第5章 著作権の集中管理制度のあり方
    (仲介業務法等との規制に関する比較表については、資料9を参照)
    第1節 集中管理に関する法的基盤整備の必要性

    (集中管理の公益性)
    第1章第3節「集中管理の意義」で説明したように、著作物の利用手段の開発普及に伴い、音楽、写真、美術、文芸・学術論文、映像作品などの様々な著作物が多様な方法でしかも広い範囲で大量に利用される時代になっている。また、近年のデジタル・ネットワーク技術の発展・普及には急なものがあるが、これらの技術がこの傾向に拍車をかけており、著作物の利用可能性が従来に比べて飛躍的に拡大している。

    このように著作物の利用状況は大きく変化しつつあるが、これを権利処理の面から見れば、従来からの演奏、放送、録音録画等の利用態様への対応も含め、自動公衆送信等の新しい技術を活用したメディアの普及を促進するためには、簡易迅速な許諾手続により権利処理ができるシステムの構築が社会から強く求められている。

    技術の進展は個別管理による対応の可能性を拡大させる一面も有しているが、権利者として多様化する著作物の利用状況に照らして、効率的・効果的な権利の管理のために集中管理をより積極的に推進することも十分考えられる。

    集中管理は、著作権を保護する一方で利用の円滑化を図る最適な方法の一つと言われている。以上のような状況を想定すれば、今後も集中管理はその形態を変化させつつも、円滑な権利処理の手段の一つとしてその有効性は社会的に認められ続けるものと考えられる。

    著作物の利用が国民生活にとって不可欠の時代にあって、国民が多様なメディアを通して著作物を享受できるようにするため、我が国において集中管理団体が健全に発展し、集中管理に関する円滑な利用秩序が形成されることは、権利者・利用者のみならず、著作物を享受する国民にとっても有益なことである。

    このことから、集中管理は権利者の保護を実効あらしめ、創作の振興に資するものであると同時に、利用者の利便を図って広く社会の利益となるものであって、公益性のある事業であると位置付けることができ、その健全な発展は、我が国文化の発展向上に寄与するものと考えられる。

    (法的基盤整備の必要性)
    そこで集中管理の法的基盤整備の必要性であるが、集中管理団体の業務の開始及び実施について次のような点に配慮すべきである。
    集中管理団体は、委託者の著作権(財産)を預かりそれを利用者に利用させ、それから得た使用料を委託者に分配することを業務にしている。集中管理団体が管理業務を開始するに当たって、権利者が安心して自らの著作権(財産)を委託することのできる基盤を有していることが重要である。

    集中管理の形態の中でも信託などにより権利行使を集中管理団体に一任する場合は、個々の許諾手続は委託者が関与しないところで行われるため、使用料の徴収及び分配が適切に行われることについて権利者の信頼を確保する必要がある。特に集中管理団体が管理する全ての著作権を包括的に許諾し収入の一定割合など包括的に使用料を徴収する包括許諾方式の場合は、分配資料の収集・加工・計算・分配などの一連の分配作業があるため特に問題となる。

    したがって、委託者の権利を適切に管理するためには、集中管理団体の組織、人的構成、経理的基礎などについて少なくとも最低限の業務基盤が確保されることが望ましいこと
    個々の著作物によって差はあるものの、著作物の場合、利用者は個々の著作物の個性に着目して利用する傾向が強いので、他の著作物によって代替させられない場合があり、当該著作物についての独占的な地位を背景として、許諾をするかどうかや使用料額をいくらにするかなどについて権利の濫用が行われる可能性があることから、集中管理団体の業務実施に際して公正妥当な許諾システムが形成され、紛争が生じた場合にはそれを解決するための一定の法的な仕組みが確保されることが望ましいこと
    ドイツ、フランス等における歴史的経緯に照らしても、集中管理団体は単一化やそれに準ずる方向へ推移してきた事実があり、今後規制緩和を行った場合でもなお、分野によっては独占的な状態が維持されることも十分予想され、このような場合に公正妥当な権利の管理を確保するための仕組みが必要であること
    著作物は無体物であり対象物の引渡しなどがないこと、特許権などと異なり、権利者を公示する制度がないことなどから、権利者側から見ると集中管理団体が無権限で自己の権利を管理していないかどうか、利用者側から見ると許諾を受けようとする著作物の著作権を集中管理団体が本当に管理しているかどうかが、また、権利の移転を伴う管理については委託者に無断で第三者に対し権利の処分が行われないかどうかが危惧されるところであり、集中管理団体の業務実施に際し、権利者、利用者双方のこれらの懸念を取り除くための一定の法的な仕組みが確保されることが望ましいこと
    前述した外国の例を見ても、集中管理に関する法的基盤整備に努めている国が多いこと
    などから、我が国においても、集中管理団体の健全な発展を実現するためには、集中管理について一定の法的仕組みを整備することは必要なことであると考える。

    第2節 法的基盤整備に関する基本方針

    (法的基盤整備の基本方針に関する留意点)
    法的基盤整備の基本方針の検討に当たっては、次のような点に留意する必要がある。
    第一に政府全体の規制緩和政策との関係である。政府としては、我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立って自由で公正な経済社会としていくとともに、行政の在り方については、いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本として、経済的規制は原則廃止、社会的規制は必要最小限に限定との原則の下、規制の撤廃又はより緩やかな規制への移行などを柱とする規制緩和推進計画を策定している。集中管理に対する規制の方法や範囲などの問題についても、この政府の基本方針を踏まえて考える必要があり、不必要な規制や過度な規制には注意しなければならない。
    第二に競争原理の導入である。仲介業務法制定時の解釈及び著作権制度審議会答申では、集中管理団体は独占的であることを想定していた。しかしながら、例えば音楽の演奏の分野のように実際上集中管理団体が独占的存在である方が権利者及び利用者双方にとって有益であると考えられる分野があるとしても、全ての分野についてこれが妥当するとはいえず、むしろ権利者又は利用者に対する効率的で高い質のサービスを実現するためには積極的な競争原理の導入が必要であるとの指摘もあり、原則として集中管理団体の新規参入の機会を認める方向が適当である。
    第三に権利者及び利用者の保護の確保である。規制緩和の方向にあってもこれらの者の利益を確保するための必要最小限度の規制は必要であり、権利者及び利用者の利益を保護する仕組みを整え、集中管理団体の業務の公正妥当な遂行の確保等を図るとともに、よって適切な競争秩序を整えることを目的とする緩やかな規制とすることが適当である。
    第四に既成の秩序との関係である。仲介業務法の下で、昭和14年以来集中管理に対する規制が行われてきた。その結果、現在の集中管理団体は、一般的に権利の集中度が高く、中には事実上市場を独占している団体も存する。このような既成事実を考慮すれば、一切の規制を撤廃することは、かえって著作権の管理に混乱を招くことになり権利者及び利用者、ひいては一般国民の利益が損なわれることになりかねず、この現状に十分留意する必要がある。

    第3節 法的基盤整備の対象とすべき範囲
    法的基盤整備の対象とすべき範囲については、次のア 著作物の種類、イ 利用の態様、ウ権利委託の態様等の3つの視点から検討する。
    ア 著作物の種類
    著作物の種類によって実態として集中管理の必要性が高い著作物のみを対象とするかどうかである。
    著作権法上、音楽、小説、脚本、論文、美術、写真、映画、コンピュータプログラムなど様々な著作物が存在する。現行の仲介業務法は、集中管理の実態に照らして必要性の高い分野のみを対象とするという考え方を採っているが、
    (ア)メディアの発達によってその必要性は急速に変化することから最初から著作物の種類によって規制対象を限定すると時宜を得た対応ができなくなるおそれがあること
    (イ)集中管理の実施の理由は様々であり、著作物の種類等によって必要性等を判断することは困難であること
    (ウ)各種の著作物が統合的に利用される傾向が強くなっており、著作物の種類によって区別することは合理性がないと考えられること
    などから、著作物の種類により区別する必要はないと考える。

