可能性があることを排除することはできない。サービスプロバイダが講じる措置は、追求する目的に関して効果的でなければならないが、無許諾の著作物または他の保護対象物が利用可能となることを回避しかつそれを停止させるという目的を達成するために、必要な範囲を超えてはならない。
    本指令が要求するように、権利者と協力して行った最善の努力にもかかわらず、無許諾の著作物または他の保護対象物が利用可能とされた場合、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、専門家としての注意に求められる高度の業界水準に従って、当該状況を回避するために最善の努力をしたことを証明しない限り、権利者から関係する必要な情報を受領した特定の著作物または他の保護対象物に関し、責任を負わねばならない。さらに、当該状況を回避するため最善の努力がなされたかどうかに関係なく、さらに権利者が関連する必要な情報を事前に提供しているかどうかに関係なく、これらを含め、特定の無許諾の著作物または他の保護対象物がオンラインコンテンツ共有サービスで利用可能とされた場合、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、十分に理由を示した通知を受領した後直ちに、通知された著作物または他の保護対象物へのアクセスを不可能にするため、またはそのウェブサイトからそれらを削除するために、迅速に対応しなかった場合、著作物または他の保護対象物の許諾のない公衆への伝達行為に対し、責任を負わなければならない。さらに、当該オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、許諾のない特定の著作物または他の保護対象物が将来アップロードされないようにするため、権利者から提供された関係する必要な情報に基づき、許諾のない特定の著作物または他の保護対象物が将来アップロードされないよう、最善の努力をしたことを証明できない場合にも、責任を負わなければならない。
    権利者がオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダに対し特定の著作物または他の保護対象物に関する関係する必要な情報を提供しない場合、または権利者が許諾のない特定の著作物もしくは他の保護対象物へのアクセスを不可能にするか、または当該著作物もしくは他の保護対象物を削除することに関する通知をしない場合において、その結果として、当該サービスプロバイダが、専門家としての注意に求められる高度の業界水準に従って、そのサービスにおいて無許諾のコンテンツが利用可能とされることを回避するために最善の努力をすることができない場合、当該サービスプロバイダは、識別されない当該著作物または他の保護対象物を無許諾で公衆へ伝達する行為または公衆へ利用可能とする行為について、責任を負わない。

    (67) 指令2014/26/EU第16条第2項に定めるところと同様、本指令は、新たなオンラインサービスに関する規制を定める。本指令に定める規制は、新たなビジネスモデルを発展させるために利用者によってアップロードされたコンテンツを利用して活動する、スタートアップの企業の特定の状況を考慮することを意図している。視聴者が限られ売上高が少ない新たなサービスプロバイダに適用される特別の体制は、真に新たな企業に利益をもたらすものであり、したがって、欧州域内において、それらのオンラインサービスが最初に利用可能になった後3年間、適用を停止しなければならない。当該体制は、当初の3年間を超えて、その利益を拡大することを目的とする措置の適用によって、濫用的に用いられてはならない。特に、それは、当該体制から利益を受けられなかったかまたはもはや受けられない既存のオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダの活動を継続する中に加えられる、新しく創造されたサービス、または新たな名称で提供されるサービスに対して、適用されてはならない。

    (68) オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、協力の中で採用された措置に関し、権利者との関係において透明性を示さなければならない。オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、各種の行為を行うことができることから、権利者に対し、その要求に従って、行われる行為の種類およびその実行方法について、有用な情報を提供しなければならない。当該情報は、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダの営業秘密を害することなく、権利者に対し、十分な透明性を提供するために、十分に詳細でなければならない。しかし、サービスプロバイダは、権利者に対し、特定された各著作物または他の保護対象物に関し、詳細で個別化された情報を提供する責任を負うものではない。これは、サービスプロバイダと権利者との間で契約が締結される場合、提供される情報について、より特別な規定を含み得る契約上の合意を害するものであってはならない。

