Q&A 市史、絵はがき、キャラクター、歌碑など

    この「著作権Q&A  著作権って何?(はじめての著作権講座)」のコーナーでは、右の項目について、それぞれまず要旨を説明し、次に「Q&A」の形で、実際の事例にそった解説をします。

    市政30年を記念して、市史を編纂する予定です。その時々の新聞記事を写真版で入れていきたいのですが、新聞社に断らなくてもよいでしょうか。
    新聞社の許諾を受ける必要があります。

    ほとんどの新聞記事には著作権があります。新聞記事のうち事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、著作権法によって保護される著作物ではありません。しかし、新聞記事のうち、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道というものは、短い死亡記事などを除いてはほとんどないといわれています。一般の新聞記事には、記事の内容の選択・見出しや記事の表現などについて、記者の創作性がありますから、著作権法によって保護される著作物に該当します。

    また、新聞に掲載されている報道写真も写真の著作物ですから、著作権法によって保護される著作物に該当します。

    なお、当時の様子や風物を伝える資料として新聞の紙面そのものを写真版として市史に縮小して転載する場合には、個々の新聞記事や報道写真の著作権だけではなく、新聞紙面についても許諾を得る必要があります。新聞紙面にどのような記事を載せるかを選択し配列し見出しをつける行為は、やはり新聞社の社員の創作性のある行為ですので、新聞の紙面そのものは編集著作物となり、編集著作権が成立します。

    これらの記事や報道写真のうち、記事を書いたあるいは写真を撮った人物の名前が掲載されていない場合は、新聞社の記者が仕事上作成したものであって新聞社の名前で公表されているものですから、一般的には、職務上の著作物として、新聞社がその記事や報道写真の著作権を取得します。同様に、紙面の新聞記事の配列や構成などについても、新聞社の社員が職務上行ったものであって新聞社の名前で公表されているものですから、著作権は新聞社が取得します。

    したがって、市史に新聞記事を写真版で掲載するには、個々の新聞記事や写真の掲載であっても、紙面全体であっても、新聞社に著作権があると考えられますので、予め新聞社に掲載の許可を受ける必要があります。

    照会先 根拠法令
    市内の観光地をイメージして作られた歌曲の歌詞を歌碑に彫り込み、観光地の出入り口の通路に建てたいのですが、問題がありますか。
    歌詞をゆかりの地の歌碑に彫り込んで観光名所としているところは結構あると思います。

    ところで、歌碑に歌詞を彫り込む場合も音楽の著作物のうちの歌詞の複製になります。歌詞の複製というと、歌をレコードに録音したり、あるいは歌曲集に収録するような場合が念頭にあるかもしれませんが、このように歌碑にして建立する場合も複製に該当するのです。

    歌詞を歌碑にする場合には、著作者から著作権の信託譲渡を受けている日本音楽著作権協会(JASRAC)等の音楽著作権管理団体(あるいは著作者が歌詞の著作権を管理している場合はその著作権者)の許諾が必要となります。なお、JASRACは歌碑の場合、著作物使用料を複製数にかかわらず歌詞、楽曲それぞれ1件ごとに定めてあります。歌詞や楽曲をパネル、ポスターなど公衆に掲示や展示されることを目的に複製する場合にも、この規定が適用されます。

    また、歌碑の建て方、仕様によっては、著作者人格権の侵害とみなされる可能性があります。著作者の名誉・声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は著作者人格権を侵害する行為とみなされるからです。著作者人格権は著作者に専属しているものであって、第三者に譲渡することができない権利ですから、JASRACであっても著作者人格権の管理は行っておりません。したがって、歌碑を建立する場合、事前に著作者の同意を得てください。著作者の連絡先については、日本音楽著作権協会(JASRAC)等音楽著作権管理団体に問い合わせてください。

    照会先 根拠法令
    市の公園に設置した近代作家の彫像が評判なので、観光の目玉として絵はがき、ポスターを作り、観光文化施設などで販売したいと考えています。問題がありますか。
    近代作家の彫像を市の公園に設置したというのであれば、彫像を市が購入したのでしょうか。購入したのであれば、市が彫像の所有権を取得しているということになります。

    ところで、前にも述べたとおり、所有権と著作権とは異なります。著作権の対象である物の所有者であっても、当然に著作権を有するわけではありません。むしろ、著作者から著作権の対象である物の所有権の譲渡を受けても、著作権の譲渡は受けないほうが一般的です。著作権とは、あくまでも無体物である著作物に対する権利であるからです。