    イ 利用の態様
    実際に集中管理の必要性が高い利用態様のみを対象とする必要があるかどうかである。
    著作権が働く利用態様には、出版・複写・録音録画などの複製、放送・有線放送などの公衆送信、演奏、貸与など様々である。これらのうち、必要性の高いものなどのみを対象とするという考え方もあるが、この点についても、「ア 著作物の種類」の場合と同様に利用態様で区別する合理性はないと考える。

    ウ 権利委託の態様等

     (考え方を整理した図については、資料10を参照)
    第三に、権利委託の態様等によって区別すべきか否かであるが、これについては次のように考えられる。

    (ア) 権利委託の対象者による区別について

    (特定者・不特定者による区別)
    まず、権利委託に際して、信託、代理等の引受けの対象者が特定者か不特定者かにより区別するかどうかである。

    特定者からの信託、代理等の引受けとは、権利者の個性などの個別の事情に着目して行う場合をいい、例えば、何人かの著作者が自らの著作権を管理するために設立した団体に自らの著作権を委託する場合や将来性があると思われる少数の著作者だけを選んで著作権の委託を受ける場合などがこれに該当する。

    一方、不特定者からの信託、代理等の引受けとは、著作を業としている者など一定の資格要件があったとしても当該要件に該当するものであれば誰でも著作権を預けることができる場合をいい、日本音楽著作権協会などの現行の仲介業務の許可団体がこれに該当する。

    (委託者の多数・少数による区別)
    また、この区別に加えて、多数者の管理を目的とするか少数者の管理を目的とするかにより区別するかどうかについても問題となる。

    不特定者を対象としている場合は通常多数者の管理を目的とする場合であるが、特定者の場合は少数者と多数者の管理を目的とする場合の両方があると考えられる。多数者の管理を目的として不特定者から信託、代理等を引き受ける場合は、現行の仲介業務の許可団体のように典型的な集中管理であり、これが対象になるのはいうまでもない。

    一方、特定者からの引受けの場合、少数者の管理を目的とする場合については、一般に集中管理には該当せず、個別管理と同視すべき管理がほとんどであると考えられるので対象外とすることが適当である。多数者の管理を目的とする場合については、特定者からの引受けであっても、多数者からの管理を目的にしている以上、例えば委託者が多くなれば多くなるほど実務上は委託者と受託者の委託契約は標準化されることになり、また利用者との関係でも一律使用料及び標準利用約款による処理に近づく場合が多いと考えられる。そうすると、このような場合、業務の態様によっては、特定・不特定の区別が曖昧になる一方で法的基盤整備の必要性の面では両者を区別する必要性がなくなることになるので、特定者から引受けであっても多数者の管理を目的にする場合は一応対象と考えるべきであろう。なお、多数者と少数者の区分をするに当たっては、対象範囲の明確化のため、例えば管理する権利者の人数で区分けするなど具体的な基準によることも考慮すべきであると考える。

    (イ)権利委託の内容による区別
    次に、権利委託の内容として、一任型の集中管理と非一任型の集中管理で区分するかどうかである。
    一任型の集中管理とは、権利者が集中管理団体に権利行使を一任し、集中管理団体は、委託者の意思にかかわらず、当該団体の意思によって許諾するかどうか、また使用料を含む許諾条件をどうするかを決定し、著作権の管理を行うことをいう。この場合、通常標準化された委託契約約款により権利の委託を受けることになり、利用者との関係でも標準化された使用料規程に基づき許諾契約を締結する場合が多い。一任型の集中管理の許諾方式としては、個々の著作物について録音・演奏等の一定の利用行為ごとに許諾を与える個別許諾方式と管理している全著作物の一定の利用行為に対して許諾を与える包括許諾方式による場合の二通りがある。一任型の集中管理の具体例としては、日本音楽著作権協会が該当する。

    一方、非一任型は、許諾するかどうか使用料を含めた許諾条件の決定が委託者に留保されている場合である。この場合は、個別許諾方式を原則とし、利用の申込みの都度委託者の意向が反映されることになる。翻訳権・上演権等の管理会社(翻訳エージェンシー)、キャラクター管理会社、出版物の二次利用(翻訳、複製等)の仲介を行う出版社の中には非一任型のものが多い。

    一任型は集中管理の典型的な例でありこれを対象にすることは異論のないところであろう。一方、非一任型については、一般に権利者の意思が反映され、また利用の許諾と使用料の徴収分配の関係が単純であり、権利行使に当たっては集中管理団体が恣意的に権利行使することは少ない。この場合、委託契約の中で委託者に帳簿の監査権限を設ける等の措置により集中管理団体の使用料の徴収分配が適正に行われたかを詳細に調査することも可能であり、不正が生じる可能性は低くなることも考えられる。

    したがって、次のような要件を満たす非一任型の集中管理については、対象外とすることが適当である。
    許諾方式は、個々の著作物について特定の利用ごとに許諾し、使用料を徴収する個別許諾方式であること
    許諾するかどうか、使用料の額を含む許諾条件をどうするのかの決定権が委託者に留保されていること
    このように権利委託の内容を一任型に限定した結果として、実際上は信託による管理はおおむね規制の対象となり、反対に媒介による管理はおおむね規制の対象外となると考えられる。また、代理・取次の場合は契約内容によって区別されると思われる。

    なお、前述の「日本映像ソフト協会個人向けビデオレンタルシステム」のように、許諾は同協会が行うものの、使用料の額の決定には一切関与せず、委託者である各ビデオメーカーに委ねられている場合については、許諾対象ビデオソフトは、ビデオメーカー等とレンタル店の商品供給契約により引渡しが行われるため、実際上は個別許諾方式と変わらないこと、使用料の額に不満のあるレンタル店は取引をしないので、事実上許諾をするかどうかの決定権は、各ビデオメーカーに留保されているのと同じである。したがって、このようなシステムについては、非一任型の集中管理と同視しうるものとして、対象外として差し支えないと考える。

    (ウ)その他
    集中管理の業務実施に当たり、登録制等の業務実施規制を行う場合については、できるだけ対象範囲を狭めるべきであるとの意見がある。一任型の集中管理を前提に、このような考えを基にして更に要件を絞り込むと対象範囲の区分としては次のとおりとなる。
     
    包括許諾方式と個別許諾方式とに分け、包括許諾方式だけを対象とする考え方
    個別許諾方式は、徴収と分配の関係が単純であり、委託契約の中で帳簿の監査権限を確保するなどにより業務の適正化は確保できることから対象外とするという経理の適正化に重点を置いた考え方である。
    信託だけを対象とするとの考え方
    著作権が移転し排他的管理権を持つ信託については集中管理団体による恣意的な権利行使が起こる可能性があるものの、代理等については、非排他的管理権であるので、集中管理団体と許諾条件等について協議が整わない場合は委託者から直接許諾をとることが可能であり、集中管理団体による恣意的な権利行使は少なくなるので対象外とするという考え方である。
    一任型の中でも、信託による集中管理を原則的な規制対象としつつも、例外的に包括許諾方式による代理等については対象に含めるという考え方
    aとbの考え方を加味した考え方である。

    エ 音楽出版者等の取扱い
    音楽出版者は、レコード原盤の作成・提供や音楽の著作物の広告宣伝、売込み等により著作物の創作・利用を促進して、積極的に収益を求めることを業としており、我が国でもその業務は定着している。音楽出版者は、通常著作者から著作権の譲渡を受け著作権を管理しているので、自己のために自らの権利を行使するという性格を持つ一方で、その譲渡契約の内容は、一般に著作者に対する使用料の支払いや契約解除(権利の返還)などについての定めがあり、音楽出版者が第三者(現在は日本音楽著作権協会)から得た使用料は契約内容に従い著作者にも一部分が支払われることから、著作者が委託した著作権を管理しているという見方もできる。

