Q&A ビデオ録画物の製作

    この「著作権Q&A  著作権って何?(はじめての著作権講座)」のコーナーでは、右の項目について、それぞれまず要旨を説明し、次に「Q&A」の形で、実際の事例にそった解説をします。

    観光PR用ビデオの撮影の際に、風景のほか、美術館の現代画家の絵画、公園の彫刻を録画し、ナレーションに合わせてCDから音楽を録音しましたが、問題がありますか。また、風景の撮影の際に、たまたま街中に掲載されていたポスターが背景に小さく映ったり、街中に流れていた音楽が録音されてしまった場合はどうでしょうか。
    自然の風景をビデオに撮ることは、著作権法上はまず問題はありません。一方、絵画や彫刻のような著作物をビデオに撮ることが、著作権法の上では複製に該当するということは、ほかの質問のところでも説明したとおりです。ここで注意していただきたいのは、絵画や彫刻の所有権とその著作権とは別のものだということです。本を買ったからといって、中身の小説の権利まで買ったことにならないのと同じです。

    したがって、美術館の所蔵物であっても、その絵画を美術館が入手するときに、契約ではっきり著作権も譲り受けているのではない限り、著作権を持っている人(著作権者、普通は画家)の許諾を得なければ、複製することはできません。画家の連絡先などがわからない場合は、下記の美術関係団体に照会してみるとよいでしょう。

    次に、公園の彫刻ですが、著作権法は、このような公衆に開放されている屋外の場所恒常的に設置されている彫刻は、これと同じようなものを制作するとか、販売用のミニチュアを作るなど、特定の場合を除き、利用は自由としています。観光ビデオに撮ることは、特に著作権上の許諾をとらなくてもできます。

    背景音楽をCDから録ることは、権利者の許諾がなければできません。この場合、関係する権利には、音楽の著作権ばかりでなく、レコードに吹き込んでいる演奏家など実演家の権利と、レコード製作者の権利があります。これらの権利の許諾を受けるためには、「音楽の森」といったような音楽情報を公開しているデータベースで検索したり、著作権の集中管理団体が公表している管理情報を調べることが有効です。そして権利者が判明すれば、各権利者から許諾を得る必要があるでしょう。なお、当初から意図して撮影対象としたのではなく、たまたま街中にあったポスターが背景に小さく映ったり、街中で流れていた音楽がたまたま一緒に録音されていた場合も、形式的には著作権法上の複製に該当しますが、このような場合にまで著作権侵害とするのは不適当であるため、平成24年の著作権法改正により、付随対象著作物の利用として著作権侵害にはならないことになりました。

    照会先 根拠法令
    町主催の文化祭で招いた演奏者の了解を得て音楽のコンサートを録画しました。評判がいいので、観光施設などでこのビデオDVDを売りたいのですが。
    このコンサートの録画物の演奏者については、実は若干の議論があり得ます。著作権法の上では、このような録画物であっても、それは「映画の著作物」になると考えられます。著作権法にはさらに、実演家の許諾を得て映画の著作物に録画、録音された実演については、以後の複製について権利が働くことはないという趣旨の規定があります。この規定によれば、演奏家(実演家)については、コンサートのビデオの作成、販売は、あらためて断らなくともできるということになります。

    しかし、質問の「演奏家の了解を得て録画」したというのは、どういうことを意味しているのか考えてみる必要があります。この演奏は、演奏家の許諾を得て映画の著作物に録音、録画されたといえるのでしょうか。評判がいいのでビデオで売りたいというのですから、録画するときに考えていなかった新たな利用ではないでしょうか。おそらく、文化祭の記録保存のためにというような目的で録画したのでしょう。法律上いろいろ議論できるケースかもしれませんが、録画するときに当事者の意思になかった二次的な利用に関しては、あらためて演奏家に話をして、了承をとるべきです。その場合、報酬等の条件もはっきりしておく必要があります。

    さらに、演奏家の問題のほかに、音楽の著作権のことを忘れてはいけません。著作権の切れたクラシック音楽などの場合はもちろん自由に使えますが、著作権がまだある曲が使われているなら、コンサートで演奏することについて、日本音楽著作権協会(JASRAC)等著作権の管理団体あるいは著作権者に手続きをとっているはずですが、それらについて、録画する際に演奏家の了解しかとっていなかったのなら、そもそも最初の録画も音楽については複製権の侵害になってしまいます。まして無断で販売用ビデオを作ることなどは論外です。いずれにしても、音楽の複製権についてJASRAC等著作権の管理団体あるいは著作権者に手続きをし直す必要があります。外国の曲など、ものによってはJASRAC等著作権の管理団体だけでは処理し切れない場合もありますので注意してください。

    照会先 根拠法令
    町の主催で「家庭」をテーマにしたビデオコンテストを行いましたが、いずれの応募作品にも、テレビ、ラジオからの音楽が録音されています。問題ありませんか。
    家庭で楽しむためのビデオに、色づけのために背景音楽を入れたりすることは、それが家庭内にとどまっている限り、私的使用のための複製として、著作権法上の許諾をとらなくとも認められると考えられます。しかし、それがビデオコンテストの応募作品として町に提出されたときは、私的使用のための複製物の目的外使用になってしまいます。また、私的使用のために作ったものではなく、ビデオコンテストに応募しようとして新たに作るビデオ作品の場合は、これに音楽を入れるのは、はじめから私的使用のための複製とはいえません。

    この場合、複製行為を行ったのは応募者だから、主催者には責任はないといっていられるでしょうか。もし侵害物が入選作になったら、どうするのでしょうか。いずれにしても、町としても何らかの手を打たなければならないでしょう。よくこのようなビデオコンテストの応募規定などに、「他人の音楽などは使わないでください」とか、「著作権等については応募者の責任で処理してください」というような条項が入っているものがあります。これも一つの手でしょう。しかし、後者の場合、著作権等の処理といっても、仕組みを知らせなければ、町としては不親切ではないでしょうか。

    ここで、この質問の場合のようなテレビ、ラジオからの音楽の録音について考えてみましょう。関係する権利者としては、音楽の著作権者、演奏または歌唱している実演家、もし、レコード(CD)による放送なら、レコード製作者、さらに、放送からとったのですから放送事業者があります。これらのうち、音楽に関しては、日本音楽著作権協会等著作権管理団体あるいは著作権者から許諾を得る必要があります。その他については、レコード会社や放送局に個々に許諾を求めるしか方法はありませんが、それは必ずしも容易ではありません。また外国の音楽やレコードなどは、許諾がとれるとは限りません。

    なお、平成24年の著作権法改正によって、そのビデオに含まれている音楽がいわゆる「写り込み」の場合には、付随対象著作物の利用として著作権侵害にならなくなりました。令和2年の著作権法改正により、付随対象著作物の範囲を実態にあわせて拡充されましたが、いずれにしろ、意図的に写し込む行為は、この要件に入らず、権利侵害になるでしょう。

    結論的には、アマチュアのコンテストであれば、やはり、すべてが手作りの内容に限るということにしておいたほうがよいのではないでしょうか。

    照会先 根拠法令 参考条項

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