    そこで、市が彫像の著作権を取得せず、単に彫像の所有権だけを有していることを前提とします。

    美術の著作物であって、原作品が公園等屋外の場所に恒常的に設置されているものの場合は、著作権がかなり制限されます。たとえば、一般の人が公園の彫像をバックに記念写真を撮った場合には、写真にその彫像が写っている限り複製となるのですが、この場合には著作権は及びません。社会的慣習から考えて、屋外に設置されている作品について一般人が記念撮影する場合にまで著作権者が権利を主張できるとするのはおかしいでしょう。

    しかし、公園等屋外の場所に恒常的に設置されている美術の著作物の場合、どんな利用の仕方をしても著作権の主張ができないとすれば、逆にそれは著作権者の権利を大きく侵害することになります。したがって、著作権法第46条によって、もっぱら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製する場合には、著作者は著作権の主張ができることになっております。

    美術の著作物を撮影して絵ハガキやポスターにすることは、複製行為の典型例であると解されております。したがって、販売目的で絵ハガキやポスターを作成するのであれば、著作者である近代作家の許諾を得なければできません。

    照会先 根拠法令
    市政100周年を記念して市のマスコットキャラクターを公募しました。入選したマスコットキャラクターの著作権を市が取得しましたが、よく似たキャラクターが隣の県の土産物屋で売られていて困っています。どうしたら権利を守れますか。
    マスコットキャラクターで町おこしを行う自治体が増えてきました。いわゆるゆるキャラが大ブームになっています。さて、マスコットキャラクターは一般に美術の著作物として著作権法上保護されると考えられています。公募により入選したマスコットキャラクターであっても、著作権はそのマスコットキャラクターを作成した者にまず帰属します。しかし、マスコットキャラクターはその後、いろいろな形で利用する場合が多いので、あらかじめ募集要項に、入選したキャラクターの著作権を主催者に譲渡することを規定しているものも多いと思います。本件の場合も、このような事情で市が著作者から著作権の譲渡を受けたのでしょう。なお、キャラクターの場合、原作品を一部修正して利用することも考えられますから、同一性保持権の侵害にならないように、一部修正しての利用についても予め同意を得るべきでしょう。

    ところで、よく似たキャラクターが隣の県の土産物屋で販売されているという場合、いろいろな事情が考えられますので、以下、分けて検討します。

    1.第三者が入選したキャラクターを真似てキャラクターを作成し、それを販売して場合
    「よく似ている」というのがどの程度であるかが問題になりますが、美術の著作物としての表現上の本質的な特徴が他のキャラクターにも直接感得できる場合には、著作権法上の翻案権の侵害に該当するため、キャラクターの著作権者としての市が類似のキャラクターの製作者に対し、製作販売の禁止を請求すればよいでしょう。土産物屋が違法複製物であることを知ってそのキャラクターを入手した場合には、その売店に対しても販売の禁止及び損害賠償を請求できます。

    2.全く偶然に2つのキャラクターの絵柄が似た場合
    この場合には、何ら請求ができません。著作権法は、他人の著作物の複製翻案を禁止するだけであって、全く独立して作成した著作物が、たまたまそっくりだった場合にまでは権利が及ばないのです。

    3.キャラクターを作成した者が、市へも隣の県の土産品製造業者にも著作権の譲渡をした場合
    著作権は無体財産権であって、物を所有する権利ではありませんので、二重譲渡することも簡単にできます。二重譲渡された場合には、どちらも著作者から正式に権利の譲渡を受けたことになりますが、譲渡人同士の間はどうなるのでしょうか。著作権法には著作権の譲渡の場合、第三者にその譲渡を対抗するためには、著作権譲渡の登録をしなければならないという規定があります。そして、二重譲渡の場合は、早く登録した者が勝ちます。これは、不動産の登記と同じです。したがって、市が著作権譲渡を先に登録した場合には、著作権者として土産品製造業者に対し、複製翻案の禁止を請求することができます。そこで、二重譲渡の危険性がある場合には、真っ先に著作権譲渡の登録をしなければなりません。なお、登録手続きは文化庁で行っています。  なお、キャラクターの場合、著作権だけでなく、商標権(キャラクターの名前等)についても権利を得ておいたほうがよいでしょう。

    照会先 根拠法令
    県の観光PRのために、ある風景写真をポスターやWebで使いたいと思っていますが、撮影したカメラマンの所在がわからず連絡がつきません。どうしてもこの写真を使用したいのですが、どうすればいいでしょうか。
    写真の著作物をポスターやWebに使用する場合には、著作権者から許諾を得る必要があります。通常の場合であれば、著作者が誰かを捜した上、その著作者と連絡をとって、許諾を得て利用するということになると思います。