    前述したように現行仲介業務法では、このような音楽出版者の集中管理についても、規制の対象であると解釈しており、また著作権制度審議会答申においても、音楽出版者が行う演奏権等の直接行使については規制の対象とすべきであるとしている。

    しかしながら、音楽出版者は著作権者であるという捉え方が一般的であり、音楽出版者の権利行使は著作権者としての行使として考えられており、規制をしている国はほとんどなく、このような国際慣行を考慮すれば、一般的に音楽出版者の管理業務を規制するのは慎重に考える必要がある。

    音楽出版者の業務の実態及び非一任型の集中管理団体との均衡、また緩やかな規制を基礎としていることを考えれば、少なくとも個別許諾方式による業務については規制の対象外とすることが適当である。さらに音楽出版者による著作権管理は、権利者自身による個別管理と理解すれば、包括許諾方式による管理についても規制の対象外とも考えられる。

    なお、キャラクター管理会社についても、非一任型の集中管理だけでなく、音楽出版者と同様の管理実態が見られるところであるが、同様の取扱いとすることが適当である。

    オ まとめ
    以上のとおり、法的基盤整備の範囲に関する基本方針としては、デジタル化・ネットワーク化が急速に進むであろう新しい社会を見据え、仲介業務法及び著作権制度審議会答申のように、社会の実態等から見て集中管理の必要性が高い分野を対象とするという考え方はとらず、著作物の種類や利用態様により区別はしないこととする。

    しかし、権利委託の態様等による区別としては、不特定又は特定多数の委託者から信託・代理等を引き受ける場合であって、一任型の集中管理を規制の対象とし、これに該当しないものについては対象としないこととするが、一任型の集中管理の中で更に限定するかどうかについては、集中管理団体の現状等を踏まえた上で、関係者の意見も聴取し更に検討を行うものとする。

    なお、音楽出版者等の行う集中管理の中で、著作者との契約の実態等から、著作権者としての権利行使と同視しうるものについては、原則として対象外とすることとする。

    第4節 具体的な法的基盤整備の内容
    1 業務の実施

    (1) 業務実施の開始
    1. 規制の必要性
    集中管理団体が業務を開始するに当たって、何らかの規制をするかどうかが問題となる。
    外国では、著作権制度の中で、集中管理団体の設立や業務の実施について規制している国と規制していない国とがあるが、規制していない国においても、例えばアメリカ合衆国のように反トラスト法により強い制約がある国もある。

    第1節及び第2節における考察を踏まえて、集中管理団体の適正な業務執行を確保する等の観点から、緩やかな規制を基本として、具体的な法的基盤整備の方向性について検討する。

    2. 同一分野における集中管理団体の参入規制
    (外国の法制)
    イタリアは著作権法で特定の集中管理団体(CIAE)の独占を認めており(第180条)、またスイスも著作権法で原則として著作物の類型ごとに1つの団体が認められるとしている(第42条第2項)。フランスは集中管理団体は権利者団体に限るので事実上単一又はごく少数の団体しか認められない仕組みになっている。ドイツ及びスペインは、集中管理団体の設立及び業務の実施に政府の規制があるが、法律上1つの団体による独占を認めてはいない。ただし、実態面で見ると、例えば音楽の分野で演奏権と録音権の分野に分かれて集中管理団体が存在する国があるものの、多くの国は分野ごとに1つ又はごく少数の団体である。また、演奏権と録音権の分野に分かれている国においても、例えば、イギリス、フランスのように事実上は単一の団体として運営されているものもある。我が国の実状とよく比較されるアメリカ合衆国は、演奏権及び録音権の分野でいくつかの集中管理団体が存在するが、同一分野でいくつかの団体が存在する国は、アメリカ合衆国、ブラジル、コロンビアなど少数の国にとどまっており、例外的な国である。

    (参入規制の原則的廃止)
    同一分野において単一又はごく少数の集中管理団体による管理が適切であるとする立場から、参入規制を緩和した場合、次のような問題点が指摘されている。
    許諾手続きが複雑化・煩雑化する。コンサート事業者、放送局、レコード会社など著作物の大口利用者にとっては、それぞれの団体と許諾条件について交渉する必要が生じ、交渉に要する経費の高騰を招く。また、その経費は消費者に転嫁されることから消費者のコスト増にもつながる。(主に利用者側)
    使用料が低下する。複数団体だと使用料の値上げや新しい利用態様に関する使用料の設定について、いずれかの集中管理団体が妥協をすると他の団体もそれ以上の主張ができなくなる。(主に権利者側)

    また、反対に演奏、放送などのように収入の一定率により使用料を定めているような場合(包括許諾方式による契約)については、それぞれの団体と契約を締結する必要があり、使用料がかえって高騰する。(主に利用者側)
    分配のためのデータベース作成に対する二重投資などにより管理コストが高騰する。イギリス、フランスなどの演奏権と録音権とに集中管理団体が分かれている国においても、管理コストの面から、事実上は1つの団体として活動している例がある。(主に権利者側)
    管理の合理化により不採算部門が切り捨てられる可能性がある。集中管理は公益性のある事業であるので、権利保護のためには、たとえ使用料を徴収するために過大の管理費がかかったとしても、違法利用を黙認するようなことはするべきではない。(主に権利者側)
    これに対し、参入規制を緩和すべきであるとする立場から、次のような意見が表明されている。
    権利行使の委託先の選択の幅が広がると、例えば著作物等に関する情報提供が充実するなど、権利者に対するサービスが向上する。また、競争原理の導入によって合理的、効率的な管理が徹底し、管理コストの低下が実現される。(主に権利者側)
    使用料については、集中管理団体の独占を排除することによって、需要と供給の相互作用により、効果的、効率的に使用料が決まる。よって、競争力のある著作物等を有している権利者は、より高い使用料を徴収することができる一方で、利用者は競争力のない著作物を今より安く利用することができる。(権利者・利用者側)
    同一分野に独占的な集中管理団体が生まれることになるかどうかは、自由競争の結果により決まるのであり、法律の規制によって実現しようとするのは、我が国の規制緩和政策にも反し、行きすぎた規制である。(権利者・利用者側)
    このように参入規制のあり方については、様々な考え方があるが、前述した法的基盤整備に当たっての基本的方針に従えば、同一分野において複数の集中管理団体が存在することを否定することは適当でない。例えば音楽の場合、非一任型の集中管理団体等を業務実施規制の対象から除外することで、現行の仲介業務法の規制より、大幅に緩和されることになるが、これに加えて規制対象の範囲内の業務についても、一定の要件を満たした集中管理団体であれば、自由に参入を認める方向で考えるべきである。

    (参入要件を厳しくする分野)
    ただし、音楽の演奏、上映、放送、有線放送及び貸与、論文等の複写などの分野における集中管理については、従来の実態に照らして、次のような点において他の分野とは異なる特徴が認められる。
    一般に管理対象が全国に及んでおり、かつ利用者数が多数であること。なお、カラオケ演奏などの場合は、利用者が比較的零細な事業者であり、利用者当たりの使用料の額が低額の場合が多い。
    著作物を大量に利用するにもかかわらず、事前に個別許諾を求めることが事実上不可能であることから、包括許諾方式による管理にならざるを得ないこと、また事後においても、著作物ごとの利用実態を詳細に把握することが事実上困難である場合が多いことから、サンプリング調査による使用料の分配とならざるを得ないこと。
    これらのことから、これらの分野については、契約交渉のための人材の人件費、支部や営業所の開設、維持費、交通費などの契約業務のための経費が膨大になるとともに、使用料の分配に当たっては、一定の分配精度を確保した上で、公正な分配を行うための経費も必要になり、またこれらの業務を円滑に実施するための人材の確保も必要になることから、他の分野に比べて人的・組織的基礎、経理的基礎等において、より高い水準の能力や条件整備が要求される。