    (69) オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが、そのサービス利用者によってアップロードされたコンテンツをそのサービスにおいて利用することに関し、特にライセンス契約により許諾を得る場合、当該許諾は、サービスプロバイダに付与される許諾の範囲内で利用者によってアップロードされたコンテンツに関し、著作権に関連する行為も対象とするものでなければならないが、それは、当該利用者が営利を目的とすることなくそのコンテンツを共有する場合のように、非商業的目的で行動する場合、または当該許諾の対象となる利用者によって行われる著作権に関係する行為に関して、利用者のアップロードによって生じる収入が重要ではない場合に限る。権利者が、利用者に対し、オンラインコンテンツ共有サービス上で、著作物または他の保護対象物をアップロードし、および利用可能とすることを明示的に許諾した場合、サービスプロバイダの公衆への伝達行為は、権利者によって与えられた許諾の範囲内において認められる。しかし、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、その利用者が関連するすべての権利をクリアランスしたとの、いかなる推定も享受しない。

    (70) 権利者と協力してオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが講じる措置は、著作権に対する例外または制限の適用、特に、利用者の表現の自由を保証する例外または制限の適用を害するものであってはならない。利用者は、引用、批評、レビュー、風刺、パロディ、または模作の特定の目的で、利用者が生成したコンテンツをアップロードして利用可能とすることが認められなければならない。この観点は、一方で、特に表現の自由および芸術の自由という欧州連合基本権憲章(以下「憲章」)に定める基本的権利と、他方で、知的財産を含む所有権との間の均衡を確保するために、特に重要である。したがって、当該例外および制限は、利用者が欧州連合全体で統一的な保護を受けることを保証するために、義務的とされなければならない。重要なことは、当該特定の目的による使用を支援するため、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダが、効果的な不服申立ておよび是正手続きを導入することを保証することである。
    オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダは、特に、アクセスができなくなったまたは削除されたアップロードされたコンテンツに関し、利用者が著作権の例外または制限を利用者が享受できる場合、アップロードされたコンテンツに関し講じられた措置について、利用者が不服を申し立てることができるよう、効果的かつ迅速な不服申立ておよび是正手続きを導入しなければならない。当該手続きに基づきで申し立てられた不服は、不当に遅滞することなく処理されなければならず、自然人による審査の対象とされなければならない。アップロードされたコンテンツへのアクセスを不可能にする、または削除するなど、権利者が、サービスプロバイダに対し、利用者によってアップロードされたコンテンツに関し、措置を講じるよう要求する場合、権利者は、その要求を十分に正当化しなければならない。さらに、欧州議会および欧州理事会(15)*15 指令2002/58/ECおよび欧州議会および欧州理事会規則(EU)2016/679(16)*16 に従う場合を除き、協力は、個人の利用者の特定も、個人データ処理も、もたらすものであってはならない。加盟国は、また、利用者が紛争解決のために、裁判外の是正手続きにアクセスできるよう、保証しなければならない。当該手続きは、紛争を公平に解決することを可能とするものでなければならない。利用者は、また、著作権および隣接権に対する例外または制限による救済を主張するために、裁判所または他の管轄を有する司法当局にアクセスできなければならない。

    (71) 本指令の発効日後、できるだけ早く、欧州委員会は、加盟国と協力し、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダと権利者との間の協力義務の統一的な適用を確保するため、および専門家としての注意に求められる適切な業界水準に従った最善の慣行を確立するため、利害当事者間の意見交換を組織しなければならない。欧州委員会は、当該目的で、利用者団体や技術プロバイダを含む、関係する利害当事者と協議し、市場の発展を考慮しなければならない。利用者団体は、また、オンラインでコンテンツを管理するためにオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダによって実行される行為に関する情報にも、アクセスできなければならない。


    *15 電気通信分野における個人データ処理およびプライバシー保護に関する2002年7月12日欧州議会および理事会指令2002/58/EC(プライバシーと電気通信指令)(欧州連合官報法令OJ L 201, 31.7.2002, p. 37)
    *16 個人データ処理に関する自然人の保護および当該データの自由移動に関する、ならびに指令95/46/ECを廃止する2016年4月27日欧州議会および理事会規則(EU) 2016/679(データ保護一般規則)(欧州連合官報法令OJ L 119, 4.5.2016, p. 1)

