解説
人格的な権利と財産的な権利の二つ
著作者の権利は、人格的な利益を保護する著作者人格権と財産的な利益を保護する著作権(財産権)の二つに分かれ、下の表のような権利があります。
著作者人格権は、著作者だけが持つことができる権利で、譲渡したり、相続したりすることはできません(第59条)。したがって、著作者人格権は、著作者の死亡によって原則的には消滅します。
一方、財産的な利益を保護する著作権は、その一部又は全部を譲渡したり相続したりできます(第61条第1項)。したがって、ある著作者が、創作した著作物の財産的な意味での著作権を他人に譲渡している場合、第三者がその著作物を利用するためには、著作者ではなく譲渡された人(財産的な意味での著作権を持っている人を、「著作権者」といいます。)の許可を得る必要があります。
著作者人格権
公表権 (第18条第1項) |
自分の著作物で、まだ公表されていないものを公表するかしないか、公表するとすれば、いつ、どのような方法で公表するかを決めることができる権利 |
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氏名表示権 (第19条第1項) |
自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、表示するとすれば、実名、変名のいずれを表示するかを決めることができる権利 |
同一性保持権 (第20条第1項) |
自分の著作物の内容又は題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利 |
著作権(財産権)
複製権 (第21条) |
著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利 |
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上演権・演奏権 (第22条) |
著作物を公に上演したり、演奏したり(録音物や録画物を再生することを含む)、また、それらの上演、演奏された著作物を電気通信設備を用いて公に伝達する権利 |
上映権 (第22条の2) |
著作物を公にスクリーンやディスプレイに映写する権利 |
公衆送信権・公の伝達権 (第23条) |
著作物を自動公衆送信(*)したり、放送したり、有線放送したり、また、それらの公衆送信された著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利 *自動公衆送信とは、サーバなどに蓄積された情報を公衆からのアクセスに応じ自動的に送信することをいいます。また、そのサーバに蓄積された段階を送信可能化といいます。 |
口述権 (第24条) |
言語の著作物を朗読などの方法により口頭で公に伝える(口述の録音物や録画物を再生することを含む)権利 |
展示権 (第25条) |
美術の著作物と未発行の写真の著作物の原作品を公に展示する権利 |
頒布権 (第26条) |
映画の著作物の複製物を頒布(販売・貸与など)する権利 |
譲渡権 (第26条の2) |
映画以外の著作物の原作品又は複製物を公衆へ譲渡する権利 (ただし、いったん適法に譲渡された場合は、その後の譲渡には譲渡権は及びません)。 |
貸与権 (第26条の3) |
映画以外の著作物の複製物を公衆へ貸与する権利 |
翻訳権・翻案権など (第27条) |
自己の著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利(二次的著作物を創作する権利) |
二次的著作物の利用権 (第28条) |
自己の著作物を原作品とする二次的著作物を利用(上記の各権利に係る行為)することについて、二次的著作物の著作者が持つものと同じ権利 |
Q&A
- 「法人著作」とは何ですか?
- 会社等の法人が公表する著作物の場合、次の①~⑤の要件をすべて満たすときは、その著作物を創作した個人(あるいは複数の個人)ではなく、公表した法人が著作者となり著作権を持ちます。このよう場合、その著作物を法人(職務)著作の著作物といいます(第15条)。
① 法人等の発意に基づき作成されるものであること
② 法人等の業務に従事する者により作成されるものであること
③ 法人等の従業者の職務上作成されるものであること
④ 法人等の著作名義の下に公表されるものであること
⑤ 法人内部の契約、勤務規則等に、従業者を著作者とするなどの別段の定めがないこと - 他人の著作物を使う場合、どのような場合であっても修正を加えてはいけないのですか?
- 著作者には同一性保持権があり、著作者の許諾なしに著作物を改変することは許されません(第20条第1項)。ただし、著作権法では、教科書に掲載するために言語の著作物の用字や用語を変えること、建築の著作物を改築・改修すること、プログラムの著作物を利用上の必要に応じて変更することなど、著作物の性質、利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる場合の改変は許されるとしています(第20条第2項)。
- SNSで、新聞社のホームページに掲載されていた写真をアップロードすることは問題がありますか?
- 著作物をSNSにアップロードするという行為は、公衆がその著作物にアクセスすることを可能にする(このことを「送信可能化」といいます(第2条第1項第9号の5))とともに、公衆からアクセスがあれば著作物の送信を行うことをいいますが、このような行為を行う場合、公衆送信権が働くこととなります(第23条第1項)。したがって、著作権者の許可を得て行う必要があります。
なお、公衆送信権は、実際の著作物の送信の有無にかかわらず、送信可能可の時点で権利が働きます。 - 原稿の買取りは著作権の譲渡になりますか?
- 「買取り」という用語の意味は業界によって、あるいは使う人によって違いがありますので、著作権を譲渡する旨が当事者間の契約で明確にされていない限り、著作権の譲渡にはならないと考えられています。口頭だけでこのような約束をした場合、後になって紛争になる可能性も考えられますので、契約は文書で行い、著作権を譲渡することを約束する場合は、「AはBに著作権を譲渡する」などといった条項を明確に定める必要があります。
- 日本語に翻訳した外国の詩を利用する場合には、原作者の許可も必要ですか?
- 外国語を日本語に翻訳した言語の著作物、ピアノ曲を吹奏楽で演奏できるように編曲した音楽の著作物などの二次的著作物の利用については、二次的著作物の著作者の許可と原著作物の著作者の許可の両方が必要になります。ただし、原著作物の著作権が消滅している場合(「4.著作権は永遠に保護されるの?」参照)には、二次的著作物の著作者の許可だけで利用することができます。
- 映画の著作物の著作権は誰が持っているのですか?
- 劇場用映画のように、映画監督をはじめ演出家、カメラマン、美術や照明等の担当者など多数のスタッフが関わっている映画の著作物の場合、「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が映画の著作物の著作者とされており、具体的には映画監督であることが多いようです。しかし、映画の著作物の著作権は、映画の著作物の著作者が映画の製作に参加することを約束している場合には、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する」映画製作者(映画会社や製作委員会など)に帰属すると定められています(第29条第1項)。ただし、著作者人格権は、著作者だけが持つことができる権利で、譲渡したり、相続したりすることができませんので、映画監督などが持っています。