Q&A 複写機によるコピー

    この「著作権Q&A  著作権って何?(はじめての著作権講座)」のコーナーでは、右の項目について、それぞれまず要旨を説明し、次に「Q&A」の形で、実際の事例にそった解説をします。

    役所の職員研修の教材として、各種の出版物の記事をコピーして配布していますが、問題がありますか。
    ふだん何気なくとっているかもしれませんが、コピーというのは、著作権の最も基本的な権利といわれる複製権に関係する行為なのです。余談ですが、著作権のことを、英語でcopyright というのは、コピーの持つ著作権上の意味合いを端的に示しているといえるでしょう。仕事の上でコピーをとることは、ほとんどの場合、著作権を持っている者(著作権者)の許諾を得なければ、複製権の侵害になってしまうのです。

    特定の場合、著作権者の許諾がなくてもコピーをとれることがあります。たとえば、私的な使用を目的とする場合がその例です。役所の関係では、行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合に、その必要と認められる限度において、コピーをとることができることになっています。しかし、これは、役所の業務を遂行するために直接必要とされる場合に限られ、単なる執務上の参考資料としてコピーをとることなどは認められないといわれています。

    職員研修の教材としてコピーをとることは、行政行為自体とは直接関係ない著作物の利用であり、著作権がある著作物であれば、許諾を取らなければなりません。また、役所の職員研修は、「学校その他の教育機関」における授業とも言えませんので、35条の適用もありません。

    便利で高性能なコピー機が普及していて、いろいろな場面で許諾を得ずにコピーがとられているようですが、利用者にしてみれば、個々の著作権者を突き止めて、一つひとつ許諾をとるのはきわめて繁雑でもあり、また、著作権者のほうも、違法だといっても摘発することは困難な場合が多いでしょう。このため、多くの国で、コピーについて権利を集中的に管理して利用者に許諾する機関が作られています。わが国でも、著作権等管理事業法に基づいて、著作物のコピーを許諾している団体や会社があります。その中でも日本複製権センターは、代表的な団体のうちの一つでしょう。

    日本複製権センターが許諾業務を扱うコピーの範囲は、原則として内部的な、小部分、かつ少部数のコピーということになっていて、質問のような教材としてのコピーが入るかどうかは具体的なケースで判断されます。詳しくは、同センターに聞いてみるとよいでしょう。

    照会先 根拠法令 参考条項
    市の図書館です。今回、著作権法が改正され、住民へFAXやメールで図書の一部の複写を送ることができると聞きましたが、どのような内容なのでしょうか。
    地方公共団体が設置する公共図書館は、著作権法第31条1項の適用を受けます。これらの図書館では、利用者の求めに応じて、その調査研究の用に供するために、出版物等から著作物の一部分をコピーして、1人につき1部だけ提供することができることとされています。雑誌などで発行後相当期間経過したものの場合は、掲載されている個々の記事などの著作物の全部のコピーも認められています。コピーサービスをすることができる図書館その他の施設は、著作権法施行令第1条の3に掲げられています。図書館等が情報の源泉として利用者との関係で担っている役割を考慮した規定であると考えられますが、本来著作者が持っている権利を制限する規定でもありますので、運用にあたっては、これらのバランスを考えなければなりません。

    コロナ禍により、住民が図書館に行かれなくなる等、対面での複写サービスが困難な状況が生じました。また、デジタル化・ネットワーク化時代になって、市民によるインターネットによる情報収集の要請が高まっていました。

    そこで、令和3年著作権法改正により、著作権法第31条2項から5項によって、一定の要件を満たした図書館は、著作権者に補償金を支払うことにより(同条5項)、利用者の求めに応じ、公表された著作物の一部分を公衆送信のために必要な複製及び公衆送信を行うことができる、とされました。なお、電子メールで送る際には政令で定める措置を行う必要があります(同条2項2号)。

    この一定の要件を満たした図書館とは、責任者の設置、職員への研修、利用者情報の管理、コピーガード等の措置等を講じていることとされています(第31条3項)。

    補償金の指定管理団体として、一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB(サーリブ))が指定されており、同協会の図書館等公衆送信補償金規程が令和5年3月29日に文化庁によって認可されました。同規程によれば、本体価格が表示されている図書は頁単価の10倍とされています。詳しくは、SARLIBにお問い合わせください。

    また、図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会により改正著作権法第31条の解釈と運用に関するガイドラインが制定されました。

    照会先 根拠法令 参考条項
    近年、著作権法改正によって、障害者の方々の情報アクセス機会の充実が図られたと聞きましたが、どのようなことでしょうか。
    視覚障害者又は聴覚障害者が著作物を認識するためには、図書の文字を点字にしたり、放送の音声を字幕にする等の行為が必要となりますが、これらは、著作権法的に見れば、著作物の複製あるいは翻案になります。そこで、視覚障害者又は聴覚障害者が必要な範囲で、これらの行為が可能になるよう、著作権者の権利の制限が規定されています。もっとも、従来の著作権法は権利制限規定が厳格すぎて、昨今の障害者の情報へのアクセス・ニーズに充分応えていないという指摘がありました。そこで、平成21年度の著作権法改正によって、障害者のための権利制限規定が拡大され、さらに、平成30年の著作権法改正によって対象者が拡大されました。以下、概略を述べますが、著作権法施行令や施行規則で適用要件が細かく規定されていますので、詳しくは文化庁著作権課等にお問い合わせください。