    (72) 著作者および実演家は、対価として報酬を受領する利用のため、それらが所有する企業を通して行う場合も含め、ライセンスを付与しまたはその権利を譲渡する場合、傾向として契約の立場上より弱い位置づけにあり、それら自然人は、EU法に基づき調和した権利を十分に享受できるよう、本指令に定める保護を必要とする。契約の相手方がエンドユーザーとして行為し、かつ、例えば特定の雇用契約における場合にあり得るが、著作物または実演自体を利用しない場合には、この保護の必要性は存在しない。

    (73) 著作者および実演家の報酬は、著作物または他の保護対象物全体に対する著作者または実演家の寄与、および市場慣行や著作物の実際の利用のような、当該案件の他のすべての状況を考慮し、ライセンスされたまたは譲渡された権利の現実的または潜在的な経済的価値に対し、適正かつ比例的でなければならない。一括払いも比例的な報酬となりうるが、それは基本原則であってはならない。加盟国は、各分野の特性を考慮し、一括払いの金額が支払われる特定の場合を自由に定めることができなければならない。加盟国は、当該手続きが適用されるEU法に合致するものであるかぎり、団体交渉やその他の手続きを含みうる、既存のまたは新たに導入されるさまざまな手続きを通じて、適正かつ比例的な報酬の原則を自由に国内法において実施できなければならない。

    (74) 著作者および実演家は、EU法に基づいて調和したそれらの権利の経済的価値を評価するための情報が必要である。これは、自然人が、報酬を対価とする利用のために、ライセンスを付与しまたは権利を譲渡する場合に、特にあてはまる。利用が停止された場合、または著作者もしくは実演家が、一般大衆に対し、対価としての報酬なくライセンスを付与した場合、その必要性は存在しない。

    (75) 著作者および実演家は、その権利をライセンスしまたは譲渡する場合、傾向として契約の立場上より弱い位置づけにあるため、そのライセンスまたは譲渡の対価として受領した報酬との関係において、その権利の存続期間にわたる経済的価値を評価するための情報が必要であるが、多くの場合、透明性の欠如に直面している。したがって、契約の相手方または権利の承継人が適切かつ正確な情報を共有することは、著作者および実演家の報酬を管理する体制の透明性と衡平性にとって、重要である。当該情報は、最新のデータへアクセスできる現在のものであり、著作物または実演の利用に関連するものであり、かつ、適宜、派生商品から生じる収入を含む、当該場合に関連するすべての収入源を対象とするような完全なものでなければならない。利用が継続する限り、著作者および実演家の契約の相手方は、それらが入手しうる全世界のあらゆる利用方法および利用から生じるすべての収入に関する情報を、関連する分野において適切な周期で、ただし少なくとも毎年1回、提供しなければならない。情報は、著作者または実演家が理解しうる方法で提供されなければならず、かつ、それは、問題となる権利の経済的価値を効果的に評価できるものでなければならない。ただし、透明性義務は、著作権に関する権利が関係する場合にのみ適用されるべきである。著作者および実演家が、その著作物および実演の利用に関し、継続的に情報の提供を受けるために必要となる、連絡先および報酬に関する情報のような、個人データ処理は、規則(EU)2016/679第6条第1項(c)に従って実行されなければならない。

    (76) 権利を利用する他方当事者に対し、権利がサブライセンスによりライセンスされている場合においても、利用に関する情報が著作者および実演家に対して適切に提供されることを保証するため、本指令は、著作者および実演家に対し、直接の第1の契約の相手方がそれらの有する情報を提供したが、当該情報が、その権利の経済的価値を評価するために十分でない場合において、権利の利用に関する追加的な情報が提供されるよう、要求する資格を有することを認める。当該要求は、サブライセンシーに直接的に、または著作者および実演家の契約の相手方を通じて行われなければならない。著作者および実演家、ならびにそれらの契約の相手方は、共有する情報を秘密として保持することに同意することができなければならないが、著作者および実演家は、本指令に基づく権利を行使する目的で、常に、共有する情報を用いることができなければならない。加盟国は、EU法に従って、著作者および実演家に対して透明性を確保するために、さらなる措置を規定する可能性を有するものとする。