    また、包括許諾方式によるメリットを生かすためには、著作権の集中度が高くないと、利用者側は権利処理が複雑・煩雑になり、集中管理団体も効率的な管理ができないことになる。

    以上の点から、このような特徴を有する分野については、単一又はごく少数の団体により集中管理がされる方が効率的な管理が実現でき、権利者及び利用者双方にとって有益であると考えられるので、その規制に当たっては、他の分野と異なる基準を定めたり、異なる規制方法にするなど、参入要件を厳しくすべきであると考えられる。ただし具体的にどの分野がこれに該当するかについては今後更に検討する必要がある。

    なお、この分野についても、他の分野と区別する必要はなく、実際上単一団体しか存在しないこととなったとしても、それは市場が決めることであるとの意見もあるところである。

    3. 集中管理団体の営利・非営利性
    (我が国の実態)
    我が国の実態としては、仲介業務法の下で許可を受けている団体は全て著作権者を会員とする権利者団体であり、非営利法人である。しかし、公益法人(社団法人)は、日本音楽著作権協会及び日本文芸著作権保護同盟の二団体だけであり、日本脚本家連盟及び日本シナリオ作家協会は協同組合であり、集中管理業務はもちろんのこと脚本家の執筆条件や報酬等について映画製作者や放送局と団体交渉し組合員の利益確保を行うことも業務の柱の一つとしている。

    (外国の実態)
    フランスは著作権法により集中管理団体は著作者、出版社などの権利者を会員とする団体でなければならない(第321の1条第2項)としているが、集中管理団体を権利者団体に限ると法律上明記している国は少ない。しかし、実態としては、もともと集中管理団体は、自らの権利は自らが守るということで権利者団体が会員の権利を預かり業務を実施してきたものであり、特に集中管理団体発祥の地の欧州ではこの形式の団体が一般的である。また、このタイプの団体は、それぞれの国により法人格の認められ方は異なるものの、おおむね営利性はない。フランスのSASEM、イギリスのPRS、ドイツのGEMA、アメリカ合衆国のASCAPなどがこのタイプに該当する。

    これに対して、権利者団体以外の団体による集中管理がある。このタイプの団体については、法人格としては営利又は非営利組織があるが、一般に非収益を目的として業務を行っているようである。また、アメリカ合衆国のBMIのように著作物の利用者である放送事業者により設立された特殊なタイプの団体もある。さらに、例えばアメリカ合衆国のSESACのように少数ながら完全な営利目的で運営されている団体もある。

    (営利目的の集中管理の容認)
    我が国の場合、集中管理団体の発達は欧州の場合と同様、著作権者が会員となる団体が自らの権利を守るため会員の著作権を預かり集中管理を実施してきたという歴史的な経緯がある。先述の著作権制度審議会答申において、「仲介機関は公益法人が望ましい」としたのも、このような歴史的経緯を念頭に置いて出された結果であると考えられる。

    しかしながら、集中管理の場合、その歴史的な経緯などから見て、仮に非営利法人の権利者団体による集中管理が望ましいとしても、同審議会答申説明書で述べられているように、営利目的の集中管理を特に禁止する理由がない以上、制度として営利目的の集中管理を排除できないと考える。また、参入要件を緩和する立場からすれば、同一分野について同種の公益法人や協同組合が複数認められることは事実上難しく、集中管理は非営利法人に限ることとすると、実質的には最初に設立された団体の独占にならざるを得ない。

    株式会社等の仲介業務については、同制度審議会答申説明書では、

    「利潤の追求が第一の目的になることから、管理の効率の高い流行作品の管理に偏り、あるいは特定の作品を勧奨することによって増収を図ることも予想される。
    また、権利行使の面についても、使用料の増収をはかり、過酷な権利行使を行うことが懸念されよう。
    このようなことは、権利者の保護を全うするゆえんではなく、ある意味では法の趣旨に反するものであるとともに、利用者にとっても好ましくないところである。」
    として、株式会社等の仲介業務に反対する意見を紹介している。しかし、このような危惧は、同制度審議会説明書でも紹介しているように、業務運営に一定の規制を課し、また不正の行為に対する行政措置等を定めることによって、ある程度解消することができると考える。

    なお、非一任型の集中管理等については規制の対象としないこととしているが、このような集中管理の場合は、権利委託に当たって、集中管理団体が預かる著作者の著作権の選別を行うのは当然であり、また権利行使に当たっても、著作権者の意向に沿った権利行使であることから、管理の引受け拒否や特定作品の勧奨、さらには許諾の拒否や高額な使用料の提示が行われたとしても、このような差別的な取扱いが直ちに不当な権利行使になるわけではない。

    4. 業務実施の規制の方法
    (処分基準の明確化)
    規制の方法については、許可制、登録制、届出制などが考えられる。仲介業務法は、昭和14年に成立した法律であるが、同法には許可基準は一切定められておらず、主務大臣(現在は文化庁長官)の裁量権が非常に強い法律である。仲介業務法の制定経緯及び同法が成立した時代から考えて、同法はあえて許可基準を定めず、法の運用によって、同一分野における集中管理団体の独占を図ろうとしたところであるが、このような法の仕組みは今日においても適切であるのかという点については議論があるところである。制度の見直しに当たっては、集中管理団体の複数制を容認し、新規参入を認めることを原則としていることから、許可基準、登録の拒否要件、届出要件などの基準については、できるだけ明確化する必要があり、また申請時や届出時の必要書類、添付書類についても同様である。

    (登録制の採用等)
    それでは具体的にどのような制度を採用するかであるが、新規の参入に当たって、できる限り規制緩和の方向で考えるとしても、集中管理団体の適正な業務運営を確保するためには、業務の開始に当たって、当該団体が定められた基準を満たしているかどうかについて判断する最小限度の裁量権を主務官庁に認める必要がある。

    したがって、制度としては、参入を自由としつつも最小限度の業務基盤を有しているかどうかについて行政庁としてチェックするために登録制を採用することを基本とし、仮に許可制を維持するとしても、主務官庁の裁量権は必要最小限度のものとし、登録制に近い形の制度にすることが適当である。

    なお、前述したように、特定の分野について参入要件を厳しくすることとした場合については、集中管理団体の乱立とそれに伴う市場の混乱を抑制するため、例えば当該分野に係る業務について主務官庁の認可にかからしめるなどの方策も検討すべきである。

    (登録基準)
    また、登録の基準を定めるに当たっては、他の法令で見られるような組織構成等に係る一定の要件を定めることとなるが、その際次のような点について考慮すべきである。
    集中管理団体は法人に限ることとすること
    集中管理は他人の著作権を管理するものであることから、特に経理処理については適切に行われなければならない。法人についてはそれぞれの設立根拠法令により又は設立を認めた主務官庁の指導等により、事業・会計関係書類の作成、会計監査等についての仕組みが整っていることから、集中管理団体は法人であることが望ましい。

    なお、法人格のない社団又は財団については、原則として認めないこととするが、会員の権利を預かり権利者団体が行う集中管理については、例えば公益法人については任意団体として活動実績を踏まえ法人格を認められる事例が多いことを考慮すれば、代表者又は管理人の定めがあり、将来的に法人格を取得しうる見通しのある場合については、会員の権利に関する集中管理である限り認めて差し支えないものと考える。
    集中管理を的確に遂行するに足りる経理的基礎及び人的・組織的基礎を有しないことが明らかであるときは登録を拒否できることとすること
    株式会社等については、資本又は出資の額など経理的基礎に関する最低限の条件を定めること、また業務執行役員又は重要な使用人について著作権に関する知識を必要とすることなどにより、最低限の業務執行能力を確保することが望ましい。

    なお、公益法人についても同様であるが、公益法人の設立については各省庁の審査が厳格であるところから、経理的基礎に関していえば、各省庁が要求している基本財産の額を満たしていれば足りると考える。