    著作権法第37条第1項、第2項は、点字による複製、点字データの作成・公衆送信についての権利制限規定です。点字による複製等は、当該著作物の本来の経済市場に影響を及ぼすことがないため、行為主体の制限がありません。 これに対し、点字以外の方法、例えば障害者のための録音図書等は、当該著作物の本来の経済市場に影響を及ぼす可能性があるため、著作権法第37条第3項によって、行為主体や方法について制限がされています。
    まず、視覚障害者関係の規定ですが、従来の「視覚障害者」が「視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者」(以下、「視覚障害者等」といいます)と変更され、視覚障害者・発達障害や色覚障害だけでなく、四肢の異常や欠損等により書籍を保持することができない者等、視覚による表現の認識に障害は無いものの、他の障害を原因として視覚による表現の認識に困難を有する者を対象としました。また、平成21年改正により、著作権者の許諾不要の行為も「視覚障害者等が利用するために必要な方式」と規定され、条文上特定の方式が規定されていませんから、たとえば、拡大図書の作成、あるいは「DAISY」(Digital Accessible Information System)と呼ばれている、視覚障害者向けのマルチメディア録音図書等も含まれることになりました。さらに、平成30年改正により、自動公衆送信だけでなく、放送または有線放送を除く公衆送信を行うことができるとし、メール送信も可能としました。

    聴覚障害者関係の規定は、平成21年改正により「聴覚障害者その他聴覚による表現の認識に障害のある者」(以下、「聴覚障害者等」といいます)として拡大されました。また、聴覚で表現される公表著作物が対象となったため、放送・有線放送だけでなく映画の著作物も含まれることになりました。これに伴い、音声を文字等、聴覚障害者等が必要な方式で複製、公衆送信するだけなく、聴覚障害者等のために映画に字幕を付加して貸し出すことも可能となりました。

    更に、視覚障害者等のための録音物の貸し出し、あるいは、聴覚障害者等のための複製物の貸し出しを行える施設が、公共図書館や大学の図書館等にも拡大されました。また、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行える団体等についても、適切な体制を有するボランティア団体等を広く対象に含めるため、新たに文化庁長官の指定を受けずとも一定の要件を満たす者もできるように拡大されました。

    照会先 根拠法令
    町の合唱団が市販の歌曲集からコピーをとり、練習や発表会に使っていますが、問題はありませんか。
    コピー(複製)は、非営利の公共的な団体が使うためというような理由では、無断で行うことはできません。私的使用のための複製は認められていますが、合唱団の練習や発表会に使うというのは、私的使用には該当しませんので、このコピーは違法です。ちなみに、簡単にコピーがとれるようになって最も被害を受けたのは、楽譜と専門書の分野だといわれています。

    ただし、クラシック曲のように、作曲家、作詞家の死後70年(なお、2018年12月30日より前は死後50年)が経ってしまっているものは、原則として著作権が消滅していますので、自由にコピーをとることはできますが、外国のものは、戦時加算という制度でこの70年の期間より長く保護しなければならない場合もありますし、古いものでも訳詩や編曲が最近のものであれば、その著作権を考えなければなりません。

    音楽のジャンルには、一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)や株式会社NexToneという集中管理団体があり音楽に関する著作権の多くをこれらの団体が管理しているため、大抵のものはこれらの団体から許諾をとることができますが、出版された楽譜のコピーというのは、作曲家、作詞家、出版者に及ぼす影響が大きいため、管理団体で簡単に許諾がとれるというわけにはいかないようです。まだ市場に流通している楽譜なら、やはり正規のものを購入して使うのが筋でしょう。

    ともかく、具体的なことはJASRAC等音楽著作権の管理団体に問い合わせてみることです。

    照会先 根拠法令
    本校の教師が作成した問題集が、隣町の中学校でコピーして使われています。使用の差止めができますか。この著作権は学校にあるのか、教師にあるのかも教えてください。
    問題集は、加減乗除の数字だけといったものは議論の余地があるかもしれませんが、まずほとんどは著作物であり、著作権上の保護を受けると考えるべきです。したがって、著作権を持っている者(著作権者)の許諾を得ずにこれをコピーすれば、著作権侵害となり、著作権者は、その差止めを請求することができるほか、損害を賠償させることもできます。

    そこで、この場合、だれが著作権者かということが問題となります。著作権は、原始的には、著作物を創作する者(著作者)に生じます。著作者というのは、創作行為をするわけですから普通は自然人ですが、著作権法では、一定の条件の下で法人その他使用者(法人等)を著作者とする制度がとられています。

    法人等が著作者になる条件とは、
    ア) その著作物が法人等の発意に基づいて作成されること、
    イ) 法人等の従業員が職務上作成するものであること、
    ウ) 法人等の名義で公表するものであること、
    エ) 勤務規則等で別段の定めがないこと、
    の4つです。