    (77) 本指令に定める透明性義務を国内法において実施する場合、加盟国は、音楽分野、視聴覚分野、出版分野など、様々なコンテンツの分野の特性を考慮しなければならず、当該分野ごとに特有の義務を決定するに際し、関係するすべての利害当事者が関与しなければならない。著作物または実演の全体に対する著作者および実演家の寄与の重要性も、適宜、考慮されなければならない。団体交渉は、関係する利害当事者が、透明性に関する合意に達するための選択肢のひとつとして考慮されねばならない。当該合意は、著作者と実演家に対し、最低限の要求と、少なくとも同じレベルの透明性か、またはより高いレベルの透明性を保証するものでなければならない。報告の作成に関して、既存の報告実務を透明性義務に適応させることができるよう、移行期間を定めることが適切である。権利者と集中管理団体、独立の管理者、または指令2014/26/EUを実施した国内規定に基づく他の者との間で締結された契約に関し、これらの者や団体は、指令2014/26/EU第18条に基づく透明性義務に既に従っているため、透明性義務を適用することは必要ではない。指令2014/26/EU第18条は、複数の権利者を代理して、権利者の集団的利益のために、著作権または著作隣接権を管理する者に適用される。しかし、権利者と自らの固有の利益のために行動する契約の相手方のうちのある者との間で締結される個別に交渉された契約は、本指令に定める透明性義務に従わなければならない。

    (78) 欧州連合レベルで調和した権利の利用に関する特定の契約は、長期間に亘るものであり、権利の経済的価値が当初の見込額より著しく高いことが判明した場合においても、著作者および実演家が契約の相手方またはその権利の承継人との間で再交渉する機会をほとんど与えていない。したがって、加盟国において契約に適用される法を害することなく、ライセンスまたは権利の譲渡に基づき当初合意された報酬が、著作者または実演家の契約の相手方による著作物または実演の固定の後の利用から生じる関係する収入と比較し、明らかに著しく低いと判明した場合に関して、報酬調整手続きを規定することが適切である。報酬が著しく低いかどうかを評価するために、適宜、派生商品から生じる収入を含む、問題となる場合に関連するすべての収入が、考慮されなければならない。状況を評価するにあたっては、著作者または実演家の寄与、さまざまなコンテンツの分野における特性および報酬に関する実務、ならびに契約が団体協約に基づくかどうかを含む、それぞれのケースに特有の状況を考慮しなければならない。EU法を遵守した上での国内法に従って正式に委任された著作者および実演家の代表者は、適宜、他の著作者または実演家の利益も考慮しつつ、契約調整の要求に関し、1人または複数の著作者または実演家に対し、支援を提供しなければならない。
    それらの代表者は、可能な限り長く、代表される著作者および実演家の識別情報を守らなければならない。当事者が報酬の調整に関する合意に至らない場合、著作者または実演家は、裁判所または他の管轄のある当局に対し、法的手続きをとる権利を有するものでなければならない。当該手続きは、指令2014/26/EU第3条(a)および(b)に定義される者、または指令2014/26/EUを実施した国内規定に基づく他の者によって締結された契約には、適用されない。

    (79) 著作者および実演家は、多くの場合、契約の相手方当事者に対し、裁判によりその権利を主張することに消極的である。したがって、加盟国は、透明性義務および契約調整手続きに関し、著作者および実演家またはそれらを代理する代表者による請求を取り扱うADR手続を規定しなければならない。この目的のために、加盟国は、新たな組織または手続きを設けるか、または本指令に定める条件を満たす既存の組織または手続きに委ねることができなければならないが、これは、国の司法制度に属する場合を含め、これらの組織または手続きが業界主導であるか、公的機関主導であるかを問わない。加盟国は、紛争解決手続きの費用をどのように分担させるかにつき、柔軟に決定できなければならない。当該ADR手続は、裁判所に訴訟を提起することにより、その権利を主張しかつ防御する当事者の権利を害するものであってはならない。