    5. 権利委託に関する契約約款、使用料の分配方法及び手数料
    (委託契約約款の作成)
    集中管理は相当数の著作権者から権利を預かり業務を行うものであるから、著作権者と集中管理団体との間で締結される権利委託に関する契約については定型的な契約条項を定め、それにより契約を締結することが、例えば委託者、利用者にとって集中管理団体が管理する権利の範囲や委託条件が明確化するなど権利保護と利用の円滑化の両面から望ましいことと考えられるので、分配方法及び手数料に関する取決めを含め権利委託に関する契約約款の制定を法律上義務付けることが適当である。

    しかしながら、当該約款は一般に集中管理団体が一方的に定めるものであるので、受託者に一方的に有利に定められることも考えられるところから、特に委託者保護の面から、次のような点について考慮すべきである。
    約款の内容については、信託・代理などの委託方法の別、委託する権利の範囲、契約の解除・終了・権利の返還、約款の変更、分配方法、手数料などに関する事項が考えられるが、約款の内容に盛り込む事項を法令等において明確化するとともに、主務官庁又は関係団体においては標準的な約款例を作成し提供するなど適正な契約約款が利用されるよう努める必要がある。
    約款については、法律上制定を義務付けるほかに、認可制、届出制などを採用し内容の適切さを担保することが考えられる。いずれの方法を採用するにしても過度の規制はさけるべきであるが、少なくとも委託者の利益を著しく損なうような約款である場合、主務官庁は当該約款の変更等の措置がとれることができるようにすべきである。
    この他、委託を申し込んだ者に対する契約約款の交付又は説明など委託者の保護を図るための措置について、法律上の義務化を含め検討すべきである。

    (委託する作品や支分権の選択制)
    なお、権利者の作品全て(将来創作されるものを含む。)や、演奏権、放送権、録音権など複数の支分権又は著作権全部を管理する集中管理団体においては、委託者の委託する作品や支分権の選択を認めるかどうかの問題がある。特に信託の場合は、一旦全ての作品について著作権全部の信託を行うと、著作権が受託者である集中管理団体に移転するため、権利者がある支分権を他の集中管理団体に委託しようとしてもできないことになり、他の集中管理団体の参入について事実上の障壁となることになる。

    これについては、権利委託が権利者の任意なものであること、集中管理団体の自由参入を広く容認することなどの観点から、委託者に一定の選択権を認める必要があると考えるが、選択を認める作品や支分権の範囲など具体的な内容については、集中管理団体の効率的な管理の側面や著作者団体等の権利者団体の意見なども踏まえ、今後関係者間で慎重に検討をする必要があると考える。

    (2)業務実施の開始以降

    (主務官庁の監督権限等)
    集中管理団体の業務実施の開始については、緩やかな規制の方向へ転換するとしても、当該団体の業務の運営に当たり、主務官庁が当該団体の適切な業務運営を監督し、不正の業務があった場合はそれを是正する措置等について一定の権限を有していること等が必要と考えられるので、一定の調査権限、業務改善命令、業務停止命令等の権限を主務官庁に与えることが適当である。ただし、規制緩和の趣旨を踏まえて、主務官庁がこれらの権限行使に当たっては抑制的な姿勢で臨むべきことはいうまでもない。

    また、一定の秩序を維持するため、例えば、不正の手段により登録を受けた者、登録を受けずに規制対象の集中管理を実施した者などに対する罰則を設けることが適当である。
    (集中管理団体の法律上の義務等)
    現行の仲介業務法は、仲介業務団体の義務についてほとんど規定していないが、集中管理団体の権利濫用を抑え、権利者・利用者を保護する観点から、独占禁止法等の他の法律からの要請とは別に、著作権制度審議会答申や外国の法制などを踏まえて、今後の集中管理団体に課されるべき法律上の義務等に関して、次のような事項について検討した。
    ア 著作権者から委託の申込みがあった場合の管理の引受義務
    著作権制度審議会答申においては、管理の引受義務について法律上の義務にすることを求めている。その理由として、制度として複数団体制をとるとしても、許可基準の中で団体の乱立を防止する措置を講じることとすれば、事実上は単一又はごく少数の団体により業務が行われることが予想されるので、「権利者は、その少数の仲介機関の全てに管理の引受けを拒まれるときは、その権利の効率的な管理の方途を失うにいたるものであって、複数制であっても、管理の引受けを強制する必要がある。」としている。

    外国においては、ドイツ(第6条)、スペイン(第147条)、スイス(第44条)などに例がある(ただし、スイスの場合は、同法で分野ごとに認可されるのは1つの団体に制限されている(第42条))。

    我が国の場合、仮に集中管理について登録制を採用した場合、一定の登録拒否要件に該当しない限り、集中管理団体の業務は認められることになるので、同一分野についていくつかの団体が設立されれば全ての団体に管理を拒否される可能性は少なくなること、非一任型の集中管理については規制の対象にしておらずこのような団体に権利を預けることも可能であることなどから、管理の引受けについて集中管理団体に全面的に義務付けをすることについては問題があると考える。

    しかしながら、集中管理の公益性にかんがみれば、例えば経済的利用価値の高い著作物以外は引き受けないなど、集中管理団体側の選択によって管理が決まるのは権利者保護の観点から適当でなく、管理の申込みについては正当な理由がなければ管理を引き受けることが望ましい。

    したがって、法律上の義務付けは行わないとしても、例えば、管理の引受けに関する事項については契約約款の必要記載事項とし、管理を拒否する場合の要件を明確化するなどの方法により、権利者保護に関する一定の配慮が必要であると考える。

    なお、前述のように、特定の分野について参入要件を厳しくすることとした場合については、管理の引受けについて法律上の義務とすることも考慮すべきである。

    イ 管理著作物のうち特定のものの利用に関する勧奨の禁止
    著作権制度審議会答申においては、特定著作物の勧奨の禁止を法律上の義務とすることを求めている。同制度審議会答申説明書では、「演奏権仲介機関は、画一的に同一条件によって全ての権利を管理すべき」であることが理由とされているが、これは営利目的の集中管理について利潤を追求するあまり特定の著作物の勧奨を行うことに対する危惧が1つの原因となっている。

    このような禁止措置については、集中管理は公正かつ平等に権利が管理されることが望ましいとしたとしても、例えば、利用者の相談に応じて利用者の希望に添った著作物を薦めることや利用頻度の低い著作物について利用の促進を図ることなどの利用者サービスについてまで法律上禁止することには問題があると考えることなどから、特定著作物の勧奨禁止については法律上の禁止措置はとらないものとすることが適当である。

    なお、非一任型の集中管理等は規制の対象外であるので、特定著作物の勧奨は問題にならない。また、規制の対象となる集中管理であったとしても管理の公平性と権利者・利用者サービスとの中で調整点はおのずと見いだせると考える。また、反対に例えば日本音楽著作権協会のように権利者団体が集中管理団体である場合は、管理の公平性の点から問題になると考えられるが、これも団体内部の意見調整により解決可能な問題である。

    ウ 許諾の求めに対する応諾義務
    応諾義務については、著作権制度審議会答申では、正当な理由がなければ、著作物の利用の許諾を拒んではならないものとすることを求めており、外国では、ドイツ(第11条)、スペイン(第152条)などに例がある。

    このような措置は、特に集中管理団体の権利濫用の防止から、法律上の義務化を求められるものである。規制対象である一任型の集中管理の場合、そもそも委託者は許諾を前提として権利を預けていることから、正当な理由がないのに集中管理団体が許諾を拒否するのは委託者に対する背信行為であること、また集中管理団体が許諾の拒否を材料に利用者に不当に高額な使用料を求める可能性があることなどの理由から、応諾義務を法律上規定することは、権利者・利用者の保護を図る観点から適切であると考える。なお、この点に関しては、独占禁止法上の不公正な取引方法との関連に留意すべきであるとの意見もあった。