    質問の問題集の著作者が、作成した教師なのか学校なのかを、これらの条件をあてはめて考えなければなりませんが、「本校の教師が作成した」とあるだけで、状況がやや不明確です。もし、問題集が学校の意思により教員の職務の範囲内で作成されたといえるのであれば、学校が著作者になる可能性はありますが、職務以外でも教員が教育に関して執筆を行なうことはありますから、問題集が教育に関連して作られたものではあっても、それ自体は職務上作成されたものとはいえないと考えられます。

    著作者が教師ということになると、差止めを請求できるのはその教師であり、学校ではありません。もっとも、問題集の著作権を契約で学校が譲り受けていれば、著作者でなくとも学校が著作権者として差止めを請求をすることができます。そこまでしなくとも、学校が教師の意思を受けて、代理として隣町の中学校に異議を申立てることは、一向にかまいません。

    根拠法令 参考条項
    生徒に負担をかけないため、書店で買ったドリルの一部をコピーして教材に使っていますが、問題はありませんか。
    学校その他の教育機関でのコピー(複製)を認める規定は、著作権法第35条にあります。本来著作権者が持つ複製権を、教育との関連で制限しようとするものです。

    まず、同条でいう学校その他の教育機関には、営利を目的とする私塾などは入りません。小、中、高の学校や、大学、高専などが適用対象になります。ここでコピーすることができるのは、教育を担任する者つまり現場の先生および授業を受ける学生、生徒、児童等であり、学校当局が作っておいて適宜配布するなどは認められません。また、コピーの使用目的は、授業の過程で使用するためということで、授業とは別に、参考までに生徒に渡すというようなことは許されません。著作物のコピーは、その授業で必要とされる限度内でなければなりません。

    このような条件を満たす場合でも、上記の著作権法第35条にはただし書きがあり、その著作物の種類や用途、複製の部数や態様に照らして、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、コピーをとることは認められていません。質問にあるドリルの場合は、もともと生徒たちの利用を目的として販売されている出版物ですから、先生が1冊だけ買ってきて、生徒の数だけコピーされてしまったのでは、売れ行きに重大な影響を与えかねません。

    したがって、このようなコピーは、上記のただし書きにあてはまる典型的な例であるといえるでしょう。いかに教育のためであるとはいえ、生徒に負担をかけないためという理由だけで、市販のドリルのコピーをとることはできません。やるのなら、コピーについての許諾をとってから行うべきですが、コピーの権利の集中処理機関である公益社団法人日本複製権センターでは、ドリルのような、業界で学参ものといわれる出版物については、権利者から一括処理を任されてはいません。個々に許諾をとることになりますが、それはきわめて困難でしょう。余計なことかもしれませんが、負担をかけないというのであるなら、やはり先生の手作りドリルで勉強させることではないでしょうか。

    なお、平成30年著作権法改正により、学校等の授業の過程において行われる異時公衆送信を35条1項に基づき認めるとともに、同条2項に基づき公衆送信を行う場合は相当な額の補償金を支払うことを規定しました。この場合も35条1項但書の適用があります。この授業目的授業目的公衆送信の補償金については、「一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会」(SARTRAS)がその徴収・分配手続を行っています。

    照会先 根拠法令
    生徒の数だけ画集から絵画のコピーをとって教材に使ったのち、教師の研究会の素材としても使いたいのですが、問題がありますか。
    学校の授業のためのコピーについては、著作権法第35条に定めがあり、これについては前記の答を見てもらいたいのですが、この場合、絵画のコピーをどう考えるかという問題があります。授業上の教材といっても、鑑賞に類するようなことのためとか、単に参考用として生徒に絵のコピーを配るのは、本当に授業のために必要なこととはいえません。また、美術の授業で、何か技法を教える場合の例としてある絵のコピーを配るにしても、1枚ものの絵画全体をコピーすることが必要の限度内であるといえるのでしょうか。というわけで、授業のために絵画のコピーをとるということには、そもそも第35条第1項の適用があるかという点で重大な疑問があります。

    しかし、まったくあり得ないことでもありませんので、仮に著作権法第35条第1項に従って授業のためにとった絵画のコピーがあるとして、これをあとで別の目的に使うのはいかがなものでしょうか。

    よく、教育委員会などが主催して、教師の研究会が開かれ、自分はこのようにして授業を実施したというような発表が行われることがあります。こうした研究会での発表には、しばしば授業に使ったコピーがまた参考資料として配られることがあるようです。しかし、このような研究会は、授業とはまったく別のものであり、授業の過程で使用することを目的として作ったコピーをここで使い回しすることはできません。上記の第35条第1項は、そこまで認めておらず、目的外使用として複製権(著作権法49条1項1号)及び譲渡権の適用があります(著作権法第47条の7)。このような場合には、あらためて絵画の著作権者の許諾をとる必要があります。そういうことのために必要な情報を得るには、下記の団体に照会してみるとよいでしょう。

    照会先 参考条項

    ページの上部へ戻る