    (80) 著作者および実演家がその権利をライセンスまたは譲渡する場合、その著作物または実演が利用されることを期待する。しかし、その権利をライセンスしまたは譲渡した著作物または実演が、まったく利用されないこともある。これらの権利が独占的に譲渡された場合、著作者および実演家は、その著作物または実演の利用につき、別の相手方に打診することはできない。この場合、合理的期間の経過後、著作者および実演家は、他の者にその権利を譲渡またはライセンスすることを可能とする権利の取消手続きを利用できなければならない。著作物または実演の利用は分野により多様となりうることから、視聴覚分野のような分野の特性や、特に取消権の行使期間を定めるにつき、著作物または実演の特性を考慮するために、国内レベルで特別の規定を定めることができる。ライセンシーと権利の譲受人の正当な利益を保護するため、および濫用を防止するため、ならびに、著作物または実演が実際に利用される前に一定の期間が必要であることを考慮し、著作者および実演家は、ライセンス契約または譲渡契約の締結後、一定期間の後にのみ、特定の手続要件に従って、取消権を行使できるものでなければならない。加盟国は、複数の著作者または実演家が関与する著作物または実演の場合、個別の寄与の相対的重要性を考慮し、取消権の行使を規定することが認められなければならない。

    (81) 本指令に定める透明性、契約調整手続き、およびADR手続きに関する規定は、義務的な性質のものでなければならず、著作者、実演家およびその契約の相手方との契約であるか、または、秘密保持契約のような当該契約の相手方と第三者との契約であるかを問わず、当事者は当該規定の適用を排除してはならない。結果として、欧州議会および欧州理事会規則(EC)No 593/2008第3条第4項は(17)*17 、準拠法を選択する際、所在に関連する他のすべての要素が一または複数の加盟国に位置づけられる場合、当事者による加盟国の準拠法以外の準拠法の選択は、法廷地の加盟国によって国内法化された本指令に定める透明性、契約調整手続き、およびADR手続きに関する規定の適用を害するものではない、との意味において適用されなければならない。

    (82) 本指令のいかなる規定も、著作権分野におけるEU法に基づく排他的権利の権利者が、著作物または他の保護対象物の無償の使用許諾(すべての利用者の利益に資する非独占的な無償のライセンスによることを含む)を妨げるものとして、解釈されてはならない。

    (83) 本指令の目的、つまり域内市場における技術の進歩および保護されるコンテンツの新たな流通網を尊重するため、著作権分野における欧州連合の枠組の特定の側面を現代化することは、加盟国が十分に達成できるものではないが、その規模、効果、国境を越える様相によれば、むしろ欧州連合レベルで、それがよりよい状態になり得るものであるから、欧州連合は、TEU第5条に定める補完性の原則に従って、措置を講じることができる。当該条文に定める比例原則に従って、本指令は当該目的を達成するために必要な範囲を超えるものではない。

    (84) 本指令は、基本的権利を尊重し、特に憲章で認められる原則を遵守する。したがって、本指令は、当該権利および原則に従って解釈され、適用される。

    (85) 本指令に基づくすべての個人データ処理は、特に、憲章第7条および第8条にそれぞれ規定される個人と家族に関するプライバシーに対する権利および個人データ保護に対する権利を含む、基本的権利を尊重するものでなければならず、指令2002/58/ECおよび規制(EU)2016/679を遵守するものでなければならない。

    (86) 説明文書(18)*18 における2011年9月28日の加盟国および欧州委員会の合同政治宣言に従って、加盟国は、それが承認された場合には、指令の要素と国内法化した国内の措置との対応関係を説明する1または複数の文書を、その国内法化の措置の通知文書に添付することを約する。本指令に関して、立法者は、当該文書の伝達が正当化されるとみなす。
    本指令を採択した:



    *17 契約上の債務の準拠法に関する2008年6月17日欧州議会および理事会規則(EC) No 593/2008(ローマⅠ)(欧州連合官報法令OJ L 177, 4.7.2008, p. 6)
    *18 欧州連合官報告示OJ C 369, 17.12.2011, p. 14.



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