    なお、正当な理由がある場合は許諾を拒否できるのはいうまでもない。正当な理由としては、例えば、委託契約に定められた一定の条件に抵触する場合、著作権侵害による利用につき損害賠償金の精算をせずに同一の利用に関し許諾を求めてきた場合、商業用レコードを用いた複製等の場合のように同一の利用に関し他の権利者が許諾をしない場合などが該当する。

    なお、非一任型の集中管理の場合は、許諾をするかどうかの決定権は委託者に留保されていることから、使用料等の許諾条件の協議が成立しないなどの理由により許諾を拒否したとしても、著作権はもともと排他的、独占的権利であることから、そのことがただちに権利の濫用になるとは考えられない。

    エ 利用者等に対する管理著作物・著作権に関する情報提供義務
    著作権制度審議会答申では特に提言されていないが、外国では、ドイツ(第10条)、フランス(第321の7条)などに例がある。
    集中管理団体の複数化によって、例えば同じ著作者であっても個々の著作物ごとに又は支分権ごとに取扱い団体が異なる状況になる可能性があり、こうした場合、利用者はどの団体に許諾を求める必要があるかどうかについてその都度調査する必要がある。また、包括契約により許諾を受ける場合、当該包括契約によって、どの著作物が利用できるかを確認する必要もでてくる。また、権利者側から見れば、情報提供義務があると、自己の著作物が無権限で管理されていないかどうかをチェックすることができるなど、その効果は大きい。

    したがって、集中管理団体の複数化の中で、権利者又は利用者の便宜を図り、権利処理の円滑化を確保するためには、集中管理団体の情報提供について法律上義務化することが適切である。

    なお、現在関係者で著作権権利情報集中システム(J-CIS)の具体化が進められているが、J-CISが本格稼働すると、利用者等はJ-CISの統合検索システムを介して各集中管理団体で作成した管理著作物・著作権に関するデータベースにアクセスし、権利情報を得ることができる。集中管理団体の情報提供義務については、各集中管理団体がJ-CISへ参加することを促進するものであり、権利情報の集中提供化にも貢献するものと考える。

    オ 業務及び経理の状況に関する公開義務
    著作権制度審議会答申では特に提言されていないが、外国ではドイツ(第9条)などに例がある。
    公益法人については、法律上の公開義務はないが、政府の指導により、事業報告書、収支計算書、貸借対照表、財産目録などの公開(閲覧)を求めている。また、例えば株式会社については、商法上、株主及び債権者は、計算書類並びにその付属明細書及び監査報告書の公開(閲覧、謄抄本の交付)を求めることができ(第282条)、総会における承認後は貸借対照表等を公告することを義務付けている(第290条)。さらに、例えば、銀行については、銀行法で、貸借対照表・損益計算書の公告(第20条)、業務及び財産の状況に関する説明書類の縦覧(第21条)が義務付けられている。

    集中管理の場合、他人の財産を管理するものであるから、著作権者は権利を委託しようとする又は委託している集中管理団体の業務や経理の状況について確認できることが望ましい。また、特に複数団体制の下では、委託者に選択の幅ができることから、業務や経理の状況に関する情報は権利の委託先を選択するための重要な情報となる。

    以上の点から、業務や経理の状況については、法律上公開を義務付けることが適当である。この場合、公開の対象者や公開すべき書類の範囲については、他の制度等の考え方も参考にし決めることとなるが、少なくとも集中管理団体の業務状況の概要は一般公開すべきである。

    なお、委託者との関係でいえば、委託契約約款の中で委託者の自己の権利に係る計算帳簿等の閲覧を認めるなど、委託者保護のための配慮がなされることが望ましい。

    カ 兼職・兼業の制限と経理の区分
    集中管理団体が公益法人その他の非営利法人の場合、一般に当該団体の会員が役員を選任し又は事業を決定すること、法人と理事との利益相反事項の禁止(民法第57条)、自己契約・双方代理の禁止(民法第107条)などの法的規制もあることから、常勤役員の兼職や当該団体の兼業の問題は生じないと考えられる。

    しかしながら、株式会社等の集中管理を認めるとすると、役員の選任や事業の決定は原則として委託者の意思が及ばないこととなるので、例えば放送権を管理している集中管理団体の常勤役員が放送局の役員を兼ねること、録音権を管理している集中管理団体がレコード会社を営むようなことも生ずると考えられ、公平で適切な集中管理の実施を確保するため兼職・兼業に関する一定の規制が必要かどうかが問題になる。

    これについては、銀行法など金融関係法規のように厳しい制限を行う必要がないことは明らかである。特に兼業については、集中管理以外の事業の実施が当該法人の経営基盤を安定させ、間接的にではあるが、集中管理事業にも好影響を与えることも考えられる。

    しかしながら、当該団体が管理をしている権利に係る利用企業の役員との兼職や事業の兼業は、民法、商法等により利益相反行為や自己契約・双方代理などの規制があるとしても、他の利用者に不当な許諾条件を提示するなど不公正な権利行使の原因になる可能性がある。

    したがって、兼職・兼業の制限については、応諾義務や著作物使用料規程の制定義務にも関連することであるが、公正かつ適切な業務が確保されるよう、集中管理を行っている権利と競合する利用企業等の役員との兼職や事業の兼業を法律上制限することが適当である。

    また、一般に兼業を認めることとすると、集中管理に関する経理とその他の事業の経理とは区別する必要がある。信託の場合については、信託法上信託財産の分別管理義務(第28条)が定められているが、他の方法についても法律上明確化することも含め適切な措置がとられるようすべきである。

    キ その他
    (ア)経理の監督強化
    著作権制度審議会答申では、「公認会計士の制度を活用等を考慮する等、経理の監督を強化する措置を講ずること」としているが、集中管理団体の経理の適正化は言うまでもなく重要なことであり、公認会計士や監査法人による経理の監査が実施されることは望ましいことではある。株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律は、資本金5億円以上の会社等については会計監査人(公認会計士又は監査法人)の監査を義務付けているが、集中管理団体全てについてこれを法律上義務付けることについては、経営規模が小さい団体などにとっては大きな負担増になるなどのマイナス面も考えられるので慎重に考えるべきである。

    (イ)集中管理業務に係る重要事項について委託者の意見が
       反映される制度の採用
    集中管理団体が権利者団体である場合、例えば社団法人の場合は、団体の会員は委託者であることから、総会、理事会等で諮られる議事には、委託者自ら又は委託者の代表が議論に参加できるので、そこで決定された事項については委託者の意見が十分反映されたものとなる。

    しかしながら、例えば、株式会社の場合は、商法上、株主総会、取締役会等で会社の業務運営方針が決定されるため、委託者が株主である場合を除き、委託者の意見が業務に反映される仕組みにはなっていない。集中管理が適正に実施されるためには、委託者の意見が業務に反映される制度の構築が必要であり、株式会社等の集中管理団体にあっては、委託者の代表を取締役に加えることや委託者の代表からなる評議機関を設けることなど、業務運営方針の意思決定の過程で委託者の意見が反映される制度を採用することが望ましい。

    なお、この点については、委託者にとって、集中管理団体は、合理的・効率的な経営が行われ、少しでも多くの使用料が徴収され、分配されればよいのであるから、委託者の意見が反映される特別の制度を作る必要はないという意見があった。

    (ウ)集中管理団体が行う著作権の処分に関する禁止措置
    著作権の集中管理は、他人のために著作権を管理することに意義があるところから、第三者に対し著作権を処分する行為は予定されていない。仲介業務法においても、信託による管理については、「著作権の移転を受け他人の為に一定の目的に従い著作物を管理するの行為を業としてなすは之を著作権に関する仲介業務とみなす。」とし、著作権の処分行為を明示的に除外している。