    ところが、公表から時間が経過すると、誰が著作者かということもわからない場合、あるいは著作者が特定していても著作者の所在が不明な場合があります。本件は、著作権者が特定できているが所在が不明でかつ連絡がつかない場合でしょう。このような場合、著作権者の許諾なく、風景写真をポスターやWebに掲載してもいいでしょうか。著作権法は、許諾を得なければ、著作物を複製したり、公衆送信したりすることはできませんので、著作権者が不明であっても、このまま勝手に利用することはできません。

    そこで、公表された著作物について、著作権者が不明あるいは著作権者の特定はできていても所在が不明な場合に、文化庁長官が著作権者の許諾に替わって利用を許諾するという、裁定制度が著作権法に設けられています。もっとも、従前はこの裁定制度の要件が厳格であったため、あまり利用されていなかったので、平成21年の著作権法改正により、より使いやすい制度に変更になりました。また、裁定の対象も、著作物に加え、実演・レコード・放送・有線放送にも拡大されました。これらの要件は著作権法施行令及び施行規則で定められておりますが、以下、概略を述べます。詳しくは、文化庁著作権課にお問い合わせください。

    まず、裁定を申請するには、単に著作権者が不明あるいは連絡がとれないだけではだめで、相当な努力を払っても連絡不可の場合でなければなりません。平成21年の著作権法改正により、この相当な努力の基準が政令で規定されることになりました。この相当な努力については平成26年政令改正によりさらに簡易化されました。具体的には、権利者情報を掲載している刊行物等の閲覧あるいはネット検索サービスによる情報の検索、及び、著作権等管理事業者等や著作者団体への照会、並びに日刊新聞紙あるいは著作権情報センターのウェブサイトへの情報提供の掲載等が必要とされています。また、従前は、文化庁長官へ裁定の申請を行っても、裁定が下りるまでは著作物等を利用することができなかったのですが、平成21年の著作権法改正により、裁定が下りる前にも、文化庁長官が定めた担保金を供託した場合には、著作物等の利用ができるようになりました。

    なお、裁定が下りなかった場合でも、上記の手続に従って申請及び担保金の供託を行った者は、その間の利用行為は著作権侵害にはなりません。

    照会先 根拠法令
    県が所有する古美術品の写真が美術全集に載っていますが、この写真を別の出版社が使った場合、美術品の所有者の県には権利はないのですか。
    直接、別の出版社に何らかの請求を行うことはできないと思います。

    県は古美術品の所有者ですから、他人にじゃまされずその古美術品という有体物を支配したり、利用することは可能です。有体物というと日常用語ではありませんので、少しわかりにくいかもしれません。簡単にいえば、「物」ということです。有体物を支配する形態とは、具体的には、美術館に飾っておくとか、誰かに貸すとか等の利用態様が考えられるでしょう。

    その古美術品を初めて写真に撮る場合には、所有者がその古美術品を撮影者の前に持ってきて撮影を許可することになるでしょう。この場合には、撮影者はその古美術品に触ることはありませんが、その古美術品という物自体をその撮影者の前に展示するということは、まさしく有体物の支配の一形態ですから、所有者の許可がなければできません。

    ところが、所有権とはその物を支配することができる権利でしかありませんので、一旦古美術品が写真になれば、古美術品本体を目の前にしなくても、その写真のネガあるいは写真自身からその写真を複製することは物理的に可能となります。先に述べたように、このような場合には、所有者の物の支配の範囲を超えておりますので、所有者が写真の複製を止めることはできません。

    また、古美術品ですので、著作権法上の美術の著作物の複製権または改変権の侵害という形で出版社に対し、差止めあるいは損害賠償請求を行うこともできないでしょう。なぜなら、著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年を経過するまでですので、古美術品の場合既に保護期間を経過しているからです。

    ただし、仮に、最初に県が古美術品の撮影を許可した出版社との間にこの写真は他に使わないという契約ができていた場合には、この契約にもかかわらず、最初の出版社が別の出版社にその写真を使わせた場合にかぎって、最初の出版社に対し、契約違反を理由に損害賠償請求をすることはできるでしょう。しかし、この場合も県が別の出版社に直接請求することはできません。また、別の出版社が最初の出版社から無許諾で写真を使用した場合には、最初の出版社が写真の著作権侵害として別の出版社に差止め・損害賠償請求を行うことはできるでしょうが、逆に、県は誰に対しても損害賠償請求をすることはできません。

    根拠法令(判例)

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