    先述したように権利者の集中管理業務に関する懸念の一つとして、権利者に無断で著作権が処分されることがあげられるが、これを防止するためには、集中管理業務には著作権の処分行為が含まれないことを定義するなど集中管理団体が著作権の処分権限を有しないことを法律上明記することが適切である。

    2 使用料等の規制
    (認可制の原則廃止)
    仲介業務法における著作物使用料規程の認可制は、集中管理団体の市場の独占からくる支配的地位の濫用を防止するために設けられたものであるが、参入要件を緩和し、複数団体を認める制度の下で、認可制を維持するかどうかが問題となる。

    現行の認可制の実務としては、使用料には原価に相当するものがなく、使用料の算定基礎を担保するものがないので、文化庁は、各仲介業務団体に対し、認可申請にあたっては、利用関係団体の意見を十分聴取した上で申請案を作成し、提出するよう指導しているところであり、利用関係団体との話合いによりほぼ合意したものが申請されるのが実状である。

    また、申請後においても利用関係団体から意見を申し出ることができること、申請案は著作権審議会に諮問され学識経験者で構成された使用料部会で慎重に検討されることなどから、認可された使用料は個々の利用者にも十分受け入れられる金額である。独占的な集中管理団体の下で画一的に同一条件によって利用の許諾を行うという現状の下では、現行の認可制度は一定の機能を果たしていると評価できる。

    もちろん、現行認可制度及びその運用については、次のような意見もあり、改善すべき点もあると考える。
    利用関係団体との話合いに時間がかかり、使用料の設定や既存の使用料の改定に素早く対応できない。また、利用関係団体の意見を認めれば認めるほど使用料が低く抑えられる。
    新しいメディアによる著作物の萌芽的利用については、各集中管理団体とも、著作物使用料規程の「その他」の条項を利用し利用者との協議により使用料を決めるので、使用料の額が著作物使用料規程に明示されずしかも高額になる傾向がある。
    アは主として権利者側からの意見である。利用関係団体との話合いを前提とする制度の運用が、我が国の著作物使用料が低く抑えられている原因の一つであるとする意見である。イは主として利用者側からの意見である。著作物使用料規程中に「その他」の規定を設け萌芽的利用に適用するのはやむを得ないと考えるが、最近はデジタル化の技術を基礎とした高品質、大容量のメディアが次々と開発普及する中で、アナログメディアより使用料を高くしようとする集中管理団体と萌芽的利用であり少なくとも当面は低い使用料に抑えたいとする利用者側との意見の相違が顕著になっている。

    ところで、複数団体制を前提とし、新規参入を認める以上、使用料は需要と供給のバランスの中で決まっていくことが建前となる。確かに、使用料の競争が行われると、使用料が機動的に設定されること、同一の利用方法について集中管理団体により使用料の額の差や定率制と定額制など算定方法の差が生じることなどの可能性があり、認可制を維持するとしても、どのような基準により認可するかどうか理論的にも問題となる。

    以上の点から、新規参入を認める制度をとる限り、使用料については原則として認可制を廃止することが適当と考える。

    (廃止に当たっての考慮事項)
    ただし、認可制を廃止したとしても、現実には独占的支配力を有する集中管理団体が存在すること、新規参入を認め当初は多数の団体ができたとしても、集中管理団体の寡占化が進むと考えられること、集中度が低いとしても著作物の代替性の低さ等の特殊性から権利濫用がおこる可能性があることなどから、後述する紛争処理制度とは別に、次のような点について考慮すべきである。

    ア 著作物使用料規程の制定義務
    原則として認可制を廃止することとしても、少なくとも標準的な利用については使用料も含めた利用条件が明示されることが、権利者・利用者にとっては団体間の使用料の比較が容易になり取引の自由度が増すこと、現行制度の下では著作物使用料規程の制定が義務付けられておりそれが一つの社会慣行として定着していること、後述する紛争処理制度とも関連するが著作物使用料規程が明示されることにより、利用関係団体等から反対意見を表明できる機会を与えることができること、外国でも著作物使用料規程の制定を義務付けているところが多いことなどから、著作物使用料規程の制定を法律上義務付けることが適切である。

    なお、規程の制定に当たっては、現行制度のとおり、利用契約約款及び使用料率の二項目について定めることとすることが適当であるが、特に利用契約約款については記載事項を法令上明確にするなどを含めその内容についてできるだけ明確化する方策を考えるべきである。

    また、主務官庁及び関係団体にあっては標準的な著作物使用料規程の作成例を提供するなど権利者及び利用者にできるだけわかりやすいものとするために方策を具体化するべきである。

    イ 著作物使用料規程の主務官庁への届出
    使用料の額を含む許諾条件が特定の者に著しく差別的である、使用料の額が著しく高額で禁止的な設定であるなど集中管理団体の権利濫用が認められた場合などについて、必要に応じ、指導・監督などの行政的措置ができるよう主務官庁への届出等について考慮すべきである。

    ウ 特定分野における認可制の維持
    前述したように、特定の分野について参入要件を厳しくすることにした場合については、事実上独占的な集中管理団体により業務が行われることになると考えられることから、後述する紛争処理制度の導入とも関連するが、必要に応じ著作物使用料規程の認可制を維持することも考慮すべきである。

    この場合、現行の認可手続きについては改善点も見られることから、現行法の手続きを見直し、申請案を変更し又は有効期限などの条件を付して認可できる根拠規定や利用者の意見をより一層反映させるための仕組みなどについて整備する必要がある。

    3 紛争処理制度
    (紛争処理制度の必要性)
    著作物使用料規程の認可制を廃止することとした場合、集中管理団体が支配的地位又は優越的立場に立つことが多く、紛争が多発することが予想される。著作物使用料規程の制定・改定に当たって、例えば利用関係団体の意見を聞くことを義務付けるとしても、基本的には集中管理団体が一方的に制定するものであることから、利用関係団体等から業界の実状を無視した高額の使用料設定であるとの主張が出てくるのは必至である。また、使用料以外の許諾条件について意見の対立も多くなると考えられる。

    もちろん、集中管理団体がその支配的又は優越的な地位を利用して、不公正な取引等があれば独占禁止法違反として是正措置が執られるところであるが、それに至らない場合でも、集中管理団体と利用関係団体等が対立し、長期にわたり使用料の不払いが続くことや著作権侵害の訴訟や告訴が多発するなど、権利処理業務は大きく混乱すると考えられる。

    外国においても、ドイツ、スペイン、フランスなど業務規制を行っている国の多くは、または業務規制を行っていない英米法系の国にあってもイギリス、カナダなどは、使用料に関する紛争を未然に防ぎ又は紛争が起こった場合の簡易迅速な紛争処理解決制度等について整備しているところである。

    我が国においても、紛争の解決制度としては、著作権法にあっせんの制度(第6章)があるほか、民事訴訟、民事調停等で解決する方法があるが、集中管理を巡る紛争の中で最も多い使用料の額をどの程度にするかという紛争については、民事訴訟で対応できない場合も多いと考えられ、著作権という特殊性、専門性等のある分野に鑑み、認可制の廃止の代わりに、著作権制度上、独自の紛争処理制度を整備することが使用料の自由化への必須の条件であると考える。

    (具体的方策)
    具体的な制度を策定するに当たっては、次のような点について留意し検討すべきである。

    ア 集中管理団体と利用関係団体との使用料に関する包括協定の締結
    演奏、公衆送信、貸与、レコード録音、ビデオ製作など著作物を大量に利用する分野については、現在、集中管理団体が利用関係団体の意見を十分聴取した上で著作物使用料規程案を作成する慣行が定着しているが、認可制が廃止されるとすると、集中管理団体は、利用関係団体の意見を無視して一方的に著作物使用料規程を定めることも予想される。

    のような場合、例えばドイツにおいては、集中管理団体は利用関係団体から求めに応じ包括協定を締結する義務を課されており(第12条)、包括協定が締結されるとその契約で合意された使用料が著作物使用料規程の使用料とみなされることになっている(第13条)。スペインも同様の規定がある(第152条)

    集中管理団体と事業者団体である利用関係団体との協定については、独占禁止法上問題があるところであるが、利用関係団体との話合いを通じて一定の利用秩序を形成するという現在の慣行が崩れ、集中管理団体と個々の利用者との協議だけで使用料を決めることになると、現実問題としてどうしても利用者が譲歩しなければならない場合が多くなり、個別交渉では利用者が不利になるという特殊事情がある。集中管理団体に応諾義務を課した場合、正当な理由がない限り許諾を拒否できないことになるので、利用秩序の内容としては使用料の額が中心であると考えられることから、独占禁止法上の問題に十分配慮した上で、例えば使用料の額に限り包括協定を締結することができるなどの方途を検討すべきである。

    イ 著作物使用料規程に関する裁定制度等
    集中管理団体が定めた著作物使用料規程について、利用関係団体が不服がある場合又は利用者関係団体若しくは利用者との間で紛争が生じた場合、集中管理団体又は利用関係団体等は、権限ある機関に申し出て、使用料の額等について裁定又は調停・仲裁等を受けることができる制度である。

    例えば、イギリスでは、著作権法上、著作権審判所(Copyright Tribunal)が設置され(第145条)、同審判所は、上演、演奏、有線放送、放送、複製等の利用について、集中管理団体の許諾に関する規程(許諾要綱)の使用料額を含む様々な事項について当該規程の実施前又は実施後に裁定を行うことができることになっている(第8章)。カナダも音楽等の演奏、送信等の実演権については、著作物使用料規程の実施前の規制であり、認可制に近い形式であるが、その他の権利についても一定の仕組みが整っている。またドイツ、スペインでは、著作権に関する特別の調停又は仲裁機関が設置され(ドイツ第14条、スペイン第153条)、集中管理団体と利用関係団体等の間の包括協定等の紛争について調停又は仲裁を受けることができることとなっている。

    我が国においても、認可制廃止の代替措置として、事後的措置ではあるが簡易迅速な制度により紛争を解決するため、裁定等の制度を採用すべきである。この場合、対象となる事案としては、例えば著作物使用料規程の実施前における利用関係団体からの同規程の内容に対する異議申立、同規程実施後における利用者又は利用関係団体との紛争、包括協定制度ができた場合における協議不調などが想定される。

    また、裁定等を実施する権限ある機関として、著作物使用料審判所(仮称)の設立を提言する。同審判所は、文化庁内部に設置されるが独立機関とし、事務組織は別にして、審判官は法曹資格を有する者、学識経験者等の公正中立の立場で紛争の解決にあたれる者により構成され、集中管理団体又は利用関係団体等からの申し出により裁定等を開始することとする。

    なお、この場合、紛争を集中管理団体と利用関係団体の紛争に限定するのか、また個々の利用者との紛争も対象とするのかが問題となる。これについては、事後調整の趣旨からすれば個々の利用者との紛争も対象にすべきであるとの意見もあるが、同審判所の規模、人員、予算などにも影響することであるので、慎重に検討する必要がある。

    また、同審判所は、著作権法上定められている私的録音録画補償金の額の認可(第104条の6)、教科書等掲載補償金の決定(第33条)、著作権者不明等の場合に関する裁定(第67条、第68条、第69条)、商業用レコードの二次使用料又は貸与報酬等に係る裁定(第95条、第97条、第95条の2、第97条の2)など、現在文化庁長官の権限とされている事案について、その権限を引き継ぐとともに、その他当事者間の協議により補償金や報酬の額を取り決めることとなっている現行制度(第34条、第36条、第38条、第94条)についても、制度改正を前提として、当事者間で協議が成立しない場合等については同審判所へ補償金等の額の裁定を受けることができることとすることなどにより、著作物等の使用料に係る総合的な調整機関とすることが望ましい。

    ウ 著作物使用料規程に係る紛争に関する勧告制度
    イの変形である。集中管理団体の著作物使用料規程に不服のある又は紛争が生じている利用関係団体等は、主務官庁又は著作物使用料審判所(仮称)に対して異議の申立てを行うことができることとし、主務官庁等は両者の意見を聴取し実状を調査した上で、著作物使用料規程の変更や使用料の額の明確化が必要と認められる場合は、集中管理団体に対し勧告を行うという制度である。ただし、勧告は強制力がないことから、それを受け入れるかどうかは集中管理団体の自由である。勧告を受入れた場合は、集中管理団体が同使用料規程を変更し、届け出ることになる。また、勧告を受け入れない場合は、主務官庁等はその理由を公表することになる。

    第5節 集中管理の分散化と新たな集中管理の可能性
    円滑な著作物の利用を確保するためには、権利者側及び利用者側の双方にとって、簡易・迅速な権利処理システムの構築は重要なことであるが、著作物の種類又は利用態様にかかわらず、全ての分野について、同一条件で画一的に権利処理をすることが適しているわけではない。したがって、集中管理に関する規制緩和が進むと様々な態様の集中管理が出現する可能性がある。例えば、音楽の場合、現在は日本音楽著作権協会の独占であるが、利用態様によっては、音楽出版者が自ら権利を行使することが増え、また多数の非一任型の集中管理団体や特定少数の権利者のための団体の参入の可能性が高くなり、集中管理団体の独占が緩み分散化が進むことが予想される。また音楽以外の小説、脚本についても同様の可能性がある。さらに仲介業務法の規制対象外の著作物についても、著作物利用の需要が高まることによって、個別管理が中心であった分野に新たな集中管理団体が参入することや既存の集中管理の形態が変化する可能性がある。

    この場合、利用者側から見ると、独占的な集中管理団体である方が当該団体の窓口だけでほとんどの著作物の利用について許諾を受けることができ便利であるが、集中管理の分散化が進み、また個別管理のままであると許諾の申込みの窓口がどこかを調べるという煩雑さがあるところである。

    これについては、前述したとおり権利情報の集中管理により権利者(団体)の所在情報を提供することで利用者の便を図ることが可能であるが、この考えを一歩進め、権利の所在情報を提供するだけでなく、集中度の低い集中管理団体や権利者自身から使用料を含む許諾条件に関する登録を受付け権利処理の業務を代行するという権利処理代行センター(仮称)の創設も考えられる。

    同センターは、非一任型の集中管理の範疇に入り、登録された条件により機械的に権利処理を行うだけであり、規制対象となる集中管理団体には含まれず、事実上集中管理団体又は権利者と利用者が直接取引をする場を提供することになる。取り扱う著作物については、特に決まりはなく、音楽だけ美術だけ写真だけというように著作物の種類で分ける場合もあろうし、多種類の著作物を取り扱う場合も考えられる。また、利用態様にも限定はないが、複製権に係る利用態様の場合が多いであろう。さらに同一分野について必ずしも単一のセンターが権利処理業務を行う必要はなく、ある著作物の利用について複数のセンターに登録することも可能である。このような窓口を設けて業務を行う類例としては、コンサート、交通機関等のチケットの販売を取り扱うチケット販売業者や旅行業者の窓口等がイメージされる。デジタル化・ネットワーク化技術の急速な進展の中で、登録、許諾、使用料の支払等の一連の権利処理手続きが全てネットワークを介して行われることも現実のものとして想定される。また、権利処理手続とは別に、著作物の複製物の提供も同時に行われることもあろう。

    このような新しい権利処理の形態については、特に利用者の便を考えれば積極的に推進していく意義もあると考えられる。これまでの検討結果に照らせば、この権利処理代行センター(仮称)は規制の対象からは除外されるが、最終的な結論を得るまでは、このセンターの考え方も視野に入れつつ研究を進めるべきであり、また、集中管理の新たな方法として関係者間における積極的な検討も望まれる。

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